特許第6070857号(P6070857)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6070857ラテックス組成物およびその製造方法、並びに、複合材料の製造方法および導電性成形体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6070857
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】ラテックス組成物およびその製造方法、並びに、複合材料の製造方法および導電性成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/02 20060101AFI20170123BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20170123BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   C08L9/02
   C08K3/04
   H01B1/00 Z
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-543718(P2015-543718)
(86)(22)【出願日】2014年10月23日
(86)【国際出願番号】JP2014005390
(87)【国際公開番号】WO2015059936
(87)【国際公開日】20150430
【審査請求日】2016年3月25日
(31)【優先権主張番号】特願2013-220719(P2013-220719)
(32)【優先日】2013年10月24日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「低炭素社会を実現する革新的カーボンナノチューブ複合材料開発プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】重田 真宏
(72)【発明者】
【氏名】上島 貢
(72)【発明者】
【氏名】ホアン テ バン
【審査官】 上前 明梨
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5263463(JP,B2)
【文献】 国際公開第2014/097626(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/011655(WO,A1)
【文献】 特開平06−025495(JP,A)
【文献】 特開平04−339845(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/00
C08K 3/00−13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラヒドロフラン不溶分量が1質量%以上75質量%以下であるポリマーを含むラテックスと、
平均直径(Av)と直径分布(3σ)とが関係式:0.60>3σ/Av>0.20を満たすカーボンナノチューブと、
を含有し、
前記ポリマーが、アクリロニトリルとブタジエンとの共重合ゴムまたはその水素添加物である、ラテックス組成物。
【請求項2】
前記ポリマー100質量部当たり、前記カーボンナノチューブを10質量部以下の割合で含む、請求項1に記載のラテックス組成物。
【請求項3】
テトラヒドロフラン不溶分量が1質量%以上75質量%以下であるポリマーを含むラテックスに、平均直径(Av)と直径分布(3σ)とが関係式:0.60>3σ/Av>0.20を満たすカーボンナノチューブの分散液を配合する工程を含み、
前記ポリマーが、アクリロニトリルとブタジエンとの共重合ゴムまたはその水素添加物である、ラテックス組成物の製造方法。
【請求項4】
平均直径(Av)と直径分布(3σ)とが関係式:0.60>3σ/Av>0.20を満たすカーボンナノチューブを、キャビテーション効果が得られる分散処理によって溶媒に分散させ、前記カーボンナノチューブの分散液を得る工程を更に含む、請求項に記載のラテックス組成物の製造方法。
【請求項5】
前記分散処理が、超音波による分散処理、ジェットミルによる分散処理および高剪断撹拌による分散処理からなる群より選ばれる少なくとも一つの分散処理である、請求項に記載のラテックス組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載のラテックス組成物、或いは、請求項3〜5の何れかに記載のラテックス組成物の製造方法を用いて製造されたラテックス組成物を用いて複合材料を調製する工程を含む、複合材料の製造方法
【請求項7】
請求項に記載の複合材料の製造方法を用いて製造された複合材料を成形する工程を含む、導電性成形体の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラテックスとカーボンナノチューブとを含有するラテックス組成物およびその製造方法、並びに、当該ラテックス組成物を用いて得られる複合材料および導電性成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂等のポリマーにカーボンブラック等のカーボン材料を配合することによって、所望の導電性を付与した複合材料を得る方法が提案されている。ここで、近年では、各種デバイスの高性能化が求められており、複合材料の更なる高機能化の要求が高まっている。そこで、複合材料に優れた導電性、機械的特性を付与する方法として、従来のカーボン材料に替えてカーボンナノチューブを配合する技術が提案されている。
具体的には、例えば特許文献1では、ポリマーの機械的特性および導電性を向上させる目的で、ラテックスにカーボンナノチューブを配合する方法が提案されている。
【0003】
ところで、近年では、CVD法を用いたカーボンナノチューブの合成において原料ガスと共に水などの触媒賦活物質を触媒に接触させることにより触媒の活性および寿命を著しく増大させる方法(以下、「スーパーグロース法」という。)等、様々なカーボンナノチューブ合成方法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。そして、様々な性状を有するカーボンナノチューブが製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2006−517996号公報(国際公開第2004/072159号)
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kenji Hata et al, Water−Assisted Highly Efficient Synthesis of Impurity−Free Single−Walled Carbon Nanotubes, SCIENCE, 2004.11.19,VOl.306, p.1362−1364
