(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)及び不飽和アルデヒド(B)を含有し、上記不飽和アルデヒド(B)のエチレン−ビニルアルコール共重合体含有樹脂組成物に対する含有量が0.05ppm以上90ppm以下である樹脂組成物。
上記不飽和アルデヒド(B)が、クロトンアルデヒド、2,4−ヘキサジエナールおよび2,4,6−オクタトリエナールからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明はこれらに限定されない。また、例示される材料は、特に記載がない限り、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、EVOH(A)及び不飽和アルデヒド(B)を含有し、上記不飽和アルデヒド(B)のエチレン−ビニルアルコール共重合体含有樹脂組成物に対する含有量が、0.01ppm以上100ppm以下である。また、当該樹脂組成物は、ホウ素化合物、共役ポリエン化合物、酢酸及び/又は酢酸塩、並びにリン化合物を好適成分として含有する。なお、本発明の効果を損なわない限り、当該樹脂組成物は、これら以外のその他の任意成分を含有していてもよい。以下に、EVOH(A)、不飽和アルデヒド(B)、ホウ素化合物、共役ポリエン化合物、酢酸及び/又は酢酸塩、リン化合物並びにその他の任意成分について詳述する。
【0027】
<EVOH(A)>
本発明に用いられるEVOH(A)は、エチレン−ビニルエステル共重合体をケン化して得られるエチレン−ビニルアルコール共重合体である。
【0028】
上記EVOH(A)のエチレン含有量としては、通常20モル%以上60モル%以下であり、24モル%以上55モル%以下であることが好ましく、27モル%以上45モル%以下であることがより好ましく、27モル%以上42モル%以下であることがより好ましく、27モル%以上38モル%以下であることがさらに好ましい。エチレン含有量が20モル%未満であると、当該樹脂組成物は、溶融押出時の熱安定性が低下してゲル化しやすくなり、ストリーク、フィッシュアイ等の欠陥を発生し易くなる。特に一般的な溶融押出し時の条件よりも高温又は高速の条件下で長時間運転を行うと、当該樹脂組成物のゲル化は顕著となる。また、当該樹脂組成物は、エチレン含有量が60モル%を超えるとガスバリア性が低下し、EVOH本来の特性を保持できないおそれがある。
【0029】
上記EVOH(A)のビニルエステル成分のケン化度としては、通常85%以上であり、90%以上が好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。当該樹脂組成物は、上記EVOH(A)のビニルエステル成分のケン化度が85%未満であると熱安定性が不十分となるおそれがある。
【0030】
上記EVOH(A)の製造に用いるビニルエステルとしては、例えば酢酸ビニルが代表的なものとして挙げられるが、それ以外に、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル等のその他の脂肪酸ビニルエステルを使用することができる。
【0031】
上記EVOH(A)は、エチレン及びビニルエステルに加えて、さらにビニルシラン系化合物を共重合体成分として使用することができる。上記EVOH(A)におけるビニルシラン系化合物の含有量としては、0.0002〜0.2モル%である。
【0032】
上記ビニルシラン系化合物としては、例えばビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトキシ)シラン、γ−メタクリルオキシプロピルメトキシシラン等が挙げられる。これらのうち、ビニルトリメトキシシラン及びビニルトリエトキシシランが好ましい。
【0033】
上記EVOH(A)は、本発明の効果を損なわない範囲で、エチレン、ビニルエステル及びビニルシラン系化合物以外のその他の単量体を共重合体成分として使用してもよい。
【0034】
上記その他の単量体としては、例えば
プロピレン、ブチレン等の不飽和炭化水素;
(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の不飽和カルボン酸又はそのエステル;
