(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記点着用領域が、支持体フィルムに設けられた貫通孔と、該貫通孔を塞ぐ分離膜とを有して構成され、該貫通孔は、該点着用領域の外周形状を定める孔であり、該分離膜は、試料液中の液体成分だけを透過させ得る多孔性の薄膜である、請求項1記載の濃度測定装置。
滴下される試料液の色が複数存在し、上記光照射装置が、該複数の試料液のそれぞれの色に応じて、それぞれの色素に吸収される波長を持った照射光を発することができるように構成されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の濃度測定装置。
試料液が、当該濃度測定装置に対して濃度測定のキャリブレーションを行うための標準濃度試液であり、該標準濃度試液の色が青色であって、上記照射光が赤色の光である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の濃度測定装置。
【背景技術】
【0002】
血液を、「点着用領域」と呼ばれる試料液受入れ用の微小な領域に1滴供給するだけで、ブドウ糖(グルコース)などの血中含有成分の濃度を、酵素電極法に基いた電極式センサーによって測定し得る濃度測定装置が知られている。該点着用領域は、使用者が血液等の試料液を滴下するための目標領域であり、該濃度測定装置にとっては、試料液の受入れ口でもある。
従来公知の濃度測定装置(例えば、意匠登録第1222931号公報「液体含有成分濃度計」など)では、通常、装置のボディ(筐体)の上面に筐体開口部が設けられ、該筐体開口部内の中央に試料液を受け入れるための点着用領域が位置している。該点着用領域は、直径3mm〜4mm程度の微小な円形の領域である。採取した血液を該点着用領域に1滴(通常、5〜20μL(マイクロリットル)程度)滴下し、測定開始スイッチを入れると、該血液中の目的の含有成分の濃度が、装置内部の電極式センサー(酵素電極などとも呼ばれる)によって測定される。
【0003】
図7は、上記濃度測定装置の点着用領域に血液が滴下され、電極式センサーによって成分濃度が測定される様子を例示した断面図である。
図7(a)に示すように、濃度測定装置の筐体100の所定位置には、筐体開口部110が設けられている。筐体開口部110の直下には、点着用領域が所定の間隔で設けられた帯状のフィルム120が配置されており、使用者が外部から筐体開口部内を見ると、該フィルムの主面が見える。該フィルム120は、送出しロール(図示せず)から巻取りロール(図示せず)へと間欠的に定量だけ送られ、測定毎に筐体開口部11の中央に新しい点着用領域を位置させるように構成されている。該フィルム120(送出しロールと巻取りロールを含むフィルム全体)は、交換可能なカートリッジとして設けられている。
該フィルム120は、上層の支持体フィルム121と、下層の血球分離膜122とを有してなる2層構造となっている。血球分離膜122は、血漿だけが透過し得る微細な孔を多数有してなる一種のフィルター膜である。
支持体フィルム121には、長手方向(送り方向)に所定の間隔を置いて、点着用領域の開口となる口径3〜4mm程度の貫通孔130が設けられており、各貫通孔の底には血球分離膜122が露出している。この貫通孔130と内部底面の血球分離膜122とによって点着用領域が構成され、貫通孔内に血液が滴下されると、血液中の血漿が血球分離膜を透過しフィルム下面へと滲み出すようになっている。
【0004】
図7(a)に示すように、点着用領域である貫通孔130に、注射筒やマイクロピペット200などから試料の血液X10が滴下され、測定開始スイッチが入ると、
図7(b)に示すように、帯状のフィルム120は所定量だけ水平に送られて停止する。次いで、貫通孔130の下方からは、電極式センサー140が上昇し、その頂部面(好ましい態様としては球面状に突起している)が血球分離膜122の下面(血漿が滲み出している)に接触し、該電極式センサー140の頂部面に血漿が接触することになる。
図7では、説明のために、貫通孔と電極式センサーの大小関係や各層の層厚の比率を無視し、構造を分かりやすく誇張して描いている。
【0005】
上記電極式センサー140による濃度測定の原理の概略は、酵素電極法の一種である過酸化水素電極法に基づいた血中のブドウ糖の濃度測定の例では、次のとおりである。
(あ)血球分離膜121を透過した血漿が、電極式センサー140の頂部に接触する。
