特許第6073153号(P6073153)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6073153インパルス応答ノイズ除去方法およびその装置ならびにそのプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6073153
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】インパルス応答ノイズ除去方法およびその装置ならびにそのプログラム
(51)【国際特許分類】
   G10K 15/00 20060101AFI20170123BHJP
   G10L 21/0224 20130101ALI20170123BHJP
【FI】
   G10K15/00 L
   G10L21/0224
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-31485(P2013-31485)
(22)【出願日】2013年2月20日
(65)【公開番号】特開2014-160214(P2014-160214A)
(43)【公開日】2014年9月4日
【審査請求日】2016年1月4日
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100064414
【弁理士】
【氏名又は名称】磯野 道造
(74)【代理人】
【識別番号】100111545
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 悦夫
(72)【発明者】
【氏名】松井 健太郎
【審査官】 下林 義明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−058701(JP,A)
【文献】 特開平10−319985(JP,A)
【文献】 特開昭54−130078(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 15/00 − 15/06
G10L 19/00 − 99/00
H04S 1/00 − 7/00
G01H 1/00 − 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インパルス応答の無応答区間に含まれる無信号ノイズを除去するインパルス応答ノイズ除去方法であって、
無信号ノイズ検出手段によって、前記インパルス応答を測定する測定空間において予め測定された、インパルスが印加されていない状態の応答から、前記測定空間における無信号ノイズを検出する無信号ノイズ検出工程と、
確率密度関数算出手段によって、前記無信号ノイズ検出工程において検出された無信号ノイズの分布における振幅の平均および分散から、前記無信号ノイズの確率密度関数を算出する確率密度関数算出工程と、
信頼区間算出手段によって、前記確率密度関数算出工程において算出された確率密度関数から、前記測定空間において前記無信号ノイズが含まれると推定される、予め定められた信頼区間を示す振幅の範囲を算出する信頼区間算出工程と、
平均算出手段によって、予め測定された複数のインパルス応答の平均を算出する平均算出工程と、
無応答区間検出手段によって、前記平均算出工程において算出されたインパルス応答の平均の振幅のうち、前記信頼区間算出工程において算出された振幅の範囲に含まれる振幅を検出し、当該振幅が含まれる前記インパルス応答の平均内の区間を、前記無応答区間として検出する無応答区間検出工程と、
無応答区間除去手段によって、予め測定されたインパルス応答から、前記無応答区間検出工程において検出された無応答区間を除去する無応答区間除去工程と、
を含むことを特徴とするインパルス応答ノイズ除去方法。
【請求項2】
前記信頼区間算出工程は、前記信頼区間算出手段によって、前記確率密度関数算出工程において算出された確率密度関数における振幅の平均を基準として、予め定められた信頼区間を示す振幅の範囲を算出することを特徴とする請求項1に記載のインパルス応答ノイズ除去方法。
【請求項3】
インパルス応答の無応答区間に含まれる無信号ノイズを除去するインパルス応答ノイズ除去装置であって、
前記インパルス応答を測定する測定空間において予め測定された、インパルスが印加されていない状態の応答から、前記測定空間における無信号ノイズを検出する無信号ノイズ検出手段と、
前記無信号ノイズ検出手段によって検出された無信号ノイズの分布における振幅の平均および分散から、前記無信号ノイズの確率密度関数を算出する確率密度関数算出手段と、
