(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記基準幅設定ステップでは、前記ウェーハの前記改質層が形成されていない前記分割予定ラインに沿って前記レーザー光線を照射して前記クラックが伸長しない該改質層を形成し、該改質層の前記幅を前記赤外線カメラで撮像して測定し、該幅を基に前記基準幅を設定し、
前記改質層形成ステップでは、該基準幅設定ステップで照射した該レーザー光線と該焦点の位置を入射方向に変化させた該レーザー光線を該改質層に沿って照射し、該分割予定ラインに沿った改質層を該ウェーハの厚さ方向に複数形成することを特徴とする請求項1記載のウェーハの加工方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。本実施の形態に係るウェーハの加工方法は、保護部材配設ステップ(
図1参照)、保持ステップ(
図2参照)、基準幅設定ステップ、改質層形成ステップ(
図3参照)、クラック判定ステップ(
図4、
図5参照)を含む。
【0014】
保護部材配設ステップでは、ウェーハの表面側に保護部材を配設する。保持ステップでは、保護部材を介してウェーハをレーザー加工装置のチャックテーブルに吸引保持させる。基準幅設定ステップでは、後のクラック判定ステップにおいて判定の基準となる改質層の基準幅を設定する。
【0015】
改質層形成ステップでは、レーザー加工装置のレーザー加工ヘッドからウェーハの裏面側に向けてレーザー光線を照射し、ストリート(分割予定ライン)に沿う改質層を形成する。クラック判定ステップでは、レーザー加工装置の赤外線カメラで撮像された改質層の幅に基づいて改質層からウェーハの表面に向かうクラックの発生の有無を判定する。以下、本実施の形態に係るウェーハの加工方法について詳述する。
【0016】
図1(A)は、本実施の形態に係るウェーハの加工方法の対象となるウェーハの構成例を模式的に示す斜視図であり、
図1(B)は、保護部材配設ステップを模式的に示す斜視図である。
【0017】
図1(A)に示すように、本実施の形態の加工方法の対象となるウェーハ11は、円盤状の半導体ウェーハであり、中央のデバイス領域13と、デバイス領域13を囲む外周余剰領域15とを備えている。
【0018】
ウェーハ11の表面11a側のデバイス領域13は、格子状に配列されたストリート(分割予定ライン)17で複数の領域に区画されており、各領域にはIC等のデバイス19が形成されている。ウェーハ11の外周面11cは面取り加工されており、断面形状は円弧状になっている(
図3(A)参照)。
【0019】
本実施の形態の加工方法では、まず、このウェーハ11の表面11a側に保護部材を配設する保護部材配設ステップを実施する。
図1(B)に示すように、保護部材21は、ウェーハ11と同等の外径を有する円盤状のフィルムであり、表面21a側には接着性のある糊層が設けられている。
【0020】
ただし、保護部材21の構成はこれに限定されない。後述する保持ステップ以降のステップにおいてウェーハ11の表面11a側を適切に保護できる部材であれば、保護部材21として使用できる。例えば、ガラス基板、半導体基板、金属基板、樹脂基板等を保護部材21として用いても良い。
【0021】
保護部材配設ステップにおいては、上述したウェーハ11の表面11a側と保護部材21の表面21a側とを対面させるように、ウェーハ11と保護部材21とを位置合わせする。そして、ウェーハ11の表面11a側に保護部材21の表面21aを接触させることでウェーハ11に保護部材21を接着する。
【0022】
保護部材配設ステップの後には、ウェーハ11に貼着された保護部材21をレーザー加工装置のチャックテーブルに吸引保持させる保持ステップを実施する。
図2は、本実施の形態で用いられるレーザー加工装置の構成例を模式的に示す斜視図である。
図2に示すように、レーザー加工装置2は、各構成を支持する基台4を備えている。基台4は、直方体状の基部6と、基部6の後端において上方に延びる壁部8とを含む。
【0023】
基部6の上面には、保護部材21を介してウェーハ11を吸引保持するチャックテーブル10が配置されている。チャックテーブル10の上方には、ウェーハ11に向けてレーザー光線を照射するレーザー加工ヘッド12が設けられている。また、レーザー加工ヘッド12と隣接する位置には、赤外線カメラ14が設けられている。
【0024】