(い)血漿中に含まれるブドウ糖が、電極式センサー140の表層として設けられたキャップ膜141を通過する。キャップ膜141は、3層構造(表層の拡散制限膜、中層のブドウ糖酸化酵素固定化膜、下層の過酸化水素選択透過膜)となっており、該センサーの本体である過酸化水素電極142の上面を覆っている。
(う)ブドウ糖がキャップ膜141を通過する際に、キャップ膜中層での酵素の触媒作用によって分解され、グルコン酸と過酸化水素が生じ、過酸化水素がキャップ膜下層の過酸化水素選択透過膜を透過して過酸化水素電極に到達する。過酸化水素電極142は、同心状の円柱状構造を有し、中心部には作用電極(陽極、Pt)が設けられ、その外側には絶縁層を介して参照電極(AgCl)が設けられ、その外側には絶縁層を介して対電極(陰極、Ag)が設けられている。
(え)過酸化水素が、過酸化水素電極142の表面で分解され電流として検出される。この電流の微分波形のピーク値はブドウ糖濃度と相関を持つ。よって、電流の微分値から試料中のブドウ糖濃度が算出され得る。
電極式センサー(酵素電極)については、例えば、特許文献1〜3などにも、詳細に説明されている。また、上記フィルムを交換可能なカートリッジとして設ける機構については、例えば、特許文献4などにも、詳細に説明されている。
【0006】
また、上記のような濃度測定装置では、例えば、ブドウ糖を測定対象とする場合には、既知濃度のブドウ糖水溶液(標準濃度試液)をキャリブレーション(較正)用の試料液として用い、初期の感度調整や定期的な感度修正のために、該標準濃度試液を点着用領域に滴下し、該濃度測定装置の表示値が適正であるように調整することが推奨されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような濃度測定装置は、注射筒やマイクロピペットなどから一滴の試料液を受入れるだけで、目的とする成分の濃度を測定することが可能である。
しかしながら、本発明者等が、上記のような濃度測定装置の操作性を詳細に検討したところ、一滴という微量な試料液に起因して、次のような問題が存在していることがわかった。
該問題とは、推奨される適量の血液を点着用領域に滴下しかつ該点着用領域に露出した血球分離膜を全面的に試料液で覆うという点着操作が、操作者によってばらつき、例えば、
図8に示すように、フィルム120の貫通孔130内の血球分離膜122の一部が試料液X10によって覆われない場合があるという問題である。
このような問題は、血液の滴下のみならず、上記標準濃度試液を試料液として滴下し、定期的にキャリブレーションを行う場合も同様である。
血球分離膜が試料液(血液や標準濃度試液などの滴下される液体)によって十分に覆われないと、血球分離膜の裏面に透過する液体(電極式センサーの分析対象となる液体)の量が十分ではなくなり、また、電極式センサーのセンサーヘッド部の一部の領域が分析対象となる液体に接触しなくなり、想定するブドウ糖量を反応させることができないなどの問題が生じる。
【0009】
上記のような滴下不良の問題を認識した上で、
図8のように点着用領域を拡大して見た場合には、点着用領域のうちの試料液で覆われていない領域(未被覆領域)を見つけ出すことは容易であるように感じられる。
しかしながら、実際の滴下操作では、点着用領域の貫通孔の口径は4mm程度と小さいので、目視だけでは、微細な未被覆領域の有無を判断することは容易ではない。また、滴下された血液は、粘度が高く、側方へも膨れながら盛り上がっているので、装置の上方から筐体開口内を見るだけでは、滴下された血液の基部にある微細な未被覆領域を見つけ難い場合もある。
以上のような問題は、酵素電極法などの測定原理や、点着用領域の構造にかかわらず、微小な点着用領域に試料液を滴下(点着)する構成となっている、あらゆる測定装置に同様に生じる問題である。
【0010】
本発明の目的は、上記の問題を抑制し、点着用領域に対して試料液を滴下したときの未被覆領域の有無を、目視によってより容易に判断し得る機能を濃度測定装置に付与することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、点着用領域に滴下される試料液(血液や調整用の試液など)の色素(色を決定する物質)に吸収される波長の光を、点着用領域内に露出した血球分離膜の裏面側から照射すれば、滴下された液滴は該光を吸収して暗いままでありながら、未被覆領域だけが明るく輝き、両者の明暗の差異が顕著に際立つので、目視によって未被覆領域の存在をより容易に判断し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明の濃度測定装置は、以下の構成を有するものである。
