(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記側面ろう材部分を前記ウェットエッチングにより除去する工程は、前記ろう材層を前記ウェットエッチングにより等方的に除去することにより、前記側面ろう材部分を除去する工程を含む、請求項4または5に記載のシールリングの製造方法。
前記側面ろう材部分を前記ウェットエッチングにより除去する工程は、前記ろう材層がエッチングされやすく、かつ、前記基材層がエッチングされにくい前記エッチング液を用いて、前記側面ろう材部分を除去する工程を含む、請求項4または5に記載のシールリングの製造方法。
前記側面ろう材部分を前記ウェットエッチングにより除去する工程は、前記シールリングの表面に残った酸化された前記ろう材層を取り除いて洗浄する工程を兼ねる、請求項4または5に記載のシールリングの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特開2006−49595号公報に開示されたリング体が、基材層側に微小突起を突出させるように打ち抜き加工されて形成される場合には、銀系ろう材層が延伸して基材層の側面を覆うように配置される。このため、リング体の銀系ろう材層を溶融させて基台とリング体とを接合した際に、基材層の側面を覆う銀系ろう材層を伝って銀系ろう材層が基材層の側面を過度に這い上がるという不都合がある。この結果、リング体と蓋材とを用いて電子部品収納用パッケージを形成した場合には、電子部品収納用パッケージの製造時の熱により過度に這い上がった銀系ろう材層が蓋材に広がってしまう。この結果、蓋材に広がった銀系ろう材層が蓋材から飛散して、電子部品収納用パッケージに収納された電子部品に付着してしまうという問題点があると考えられる。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、ろう材層が基材層の側面を過度に這い上がることを抑制することによって、ろう材層が飛散して電子部品に付着することを抑制することが可能なシールリングおよびシールリングの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の第1の局面によるシールリングは、電子部品収納用パッケージに用いられるシールリングであって、基材層と、基材層の一方表面に配置されたろう材層とが接合されたクラッド材から構成され、ろう材層のうちの基材層の側面を覆う側面ろう材部分が除去されて
おり、ろう材層は、AgとCuとを主に含み、ろう材層の表面近傍におけるAgの濃度は、ろう材層の内部におけるAgの濃度よりも大きい。
【0008】
この発明の第1の局面によるシールリングでは、上記のように、ろう材層のうちの基材層の側面を覆う側面ろう材部分を除去することによって、シールリングのろう材層を溶融させる際に、側面ろう材部分を伝ってろう材層が基材層の側面を過度に這い上がることを抑制することができる。これにより、電子部品収納用パッケージの製造の熱などによりろう材層が飛散して、電子部品収納用パッケージに収納された電子部品に付着することを抑制することができる。
また、ろう材層は、AgとCuとを主に含み、ろう材層の表面近傍におけるAgの濃度は、ろう材層の内部におけるAgの濃度よりも大きい。このように構成すれば、AgはCuに比べて耐食性を有するので、ろう材層の表面近傍におけるAgによりろう材層の表面の耐食性を向上させることができる。また、ろう材層の表面近傍におけるAgの濃度が大きいことにより、ろう材層の表面の色調を銀色に近づけることができる。
【0009】
上記第1の局面によるシールリングにおいて、好ましくは、基材層は、基材層の一方表面と略平坦面状に形成された側面とを接続する丸形状の角部を含み、ろう材層のうちの略平坦面状の側面を覆う側面ろう材部分が少なくとも除去されている。このように構成すれば、略平坦面状の側面を覆う側面ろう材部分が除去されているので、ろう材層が基材層の側面を過度に這い上がることをより抑制することができる。なお、「略平坦面状に形成された側面」には、平坦面状の側面だけでなく、微小な凹凸が形成されている側面や、丸形状の角部の曲率半径よりも十分に大きな曲率半径を有するような側面などの実質的に略平坦面状とみなすことが可能な側面も含まれる。
【0010】
上記第1の局面によるシールリングにおいて、好ましくは、基材層は、FeとNiとCoとを主に含み、ろう材層は、AgとCuとを主に含む。このようにFeとNiとCoとを主に含む基材層と、AgとCuとを主に含むろう材層とが接合されたクラッド材から構成されたシールリングにおいて、ろう材層のうちの基材層の側面を覆う側面ろう材部分を除去することによって、側面ろう材部分を伝ってろう材層が基材層の側面を過度に這い上がることを抑制することができる。
【0012】
この発明の第2の局面によるシールリングの製造方法は、電子部品収納用パッケージに用いられるシールリングの製造方法であって、基材層と基材層の一方表面に接合されるろう材層とのクラッド材を準備する工程と、クラッド材をシールリングの形状に打ち抜く工程と、クラッド材をシールリングの形状に打ち抜く際にろう材層が延伸して形成された、ろう材層のうちの基材層の側面を覆う側面ろう材部分を除去する工程とを備え
、側面ろう材部分を除去する工程は、側面ろう材部分をウェットエッチングにより除去する工程を含み、ろう材層は、AgとCuとを主に含み、ウェットエッチングのエッチング液は、ろう材層の表面を酸化させる酸化剤と、酸化されたろう材層を除去する酸化物除去剤と、水と、ろう材層の表面のCuを優先的に除去するためのCu優先除去剤とを含み、側面ろう材部分をウェットエッチングにより除去する工程は、エッチング液を用いてろう材層の表面におけるCuを優先的に除去することにより、ろう材層の表面近傍におけるAgの濃度を、ろう材層の内部におけるAgの濃度よりも大きくする工程を含む。
この発明の第3の局面によるシールリングの製造方法は、電子部品収納用パッケージに用いられるシールリングの製造方法であって、基材層と基材層の一方表面に接合されるろう材層とのクラッド材を準備する工程と、クラッド材をシールリングの形状に打ち抜く工程と、クラッド材をシールリングの形状に打ち抜く際にろう材層が延伸して形成された、ろう材層のうちの基材層の側面を覆う側面ろう材部分を除去する工程とを備え、側面ろう材部分を除去する工程は、側面ろう材部分をウェットエッチングにより除去する工程を含み、ろう材層は、AgとCuとを主に含み、ウェットエッチングのエッチング液は、ろう材層の表面を酸化させる酸化剤と、酸化された前記ろう材層を除去する酸化物除去剤と、水と、ろう材層の表面のCuを優先的に除去するためのCu優先除去剤とを含み、側面ろう材部分をウェットエッチングにより除去する工程は、エッチング液を用いてろう材層の表面におけるCuを優先的に除去することにより、ろう材層の表面近傍におけるAgの濃度を、側面ろう材部分をウェットエッチングにより除去する前のろう材層におけるAgの濃度よりも大きくする工程を含む。
【0013】
