【文献】
渡部 翼,他,pH変化による無機結晶内ピラニン包含高効率発光結晶の発光波長制御,化学工学論文集,2012年,第38巻、第3号,pp.167-171
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ホスト物質をなす無機系の第一結晶とゲスト物質をなす有機系の第二結晶とを含む固体であり、かつ、前記第一結晶からなる単一の物体内に、前記第二結晶が複数、互いに離間して配された構造を有するハイブリッド結晶である蛍光発光体の作製方法であって、
前記第一結晶と前記第二結晶とをイオン交換水に溶解する工程Aと、
前記工程Aにより得られた水溶液を、支持体に塗布して、前記支持体上に前記ハイブリッド結晶を析出させる工程Bと、
を少なくとも備え、
前記第一結晶としては硫酸化合物からなるイオン結晶を用い、かつ、前記第二結晶としてはRu(bpy)3Cl2を用いる、
ことを特徴とする蛍光発光体の作製方法。
ホスト物質をなす無機系の第一結晶とゲスト物質をなす有機系の第二結晶とを含む固体であり、かつ、前記第一結晶からなる単一の物体内に、前記第二結晶が複数、互いに離間して配された構造を有するハイブリッド結晶である蛍光発光体が、第一電極と第二電極との間に配されてなる発光デバイスの製造方法であって、
前記第一結晶と前記第二結晶とをイオン交換水に溶解する工程Xと、
前記工程Xにより得られた水溶液を、前記第一電極を備えた透明基体からなる支持体に塗布して、該第一電極を覆うように前記ハイブリッド結晶を析出させる工程Yと、
前記ハイブリッド結晶を覆うように、前記第二電極を形成する工程Zと、
を少なくとも備え、
前記第一結晶としては硫酸化合物からなるイオン結晶を用い、かつ、前記第二結晶としてはRu(bpy)3Cl2を用いる、
ことを特徴とする発光デバイスの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態及び実施例を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態及び実施例に限定されるものではない。
【0011】
<蛍光発光体>
図1は、本発明に係る蛍光発光体の一構成例を模式的に示す断面図である。
本発明の蛍光発光体10は、ホスト物質をなす無機系の第一結晶11とゲスト物質をなす有機系の第二結晶12とを含む固体の蛍光発光体であって、第一結晶11からなる単一の物体内に、第二結晶12が複数、互いに離間して配された構造を有するハイブリッド結晶であることを特徴とする。
【0012】
第一結晶11(ホスト物質)としては、例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸ルビジウム、硫酸セシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ルビジウム、塩化セシウム、二酸化ケイ素などの、イオン結晶が挙げられる。その中でも特に、硫酸カリウム(K
2SO
4)が好ましい。
第二結晶12(ゲスト物質)としては、例えば、oABSA、トビアス酸、ピラニン、ルブレン、アントラセン、Ru(bpy)
3Cl
2、などが挙げられる、その中でも特に、Ru(bpy)
3Cl
2[トリス(2,2’−ビピリジナート)ジクロロルテニウム(II)]が、好ましい。Ru(bpy)
3Cl
2の構造を、化1に示す。化1中、X=Clである。
【0014】
なお、上記化学式において、Ruに代えて、Rh、Re、Os、Zn、Cr、Pd、Pt、Ir、Cu、Al、Ga、Auを含む、錯体を用いることができる。
また、上記式において、X=Clに変えて、その他のハロゲン原子であってもよい。
【0015】
第二結晶12の割合としては、特に限定されるものではないが、例えば0〜50mol%であることが好ましい。第二結晶12の割合が50molより大きいと、発光層の誘電率が高くなり、発光させるために必要な印加電圧が高くなる。一方、発光層の膜厚を薄くすることで発光する電圧を低くすることができるが、発光する分子の数が少なくなるため、発光量が小さくなることから好ましくない。
【0016】
このように、本実施形態では、蛍光発光体10を、第一結晶11(ホスト)からなる単一の物体内に、第二結晶12(ゲスト)が複数、互いに離間して配されたハイブリッド結晶とすることにより、耐環境性能を向上することができる。すなわち、光、酸素および水分による劣化が抑えられる。また、固体状で安定に保持することができる。
【0017】
ただし、例えば、上述したような第一結晶11を含む膜を支持体上に塗布形成する際に、第一結晶11の水溶液を塗布しても、第一結晶11の微結晶が荒く載っただけの膜しかできない。これは水溶液の濡れ性の悪さと粘度とが影響していると考えられる。