N−ビニルピロリドン等のビニルピロリドン等が挙げられる。
【0035】
上記EVOH(A)の当該樹脂組成物中の含有量としては、通常95質量%以上であり、98.0質量%以上であることが好ましく、99.0質量%であることがより好ましく、99.5質量%以上であることがさらに好ましい。EVOH(A)の含有量を上記特定範囲とすることで、当該樹脂組成物から得られる成形品は各種ガス遮蔽性、耐油性等に優れる。
【0036】
<不飽和アルデヒド(B)>
本発明の樹脂組成物は、EVOH(A)と共に、0.01ppm以上100ppm以下の不飽和アルデヒド(B)を必須成分として含有する。当該樹脂組成物は、上記特定量の不飽和アルデヒド(B)を含有することで、溶融成形によるフィッシュアイやゲル、ストリーク等の欠陥の発生を抑制することができ、成形品は外観性に優れる。また、当該樹脂組成物は、特に長時間の溶融成形を行っても上記欠陥が発生し難くロングラン性にも優れる。また、このような不飽和アルデヒド(B)を含有させることで、同様の効果を目的とした共役ポリエン化合物等の他の成分の添加量を減らすことができ、全体的に少ない添加量で優れたロングラン性を発揮することができる。
【0037】
不飽和アルデヒド(B)は、分子内に炭素−炭素二重結合もしくは三重結合を有するアルデヒド類であり、不飽和脂肪族アルデヒド(B−1)が好ましく、クロトンアルデヒド、2,4−ヘキサジエナールおよび2,4,6−オクタトリエナールからなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0038】
上記不飽和アルデヒド(B)の含有量としては、当該樹脂組成物の0.01ppm以上100ppm以下であり、0.05ppm以上50ppm以下が好ましく、0.1ppm以上30ppm以下が好ましく、0.2ppm以上5ppm以下がより好ましい。当該樹脂組成物は、不飽和アルデヒド(B)の含有量が0.01ppm未満であると、溶融成形時のロングラン性が不十分となり、経時的なフィッシュアイやゲル、ストリーク等の欠陥の発生を抑制できない。また、不飽和アルデヒド(B)の含有量が100ppmを超えると、溶融成形時に不飽和アルデヒド(B)同士の縮合やEVOH(A)と不飽和アルデヒド(B)同士の縮合物とが反応する架橋効果を示し、増粘あるいはゲル化することによりゲルやブツ、ストリーク等の欠陥の発生を誘発するおそれがあり、また樹脂組成物が着色しやすくなる。ここで、当該樹脂組成物中の不飽和アルデヒド(B)の含有量とは、当該樹脂組成物の全固形分質量に対する割合で表し、具体的には、乾燥させた当該樹脂組成物に含有される不飽和アルデヒド(B)を定量して得られた値をいう。
【0039】
不飽和アルデヒド(B)としては、不飽和脂肪族アルデヒド(B−1)が好ましく、たとえばアクリルアルデヒド(アクロレイン)、クロトンアルデヒド、メタクリルアルデヒド、2−メチル−2−ブテナール、2−ブチナール、2−ヘキセナール、2,6−ノナジエナール、2,4−ヘキサジエナール、2,4,6−オクタトリエナール、2−ヘキセナール、5−メチル−2−ヘキセナールなどの分子内に炭素−炭素二重結合を有するアルデヒド類;プロピオルアルデヒド、2−ブチン−1−アール、2−ペンチン−1−アールなどの炭素−炭素三重結合を有するアルデヒド類が好ましく、直鎖又は分岐のある炭素−炭素二重結合を有する不飽和脂肪族アルデヒドがより好ましく、クロトンアルデヒド、2,4−ヘキサジエナールおよび2,4,6−オクタトリエナールからなる群より選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、中でも水への溶解性が高く、沸点が100℃付近のクロトンアルデヒドはたとえば、洗浄工程や乾燥工程で必要に応じて過剰分を除去または不足分を追加することが容易であるので、より好ましい。不飽和アルデヒド(B)のアルデヒド部分を含めた炭素数としては、3〜10が好ましく、4〜8がより好ましく、4、6、8がさらに好ましい。
【0040】
<ホウ素化合物>