この発明の第2の局面または第3の局面によるシールリングの製造方法では、上記のように、クラッド材をシールリングの形状に打ち抜く際にろう材層が延伸して形成された、ろう材層のうちの基材層の側面を覆う側面ろう材部分を除去する工程を備えることによって、シールリングのろう材層を溶融させる際に、側面ろう材部分を伝ってろう材層が基材層の側面を過度に這い上がることを抑制することができる。これにより、電子部品収納用パッケージの製造時の熱などによりろう材層が飛散して、電子部品収納用パッケージに収納された電子部品に付着することを抑制することができる。
また、上記第2の局面または上記第3の局面によるシールリングの製造方法において、側面ろう材部分を除去する工程は、側面ろう材部分をウェットエッチングにより除去する工程を含む。このように構成すれば、機械研磨などにより側面ろう材部分を除去する場合と比べて、基材層の側面を覆う微小な側面ろう材部分を確実に除去することができる。
また、上記第2の局面によるシールリングの製造方法において、ろう材層は、AgとCuとを主に含み、ウェットエッチングのエッチング液は、ろう材層の表面を酸化させる酸化剤と、酸化されたろう材層を除去する酸化物除去剤と、水と、ろう材層の表面のCuを優先的に除去するためのCu優先除去剤とを含み、側面ろう材部分をウェットエッチングにより除去する工程は、エッチング液を用いてろう材層の表面におけるCuを優先的に除去することにより、ろう材層の表面近傍におけるAgの濃度を、ろう材層の内部におけるAgの濃度よりも大きくする工程を含む。このように構成すれば、AgはCuに比べて耐食性を有するので、ろう材層の表面近傍におけるAgによりろう材層の表面の耐食性を向上させることができる。また、ろう材層の表面近傍におけるAgの濃度が大きいことにより、ろう材層の表面の色調を銀色に近づけることができる。また、Cu優先除去剤が添加されたエッチング液を用いてろう材層の表面におけるCuを優先的に除去することができるので、容易に、ろう材層の表面近傍におけるAgの濃度を、ろう材層の内部におけるAgの濃度よりも大きくして、ろう材層の表面近傍においてAgを残留および濃化させることができる。
また、上記第3の局面によるシールリングの製造方法において、ろう材層は、AgとCuとを主に含み、ウェットエッチングのエッチング液は、ろう材層の表面を酸化させる酸化剤と、酸化されたろう材層を除去する酸化物除去剤と、水と、ろう材層の表面のCuを優先的に除去するためのCu優先除去剤とを含み、側面ろう材部分をウェットエッチングにより除去する工程は、エッチング液を用いてろう材層の表面におけるCuを優先的に除去することにより、ろう材層の表面近傍におけるAgの濃度を、側面ろう材部分をウェットエッチングにより除去する前のろう材層におけるAgの濃度よりも大きくする工程を含む。このように構成すれば、ウェットエッチング前よりもろう材層の表面近傍におけるAgの濃度を大きくすることができるので、ろう材層の表面の耐食性を向上させることができるとともに、ろう材層の表面の色調を銀色に近づけることができる。また、Cu優先除去剤が添加されたエッチング液を用いることによって、容易に、ろう材層の表面近傍におけるAgの濃度を、側面ろう材部分をウェットエッチングにより除去する前のAgの濃度よりも大きくすることができる。
【0014】
上記第2の局面
または上記第3の局面によるシールリングの製造方法において、好ましくは、基材層は、基材層の一方表面と略平坦面状に形成された側面とを接続する丸形状の角部を含み、側面ろう材部分を除去する工程は、ろう材層のうちの略平坦面状の側面を覆う側面ろう材部分を少なくとも除去する工程を含む。このように構成すれば、略平坦面状の側面を覆う側面ろう材部分が除去されるので、ろう材層が基材層の側面を過度に這い上がることをより抑制することができる。
【0016】
上記第2の局面または上記第3の局面によるシールリングの製造方法において、好ましくは、側面ろう材部分をウェットエッチングにより除去する工程は、ろう材層をウェットエッチングにより等方的に除去することにより、側面ろう材部分を除去する工程を含む。このように構成すれば、側面ろう材部分を選択的に除去するために複雑なエッチング処理を行う必要がないので、側面ろう材部分を容易に除去することができる。
【0017】
上記側面ろう材部分をウェットエッチングにより等方的に除去する工程を含むシールリングの製造方法において、好ましくは、ろう材層をウェットエッチングにより等方的に除去する工程は、ウェットエッチングにより、側面ろう材部分を除去するとともに、ろう材層の角部を丸形状に形成する工程を含む。このように構成すれば、ろう材層の角部の丸形形状になり尖った形状でなくなるので、尖ったろう材層の角部が他の部材などに接触した際に、他の部材を傷つけることを抑制することができる。
【0018】
上記
第2の局面または上記第3の局面によるシールリングの製造方法において、好ましくは、側面ろう材部分をウェットエッチングにより除去する工程は、ろう材層がエッチングされやすく、かつ、基材層がエッチングされにくいエッチング液を用いて、側面ろう材部分を除去する工程を含む。このように構成すれば、容易に、ろう材層を選択的にエッチングすることができる。
【0019】
上記ろう材層がエッチングされやすいエッチング液を用いて側面ろう材部分を除去する工程を含むシールリングの製造方法において、好ましくは、基材層は、FeとNiとCoとを主に含
む。
【0020】
上記
第2の局面または上記第3の局面によるシールリングの製造方法において、好ましくは、エッチング液は、過酸化水素により構成される酸化剤と、酢酸により構成される酸化物除去剤
とを含む。このように構成すれば、AgとCuとを主に含むろう材層をより選択的にエッチングして側面ろう材部分をより確実に除去することができる。
【0023】
上記
第2の局面または上記第3の局面によるシールリングの製造方法において、好ましくは、Cu優先除去剤は、強酸により構成されている。このように構成すれば、強酸を用いた場合、酸化剤により形成されたAgの酸化物は除去されにくい一方、Cuの酸化物は除去されやすいので、強酸により構成されているCu優先除去剤を用いることによって、容易に、Cuの酸化物を優先的に除去することができる。この結果、容易に、ろう材層の表面のCuを優先的に除去することができる。
【0024】
上記Cu優先除去剤が強酸により構成されているシールリングの製造方法において、好ましくは、Cu優先除去剤は、強酸である硫酸により構成されている。このように構成すれば、より容易に、ろう材層の表面のCuを優先的に除去することができる。
【0025】
上記Cu優先除去剤が硫酸により構成されているシールリングの製造方法において、好ましくは、エッチング液には、硫酸がエッチング液全体の0.5質量%以上の濃度になるように添加されている。このように構成すれば、確実にろう材層の表面のCuを優先的に除去して、ろう材層の表面近傍におけるAgの濃度を、ろう材層の内部におけるAgの濃度よりも大きくすることができる。
【0026】
上記