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、カーボンナノチューブを配合した複合材料には、導電性や機械的特性などの性能を更に高めることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者らは、複合材料の性能(導電性、機械的特性など)を更に向上させることを目的とし、様々な性状を有するカーボンナノチューブおよびポリマーを使用して鋭意検討を行った。そして、本発明者らは、特定の性状を有するカーボンナノチューブを使用することにより、複合材料の導電性を高めることができること、および、当該特定の性状を有するカーボンナノチューブを使用した際の複合材料の導電性の向上効果が、組み合わされるポリマーの性状によって大きく異なることを新たに見出し、本発明を完成させた。
【0008】
かくして本発明によれば、テトラヒドロフラン不溶分量が1質量%以上75質量%以下であるポリマーを含むラテックスと、平均直径(Av)と直径分布(3σ)とが関係式:0.60>3σ/Av>0.20を満たすカーボンナノチューブとを含有するラテックス組成物が提供される。
なお、前記ラテックス組成物は、前記ポリマー100質量部当たり、前記カーボンナノチューブを10質量部以下の割合で含むことが好ましい。また、前記ポリマーは、共役ジエンゴムであることが好ましい。
【0009】
ここで、前記ラテックス組成物は、テトラヒドロフラン不溶分量が1質量%以上75質量%以下であるポリマーを含むラテックスに、平均直径(Av)と直径分布(3σ)とが関係式:0.60>3σ/Av>0.20を満たすカーボンナノチューブの分散液を配合して得られる。
そして、前記カーボンナノチューブの分散液は、平均直径(Av)と直径分布(3σ)とが関係式:0.60>3σ/Av>0.20を満たすカーボンナノチューブを、キャビテーション効果が得られる分散処理によって溶媒に分散させる工程を経て得られたものであるのが好ましい。更に、前記分散処理は、超音波による分散処理、ジェットミルによる分散処理および高剪断撹拌による分散処理からなる群より選ばれる少なくとも一つの分散処理であるのが好ましい。
【0010】
また、本発明によれば、上述したラテックス組成物を用いて得られる、カーボンナノチューブを含有する複合材料が提供される。
更に、本発明によれば、当該複合材料を成形してなる導電性成形体が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、導電性などの性能に優れる複合材料および導電性成形体を形成可能なラテックス組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、導電性などの性能に優れる複合材料および導電性成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。
本発明のラテックス組成物は、ラテックスとカーボンナノチューブとを含有しており、導電性に優れる複合材料および導電性成形体を製造するための原料として好適に用いることができる。
【0013】
(ラテックス組成物)
ここで、本発明のラテックス組成物は、テトラヒドロフラン不溶分量が1質量%以上75質量%以下であるポリマーを含むラテックスと、平均直径(Av)と直径分布(3σ)とが関係式:0.60>3σ/Av>0.20を満たすカーボンナノチューブとを含有する。そして、本発明のラテックス組成物は、特定のテトラヒドロフラン不溶分量を有するポリマーと、平均直径(Av)と直径分布(3σ)とが特定の関係式を満たすカーボンナノチューブとを併用しているので、当該ラテックス組成物を用いて形成した複合材料および導電性成形体の導電性を著しく高めることができる。
なお、ラテックス組成物は、ラテックスおよびカーボンナノチューブ以外に任意の添加剤を更に含有していてもよい。
【0014】
<ラテックス>
ラテックスに含まれる、テトラヒドロフラン不溶分量が1質量%以上75質量%以下であるポリマーは、テトラヒドロフラン不溶分量が上記範囲内であれば特に限定されず、天然ゴムおよび合成ゴムなどのゴムが挙げられる。そして、ゴムの具体例としては、天然ゴム、共役ジエンゴム、ブチルゴム、ウレタンゴム等が挙げられる。
これらの中でも、ポリマーとしては、共役ジエンゴムが好ましい。
【0015】
共役ジエンゴムは、一種類の共役ジエン単量体の単独重合体または二種類以上の共役ジエン単量体の共重合体、或いは、共役ジエン単量体とこれと共重合可能な単量体との共重合体である。
【0016】
共役ジエン単量体は、特に限定されず、その具体例としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンおよびクロロプレン等を挙げることができる。これらの共役ジエン単量体は、1種類を単独で使用してもよく、2種以上を組み合せて用いることもできる。上記のうち、特に1,3−ブタジエンまたはイソプレンが好ましく用いられる。
【0017】
共役ジエン単量体と共重合可能な単量体も、特に限定されず、その具体例としては、芳香族ビニル単量体、エチレン性不飽和ニトリル単量体、エチレン性不飽和酸単量体、エチレン性不飽和酸誘導体単量体、ビニル複素環化合物単量体、カルボン酸ビニルエステル単量体、ハロゲン化ビニル単量体、ビニルエーテル単量体、オレフィン単量体等が挙げられる。これらの共重合可能な単量体は、1種類を単独で使用してもよく、2種以上を組み合せて用いることもできる。上記のうち、芳香族ビニル単量体、エチレン性不飽和ニトリル単量体、エチレン性不飽和酸単量体およびエチレン性不飽和酸誘導体単量体が好適である。
【0018】
芳香族ビニル単量体の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、モノクロルスチレン、ジクロルスチレン、モノメチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン等を挙げることができる。
【0019】
エチレン性不飽和ニトリル単量体の具体例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、α−シアノエチルアクリロニトリル等を挙げることができる。
【0020】
エチレン性不飽和酸単量体の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和結合を有する一価カルボン酸;フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、ブテントリカルボン酸等のエチレン性不飽和結合を有する多価カルボン酸を挙げることができる。
【0021】
エチレン性不飽和酸誘導体単量体の具体例としては、エチレン性不飽和酸のエステル、無水物、アミド等を挙げることができる。
エチレン性不飽和酸エステル単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等を挙げることができる。
