(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかるリップシールに代えて、ラビリンスシール(例えば、上記の特許文献1)を利用して、潤滑油の流出を抑制することも可能である。例えば、軸受カバーの貫通部、すなわち、軸受カバーにおける主軸の外面に対向する面にラビリンスと呼ばれる溝を設ける。かかる溝構造によれば、主軸と軸受カバーとの隙間に入り込んだ潤滑油は、潤滑油の表面張力によって溝に滞留し、溝に沿って下方に導かれる。この溝を、貫通部のほぼ全周にわたって形成しておき、最下部の所定の幅だけは、溝に代えて、軸受カバーの軸受側の面を、溝と同じ深さ、または、それよりも深い深さで切り欠いた切欠き部を形成しておけば、溝に沿って下方に導かれた潤滑油を、切欠き部から油溜に導くことができる。かかるラビリンスシールによれば、軸受カバーと主軸とが非接触の状態でオイルシールが行われるので、上述したリップシールのような問題が生じない。
【0006】
しかしながら、上述したラビリンスシールでは、最下部の切欠き部においては、溝が形成されていないため、切欠き部に飛散した潤滑油は大気側に流出しやすい。しかも、溝の深さや溝の数などは、スペースの制約等から有限であり、潤滑油の飛散量が多い場合には、当該溝だけでは、潤滑油の外部への流出を十分に抑制できないおそれがある。かかる問題は、ポンプに限らず、油潤滑軸受を採用する種々の回転機械に共通する。このようなことから、油潤滑軸受の潤滑油の外部への流出を好適に抑制できる技術が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0008】
本発明の第1の形態は、軸線方向に延びる主軸と、該主軸を回転可能に支承する軸受であって、潤滑油を使用する軸受と、を備えた回転機械用の潤滑油流出抑制装置として提供される。この潤滑油流出抑制装置は、軸受の一方側を覆うための軸受カバーであって、主
軸が軸線方向に貫通するための貫通穴が形成された軸受カバーと、軸受と軸受カバーとの間において、主軸と離間して、主軸の周囲を取り囲むように配置される油カバーとを備える。
【0009】
かかる潤滑油流出抑制装置によれば、軸受から軸受カバー側に向かって潤滑油が飛散した際に、当該潤滑油の飛散を油カバーによって遮ることができる。したがって、潤滑油が軸受カバーの貫通穴に侵入し、外部へ流出することを抑制できる。
【0010】
本発明の第2の形態として、第1の形態において、油カバーは、軸線に直交する底面であって、中央に主軸が貫通する第1の貫通穴が形成された底面と、底面の径方向外側の端部から、軸受側に向かって軸受の近傍まで周方向の全体に亘って形成された外側側面とを備えていてもよい。かかる形態によれば、油カバーの径方向外側に向けて飛散した潤滑油のほとんどは、外側側面によって捕捉され、油カバーの内側に留まることになる。したがって、潤滑油が、油カバーの径方向外側に飛散し、油カバーの径方向外側から軸受カバー側に侵入することを抑制できる。その結果、潤滑油の軸受カバーの貫通穴への侵入をいっそう抑制できる。
【0011】
本発明の第3の形態として、第2の形態において、油カバーは、底面の径方向内側の端部から、周方向の全体に亘って軸受側に向かって延びて形成された内側側面を備えていてもよい。かかる形態によれば、油カバーの内側に飛散した潤滑油は、内側側面の内面を伝って下方に誘導されるので、潤滑油が、主軸と油カバーとの間の隙間、または、油切リングと油カバーとの間の隙間に侵入するのを抑制できる。したがって、潤滑油が油カバーの軸受カバー側に移動することを抑制できる。その結果、潤滑油の軸受カバーの貫通穴への侵入をいっそう抑制できる。
【0012】
本発明の第4の形態として、第1ないし第3いずれかの形態において、油カバーは、軸受カバーの内側に形成された段部に嵌め込まれていてもよい。かかる形態によれば、油カバーの取り付けを容易に行える。
【0013】