そこで、本発明者らは粘度に着目して各種実験を繰り返した結果、蛍光発光体10は、第一結晶11がバインダーとして機能する第一部材(部材1)を含むことが好ましいことを見いだした。
【0018】
このような第一部材としては、例えばポリアクリル酸、ポリビニルアルコールグルコースなどが挙げられる。ポリアクリル酸が好ましい。第一部材を含むことにより、第一結晶11を含む膜を塗布形成する際に、第一結晶11のバインダーとなるとともに、第一結晶水溶液の粘度を調整することができる。その結果、ピンホールのない結晶膜を形成することができる。
第一結晶11に対する、第一部材の重量比としては、特に限定されるものではないが、例えば1.9〜3.5%程度とすることが好ましい。第一部材の重量比が1.9%より少ないと、上述したような効果が十分に得られない。一方、第一部材がの重量比3.5%より多いと、発光層の誘電率が高くなり、発光させるために必要な印加電圧が高くなる。一方、発光層の膜厚を薄くすることで発光する電圧を低くすることができるが、発光する分子の数が少なくなるため、発光量が小さくなることから好ましくない。
【0019】
さらに、蛍光発光体10は、ホスト物質をなす無機系の第一結晶11が、価数の異なる無機系の第二部材(部材2)を含むことが好ましい。これにより、絶縁性が高い不導体から半導体の傾向となり、電子もしくは正孔(ホール)が外系から有機ハイブリッド結晶の内部へ突入しやすくなる。
第一結晶11が、例えば硫酸カリウム(K
2SO
4)のイオン結晶である場合、該K
2SO
4と価数が異なる、無機系の第二部材、例えばリン酸カリウム(K
3PO
4)などをドーパントとして添加する。これにより、絶縁性が高い不導体から半導体の傾向となり、電子もしくは正孔(ホール)が外系から有機ハイブリッド結晶の内部へ突入しやすくなり好ましい。
このような第二部材の添加量としては、特に限定されるものではないが、例えば、0〜50 mol%程度とすることが好ましい。
【0020】
このような蛍光発光体10を発光させるための、励起エネルギーは、(UV)光でも、電気でもよい。
例えば電気により蛍光発光体10を発光させる場合、蛍光発光体10の両側に、ITO(スズドープ酸化インジウム)やFTO(フッ素ドープ酸化スズ)などの透明電極と、アルミニウムなどの電極とを配置する。両電極間に直流電圧を印加することにより、蛍光発光体10が励起されて発光する。
本発明の蛍光発光体10は、優れた耐環境性能があり、光、酸素および水分による劣化が抑えられる。これにより、本発明の蛍光発光体10は、従来よりも長い発光時間を実現し、長寿命を有するものとなる。
【0021】
<蛍光発光体の作製方法>
次に、このような蛍光発光体10の作製方法について説明する。
本発明の蛍光発光体の作製方法は、第一結晶11と第二結晶12とをイオン交換水に溶解する工程Aと、工程Aにより得られた水溶液を、支持体に塗布して、支持体上にハイブリッド結晶を析出させる工程Bと、を少なくとも備える。
【0022】
まず、第一結晶11と第二結晶12とをイオン交換水に溶解する(工程A)。
このとき、上述したように、水溶液の粘度調整と、第一結晶11のバインダーとするために、ポリアクリル酸のような第一部材を添加することが好ましい。これにより、ピンホールのない結晶膜を形成することができる。
【0023】
図2は、この工程Aのフローチャートである。
まず、ふた付のサンプル管を用意する(S1)。
そして、第二結晶12(ゲスト)として、例えばRu(bpy)
3Cl
2を所定量、秤量する(S2)。
また、第一結晶11(ホスト)として、例えばK
2SO
4を所定量、秤量する(S3)。
この第一結晶11および第二結晶12に、イオン交換水を追加し(S4)、例えば80℃にて結晶を溶解させる(S5)。
【0024】
次に、溶液をろ過する(S6)。ろ過には、例えば0.5μm以下のフィルター(例えば、ADVANTEC社製、DISMIC)を用いることができる。
そして、ろ液に、第一部材として所定量のポリアクリル酸を添加する(S7)。
次に、例えば80℃にてポリアクリル酸を溶解し(S8)、さらに、超音波溶解する(S9)。
以上のようにして、原料水溶液が調製される。この原料水溶液は、例えば50℃で保温される(S10)。
なお、上述した説明では、具体的な材料、数値等を挙げて説明しているが、これらは一例であり、これに限定されるものではない。また、各ステップも、上記の例に限定されない。
【0025】
次に、得られた原料水溶液を、支持体に塗布して、支持体上にハイブリッド結晶を析出させる(工程B)。