エチレン性不飽和酸無水物単量体の具体例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸等を挙げることができる。
また、エチレン性不飽和酸アミド単量体の具体例としては、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびそのナトリウム塩等を挙げることができる。
なお、本発明において、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」および/または「メタクリル」を意味する。
【0022】
ビニル複素環化合物単量体の具体例としては、ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン等を挙げることができる。
【0023】
カルボン酸ビニルエステル単量体の具体例としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、酢酸イソプロペニル、バーサチック酸ビニル等を挙げることができる。
【0024】
ハロゲン化ビニル単量体の具体例としては、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等を挙げることができる。
【0025】
ビニルエーテル単量体の具体例としては、メチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル等を挙げることができる。
【0026】
オレフィン単量体の具体例としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等を挙げることができる。
【0027】
そして、共役ジエンゴムの好適な具体例としては、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、芳香族ビニル単量体とブタジエンとの共重合ゴム、カルボキシ基を有する単量体(例えば、一価カルボン酸、多価カルボン酸など)と芳香族ビニル単量体とブタジエンとの共重合ゴム、芳香族ビニル単量体とイソプレンとの共重合ゴム、カルボキシ基を有する単量体と芳香族ビニル単量体とイソプレンとの共重合ゴム、アクリロニトリルとブタジエンとの共重合ゴム、カルボキシ基を有する単量体とアクリロニトリルとブタジエンとの共重合ゴム、アクリロニトリルとイソプレンとの共重合ゴム、カルボキシ基を有する単量体とアクリロニトリルとイソプレンとの共重合ゴム、アクリロニトリルとブタジエンとイソプレンとの共重合ゴム、カルボキシ基を有する単量体とアクリロニトリルとブタジエンとイソプレンとの共重合ゴム、芳香族ビニル単量体とブタジエンと芳香族ビニル単量体とのブロック共重合ゴム、芳香族ビニル単量体とイソプレンと芳香族ビニル単量体とのブロック共重合ゴム、これらの水素添加物を挙げることができる。
本発明においては、これらの中でも、芳香族ビニル単量体とブタジエンとの共重合ゴムおよびアクリロニトリルとブタジエンとの共重合体ゴムが好ましい。
【0028】
ここで、本発明において用いるラテックスを構成するポリマー(固形分)の重量平均分子量やガラス転移温度は、ラテックス組成物の用途に応じて任意に設計すれば良い。
【0029】
また、ラテックス中のポリマーの濃度は、特に限定されないが、10質量%以上74質量%以下であることが好ましく、20質量%以上70質量%以下であることがより好ましく、30質量%以上60質量%以下であることが特に好ましい。
ポリマーの濃度が低すぎると、ラテックスの粘度が低すぎて、ラテックスの貯蔵中にポリマー分が分離する恐れがある。逆にポリマーの濃度が高すぎると、ポリマー分が凝集してしまう恐れがある。
【0030】
ラテックスを構成するポリマーの製法は、特に限定されず、乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法等の従来公知の方法の何れを用いてもよい。中でも、ポリマーは乳化重合法で製造することが好ましい。乳化重合法で製造したポリマーは、そのままラテックスの調製に使用してもよく、一旦凝固して、精製等の工程を経た後、ラテックスの調製に使用してもよい。
勿論、溶液重合法や懸濁重合法で製造したポリマーを一旦固形ポリマーとして、これを溶媒に溶解または分散させ、エマルション状態としてから使用することも可能である。
【0031】
ラテックス中のポリマーのテトラヒドロフラン不溶分量は、1質量%以上75質量%以下である必要があり、ポリマーのテトラヒドロフラン不溶分量は、好ましくは2質量%以上70質量%以下、より好ましくは2質量%以上65質量%以下、更に好ましくは5質量%以上60質量%以下である。ポリマーのテトラヒドロフラン不溶分量が少なすぎると、後述する特定の性状を有するカーボンナノチューブと併用した際の導電性の向上効果が不十分になるおそれがある。逆に、テトラヒドロフラン不溶分量が多すぎると、カーボンナノチューブや他の添加剤の分散性が悪化し、複合材料および導電性成形体の加工性が低下する可能性がある。
【0032】
ここで、本発明において、「テトラヒドロフラン不溶分量」とは、ポリマー200mgをテトラヒドロフラン(THF)100mLに浸漬して25℃で48時間放置した後の不溶解成分の、THF浸漬前の全ポリマーに対する質量割合である。
そして、テトラヒドロフラン不溶分量の調整方法には特に制限がなく、(i)重合温度、単量体の種類および量などの選定によってポリマーの架橋度を調整する、(ii)反応抑制剤などによりテトラヒドロフラン不溶分の生成量を調整する、(iii)テトラヒドロフラン不溶分量の異なるポリマーをブレンドする、などの方法が挙げられる。
【0033】
<カーボンナノチューブ>
本発明に係るラテックス組成物が含有するカーボンナノチューブは、平均直径(Av)と直径分布(3σ)とが、関係式:0.60>3σ/Av>0.20を満たすことを必要とする。平均直径(Av)に対する直径分布(3σ)の比が0.20超0.60未満のカーボンナノチューブを、上述したテトラヒドロフラン不溶分量のポリマーと組み合わせることにより、カーボンナノチューブが少量であっても、優れた導電性を示す複合材料および導電性成形体を得ることができる。なお、ラテックス組成物を用いて得られる複合材料および導電性成形体の特性を更に向上させる観点からは、カーボンナノチューブは、関係式:0.60>3σ/Av>0.25を満たすことがより好ましく、関係式:0.60>3σ/Av>0.50を満たすことがさらに好ましい。
【0034】
