特許第6073207号(P6073207)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6073207
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】眼科デバイス製造用モノマー
(51)【国際特許分類】
   C08F 30/08 20060101AFI20170123BHJP
   C07F 7/08 20060101ALI20170123BHJP
   C07F 7/10 20060101ALI20170123BHJP
   G02C 7/04 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   C08F30/08
   C07F7/08 XCSP
   C07F7/10 CCSP
   G02C7/04
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-235923(P2013-235923)
(22)【出願日】2013年11月14日
(65)【公開番号】特開2015-93976(P2015-93976A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2015年11月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(72)【発明者】
【氏名】工藤 宗夫
(72)【発明者】
【氏名】一戸 省二
【審査官】 中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/109496(WO,A1)
【文献】 国際公開第03/052003(WO,A1)
【文献】 特開2013−056955(JP,A)
【文献】 特開2013−008055(JP,A)
【文献】 特開2008−001896(JP,A)
【文献】 特開2001−139644(JP,A)
【文献】 特表2008−511870(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00−246/00
C08F290/00
C08F299/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される、化合物。
【化1】
(式(1)において、mは3であり、nは2であり、R1は炭素数1〜4のアルキル基であり、R及びRは互いに独立に、水素原子又はメチル基である)
式(1)において各特定の一のm、n、R1、R、及びRを有する1種が、化合物の質量全体のうち95質量%超を成す、前記化合物。
【請求項2】
請求項1記載の化合物と、これと重合性の他の化合物とが重合して得られる重合体。
【請求項3】
請求項記載の重合体を用いてなる、眼科デバイス。
【請求項4】
下記式(1)で表される化合物を製造する方法であって、
【化2】
(式(1)において、mは3であり、nは2であり、R1は炭素数1〜4のアルキル基であり、R及びRは互いに独立に、水素原子又はメチル基である)
下記式(2)で表されるシリコーン化合物と
【化3】
(m、R及びRは上述のとおりである)
下記式(3)で表される(メタ)アクリル基含有イソシアネート化合物を
【化4】
(n及びR6は上述のとおりである)
反応させる工程を含み、
式(1)において各特定の一のm、n、R1、R及びRを有する1種が、化合物の質量全体のうち95質量%超を成す、前記製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は眼科デバイス、例えば、コンタクトレンズ、眼内レンズ、人工角膜を製造するためのモノマー(以下「眼用モノマー」ともいう)及びその製造方法に関する。詳細には、所定分子量のシリコーン部分を備え、(メタ)アクリル系モノマー等の重合性モノマーと共重合されて、透明度及び酸素透過率の高い、眼に適用するのに好適なポリマーを与えるモノマー及びその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼用モノマーとして、下記のシリコーン化合物が知られている。
【化1】

【化2】
【0003】