〔1〕試料液を滴下するための点着用領域を有し、該点着用領域に滴下された試料液中の目的成分の濃度を測定し得るよう構成された濃度測定装置であって、
前記点着用領域の下側には、滴下される試料液の色素に吸収される波長を持った照射光を発する光照射装置が設けられ、該光照射装置は、該照射光が前記点着用領域を通過するように配置され、該光照射装置の配置によって、前記点着用領域に滴下された試料液を該点着用領域の下側から照射光で照らすことが可能な構成となっている、
前記濃度測定装置。
〔2〕上記点着用領域が、支持体フィルムに設けられた貫通孔と、該貫通孔を塞ぐ分離膜とを有して構成され、該貫通孔は、該点着用領域の外周形状を定める孔であり、該分離膜は、試料液中の液体成分だけを透過させ得る多孔性の薄膜である、上記〔1〕記載の濃度測定装置。
〔3〕上記点着用領域に滴下された試料液中の目的成分の濃度を、酵素電極法に基づいて測定するように構成されている、上記〔1〕または〔2〕記載の濃度測定装置。
〔4〕滴下される試料液の色が複数存在し、上記光照射装置が、該複数の試料液のそれぞれの色に応じて、それぞれの色素に吸収される波長を持った照射光を発することができるように構成されている、上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の濃度測定装置。
〔5〕試料液が、血液、または、血液に調製が加えられた赤色を呈する液体であって、上記照射光が緑色の光である、上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の濃度測定装置。
〔6〕試料液が、当該濃度測定装置に対して濃度測定のキャリブレーションを行うための標準濃度試液であり、該標準濃度試液の色が青色であって、上記照射光が赤色の光である、上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の濃度測定装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、点着用領域を裏側から光で照らすという従来には無い構成によって、先ず、微小な点着用領域を周囲のフィルムに対して際立たせている。また、この点着用領域の裏側からの光照射によって、該領域のうち、滴下された試料液によって覆われた領域と、覆われていない領域との差異が明確になっている。
さらに、本発明では、特に重要な特徴として、照射光の波長を、試料液の色素に吸収される波長に限定している。この波長の限定によって、
図1(b)に示すように、点着用領域に滴下された試料液X1は、裏側からの照射光L1を吸収して暗いままでありながら、試料液に覆われていない領域(未被覆領域)eだけは該照射光L1によって明るく輝き、試料液X1と未被覆領域eとの明暗の差異が顕著に際立つという、単なるバックライトではない格別なる作用効果が得られる。これによって、未被覆領域eが微小であっても、目視によって容易に識別できる。
【0014】
本発明でいう色素とは、試料液の色を決定する物質である。例えば、血液、または、血液に調製が加えられた赤色を呈する液体の場合、ヘモグロビン中のヘム(酸素と結合し赤色を呈する)が赤色を決定する物質であり、その場合の色素である。また、後述するように、当該測定装置のキャリブレーションを行うための標準濃度試液には、青色に着色するための顔料が添加されるが、その場合は、顔料の青色を決定付けている物質がその場合の色素である。顔料が色素となる物質だけからなるものである場合、顔料の物質と色素は同義である。血液以外の試料液や、染料などの種々の着色料の場合も同様であり、その材料の色を決定する物質が色素である。
試料液中に複数の色素が含まれている場合には、それらの色素のなかから1以上の適当なものを選択し、その色素に吸収される波長の照射光を決定すればよい。即ち、上記した作用効果〔試料液が裏側からの照射光を吸収して暗いままでありながら、未被覆領域だけは該照射光によって明るく輝き、試料液と未被覆領域との明暗の差異が顕著に際立つという、単なるバックライトではない格別なる作用効果〕が結果として得られるように、かつ、操作者にとってより明確に感じ取ることができる照射光であるように、色素と照射光の波長を選択すればよい。照射光は単色光またはそれに近い色の光であることが好ましいが、上記作用効果が得られる範囲内であれば、色素に応じて適当な幅の波長域を持った光や複数のピーク波長を持った光であってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施例に沿って詳細に説明する。