本発明の第5の形態として、第1ないし第4のいずれかの形態において、潤滑油流出抑制装置は、主軸の外周に周方向に沿って設けられる油切リングであって、軸受と軸受カバーとの間に設けられる油切リングを備えていてもよい。油カバーは、油切リングと離間して油切リングの周囲を取り囲む位置に配置されていてもよい。かかる形態において、油カバーと油切リングとの間の隙間から油切リング上を潤滑油が軸受カバー側に侵入した場合に、当該潤滑油は、主軸および油切リングの回転に伴う遠心力によって主軸から離れる方向に飛ばされる。かかる形態によれば、油切リングを有していない構成、すなわち、油カバーと主軸との間の隙間から主軸上を潤滑油が軸受カバー側に侵入し、当該潤滑油が遠心力によって主軸から離れる方向に飛ばされる構成と比べて、潤滑油は、主軸からより離れた位置から主軸と離れる方向に飛ばされる。したがって、潤滑油の軸受カバーの貫通穴への侵入をいっそう抑制できる。
【0014】
本発明の第6の形態として、第5の形態において、油切リングは、第1の部位と、第1の部位よりも径が大きく形成されるとともに、第1の部位よりも軸受カバー側に位置する第2の部位と、を備えていてもよい。油カバーの軸線側の端部は、第2の部位の軸受側の端部よりも軸受カバー側に配置されていてもよい。かかる形態によれば、第1の部位に飛散した潤滑油は、油カバーよりも軸受カバー側に侵入しにくい。したがって、潤滑油の軸受カバーの貫通穴への侵入をいっそう抑制できる。
【0015】
本発明の第7の形態として、第5または第6の形態において、軸受カバーの内面における軸受と対向する部位には、少なくとも貫通穴の中心よりも上方の位置において貫通穴の
外側を取り囲む油逃がし溝が形成されていてもよい。かかる形態によれば、潤滑油が油カバーよりも軸受カバー側に侵入した場合であっても、油切リングから軸受カバーの内面のうちの油逃がし溝よりも外側の領域に飛散した潤滑油は、当該内面を伝って油逃がし溝に導かれる。油逃がし溝に導かれた潤滑油は、重力によって油逃がし溝に沿って貫通穴よりも下方に移動するので、潤滑油が軸受カバーの貫通穴に侵入するのを抑制できる。
【0016】
本発明の第8の形態として、第7の形態において、油切リングの軸線と直交する直交方向における周方向外側の端面と、油逃がし溝の内周側の頂部とは、半径方向において同一の位置にあってもよい。かかる形態によれば、油カバーと油切リングとの間の隙間から油切リング上を潤滑油が軸受カバー側に侵入しても、当該潤滑油のほぼ全ては、油逃がし溝よりも外側の領域に飛散する。したがって、第5の形態の効果を最大限高めることができる。
【0017】
本発明の第9の形態として、第4の形態、または、第4の形態を少なくとも含む第5ないし第8のいずれの形態において、外側側面には、軸受側の端部の下端に、側面の厚み方向に貫通する切欠部が形成されていてもよい。かかる形態によれば、油カバーの底面の軸受側に飛散した潤滑油を、切欠部を介して油カバーよりも下方に導くことができるので、油カバーの軸受側に潤滑油が滞留することがない。
【0018】
本発明の第10の形態として、第9の形態において、外側側面は、切欠部の基端から軸線と離れる側に延びて形成された折曲部を備えていてもよい。かかる形態によれば、軸受カバーに設けられた、潤滑油を下方に導く溝に折曲部を挿入して、油カバーを軸受カバーに取り付けることができる。つまり、油カバーの位置決めを容易に行うことができる。
【0019】
本発明の第11の形態として、第9または第10の形態において、底面の下端部には、底面の厚み方向に貫通する第2の貫通穴が形成されてもよい。第2の貫通穴の最下端は、潤滑油の液面よりも下方に位置するように配置されていてもよい。かかる形態によれば、油カバーよりも軸受カバー側に侵入し、下方に滞留した潤滑油が、油カバーよりも軸受側に移動しやすくなり、油カバーよりも軸受カバー側の潤滑油の液面レベルが、油カバーよりも軸受側の潤滑油の液面レベルよりも高くなることを防止できる。その結果、軸受の回転による潤滑油液面の波立ちによって油切リングの外周と潤滑油とが接触し、油の飛散が助長されることを防止できる。したがって、油カバーよりも軸受カバー側に侵入した油が、当該側に滞留して、潤滑油が軸受カバーの貫通穴に侵入するのを抑制できる。
【0020】
本発明の第12の形態として、第9ないし第11のいずれかの形態において、油カバーは、上下対称の形状を有していてもよい。かかる形態によれば、油カバーが、その上下の位置を誤った状態で取り付けられることがない。換言すれば、作業員は、油カバーの上下位置を区別して認識する必要がないので、油カバーの取り付け作業が容易になる。
【0021】