当該樹脂組成物は、100ppm以上5,000ppm以下のホウ素化合物をさらに含有することが好ましい。当該樹脂組成物は、ホウ素化合物を上記特定量含有することにより、溶融成形の際にゲル化を起こし難くなると共に、押出し成形機等のトルク変動を抑制することができる。これにより、当該樹脂組成物は、外観性に優れる容器等を形成することができ、ロングラン性を向上させることができる。なお、ホウ素化合物の含有量は、ホウ酸換算とする。
【0041】
上記ホウ素化合物としては、例えば
オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸等のホウ酸類;
ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリメチル等のホウ酸エステル;
上記ホウ酸類のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、ホウ砂等のホウ酸塩;
水素化ホウ素類等が挙げられる。これらのうち、ホウ酸類が好ましく、オルトホウ酸(以下、単に「ホウ酸」と称することもある)がより好ましい。
【0042】
上記ホウ素化合物の含有量としては、100ppm以上5,000ppm以下であり、100ppm以上4,000ppm以下が好ましく、150ppm以上3,000ppm以下がより好ましい。当該樹脂組成物は、ホウ素化合物の含有量を上記特定範囲とすることで、加熱溶融時の押出し成形機等のトルク変動を効果的に抑制することができる。当該樹脂組成物は、ホウ素化合物の含有量が100ppm未満であると上記効果を十分に奏することができず、5,000ppmを超えるとゲル化し易くなり成形品の外観性が不十分となる場合がある。
【0043】
<共役ポリエン化合物>
当該樹脂組成物は、0.01ppm以上1,000ppm以下の共役ポリエン化合物をさらに含有することが好ましい。当該樹脂組成物は、上記特定量の共役ポリエン化合物をさらに含有することにより、溶融成形時の酸化劣化を抑制することができる。これにより、当該樹脂組成物は、フィッシュアイ等の欠陥の発生及び着色をより抑制し、成形品の外観性を向上させることができると共に、ロングラン性にもより優れる。
【0044】
上記共役ポリエン化合物とは、炭素−炭素二重結合と炭素−炭素単結合が交互に繋がってなる構造を有し炭素−炭素二重結合の数が2個以上である、いわゆる共役二重結合を有する化合物である。上記共役ポリエン化合物は、共役二重結合を2個有する共役ジエン、3個有する共役トリエン、又はそれ以上の数を有する共役ポリエンであってもよい。また、上記共役二重結合が互いに共役せずに1分子中に複数組あってもよい。例えば、桐油のように共役トリエン構造が同一分子内に3個ある化合物も上記共役ポリエン化合物に含まれる。
【0045】
上記共役ポリエン化合物としては、共役二重結合の数が7個以下であることが好ましい。当該樹脂組成物が、共役二重結合を8個以上有する共役ポリエン化合物を含有すると、成形品の着色が起こる可能性がある。
【0046】
上記共役ポリエン化合物は、共役二重結合に加えて、カルボキシル基及びその塩、水酸基、エステル基、カルボニル基、エーテル基、アミノ基、イミノ基、アミド基、シアノ基、ジアゾ基、ニトロ基、スルホン基及びその塩、スルホニル基、スルホキシド基、スルフィド基、チオール基、リン酸基及びその塩、フェニル基、ハロゲン原子、二重結合、三重結合等のその他の官能基を有していてもよい。
【0047】
上記共役ポリエン化合物としては、例えば
イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジエチル−1,3−ブタジエン、2−t−ブチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ペンタジエン、2,4−ジメチル−1,3−ペンタジエン、3,4−ジメチル−1,3−ペンタジエン、3−エチル−1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、4−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、2,4−ヘキサジエン、2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエン、1,3