上記TRIS(3−[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルメタクリレート)は、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)のような親水性モノマーとの相溶性に劣り、これらの親水性モノマーと共重合した場合、透明ポリマーが得られないという欠点がある。一方、上記SiGMAはHEMAのような親水性モノマーとの相溶性に優れ、その共重合ポリマーは、比較的高酸素透過性で高親水性であるという特徴を有する。しかしながら、近年眼用ポリマーには、長時間の連続装用を可能にすべく、より高い酸素透過性が要求されようになり、SiGMAから得られるポリマーでは、酸素透過性が不十分だった。
【0004】
この問題を解決すべく、特許文献1には、下記式(a)で表される化合物(以下、「(a)」とする)が記載されている。
【化3】
SiGMAにおいてビス(トリメチルシロキシ)メチルシリル部分をSi部分とし、全体に占めるSi部分の質量割合を求めると52%となる。一方、上記式(a)において、トリス(トリメチルシロキシ)シリル部分をSi部分とし、全体に占めるSi部分の質量割合を求めると60%となる。即ち、上記式(a)の化合物は、Si部分の質量割合が多い。その為、得られる眼科デバイスに高い酸素透過性をもたらすことができる。
【0005】
しかし、酸素透過率を上げるためにSi部分の質量割合を増やすと、重合性基あたりの分子量が大きくなるため共重合ポリマーの強度が低下するという問題があった。また、特許文献2は上記式(a)で示される化合物をエポキシ前駆体にメタクリル酸を反応させて調製されると記載しているが、該反応は、副反応が多く、得られる共重合ポリマーの物性のブレが大きいという問題もあった。
【0006】
特許文献5の背景技術の欄に記載されているように、酸素透過性の観点からは4量体シリコーン以上が好ましく、酸素透過性と共重合ポリマーの強度とを両立させるためには4量体シリコーン及び5量体シリコーンが好ましいと考えられている。そのため、4量体以上のシリコーンを有するシリコーンモノマーを高純度で得る方法の開発が要求されている。
【0007】
特許文献3には、リチウムトリアルキルシラノレートを開始剤として環状シロキサンをアニオン重合させたものに、3−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)プロピルジメチルクロロシラン等の(メタ)アクリル基を有するクロロシランを反応させて、下記式(b)で表されるシリコーン化合物を調製する方法が記載されている。
【化4】

該方法で得られた生成物は、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等の親水性モノマーと混合した時に白濁する場合がある。さらに、クロロシランによる該シリコーン鎖の末端封鎖率が高くない。
【0008】
特許文献4には、片末端水酸基含有オルガノポリシロキサンと(メタ)アクリル酸(エステル)のエステル化またはエステル交換によって下記式(c)で表されるシリコーン化合物を調製する方法が記載されている。
【化5】

(rは3以上の整数)
しかし、上記方法では、エステル化率が不十分で末端封鎖率が低く、また、シリコーンの重合度に分布ができる。
【0009】
特許文献5には、片末端水酸基含有オルガノポリシロキサンと(メタ)アクリル酸ハライドのエステル化によって、下記式で表されるシリコーンを調製する方法が記載されている。特許文献5は、該方法により、下記式(d)で表され、特定のm、n、R及びRを有する1種のシリコーン化合物を95重量%超で含む高純度シリコーンモノマーを製造できることを記載している。
【化6】

(ここでmは3〜10の整数のうちの一つ、nは1または2のうちの一つ、R1は炭素数1〜4のアルキル基のうちの一つ、Rは水素及びメチル基のうちの一つである)
【0010】
また、特許文献6には、下記式で表される化合物、及び該化合物を重合成分として含むポリマーを用いてなる眼用レンズが記載されている。
【化7】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−186709号公報
【特許文献2】特開2007−1918号公報
【特許文献3】特開昭59−78236号公報
【特許文献4】特開2001−55446号公報
【特許文献5】特許第4646152号公報
【特許文献6】特許第4882136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、特許文献5に記載のモノマー化合物は、親水性基の構造がエチレンオキサイド基に限定されている。そのため、親水性の程度を調整することができず、併用する(メタ)アクリル系モノマー、特に耐汚染性を付与するフッ素置換基含有(メタ)アクリル系モノマーに対して相溶性が悪い場合がある。また、該モノマーから得られた重合体では、機械強度に不足することがある。