本発明の第13の形態として、第9ないし第12のいずれかの形態において、油カバーの軸受側の面には、少なくとも第1の貫通穴の中心よりも上方の位置において第1の貫通穴の外側を取り囲む油逃がし溝が形成されていてもよい。かかる形態によれば、油カバーに飛散した潤滑油を油逃がし溝に導き、重力によって油逃がし溝に沿って軸受けカバーの貫通穴よりも下方に移動させることができる。したがって、潤滑油が軸受カバーの貫通穴に侵入するのを抑制できる。
【0022】
本発明の第14の形態は、主軸と、軸受と、第1ないし第13のいずれかの形態の潤滑油流出抑制装置とを備えた回転機械として提供される。かかる回転機械によれば、第1ないし第13の形態と同様の効果を奏する。
【0023】
本発明の第15の形態は、軸線方向に延びる主軸と、主軸を回転可能に支承する軸受であって、潤滑油を使用する軸受と、を備えた回転機械において、潤滑油の流出を抑制する方法として提供される。この方法は、軸受と、該軸受の一方側を覆うための軸受カバーであって、主軸が軸線方向に貫通するための貫通穴が形成された軸受カバーと、の間において、主軸と離間して、主軸の周囲を取り囲むように配置される油カバーを設置し、軸受から軸受カバー側に向かう潤滑油の飛散の少なくとも一部を油カバーで遮ることによって、貫通穴から潤滑油が外部へ流出するのを抑制する。かかる方法によれば、第1の形態と同様の効果を奏する。
【0024】
本発明は、上述した形態に限らず、軸受カバー、油切リングなどとしても実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、本発明の一実施例としてのポンプ20の概略構成を示す断面図である。図示するように、回転機械の一例としてのポンプ20は、主軸30と、軸受ケーシング40と、軸受51,52と、潤滑油流出抑制装置80とを備える。軸受ケーシング40の内部において、主軸30は、鉛直(重力)方向と直交する軸線AL方向に沿って延びて形成され、その一端側には、主軸30の周囲に羽根車35が固定されている。主軸30の他端側では、主軸30が軸受51,52によって片持ち支承されている。主軸30の他端側の軸受52よりも先には、電動機(図示省略)が連結される。かかる構成によって、主軸30および羽根車35は、軸線ALを回転中心軸として回転する。
【0028】
軸受51,52は、潤滑油を使用する玉軸受である。軸受51と軸受52との間には、軸受ケーシング40によって油溜41が形成されている。本実施例では、油溜41におけるオイルレベルOLは、軸受51,52を構成する玉が最も下方に位置する際の当該玉の中心付近に維持される。
【0029】
軸受ケーシング40は、主軸30の他端側において、軸受52の位置で終端しており、これにより、軸受52の外側(軸受51と反対の側)は、軸受ケーシング40から露出している。この軸受52の一方側、すなわち、露出部分は、軸受カバー60によって覆われている。軸受カバー60は、本実施例では、有底円筒状のカップ形状を有している。軸受カバー60の底部と反対側の端部は、フランジ状に形成されており、それによって、軸受カバー60が軸受ケーシング40に取り付けられている。軸受カバー60の底部には、軸線AL方向に貫通する貫通穴61が形成されている。主軸30は、貫通穴61を貫通して、軸受カバー60の外部にまで延びている。
【0030】
軸受52と軸受カバー60との間には、油カバー90と油切リング70とが配置されている。軸受カバー60と油カバー90と油切リング70とは、主軸30が回転した際に軸受52から飛散する潤滑油が外部(電動機の側)に流出するのを抑制する潤滑油流出抑制
装置80として機能する。
【0031】
図2は、軸受52および潤滑油流出抑制装置80の周辺の概略構成を示す
図1の部分拡大図である。
図3は、軸受カバー60の概略構成を示す。
図3(a)は、
図2と同じ断面での軸受カバー60の断面図であり、
図3(b)は、軸受カバー60の内面(軸受52側の面)の矢視図である。
図4は、油切リング70の概略構成を示す。
図4(a)は、
図2と同じ断面での油切リング70の断面図であり、
図4(b)は、油切リング70を軸受カバー60が取り付けられる側から見た矢視図である。
図5は、油カバー90の概略構成を示す。
【0032】
図2および