本発明の本発明の濃度測定装置(以下、当該装置ともいう)は、
図1(a)に示すように、試料液を滴下するための点着用領域Eを有し、該点着用領域Eに滴下された試料液(
図1(b)のX1)の目的成分の濃度を測定し得るよう構成された濃度測定装置である。
【0017】
点着用領域Eの構造は、特に限定はされないが、従来の濃度測定装置のように、支持体フィルムに設けられた貫通孔と、該貫通孔を塞ぐ分離膜とを有する構造が好ましいものとして挙げられる。この場合、該貫通孔は、該点着用領域の外周形状を定める孔であり、該分離膜は、試料液中の液体成分だけを透過させ得る多孔性の薄膜である。
また、当該装置の濃度測定の原理は、特に限定はされないが、従来の濃度測定装置のように、酵素電極を備え、酵素電極法に基づいた測定が好ましい原理として挙げられる。
また、本発明において、「試料液中の目的成分の濃度を測定する」とは、試料液に含まれる目的成分の量や割合を測定することのみならず、目的成分の有無や、目的成分が基準値を満たすか否かを単純に測定することをも含む操作である。
【0018】
当該装置が濃度測定の対象とすべき試料液は、特に限定はされないが、血液、血液に試薬や調製が加えられた液体、当該装置のキャリブレーションに用いるための標準濃度試液などが代表的なものとして挙げられる。とりわけ、1滴の血液(全血)から目的とする含有成分(目的成分)の濃度を測定することは、診断や治療のためには重要である。また、当該装置自体の維持管理のためには、定期的に標準濃度試液を点着し、較正を行うことが重要である。
【0019】
試料液が血液(または、血液に試薬や調製が加えられた液体)である場合、濃度を測定すべき目的成分としては、ブドウ糖(グルコース)、尿酸、乳酸、コレステロール、などが挙げられる。これら濃度を測定すべき目的成分に応じて、酵素電極法を実施するための電極式センサーを選択すればよい。
血液のブドウ糖濃度(所謂、血糖値)を測定するための電極式センサーの構成については、
図7などを用いて背景技術の説明で述べたとおりである。
また、当該装置のキャリブレーションのための標準濃度試液も、前記の濃度を測定すべき目的成分に応じて適宜選択すればよい。血液のブドウ糖濃度を測定対象とする場合には、キャリブレーションのために、既知の濃度(例えば、150mg/dLなど)のブドウ糖水溶液が標準濃度試液として用いられる。このブドウ糖水溶液は、「グルコース標準液」などの名称で市販されており、通常、血液との識別性を高めるために、顔料としてフタロシアニン青が添加され青色に着色されている。
この顔料として用いられるフタロシアニン青が、この場合には、標準濃度試液における青色の色素である。
【0020】
当該装置全体の外観は、
図2(a)に好ましい一例として示したとおりであるが、これに限定はされず、意匠登録第1222931号公報などに示された公知のデザインであってもよいし、よりコンパクトなものであっても、検査室に据え付けられる多機能で大掛りな装置であってもよい。
図1(a)に示すように、点着用領域Eの好ましい態様では、不透明な支持体フィルム1aに設けられた貫通孔2と、該貫通孔を塞ぐ分離膜1bとを有して構成される。該点着用領域の詳細やより好ましい態様については後述する。
本発明では、
図1(a)に示すように、点着用領域Eの下方(図の例では、分離膜1bの下方)に光照射装置S1が設けられていることが重要である。該光照射装置は、該照射光L1が前記点着用領域Eを通過するように配置されており、それによって、
図1(a)に示すように、点着用領域Eに滴下された試料液X1を該点着用領域Eを通して下側から照らすことが可能な構成となっている。光照射装置S1は、必ずしも点着用領域Eの下方に固定される必要はなく、少なくとも点着時には点着用領域Eの下方に位置し、照射可能であればよい。
点着用領域Eの好ましい態様では、
図1(a)に示すように、該光照射装置S1から発せられる照射光L1は、分離膜1bを透過し貫通孔2を通過する。
ここでより重要な点は、該照射光L1が、滴下される試料液X1の色素に吸収される波長を持った光であるという点である。この特徴によって、該照射光L1は、点着用領域Eのバックライトとして機能するだけでなく、