【0013】
また、特許文献6に記載の上記モノマー化合物も、親水性基の構造がエチレンオキサイド−エチレンオキサイド構造である。親水性基の構造がエチレンオキサイド−エチレンオキサイド構造では、親水性が高いため、併用する(メタ)アクリル系モノマー、特に耐汚染性を付与するフッ素置換基含有(メタ)アクリル系モノマーに対して相溶性が悪い場合がある。
【0014】
また、特許文献6はウレタン結合を有するモノマーも記載している(請求項3)。しかし、特許文献6に記載の該モノマーは、シロキサン部分の構造が、トリス(トリメチルシロキシ)シリル、ビス(トリメチルシロキシ)メチルシリル、ペンタメチルジシロキシ等であり鎖状シロキサン構造を有さない。該構造のモノマーは、重合体としたときの酸素透過率が低い、あるいは、形状回復性が悪い場合がある。
【0015】
そこで、本発明は、所定の個数のケイ素原子を含有し、(メタ)アクリル系モノマー、特に耐汚染性を付与するフッ素置換基含有(メタ)アクリル系モノマーに対して相溶性が良好であり、眼用モノマーとして好適であり、且つ、機械的強度に優れる重合体を提供できるシリコーンモノマーを提供すること、及び、該モノマーの製造方法、特には、高純度を有するモノマーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記式(1)で表されるモノマーが、(メタ)アクリル系モノマーに対して相溶性が良好であり、無色透明のポリマーを与え、且つ、機械的強度に優れた重合体を与えることを見出し、本発明を成すに至った。
【0017】
即ち、本発明は、下記式(1)で表される化合物、及び該化合物の製造方法を提供する。
【化8】
(式(1)において、mは3であり、nは2であり、R1は炭素数1〜4のアルキル基であり、R及びRは互いに独立に、水素原子又はメチル基である)
式(1)において各特定の一のm、n、R1、R、及びRを有する1種が、化合物の質量全体のうち95質量%超を成す、前記化合物。
【発明の効果】
【0018】
本発明の式(1)で表される化合物(以下、モノマーということもある)は、(メタ)アクリル系モノマー等の重合性モノマーとの相溶性が良好であるため、これらと共重合することにより無色透明のポリマーを与える。特に耐汚染性を付与するフッ素置換基含有(メタ)アクリル系モノマーに対して相溶性が良好であり、親水性及び耐汚染性に優れるポリマーを与える。また、ケイ素原子を所定量有するため高い酸素透過性を有する。更に、スペーサー部分にウレタン結合を有するため、重合体間で水素結合を形成し、機械的強度に優れる重合体を与える。さらに、本発明の製造方法によれば、特定の構造を有する1種類の化合物を高純度で含有する化合物を提供することができる。従って、本発明の化合物及び製造方法は、眼科デバイス製造用として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
式(1)で表される化合物はスペーサー部分にウレタン結合を有することにより、得られる重合体間で水素結合を形成し、機械的強度に優れる重合体を与えることができる。また、上記式(1)において、nは1または2である。該化合物は、ウレタン結合とシロキサン構造を連結する部分にエチレンオキサイド構造が1つ存在し、ウレタン結合と(メタ)アクリル構造を連結する部分にエチレンオキサイド構造が1または2つ存在することも特徴とする。
【0020】
ウレタン結合とシロキサン構造を連結する部分にエチレンオキサイド構造を2つ以上有すると親水性が高くなり、併用する(メタ)アクリル系モノマー、特に耐汚染性を付与するフッ素置換基含有(メタ)アクリル系モノマーに対して相溶性が悪くなる。一方、エチレンオキサイド構造ではなく、プロピレンオキサイド構造であると、化合物はフッ素置換基含有(メタ)アクリル系モノマーに対して相溶性は良いが、その重合体の疎水性が高くなりすぎ親水性が損なわれる。また、ポリアルキレンオキサイド構造では得られる共重合体の強度が低くなる。ウレタン結合とシロキサン構造を連結する部分は親水性が高くない方が化合物の特性のバランスが良好となる。
【0021】
ウレタン結合と(メタ)アクリル構造を連結する部分が、エチレンオキサイド構造がない直接結合の場合は親水性が不足する。また、エチレンオキサイド構造が3つ以上あると、親水性が高すぎて水洗による高純度化が図れないし、原料となる(メタ)アクリル基含有イソシアネート化合物の入手も困難である。また、併用する(メタ)アクリル系モノマー、特に耐汚染性を付与するフッ素置換基含有(メタ)アクリル系モノマーに対する相溶性が悪くなる。