原料水溶液の塗布方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、スピンコート法が好ましい。スピンコート法によれば、大気中で、原料水溶液の塗布、乾燥、および結晶析出の工程を、一気に実行することができる。
【0026】
図3は、この工程Bのフローチャートである。
まず、例えばPET基材上に陽極(後述する第一電極20)としてITOが成膜されてなる支持体を予め用意し、所定の大きさにカットする(S11)。
例えばレーザードライエッチングにより、支持体表面を洗浄する(S12)。なお、酸を用いた湿式洗浄でもよい。
支持体を、回転ディスク上に設置する(S13)。支持体は、回転ディスク上に例えばテープで固定される。
支持体表面を、例えばアセトンを用いて拭き洗浄する(S14)。これは例えば可塑剤などの除去を目的としている。
ディスクを例えば500〜2000rpmで回転させる(S15)。このような装置としては、例えば(株)アクティブ社製のACT−300Aを用いることができる。
そして、支持体表面を、例えばIPA(イソプロピルアルコール)を用いて洗浄する(S16)。これは、小さなゴミの除去を目的としている。
その後、乾燥する(S17)。乾燥時間は例えば15秒間とする。
【0027】
次に、支持体上に、S10で調製された原料水溶液(発光塗料)を供給し、スピンコートにより塗布する(S18)。塗布時間は例えば1秒間とする。
塗料を乾燥させる(S19)。これにより、支持体上にハイブリッド結晶を析出させる。乾燥時間は、溶剤の種類や使用量によって異なるが、例えば30秒間とする。
そして、ディスクの回転を停止させ(S20)、膜形状のハイブリッド結晶(以下「ハイブリッド結晶膜」とも呼ぶ:蛍光発光体10)が形成された支持体を取り出す(S21)。
なお、上述した説明では、具体的な材料、数値等を挙げて説明しているが、これらは一例であり、これに限定されるものではない。また、各ステップも、上記の例に限定されない。
【0028】
このように、本発明によれば、支持体上に蛍光発光体10を簡便な方法で形成することができる。このようにして得られた蛍光発光体10は、従来のように取り扱いが難しい液体状やゲル状ではなく、乾燥した固体状であり、取り扱いがしやすい。
なお、上述した方法以外にも、支持体上にハイブリッド結晶を析出させる方法として、結晶を直接支持体上に析出させる方法が挙げられる。また、結晶を粉砕またはスプレードライなどにより微結晶とし、この微結晶をポリビニルカルバゾールなどの半導体に分散させて塗料を調整し、この塗料を支持体上に塗布する方法などが挙げられる。
【0029】
<発光デバイス>
図4Aは、本発明に係る発光デバイス(直流型)の一構成例を模式的に示す断面図である。
本発明の発光デバイス1A(1)は、第一電極20と第二電極30との間に、発光層として、蛍光発光体10が少なくとも配されてなる(蛍光)発光デバイスであって、蛍光発光体10は、両電極(第一電極20と第二電極30)間が電気的に接続されるように、絶縁性を有する第一結晶11が、導電性を有する第二結晶12の周囲を取り囲むように構成されていることを特徴とする。なお、
図4Aの場合においては、第一電極20と第二電極に接続する直流電源の極性はどちらでもよい。
【0030】
発光デバイス1において、第一電極20および第二電極30の材料として、種々の材料を用いることができる。
例えば第一電極20が陽極である場合、第一電極20としては、特に限定されるものではないが、例えばITO、FTO、PEDOT(ポリ(3,4−エチレンジオキシ チオフェン))、カーボン(CNT、グラフェン)、Ag、Au、AgI、Cuなどが挙げられる。
また、第二電極30が陰極である場合、第二電極30としては、特に限定されるものではないが、例えばITO、FTO、導電性がある金属(Al、Mg)、カーボン(CNT、グラフェン)、PEDOTなどが挙げられる。
【0031】
第一電極20または第二電極30は、例えば基体(図示略)上に配されている。
このような基体としては、特に限定されるものではないが、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ガラス、プラスチック、ガラス、ポリカーボネート、アクリル樹脂、塩化ビニル、環状オレフィン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリウレタン、エポキシ樹脂、シリコン、酢酸セルロース、ポリスチレンなどからなる基体を、用いることができる。
【0032】
発光デバイス1は、第一電極20または第二電極30の一方、あるいは両方が、可視光を透過する部材からなり、かつ、可視光を透過する基体に配されていることが好ましい。
このような、可視光を透過する部材としては、例えばITO、FTOなどの、透明導電膜が挙げられる。