第2の局面または上記第3の局面によるシールリングの製造方法において、好ましくは、側面ろう材部分をウェットエッチングにより除去する工程の前後でろう材層の固相線は略変化しない。このように構成すれば、ろう材層の固相線が高くなることに起因してろう材層を融解させるのに必要な温度が高くなることを抑制することができる。
【0027】
上記
第2の局面または上記第3の局面によるシールリングの製造方法において、好ましくは、側面ろう材部分をウェットエッチングにより除去する工程は、シールリングの表面に残った酸化されたろう材層を取り除いて洗浄する工程を兼ねる。このように構成すれば、シールリングの表面に残った酸化されたろう材層を取り除いて洗浄するための工程を別途設ける場合と異なり、工程を簡略化することができる。
【0028】
上記
第2の局面または上記第3の局面によるシールリングの製造方法において、好ましくは、側面ろう材部分をウェットエッチングにより除去する工程に先立って、クラッド材をシールリングの形状に打ち抜く際に形成された基材層の微小突起を除去する工程をさらに備え、側面ろう材部分をウェットエッチングにより除去する工程は、側面ろう材部分と、微小突起を除去する際に付着する異物とをウェットエッチングにより除去する工程を含む。このように構成すれば、側面ろう材部分の除去のためのウェットエッチング時に同時に異物が除去されるので、異物を除去する工程を別途設ける場合と異なり、工程を簡略化することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、上記のように、ろう材層が基材層の側面を過度に這い上がることを抑制することができるので、ろう材層が飛散して電子部品収納用パッケージに収納された電子部品に付着することを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0032】
(第1実施形態)
まず、
図1〜
図3を参照して、本発明の第1実施形態によるシールリング1の構造を説明する。
【0033】
第1実施形態によるシールリング1は、
図1に示すように、平面的に見て、長方形の枠状に形成されている。このシールリング1は、長手方向(X方向)に約1.5mm以上約2.0mm以下の長さL1で、かつ、短手方向(Y方向)に約1.2mm以上約1.6mm以下の長さL2の大きさに形成されている。また、シールリング1の開口部は、X方向に約1.3mm以上約1.6mm以下の長さL3で、かつ、Y方向に約0.9mm以上約1.1mm以下の長さL4の大きさに形成されている。
【0034】
また、シールリング1は、
図2および
図3に示すように、上側(Z1側)に配置された基材層10と下側(Z2側)に配置されたろう材層11とが圧接接合されたクラッド材から構成されている。なお、
図3に示すように、基材層10のZ方向の厚みt1は、約100μm以上約130μm以下であり、ろう材層11のZ方向の厚みt2は、約15μm以上約30μm以下であり、シールリング1のZ方向の厚みt3(t1+t2)は、約115μm以上約160μm以下である。
【0035】
基材層10は、約30質量%のNiと、約17質量%のCoと、Feとを主に含むFe-Ni-Co合金により形成されている。また、基材層10は、Z1側の上面10aと、ろう材層11と接合されたZ2側の下面10bと、一対の側面10cとを有している。上面10a、下面10bおよび一対の側面10cは、共に略平坦面状に形成されている。また、基材層10は、上面10aと側面10cとを接続する一対の上側角部10dと、下面10bと側面10cとを接続する一対の下側角部10eとをさらに有している。上側角部10dおよび下側角部10eは、十分に小さい曲率半径を有する丸形状に形成されている。なお、下面10bは、本発明の「一方表面」の一例である。
【0036】
ろう材層11は、約85質量%のAgとCuとを主に含む銀ろうにより形成されている。なお、ろう材層11を構成する銀ろうの固相線(ろう材層11の一部が溶け始める温度)は、約780℃である。また、ろう材層11は、基材層10と接合されたZ1側の上面11aと、Z2側の下面11bと、一対の側面11cとを有している。上面11aおよび下面11bは、共に略平坦面状に形成されている。側面11cは、基材層10の側面10cよりも若干内側に位置するように形成されている。
【0037】
また、ろう材層11は、基材層10側の上面11aと側面11cとを接続する一対の上側角部11dと、基材層10とは反対側の下面11bと側面11cとを接続する一対の下側角部11eとをさらに有している。上側角部11dは、基材層10の下側角部10e上に位置するように形成されている。つまり、ろう材層11は、基材層10の下側角部10eの略中央Aまで形成されている一方、基材層10の側面10c上には形成されていない。また、上側角部11dは、基材層10の側面10cよりも内側に位置するように形成されているとともに、ろう材層11の側面11cよりも内側に位置するように構成されている。この結果、基材層10の下側角部10eとろう材層11の上側角部11dとの境界周辺は、基材層10の側面10cおよびろう材層11の側面11cから内側に窪むような形状になるように構成されている。また、下側角部11eは、十分に小さい曲率半径を有する丸形状に形成されている。
【0038】
ここで、第1実施形態では、シールリング1のろう材層11は、ろう材層11のうちの基材層10の略平坦面状の側面10cを少なくとも覆う後述する側面ろう材部分11f(
図7参照)を除去することによって形成されている。なお、具体的なシールリング1の製造プロセスについては後述する。
【0039】
次に、
図4を参照して、本発明の第1実施形態によるシールリング1が用いられる電子部品収納用パッケージ100の構造を説明する。
【0040】
第1実施形態による電子部品収納用パッケージ100は、
図4に示すように、シールリング1と、シールリング1の下方(Z2側)でシールリング1に接合される基台2と、シールリング1の上方(Z1側)でシールリング1に接合される蓋部材3とを備えている。
【0041】
基台2は、アルミナなどのセラミックスにより形成されているとともに、箱状に形成されている。また、箱状の基台2は、基台2の中央部に形成され、バンプ4を介して水晶振動子などの電子部品5が取り付けられる収納部2aと、シールリング1と接合される枠状の上面2bとを有している。また、シールリング1と基台2の上面2bとは、シールリング1の溶融されたろう材層11により接合されている。ここで、基台2の上面2bとろう材層11との密着性を向上させるために、基台2の上面2b上にW/Ni/Auからなるメタライズ層を設けてもよい。
【0042】
蓋部材3は、Fe-Ni-Co合金により形成された板部材からなる。また、蓋部材3とシールリング1の基材層10とがシーム溶接により接合されている。ここで、蓋部材3と基材層10との密着性を向上させるために、蓋部材3にNi/Auからなるメッキ層を設けてもよい。
【0043】