前記確率密度関数算出手段によって算出された確率密度関数から、前記測定空間において前記無信号ノイズが含まれると推定される、予め定められた信頼区間を示す振幅の範囲を算出する信頼区間算出手段と、
予め測定された複数のインパルス応答の平均を算出する平均算出手段と、
前記平均算出手段によって算出されたインパルス応答の平均の振幅のうち、前記信頼区間算出手段によって算出された振幅の範囲に含まれる振幅を検出し、当該振幅が含まれる前記インパルス応答の平均内の区間を、前記無応答区間として検出する無応答区間検出手段と、
予め測定されたインパルス応答から、前記無応答区間検出手段によって検出された無応答区間を除去する無応答区間除去手段と、
を備えることを特徴とするインパルス応答ノイズ除去装置。
【請求項4】
インパルス応答の無応答区間に含まれる無信号ノイズを除去するために、コンピュータを、
前記インパルス応答を測定する測定空間において予め測定された、インパルスが印加されていない状態の応答から、前記測定空間における無信号ノイズを検出する無信号ノイズ検出手段、
前記無信号ノイズ検出手段によって検出された無信号ノイズの分布における振幅の平均および分散から、前記無信号ノイズの確率密度関数を算出する確率密度関数算出手段、
前記確率密度関数算出手段によって算出された確率密度関数から、前記測定空間において前記無信号ノイズが含まれると推定される、予め定められた信頼区間を示す振幅の範囲を算出する信頼区間算出手段、
予め測定された複数のインパルス応答の平均を算出する平均算出手段、
前記平均算出手段によって算出されたインパルス応答の平均の振幅のうち、前記信頼区間算出手段によって算出された振幅の範囲に含まれる振幅を検出し、当該振幅が含まれる前記インパルス応答の平均内の区間を、前記無応答区間として検出する無応答区間検出手段、
予め測定されたインパルス応答から、前記無応答区間検出手段によって検出された無応答区間を除去する無応答区間除去手段、
として機能させるためのインパルス応答ノイズ除去プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インパルス応答からノイズを除去するインパルス応答ノイズ除去方法およびその装置ならびにそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
インパルス応答とは、対象となる系にインパルスと呼ばれる時間幅が無限小で、大きさが無限大の信号を入力した際の出力、すなわち系の応答である。但し、前記したような理想的なインパルスは実際には生成が困難であるため、通常は周波数ごとに位相をシフトしたスイープ信号などを用いてインパルス応答を測定する。このようなインパルス応答の具体例としては、測定対象によって様々なものが挙げられるが、例えば自由音場における音源位置から耳の位置までの音響伝達特性を示す頭部インパルス応答や、音響空間における音源位置から受音点までの音響伝達特性を示す室内インパルス応答などを挙げることができる。
【0003】
ここで、インパルス応答を測定すると、その応答の中に無応答の区間(以下、無応答区間という)が含まれる場合がある。例えば前記した頭部インパルス応答は、厳密には「自由音場に頭がないときの両耳の中心位置から、頭があるときの外耳道入口または鼓膜までの音響伝搬特性としてのインパルス応答」として定義されるが、実際には測定対象者の両耳の中心位置に測定用の音源を配置することは不可能である。従って、通常は、測定対象者の頭部から所定の距離を置いた位置に音源を配置して頭部インパルス応答を測定する。そのため、測定された応答の冒頭には、測定対象者の頭部と音源との距離の伝搬に必要な時間に相当する遅延部分が無応答区間として含まれることになる。
【0004】
また、インパルス応答測定時には、実際の応答長に対して余裕を持って測定時間を設定する場合が多い。そのため、結果として、インパルス応答が収束した後の区間にも、前記した余裕時間に応じた無応答が生じることになる。これらの無応答区間はインパルスの印加前もしくは応答の収束後となるため、本来は無信号(振幅0)となるはずであるが、測定対象の信号がない状態におけるノイズ(例えば音響分野における暗騒音、背景雑音など。以下、「無信号ノイズ」という)によって、当該無応答区間に無信号ノイズに相当する信号が記録される場合がある。
【0005】
このような無信号ノイズは、基本的には不規則な振幅を持つため、例えばインパルス応答を同一条件で複数回測定して平均化を行うことで、無信号ノイズを相殺・抑圧することが可能である。例えば特許文献1では、このような平均化によってインパルス応答に含まれる系の特性を算出し、予め設定した一定の閾値以下の振幅を0として打ち切ることで、インパルス応答から無信号ノイズを除去する技術が提案されている。