チャックテーブル10の下方には、チャックテーブル10を割り出し送り方向(Y軸方向)に移動させるY軸移動機構(割り出し送り機構)16が設けられている。Y軸移動機構16は、基部6の上面に固定されY軸方向に平行な一対のY軸ガイドレール18を備える。
【0025】
Y軸ガイドレール18には、Y軸移動テーブル20がスライド可能に設置されている。Y軸移動テーブル20の裏面側(下面側)には、ナット(不図示)が固定されており、このナットには、Y軸ガイドレール18と平行なY軸ボールネジ22が螺合されている。
【0026】
Y軸ボールネジ22の一端部には、Y軸パルスモータ24が連結されている。Y軸パルスモータ24でY軸ボールネジ22を回転させれば、Y軸移動テーブル20は、Y軸ガイドレール18に沿ってY軸方向に移動する。
【0027】
Y軸移動テーブル20の表面側(上面側)には、チャックテーブル10を加工送り方向(X軸方向)に移動させるX軸移動機構(加工送り機構)26が設けられている。X軸移動機構26は、Y軸移動テーブル20の上面に固定されX軸方向に平行な一対のX軸ガイドレール28を備える。
【0028】
X軸ガイドレール28には、X軸移動テーブル30がスライド可能に設置されている。X軸移動テーブル30の裏面側(下面側)には、ナット(不図示)が固定されており、このナットには、X軸ガイドレール28と平行なX軸ボールネジ32が螺合されている。
【0029】
X軸ボールネジ32の一端部には、X軸パルスモータ34が連結されている。X軸パルスモータ34でX軸ボールネジ32を回転させれば、X軸移動テーブル30は、X軸ガイドレール28に沿ってX軸方向に移動する。
【0030】
X軸移動テーブル30の表面側(上面側)には、支持台36が設けられている。支持台36の上部には、チャックテーブル10が配置されている。チャックテーブル10は、支持台36の下方に設けられた回転機構(不図示)と連結されており、Z軸の周りに回転する。
【0031】
チャックテーブル10の表面は、ウェーハ11に貼着された保護部材21の裏面21bを吸引保持する保持面10aとなっている。この保持面10aには、チャックテーブル10の内部に形成された流路(不図示)を通じて吸引源(不図示)の負圧が作用し、保護部材21を吸引する吸引力が発生する。
【0032】
壁部8の上部前面には、前方に向かって延びる支持アーム38が設けられており、この支持アーム38の先端部には、レーザー加工ヘッド12及び赤外線カメラ14が配置されている。
【0033】
レーザー加工ヘッド12は、レーザー発振器(不図示)で発振されるレーザー光線を、チャックテーブル10に保持されたウェーハ11の内部に集光させる集光器(不図示)を備えている。このレーザー加工ヘッド12は、ウェーハ11の内部に集光させるようにレーザー光線を照射して、多光子吸収による改質層を形成する。
【0034】
赤外線カメラ14は、ウェーハ11に吸収され難い赤外領域の光を検出する撮像素子を備え、ウェーハ11に形成された改質層を裏面11b側から撮像する。撮像された撮像画像は、記憶装置(不図示)に記憶され、必要に応じて制御装置(不図示)等で用いられる。
【0035】
保持ステップでは、上述したレーザー加工装置2のチャックテーブル10に、ウェーハ11に貼着された保護部材21を吸引させる。具体的には、まず、
図2に示すように、チャックテーブル10の保持面10aと保護部材21の裏面21b側とを対面させるように位置合わせした状態で、チャックテーブル10上にウェーハ11及び保護部材21を載置する。
【0036】
その後、チャックテーブル10の保持面10aに吸引源の負圧を作用させれば、保護部材21はチャックテーブル10で吸引される。これにより、ウェーハ11は保護部材21を介してチャックテーブル10に吸引保持される。
【0037】
保持ステップの後には、後のクラック判定ステップで用いられる改質層の基準幅をレーザー加工装置2に設定する基準幅設定ステップを実施する。基準幅は、例えば、3μm〜5μmの範囲に設定される。設定された基準幅は、レーザー加工装置2の記憶装置に記憶される。
【0038】
このように、改質層の基準幅を設定することで、後のクラック判定ステップにおいてクラックの発生の有無を判定できるようになる。なお、本実施の形態では、基準幅を4μmに設定する。ただし、本発明はこれに限定されず、基準幅は任意に設定できる。
【0039】
本発明者は、鋭意研究の結果、改質層からウェーハ11の表面11a側へと向かうクラックが発生するように改質層を形成すると、ウェーハ11を適切に分割できることを見出した。このような条件でウェーハ11を適切に分割できるのは、クラックの発生によって、ウェーハ11の分割が誘起されるためと考えられる。