図3に示すように、軸受カバー60の内面における軸受52と対向する部位には、油逃がし溝62が形成されている。当該部位は、本実施例では、軸線ALに直交する面として形成されている。油逃がし溝62は、貫通穴61の外側を取り囲んで、環状に形成されている。油逃がし溝62は、当該溝の外周側の端点である頂部62aと、当該溝の内周側の端点である頂部62bと、当該溝の最も深い部位である底部62cと、を有している。
【0033】
油逃がし溝62の表面(溝を形成する面)の外周側の端部、すなわち、頂部62aの周辺は、軸線ALに対して角度θで斜めに交差する、軸受52の側を向いた傾斜面を有している。本実施例では、油逃がし溝62の頂部62aと底部62cとの間の表面は、外周側の端部に限らず、頂部62aから底部62cに至るまで、軸線ALに対して角度θで軸線ALと交差するように、換言すれば、頂部62aから底部62cに向かうにつれて、軸線ALに近づくように、形成されている。本実施例では、頂部62aから底部62cに至るまで角度θは、一定値である。かかる油逃がし溝62の形状によれば、貫通穴61の中心(軸線ALが通る位置)よりも上方(鉛直方向の上方)の位置においては、軸受カバー60の内面における溝62よりも外側の外側面63に飛散した潤滑油を油逃がし溝62、より具体的には、底部62cに導きやすい。また、貫通穴61の中心よりも下方の位置においては、油逃がし溝62の潤滑油を油逃がし溝62の外部、すなわち、貫通穴61よりも下方に導きやすい。
【0034】
潤滑油を好適に導くことができる油逃がし溝62の表面の傾斜角度を確保しつつ、広範囲にわたって潤滑油を導くためには、角度θは、30°以上、かつ、75°以下であることが望ましい。本実施例では、角度θは、45°である。なお、角度θは、位置によって変化していてもよい。
【0035】
油逃がし溝62の表面の内周側の端部、すなわち、頂部62bの周辺は、軸線ALに対して平行に形成されている。本実施例では、油逃がし溝62の頂部62bと底部62cとの間の表面は、内周側の端部に限らず、頂部62bから底部62cに至るまで軸線ALに対して平行に形成されている。かかる油逃がし溝62の形状によれば、油逃がし溝62に導かれた潤滑油が油逃がし溝62よりも内側の内側面64に侵入しにくい。ただし、油逃がし溝62の表面の内周側の端部は、軸線ALに対して斜めに交差する、軸受52と反対の側を向いた傾斜面として形成されていてもよい。つまり、油逃がし溝62の表面の内周側の端部は、頂部62bから底部62cに向かうにつれて、軸線ALに近づくように形成されていてもよい。さらに、頂部62bと底部62cとの間の表面は、頂部62bから底部62cに至るまで軸線ALに対して斜めに交差する、軸受52と反対の側を向いた傾斜面として形成されていてもよい。これらの構成としても、上述の軸線ALに対して平行な構成と同様の効果を奏する。
【0036】
上述した油逃がし溝62によれば、油逃がし溝62よりも外側の外側面63に飛散した潤滑油が外側面63を伝って重力によって下方に移動した場合に、当該潤滑油を捕捉でき
る。油逃がし溝62に捕捉された潤滑油は、重力によって環状の油逃がし溝62に沿って貫通穴61よりも下方に移動し、油溜41に戻る。したがって、外側面63に飛散した潤滑油が軸受カバー60の貫通穴61に侵入し、主軸30と、軸受カバー60の貫通穴61を形成する面と、の隙間を通じて外部に流出するのを抑制できる。
【0037】
図2および
図3に示すように、軸受カバー60の貫通穴61を形成する面には、周方向に沿って、少なくとも1つ(ここでは2つ)の溝65が形成されている。この溝65は、ラビリンスシールを構成する。また、軸受カバー60の貫通穴61を形成する面の下方には、軸受52側が切り欠かれた切欠部66が形成されている。溝65は、切欠部66が形成された領域を除き、環状に形成されており、その下端部で切欠部66と連通している。かかる構成によれば、潤滑油流出抑制装置80によっても僅かな量の潤滑油が貫通穴61に侵入したとしても、切欠部66によって、当該潤滑油が捕捉され、切欠部66を介して油溜41に戻される。
【0038】
図2に示すように、油切リング70は、軸受52と軸受カバー60との間において、主軸30の外周に周方向に沿って設けられる。油切リング70の中央部には、主軸30の径とほぼ同一の径を有する貫通穴74が形成されている(