【0006】
また別の視点として、特許文献2では、予め環境騒音(無信号ノイズ)のレベルを測定して測定用信号のレベルを決定し、S/N比を向上させる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−128207号公報(図2参照)
【特許文献2】特開2002−330500号公報(図8参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1で提案された技術は、インパルス応答の平均化および閾値による打ち切りによって一定のノイズ抑圧効果を奏するが、何らかの原因により無信号ノイズに特異な値(例えば不自然に大きな振幅の値)が発生した場合、閾値による打ち切りに掛からず、平均化によっても相殺されないため、無信号ノイズとして信号に残ってしまうという問題がある。また、特許文献1で提案された技術は、インパルス応答の平均化によって無信号ノイズ以外の信号部分も平滑化されてしまうため、インパルス応答に包含される系の特徴が得られない場合がある。
【0009】
また、特許文献2で提案された技術は、そもそもインパルス応答測定の事前処理であるため、既に測定されたインパルス応答に含まれている無信号ノイズを除去することができないという問題があった。
【0010】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであって、測定したインパルス応答に含まれる無信号ノイズを除去することができるインパルス応答ノイズ除去方法およびその装置ならびにそのプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために請求項1に係るインパルス応答ノイズ除去方法は、インパルス応答の無応答区間に含まれる無信号ノイズを除去するインパルス応答ノイズ除去方法であって、無信号ノイズ検出工程と、確率密度関数算出工程と、信頼区間算出工程と、平均算出工程と、無応答区間検出工程と、無応答区間除去工程と、を含むこととした。
【0012】
このような手順を行うインパルス応答ノイズ除去方法は、無信号ノイズ検出工程において、無信号ノイズ検出手段によって、インパルス応答を測定する測定空間において予め測定された、インパルスが印加されていない状態の応答から、測定空間における無信号ノイズを検出する。これにより、インパルス応答ノイズ除去方法は、測定空間における暗騒音、背景雑音などの無信号ノイズの信号を取得することができる。次に、インパルス応答ノイズ除去方法は、確率密度関数算出工程において、確率密度関数算出手段によって、無信号ノイズ検出工程において検出された無信号ノイズの分布における振幅の平均および分散から、無信号ノイズの確率密度関数を算出する。次に、インパルス応答ノイズ除去方法は、信頼区間算出工程において、信頼区間算出手段によって、確率密度関数算出工程において算出された確率密度関数から、測定空間において無信号ノイズが含まれると推定される、予め定められた信頼区間を示す振幅の範囲を算出する。
【0013】
次に、インパルス応答ノイズ除去方法は、平均算出工程において、予め測定された複数のインパルス応答の平均を算出する。これにより、インパルス応答ノイズ除去方法は、インパルス応答に特異な値の無信号ノイズが含まれている場合であっても、平均化処理によって無信号ノイズを抑圧することができる。次に、インパルス応答ノイズ除去方法は、無応答区間検出工程において、無応答区間検出手段によって、平均算出工程において算出されたインパルス応答の平均の振幅のうち、信頼区間算出工程において算出された振幅の範囲に含まれる振幅を検出し、当該振幅が含まれるインパルス応答の平均内の区間を、無応答区間として検出する。
【0014】
そして、インパルス応答ノイズ除去方法は、無応答区間除去工程において、無応答区間除去手段によって、予め測定されたインパルス応答から、無応答区間検出工程において検出された無応答区間の信号を除去する。これにより、インパルス応答ノイズ除去方法は、無信号ノイズの除去処理において、平均化を施さないそのままのインパルス応答に対して無応答区間を適用するため、平均化による無信号ノイズ以外の信号部分の平滑化を回避し、系の持つ特徴を保存したまま、無信号ノイズを適切に除去することができる。
【0015】