図1(b)に示すように、滴下された試料液X1は裏側からの照射光L1を吸収して暗いままでありながら、未被覆領域eだけは照射光L1によって明るく輝き、試料液X1と未被覆領域eとの明暗の差異が顕著に際立ち、未被覆領域eが微小であっても目視によって容易に発見できるようになる。
【0021】
図1(a)は、点着用領域Eの好ましい構造を示しており、
図7に示した従来例と同様に、上層側(操作者側)の支持体フィルム1aと、下層側(装置内部側)の分離膜1bとが互いに積層されており、これによって、分離膜1bが支持体フィルム1aの貫通孔2を塞ぐ構造となっている。フィルム1は、好ましい態様として帯状となっている。該フィルム1の幅や全長は、装置の規模に合わせかつ従来技術を参照して適宜決定すればよい。点着用領域Eは、この帯状のフィルム1に所定の間隔で設けられ、測定毎に筐体開口部の中央に新しい点着用領域を順次位置させる態様が好ましい。
また、好ましい態様では、該フィルム1は、送出しロール(図示せず)から巻取りロール(図示せず)へと間欠的に必要量だけ送られるように構成され、該送出しロールと巻取りロールとを含むフィルム1全体が交換可能なカートリッジとして設けられる。該カートリッジを駆動し、該フィルム1を送るための駆動源は、当該装置側に設けられる態様が好ましい。
【0022】
フィルム1は、当該装置の外面に大きく露出した状態であってもよいが、
図7に示した従来例と同様に、当該装置の筐体の上面(
図2(a)のステージ面)に設けられた局所的な筐体開口部(貫通孔)の直下に配置され、適当なタイミングで送られて、該筐体開口部の直下の中央に、測定毎に新しい点着用領域を位置させる態様が好ましい。
【0023】
筐体開口部の開口形状やその大きさは、特に限定はされないが、意匠登録第1222931号公報などに示す従来品では、直径25mm〜35mm程度の円形であり、
図2(a)に示す本発明の実施例品では、半円(直径25mm〜35mm程度)と方形とを組み合わせた形状となっており、点着操作がより行い易いように広く拡張されている。
【0024】
上記したように、フィルム1の好ましい構造は、帯状を呈し、かつ、支持体フィルム1aと分離膜1bとの積層構造である。支持体フィルム1aには、長手方向(フィルム送り方向)に所定の間隔を置いて、点着用領域の開口となる貫通孔2が設けられており、各貫通孔の底には分離膜1bの上面が露出している。
好ましい構造では、貫通孔2と内部底面の分離膜1bとによって点着用領域Eが構成されるが、フィルム1の構造によっては、分離膜1bは、必ずしも貫通孔2の内部底面に存在する必要はなく、該貫通孔を塞ぐように設けられていればよい。
【0025】
支持体フィルム1aの材料は、特に限定はされず、従来公知の濃度測定装置において用いられている支持体フィルムの材料を用いてよい。このような材料としては、支持体としてフィルムの送りに耐え得る機械的強度を有すること、水分を含んでも形状が変化しないこと、引っ張られても伸びないこと、接着剤等が付着しても材質が変性しないことなどの点から、PE(ポリエチレン)、PET(ポリエチレンテレフタラート)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PC(ポリカーボネート)などが好ましい材料として挙げられる。
支持体フィルム1aの厚さは、特に限定はされず、材料の機械的強度に応じて適宜決定すればよいが、30〜40μm程度が好ましい厚さである。
【0026】
本発明では、支持体フィルム1aは不透明であることが好ましい。これは、
図1(b)に示すように、点着用領域Eを上からみたときに、フィルム1の下側から照射され分離膜を通過した照射光L1によって、点着用領域Eだけを際立たせて明るくするためである。
ここでいう不透明とは、照射光L1を全く透過させないという意味だけではなく、該支持体フィルム面を目視で観察したときに透き通っていないことをも意味する。支持体フィルム1aは、〔下側から照射された照射光L1によって点着用領域Eだけが明るく光る〕という本発明の効果が得られる範囲内の量であるならば、該照射光L1が透過し得るものであってもよい。該支持体フィルムは、照射光に対して、フィルム厚さ方向に80%程度以下、より好ましくは70%程度以下の透過率を持つものであれば、点着用領域Eとその周囲との明るさの差異が明確になり好ましい。