−オクタジエン、1,3−シクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエン、1−フェニル−1,3−ブタジエン、1,4−ジフェニル−1,3−ブタジエン、1−メトキシ−1,3−ブタジエン、2−メトキシ−1,3−ブタジエン、1−エトキシ−1,3−ブタジエン、2−エトキシ−1,3−ブタジエン、2−ニトロ−1,3−ブタジエン、クロロプレン、1−クロロ−1,3−ブタジエン、1−ブロモ−1,3−ブタジエン、2−ブロモ−1,3−ブタジエン、オシメン、フェランドレン、ミルセン、ファルネセン、センブレン、ソルビン酸、ソルビン酸エステル、ソルビン酸塩、アビエチン酸等の共役ジエン化合物;
1,3,5−ヘキサトリエン、2,4,6−オクタトリエン−1−カルボン酸、エレオステアリン酸、桐油、コレカルシフェロール、フルベン、トロポン等の共役トリエン化合物;
シクロオクタテトラエン、2,4,6,8−デカテトラエン−1−カルボン酸、レチノール、レチノイン酸等の共役ポリエン化合物等が挙げられる。なお、上記共役ポリエン化合物は1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用することもできる。
【0048】
共役ポリエン化合物の炭素数としては、4〜30が好ましく、4〜10がより好ましい。
【0049】
これらのうち、ソルビン酸、ソルビン酸エステル、ソルビン酸塩、ミルセン及びこれらのうちのいずれかの混合物が好ましく、ソルビン酸、ソルビン酸塩及びこれらの混合物がより好ましい。ソルビン酸、ソルビン酸塩及びこれらの混合物は、高温での酸化劣化の抑制効果が高く、また、食品添加剤としても広く工業的に使用されているため衛生性や入手性の観点からも好ましい。
【0050】
上記共役ポリエン化合物の分子量は、通常1,000以下であり、500以下であることが好ましく、300以下であることがより好ましい。上記共役ポリエン化合物の分子量が1,000を超えると、EVOH(A)中への分散状態が悪く、溶融成形後の外観が不良になるおそれがある。
【0051】
上記共役ポリエン化合物の含有量は、0.01ppm以上1,000ppm以下であり、0.1ppm以上1,000ppm以下が好ましく、0.5ppm以上800ppm以下が好ましく、1ppm以上500ppm以下がより好ましい。当該樹脂組成物は、共役ポリエン化合物の含有量が0.01ppm未満であると、溶融成形時の酸化劣化を抑制する効果を十分に得られない。一方、1,000ppmを超えると、樹脂組成物のゲル化を促進し、成形品の外観が不良となり易い。
【0052】
重合の後工程で共役ポリエン化合物を添加することにより成形時にゲル状ブツの発生の少ない樹脂組成物が得られることは特開平9−71620号公報に開示されているが、本発明では共役ポリエン化合物に加えて不飽和アルデヒド(B)を併せて添加することで、フィッシュアイ等の欠陥の発生及び着色をより抑制し、成形品の外観性を向上させることができることに加えて、ロングラン性にも優れる樹脂組成物が得られることを新たに見出した。
【0053】
<酢酸及び/又は酢酸塩>
当該樹脂組成物は、50ppm以上1,000ppm以下の酢酸及び/又は酢酸塩を含有することが好ましい。当該樹脂組成物は、上記特定量の酢酸及び/又は酢酸塩をさらに含有することで、成形品の着色を防止することができる。なお、酢酸及び/又は酢酸塩の含有量は、酢酸換算とする。
【0054】
上記酢酸及び/又は酢酸塩としては、酢酸及び酢酸塩の両方を用いることが好ましく、酢酸及び酢酸ナトリウムを用いることがより好ましい。
【0055】
酢酸及び/又は酢酸塩の含有量としては、50ppm以上1,000ppm以下が好ましく、100ppm以上1,000ppm以下がより好ましく、150ppm以上500ppm以下がさらに好ましく、200ppm以上400ppm以下が特に好ましい。酢酸及び/又は酢酸塩の含有量が50ppm未満であると、十分な着色防止の効果を得られないため、当該樹脂組成物から形成される成形品に黄変が見られる場合がある。当該樹脂組成物は、酢酸及び/又は酢酸塩の含有量が1,000ppmを超えると、溶融成形時、特に長時間に及ぶ溶融成形時にゲル化し易くなり、成形品の外観が不良となる場合がある。