また、請求項2に係るインパルス応答ノイズ除去方法は、請求項1に係るインパルス応答ノイズ除去方法において、信頼区間算出工程が、信頼区間算出手段によって、確率密度関数算出工程において算出された確率密度関数における振幅の平均を基準として、予め定められた信頼区間を示す振幅の範囲を算出することとした。これにより、インパルス応答ノイズ除去方法は、無信号ノイズの分布における振幅の平均を基準として、測定空間において無信号ノイズが含まれる振幅の範囲を確率的に示す信頼区間を算出することができる。
【0016】
前記課題を解決するために請求項3に係るインパルス応答ノイズ除去装置は、インパルス応答の無応答区間に含まれる無信号ノイズを除去するインパルス応答ノイズ除去装置であって、無信号ノイズ検出手段と、確率密度関数算出手段と、信頼区間算出手段と、平均算出手段と、無応答区間検出手段と、無応答区間除去手段と、を備える構成とした。
【0017】
このような構成を備えるインパルス応答ノイズ除去装置は、無信号ノイズ検出手段によって、インパルス応答を測定する測定空間において予め測定された、インパルスが印加されていない状態の応答から、測定空間における無信号ノイズを検出する。これにより、インパルス応答ノイズ除去装置は、測定空間における暗騒音、背景雑音などの無信号ノイズの信号を取得することができる。また、インパルス応答ノイズ除去装置は、確率密度関数算出手段によって、無信号ノイズ検出手段において検出された無信号ノイズの分布における振幅の平均および分散から、無信号ノイズの確率密度関数を算出する。そして、インパルス応答ノイズ除去装置は、信頼区間算出手段によって、確率密度関数算出手段において算出された確率密度関数から、測定空間において無信号ノイズが含まれると推定される、予め定められた信頼区間を示す振幅の範囲を算出する。
【0018】
また、インパルス応答ノイズ除去装置は、平均算出手段によって、予め測定された複数のインパルス応答の平均を算出する。これにより、インパルス応答ノイズ除去装置は、インパルス応答に特異な値の無信号ノイズが含まれている場合であっても、平均化処理によって無信号ノイズを抑圧することができる。また、インパルス応答ノイズ除去装置は、無応答区間検出手段によって、平均算出手段において算出されたインパルス応答の平均の振幅のうち、信頼区間算出手段において算出された振幅の範囲に含まれる振幅を検出し、当該振幅が含まれるインパルス応答の平均内の区間を、無応答区間として検出する。
【0019】
そして、インパルス応答ノイズ除去装置は、無応答区間除去手段によって、予め測定されたインパルス応答から、無応答区間検出手段において検出された無応答区間の信号を除去する。これにより、インパルス応答ノイズ除去装置は、無信号ノイズの除去処理において、平均化を施さないそのままのインパルス応答に対して無応答区間を適用するため、平均化による無信号ノイズ以外の信号部分の平滑化を回避し、系の持つ特徴を保存したまま、無信号ノイズを適切に除去することができる。
【0020】
前記課題を解決するために請求項4に係るインパルス応答ノイズ除去プログラムは、インパルス応答の無応答区間に含まれる無信号ノイズを除去するために、コンピュータを、無信号ノイズ検出手段、確率密度関数算出手段、信頼区間算出手段、平均算出手段、無応答区間検出手段、無応答区間除去手段、として機能させることとした。
【0021】
このような構成を備えるインパルス応答ノイズ除去プログラムは、無信号ノイズ検出手段によって、インパルス応答を測定する測定空間において予め測定された、インパルスが印加されていない状態の応答から、測定空間における無信号ノイズを検出する。これにより、インパルス応答ノイズ除去プログラムは、測定空間における暗騒音、背景雑音などの無信号ノイズの信号を取得することができる。また、インパルス応答ノイズ除去プログラムは、確率密度関数算出手段によって、無信号ノイズ検出手段において検出された無信号ノイズの分布における振幅の平均および分散から、無信号ノイズの確率密度関数を算出する。そして、インパルス応答ノイズ除去プログラムは、信頼区間算出手段によって、確率密度関数算出手段において算出された確率密度関数から、測定空間において無信号ノイズが含まれると推定される、予め定められた信頼区間を示す振幅の範囲を算出する。
【0022】
また、インパルス応答ノイズ除去プログラムは、平均算出手段によって、予め測定された複数のインパルス応答の平均を算出する。これにより、インパルス応答ノイズ除去プログラムは、インパルス応答に特異な値の無信号ノイズが含まれている場合であっても、平均化処理によって無信号ノイズを抑圧することができる。また、インパルス応答ノイズ除去プログラムは、無応答区間検出手段によって、平均算出手段において算出されたインパルス応答の平均の振幅のうち、信頼区間算出手段において算出された振幅の範囲に含まれる振幅を検出し、当該振幅が含まれるインパルス応答の平均内の区間を、無応答区間として検出する。