【0022】
上記式(1)において、mは2〜10、好ましくは3〜7の整数、最も好ましくは3である。mが前記下限値未満では酸素透過率が低くなる。一方、mが前記上限値を超えては、親水性が低くなる。また、mが上記範囲内にあると、モノマーが所望のケイ素原理量を有する鎖状シロキサン構造を有するため、重合体としたときの酸素透過率、あるいは、形状回復性が良好となる。R1は炭素数1〜4のアルキル基、好ましくはブチル基であり、Rは水素またはメチル基である。
【0023】
上記式(1)において、R1は炭素数1〜4のアルキル基、好ましくはブチル基であり、R及びR、互いに独立に、水素またはメチル基である。
【0024】
本発明は、後述する方法により、上記式(1)で表され、特定の構造を有する1種類の化合物を高純度で含有するモノマーを提供することができる。特定の構造を有する一種とは、即ち、特定のm、n、R1、R及びRを有する1種類の化合物を意味する。高純度とは、モノマーの質量全体のうち、該化合物を95質量%超、好ましくは99質量%以上で含有することである。本発明において、純度はガスクロマトグラフィー(以下「GC」とする)分析により求められる。詳細な条件は後述する。モノマーが上記高純度を有することにより、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等の非シリコーン系モノマーと混合したときに、濁りを生じず透明なポリマーを得ることができる。
【0025】
特には、mが3である化合物が好ましく、更には、mが3であり、Rがブチル基である化合物が好ましい。式(1)において、Rがブチル基であり、mが3であり、nが2であるとき、該化合物の分子量は713であり、化合物全体の質量に対するジメチルポリシロキサン鎖部分の質量割合は約50%である。即ち、該化合物はSi含量が高いため、得られる共重合体は高い酸素透過性を有する。
【0026】
本発明はさらに、上記式(1)で示される化合物の製造方法を提供する。
【0027】
本発明の製造方法は、下記式(2)で表されるシリコーン化合物と
【化9】
(m、R及びRは上述のとおりである)
下記式(3)で表される(メタ)アクリル基含有イソシアネート化合物を
【化10】
(n及び6は上述のとおりである)
反応させる工程を含む。該反応は、式(2)のポリオルガノシロキサンの、無溶媒下あるいはトルエンまたはヘキサン等の溶液中に、式(3)の(メタ)アクリル基含有イソシアネート化合物を、徐々に添加して、水浴等で冷却しながら0〜50℃の温度で行なうことが好ましい。
【0028】
式(3)の(メタ)アクリル基含有イソシアネート化合物の量は、式(2)のポリオルガノシロキサン1molに対して、1〜3mol、好ましくは、1.05〜2molである。上記下限値未満では式(2)のポリオルガノシロキサンが未反応物として残存し、高純度化ができない。また上記上限値を超えると経済的に不利である。
【0029】
該反応は必要に応じて触媒を使用してもよい。触媒は一般に使用されるイソシアネートの反応触媒でよく、好ましくはスズ化合物、アミン触媒である。スズ触媒としては、スズ(II)のカルボン酸塩化合物が触媒活性の点より好ましく、アミン触媒としては、トリエチルアミンやトリブチルアミン、N−エチルジイソプロピルアミンなどの3級アミンが好ましい。触媒の使用量は式(2)のポリオルガノシロキサンに対して0.001から0.1質量%であり、より好ましくは0.005〜0.05質量%である。上記上限値を超えて使用する場合には効果が飽和し、非経済的である。上記下限値未満である場合には触媒効果が不足し、反応速度が低く、生産性が低下する。
【0030】
本発明の方法の好ましい態様は、GC測定で残存シリコーン化合物(式(2))の有無をモニタリングし、そのピーク消失を確認した後に、反応物にメタノール、エタノール等のアルコールを投入して、残存する(メタ)アクリル基含有イソシアネート化合物のイソシアネートを不活性化させる。有機溶媒、水を加え攪拌した後、静置させて有機層と水層に分離する。有機層を数回水洗した後、有機層中の溶剤をストリップすることで、該反応において副反応はほぼ認められないので高純度な式(1)のシリコーン化合物が得られる。
【0031】
上記式(2)のシリコーン化合物は、下記式(4)で表されるポリオルガノハイドロジェンシロキサンと、
【化11】

(m及びRは上述のとおりである)
下記式(5)で表されるエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテルを付加反応させて、調製することができる。