【0056】
<リン化合物>
当該樹脂組成物は、1ppm以上200ppm以下のリン化合物を含有することが好ましい。当該樹脂組成物は、上記特定量のリン化合物をさらに含有することにより、フィッシュアイ等の欠陥の発生及び着色をより抑制し、成形品の外観性を向上させることができると共に、ロングラン性にもさらに優れる。なお、リン化合物の含有量は、リン元素換算とする。
【0057】
上記リン化合物としては、例えばリン酸、亜リン酸等の各種リン酸、リン酸塩等が挙げられる。
【0058】
上記リン酸塩としては、第1リン酸塩、第2リン酸塩及び第3リン酸塩のいずれの形でもよい。また、そのカチオン種も特に限定されるものではないが、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩であることが好ましく、これらのうちリン酸2水素ナトリウム、リン酸2水素カリウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウムがより好ましく、リン酸2水素ナトリウム、リン酸水素2カリウムがさらに好ましい。
【0059】
当該樹脂組成物におけるリン化合物の含有量としては、1ppm以上200ppm以下が好ましく、2ppm以上150ppm以下がより好ましく、3ppm以上150ppm以下がさらに好ましく、5ppm以上100ppm以下が特に好ましい。当該樹脂組成物は、リン化合物の含有量が1ppm未満である場合、又は200ppmを超える場合には、熱安定性が低減し、長時間にわたる溶融成形を行なう際のゲル状ブツの発生や着色の問題が生じ易くなる。
【0060】
<その他の任意成分>
当該樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の任意成分として、アルカリ金属を含有してもよい。上記アルカリ金属としては、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。また、上記アルカリ金属は、アルカリ金属塩として含有することもできる。上記アルカリ金属塩とは、例えば一価の金属の脂肪族カルボン酸塩、芳香族カルボン酸塩、金属錯体等である。具体的には酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、エチレンジアミン四酢酸のナトリウム塩等が挙げられる。これらのうち、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムが好ましい。上記アルカリ金属の当該樹脂組成物における含有量としては、20〜1,000ppmが好ましく、50〜500ppmがより好ましい。
【0061】
当該樹脂組成物は、上記アルカリ金属以外に、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、充填剤、熱安定剤、他の樹脂、高級脂肪族カルボン酸の金属塩、ハイドロタルサイト化合物等をその他の任意成分として含有してもよい。当該樹脂組成物は、これらの任意成分を、1種又は2種以上含有してもよく、含有量としては、合計で1質量%以下である。
【0062】
上記酸化防止剤としては、例えば2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、4,4’−チオビス−(6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4’−チオビス−(6−t−ブチルフェノール)等が挙げられる。
【0063】
上記紫外線吸収剤としては、例えばエチレン−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オキトシキベンゾフェノン等が挙げられる。
【0064】
上記可塑剤としては、例えばフタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル、ワックス、流動パラフィン、リン酸エステル等が挙げられる。
【0065】
上記帯電防止剤としては、例えばペンタエリスリットモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、硫酸化ポリオレフィン類、ポリエチレンオキシド、カーボワックス(商品名)等が挙げられる。