【0023】
そして、インパルス応答ノイズ除去プログラムは、無応答区間除去手段によって、予め測定されたインパルス応答から、無応答区間検出手段において検出された無応答区間を除去する。これにより、インパルス応答ノイズ除去プログラムは、無信号ノイズの除去処理において、平均化を施さないそのままのインパルス応答に対して無応答区間を適用するため、平均化による無信号ノイズ以外の信号部分の平滑化を回避し、系の持つ特徴を保存したまま、無信号ノイズを適切に除去することができる。
【発明の効果】
【0024】
請求項1、請求項3および請求項4に係る発明によれば、インパルス応答を測定した際に当該応答に含まれる無応答区間を検出し、この無応答区間に混入した無信号ノイズ(測定対象の信号がない状態におけるノイズ)を無信号ノイズの統計的性質を利用して除去することができる。
【0025】
請求項2に係る発明によれば、平均化によって特異な値の無信号ノイズが抑圧されたインパルス応答に対して、平均化前の無信号ノイズの振幅の分布から算出した無信号ノイズの信頼区間を適用することで、平均化を施さないそのままのインパルス応答に対して信頼区間を適用した場合と比較して、より正確に無応答区間を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の実施形態に係るインパルス応答ノイズ除去装置の全体構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態に係るインパルス応答ノイズ除去装置の確率密度関数算出手段および信頼区間算出手段の処理を説明するための概略図である。
図3】本発明の実施形態に係るインパルス応答ノイズ除去装置の平均算出手段の処理を説明するための概略図である。
図4】本発明の実施形態に係るインパルス応答ノイズ除去装置の無応答区間検出手段の処理を説明するための概略図である。
図5】本発明の実施形態に係るインパルス応答ノイズ除去装置の無応答区間除去手段の処理を説明するための概略図である。
図6】本発明の実施形態に係るインパルス応答ノイズ除去装置よって無信号ノイズを除去したインパルス応答の一例(振幅0に置換した場合)を示す概略図である。
図7】本発明の実施形態に係るインパルス応答ノイズ除去装置よって無信号ノイズを除去したインパルス応答のその他の例(切り詰めた場合)を示す概略図である。
図8】本発明の実施形態に係るインパルス応答ノイズ除去装置の動作(インパルス応答ノイズ除去方法)を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施形態に係るインパルス応答ノイズ除去方法およびその装置ならびにそのプログラムについて、図面を参照しながら説明する。以下の説明では、まずインパルス応答ノイズ除去装置の説明を行った後に、インパルス応答ノイズ除去方法およびインパルス応答ノイズ除去プログラムの説明を行うこととする。なお、以下の説明では、同一の構成については同一の名称および符号を付し、詳細説明を省略する。
【0028】
[インパルス応答ノイズ除去装置]
インパルス応答ノイズ除去装置1は、測定したインパルス応答から無信号ノイズを除去するものである。インパルス応答ノイズ除去装置1は、具体的には図1に示すように、外部からノイズ除去前のインパルス応答と無信号応答とが入力され、当該無信号応答から統計的に求めた無応答区間に基づいてインパルス応答から無信号ノイズを除去し、ノイズ除去後のインパルス応答を外部に出力する。なお、インパルス応答ノイズ除去装置1に入力されるインパルス応答の種類は特に限定されないが、例えば前記した頭部インパルス応答や室内インパルス応答などが入力される。
【0029】
ここで、前記した「無信号ノイズ」とは、インパルス応答の測定対象となる系、すなわちインパルス応答の測定空間において、測定用の信号(インパルス)が入力されていない状態で発生しているノイズのことを示している。この無信号ノイズの原因としては、例えば測定空間の内外における空調設備の動作音などの定常的なノイズや、測定装置そのものが同期ずれなどにより発する突発的なノイズなどが挙げられる。また、前記した「無信号応答」とは、測定空間においてインパルスが印加されていない状態で測定された応答のことを示している。この無信号応答は、測定空間に測定対象を設置せず、かつ、測定対象に対してインパルスを印加していない状態で収音を行うことで測定することができる。