また、可視光を透過する基体としては、例えばガラス、PET(ポリエチレンテレフタレート)などの、可視域において透明な材料が挙げられる。
発光デバイス1において、両方の電極と基体を、可視光を透過する構成してもよい。第一電極20と第二電極30との両方を、可視光を透過する構成とすることで、発光デバイス1は、両面発光が可能となる。なお、本発明の発光デバイスは、以下において、「蛍光を発する発光デバイス(蛍光発光デバイス)」とも呼ぶこともある。
【0033】
発光デバイス1A(1)において、第一電極20と第二電極30との間に印加する電圧が、直流である。
発光デバイス1A(1)を発光させる場合、蛍光発光体10の両側に配された第一電極20と第二電極30との間に直流電圧を印加することにより、蛍光発光体10が励起されて発光する。
なお、
図4Bに示すように、蛍光発光体10をなすハイブリッド結晶(第一結晶11と第二結晶12)がP型の場合は、N型半導体層40を、蛍光発光体10と第二電極30との間に配することが好ましい。一方、
図4Cに示すように、蛍光発光体10をなすハイブリッド結晶(第一結晶11と第二結晶12)がN型の場合は、P型半導体層50を、蛍光発光体10と第一電極20との間に配置することが好ましい。これにより蛍光発光体10が発光しやすくなる。ハイブリッド結晶がN型とP型双方をもつ場合は、第一電極20と第二電極30との間には、蛍光発光体10であるハイブリッド結晶のみを配置することが好ましい。
【0034】
(蛍光)発光デバイス1は、第一電極20と第二電極30との間に印加する電圧が、交流であってもよい。
図5は、本実施形態に係る発光デバイス1B(1)(交流型)の一構成例を模式的に示す断面図である。
この発光デバイス1B(1)も、第一電極20と第二電極30との間に、発光層として、蛍光発光体10が少なくとも配されてなる。また、光の取り出し方向ではない電極側に、チタン酸バリウムなどの強誘電体を含んだビヒクル(誘電体層15)が配されていてもよい。この誘電体層15は、耐電圧性の向上と光反射層としての機能を兼ねる。
発光デバイス1B(1)を発光させる場合、蛍光発光体10の両側に配された第一電極20と第二電極30との間に交流電圧を印加することにより、蛍光発光体10が励起されて発光する。
【0035】
本発明の発光デバイス1では、蛍光発光体10が優れた耐環境性能を有し、光、酸素および水分による劣化が抑えられる。これにより、本発明のデバイス1は、従来よりも長い発光時間を実現し、長寿命を有するものとなる。
さらに、本発明の発光デバイス1では、ハイブリッド結晶を含む蛍光発光体10が、従来のように取り扱いが難しい液体状やゲル状ではなく、乾燥した固体状であり、取り扱いがしやすい。その結果、可撓性を有する基板(フレキシブル基板)などを用いることができる。
【0036】
<発光デバイス1の製造方法>
次に、このような発光デバイス1の製造方法について説明する。
本発明の発光デバイス1の作製方法は、第一結晶11と第二結晶12とをイオン交換水に溶解する工程Xと、工程Xにより得られた水溶液を、第一電極20を備えた透明基体からなる支持体に塗布して、第一電極20を覆うようにハイブリッド結晶を析出させる工程Yと、ハイブリッド結晶を覆うように、第二電極30を形成する工程Zと、を少なくとも備えたことを特徴とする。
【0037】
まず、発光デバイス1の製造方法は、第一結晶11と第二結晶12とをイオン交換水に溶解する(工程X)。
このとき、水溶液の粘度調整と、第一結晶11のバインダーとするために、ポリアクリル酸のような第一部材を添加することが好ましい。これにより、ピンホールのない結晶膜を形成することができる。
この工程Xは、上述した、蛍光発光体10の作製方法における工程Aと同様にして行うことができる。そのため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0038】
次に、得られた水溶液を、第一電極20を備えた透明基体からなる支持体に塗布して、第一電極20を覆うようにハイブリッド結晶を析出させる(工程Y)。
水溶液の塗布方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、スピンコート法が好ましい。スピンコート法によれば、大気中で、水溶液の塗布、乾燥、および結晶析出の工程を、一気に実行することができる。
この工程Yは、上述した、蛍光発光体10の作製方法における工程Bと同様にして行うことができるため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0039】
そして、ハイブリッド結晶を覆うように、第二電極30を形成する(工程Z)。