【0066】
上記滑剤としては、例えばエチレンビスステアロアミド、ブチルステアレート等が挙げられる。
【0067】
上記着色剤としては、例えばカーボンブラック、フタロシアニン、キナクリドン、インドリン、アゾ系顔料、ベンガラ等が挙げられる。
【0068】
上記充填剤としては、例えばグラスファイバー、ウォラストナイト、ケイ酸カルシウム、タルク、モンモリロナイト等が挙げられる。
【0069】
上記熱安定剤としては、例えばヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物等が挙げられる。
【0070】
上記他の樹脂としては、例えばポリアミド、ポリオレフィン等が挙げられる。
【0071】
上記高級脂肪族カルボン酸の金属塩としては、例えばステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等が挙げられる。
【0072】
なお、ゲル発生防止対策として、上記ハイドロタルサイト系化合物、ヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系熱安定剤、高級脂肪酸カルボン酸の金属塩の1種、又は2種以上を0.01〜1質量%添加することができる。
【0073】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物の製造方法としては、EVOH(A)中に不飽和アルデヒド(B)を均一にブレンドでき、最終的に得られる樹脂組成物に0.01ppm以上100ppm以下の範囲の不飽和アルデヒド(B)を含有させられる方法であれば特に限定されないが、
(1)エチレンとビニルエステルとを共重合させる工程、及び
(2)工程(1)により得られた共重合体をケン化する工程
を有するエチレン−ビニルアルコール共重合体含有樹脂組成物の製造方法であって、
上記樹脂組成物中に0.01ppm以上100ppm以下の不飽和アルデヒド(B)を含有させることを特徴とする樹脂組成物の製造方法が好ましい。
【0074】
上記特定量の不飽和アルデヒド(B)を樹脂組成物中に含有させる方法としては、特に限定されないが、例えば
上記工程(1)において特定量の不飽和アルデヒド(B)を添加する方法、
上記工程(2)において特定量の不飽和アルデヒド(B)を添加する方法、
上記工程(2)により得られたEVOH(A)に、特定量の不飽和アルデヒド(B)を添加する方法等が挙げられる。
しかし、上記工程(1)において特定量の不飽和アルデヒド(B)を添加する方法、又は上記工程(2)において特定量の不飽和アルデヒド(B)を添加する方法を採用する場合には、得られる樹脂組成物中に所望量の不飽和アルデヒド(B)を含有させるために、上記工程(1)における重合反応、上記工程(2)におけるケン化反応で消費される量を考慮して添加量を多くする必要があるが、不飽和アルデヒド(B)の量が多いとこれらの反応を阻害するおそれがある。また、重合反応やケン化反応の反応条件により消費される量が変動するため、樹脂組成物中の不飽和アルデヒド(B)の含有量を調節することが難しい。したがって、上記工程(2)より後に、上記工程(2)により得られたEVOH(A)に、特定量の不飽和アルデヒド(B)を添加する方法が好ましい。
【0075】
上記EVOH(A)に特定量の不飽和アルデヒド(B)を添加する方法としては、例えば不飽和アルデヒド(B)を予めEVOH(A)に配合してペレットを造粒する方法、エチレン−ビニルエステル共重合体のケン化後にペーストを析出させる工程で析出させたストランドに不飽和アルデヒド(B)を含浸させる方法、析出させたストランドをカットした後に不飽和アルデヒド(B)を含浸させる方法、乾燥樹脂組成物のチップを再溶解したものに不飽和アルデヒド(B)を添加する方法、EVOH(A)及び不飽和アルデヒド(B)の2成分をブレンドしたものを溶融混練する方法、押出し機の途中からEVOH(A)の溶融物に不飽和アルデヒド(B)をフィードし含有させる方法、不飽和アルデヒド(B)をEVOH(A)の一部に高濃度で配合して造粒したマスターバッチを作成しEVOH(A)とドライブレンドして溶融混練する方法等が挙げられる。