また、試料液が血液の赤色や標準濃度試液の青色などのように濃く暗い色である場合、支持体フィルム1aは、滴下された試料液滴の外形範囲を目視で判別し易いようにする点から、白色や乳白色など、不透明でかつ明るい色となっていることが好ましい。
支持体フィルム1aは、複数層からなる積層構造を有し、機械的強度など支持体フィルムに求められる性質を確保するための層と、照射光L1を遮るための不透明な層とを有するものであってもよい。
【0027】
点着用領域Eの形状、即ち、支持体フィルム1aを上面から見たときの貫通孔2の開口形状とその大きさは、特に限定はされないが、試料液が滴下されるという点から円形が好ましい。その場合の点着用領域Eの口径は、3mm〜5mmが好ましく、
図3〜
図5に示す実施例では、口径4mmである。
【0028】
分離膜1bは、滴下された試料液から分析対象となる液体血漿だけを透過させ得るよう構成されたフィルター膜であればよい。また、〔下側から照射された照射光によって点着用領域だけが明るく光る〕という本発明の効果を得る点から、分離膜1bは、支持体フィルムよりも照射光が多く透過し得るものであることが好ましい。試料液が血液(または、血液に試薬や調製が加えられた液体)である場合、分離膜には従来公知の血球分離膜を用いてよい。
血球分離膜は、PET、PVC、PE、PCなどの材料からなり、厚さ5〜10μm程度であって、血漿だけが透過し得るように、口径0.1〜0.5μm程度の微細な貫通孔が多数分散した多孔性のフィルター膜である。該血球分離膜は、
図3(b)に示すように、その材料、厚さ、多孔性によって、十分に照射光を透過させるものとなっている。
【0029】
支持体フィルム1aと分離膜1bとが積層されかつ貫通孔2が設けられたフィルム1を形成する方法は、従来技術を参照してよい。例えば、支持体フィルムと分離膜との間に両面テープなどの接着材層を介在させて、両者を積層する方法などが挙げられる。貫通孔2の形成としては、例えば、先に支持体フィルム1aに接着材層を積層し、その段階で該貫通孔2を設け、そた後、分離膜1bを積層するといった手順が挙げられる。
【0030】
照射光は、滴下された試料液の色素に吸収される波長を持った光であればよい。より具体的には、滴下される試料液の色の補色(反対色)の光、または、該補色(反対色)に近い色相(色相環における該補色の近隣の色相)の光が好ましい。照射光として、試料液の色素の色と同系色の光や、幅広い波長の光(白色光など)を照射すると、滴下された試料液滴に吸収されず、該試料液滴も明るくなってしまい、未被覆領域との明暗の差異が小さくなるので好ましくない。また、照射光は、操作者にとって、より目立つ色の光であることが好ましい。
具体例としては、滴下される試料液が血液である場合や、血液に試薬の添加や希釈など調製が加えられた赤色を呈する液体の場合、照射光は、緑色光(波長500nm〜570nm程度)〜青色光(波長450nm〜500nm程度)が好ましい。前記の緑色光の波長範囲には、黄緑色と認識される色相の光が含まれる。緑色光は、血液中のヘモグロビンの赤色の色素(酸素と結合し赤色を呈するヘム)によく吸収され、
図1(b)に示すように、点着された血液滴X1が暗いままでありながら、未被覆領域eだけは緑色の照射光L1によって明るく輝き、操作者にとって血液滴X1と未被覆領域eとの明暗の差異が際立ち、本発明の作用効果が顕著に得られるので、特に好ましい照射光である。また、目視判定に青色光を用いることは、網膜に損傷を与える可能性がある点から好ましくなく、この点からも、緑色光が好ましい。
また、滴下される試料液が標準濃度試液(青色)の場合、照射光は、黄色光(波長570nm〜600nm程度)〜赤色光(波長600nm〜750nm程度)が好ましい。なかでも赤色光は、青色に対して理論的には補色ではないが、標準濃度試液の青色の色素によく吸収される上に、微量の漏えいでも操作者にとってはよく目立つ色の光であるために、前記した本発明の作用効果が顕著に得られる光として好ましい。
【0031】
上記照射光を発する光照射装置の光源は、特に限定はされないが、発光ダイオード(LED)がコンパクトであり、市販品の中から上記目的に適合した波長範囲の光(InGaN系の緑色光、GaP系の黄緑色〜黄色光、AlGaInP系の黄色〜赤色光など)を発する素子を比較的自由に選択できるので好ましい。
LEDのなかでも外形が1辺1mm〜2mm程度の表面実装型(チップ型)のLEDであれば、点着用領域直下の基板に複数実装でき、かつ、点着用領域の範囲内に収めることができるのでより好ましい。必要に応じて、1チップで2色やそれ以上の色の光を切り替えて発光できるように構成された複合の素子を用いてもよい。
