特許第6071776号(P6071776)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本製粉株式会社の特許一覧

特許6071776解凍加熱時のレンジ焼けが起き難い冷凍米飯の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6071776
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】解凍加熱時のレンジ焼けが起き難い冷凍米飯の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20170123BHJP
【FI】
   A23L7/10 E
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-134656(P2013-134656)
(22)【出願日】2013年6月27日
(65)【公開番号】特開2015-8647(P2015-8647A)
(43)【公開日】2015年1月19日
【審査請求日】2015年11月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】日本製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130661
【弁理士】
【氏名又は名称】田所 義嗣
(72)【発明者】
【氏名】黒田 侑
【審査官】 濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−246466(JP,A)
【文献】 特開平07−147914(JP,A)
【文献】 特開2000−245367(JP,A)
【文献】 特開昭61−158755(JP,A)
【文献】 特開平01−307442(JP,A)
【文献】 特開平04−179451(JP,A)
【文献】 特開昭60−049754(JP,A)
【文献】 特開平08−089186(JP,A)
【文献】 特開平01−262762(JP,A)
【文献】 特開2000−116344(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
米を炊く場合に、ソルビトール100質量部に対するHLB15以上のデカグリセリン脂肪酸エステルの質量割合は乾物換算で8質量部以上35質量部以下、水の質量割合はデカグリセリン脂肪酸エステルとソルビトールと水の合計の29.0質量%以上61.0質量%以下、これらをよく混合し60℃以上70℃以下に温めた後、サラダ油の配合量が高油分乳化油脂組成物全体の70質量%を超え86質量%以下となるように攪拌しながらサラダ油を徐々に加え乳化した高油分乳化油脂組成物を炊飯前の全材料中0.1質量%以上5質量%以下添加することを特徴とする冷凍米飯の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍米飯の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子レンジなどで手軽に解凍加熱して食すことができる冷凍米飯が普及しているが、米飯は一般に米粒同士がくっつき易く成形や容器に充填する際の作業性が悪いのでほぐれ性を向上することが求められている。
例えば、(A)食用油脂及び/又は油溶性乳化剤(B)親水性乳化剤、及び(C)糖類及び/又は澱粉分解物を含有する水中油型乳化液を噴霧乾燥して得られる米飯用の結着防止剤であって、かつ水に乳化分散して得られる液の粒度分布のメディアン径が5〜120μmであることを特徴とする米飯用の結着防止剤が知られている(例えば特許文献1参照)。
また、30質量%水溶液における粘度が15mPa・s以上、10質量%水溶液における粘度が3000mPa・s以下である置換型加工澱粉の分解物を含有することを特徴とする米飯にほぐれ性、老化防止及び/又は保水性改良効果を付与する米飯の品質改良剤が知られている(例えば特許文献2参照)。
さらに、冷凍米飯を電子レンジで解凍加熱する場合、レンジ焼け(一部が焦げて焼き固まる)が起きるという問題がある。
電子レンジにより解凍加熱は消費者によって行われる場合が普通であるが常に適切な時間で解凍加熱されるわけではなく、消費者によっては過剰に解凍加熱する場合もあり、レンジ焼けがさらに起き易いという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−245367号公報
【特許文献2】特開2012−65645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、食感が良くほぐれ易く解凍加熱時のレンジ焼けが起き難い冷凍米飯の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は前記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、米を炊く場合に高油分乳化油脂組成物を特定量添加することで、食感が良くほぐれ易くレンジ焼けが起き難い冷凍米飯を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