第二電極30の形成方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法により、形成することができる。
【0040】
図5は、この工程Zのフローチャートである。
ハイブリッド結晶膜が形成された支持体を取り出した(S21)後、マスキングを行う(S22)。
そして、別途調製しておいた陰極塗料を、ハイブリッド結晶を覆うように、例えばキャスト法により塗布する(S23)。
その後、乾燥する(S24)。乾燥は、例えば100℃で15秒間とする。最後に、装置から取り出す(S25)。
このようにして、第一電極20と第二電極30との間に、発光層として、ハイブリッド結晶(蛍光発光体10)が少なくとも配されてなる(蛍光)発光デバイス1が得られる。
なお、上述した説明では、具体的な材料、数値等を挙げて説明しているが、これらは一例であり、これに限定されるものではない。また、各ステップも、上記の例に限定されない。
【0041】
また、第二電極30を、次のような手法により形成することもできる。
ハイブリッド結晶膜が形成された支持体を取り出した(S21)後、マスキングを行う(S22)。
支持体を真空蒸着装置の前室へ設置する(S30)。真空蒸着装置としては、例えば(株)サンバック社製、ED−1250R1を用いることができる。
成膜室(成膜チャンバ)内を減圧して(S31)、ハイブリッド結晶を覆うように、例えばAlを蒸着させる(S32)。
蒸着が終了したら、装置内部を冷却し(S33)、大気圧へ戻す(S34)、最後に、装置から取り出す(S35)。
Alに代えて、例えばMg、MgAg、Ca、LiFなどを蒸着させることにより、第二電極30を形成してもよい。
【0042】
なお、第二電極30として、他方の基体に予め形成された導電部材を用いてもよい。
導電部材は、例えば、PETからなる他方の基体上に、第二電極30としてAl膜が予め形成されたものを用いることができる。予め、第二電極30(導電部材)を別途、作製しておく。そして、第二電極30を設ける工程Zにおいて、この第二電極30を、ハイブリッド結晶に接するように、重ねる(接触させる)だけでもよい。なお、第二電極30(Al)さえ有れば、他方の基体は無くても構わない。
【0043】
このように、本発明によれば、発光デバイス1を簡便な方法で形成することができる。このようにして得られた発光デバイス1は、ハイブリッド結晶を含む蛍光発光体10が、従来のように取り扱いが難しい液体状やゲル状ではなく、乾燥した固体状であり、取り扱いがしやすい。
なお、上述した方法以外にも、支持体上にハイブリッド結晶を析出させる方法として、結晶を直接支持体上に析出させる方法が挙げられる。また、結晶を粉砕またはスプレードライなどにより微結晶とし、この微結晶をポリビニルカルバゾールなどの半導体に分散させて塗料を調整し、この塗料を支持体上に塗布する方法などが挙げられる。
【0044】
以上説明した、発光デバイスの製造方法は、直流電圧が印加される発光デバイス1A(1)についての製造方法であり、交流電圧が印加される発光デバイス1B(1)の製造方法について、以下に説明する。
まず、再結晶・粉砕方法又はスプレードライ方法により、ハイブリッド結晶を得る。
図6は、この工程のフローチャートである。
【0045】
(再結晶・粉砕法)
まず、ふた付のサンプル管を用意する(S40)。
そして、第二結晶12(ゲスト)として例えばo−ABSAを所定量、秤量する(S41)。
また、第一結晶11(ホスト)として例えばK
2SO
4を所定量、秤量する(S42)。
この第一結晶11および第二結晶12に、イオン交換水を追加し(S43)、例えば80℃にて結晶を溶解させる(S44)。
次に、溶液を冷却することにより、結晶を析出(再結晶)させる(S45)。
析出した結晶を取り出し(S46)、乾燥(S47)及び粉砕(S48)する。
以上のようにして、ハイブリッド結晶が得られる。
なお、上述した説明では、具体的な材料、数値等を挙げて説明しているが、これらは一例であり、これに限定されるものではない。また、各ステップも、上記の例に限定されない。
【0046】
(スプレードライ法)
まず、ふた付のサンプル管を用意する(S50)。
そして、第二結晶12(ゲスト)として例えばo−ABSAを所定量、秤量する(S51)。
また、第一結晶11(ホスト)として例えばK
2SO
4を所定量、秤量する(S52)。
この第一結晶11および第二結晶12に、イオン交換水を追加し(S53)、常温にて結晶を溶解させる(S54)。
この溶液をスプレードライ装置にセットする(S55)。
そして、溶液を高温炉中に噴霧することにより、結晶化させる(S56)
最後に、結晶を回収する(S57)
以上のようにして、ハイブリッド結晶が得られる。