【化12】

(Rは上述のとおりである)
【0032】
該付加反応は従来公知の方法に従えばよい。例えば、白金族化合物等の付加反応触媒の存在下で行う。その際、溶剤を使用してもよく、例えばヘキサン、トルエン等の脂肪族、芳香族系溶剤、エタノール、IPA等のアルコール系溶剤が好適に使用出来る。ポリオルガノハイドロジェンシロキサン1モルに対しアリルエーテル化合物を1.2モル以上、好ましくは1.5モル以上使用する。
【0033】
エチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテルとしては、例えば、エチレングリコールモノアリルエーテル、エチレングリコールモノメタリルエーテルが挙げられる。
【0034】
付加反応の好ましい態様としては、例えば、アリルエーテル化合物を必要に応じて溶剤で希釈し、そこへ白金系ヒドロシリル化触媒を添加する。白金系ヒドロシリル化触媒の種類は特に制限されず、従来公知のものが使用できる。さらに、室温もしくはそれ以上の温度でポリオルガノハイドロジェンシロキサンを滴下して反応させる。滴下終了後、加温下で熟成した後、原料ポリオルガノハイドロジェンシロキサンの有無を、例えばGC測定においてピークが消失したことで確認する。反応終点をGC測定により確認することにより、ポリオルガノハイドロジェンシロキサンが生成物中に残存しないため高純度のシリコーン化合物を得ることができる。尚、上記反応は一括で行っても良い。
【0035】
付加反応終了後に、反応液から過剰のアリルエーテル化合物を除去する。該方法としては、減圧下ストリップ、または、イオン交換水もしくはぼう硝水で反応物を水洗してアリルエーテル化合物を水層へ抽出し除去する方法が挙げられる。この際、良好な2層分離を得る為に、トルエン、ヘキサン等の溶剤を適当量使用するのが好ましい。特には、有機層から溶剤を減圧ストリップすることで、上記式(2)のシリコーン化合物を、95質量%超、更には約97質量%以上の高純度で得ることができる。より純度を高めるために、蒸留を複数回行なってもよい。
【0036】
上記式(4)で示されるポリオルガノハイドロジェンシロキサンは、公知の方法で作ることができる。例えば、式(4)においてRがブチル基であり、m=3のものは、先ずBuLiを使用してBuMeSiOLiを合成し、これを開始剤として、ヘキサメチルシクロトリシロキサンを開環し、ジメチルクロロシランで反応停止させることにより作ることができる。これを、蒸留精製して、純度99%以上のものが得られる。例えば、式(4)において、Rがブチル基であり、mが3であるモノブチルデカメチルヒドロペンタシロキサンの沸点は110℃/2mmHgである。これを式(5)で表されるエチレンプロピレングリコールモノ(メタ)アリルエーテルと付加反応した後に蒸留してもよいが、付加反応生成物はより高沸点になるので、付加反応させる前の段階で蒸留して純度を高めることにより、上記式(2)のシリコーン化合物も高純度で得ることができる。
【0037】
また、エチレンプロピレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル中の水酸基をヘキサメチルジシラザン等のシリル化剤によりシリルエステルにし、上記付加反応後にシリルエステルを加水分解して、式(2)のシリコーン化合物を得ても良い。
【0038】
本発明の化合物は、(メタ)アクリル系モノマー等の重合性モノマーとの相溶性が良好である。そのため、該重合性モノマーと共重合することにより無色透明のポリマーを与えることができる。特には、耐汚染性を付与するフッ素置換基含有(メタ)アクリル系モノマーに対して相溶性が良好であり、親水性及び耐汚染性に優れるポリマーを与えることができる。
【0039】
他の重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジメタクリレート、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2,3―ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のアクリル系モノマー;N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−アクリロイルモロホリン、N−メチル(メタ)アクリルアミド等のアクリル酸誘導体;その他の不飽和脂肪族もしくは芳香族化合物、例えばクロトン酸、桂皮酸、ビニル安息香酸;及び重合性基含有シリコーン化合物が挙げられる。これらは1種単独でも、2種以上を併用してもよい。