なお、上述したカーボンナノチューブを上述したテトラヒドロフラン不溶分量のポリマーと組み合わせることにより優れた導電性を示す複合材料および導電性成形体を得ることができる理由は、明らかではないが、テトラヒドロフラン不溶分は複合材料および導電性成形体の製造時に上述したカーボンナノチューブと良好に混ざり合うことができないのに対し、テトラヒドロフランに可溶な成分は複合材料および導電性成形体の製造時に上述したカーボンナノチューブと良好に混ざり合うことができるためであると推察される。即ち、カーボンナノチューブが良好に混ざり合ったテトラヒドロフランに可溶な成分と、カーボンナノチューブと良好に混ざり合うことができないテトラヒドロフラン不溶分とが所定の比率で細かく混じり合うことにより、優れた導電性を示す複合材料および導電性成形体が得られると推察される。
【0035】
ここで、本発明において、「直径分布(3σ)」とは、カーボンナノチューブの直径の標本標準偏差(σ)に3を乗じたものである。そして、「平均直径(Av)」および「直径分布(3σ)」は、それぞれ透過型電子顕微鏡でカーボンナノチューブ100本の直径(外径)を測定して求めることができる。
なお、平均直径(Av)および直径分布(3σ)は、カーボンナノチューブの製造方法や製造条件を変更することにより調整してもよいし、異なる製法で得られたカーボンナノチューブを複数種類組み合わせることにより調整してもよい。
【0036】
ここで、カーボンナノチューブは、直径を横軸に、その頻度を縦軸に取ってプロットし、ガウシアンで近似した際に、正規分布を取ることが好ましい。異なる製法で得られたカーボンナノチューブなどを複数種類組み合わせた場合、正規分布を得ることは難しい。即ち、本発明においては、単独のカーボンナノチューブ、または、単独のカーボンナノチューブに、その分布に影響しない量の他のカーボンナノチューブを配合したものを用いるのが好ましい。
【0037】
カーボンナノチューブは、単層のものであっても、多層のものであってもよいが、ラテックス組成物を用いて製造した複合材料および導電性成形体の性能(例えば、導電性および機械的特性)を向上させる観点からは、単層から5層のものが好ましく、単層のものがより好ましい。
【0038】
また、カーボンナノチューブは、ラマン分光法を用いて評価した際に、Radial Breathing Mode(RBM)のピークを有することが好ましい。なお、三層以上の多層カーボンナノチューブのラマンスペクトルには、RBMが存在しない。
【0039】
カーボンナノチューブの平均直径(Av)は、複合材料および導電性成形体に高い導電性を付与する観点から、0.5nm以上であることが好ましく、1nm以上であることがより好ましく、15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましく、8nm以下であることが更に好ましい。
【0040】
また、カーボンナノチューブは、ラマンスペクトルにおけるDバンドピーク強度に対するGバンドピーク強度の比(G/D比)が1以上20以下であることが好ましい。G/D比が1以上20以下であれば、配合量が少量でも優れた導電性を付与することができる。
【0041】
更に、カーボンナノチューブの構造体の長さは、100μm以上5000μm以下であることが好ましい。長さが100μm以上5000μm以下であれば、配合量が少量でも優れた導電性を付与することができる。
【0042】
また、カーボンナノチューブの比表面積は、600m2/g以上であることが好ましく、カーボンナノチューブが主として未開口のものにあっては、比表面積は600m2/g以上であることが好ましく、カーボンナノチューブが主として開口したものにあっては、比表面積は1300m2/g以上であることがより好ましい。比表面積が600m2/g以上であれば、配合量が少量でも優れた導電性を付与することができる。
なお、カーボンナノチューブの比表面積は、BET法により窒素吸着比表面積として求めることができる。
【0043】
更に、カーボンナノチューブの重量密度は、0.002g/cm3以上0.2g/cm3以下であることがより好ましい。重量密度が0.2g/cm3以下であれば、カーボンナノチューブ同士の結びつきが弱くなるので、カーボンナノチューブを分散液中やラテックス組成物中で均質に分散させることが容易になる。つまり、重量密度を0.2g/cm3以下とすることで、均質な分散液およびラテックス組成物を得ることが容易となる。また重量密度が0.002g/cm3以上であれば、カーボンナノチューブの一体性を向上させ、バラけることを抑制できるため取り扱いが容易になる。
【0044】
なお、上述した性状を有するカーボンナノチューブとしては、例えば、前記非特許文献1、日本国特許第4,621,896号公報(欧州特許出願公開第1787955号)、および、日本国特許第4,811,712号公報(米国特許出願公開第2009/297846号)に記載されているスーパーグロース法により得られるカーボンナノチューブ(以下、「SGCNT」と称することがある。)が好ましい。
【0045】
ここで、スーパーグロース法とは、CVD法において、原料ガスと共に水などの触媒賦活物質を触媒に接触させることにより、触媒の活性および寿命を著しく増大させる方法である。
【0046】
そして、ラテックス組成物に配合するカーボンナノチューブの量は、ラテックスを構成するポリマー(固形分)100質量部に対して、通常0.01質量部以上15質量部以下であり、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.25質量部以上であり、また、好ましくは10質量部以下、より好ましくは7.5質量部以下である。カーボンナノチューブの量が少なすぎると、導電性が確保できない。逆にカーボンナノチューブの量が多すぎると、ラテックス組成物を用いて得られる複合材料の流動性が低下し、成形性が悪化する。
【0047】
<添加剤>
ラテックス組成物には、複合材料の成形性および導電性成形体の機械的強度確保などのため、任意に架橋剤を配合してもよい。また、ラテックス組成物には、複合材料および導電性成形体の特性の改良または維持のために、任意に、可塑剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、着色剤、発泡剤、難燃剤、滑剤、軟化剤、粘着付与剤、離型剤、防臭剤、香料等を配合してもよい。
なお、これらの添加剤は、ラテックス組成物に配合することなく、ラテックス組成物を用いて製造した複合材料に直接配合してもよい。また、添加剤は、一部をラテックス組成物に配合し、残部を複合材料に直接配合してもよい。
【0048】
ここで、必要に応じて配合される架橋剤は一般的なゴムの架橋剤として通常使用されるものであれば限定されない。代表的な架橋剤としては、硫黄系架橋剤または有機過酸化物架橋剤が挙げられ、硫黄系架橋剤が好ましい。
【0049】
硫黄系架橋剤としては、粉末硫黄、硫黄華、沈降性硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄および不溶性硫黄などの硫黄;塩化硫黄、二塩化硫黄、モルホリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド、ジベンゾチアジルジスルフィド、N,N’−ジチオ−ビス(ヘキサヒドロ−2H−アゼノピン−2)、含リンポリスルフィドおよび高分子多硫化物などの含硫黄化合物;テトラメチルチウラムジスルフィド、ジメチルジチオカルバミン酸セレン、2−(4’−モルホリノジチオ)ベンゾチアゾールなどの硫黄供与性化合物などが挙げられる。