なお、上述した説明では、具体的な材料、数値等を挙げて説明しているが、これらは一例であり、これに限定されるものではない。また、各ステップも、上記の例に限定されない。
【0047】
そして、このようにして得られたハイブリッド結晶を用いて、第一電極20上に、ハイブリッド結晶を含む発光層、誘電体層、第二電極30(裏面電極)を順次形成することにより、交流型の発光デバイス1を作製する。
図7は、この工程のフローチャートである。
【0048】
(発光層の形成工程)
まず、発光層用塗料を調製する。
発光層用塗料の母材として、例えばポリ弗化ビニリデンを所定量、秤量する(S60)。なお、ニトロセルロース等を用いてもよい。
また、上述したS48(再結晶・粉砕法)又はS57(スプレードライ法)により得られたハイブリッド結晶を、所定量、秤量する(S61)。
次に、有機溶剤として例えばECA(エチルセロソルブアセテート)を追加する(S62)。ECAに限定されず、溶解させることができれば、任意の有機溶剤を用いることができる。例えば酢酸メチルセルソルブを用いることができる。
そして、これらを混合する(S63)ことにより、発光層用の塗料が調製される。
【0049】
例えばPET基材上に陽極(第一電極20)としてITOが成膜されてなる支持体を予め用意しておき、このITO上に、発光層用の塗料を例えばスクリーン印刷により1回目の塗布を行う(S70)。その後、乾燥する(S71)。
同様に、発光層用の塗料の2回目の塗布を行い(S72)、その後、乾燥する(S73)。さらに、発光層用の塗料の3回目の塗布を行い(S74)、その後、乾燥する(S75)。
以上のようにして、発光層が形成される。
【0050】
(誘電体層形成工程)
まず、誘電体層用塗料を調製する。
誘電体層用塗料の母材として、ポリ弗化ビニリデンを所定量、秤量する(S65)。
また、誘電体として、例えばチタン酸バリウムを所定量、秤量する(S66)。なお、チタン酸バリウムに限定されず、任意の強誘電体材料を用いることができる。
次に、有機溶剤として、ECA(エチルセロソルブアセテート)を追加する(S67)。ECAに限定されず、溶解させることができれば、任意の有機溶剤を用いることができる。
そして、これらを混合する(S68)ことにより、誘電体層用塗料が調製される。
【0051】
発光層上に、誘電体層用塗料を、例えばスクリーン印刷法により1回目の塗布を行う(S76)。その後、乾燥する(S77)。
同様に、1回目の塗布領域に重なるように、誘電体層用塗料の2回目の塗布を行い(S78)、その後、乾燥する(S79)。
以上のようにして、誘電体層が形成される。
なお、上述した誘電体層用塗料の重ね塗りは、2回に限定されるものではなく、必要に応じて3回以上行ってもよい。
【0052】
(裏面電極の形成工程)
裏面電極(第二電極30)として、例えばカーボンを含む塗料を別途用意し、裏面電極用塗料として用いる。発光層上に、裏面電極用塗料を、例えばスクリーン印刷法により1回目の塗布を行う(S80)。その後、乾燥する(S81)。
同様に、裏面電極用塗料の2回目の塗布を行い(S82)、その後、乾燥する(S83)。
以上のようにして、第二電極30(裏面電極)が形成される。
なお、上述した説明では、具体的な材料、数値等を挙げて説明しているが、これらは一例であり、これに限定されるものではない。また、各ステップも、上記の例に限定されない。
【0053】
このようにして、第一電極20と第二電極30との間に、ハイブリッド結晶(蛍光発光体10)が少なくとも配されてなる(蛍光)発光デバイス1B(1)が得られる
なお、第二電極30として、他方の基体に予め形成された導電部材を用いてもよい。
導電部材は、例えば、PETからなる他方の基体上に、第二電極30としてITOが予め形成されたものを用いることができる。予め、第二電極30(導電部材)を別途、作製しておく。そして、第二電極30を設ける工程において、この第二電極30を、結晶に接するように、重ねる(接触させる)だけでもよい。
【実施例】
【0054】
次に、本発明の効果を確認するために行った、実施例について説明する。
なお、本発明は以下の具体的な化合物や数値に限定されるものではない。
【0055】
(1)ハイブリッド結晶からなる薄膜(以下、ハイブリッド結晶膜とも呼ぶ)の作製
図2および
図3に示したような工程により、支持体上にハイブリッド結晶膜を作製した。
以下の手順により、第一結晶と第二結晶とをイオン交換水に溶解して、原料水溶液を調製した。
まず、ふた付のサンプル管を用意した(S1)。
そして、第二結晶(ゲスト)としてRu(bpy)
3Cl
2を所定量、秤量した(S2)。
また、第一結晶(ホスト)としてK
2SO
4を所定量、秤量した(S3)。