【0040】
そして、上述のようなクラックが発生する条件では、クラックが発生しない条件と比較して改質層の幅が太く見えることを発見した。この現象は、クラックにおける光の散乱で、本来の改質層の幅よりも広い範囲で反射率(透過率)が変化するために生じると推察される。つまり、観察される改質層の幅に基づいてクラックの発生の有無を判定することで、改質層が適切な条件で形成されたか否かを確認できる。
【0041】
基準幅設定ステップの後には、ウェーハ11のストリート17に沿って改質層を形成する改質層形成ステップを実施する。
図3(A)は、改質層形成ステップを模式的に示す一部断面側面図であり、
図3(B)は、
図3(A)の一部を拡大して示す部分拡大図である。
【0042】
図3(A)及び
図3(B)に示すように、改質層形成ステップにおいては、まず、チャックテーブル10に保持されたウェーハ11の上方にレーザー加工ヘッド12を位置付ける。そして、チャックテーブル10とレーザー加工ヘッド12とを相対移動させながら、ウェーハ11にレーザビーム40を照射する。
【0043】
レーザビーム40は、例えば、YAG、YVO4等をレーザー媒質として発振され、ウェーハ11の裏面11b側に照射される。また、レーザビーム40は、チャックテーブル10とレーザー加工ヘッド12との相対移動により、ストリート17に沿って照射される。レーザビーム40の集光点(焦点)42は、ウェーハ11の内部に位置付けられる。
【0044】
ウェーハ11としてシリコンウェーハを用いる場合には、赤外領域の波長(例えば、1064nm)のレーザビーム40を用いることが好ましい。ウェーハ11に吸収され難い(ウェーハを透過し易い)このような波長のレーザビーム40を用いることで、ウェーハ11の内部に良好な改質層23を形成できる。全てのストリート17に沿って改質層23が形成されると、改質層形成ステップは終了する。
【0045】
改質層形成ステップの後には、改質層23からウェーハ11の表面11aに向かうクラックの発生の有無を判定するクラック判定ステップを実施する。
図4は、クラック判定ステップを模式的に示す一部断面側面図であり、
図5は、クラック判定ステップで撮像される撮像画像の例を模式的に示す画像図である。
【0046】
図4(A)及び
図4(B)に示すように、クラック判定ステップにおいては、ストリート17に沿って形成された改質層23の上方に赤外線カメラ14を位置付け、裏面11b側からウェーハ11を撮像する。撮像された撮像画像は、レーザー加工装置2の記憶装置に記憶される。
【0047】
赤外線カメラ14は、赤外領域の光を検出する撮像素子を備えているので、赤外線カメラ14でウェーハ11を撮像すると、ウェーハ11の内部の状態を確認できる。本実施の形態では、改質層形成ステップでウェーハ11の内部に改質層23を形成しているので、赤外線カメラ14で撮像された撮像画像には、改質層23が写り込む。
【0048】
図4(A)に示すように、適切な条件で改質層23を形成すると、改質層23とウェーハ11の表面11aとの間には、クラック25が発生する。この場合、赤外線カメラ14で撮像される撮像画像は、例えば、
図5(A)のようになる。
【0049】
一方、
図4(B)に示すように、適切ではない条件で改質層23を形成すると、改質層23とウェーハ11の表面11aとの間には、クラック25が発生しない。この場合、赤外線カメラ14で撮像される撮像画像は、例えば、
図5(B)のようになる。
【0050】
図5(A)及び
図5(B)の比較から分かるように、クラック25が発生する条件では、クラック25が発生しない条件と比較して改質層23の幅は太く見える。よって、改質層23の幅を、上述の基準幅設定ステップで設定した基準幅と比較することで、改質層23が適切な条件で形成されたか否かを確認できる。
【0051】
撮像画像中の改質層23の幅は、例えば、制御装置における画像処理等で検出できる。この場合、例えば、制御装置は、記憶装置に記憶された撮像画像を読み出し、撮像画像中の改質層23の輪郭を抽出することで、改質層23の幅を検出する。
【0052】
検出された改質層23の最大幅が基準幅以上の場合、制御装置は、改質層23とウェーハ11の表面11aとの間にクラック25が発生していると判定する。一方、検出された改質層23の最大幅が基準幅未満の場合、制御装置は、改質層23とウェーハ11の表面11aとの間にクラック25が発生していないと判定する。
【0053】