なお、硫黄系架橋剤を用いる場合には、亜鉛華、ステアリン酸などの架橋助剤;グアニジン系、アルデヒド−アミン系、アルデヒド−アンモニア系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チオ尿素系などの架橋促進剤を併用することができる。
【0050】
有機過酸化物架橋剤としては、例えば、ジクミルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、パラメンタンヒドロペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、1,3−および1,4−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ジ−t−ブチルペルオキシ−3,3−トリメチルシクロヘキサン、4,4−ビス−(t−ブチル−ペルオキシ)−n−ブチルバレレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルペルオキシヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルペルオキシヘキシン−3、1,1−ジ−t−ブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、p−クロロベンゾイルペルオキシド、t−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルペルオキシベンゾエート等が挙げられる。
なお、有機過酸化物架橋剤を用いる場合には、架橋助剤としてトリメタクリル酸トリメチロールプロパン、ジビニルベンゼン、ジメタクリル酸エチレン、イソシアヌル酸トリアリルなどの多官能性化合物などを併用することができる。
【0051】
ここで、架橋剤の使用量に格別な制限はないが、ポリマー100質量部に対する架橋剤の使用量は、好ましくは0.1質量部以上10質量部以下、より好ましくは0.2質量部以上5質量部以下である。
また、硫黄系架橋剤と併用する架橋助剤および架橋促進剤の使用量は、特に限定されることなく、ポリマー100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上10質量部以下の範囲である。
更に、有機過酸化物架橋剤と併用する架橋助剤の使用量は、特に限定されることなく、ポリマー100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上20質量部以下の範囲である。
【0052】
また、必要に応じて配合される可塑剤は、ラテックス組成物に、水性エマルションとして加えて混合することが好ましい。可塑剤を水性エマルションとしてから配合すれば、ラテックス中のポリマーと、カーボンナノチューブと、可塑剤とがミクロレベルで均一に混合し、可塑剤のブリードが起こりにくくなり、特性に優れた複合材料が得られ易い。
なお、可塑剤の水性エマルションを調製する方法は、特に限定されることなく、可塑剤の0.5〜10質量%となる量の界面活性剤を含有する水媒体を強く撹拌しながら、可塑剤を添加して調製する方法が好ましい。界面活性剤としては、ロジン酸カリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアニオン界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステルなどのノニオン界面活性剤;ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライドなどのカチオン界面活性剤;等が挙げられる。なお、水性エマルション中の可塑剤の濃度は、5〜70質量%とすることが好ましい。
【0053】
(ラテックス組成物の製造方法)
上述したラテックスと上述したカーボンナノチューブとを混合し、ラテックス組成物を調製する方法に格別な制限はない。ラテックス組成物を調製する方法としては、例えば、(I)ラテックス中に、カーボンナノチューブの粉体を加え、分散処理により分散する方法、(II)ラテックスと、あらかじめ水などの溶媒中に分散させたカーボンナノチューブ分散液とを混合する方法、などが挙げられる。中でも、カーボンナノチューブの分散性を高める観点からは、上記(II)の方法が好ましい。
【0054】
ここで、上記(II)の方法において、カーボンナノチューブ分散液は、必要に応じて分散剤を溶解させた分散剤水溶液に上記カーボンナノチューブを加え、得られた混合物をキャビテーション効果が得られる分散方法で分散処理することにより得ることができる。なお、キャビテーション効果が得られる分散方法は、上記(I)の方法の分散処理にも用いることができる。
【0055】
カーボンナノチューブの分散に用いる分散剤としては、界面活性剤および多糖類が挙げられる。カーボンナノチューブの分散性の観点からは、界面活性剤がより好ましく、アニオン性界面活性剤がさらに好ましい。
【0056】
キャビテーション効果が得られる分散方法は、液体に高エネルギーを付与した際、水に生じた真空の気泡が破裂することにより生じる衝撃波を利用した分散方法である。当該分散方法を用いることにより、カーボンナノチューブの特性を損なうことなく、カーボンナノチューブを水中に分散させることが可能となる。キャビテーション効果が得られる分散方法を利用した分散処理の具体例としては、超音波による分散処理、ジェットミルによる分散処理および高剪断撹拌による分散処理が挙げられる。これらの分散処理は一つのみを行なってもよく、複数の分散処理を組み合わせて行なってもよい。これらの分散処理には、より具体的には、例えば超音波ホモジナイザー、ジェットミルおよび高剪断撹拌装置が好適に用いられる。これらの装置は従来公知のものを使用すればよい。
【0057】
ラテックスとカーボンナノチューブ分散液との混合方法については、特に制限がなく、ラテックスとカーボンナノチューブ分散液とが均一に混合される撹拌方法を用いればよい。
【0058】
(複合材料)
本発明の複合材料は、上述したラテックス組成物を用いて調製することができる。具体的には、複合材料は、例えば、上述したラテックス組成物をそのまま乾燥させることにより、或いは、上述したラテックス組成物を凝固させてクラムを生成させ、生成したクラムを乾燥させることにより、得られる。そして、上述したラテックス組成物を用いて調製した複合材料は、上述したポリマーとカーボンナノチューブとを含有しているので、導電性などの性能に優れている。
【0059】