この第一結晶および第二結晶に、イオン交換水を追加し(S4)、80℃にて結晶を溶解させた(S5)。
次に、結晶を溶解させた溶液をろ過した(S6)。ろ過には、0.5μm以下のフィルター(例えば、ADVANTEC社製、DISMIC)を用いた。
そして、ろ液に、第一部材として所定量のポリアクリル酸を添加した(S7)。
そして、80℃にてポリアクリル酸を溶解し(S8)、さらに、超音波溶解した(S9)
以上のようにして、原料水溶液を調製した。この原料水溶液を、50℃で保温した(S10)
【0056】
次に、得られた原料水溶液を、第一電極を備えた透明基体からなる支持体に塗布して、第一電極を覆うようにハイブリッド結晶を析出させた。
まず、PET基材上に陽極としてITOが成膜されてなる支持体を予め用意し、所定の大きさにカットした(S10)。
レーザードライエッチングにより、支持体表面を洗浄した(S11)。
支持体を、回転ディスク上に設置した(S12)。支持体は、回転ディスク上にテープで固定した。
支持体表面を、例えばアセトンを用いて拭き洗浄した(S13)。
ディスクを2000rpmで回転させた(S14)。ディスクの回転には、例えば(株)アクティブ社製のACT−300Aを用いた。
そして、支持体表面を、IPA(イソプロピルアルコール)を用いて洗浄した(S15)。
その後、乾燥した(S16)。乾燥時間は15秒間とした。
そして、回転状態にある支持体上に、前記の発光塗料を供給し、スピンコート法により塗布した(S17)。塗布時間(塗料を供給した時間)は1秒間とした。
塗料の供給を停止してから、支持体を継続して回転状態とすることにより、塗料を乾燥させた(S18)。これにより、支持体上にハイブリッド結晶を析出させた。乾燥時間は30秒間とした。
そして、ディスクの回転を停止させ(S19)、サンプル(ハイブリッド結晶膜/第一電極/透明基体)を取り出した(S20)。
【0057】
(2)ハイブリッド結晶膜の確認
以上のようにして作製された結晶膜について、X線回折を行った。
その回折チャートを
図8に示す。
なお、
図8において、サンプルA(最下段)は、「ゲスト(Ru(bpy)
3Cl
2)のみ」を用いて作製した薄膜についてのチャートであり、サンプルB(下から2段目)は、「ホスト(K
2SO
4)のみ」を用いて作製した薄膜についてのチャートである。また、サンプルC(下から3段目)とサンプルD(最上段)は、「ゲスト」と「ホスト」とを用いて作製した、薄膜についてのチャートである。なお、サンプルCとサンプルDとは、溶液中に占めるホストとゲストの比率を変えて薄膜を作製した。
【0058】
上記チャートから、以下の点が明らかとなった。
(2a)AとBのチャートから、「ゲストのみ」からなる溶液と、「ホストのみ」からなる溶液と、を原料として作製した薄膜では、特定の2θにおいて回折ピークが観測されることから、これらの薄膜は、いずれも結晶質であることがわかる。
(2b)CとDのチャートから、「ホストとゲストとを混ぜた」溶液を原料として作製した薄膜についても、特定の2θにおいて回折ピークが観測される。これにより、いずれも結晶質であることがわかる。
(2c)CとDの回折ピークには、Aの回折ピーク(すなわち、ゲストが結晶で存在すること)と、Bの回折ピーク(すなわち、ホストが結晶で存在すること)とが重なって観測されている。
【0059】
したがって、CとDの薄膜中には、ゲストの結晶と、ホストの結晶と、2種類の結晶がそれぞれ独立して、共存していることがわかる。また、回折ピークが得られたこと自体は、この薄膜が、固体であることも意味する。
以上の結果より、「ゲスト」と「ホスト」とを用いて作製した、薄膜(本発明の蛍光発光体)は、ホスト物質をなす第一結晶と、ゲスト物質をなす第二結晶とを含む、固体のハイブリッド結晶であることが、確認された。
【0060】
(3)結晶膜の析出テスト
塗料中に添加されるポリアクリル酸の添加量を、K
2SO
4に対する重量比で、0(ゼロ)、0.6、1.9、3.5[%]と変更した塗料4種類を準備した。各塗料を用い、回転数2000rpmで成膜を行った。そして、得られた結晶膜の成膜性について評価した。
評価は、形状測定レーザマイクロスコープ(キーエンス社製、VK−X100)を用いて、結晶膜の表面粗さ(Ra)、(Rz)を測定した。また、膜の形状についても観察した。
その結果を表1に示す。また、膜表面の顕微鏡(レーザーマイクロスコープ)写真を
図9〜
図12にそれぞれ示す。
【0061】
【表1】
【0062】
表1から、以下の点が明らかとなった。
(3a)ポリアクリル酸を添加しなかった(0[%])場合、K
2SO
4の微結晶が荒く載っただけの膜であった。