図4参照)。油切リング70は、本実施例では、貫通穴74に主軸30を通した後、ビス止めすることによって、主軸30に固定されている。このため、主軸30が回転すると、油切リング70は、主軸30と共に回転する。
【0039】
油切リング70は、
図2および
図4に示すように、軸線AL方向に沿って延びる第1の部位71と、第1の部位71よりも軸受カバー60側に位置する第2の部位72とを備える。第2の部位72は、第1の部位71よりも径が大きく形成されている。
図2に示すように、油切リング70は、軸受カバー60の内側面64との間に僅かな隙間を残して、軸受カバー60と軸受52との間のほぼ全域に延びて形成されている。第1の部位71の軸線AL方向における軸受52側の端部は、軸受52の外輪と当接している。かかる構成によれば、軸受52から主軸30に向けて飛散した潤滑油は、第1の部位71によって遮られ、回転する第1の部位71の遠心力によって、半径方向外側に飛ばされる。このため、潤滑油が主軸30に付着し、当該潤滑油が主軸30を伝って軸受カバー60に向かう方向に移動して、外部に流出することがない。
【0040】
油切リング70の半径方向の高さは、
図2に示すように、第2の部位72の周方向外側の端面72aがオイルレベルOLと接触しない範囲となっている。こうすれば、油切リング70が主軸30と共に回転した際に、第2の部位72がオイルレベルOLと接触して、潤滑油が飛び散ることがない。
【0041】
上述した油切リング70によれば、油切リング70(第2の部位72)の外径に相当する範囲の領域、すなわち、内側面64に向かって飛散した潤滑油が油切リング70によって遮られるので、飛散した潤滑油が内側面64に着弾するのを防止できる。したがって、潤滑油が内側面64に着弾し、当該潤滑油が軸受カバー60の貫通穴61に侵入し、主軸30と、軸受カバー60の貫通穴61を形成する面と、の隙間を通じて外部に流出するのを抑制できる。
【0042】
さらに、本実施例では、
図2に示すように、油切リング70の周方向外側の端面72aと、油逃がし溝62の内周側の頂部62bとは、半径方向において同一の位置にある。つまり、軸線ALと直交する面方向において、溝62よりも内側の内側面64の全領域は、油切リング70によって、潤滑油の飛散が遮られることになる。このことは、油逃がし溝62よりも外側の外側面63に飛散した潤滑油が、溝62によって貫通穴61への侵入が抑制されることと相まって、潤滑油の外部への流出抑制効果を著しく大きなものにする。
また、頂部62bが端面72aよりも軸線AL側にある場合と比べて、軸受カバー60と油切リング70との隙間に潤滑油が入り込みにくいので、貫通穴61への潤滑油の侵入が抑制される。ただし、頂部62bが端面72aよりも軸線AL側にある構成を排除するものではない。同様に、端面72aが頂部62bよりも軸線AL側にある構成を排除するものではない。
【0043】
図2および
図4に示すように、油切リング70の第2の部位72の軸受カバー60側の面(内側面64と対向する面)には、軸線ALの側から油切リング70の外径側に向かって延びる溝73が形成されている。本実施例では、溝73は、半径方向に延びている。この溝73は、周方向に沿って複数形成されている。
図4(b)では、6つの溝73が周方向に等角度間隔に形成された例を示している。かかる溝73が形成されていることにより、油切リング70が主軸30と共に回転した際に、溝73の形状がポンプのインペラと同様の機能を果たすので、内側面64と油切リング70との間に潤滑油が侵入したとしても、当該潤滑油が遠心力によって主軸30(貫通穴61)から遠ざかる方向に排出されやすくなる。その結果、潤滑油が貫通穴61から外部に流出するのを一層抑制できる。
【0044】
しかも、
図4に示すように、油切リング70に形成された溝73は、外周側が開口し、内周側が閉口している。すなわち、溝73の外周側の端部である溝端73aは、油切リング70の軸受カバー60側の面の外郭まで延びて形成されており、溝73の内周側の端部である溝端73bは、貫通穴74に達する前に終端している。かかる構成によれば、潤滑油が貫通穴74側、すなわち、主軸30側に侵入するのを一層抑制できる。本実施例では、溝端73bは、半円形形状を有している。
【0045】
油カバー90は、