また、基台2は、シールリング1よりも若干大きく形成されている。また、蓋部材3は、シールリング1よりも若干小さく、かつ、シールリング1の開口部よりも大きく形成されている。これにより、シールリング1と基台2とが接合されるとともに、シールリング1と蓋部材3とが接合されることにより、電子部品5が取り付けられる収納部2aが気密状態になるように構成されている。
【0044】
次に、
図3〜
図7を参照して、本発明の第1実施形態によるシールリング1の製造プロセスを説明する。
【0045】
まず、
図5に示すように、Fe-Ni-Co合金により形成された基材層10と、基材層10の下面10b(
図6参照)に接合され、約85質量%のAgとCuとを主に含む銀ろうにより形成されたろう材層11とを備えるクラッド材200を準備する。なお、このクラッド材200では、基材層10のZ方向の厚みt1(
図6参照)は約100μm以上約130μm以下であり、ろう材層11のZ方向の厚みt4(
図6参照)は、完成品のシールリング1におけるろう材層11の厚みt2(
図3参照)よりも厚みt6(
図7参照)だけ大きくなるように形成されている。この結果、クラッド材200のZ方向の厚みt5(t1+t4)は、シールリング1の厚みt3(t1+t2、
図3参照)よりも厚みt6だけ大きい。
【0046】
そして、プレス機を用いて、クラッド材200をシールリング1の形状(2点鎖線)に打ち抜く。この際、クラッド材200をろう材層11側(Z2側)から板厚方向(Z方向)に沿って打ち抜く。これにより、シールリング1の形状に打ち抜かれたシールリング1aが形成される。
【0047】
このクラッド材200を打ち抜く際に、
図6に示すように、シールリング1aの基材層10の上側角部10dには、微小突起(バリ)10fが形成される。この微小突起10fの一部は、基材層10の上面10aよりも上方(Z1側)に突出するように鋭角的に形成される。
【0048】
また、クラッド材200を打ち抜く際に、基材層10の下面10bに接合されたろう材層11の一部が、基材層10の側面10cに延伸するように上側(Z1側)に移動する。これにより、基材層10の側面10cには、ろう材層11と接続された側面ろう材部分11fが形成される。
【0049】
そして、シールリング1aの基材層10に形成された微小突起10fを除去するためにバレル研磨を行う。具体的には、複数のシールリング1a、セラミックスなどからなるメディア、化学粉末などからなるコンパウンドおよび水などをバレルに投入する。そして、バレルを所定の速度で所定の時間回転させる。これにより、基材層10の微小突起10fにメディアが衝突することなどによって、微小突起10fが除去される。その後、シールリング1aを取り出して洗浄等を行う。
【0050】
これにより、基材層10の微小突起10fが除去されて、
図7に示すように、シールリング1bが形成される。このシールリング1bでは、基材層10の上側角部10dが十分に小さい曲率半径を有する丸形状に整形される。また、ろう材層11の下側角部11eも若干丸形状に整形される。また、この際、シールリング1bのろう材層11を形成する銀ろうは硬度が小さいため、メディアの残渣などからなる異物6が、ろう材層11の外部に露出する表面(下面11b、側面11c、下側角部11eおよび側面ろう材部分11f)に埋め込まれるように付着する。
【0051】
ここで、第1実施形態のシールリング1の製造方法では、シールリング1bのろう材層11に形成された側面ろう材部分11fを除去するためにウェットエッチングを行う。具体的には、複数のシールリング1bと、約10℃以上約30℃以下のエッチング液とをバレルに投入する。
【0052】
このエッチング液は、過酸化水素により形成される酸化剤と、酢酸またはアンモニアにより形成される酸化物除去剤と、水とが所定の割合で混合された原液か、または、水をさらに加えて原液を所定の割合で希釈した希釈液から構成されている。なお、酸化剤は、ろう材層11(
図7参照)に含まれるAgおよびCuを酸化させて、それぞれ、酸化銀および酸化銅にする機能を有する。酸化物除去剤は、ろう材層11の酸化銀および酸化銅を溶解させて除去する機能を有する。なお、ろう材層11の銀ろうはエッチングされやすく、かつ、基材層10(
図7参照)のFe-Ni-Co合金はエッチングされにくいように、エッチング液が構成されている。
【0053】
そして、バレルを所定の速度で所定の時間回転させる。これにより、ろう材層11が等方的に除去されることによって、ろう材層11の表面が厚みt6(
図7参照)分だけ除去される。一方、基材層10はほとんど除去されない。
【0054】
この結果、基材層10の側面10cに位置し、厚みt6よりも小さな厚みt7を有する側面ろう材部分11fが除去される。つまり、基材層10の略平坦面状の側面10cを少なくとも覆うろう材層11の部分(側面ろう材部分11f)が除去される。また、ろう材層11の下側角部11eは、下面11b側と側面11c側との両側でエッチング液にさらされることにより、丸形状に形成される。さらに、ろう材層11の外部に露出する表面が除去されることに伴い、ろう材層11の露出する表面に付着した異物6も除去される。これらの結果、ろう材層11の形状は、
図7の2点鎖線に示すように、基材層10の下側角部10eの略中央Aまで形成される一方、基材層10の側面10c上には形成されないような形状になる。
【0055】
その後、ろう材層11の表面に残った酸化物(酸化銀および酸化銅)を硫酸などで洗浄して取り除いた後、水洗(すすぎ)およびアルコール置換を行うことによって、
図3に示すシールリング1が製造される。
【0056】
次に、
図4、
図7〜
図9を参照して、本発明の第1実施形態によるシールリング1を用いる電子部品収納用パッケージ100の製造プロセスを説明する。
【0057】
まず、
図8に示すように、セラミックスにより形成された基台2の上面2bにシールリング1を配置する。この際、シールリング1のろう材層11の下面11bが上面2bと当接するように、シールリング1を配置する。そして、ろう材層11を形成する銀ろうの固相線(約780℃)以上のろう付け温度でろう材層11を溶融させる。これにより、溶融したろう材層11により、基台2の上面2bにシールリング1が接合される。この際、シールリング1の基材層10の側面10cに形成されていた側面ろう材部分11f(
図7参照)がウェットエッチングにより除去されているので、ろう材層11が基材層10の側面10cを上方(Z1側)に過度に這い上がるのが抑制される。これにより、基材層10の上面10a近傍へのろう材層11の這い上がりを低減することができる。
【0058】
そして、
図9に示すように、基台2の収納部2aに、バンプ4を介して電子部品5を取り付ける。その後、基材層10の上面10aに蓋部材3を当接させた状態でシーム溶接を行う。これにより、シールリング1の上面10aに蓋部材3が溶接される。この際、基材層10の上面10a近傍にろう材層11が過度に位置しないので、シーム溶接時の熱に起因して基材層10の上面10a近傍に過度に位置するろう材層11の一部が蓋部材3の下面に広がることが抑制される。この結果、ろう材層11の一部が蓋部材3の下面から電子部品5に飛散することが抑制される。これにより、