(3b)ポリアクリル酸の添加量が0.6[%]の場合、結晶膜は電極の全面に形成されていたが、ピンホールが確認された。
(3c)添加量を1.9〜3.5[%]とした場合には、ピンホールがないK
2SO
4結晶膜が得られた。
このように、塗料中にポリアクリル酸を添加することにより、ポリアクリル酸はK
2SO
4(第一結晶)のバインダーになるとともに、塗料の粘度を調整することが分かった。その結果、ピンホールのない結晶膜を形成できることが確認された。
【0063】
(4)発光デバイス(直流)の作製と評価
K
2SO
4(ホスト)と、Ru(bpy)
3Cl
2(ゲスト)との仕込モル比を変えて、上述した方法と同様にして、ITO(陽極)を有する支持体上にハイブリッド結晶膜(発光体)を形成した。
PETシート上にAlを蒸着させたものを別途用意しておき、これを陰極としてハイブリッド結晶膜上に配することにより、直流型の発光デバイスを作製した。
ITO電極とAl電極との間に、直流電圧を印加し、発光するか否かを目視で確認した。その結果を表2にまとめて示す。表2の「発光状態」の欄において、○印はEL発光が確認されたことを、×印はEL発光が確認されなかったことを、それぞれ表す。
【0064】
【表2】
【0065】
表2から、以下の点が明らかとなった。
(4a)Ru(bpy)
3Cl
2のモル比を0.2としたサンプルでは、発光は確認されなかった。
(4b)Ru(bpy)
3Cl
2のモル比を2以上としたサンプルでは、オレンジ色の発光を確認した。発光したサンプルは。3Vから発光を確認した。
(4c)特に、Ru(bpy)
3Cl
2のモル比を2としたサンプルについては、陰極として機能する第二電極30(裏面電極)を、カーボンに代えて透明陽極(ITO)を用いても、発光を確認した。
【0066】
ホストのK
2SO
4についてカチオンを変えた、Na
2SO
4、Rb
2SO
4、Cs
2SO
4、を用い、上述した方法と同様にして、陽極(ITO)を有する支持体上にハイブリッド結晶膜(発光体)を形成した。
PETシート上にAlを蒸着させたものを別途用意しておき、これを陰極としてハイブリッド結晶膜上に配した。
ITO電極とAl電極との間に、直流電圧を印加し、発光するか否かを目視で確認した。その結果を表3にまとめて示す。表3の「発光状態」の欄において、○印はEL発光が確認されたことを、×印はEL発光が確認されなかったことを、それぞれ表す。
【0067】
【表3】
【0068】
表3から、以下の点が明らかとなった。
(4d)Na
2SO
4、Rb
2SO
4、Cs
2SO
4から選択される化合物(硫酸化合物)であれば、何れのホストにおいても、K
2SO
4と同様に、オレンジ色の発光が確認された。
ゆえに、本発明に係るハイブリッド結晶膜(発光体)は、ゲストをRu(bpy)
3Cl
2とした場合、ホストに依存せずEL発光することが分かった。
【0069】
(5)発光デバイス(交流)の作製と評価
まず、ニトロセルロースとチタン酸バリウムとを、重量比1:1で混合してビヒクルを調整した。PET基材上に陽極としてITOが形成されてなる支持体を用意し、この支持体上に、このビヒクルを塗布することにより、支持体上に耐電圧誘電体層を形成した。
次に、ホストとしてK
2SO
4と、ゲストとしてoABSAとを、イオン交換水に完全に溶解させた後、再結晶化することにより、結晶を得た。この結晶を乳鉢で粉砕した。
この粉砕された結晶と、ニトロセルロースとを重量比1:1で混合したものを耐電圧誘電体層上に塗布することにより、ハイブリッド結晶膜(発光体)を形成した。
PETシート上にITOを形成したものを別途用意しておき、これを陰極としてハイブリッド結晶膜上に配する(ハイブリッド結晶膜が上下からITO膜に挟み込まれる構成とする)ことにより、交流型の発光デバイスを作製した。
K
2SO
4と、oABSAとの仕込みモル比を、それぞれ変えてデバイスを作製した。
ITO両電極間に1500V、4000Hzの交流電圧を印加し、発光するか否かを目視で確認した。その結果を表4にまとめて示す。表4の「発光状態」の欄において、○印はEL発光が確認されたことを、×印はEL発光が確認されなかったことを、それぞれ表す。
【0070】
【表4】
【0071】
表4から、以下の点が明らかとなった。
(5a)K
2SO
4に対するoABSAの仕込モル比を、0.1以下とした場合、30以上とした場合、発光は確認されなかった。
(5b)K
2SO
4に対するoABSAの仕込モル比を、1以上10以下とした場合、青色の発光が確認された。
ゆえに、本発明に係るハイブリッド結晶膜(発光体)は、K
2SO
4からなるホストとoABSAからなるゲストの組合せにより、交流を印加して発光するデバイス用途に有効であることが分かった。