【0076】
これらのうち、EVOH(A)中に微量の不飽和アルデヒド(B)を均一に分散することができる観点から、上記不飽和アルデヒド(B)混合工程としては、不飽和アルデヒド(B)を予めEVOH(A)に配合してペレットを造粒する工程であることが好ましい。具体的には、EVOH(A)を水/メタノール混合溶媒等の良溶媒に溶解させた溶液に、不飽和アルデヒド(B)を添加し、その混合溶液をノズル等から貧溶媒中に押出して析出及び/又は凝固させ、それを洗浄及び/又は乾燥することにより、EVOH(A)に不飽和アルデヒド(B)が均一に混合されたペレットを得ることができる。
【0077】
また、上記ペレットを造粒する工程で不飽和アルデヒド(B)とともに共役ポリエン化合物を同時に添加することもできる。不飽和アルデヒド(B)と共役ポリエン化合物とを添加することにより、フィッシュアイ等の欠陥の発生及び着色をより抑制し、成形品の外観性を向上させることができることに加えて、ロングラン性にも優れる樹脂組成物を得ることができる。
【0078】
当該樹脂組成物に不飽和アルデヒド(B)以外の各成分を含有させる方法としては、例えば上記ペレットを各成分と共に混合して溶融混練する方法、上記ペレットを調製する際に、不飽和アルデヒド(B)と共に同時に各成分を混合する方法、上記ペレットを各成分が含まれる溶液に浸漬させる方法等が挙げられる。なお、上記混合には、リボンブレンダー、高速ミキサーコニーダー、ミキシングロール、押出機、インテンシブミキサー等を用いることができる。
【0079】
<成形品の製造方法>
当該樹脂組成物は、単層構造の成形品とすることもできるし、他の各種基材と共に2種以上の多層構造の成形品とすることもできる。
【0080】
多層構造の成形品とする場合においては、当該樹脂組成物からなる層に熱可塑性樹脂層を隣接させてもよい。
【0081】
上記熱可塑性樹脂層を形成する樹脂としては、
高密度、中密度又は低密度のポリエチレン;
酢酸ビニル、アクリル酸エステル、又はブテン、ヘキセン等のα−オレフィン類を共重合したポリエチレン;
アイオノマー樹脂;
ポリプロピレンホモポリマー;
エチレン、ブテン、ヘキセン等のα−オレフィン類を共重合したポリプロピレン;
ゴム系ポリマーをブレンドした変性ポリプロピレン等のポリオレフィン類;
これらの樹脂に無水マレイン酸を付加又はグラフトした樹脂が好ましい。
【0082】
上記多層構造の成形品は、さらに上記以外のその他の熱可塑性樹脂層を有してもよく、この熱可塑性樹脂層を形成する樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂等が挙げられる。これらのうち、ポリエステル樹脂が好ましい。
【0083】
上記多層構造体を得る方法としては、特に限定されるものではないが、例えば押出ラミネート法、ドライラミネート法、押出ブロー成形法、共押出ラミネート法、共押出シート成形法、共押出パイプ成形法、共押出ブロー成形法、共射出成形法、溶液コート法等が挙げられる。なお、このような方法で得られた多層構成の積層体に対して、さらに真空圧空深絞り成形、ブロー成形等の方法により、EVOH(A)の融点以下の範囲で再加熱後、二次加工を施してもよい。
【0084】
なお、押出し成形、ブロー成形、熱成形等を行う際に発生するスクラップは、上記熱可塑性樹脂層にブレンドして再利用してもよいし、別途回収層として用いてもよい。
【0085】
多層構造体の層構成に関しては特に限定されるものではないが、成形性及びコスト等の観点から、熱可塑性樹脂層/当該樹脂組成物層/熱可塑性樹脂層、当該樹脂組成物層/接着性樹脂層/熱可塑性樹脂層、熱可塑性樹脂層/接着性樹脂層/当該樹脂組成物層/接着性樹脂層/熱可塑性樹脂層が代表的なものとして挙げられる。これらのうち、熱可塑性樹脂層/当該樹脂組成物層/熱可塑性樹脂層の層構成が好ましく、より具体的には、当該樹脂組成物からなる層の両側に、熱可塑性ポリエステル樹脂からなる層が直接積層してなる構造がより好ましい。当該樹脂組成物層の両外層に熱可塑性樹脂層を設ける場合は、両外層の熱可塑性樹脂層は互いに異なる樹脂からなる層であってもよいし、同一の樹脂からなる層であってもよい。