図4に示す電子部品収納用パッケージ100が製造される。
【0059】
第1実施形態では、上記のように、シールリング1bのろう材層11に形成され、基材層10の略平坦面状の側面10cを少なくとも覆う側面ろう材部分11fをウェットエッチングにより除去することによって、シールリング1のろう材層11を溶融させて電子部品収納用パッケージ100の基台2とシールリング1とを接合する際に、側面ろう材部分11fを伝ってろう材層11が基材層10の側面10cを過度に這い上がることを抑制することができる。これにより、シールリング1の基材層10の上面10aに蓋部材3を当接させた状態でシーム溶接を行う際に、溶接の際の熱によりろう材層11の一部が蓋部材3の下面に広がることが抑制される。この結果、ろう材層11の一部が、蓋部材3の下面から飛散して、電子部品収納用パッケージ100に収納された電子部品5に付着することを抑制することができる。
【0060】
また、第1実施形態では、側面ろう材部分11fを除去するためにウェットエッチングを行うことによって、機械研磨などにより側面ろう材部分11fを除去する場合と比べて、基材層10の側面10cを覆う微小な側面ろう材部分11fを確実に除去することができる。
【0061】
また、第1実施形態では、ろう材層11が等方的に除去されることにより側面ろう材部分11fが除去されるとともに、ろう材層11の下側角部11eが丸形状に形成されることによって、側面ろう材部分11fを選択的に除去するために複雑なエッチング処理を行う必要がないので、側面ろう材部分11fを容易に除去することができる。また、ろう材層11の下側角部11eの丸形形状になり尖った形状でなくなるので、尖ったろう材層11の下側角部11eが他の部材などに接触した際に、他の部材を傷つけることを抑制することができる。
【0062】
また、第1実施形態では、ろう材層11の銀ろうはエッチングされやすく、かつ、基材層10のFe-Ni-Co合金はエッチングされにくい液をエッチング液として用いることによって、容易に、ろう材層11を選択的にエッチングすることができる。
【0063】
また、第1実施形態では、基材層10を、約30質量%のNiと約17質量%のCoとFeとを主に含むFe-Ni-Co合金により形成し、ろう材層11を、約85質量%のAgとCuとを主に含む銀ろうにより形成するとともに、エッチング液を、過酸化水素により形成される酸化剤と、酢酸またはアンモニアにより形成される酸化物除去剤と、水とが所定の割合で混合された原液か、または、水をさらに加えて原液を所定の割合で希釈した希釈液から構成している。これにより、銀ろうにより形成されるろう材層11を選択的にエッチングして側面ろう材部分11fを効果的に除去することができる。
【0064】
また、第1実施形態では、ウェットエッチングにおいてろう材層11の外部に露出する表面が除去されることに伴い、ろう材層11の表面に付着した異物6も除去することによって、側面ろう材部分11fの除去のためのウェットエッチング時に同時に異物6が除去されるので、異物6を除去する工程を別途設ける場合と異なり、工程を簡略化することができる。
【0065】
(第1実施形態の実施例)
次に、
図3、
図4、
図7、
図10および
図11を参照して、本発明の第1実施形態の効果を確認するために行ったエッチング状態の観察、金属溶出量測定、および、ろう材層の溶融状態の観察について説明する。
【0066】
(エッチング状態の観察)
まず、ウェットエッチングの処理時間を異ならせた場合の、ろう材層の状態の変化を観察した。この観察では、上記第1実施形態のシールリング1b(
図7参照)を用いた。また、エッチング液として、酢酸を25質量%含有する酢酸水と、過酸化水素を35質量%含有する過酸化水素水と、水とを1:5:4の体積比で混合した原液を準備した。その後、原液と水との体積比が1:1となる1:1希釈液を作製してエッチング液とした。そして、シールリング1bとエッチング液とをバレルに投入して、バレルを所定の速度で回転させた。その後、所定の処理時間ごとに側面ろう材部分11f(
図7参照)付近のエッチング状態を、走査型電子顕微鏡(S−3400N、日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて観察した。
【0067】
ウェットエッチング前においては、基材層の側面を覆うように側面ろう材部分が形成されていた。また、ろう材層の表面上に、バレル研磨に起因する異物が複数付着していた。そして、ウェットエッチングの処理時間がある程度経過した状態においては、基材層の側面を覆う側面ろう材部分の一部が除去されて、異物が観察されなくなった。これは、ろう材層が等方的に除去されることに伴って、ろう材層の除去された表面部分に付着していた異物も、エッチング液中に移動したからであると考えられる。
【0068】
そして、ウェットエッチングの処理時間がさらに経過すると、側面を覆う側面ろう材部分が徐々に除去されて、基材層の下側角部とろう材層との境界位置が観察されるようになった。これにより、基材層の側面を覆う側面ろう材部分が完全に除去されたことが観察できた。
【0069】
また、上記原液を含むエッチング液において、水の割合を増加させてエッチング液を希釈させるに従い、側面ろう材部分の除去時間が長くなることが確認された。また、上記原液を含む1:1希釈液からなるエッチング液において、エッチング液の温度を上昇させるに従い、側面ろう材部分の除去時間が短くなることが確認された。
【0070】
また、ウェットエッチングにおけるエッチング液の原液として、アンモニアを35質量%含有するアンモニア水と、過酸化水素を35質量%含有する過酸化水素水と、水とを1:1:1の体積比で混合したアンモニア原液を準備した。その後、アンモニア原液と水との体積比が1:4となる1:4希釈液を作製してエッチング液とした。このアンモニア原液を含むエッチング液を用いてウェットエッチングを行った場合においても、側面ろう材部分が除去されることが確認された。
【0071】
また、ウェットエッチング前後における基材層の表面およびろう材層の表面の表面粗さを測定した。具体的には、レーザ顕微鏡(VK−8700、キーエンス社製)を用いて、基材層の表面およびろう材層の表面の算術平均粗さRaと最大高さ粗さRzとを測定した。結果としては、基材層の表面およびろう材層の表面の表面粗さは、ウェットエッチング前後においてほとんど変化しなかった。これにより、ウェットエッチングにより基材層の表面およびろう材層の表面がほとんど粗化されないことが判明した。
【0072】
(金属溶出量測定)
次に、基材層を形成するFe-Ni-Co合金のエッチング液への溶出量と、ろう材層を形成する85質量%のAgとCuとを主に含む銀ろうのエッチング液への溶出量とを測定した。具体的には、上記シールリング1bと、エッチング液(上記原液と水との体積比が1:1となる1:1希釈液)とをバレルに投入して、バレルを所定の速度で1時間回転させた。これにより、シールリング1bのろう材層がほとんど溶解した。そして、エッチング液に含まれるAg、Cu、Fe、NiおよびCoを、ICP発光分析装置を用いて測定した。