従って、本発明は、米を炊く場合に、ソルビトール100質量部に対するHLB15以上のデカグリセリン脂肪酸エステルの質量割合は乾物換算で8質量部以上35質量部以下、水の質量割合はデカグリセリン脂肪酸エステルとソルビトールと水の合計の29.0質量%以上61.0質量%以下、これらをよく混合し60℃以上70℃以下に温めた後、サラダ油の配合量が高油分乳化油脂組成物全体の70質量%を超え86質量%以下となるように攪拌しながらサラダ油を徐々に加え乳化した高油分乳化油脂組成物を炊飯前の全材料中0.1質量%以上5質量%以下添加することを特徴とする冷凍米飯の製造方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の冷凍米飯の製造方法によれば、食感が良くほぐれ易く解凍加熱時のレンジ焼けが起き難い冷凍米飯を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、米を炊く場合に高油分乳化油脂組成物を添加するところに特徴があり、米飯の種類や炊飯方法などは従来の冷凍米飯と同様でよい。
例えば、米飯の種類として、炊き込みご飯、ピラフ、赤飯、パエリア、ドリア、チキンライス、チャーハンなどを挙げることができる。
製造工程は、例えば、炊飯後に20℃程度まで冷却して容器に充填し急速冷凍する工程が使用できる。
なお、本発明の冷凍米飯の解凍加熱は湯煎などではなく電子レンジによって行う。
【0008】
本発明で使用する高油分乳化油脂組成物は、特開2010−193730号公報にレトルトソース用高油分乳化油脂組成物として記載されている
具体的には、ソルビトール100質量部に対するHLB15以上のデカグリセリン脂肪酸エステルの質量割合は乾物換算で8質量部以上35質量部以下、水の質量割合はデカグリセリン脂肪酸エステルとソルビトールと水の合計の29.0質量%以上61.0質量%以下、これらをよく混合し60℃以上70℃以下に温めた後、サラダ油の配合量が高油分乳化油脂組成物全体の70質量%を超え86質量%以下となるように攪拌しながらサラダ油を徐々に加え乳化したものである。
【0009】
前記HLB15以上のデカグリセリン脂肪酸エステルは市販品を使用でき、各大手添加物メーカーから様々な種類の商品が発売されている。
本発明はデカグリセリン脂肪酸エステルの乳化作用を利用しているため、HLB15以上であれば、デカグリセリン脂肪酸エステルの脂肪酸の種類や脂肪酸とグリセロールのエステル結合数は特に限定されない。
【0010】
前記多価アルコールは、食用に使用できるものであれば特に限定されない。
例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マルチトール、キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、キシロース、アラビノース、マンノース、異性化糖、果糖、還元水飴などを挙げることができる。
これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0011】
前記油脂は、食用に使用できるものであれば特に限定されない。
例えば、サラダ油、菜種油、大豆油、サフラワー油、コーン油、ひまわり油、米油、パーム油、やし油、カカオ脂、オリーブ油、魚油、乳脂、牛脂などを挙げることができる。
これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0012】
本発明では、高油分乳化油脂組成物を炊飯前の全材料中0.1質量%以上5質量%以下添加する。
炊飯前の全材料とは、米、米以外の雑穀、水、野菜、きのこ、肉、魚等の具材、調味料、高油分乳化油脂組成物など炊飯時に使用する全ての材料をいう。
高油分乳化油脂組成物の使用量が0.1質量%未満では米全体に高油分乳化油脂組成物がコーティングされず十分な効果を得ることができず、5質量%を超えるとほぐれの状態が悪く、ねちゃついた食感となるので好ましくない。
高油分乳化油脂組成物は均等に添加するために、あらかじめ使用する水に加えて撹拌しておくことが好ましい。
本発明で使用する高油分乳化油脂組成物は油脂含有量が多く適度な乳化状態となっていることで、単に油脂を使用した場合や乳化剤を使用した場合に比べはるかに、食感、ほぐれ、解凍加熱時のレンジ焼けの改良効果が得られる。
なお、本発明において米を炊くとは、加水した米を容器中で加熱して食べられるように調理することをいい、蒸気を使用した方法、例えば、コンベヤ上の米を蒸気加熱する方法は含まれない。