図2に示すように、軸受52と軸受カバー60との間において、主軸30と離間して主軸30の周囲を取り囲むように配置される。本実施例では、主軸30の周りには、油切リング70が取り付けられているので、油カバー90は、油切リング70と離間して、油切リング70の周囲を取り囲むように配置されている。油カバー90と油切リング70との間の隙間D1は、両者が接触しない範囲で、極力小さくすることが望ましい。油カバー90は、本実施例では、軸受カバー60の内側に形成された段部67に嵌め込まれている。段部67は、外側面63よりも径方向外側に形成されている。かかる構成とすれば、油カバー90の取り付けが容易である。ただし、油カバー90の取り付け方法は、任意の方法を採用できる。例えば、油カバー90は、軸受52の外縁部に嵌め込まれて、取り付けられる構成であってもよい。油カバー90によれば、油カバー90から軸受カバー60に向けて油切リング70よりも径方向外側に飛散する潤滑油を遮ることができる。
【0046】
図2および
図5に示すように、油カバー90は、底面91と外側側面92とを備えている。底面91は、軸線ALに直交する面であり、略円形の外形を有している。底面91の内部には、主軸30および油切リング70が貫通する第1の貫通穴99が形成されている。外側側面92は、底面91の径方向外側の端部から軸受52の近傍まで延びて形成されている。この外側側面92は、周方向の全体に亘って形成される。油カバー90の径方向外側に向けて飛散した潤滑油のほとんどは、外側側面92によって捕捉され、油カバー90の内側に留まることになる。このため、潤滑油が、油カバー90の径方向外側に飛散し、油カバー90の径方向外側から軸受カバー60側に侵入するリスクを低減できる。
【0047】
図5に示すように、外側側面92の軸受52側の端部の下端には、それぞれ、外側側面92の厚み方向に貫通する切欠部97が形成されている。油カバー90よりも軸受52側の潤滑油、例えば、軸受52から油カバー90に向かって飛散し、油カバー90を伝って下方に導かれた潤滑油は、切欠部97を介して下方に導かれる。したがって、油カバー90の内部に潤滑油が滞留し、油カバー90の内部のオイルレベルが局所的に上昇すること
を抑制できる。その結果、潤滑油が油カバー90よりも軸受カバー60側に侵入するリスクを低減できる。
【0048】
外側側面92の切欠部97の基端には、軸線ALと離れる側に延びて形成された折曲部95が形成されている。軸受カバー60の溝68(
図3参照)に折曲部95を挿入して、油カバー90を軸受カバー60に取り付けることができる。溝68は、油逃がし溝62によって下方に導かれた潤滑油をさらに下方に導くために設けられている。折曲部95によれば、油カバー90の位置決めを容易に行うことができる。
【0049】
底面91の下端部には、底面91の厚み方向に貫通する第2の貫通穴93が形成されている。第2の貫通穴93の最下端93aは、油溜41におけるオイルレベルOLよりも下方の位置に設けられている。かかる第2の貫通穴93は、油カバー90よりも軸受カバー60側に侵入した潤滑油が下方に滞留するのを抑制できる。具体的には、油カバー90と軸受カバー60との間の空間の下方に滞留する潤滑油は、第2の貫通穴93によって油カバー90における軸受52側と導通できるので、第2の貫通穴93がない場合よりも、滞留する潤滑油の液面レベルを低減できる。したがって、潤滑油が貫通穴61に侵入するリスクを低減できる。第2の貫通穴93の最上端93bは、潤滑油のオイルレベルOL以下の位置に配置されることが望ましい。
【0050】
かかる油カバー90は、上下対称の形状に形成されている。すなわち、油カバー90には、切欠部97、折曲部95および第2の貫通穴93と上下対称となる位置に、それぞれ、切欠部98、折曲部96および第2の貫通穴94が形成されている。かかる構成によれば、作業員は、油カバー90の取り付けの際に、油カバー90の上下位置を区別して認識する必要がないので、油カバー90の取り付け作業が容易になる。
【0051】
第2の貫通穴94は、さらなる効果を奏する。すなわち、第2の貫通穴94によって、油カバー90(底面91)の開口面積が大きくなるので、油カバー90の内部空間の熱を好適に放熱させ、軸受52内の潤滑油が過剰に高温になるのを抑制できる。軸受52の軸受51側の面を覆って潤滑油の軸受52側への飛散を防止する場合には、軸受52の内部に熱が籠もりやすいので、かかる構成は、特に有効である。このような底面91の貫通穴は、所望の放熱特性に応じて、任意の箇所に任意の数だけ形成してもよい。