【0040】
本発明の化合物と上記他の重合性モノマーとの共重合は従来公知の方法により行えばよい。例えば、熱重合開始剤や光重合開始剤など既知の重合開始剤を使用して行うことができる。重合開始剤としては、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイドなどがあげられる。これら重合開始剤は単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。重合開始剤の配合量は、重合成分の合計100質量部に対して0.001〜2質量部、好ましくは0.01〜1質量部であるのがよい。
【0041】
本発明の化合物を重合成分として含む重合体は、眼科デバイス、例えば、コンタクトレンズ、眼内レンズ、人工角膜を製造するのに好適である。該重合体を用いた眼科デバイスの製造方法は特に制限されるものでなく、従来公知の眼科デバイスの製造方法に従えばよい。例えば、コンタクトレンズ、眼内レンズなどレンズの形状に成形する際には、切削加工法や鋳型(モールド)法などを使用できる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。下記実施例において、粘度はキャノンフェンスケ粘度計を用い、比重は浮秤計を用いて測定した。屈折率はデジタル屈折率計RX−5000(アタゴ社製)を用いて測定した。H−NMR分析は、JNM−ECP500(日本電子社製)を用い、測定溶媒として重クロロホルムを使用して実施した。
また、下記において化合物の純度は、以下の条件によるガスクロマトグラフィー(GC)測定により行ったものである。
ガスクロマトグラフィー(GC)測定条件
ガスクロマトグラフ:Agilent社製
検出器:FID、温度300℃
キャピラリーカラム:J&W社 HP−5MS(0.25mm×30m×0.25μm)
昇温プログラム:50℃(5分)→10℃/分→250℃(保持)
注入口温度:250℃
キャリアガス:ヘリウム(1.0ml/分)
スプリット比: 50:1
注入量:1μl
【0043】
[実施例1]
エチレングリコールモノアリルエーテル76.5g(0.75mol)、トルエン100gを、攪拌機、ジムロート、温度計、及び滴下ロートを付けた1リットルフラスコに仕込み、70℃まで昇温した。塩化白金酸アルカリ中和物ビニルシロキサン錯体触媒トルエン溶液(白金含有量0.5%)0.38gを前記フラスコ中に添加した後、滴下ロートを用いて、1−ブチル−9−ヒドロ−1,1,3,3,5,5,7,7,9,9−デカメチルペンタシロキサン206g(0.5mol)を1時間かけて前記フラスコ中へ滴下した。内温は85℃まで上昇した。100℃で1時間熟成後に反応物をGCで分析したところ、原料モノブチルデカメチルヒドロペンタシロキサンのピークが消失し、反応が完結したことを示した。反応物に200gのイオン交換水を加え、攪拌しながら水洗し、静置して相分離させ、過剰のエチレングリコールモノアリルエーテルを含む水層を除去した。同様にして、200gイオン交換水で2回水洗し、有機層のトルエンを減圧ストリップして、無色透明液体であり下記式(6)で示されるシリコーン化合物242g(収率94%)を得た。GC測定による該シリコーン化合物の純度は99.4質量%であった。
【化13】
【0044】
上記式(6)のシリコーン化合物128.5g(0.25mol)、ジオクチルスズオキサイド0.01g(0.01質量%)、アイオノール0.01g、4−メトキシフェノール0.01gを、攪拌機、ジムロート、温度計、滴下ロートを付けた、1リットルフラスコに仕込み、下記式(7)で表される(メタ)アクリル基含有イソシアネート化合物40.3g(0.26mol)を1時間かけて滴下した。内温は20℃から40℃まで上昇した。シリコーン化合物のピークをGC測定でモニタリングしながら40℃で熟成した。4時間後に、シリコーン化合物のピークが、GC測定での検出限界以下になったことを確認し、反応液にメタノール4.0g(0.125mol)を加えた。更に、ヘキサン180g、イオン交換水180g加え水洗した。静置分離して水層をカットした後、さらに2回水洗した。有機層から溶媒のヘキサン等を減圧ストリップすることにより、無色透明液体の生成物147gを得た。H-NMR分析により下記式(8)で表されるメタクリルモノマーであることが確認された(0.22mol、収率88%)。GC測定による該シリコーン化合物の純度は97.3%であり、粘度は32.6mm/s(25℃)であり、比重は0.993(25℃)であり、屈折率は1.4381であった。
【化14】

【化15】
【0045】