また、
図1(a)の構成において、分離膜1bと光照射装置S1との間に、点着用領域の貫通孔と同じ口径の貫通孔を持ったマスク用のプレートやレンズ、導波路などを設け、照射光L1が点着用領域の貫通孔だけに照射されるようにしてもよい。
【0032】
当該装置は、少なくとも、濃度検査の対象となる試料液(血液などの検体)に対して照射光を発することができるように構成されていればよい。しかし、キャリブレーションのための標準濃度試液など、濃度検査の対象となる試料液とは異なる色の試料液が存在する場合には、それぞれの色に応じて、その色素に吸収される波長を持った照射光を発することができるように光照射装置を構成することが好ましい。
例えば、血液(赤色)のための緑色LEDチップと、キャリブレーション用の標準濃度試液(青色)のための赤色LEDとを、点着用領域直下の基板に実装しておき、血液測定モードとキャリブレーションモードとを操作パネルのスイッチで切り替えることで、血液には緑色光が照射され、標準濃度試液には赤色光が照射されるように構成してもよい。
【0033】
点着用領域の裏側からの光照射は、当該装置の電源を入れた時に、電源ランプのように開始してもよく、一定期間点滅させてもよい。
【0034】
図3〜5は、本発明の濃度測定装置を実際に製作し、点着用領域の裏側から照射光を照射しながら試料液を滴下(点着)して、未被覆領域の識別性を確認した実験の様子を示している。
この実験では、筐体開口部の開口形状を、
図2(b)と同様、半円形(直径30mm)と方形とを組み合わせた形状とし、点着用領域を直径4mmの円形とした。各
図3〜5の筐体開口部内に見える数字は、フィルム表面に印字された点着用領域の番号である。
【0035】
図3(a)は、裏側から照射光を照射していない場合の点着用領域の様子(従来品と同様)を示しており、
図3(b)は、裏側から緑色の照射光を照射した場合の点着用領域Eの様子を示している。本例では、緑色の照射光は、GaP系LEDによる中心波長570nmの光である。
【0036】
図4は、点着用領域の裏側から緑色の照射光を照射し、血液を滴下した実験の様子を示す写真図である。
図4(a)は、
図3(b)と同じ写真図であり、裏側から緑色の照射光を照射した場合の点着用領域の様子を示している。
図4(b)は、
図4(a)の照射状態において点着用領域に血液を滴下し、未被覆領域を意図的に作成した場合の様子を示した写真図である。
図4(c)は、点着用領域に十分な血液を滴下し、点着用領域全体を覆った場合の様子を示した写真図である。
図4(b)と
図4(c)とを比較すると、滴下された血液は、下側から緑色の照射光を受けても暗いままでありながら、未被覆領域が存在する場合には、該未被覆領域だけが明るく輝いて認識し易いことがわかる。
【0037】
図5は、点着用領域の裏側から赤色の照射光を照射し、青色の標準濃度試液を滴下した実験の様子を示す写真図である。本例では、赤色の照射光は、AlGaAs系LEDによる中心波長620nmの光である。
図5(a)は、点着用領域の裏側から赤色の照射光を照射した場合の点着用領域の様子を示している。
図5(b)は、
図5(a)の照射状態において点着用領域に青色の標準濃度試液を滴下し、未被覆領域を意図的に作成した場合の様子を示した写真図である。
図5(c)は、点着用領域に十分な標準濃度試液を滴下し、点着用領域全体を覆った場合の様子を示した写真図である。
図5(b)と
図5(c)とを比較すると、滴下された青色の標準濃度試液は、下側から赤色の照射光を受けても暗いままでありながら、
図5(b)のように未被覆領域が存在する場合には、該未被覆領域だけが操作者にとって目立つ赤色に明るく輝き、認識し易いことがわかる。
【0038】
当該装置の表示画面(液晶画面)には、
図6に示すように、点着用領域全体を試料液が覆った十分な滴下状態と、未被覆領域が存在する不十分な滴下状態とを表示し、使用者に注意を喚起し、滴下不良防止の意識を高めてもよい。
【0039】
当該装置におけるフィルム送り機構、濃度測定を酵素電極法に基づいて行う場合の電極式センサーの細部の構成、該センサーの上下の挙動のための機構、これらフィルム送り機構と電極式センサーとを制御しかつ得られた測定信号から濃度を演算し結果を出力するための制御部の構成については、従来の濃度測定装置の細部の技術を参照してもよい。