【0030】
インパルス応答ノイズ除去装置1は、ここでは図1に示すように、無信号ノイズ検出手段10と、確率密度関数算出手段20と、信頼区間算出手段30と、平均算出手段40と、無応答区間検出手段50と、無応答区間除去手段60と、を備えている。以下、インパルス応答ノイズ除去装置1の各構成について説明する。
【0031】
無信号ノイズ検出手段10は、無信号応答に含まれる無信号ノイズを検出するものである。無信号ノイズ検出手段10には、図1に示すように、図示を省略した測定装置から、インパルス応答の測定空間において予め測定された無信号応答が入力される。ここで、無信号応答は、本来は何の信号も含まれていない応答である。そのため、無信号ノイズ検出手段10は、無信号応答に含まれている信号をそのまま無信号ノイズとして検出し、図1に示すように、これを確率密度関数算出手段20に対して出力する。このような処理により、インパルス応答ノイズ除去装置1は、測定空間における暗騒音、背景雑音などの無信号ノイズの信号を取得することができる。
【0032】
確率密度関数算出手段20は、無信号ノイズの確率密度関数を算出するものである。確率密度関数算出手段20には、図1に示すように、無信号ノイズ検出手段10から無信号ノイズが入力される。そして、確率密度関数算出手段20は、図2に示すように、当該無信号ノイズの振幅の分布から、当該分布に対応する無信号ノイズの確率密度関数を算出し、無信号ノイズの振幅の分布および確率密度関数を信頼区間算出手段30に対して出力する。ここで、確率密度関数算出手段20は、具体的には以下の式(1)に示すように、無信号ノイズの分布における振幅の平均μおよび分散σ2をまず算出し、当該振幅の平均μおよび分散σ2から無信号ノイズの確率密度関数f(x)を算出する。
【0033】
【数1】
【0034】
信頼区間算出手段30は、無信号ノイズの振幅の信頼区間(Confidence interval)を算出するものである。この「信頼区間」とは、測定空間において無信号ノイズが含まれると推定される振幅の範囲を示すものである。すなわち、信頼区間は、測定空間における無信号ノイズが含まれる振幅の範囲を確率的に示すものであり、図2に示すように、確率密度関数における振幅の平均を中心とした振幅の範囲で表わされる。
【0035】
信頼区間は、通常は当該信頼区間の信頼度を示す信頼水準Nとともに、「N%信頼区間」と表される。ここで、例えば本発明における「99%信頼区間」とは、「測定空間において99%の確率で無信号ノイズが含まれる振幅の範囲」のことを示している。なお、信頼水準Nとしては、一般的には95%や99%などの値がよく用いられるが、この値はインパルス応答のモデルに要求される精度に応じて任意に設定される。
【0036】
信頼区間算出手段30は、無信号ノイズの振幅の分布を母集団分布として、図2に示すように、確率密度関数における振幅の平均を基準として、無信号ノイズが含まれると推定される振幅の上限値および下限値を算出する。すなわち、信頼区間算出手段30には、図1に示すように、確率密度関数算出手段20から、無信号ノイズの振幅の分布および確率密度関数が入力される。そして、信頼区間算出手段30は、以下の式(2)に示すように、標本平均に対して、信頼水準Nごとに予め定められたt値を標本標準誤差に乗算した値を加算および減算することで、図2に示す信頼区間を算出し、これを無応答区間検出手段50に対して出力する。
【0037】
N%信頼区間=標本平均±t×標本標準誤差 ・・・式(2)
【0038】
ここで、前記した式(2)におけるN%には、前記したように、任意に設定される信頼水準Nの値が用いられる。また、前記した式(2)における「t」には、信頼水準Nごとに予め定められた「t分布表」の値が用いられる。また、前記した式(2)における「標本平均」は、無信号ノイズの振幅の標本平均のことを示している。この標本平均としては、具体的には前記した無信号ノイズの分布における振幅の平均μが用いられる。
【0039】
また、前記した式(2)における「標本標準誤差」は、標本平均の標準偏差のことを示しており、具体的には無信号ノイズの不偏分散を標本数で割ったものの平方根のことを示している。不偏分散は各標本から標本平均を引いた値の二乗和を(標本数‐1)で割ったものである。
【0040】