すなわち、本実施の形態では、検出された改質層23の最大幅が4μm以上の場合にクラック25が発生していると判定し、検出された改質層23の最大幅が4μm未満の場合にクラック25が発生していないと判定する。なお、ここでは、改質層23の最大幅を基準幅と比較しているが、本発明はこれに限定されない。例えば、改質層23の平均幅等を基準幅と比較しても良い。
【0054】
ウェーハ11の分割に適した良好な改質層23が形成される条件では、改質層23からウェーハ11の表面11aに向かうクラック25が発生する。よって、本実施の形態に係るウェーハの加工方法のように改質層形成ステップの後にクラック判定ステップを実施することで、改質層23の形成条件が適切であるか否かをウェーハ11の分割前に判定できる。
【0055】
なお、本発明は上記実施の形態の記載に限定されず、種々変更して実施可能である。例えば、上記実施の形態では、改質層の基準幅を任意の値に設定する例を示したが、本発明はこれに限定されない。適切な改質層の基準幅は、改質層が形成される深さや、ウェーハ11の材質等に応じて異なると考えられる。よって、改質層の基準幅を、実測された改質層の幅に基づいて設定しても良い。
【0056】
この場合、基準幅設定ステップにおいて、例えば、チャックテーブル10に保持されるウェーハ11のストリート17に沿って、クラック25が発生しないような条件でレーザー光線40を照射し、改質層23を形成する。そして、赤外線カメラ14でウェーハ11の裏面11b側を撮像して、この改質層23の幅を測定する。
【0057】
基準幅としては、例えば、測定された改質層23の幅より僅かに大きい値を設定することが好ましい。このように設定された改質層の基準幅は、実測された改質層23の幅に基づくので、クラック判定ステップにおける判定精度を十分に高めることができる。
【0058】
なお、この場合、後の改質層形成ステップでは、レーザー光線40の集光点(焦点)42の位置を入射方向に変化させて、基準幅設定ステップにおいて形成した改質層23とは異なる高さ位置に改質層23を形成する。つまり、この場合、ストリート17に沿う改質層23は、ウェーハ11の厚み方向に複数形成される。
【0059】
また、上記実施の形態では、改質層23の幅の検出、及びクラック25の発生の有無の判定を制御装置において実施する態様を例示しているが、本発明はこれに限定されない。改質層23の幅の検出、及びクラック25の発生の有無の判定は、作業者によって行われても良い。
【0060】
さらに、上記実施の形態では、改質層形成ステップにおいて全てのストリート17に沿う改質層23を形成した後に、クラック25の発生の有無を判定するクラック判定ステップを実施しているが、本発明はこれに限定されない。
【0061】
例えば、改質層形成ステップにおいて任意のストリート17に改質層23を形成した後、当該改質層23に対してクラック25の発生の有無を判定するクラック判定ステップを実施しても良い。
【0062】
対象のストリート17においてクラック25が発生していると判定された場合には、同じ条件で他のストリート17にも改質層23を形成する。一方、クラック25が発生していないと判定された場合には、条件を変更して改質層23を形成し直す。
【0063】
つまり、任意のストリート17に改質層23を形成する改質層形成ステップ(第1の改質層形成ステップ)を実施した後、クラック25の発生の有無を判定するクラック判定ステップを実施し、クラック25が発生していると判定された場合には、他のストリート17(残りのストリート17)に改質層23を形成する改質層形成ステップ(第2の改質層形成ステップ)を実施する。
【0064】
また、任意のストリート17に改質層23を形成する改質層形成ステップ(第1の改質層形成ステップ)を実施した後、クラック25の発生の有無を判定するクラック判定ステップを実施し、クラック25が発生していないと判定された場合には、既に改質層23が形成されている任意のストリート17を含むすべてのストリート17に異なる条件で改質層23を形成する改質層形成ステップ(第3の改質層形成ステップ)を実施する。
【0065】
言い換えれば、全ての改質層23を形成する前にクラック判定ステップを実施する。これにより、改質層23の形成条件が適切であるか否かを全ての改質層23を形成する前に判定できるので、適切でない改質層23の形成条件を早期に発見し、修正できる。
【0066】
その他、上記実施の形態に係る構成、方法などは、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。