ラテックス組成物の凝固方法は、特に限定されず、ラテックス組成物を水溶性の有機溶媒に加える方法、酸をラテックス組成物に加える方法、塩をラテックス組成物に加える方法、凝固剤を含む水溶液にラテックス組成物を添加して塩析させる方法が挙げられる。その中でも、凝固剤を含む水溶液にラテックス組成物を添加して塩析させる方法が好ましい。凝固剤としては、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、水酸化カルシウム、硫酸アルミニウムおよび水酸化アルミニウムなどが挙げられる。凝固剤の使用量は、ラテックスを構成するポリマー(固形分)100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上150質量部以下、特に好ましくは0.5質量部以上20質量部以下である。
【0060】
ここで、ラテックスを構成するポリマーが、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド等のカチオン性単量体単位を含有するものである場合には、ラテックス組成物を塩析する際に、希硫酸水溶液などを添加して、凝固剤水溶液のpHをラテックス組成物の等電点以下に制御することが好ましい。凝固剤水溶液のpHを制御することにより、ラテックスを構成するポリマーに含まれるカチオン性単量体単位が有する官能基のゼータ電位が上昇し、これにより、カーボンナノチューブの分散性が向上するとともに、凝固によって得られるクラムの粒径を大きなものとすることができる。クラムの粒径は、凝固、洗浄工程に続く振動スクリーンやスクイーザーでの脱水度、クラムの回収率、さらには乾燥工程での乾燥度に大きな影響を及ぼすものであるので、クラムの平均粒径は、0.5mm以上40mm以下であることが好ましい。
【0061】
クラムの洗浄、脱水および乾燥方法は、一般的なゴムの製造における洗浄、脱水および乾燥方法と同様である。具体的には、例えば、まず、網目状のフィルター、遠心分離機等を用いて、凝固によって得られたクラムと水とを分離させた後、洗浄し、得られたクラムをスクイーザー等で脱水する。次に、ゴムの製造に一般に用いられるバンドドライヤー、通気竪型乾燥機、単軸押出機、二軸押出機等により、所望の含水率になるまでクラムを乾燥させることにより、カーボンナノチューブとポリマーとを含む複合材料を得ることができる。なお、二軸押出機内で凝固と乾燥とを同時に行って複合材料を得てもよい。
【0062】
なお、複合材料は、ラテックス組成物(可塑剤、ラテックスを構成するポリマー以外の樹脂等の添加剤を含有していてもよい)を凝固させてクラムを生成させ、乾燥することにより得られた複合体に、必要に応じて老化防止剤、補強剤などの添加剤を更に添加した後、ロールやバンバリーミキサー等の混錬機で混錬することにより調製してもよい。
【0063】
(導電性成形体)
本発明の導電性成形体は、上述した複合材料を用いて調製することができる。ここで、複合材料を用いて成形体を得る方法としては、特に限定されることなく、所望の成形品形状に応じた成形機、例えば押出機、射出成形機、圧縮機、ロール機等により成形を行い、必要に応じて形状を固定化するために架橋する方法が挙げられる。予め成形した後に架橋しても、成形と架橋とを同時に行ってもよい。成形温度は、好ましくは10〜200℃、より好ましくは25〜120℃である。架橋温度は、好ましくは100〜200℃、より好ましくは130〜190℃、特に好ましくは140〜180℃であり、架橋時間は、好ましくは1分間〜5時間、より好ましくは2分間〜1時間である。
なお、成形物の形状、大きさなどによっては、表面が架橋していても、内部まで十分に架橋していない場合があるので、二次架橋を行ってもよい。
【0064】
そして、本発明の導電性成形体は、上述したポリマーおよびカーボンナノチューブを含有しているので、導電性などの性能に優れている。
【実施例】
【0065】
以下、本発明について、実施例および比較例を用いてより具体的に説明する。ただし本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
以下の実施例および比較例において、「部」または「%」は、特に断りがない限り、質量基準である。また、実施例および比較例において、表面抵抗率および体積導電率は以下のようにして測定した。
【0066】
〔表面抵抗率〕
得られた塗工膜を、直径が約40〜60mm、厚さが100〜500μmの薄膜円形状に成形した後、10mm×10mmの正方形状試験片を4個切り出し、測定サンプルとした。
そして、低抵抗率計(三菱化学アナリテック社製、製品名「ロレスタ(登録商標)−GPMCP−T610」)を用い、JIS K7194に準拠した方法で測定サンプルの表面抵抗率を以下のようにして測定した。なお、低抵抗率計の四端針プローブには、PSPプローブを選択した。
即ち、測定サンプルを絶縁ボードの上に固定し、測定サンプルの中心位置(縦5mm横5mmの位置)にプローブを押し当て、最大90Vの電圧をかけ表面抵抗率を測定した。4個の測定サンプル試験片の任意の箇所の表面抵抗率を50点測定し、その平均値を求めた。
〔体積導電率〕
得られた試験片450mgを、真空下において、温度120℃、圧力0.4MPa、加圧時間5分の条件で真空プレス成形し、直径が約40〜60mm、厚さが100〜500μmの薄膜円形状に成形した。その後、10mm×10mmの正方形状試験片を4個切り出し、測定サンプルとした。
そして、低抵抗率計(三菱化学アナリテック社製、製品名「ロレスタ(登録商標)−GPMCP−T610」)を用い、JIS K7194に準拠した方法で測定サンプルの体積導電率を以下のようにして測定した。なお、低抵抗率計の四端針プローブには、PSPプローブを選択した。
即ち、測定サンプルを絶縁ボードの上に固定し、測定サンプルの中心位置(縦5mm横5mmの位置)にプローブを押し当て、最大90Vの電圧をかけ導電率を測定した。4個の測定サンプル試験片の任意の箇所の導電率を50点測定し、その平均値を求めた。
【0067】
<製造例1>
特許4621896号公報に記載のスーパーグロース法を使用し、次の条件において、SGCNT−1を合成した。
−合成条件−
・炭素化合物:エチレン(供給速度50sccm)
・雰囲気ガス:ヘリウムと水素との混合ガス(供給速度1000sccm)
・圧力:1atm
・水蒸気添加量:300質量ppm
・反応温度:750℃
・反応時間:10分
・金属触媒:鉄薄膜(厚さ1nm)
・基板:シリコンウェハー
得られたSGCNT−1は、BET比表面積が1050m2/gであり、ラマン分光光度計での測定において、単層カーボンナノチューブに特長的な100〜300cm-1の低波数領域にラジアルブリージングモード(RBM)のスペクトルが観察された。また、透過型電子顕微鏡を用い、無作為に100本のSGCNT−1の直径を測定した結果、平均直径(Av)が3.3nm、直径分布(3σ)が1.9nm、(3σ/Av)が0.58であった。
【0068】
<製造例2>
1質量%ラウリル硫酸ナトリウム(花王製、製品名「エマール(登録商標)O」)水溶液300mLにSGCNT−1を30mg加え、ジェットミル(常光製、製品名「JN20」)を用いて、凝集体のないSGCNT−1分散液を得た。