平均算出手段40は、インパルス応答の平均を算出するものである。平均算出手段40には、図1に示すように、図示を省略した測定装置から、インパルス応答の測定空間で予め測定されたノイズ除去前のインパルス応答が複数入力される。なお、このインパルス応答の測定で用いられる測定装置は、前記した無信号応答の測定で用いられる測定装置と、音響測定におけるマイクロホンなどの感度が同一のものが用いられる。そして、平均算出手段40は、図3に示すように、それぞれのインパルス応答を加算平均してインパルス応答の平均を算出し、これを無応答区間検出手段50に対して出力する。
【0041】
ここで、図3は、平均化前後におけるノイズ除去前のインパルス応答を、時間軸と振幅との関係で模式的に示している。また、図3におけるインパルス応答の模式図は、横軸が時間を表わしており、縦方向に延びた直線の長さが振幅の大きさを示している。
【0042】
図3の左側に示す平均化前の3つのインパルス応答には、応答冒頭および応答収束後に不規則な振幅を持つ無信号ノイズが含まれている。すなわち、平均化前の一番上のインパルス応答における左側から1,7〜12本目の振幅と、平均化前の真ん中のインパルス応答における左側から1,7〜12本目の振幅と、平均化前の一番下のインパルス応答における左側から1,7〜12本目の振幅は、それぞれ無信号ノイズの振幅を模式的に示している。
【0043】
一方、無信号ノイズは、不規則かつ正規分布を仮定することができるため、前記した平均算出手段40によってこれらのインパルス応答を加算平均すると、図3に右側に示すように、応答冒頭および応答収束後に含まれていた不規則な振幅がある程度抑圧され、平均値(=0)に近づいていく。そのため、後段の無音区間検出処理において、無信号ノイズが含まれる無音区間を検出しやすくなる。このような処理により、インパルス応答ノイズ除去装置1は、インパルス応答に特異な値の無信号ノイズが含まれている場合であっても、平均化処理によって無信号ノイズを抑圧することができる。
【0044】
無応答区間検出手段50は、インパルス応答に含まれる無応答区間を検出するものである。無応答区間検出手段50には、図1に示すように、信頼区間算出手段30から信頼区間が入力され、平均算出手段40からインパルス応答の平均が入力される。次に、無応答区間検出手段50は、図4に示すように、平均算出手段40によって算出されたインパルス応答の平均の振幅のうち、信頼区間算出手段30によって算出された信頼区間が示す振幅の範囲に含まれる振幅を検出し、当該振幅が含まれるインパルス応答の平均内の区間を、無応答区間として検出する。そして、無応答区間検出手段50は、当該無応答区間、すなわち無信号ノイズが含まれると推定される区間を無応答区間除去手段60に対して出力する。
【0045】
無応答区間除去手段60は、インパルス応答における無応答区間の信号を除去することで、無信号ノイズを除去するものである。無応答区間除去手段60には、図1に示すように、図示を省略した測定装置から平均化前のインパルス応答が入力され、無応答区間検出手段50から無応答区間が入力される。なお、前記した「平均化前のインパルス応答」とは、図示を省略した測定装置によって同一条件下で測定された複数のインパルス応答のうち任意の1つのことを示している。すなわち、無応答区間除去手段60には、例えば平均算出手段40に入力された3つのインパルス応答(図3参照)のうちの1つが入力される。そして、無応答区間除去手段60は、図5に示すように、平均化前のインパルス応答において、応答区間に含まれる信号を無信号ノイズとみなして除去し、ノイズ除去後のインパルス応答を外部に出力する。このような処理により、インパルス応答ノイズ除去装置1は、無信号ノイズの除去処理において、平均化を施さないそのままのインパルス応答に対して無応答区間を適用するため、平均化による無信号ノイズ以外の信号部分の平滑化を回避し、系の持つ特徴を保存したまま、無信号ノイズを適切に除去することができる。
【0046】
ここで、ノイズ除去の具体的な方法は、ノイズ除去後のインパルス応答の用途によって異なる。無応答区間除去手段60は、例えばノイズ除去後のインパルス応答がインパルス応答のモデルとしてそのまま用いられる場合は、図6に示すように、無応答区間に含まれる無信号ノイズの振幅を0に置換する。これにより、インパルス応答冒頭の遅延部分もインパルス応答に含めて用いることができる。
【0047】
また、無応答区間除去手段60は、例えばある空間のインパルス応答を求めた場合において、そのインパルス応答をキャンセルするような逆システムを求める場合は、図7に示すように、無応答区間に含まれる無信号ノイズの振幅を0に置換するとともに、インパルス応答冒頭の遅延部分と、インパルス応答収束後の無応答区間を切り詰める。これにより、インパルス応答冒頭の無駄な遅延部分を省いて逆システムを効率的に求めることができる。