【0052】
かかる油カバー90は、本実施例では、
図2に示すように、油カバー90の軸線AL側の端部が、油切リング70の第2の部位72の軸受52側の端部よりも軸受カバー60側に位置するように配置されている。換言すれば、底面91は、軸線AL方向において、油切リング70の第2の部位72の軸受52側の端部よりも軸受カバー60側に位置している。かかる構成によれば、第1の部位71に飛散した潤滑油は、油カバー90よりも軸受カバー60側に侵入しにくい。具体的には、底面91と油切リング70(第2の部位72)との隙間の位置が、第2の部位72の軸受52側の端部から軸受カバー60側に距離D2だけオフセットされているので、第1の部位71に付着した潤滑油や、第2の部位72の軸受52側の端面に付着した潤滑油が、遠心力によって軸線ALから遠ざかる方向に飛ばされても、これらの潤滑油が油カバー90よりも軸受カバー60側に侵入しにくい。
【0053】
上述した潤滑油流出抑制装置80によれば、軸受52から軸受カバー60側に向けて飛散する潤滑油は、油カバー90および油切リング70によって遮られる。このため、飛散した潤滑油のほとんどは、外側面63よりも軸受カバー60側に侵入することなく、油溜41に戻される。飛散した潤滑油の一部は、油カバー90と油切リング70との間の隙間を通って、油カバー90よりも軸受カバー60側に侵入することがあり得る。しかし、この場合、第2の部位72上を伝って、上記隙間から軸受カバー60側に侵入した潤滑油は、遠心力によって、軸線ALから離れる方向、すなわち、油逃がし溝62の外側に飛ばさ
れる。その結果、潤滑油は、油逃がし溝62に捕捉されて、油溜41に戻される。さらに、ごく僅かな潤滑油が、油逃がし溝62に捕捉されることなく、貫通穴61に侵入したとしても、当該潤滑油は、ラビリンスシールとしての溝65に捕捉され、油溜41に戻される。したがって、潤滑油の外部への流出を高い信頼性で抑制できる。
【0054】
B.第2実施例:
第2実施例としての潤滑油流出抑制装置180の周辺の概略構成を
図6に示す。
図6において、潤滑油流出抑制装置180の構成要素のうちの潤滑油流出抑制装置80の構成要素と同一の構成要素には、
図2と同一の符号を付している。潤滑油流出抑制装置180は、油切リング170および油カバー190の形状のみが潤滑油流出抑制装置80と異なっている。油カバー190は、油カバー90の各構成要素に加えて、内側側面101を備えている。内側側面101は、底面91の径方向内側の端部から軸受52側に向かって延びて形成されている。この内側側面101は、周方向の全体に亘って形成される。
【0055】
油切リング170の第2の部位172は、第1実施例の第2の部位72よりも軸受52側に長く延びて形成されている。その分、第1の部位171は、第1実施例の第1の部位71よりも短く形成されている。これによって、内側側面101、すなわち、油カバー190の軸線AL側の端部は、その全体が、第2の部位172の軸受52側の端部よりも軸受カバー60側に位置している。
【0056】
かかる潤滑油流出抑制装置180によれば、内側側面101と油切リング170(第2の部位172)との隙間の位置が、第2の部位172の軸受52側の端部から軸受カバー60側に距離D3だけオフセットされているので、第1の部位171に付着した潤滑油や、第2の部位172の軸受52側の端面に付着した潤滑油が、遠心力によって軸線ALから遠ざかる方向に飛ばされても、これらの潤滑油が油カバー190よりも軸受カバー60側に侵入しにくい。
【0057】
また、潤滑油流出抑制装置180によれば、油カバー190の内側に飛散した潤滑油は、内側側面101の内面を伝って下方に誘導されるので、潤滑油が、第2の部位172と油カバー190との間の隙間に侵入するのを抑制できる。したがって、潤滑油が油カバー190の軸受カバー60側に移動することを抑制できる。その結果、潤滑油の軸受カバー60の貫通穴61への侵入をいっそう抑制できる。
【0058】
C.変形例:
C−1.変形例1:
上述した油カバー90の変形例としての油カバー290の構成を
図7に示す。