<製造例3>
1質量%ラウリル硫酸ナトリウム(花王製、製品名「エマール(登録商標)O」)水溶液300mLにHiPco(登録商標)を30mg加えた以外は製造例2と同様の操作を行ない、凝集体のないHiPco−1分散液を得た。このHiPco(登録商標)は、NanoIntegris Inc.社製であり、BET比表面積が700m2/gである。また、透過型電子顕微鏡を用い、無作為に100本のHiPco(登録商標)の直径を測定した結果、平均直径(Av)が1.1nm、直径分布(3σ)が0.2nm、(3σ/Av)が0.18であった。
<製造例4>
1質量%ラウリル硫酸ナトリウム(花王製、製品名「エマール(登録商標)O」)水溶液300mLにNC7000を30mg加えた以外は製造例2と同様の操作を行ない、凝集体のないNC7000−1分散液を得た。このNC7000は、Nanocyl社製であり、BET比表面積が290m2/gである。また、透過型電子顕微鏡を用い、無作為に100本のNC7000の直径を測定した結果、平均直径(Av)が9.3nm、直径分布(3σ)が2.6nm、(3σ/Av)が0.28であった。
【0069】
<実施例1−1>
SGCNT−1分散液5.063gおよび0.5gのアクリロニトリル・ブタジエン系ラテックス(日本A&L社製、製品名「サイアテックス(登録商標)NA−20」;アクリロニトリル・ブタジエンゴム(ポリマー)のTHF不溶分量=70%)をポリマー100部に対して2部のカーボンナノチューブが含まれる比率で混合し、1時間撹拌することによりSGCNT−1/ゴムの混合溶液(ラテックス組成物)を得た。この混合溶液をガラスシャーレへ注ぎいれ、50℃で48時間、乾燥空気フロー環境中で保持することで水分を蒸発させて塗工膜(複合材料)を得た。表面抵抗率を測定したところ、83Ω/sq.であった。
<実施例1−2>
実施例1−1で用いたラテックスをアクリロニトリル・ブタジエン系ラテックス(日本ゼオン社製、製品名「Nipol(登録商標)Lx554」;アクリロニトリル・ブタジエンゴムのTHF不溶分量=60%)に変更した以外は実施例1−1と同様の操作を行い、塗工膜を得た。表面抵抗率を測定したところ、117Ω/sq.であった。
<実施例1−3>
実施例1−1で用いたラテックスをアクリロニトリル・ブタジエン系ラテックス(日本ゼオン社製、製品名「Nipol(登録商標)Lx553」;アクリロニトリル・ブタジエンゴムのTHF不溶分量=43%)に変更した以外は実施例1−1と同様の操作を行い、塗工膜を得た。表面抵抗率を測定したところ、134Ω/sq.であった。
<実施例1−4>
実施例1−1で用いたラテックスをアクリロニトリル・ブタジエン系ラテックス(日本ゼオン社製、製品名「Nipol(登録商標)Lx552」;アクリロニトリル・ブタジエンゴムのTHF不溶分量=27%)に変更した以外は実施例1−1と同様の操作を行い、塗工膜を得た。表面抵抗率を測定したところ、176Ω/sq.であった。
<比較例1>
実施例1−1で用いたラテックスをアクリロニトリル・ブタジエン系ラテックス(日本ゼオン社製、製品名「Nipol(登録商標)Lx551」;アクリロニトリル・ブタジエンゴムのTHF不溶分量=0%)に変更した以外は実施例1−1と同様の操作を行い、塗工膜を得た。表面抵抗率を測定したところ、504Ω/sq.であった。
【0070】
<実施例2−1>
ポリマー100部に対するカーボンナノチューブの量が1部となるようにSGCNT−1分散液2.521gおよびラテックス0.5gへ混合比を変更した以外は実施例1−1と同様の操作を行い、塗工膜を得た。表面抵抗率を測定したところ、2117Ω/sq.であった。
<実施例2−2>
ポリマー100部に対するカーボンナノチューブの量が1部となるようにラテックスとSGCNT−1分散液の混合比を実施例2−1と同様に変更した以外は実施例1−2と同様の操作を行い、塗工膜を得た。表面抵抗率を測定したところ、2476Ω/sq.であった。
<実施例2−3>
ポリマー100部に対するカーボンナノチューブの量が1部となるようにラテックスとSGCNT−1分散液の混合比を実施例2−1と同様に変更した以外は実施例1−3と同様の操作を行い、塗工膜を得た。表面抵抗率を測定したところ、2825Ω/sq.であった。
<実施例2−4>
ポリマー100部に対するカーボンナノチューブの量が1部となるようにラテックスとSGCNT−1分散液の混合比を実施例2−1と同様に変更した以外は実施例1−4と同様の操作を行い、塗工膜を得た。表面抵抗率を測定したところ、2959Ω/sq.であった。
<比較例2>
ポリマー100部に対するカーボンナノチューブの量が1部となるようにラテックスとSGCNT−1分散液の混合比を実施例2−1と同様に変更した以外は比較例1と同様の操作を行い、塗工膜を得た。表面抵抗率を測定したところ、8025Ω/sq.であった。
【0071】
<実施例3−1>
NC7000−1分散液12.5gおよび0.5gのアクリロニトリル・ブタジエン系ラテックス(日本A&L社製、製品名「サイアテックス(登録商標)NA−20」;アクリロニトリル・ブタジエンゴムのTHF不溶分量=70%)をポリマー100部に対して5部のカーボンナノチューブが含まれる比率で混合し、1時間撹拌することによりNC7000−1/ゴムの混合溶液を得た。この混合溶液をガラスシャーレへ注ぎいれ、50℃で48時間、乾燥空気フロー環境中で保持することで水分を蒸発させて塗工膜を得た。表面抵抗率を測定したところ、1136Ω/sq.であった。
<実施例3−2>
実施例3−1で用いたラテックスをアクリロニトリル・ブタジエン系ラテックス(日本ゼオン社製、製品名「Nipol(登録商標)Lx554」;アクリロニトリル・ブタジエンゴムのTHF不溶分量=60%)に変更した以外は実施例3−1と同様の操作を行い、塗工膜を得た。表面抵抗率を測定したところ、1351Ω/sq.であった。
<実施例3−3>
実施例3−1で用いたラテックスをアクリロニトリル・ブタジエン系ラテックス(日本ゼオン社製、製品名「Nipol(登録商標)Lx553」;アクリロニトリル・ブタジエンゴムのTHF不溶分量=43%)に変更した以外は実施例3−1と同様の操作を行い、塗工膜を得た。表面抵抗率を測定したところ、1587Ω/sq.であった。
<実施例3−4>
実施例3−1で用いたラテックスをアクリロニトリル・ブタジエン系ラテックス(日本ゼオン社製、製品名「Nipol(登録商標)Lx552」;アクリロニトリル・ブタジエンゴムのTHF不溶分量=27%)に変更した以外は実施例3−1と同様の操作を行い、塗工膜を得た。表面抵抗率を測定したところ、1876Ω/sq.であった。
<比較例3>
実施例3−1で用いたラテックスをアクリロニトリル・ブタジエン系ラテックス(日本ゼオン社製、製品名「Nipol(登録商標)Lx551」;アクリロニトリル・ブタジエンゴムのTHF不溶分量=0%)に変更した以外は実施例3−1と同様の操作を行い、塗工膜を得た。表面抵抗率を測定したところ、測定不能(測定限界107Ω/sq.以上)であった。