[実施例2]
実施例1において上記式(7)で表される(メタ)アクリル基含有イソシアネート化合物40.3g(0.26mol)の替わりに下記式(9)で表される(メタ)アクリル基含有イソシアネート化合物30.9g(0.26mol) を使用した以外は実施例1を繰り返し、無色透明液体の生成物128.3gを得た。またH-NMR分析で、下記式(10)で表されるメタクリルモノマーであることが確認された(0.18mol、収率90%)。GC測定による該シリコーン化合物の純度は96.5%であり、粘度は29.5mm/s(25℃)であり、比重は0.995(25℃)であり、屈折率は1.4382であった。
【化16】

【化17】
【0046】
[比較例1]
実施例1で使用した上記式(6)のシリコーン化合物205.6g(0.4mol)、脱塩酸剤トリエチルアミン50.6g(0.5mol)、ヘキサン500gを、攪拌機、ジムロート、温度計、滴下ロートを付けた、2リットルフラスコに仕込み、フラスコを水浴中で冷却しながら、メタクリル酸クロライド48.1g(0.46mol)とヘキサン50gの混合物を1時間かけて滴下した。内温は20℃から30℃まで上昇した。水浴をはずし、シリコーン化合物のピークをGCでモニターしながら室温で熟成した。10時間後に、シリコーン化合物のピークが、GCでの検出限界以下になったので、反応液にイオン交換水500g加え水洗した。静置分離して水層をカットした後、さらに2回水洗した。有機層から溶媒のヘキサン等を減圧ストリップすることにより、無色透明液体の生成物206gを得た。H-NMR分析で、下記式(11)で表されるメタクリルモノマーであることが確認された(収率89%)。GC測定による該シリコーン化合物の純度は98.5%であり、粘度は5.9mm/s(25℃)であり、比重は0.944(25℃)であり、屈折率は1.4260であった。
【化18】
【0047】
[比較例2]
実施例1においてエチレングリコールモノアリルエーテル76.5gの替わりにジエチレングリコールモノアリルエーテル109.5g(0.75mol)を使用した以外は実施例1を繰り返した。反応終了後、200gイオン交換水で水洗したところ、分離不良だったので水を5%ぼう硝水に変更した。有機層のトルエンを減圧ストリップして下記式(12)で表されるシリコーン化合物240g(収率87%)を得た。GC測定で求めた該化合物の純度は99.1質量%だった。
【化19】
【0048】
比較例1において上記式(6)で表されるシリコーンカルビノール205.6gの替わりに、上記式(12)で表されるシリコーンカルビノール223.2g(0.4mol)を使用した以外は、比較例1を繰り返した。水洗時にイオン交換水の替わりに5%ぼう硝水を使用し、最終工程で、溶媒のヘキサン等を減圧ストリップすることにより無色透明液体の生成物213gを得た。H-NMR分析により下記(13)で表されるメタクリルモノマーであることが確認された(収率85%)。 GC測定で求めた該モノマーの純度は97.7質量%であり、粘度は6.4mm/s(25℃)であり、比重は0.945(25℃)であり、屈折率は1.4267であった。
【化20】
【0049】
[比較例3]
実施例1において上記式(6)のシリコーン化合物143g(0.25mol)の替わりに比較例2で合成した式(12)のシリコーン化合物139.5g(0.25mol)使用した以外は、実施例1を繰り返し、無色透明液体の生成物164gを得た。H-NMR分析により、下記式(14)で表されるメタクリルモノマーであることが確認された(0.23mol、収率92%)。 GC測定で求めた該化合物の純度は96.3質量%であり、粘度は34.5mm/s(25℃)、比重は0.990(25℃)、屈折率は1.4373であった。
【化21】
【0050】
[比較例4]
実施例2において式(6)のシリコーン化合物143g(0.25mol)の替わりに比較例2の式(12)のシリコーン化合物139.5g(0.25mol)使用した以外は、実施例2を繰返し、無色透明液体の生成物174.1gを得た。H-NMR分析により下記式(15)で表されるメタクリルモノマーであることが確認された(0.23mol、収率92%)。GC測定による該シリコーン化合物の純度は96.3%であり、粘度は30.8mm/s(25℃)、比重は0.999(25℃)、屈折率は1.4371であった。
【化22】
【0051】
[比較例5]
実施例1においてエチレングリコールモノアリルエーテル76.5gの替わりにジプロピレングリコールモノアリルエーテル130.5g(0.75mol)を使用した以外は実施例1を繰返し、無色透明液体であり、下記式(16)で表されるシリコーン化合物254.9g(0.43mol、収率87%)を得た。GC測定で求めた該化合物の純度は99.2質量%だった。