本発明の米を炊く方法として、例えば、電気炊飯器、ガス釜、IH炊飯器などが使用できる。
【実施例】
【0013】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1〜3、比較例1〜4]炊き込みご飯
多価アルコール水溶液としてソルビトール水溶液210質量部質量部(70質量%水溶液に調整、乾物換算147質量部)とデカグリセリンステアリン酸エステル(HLB 15.0)125質量部(40質量%水溶液に調整、乾物換算50質量部)、水165質量部を鍋で60〜70℃に加温した後、カッターミキサー(フォアベルク社製、商品名:サーモミックス)に移し、攪拌(1000〜1500min−1)しながらサラダ油1340質量部を少しずつ添加し、高油分乳化油脂組成物を調製した。
水洗いした米300gに水600gを加え1時間浸漬し、昆布だし10g、醤油10g、 人参25g、舞茸25g、前記高油分乳化油脂組成物を表1に示す量加えて自動炊飯器で1時間炊飯を行った。
炊飯後、ご飯を釜に入った状態のまま真空冷却機で10分間、20℃になるまで冷却を行った後、前記冷却済みのご飯を釜から取り出し容器に140g詰めて−35℃の急速冷凍庫で50分間かけて凍結し冷凍炊き込みご飯を得た。
炊飯直後と真空冷却後の釜に入った状態のご飯を、杓文字を使ってパネラー10名により以下の評価基準でほぐれの評価を行った。
・ほぐれ
5点・・・粒同士がパラパラとしていてほぐれの具合が非常に良い
4点・・・粒同士がややパラパラとしていてほぐれの具合が良い
3点・・・普通
2点・・・かたまり部分があってほぐれ具合が悪い
1点・・・全体がかたまりほぐれ具合が非常に悪い
【0014】
1日保存した後、電子レンジ600W(商品名:12E−SX30−H、シャープ株式会社製)で2分30秒間レンジ加熱した場合と4分30秒間レンジ加熱した場合のレンジ焼け及び食感の評価をパネラー10名により以下の評価基準で行った。
また、比較例として実施例1において高油分乳化油脂組成物に代えて乳化剤(ショ糖ステアリン酸エステル)及びサラダ油を表1に示す量に変更して使用した以外は実施例1と同様にして評価を行った。
なお、4分30秒間の加熱は、過剰に解凍加熱した場合を想定し行った。
得られた結果(平均点)を表1に示す。
・レンジ焼け
5点・・・焦げは無く非常に良い
4点・・・焦げはほとんど無く良い
3点・・・普通
2点・・・焦げが一部で見られ悪い
1点・・・焦げた部分が多く非常に悪い
・食感
5点・・・粒感、弾力感があり非常に良い
4点・・・やや粒感、弾力感があり良い
3点・・・普通
2点・・・ややねちゃついて悪い
1点・・・ねちゃついて非常に悪い
【0015】
【表1】
【0016】
比較例2は、炊飯直後のほぐれは優れていたが、レンジ焼け、食感の項目が劣り満足できる結果ではなかった。
比較例4は、ほぐれ、レンジ焼け及び食感の項目が劣り満足できる結果ではなかった。
【0017】
[実施例4〜6、比較例5〜8]ドリア
多価アルコール水溶液としてソルビトール水溶液210質量部質量部(70質量%水溶液に調整、乾物換算147質量部)とデカグリセリンステアリン酸エステル(HLB 15.0)125質量部(40質量%水溶液に調整、乾物換算50質量部)、水165質量部を鍋で60〜70℃に加温した後、カッターミキサー(フォアベルク社製、商品名:サーモミックス)に移し、攪拌(1000〜1500min−1)しながらサラダ油1340質量部を少しずつ添加し、高油分乳化油脂組成物を調製した。
水洗いした米400gに水590gを加え1時間浸漬し、塩4g、コンソメ6g、前記高油分乳化油脂組成物を表1に示す量加えて自動炊飯器で1時間炊飯を行った。
炊飯後、ご飯を釜に入った状態のまま真空冷却機で10分間、20℃になるまで冷却を行った後、前記冷却済みのご飯を釜から取り出し容器に80g詰め、予め作成しておいたクリームソースを90g、チーズ5g、海老10gを乗せて−35℃の急速冷凍庫で50分間かけて凍結し冷凍ドリアを得た。
炊飯直後と真空冷却後の釜に入った状態のご飯を、杓文字を使ってパネラー10名により実施例1と同様にして評価を行った。
【0018】
1日保存した後、電子レンジ600W(商品名:12E−SX30−H、シャープ株式会社製)で2分30秒間レンジ加熱した場合と4分30秒間レンジ加熱した場合のレンジ焼け及び食感の評価を実施例1と同様にして行った。
4分30秒間の加熱は、過剰に解凍加熱した場合を想定して行っている。
また、比較例として実施例4において高油分乳化油脂組成物に代えて乳化剤(ショ糖ステアリン酸エステル)及びサラダ油を表2に示す量に変更して使用した以外は実施例1と同様にして評価を行った。
得られた結果(平均点)を表2に示す。
【0019】
【表2】
【0020】
比較例6は、炊飯直後のほぐれは優れていたが、レンジ焼け及び食感の項目が劣り満足できる結果ではなかった。
比較例8は、ほぐれ、レンジ焼け及び食感の項目が劣り満足できる結果ではなかった