【0073】
ウェットエッチング後のエッチング液中には、AgとCuとが85:15に近い割合で含まれていた。これにより、ろう材層のAgとCuとが共にエッチング液に溶出するとともに、AgとCuとのうち一方のみが優先的にエッチング液に溶出することはないことが確認できた。一方、Feの溶出量は、Cuの溶出量の1000分の1よりも小さい量であったとともに、NiおよびCoは検出されなかった。したがって、基材層はエッチング液中にほとんど溶出しないことが判明した。
【0074】
(ろう材層の溶融状態の観察)
次に、ろう材層の溶融状態を観察した。このろう材層の溶融状態の観察では、側面ろう材部分11f(
図7参照)が除去された実施例1のシールリング1(
図3参照)と、側面ろう材部分11fが除去されていない比較例1のシールリング(シールリング1b、
図7参照)とにおいて、ろう材層11を溶融させた際のろう材層11の溶融状態の観察を行った。
【0075】
具体的には、実施例1のシールリング1および比較例1のシールリング1bを、NiメッキおよびAuメッキが表面に積層されたFe-Ni-Co合金板8とろう材層11とが当接するように配置した。そして、ろう材層11を形成する銀ろうの固相線(約780℃)以上のろう付け温度でろう材層11を溶融させて、シールリング1(1b)とFe-Ni-Co合金板8とを接合させた。その後、ろう材層11の溶融状態を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した。
【0076】
図10および
図11に示すろう材層の溶融状態としては、
図10に示す実施例1において、ろう材層11は、基材層10の両側面10cにはほとんど這い上がらなかった。一方、
図11に示す比較例1において、ろう材層11の這い上がり部分11gは、基材層10の両側面10cの半分以上を覆うとともに、側面10cの上面10a近傍まで延びるように形成された。これにより、実施例1におけるろう材層11の這い上がり量は、比較例1におけるろう材層11の這い上がり量よりも十分に小さいとともに、実施例1におけるろう材層11は、側面10cの上面10a近傍にはほとんど位置しないことが確認できた。したがって、側面ろう材部分11fが除去された実施例1におけるシールリング1では、側面ろう材部分11fが除去されていない比較例1のシールリングと比べて、ろう材層11の過度な這い上がりを抑制できることが確認できた。
【0077】
なお、上記ろう材層の溶融状態の観察では、NiメッキおよびAuメッキが表面に積層されたFe-Ni-Co合金板8上においてシールリング1のろう材層11を溶融させた例を示したが、セラミックスにより形成された基台2の上面2a(
図4参照)上においてシールリング1のろう材層11を溶融させた場合においても、ろう材層11は同様の溶融状態になると考えられる。
【0078】
(第2実施形態)
次に、
図3を参照して、本発明の第2実施形態によるシールリング301の構造を説明する。この第2実施形態によるシールリング301では、上記第1実施形態のシールリング1とは異なり、ろう材層311の表面近傍におけるAgの濃度が、ろう材層311の内部11gにおけるAgの濃度よりも大きい場合について説明する。
【0079】
第2実施形態によるシールリング301は、上記第1実施形態とは異なり、ろう材層311の表面(下面11b、一対の側面11c、一対の上側角部11dおよび一対の下側角部11e)およびその近傍におけるAgの濃度が、約90質量%以上になるように構成されている。この濃度は、ろう材層311のろう材自体(ウェットエッチング前のろう材)のAg濃度(約85質量%)およびろう材層311の内部11gにおけるAgの濃度(約85質量%)よりも大きくなるように構成されている。なお、第2実施形態のその他のシールリング301の構造は、上記第1実施形態と同様である。
【0080】
次に、
図3および
図5〜
図7を参照して、本発明の第2実施形態によるシールリング301の製造プロセスを説明する。
【0081】
上記第1実施形態と同様に、まず、
図5に示すように、Fe-Ni-Co合金により形成された基材層10と、約85質量%のAgとCuとを主に含む銀ろうにより形成されたろう材層11とを備えるクラッド材200から、
図6に示すように、シールリング1の形状に打ち抜かれたシールリング1aを形成する。そして、シールリング1aの基材層10に形成された微小突起10fを除去するためにバレル研磨を行って、
図7に示すように、基材層10の微小突起10fが除去されたシールリング1bを形成する。そして、シールリング1bのろう材層11に形成された側面ろう材部分11fを除去するためにウェットエッチングを行う。具体的には、複数のシールリング1bと、約10℃以上約30℃以下のエッチング液とをバレルに投入する。
【0082】
ここで、第2実施形態では、過酸化水素により形成される酸化剤と、酢酸またはアンモニアにより形成される酸化物除去剤と、水とが所定の割合で混合された原液か、または、水をさらに加えて原液を所定の割合で希釈した希釈液をエッチング液として用いた上記第1実施形態とは異なり、その原液または希釈液に、さらに、希硫酸からなる強酸を添加した溶液をエッチング液として用いる。この希硫酸は、希硫酸の濃度がエッチング液全体の約0.5質量%以上の濃度になるようにエッチング液に添加される。この際、希硫酸の濃度がエッチング液全体の約0.5質量%以上1.0質量%以下の濃度になるようにエッチング液に添加されるのが好ましく、エッチング液全体の約0.7質量%以上1.0質量%以下の濃度になるようにエッチング液に添加されるのがより好ましい。
【0083】
この希硫酸は、過酸化水素により形成されるろう材層311(
図3参照)の酸化物(酸化銀および酸化銅)のうち、酸化銅を優先的に除去する機能を有している。これにより、ろう材層311の表面(下面11b、一対の側面11c、一対の上側角部11dおよび一対の下側角部11e)において、硫酸により酸化銅が酸化銀よりも優先的に除去されて消費されるので、Cuの酸化速度も酸化銅の除去速度と共に速くなる。この結果、Cuが優先的に除去される。
【0084】
そして、バレルを所定の速度で所定の時間回転させる。これにより、ろう材層311が等方的に除去される一方、基材層10はほとんど除去されない。さらに、ろう材層311の表面近傍のCuが優先的に除去されて、ろう材層311の表面近傍におけるAgの濃度が約90質量%以上になる。この結果、ろう材層311のろう材自体(ウェットエッチング前のろう材)のAg濃度(約85質量%)、および、ろう材層311の内部11gにおけるAgの濃度(約85質量%)よりも、ろう材層311の表面近傍におけるAgの濃度が大きくなる。
【0085】