【化23】
【0052】
実施例2において上記式(6)で表されるシリコーン化合物139.5gの替わりに、上記式(16)のシリコーン化合物146.5g(0.25mol)を使用した以外は、実施例2を繰り返し、無色透明液体の生成物163.0gを得た。またH-NMR分析により下記式(17)で表されるメタクリルモノマーであることが確認された(0.22mol、収率88%)。 GC測定で求めた該化合物の純度は96.6質量%であり、粘度は35.3mm/s(25℃)、比重は1.003(25℃)、屈折率は1.4392であった。
【化24】
【0053】
[評価試験]
実施例1及び2、並びに比較例1〜5で得られた化合物について、下記の評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0054】
(1)モノマーの相溶性
モノマー(60質量部)、N,N−ジメチルアクリルアミド(35質量部)、トリエチレングリコールジメタクリレート(1質量部)、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート(5質量部)、ダロキュア1173(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製、0.5質量部)を混合し撹拌した。得られた混合物の外観を目視により観察した。モノマーと他の化合物との相溶性が良好である混合物は無色透明になるが、相溶性が悪い混合物は濁りを生じる。
【0055】
(2)フィルム(重合体)の外観
上記(1)で調製した混合物をアルゴン雰囲気下で脱気した。該混合液を、石英ガラス板2枚をはさんだ鋳型に流し込み、超高圧水銀ランプで1時間照射したところ、厚さ約0.3mmのフィルムを得た。該フィルムの外観を目視観察した。
【0056】
(3)フィルム(重合体)の水濡れ性(表面親水性)
上記(2)で製造したフィルムに対して、接触角計CA−D型(協和界面科学株式会社製)を用い、液適法にて水接触角°の測定を行った。
【0057】
(4)フィルム(重合体)の耐汚染性
上記(2)で製造したフィルムを37℃リン酸緩衝液(PBS(−))に24時間浸漬した。浸漬前および24時間浸漬した後の各フィルムを、公知の人工脂質液中にて、37℃±2℃にて8時間インキュベートした。その後、PBS(−)にて濯ぎ洗いをし、0.1%スダンブラックー胡麻油溶液に浸漬した。浸漬前後で染色状態に差異が確認されない場合を○、確認された場合を×とした。
【0058】
(5)機械的強度
上記(2)に従いフィルムを2枚作製し、その内の1枚の表面水分を拭き取った後に37℃リン酸緩衝液(PBS(一))に24時間浸漬した。PBS(一)浸漬前および24時間浸漬後のフィルム各々を幅2.Ommのダンベル形状にカットし、試験サンプルの上下端を冶具で挟み、一定速度で引張続けた際の破断強度および破断伸度を破断試験機AGS−50NJ(株式会社島津製作所製)を用いて測定した。破断強度と破断伸度が、PBS(一)に浸漬前後で、10%以内の変化の場合は○、10%を超える減少が認められる場合は×とした。
【0059】
【表1】
【0060】
本発明の化合物は、他の(メタ)アクリル系モノマーとの相溶性が良好であり、無色透明な重合体を提供することができる。また、フッ素置換基含有(メタ)アクリル系モノマーとも良好に相溶するため、親水性及び耐汚染性に優れる重合体を与えることができる。さらに、ウレタン結合を有することにより機械的強度に優れた重合体を与える。これに対し、比較例1〜4のモノマーは(メタ)アクリル系モノマーとの相溶性が悪く透明な重合物を得られない。また、ウレタン結合とシロキサン構造を連結する部分の構造がプロピレンオキサイド−プロピレンオキサイド構造である比較例5のモノマーから得られた重合体は水濡れ性(表面親水性)に劣る。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の化合物は、重合性モノマーと共重合して、酸素透過性を有し、無色透明であり、且つ機械的強度に優れる重合体、特には、親水性及び耐汚染性に優れる重合体を与えることができる。また、本発明の製造方法によれば、特定の構造を有する1種類の化合物を高純度で含有する化合物を提供することができる。従って、本発明の化合物及び該化合物の製造方法は、コンタクトレンズ材料、眼内レンズ材料、及び人工角膜材料など、眼科デバイスの製造のために有用である。