【0072】
<実施例4−1>
SGCNT−1分散液5.063gおよび0.5gのアクリロニトリル・ブタジエン系ラテックス(日本A&L社製、製品名「サイアテックス(登録商標)NA−20」;アクリロニトリル・ブタジエンゴムのTHF不溶分量=70%)をポリマー100部に対して2部のカーボンナノチューブが含まれる比率で混合し、1時間撹拌することによりSGCNT−1/ゴムの混合溶液を得た。この混合溶液を2−プロパノールへ注ぎいれて凝固させ、1時間撹拌し、ろ過にて凝固物を回収した。凝固物を40℃で12時間減圧乾燥して得られた試験片を用いて体積導電率を測定したところ、0.51943S/cmであった。
<実施例4−2>
実施例4−1で用いたラテックスをアクリロニトリル・ブタジエン系ラテックス(日本ゼオン社製、製品名「Nipol(登録商標)Lx554」;アクリロニトリル・ブタジエンゴムのTHF不溶分量=60%)に変更した以外は実施例4−1と同様の操作を行い、試験片を得た。体積導電率を測定したところ、0.42786S/cmであった。
<実施例4−3>
実施例4−1で用いたラテックスをアクリロニトリル・ブタジエン系ラテックス(日本ゼオン社製、製品名「Nipol(登録商標)Lx553」;アクリロニトリル・ブタジエンゴムのTHF不溶分量=43%)に変更した以外は実施例4−1と同様の操作を行い、試験片を得た。体積導電率を測定したところ、0.32582S/cmであった。
<実施例4−4>
実施例4−1で用いたラテックスをアクリロニトリル・ブタジエン系ラテックス(日本ゼオン社製、製品名「Nipol(登録商標)Lx552」;アクリロニトリル・ブタジエンゴムのTHF不溶分量=27%)に変更した以外は実施例4−1と同様の操作を行い、試験片を得た。体積導電率を測定したところ、0.26036S/cmであった。
<比較例4>
実施例4−1で用いたラテックスをアクリロニトリル・ブタジエン系ラテックス(日本ゼオン社製、製品名「Nipol(登録商標)Lx551」;アクリロニトリル・ブタジエンゴムのTHF不溶分量=0%)に変更した以外は実施例4−1と同様の操作を行い、試験片を得た。体積導電率を測定したところ、0.03214S/cmであった。
【0073】
<実施例5−1>
SGCNT−1分散液2.516gおよび0.5gのアクリロニトリル・ブタジエン系ラテックス(日本A&L社製、製品名「サイアテックス(登録商標)NA−20」;アクリロニトリル・ブタジエンゴムのTHF不溶分量=70%)をポリマー100部に対して1部のカーボンナノチューブが含まれる比率で混合し、1時間撹拌することによりSGCNT−1/ゴムの混合溶液を得た。この混合溶液を2−プロパノールへ注ぎいれて凝固させ、1時間撹拌し、ろ過にて凝固物を回収した。凝固物を40℃で12時間減圧乾燥して得られた試験片を用いて体積導電率を測定したところ、0.052428S/cmであった。
<実施例5−2>
実施例5−1で用いたラテックスをアクリロニトリル・ブタジエン系ラテックス(日本ゼオン社製、製品名「Nipol(登録商標)Lx554」;アクリロニトリル・ブタジエンゴムのTHF不溶分量=60%)に変更した以外は実施例5−1と同様の操作を行い、試験片を得た。体積導電率を測定したところ、0.048729S/cmであった。
<実施例5−3>
実施例5−1で用いたラテックスをアクリロニトリル・ブタジエン系ラテックス(日本ゼオン社製、製品名「Nipol(登録商標)Lx553」;アクリロニトリル・ブタジエンゴムのTHF不溶分量=43%)に変更した以外は実施例5−1と同様の操作を行い、試験片を得た。体積導電率を測定したところ、0.044414S/cmであった。
<実施例5−4>
実施例5−1で用いたラテックスをアクリロニトリル・ブタジエン系ラテックス(日本ゼオン社製、製品名「Nipol(登録商標)Lx552」;アクリロニトリル・ブタジエンゴムのTHF不溶分量=27%)に変更した以外は実施例5−1と同様の操作を行い、試験片を得た。体積導電率を測定したところ、0.021484S/cmであった。
<比較例5>
実施例5−1で用いたラテックスをアクリロニトリル・ブタジエン系ラテックス(日本ゼオン社製、製品名「Nipol(登録商標)Lx551」;アクリロニトリル・ブタジエンゴムのTHF不溶分量=0%)に変更した以外は実施例5−1と同様の操作を行い、試験片を得た。体積導電率を測定したところ、0.00041142S/cmであった。
【0074】
<比較例6−1>
HiPco−1分散液5.021gおよび0.5gのアクリロニトリル・ブタジエン系ラテックス(日本A&L社製、製品名「サイアテックス(登録商標)NA−20」;アクリロニトリル・ブタジエンゴムのTHF不溶分量=70%)をポリマー100部に対して2部のカーボンナノチューブが含まれる比率で混合し、1時間撹拌することによりHIPCO−1/ゴムの混合溶液を得た。この混合溶液をガラスシャーレへ注ぎいれ、50℃で48時間、乾燥空気フロー環境中で保持することで水分を蒸発させて塗工膜を得た。表面抵抗率を測定したところ、測定限界以上であった。
<比較例6−2>
比較例6−1で用いたラテックスをアクリロニトリル・ブタジエン系ラテックス(日本ゼオン社製、製品名「Nipol(登録商標)Lx554」;アクリロニトリル・ブタジエンゴムのTHF不溶分量=60%)に変更した以外は比較例6−1と同様の操作を行い、塗工膜を得た。表面抵抗率を測定したところ、測定限界以上であった。
<比較例6−3>
比較例6−1で用いたラテックスをアクリロニトリル・ブタジエン系ラテックス(日本ゼオン社製、製品名「Nipol(登録商標)Lx553」;アクリロニトリル・ブタジエンゴムのTHF不溶分量=43%)に変更した以外は比較例6−1と同様の操作を行い、塗工膜を得た。表面抵抗率を測定したところ、測定限界以上であった。
<比較例6−4>
比較例6−1で用いたラテックスをアクリロニトリル・ブタジエン系ラテックス(日本ゼオン社製、製品名「Nipol(登録商標)Lx552」;アクリロニトリル・ブタジエンゴムのTHF不溶分量=27%)に変更した以外は比較例6−1と同様の操作を行い、塗工膜を得た。表面抵抗率を測定したところ、測定限界以上であった。
<比較例6−5>
比較例6−1で用いたラテックスをアクリロニトリル・ブタジエン系ラテックス(日本ゼオン社製、製品名「Nipol(登録商標)Lx551」;アクリロニトリル・ブタジエンゴムのTHF不溶分量=0%)に変更した以外は比較例6−1と同様の操作を行い、塗工膜を得た。表面抵抗率を測定したところ、測定限界以上であった。
【0075】
この結果から、平均直径(Av)と直径分布(3σ)とが関係式:0.60>3σ/Av>0.20を満たすカーボンナノチューブの分散液と、テトラヒドロフラン不溶分量が1〜75質量%であるポリマーを含むラテックスとを併用することで、低抵抗値を示す複合材料および導電性成形体が得られることがわかる。