また、上記ウェットエッチングの前後で、ろう材層311を構成する銀ろうの固相線(ろう材層311の一部が溶け始める温度)は、約780℃で略変化しない。つまり、ろう材層311の表面近傍におけるAgの濃度が大きくなっているにもかかわらず、銀ろうの固相線は、約780℃で略変化しない。
【0086】
また、上記ウェットエッチングにおいて、ろう材層311の表面に残った酸化物(酸化銀および酸化銅)はほとんど取り除かれるので、上記第1実施形態とは異なり、ろう材層311の表面に残った酸化物を硫酸などで洗浄して取り除く工程は行わずに、直接、水洗(すすぎ)およびアルコール置換を行う。これにより、
図3に示すシールリング301が製造される。
【0087】
第2実施形態では、上記のように、シールリング1bのろう材層311に形成され、基材層10の略平坦面状の側面10cを少なくとも覆う側面ろう材部分11fをウェットエッチングにより除去することによって、側面ろう材部分11fを伝ってろう材層311が基材層10の側面10cを過度に這い上がることを抑制することができる。
【0088】
また、第2実施形態では、原液または希釈液に、さらに、約0.5質量%以上の濃度の希硫酸からなる強酸を添加した溶液をエッチング液として用いてろう材層311の表面近傍のCuを優先的に除去することにより、ろう材層311のろう材自体(ウェットエッチング前のろう材)のAg濃度(約85質量%)、および、ろう材層311の内部11gにおけるAgの濃度(約85質量%)よりも、ろう材層311の表面近傍におけるAgの濃度を大きくすることによって、AgはCuに比べて耐食性を有するので、ウェットエッチング前よりもろう材層311の表面近傍におけるAgによりろう材層311の表面の耐食性をより向上させることができる。また、ろう材層311の表面近傍におけるAgの濃度が大きいことにより、ろう材層311の表面の色調を銀色に近づけることができる。また、Cu優先除去剤が添加されたエッチング液を用いて、ろう材層311の表面におけるCuを優先的に除去することができるので、容易に、ろう材層311の表面近傍におけるAgの濃度を、ろう材層311の内部11gにおけるAgの濃度よりも大きくして、ろう材層311の表面近傍においてAgを残留および濃化させることができる。
【0089】
また、第2実施形態では、原液または希釈液に、さらに、希硫酸からなる強酸を添加した溶液をエッチング液として用いることによって、確実にCuの酸化物を優先的に除去することができるので、容易に、ろう材層311の表面のCuを優先的に除去することができる。
【0090】
また、第2実施形態では、ウェットエッチングの前後でろう材層311の表面近傍におけるAgの濃度が大きくなっているにもかかわらず、 ろう材層311を構成する銀ろうの固相線(ろう材層311の一部が溶け始める温度)を約780℃でほとんど変化させないように構成することができるので、ろう材層311の固相線(約780℃)が高くなることに起因してろう材層311を融解させるのに必要な温度が高くなることを抑制することができる。
【0091】
また、第2実施形態では、ウェットエッチングの後に、 シールリング311の表面に残った酸化銀および酸化銅を取り除いて洗浄するための工程(一般的には、硫酸を用いてシールリング311の表面を洗浄する工程)を別途設ける必要がないので、工程を簡略化することができる。
【0092】
(第2実施形態の実施例)
次に、
図3、
図7および
図12〜
図15を参照して、本発明の第2実施形態の効果を確認するために行ったろう材層の表面での濃度の測定、ろう材層の深さ方向での濃度の測定、固相線の測定、および、耐食性試験について説明する。
【0093】
(ろう材層の表面での濃度の測定)
まず、ろう材層の表面でのCuおよびAgの濃度を測定した。この測定では、Fe-Ni-Co合金により形成された基材層10と、85質量%のAgと15質量%のCuとからなる銀ろうにより形成されたろう材層11とを備えるシールリング1b(
図7参照)を準備した。そして、比較例2のシールリングとして、ウェットエッチングを行わずに、シールリング1bをそのまま用いた。一方、実施例2および3では、シールリング1bに対してウェットエッチングを行った。
【0094】
この際、上記第1実施形態に対応する実施例2では、酢酸を25質量%含有する酢酸水と、過酸化水素を35質量%含有する過酸化水素水と、水とを1:5:4の体積比で混合した原液を準備した。その後、原液と水との体積比が1:4となる1:4希釈液を作製してエッチング液とした。そして、25℃の温度条件下で、シールリング1bとエッチング液とをバレルに投入して、バレルを所定の速度で回転させた後に、洗浄等を行った。これにより、実施例2のシールリング1(
図3参照)を得た。
【0095】
一方、上記第2実施形態に対応する実施例3では、上記1:4希釈液に強酸の希硫酸を添加したものをエッチング液として用いた。その際、硫酸の濃度がエッチング液全体の0.7質量%になるように調整した。そして、実施例2と同様に、25℃の温度条件下で、シールリング1bとエッチング液とをバレルに投入して、バレルを所定の速度で回転させた後に、水洗等を行った。これにより、実施例3のシールリング301(
図3参照)を得た。
【0096】
そして、比較例2のシールリング1b、実施例2のシールリング1および実施例3のシールリング301の各々の表面の2箇所を、電子線マイクロアナライザ(Electron Probe MicroAnalyser:EPMA)を用いて観察した。そして、ろう材層の表面におけるCuの存在量とAgの存在量との合計に対するCuの存在量の割合をCuの濃度として求めるとともに、Agの存在量の割合をAgの濃度として求めた。
【0097】
図12に示すように、実施例2のように硫酸を添加しないエッチング液を用いた場合には、ウェットエッチング後において、ウェットエッチング前(比較例2)に比べて、Cuの濃度が大きくなり、Agの濃度が小さくなった。これは、酢酸(酸化物除去剤)だけでは、Agの酸化物(酸化銀)が除去される速度が、Cuの酸化物(酸化銅)が除去される速度よりも速くなり、Agが比較的優先的に除去されたからであると考えられる。
【0098】
一方、実施例3のように硫酸を0.7質量%添加したエッチング液を用いた場合には、ウェットエッチング後において、ウェットエッチング前(比較例2)に比べて、Cuの濃度が小さくなり、Agの濃度が大きくなった。これは、酢酸に加えて硫酸を添加することによって、酸化銅が除去される速度が、酸化銀が除去される速度よりも速くなったので、Cuが優先的に除去されたからであると考えられる。この結果、エッチング液に硫酸を添加することによって、ろう材層の表面のCuが優先的に除去でき、その結果、ろう材層の表面におけるAgの濃度を、ウェットエッチング前(比較例2)におけるAgの濃度よりも大きくして、ろう材層の表面においてAgを残留および濃化させることができることが判明した。
【0099】
(ろう材層の深さ方向での濃度の測定)
次に、上記実施例3のシールリング301を用いて、オージェ電子分光装置により、ろう材層の深さ方向(ろう材層311の表面に対して直交する方向)でのCuおよびAgの濃度を測定した。