【0048】
以上のような構成を備えるインパルス応答ノイズ除去装置1は、インパルス応答を測定した際に当該応答に含まれる無応答区間を検出し、この無応答区間に混入した無信号ノイズ(測定対象の信号がない状態におけるノイズ)を無信号ノイズの統計的性質を利用して除去することができる。また、インパルス応答ノイズ除去装置1は、平均化によって特異な値の無信号ノイズが抑圧されたインパルス応答に対して、平均化前の無信号ノイズの振幅の分布から算出した無信号ノイズの信頼区間を適用することで、平均化を施さないそのままのインパルス応答に対して信頼区間を適用した場合と比較して、より正確に無応答区間を検出することができる。
【0049】
このように、インパルス応答ノイズ除去装置1は、インパルス応答に含まれる無信号ノイズを除去することができるため、測定したインパルス応答を、例えばわずかな無信号ノイズの混入が大きな影響を及ぼすアプリケーションに利用する場合であっても安定した処理を行うことができる。
【0050】
[インパルス応答ノイズ除去方法]
以下、インパルス応答ノイズ除去装置の動作、すなわちインパルス応答ノイズ除去方法について、図8を参照(適宜図1も参照)しながら説明する。インパルス応答ノイズ除去方法は、無信号ノイズ検出工程と、確率密度関数算出工程と、信頼区間算出工程と、平均算出手段と、無応答区間検出工程と、無応答区間除去工程と、を含んでおり、これらの工程を順番に行う。
【0051】
インパルス応答ノイズ除去方法は、まず無信号ノイズ検出工程において、無信号ノイズ検出手段10によって、無信号応答に含まれる無信号ノイズを検出する(ステップS1)。次に、インパルス応答ノイズ除去方法は、確率密度関数算出工程において、確率密度関数算出手段20によって、前記した式(1)を用いて無信号ノイズの確率密度関数を算出する(ステップS2)。次に、インパルス応答ノイズ除去方法は、信頼区間算出工程において、信頼区間算出手段30によって、前記した式(2)を用いて無信号ノイズの振幅の信頼区間を算出する(ステップS3)。
【0052】
次に、インパルス応答ノイズ除去方法は、平均算出工程において、平均算出手段40によって、複数のインパルス応答の平均を算出する(ステップS4)。次に、インパルス応答ノイズ除去方法は、無応答区間検出工程において、無応答区間検出手段50によって、インパルス応答の平均の振幅の中で、信頼区間の範囲内にあるものを無信号ノイズの振幅であるとみなし、当該振幅が含まれる区間を無応答区間として検出する(ステップS5)。そして、インパルス応答ノイズ除去方法は、無応答区間除去工程において、無応答区間除去手段60によって、平均化前のインパルス応答において、応答区間に含まれる信号を無信号ノイズとみなして除去し(ステップS6)、処理を終了する。インパルス応答ノイズ除去方法は、以上のような手順により、インパルス応答から無信号ノイズを除去する。
【0053】
[インパルス応答ノイズ除去プログラム]
前記したインパルス応答ノイズ除去装置1は、一般的なコンピュータを、前記した各手段および各部として機能させるプログラムにより動作させることで実現することができる。このプログラムは、通信回線を介して配布することも可能であるし、CD−ROMなどの記録媒体に書き込んで配布することも可能である。
【0054】
すなわち、インパルス応答ノイズ除去プログラムは、インパルス応答の無応答区間に含まれる無信号ノイズを除去するために、コンピュータを、前記した無信号ノイズ検出手段10、確率密度関数算出手段20、信頼区間算出手段30、平均算出手段40、無応答区間検出手段50、無応答区間除去手段60、として機能させる構成としても構わない。
【0055】
以上、本発明に係るインパルス応答ノイズ除去方法およびその装置ならびにそのプログラムについて、発明を実施するための形態により具体的に説明したが、本発明の趣旨はこれらの記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。また、これらの記載に基づいて種々変更、改変などしたものも本発明の趣旨に含まれることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0056】
1 インパルス応答ノイズ除去装置
10 無信号ノイズ検出手段
20 確率密度関数算出手段
30 信頼区間算出手段
40 平均算出手段
50 無応答区間検出手段
60 無応答区間除去手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8