図7において、油カバー290の構成要素のうちの油カバー90と同一の構成要素には、
図5と同一の符号を付している。油カバー290は、底面291に油逃がし溝297,298が形成されている点のみが油カバー90と異なっている。油逃がし溝297,298は、第2の貫通穴93,94を避けた位置において、それぞれ第1の貫通穴99の外側を取り囲むように形成されている。かかる構成によれば、油カバー90に飛散した潤滑油を油逃がし溝297,298に導き、重力によって油逃がし溝297,298に沿って貫通穴61よりも下方に移動させることができる。したがって、潤滑油が貫通穴61に侵入するのをいっそう抑制できる。かかる油逃がし溝は、環状、または、上部で連通する1つの溝であってもよい。また、かかる油逃がし溝は、少なくとも油カバー290の第1の貫通穴99の中心よりも上方の位置において形成されていればよい。
【0059】
C−2.変形例2:
上述した種々の構成の一部は、適宜省略することができる。例えば、油カバー90,190の折曲部95,96を省略してもよい。あるいは、油切リング70の第2の部位72
を省略してもよい。この場合、第1の部位71は、上述の実施例における第2の部位72の位置にも形成されていてもよい。もとより、油切リング70自体を省略してもよい。この場合、油カバー90の外側側面92は、主軸30の近傍まで延びて形成されていることが望ましい。これらの構成であっても、油カバー90による潤滑油の流出防止効果を奏する。ただし、潤滑油を、遠心力によって、主軸30からより離れた位置から主軸30と離れる方向、すなわち、貫通穴61から離れる方向に飛ばすことができるとの観点からは、油カバー90は、油切リング70を備えていることがより望ましく、油切リング70は、第2の部位72を備えていることがより望ましい。
C−3.変形例3:
油逃がし溝62は、必ずしも環状に形成される必要はない。油逃がし溝62は、貫通穴61への潤滑油の侵入を抑制するために、貫通穴61の中心よりも上方の位置において、貫通穴61の外側を取り囲んでいればよい。例えば、油逃がし溝62は、貫通穴61の中心よりも下方において終端する逆U字形状や円弧形状などであってもよい。かかる形状であっても、潤滑油は、重力方向と反対の方向に、すなわち、上方に向かっては移動しにくいので、潤滑油の貫通穴61への侵入を好適に抑制できる。
【0060】
また、油逃がし溝62の断面形状は、上述の例に限らず、種々の形状とすることができる。例えば、油逃がし溝62の外周側の端部と内周側の端部とが、軸線ALに直交する面として形成された底面まで、軸線ALに平行に切り込まれた形状であってもよい。あるいは、頂部62aと底部62cとの間の途中に、軸線ALと平行な面や、軸線ALと直交する面が部分的に形成されていてもよい。あるいは、頂部62bと底部62cとの間の途中に、凹凸形状があってもよい。
【0061】
C−4.変形例4:
上述の油逃がし溝62と油切リング70とは、その両方を組み合わせることによって、著しい潤滑油流出抑制効果を奏するものであるが、そのいずれか一方のみを単独で使用することも可能である。例えば、上述の油逃がし溝62とラビリンスシールとを組み合わせてもよい。こうしても、ラビリンスシールのみによって、潤滑油の流出を抑制する場合と比べて、潤滑油流出抑制効果を高めることができる。この場合、油逃がし溝62は、貫通穴61の近傍に設けることが望ましい。
【0062】
C−5.変形例5:
油切リング70の溝73の形状は、任意の形状とすることができる。例えば、溝端73bは、矩形形状に終端していてもよい。あるいは、溝端73bは、溝端73aと同様に開口していてもよい。もとより、溝73は、形成されていなくてもよい。
【0063】
C−6.変形例6:
上述した潤滑油の流出抑制のための構成は、ポンプ20に限らず、潤滑油を使用する軸受を備えた種々の回転機械、例えば、圧縮機、送風機などに適用可能である。
【0064】
以上、いくつかの実施例に基づいて本発明の実施の形態について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることはもちろんである。また、上述した課題の少なくとも一部を解決できる範囲、または、効果の少なくとも一部を奏する範囲において、特許請求の範囲および明細書に記載された各構成要素の組み合わせ、または、省略が可能である。