【0100】
図13に示すように、実施例3のシールリング301では、Agの濃度は、ろう材層の内部から表面に向かうにしたがって徐々に大きくなった。一方、Cuの濃度は、ろう材層の内部から表面に向かうにしたがって徐々に小さくなった。この結果から、エッチング液に硫酸を添加することによって、ろう材層の表面のCuが優先的に除去でき、その結果、ろう材層の表面近傍におけるAgの濃度をろう材層の内部におけるAgの濃度よりも大きくして、ろう材層の表面においてAgを残留および濃化させることができることが判明した。
【0101】
また、実施例3のシールリング301では、ろう材層の表面から0.1μmの深さまでの範囲においては、Agの濃度の減少およびCuの濃度の増加は他の範囲に比べて緩やかであった。これにより、エッチング液に硫酸を添加することによって、ろう材層の表面から0.1μmの深さまでの範囲のCuを安定的に除去できると考えられる。
【0102】
(固相線の測定)
次に、ウェットエッチング前後でのろう材層の固相線の変化を確認するために固相線の測定を行った。この固相線の測定では、上記した比較例2および実施例3に加えて、上記1:4希釈液に添加する硫酸の濃度を各々異ならせたエッチング液を用いてウェットエッチングを行うことによって、実施例4〜6のシールリング301を製造した。ここで、実施例4、5および6では、それぞれ、硫酸の濃度がエッチング液全体の0.3質量%、0.5質量%および1.0質量%になるように調整した。なお、実施例4〜6におけるウェットエッチングの条件は、上記実施例3の条件と同一である。そして、示差熱分析(DTA)法を用いて、比較例2のシールリング1bおよび実施例3〜6のシールリング301におけるろう材層の固相線(ろう材層の一部が溶け始める温度)を測定した。
【0103】
図14に示すように、エッチング液に添加した硫酸の濃度が大きくなるにしたがって、若干固相線は高くなった。しかしながら、実施例3〜6のろう材層の固相線は、ウェットエッチング前(比較例2)のろう材層の固相線(776.0℃)の1.5℃以内(776.1℃(実施例4)以上777.4℃(実施例6)以下)であり、温度差はほとんどないと考えられる。この結果、ウェットエッチング前後でろう材層の固相線はほとんど変化しないことが確認できた。
【0104】
(耐食性試験)
次に、耐食性試験を行った。この耐食性試験では、上記した比較例2のシールリング1bおよび実施例3のシールリング301を、85℃および85%Rh(相対湿度)の恒温恒湿条件下で1000時間放置する恒温恒湿試験を行った。そして、恒温恒湿試験後の比較例2のシールリング1bおよび実施例3のシールリング301の表面を、電子線マイクロアナライザ(Electron Probe MicroAnalyser:EPMA)を用いて観察した。そして、ろう材層の表面におけるO(酸素)の濃度(存在比)、Cuの濃度およびAgの濃度を求めた。
【0105】
図15に示すように、実施例3では、比較例2と比べてろう材層の表面における酸素の濃度が小さくなった。これにより、比較例2のようにウェットエッチングを行わない場合と比べて、実施例3のように硫酸を0.7質量%添加したエッチング液を用いてウェットエッチングを行なった場合には、ウェットエッチング後にろう材層の表面の酸化が抑制されることが判明した。これは、実施例3のシールリング301では、比較的酸化されやすいCuよりも比較的酸化されにくいAgがろう材層の表面に多く存在しており、ろう材層の表面の酸化が抑制されたからであると考えられる。この結果から、実施例3のように硫酸が添加されたエッチング液を用いてウェットエッチングを行うことによって、ろう材層の表面の酸化を抑制することができ、その結果、ろう材層の表面の耐食性を向上させることができることが判明した。
【0106】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0107】
たとえば、上記第1および第2実施形態では、ウェットエッチングによって、ろう材層11の側面ろう材部分11fを除去した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、ドライエッチングなどのウェットエッチング以外の方法によって、側面ろう材部分を除去してもよい。
【0108】
また、上記第1および第2実施形態では、ろう材層11が基材層10の下側角部10eの略中央Aまで形成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、ろう材層を、基材層の下側角部上で、かつ、基材層の側面近傍の領域まで形成してもよい。また、ろう材層を、基材層の下側角部上に形成せずに、基材層の下面にのみ形成してもよい。
【0109】
また、上記第1および第2実施形態では、エッチング液として、過酸化水素により形成される酸化剤と、酢酸またはアンモニアにより形成される酸化物除去剤と、水とが所定の割合で混合された原液か、または、水をさらに加えて原液を所定の割合で希釈した希釈液を少なくとも用いた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、過酸化水素以外の酸化剤を用いてもよいし、酢酸またはアンモニア以外の酸または塩基を酸化物除去剤として用いてもよい。また、フッ化アンモニウムを酸化物除去剤として用いてもよい。
【0110】
また、上記第1および第2実施形態では、ろう材層11の銀ろうはエッチングされやすく、かつ、基材層10のFe-Ni-Co合金はエッチングされにくいエッチング液を用いた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、基材層のFe-Ni-Co合金もある程度エッチングされるようなエッチング液を用いてもよい。これにより、微小突起を除去するためのバレル研磨を行う工程を省略するか、または、バレル研磨を行う時間を短くすることが可能である。
【0111】
また、上記第1および第2実施形態では、約85質量%のAgとCuとを主に含む銀ろうを用いた例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、約72質量%のAgとCuとを主に含む銀ろうを用いてもよい。また、AgおよびCu以外にSnを含むようなろう材を用いてもよい。この場合、ろう材の固相線を小さくすることができるので、ろう付け温度を低くすることが可能である。なお、ろう材がSnを含む場合には、クラッド材を形成する際などにおいて圧延が困難になることを抑制するために、Snを約6質量%以下含むように構成することが好ましい。
【0112】
また、上記第2実施形態では、原液または希釈液に添加する溶液として、希硫酸からなる強酸を用いた例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、塩酸などの硫酸とは別の強酸を原液または希釈液に添加してもよい。また、Cuを優先的に除去することが可能であれば、強酸以外の溶液をCu優先除去剤として用いてもよい。