【0086】
上記溶融成形等により得られた多層構造体は、必要に応じて、曲げ加工、真空成形、ブロー成形、プレス成形等の二次加工成形を行って、目的とする成形体にしてもよい。
【実施例】
【0087】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、本実施例における各定量は、以下の方法を用いて行った。
【0088】
[EVOH(A)のエチレン含有量及びケン化度]
DMSO−d
6を溶媒とした
1H−NMR(日本電子株式会社製「JNM−GX−500型」)により求めた。
【0089】
[不飽和アルデヒド(B)の定量]
50質量%の2,4−ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)溶液200mgに、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)50mL、酢酸11.5mL及びイオン交換水8mLを添加し、DNPH調整溶液を作製する。その後、乾燥樹脂組成物ペレット1gをDNPH調整溶液20mLに添加し、35℃にて1時間攪拌溶解させる。この溶液にアセトニトリルを添加してEVOH(A)を沈降させ、溶液を濾過・濃縮し、抽出サンプルを得る。この抽出サンプルを高速液体クロマトグラフィーにて定量分析することで、不飽和アルデヒド(B)の量を定量した。なお、定量に際しては、それぞれの不飽和アルデヒド(B)をDNPH調製溶液と反応させて得た標品を用いて作成した検量線を使用した。
【0090】
[共役ポリエン化合物の定量]
乾燥樹脂組成物ペレットを凍結粉砕により粉砕し、呼び寸法0.150mm(100メッシュ)のふるい(JIS規格Z8801−1〜3準拠)によって粗大粒子を除去して得た粉砕物10gをソックスレー抽出器に充填し、クロロホルム100mLを用いて48時間抽出処理した。この抽出液中の共役ポリエン化合物の量を高速液体クロマトグラフィーにて定量分析することで、共役ポリエン化合物の量を定量した。なお、定量に際しては、それぞれの共役ポリエン化合物の標品を用いて作成した検量線を使用した。
【0091】
[酢酸及び/又は酢酸塩の定量]
乾燥樹脂組成物ペレットを凍結粉砕により粉砕した。得られた粉末を、呼び寸法1mm(16メッシュ)のふるい(JIS規格Z8801−1〜3準拠)でふるい分けした。上記のふるいを通過した粉末10gとイオン交換水50mLとを共栓付き100mL三角フラスコに投入し、冷却コンデンサーを付け、95℃にて10時間撹拌・抽出した。得られた抽出液2mLを、イオン交換水8mLで希釈した。上記の希釈された抽出液中のカルボン酸イオンの量をイオンクロマトグラフィー(「IC7000」、横河電機株式会社製)を用いて定量した。なお、定量に際しては、酢酸水溶液を用いて作成した検量線を使用した。
【0092】
[リン酸化合物及びホウ素化合物の定量]
乾燥樹脂組成物ペレットを凍結粉砕により粉砕した。得られた粉末0.5gに硝酸5mLを添加し、Speedwave MWS−2(BERGHOF社製)により湿式分解した。湿式分解後の液をイオン交換水で希釈して全液量を50mLとした。希釈液について、ICP発光分光分析装置(「Optima 4300 DV」、株式会社パーキンエルマージャパン社製)を用いてリン元素、ホウ素元素の定量分析を行い、リン酸化合物の量に関してはリン酸根換算値として、ホウ素化合物の量についてはホウ素元素換算値として算出した。なお、定量に際しては、それぞれ市販の標準液を使用して作成した検量線を用いた。
【0093】
[溶液外観(透明性、着色性)]
乾燥樹脂組成物ペレットを空気中120℃で15時間熱処理したペレット10gを300mlの三角フラスコに取り、水/プロパノール混合溶液(質量比:水/プロパノール=45/55)100mlを加え、75℃で3時間攪拌し、目視にて溶液の透明性と着色を評価した。
【0094】
[モータートルク変動]
乾燥樹脂組成物ペレット60gをラボプラストミル(東洋精機製作所製「20R200」二軸異方向)100rpm、260℃で混練し、混練開始から5分後のトルク値が1.5倍になるまでの所要時間を測定した。
【0095】
<EVOH(A)の合成>
[合成例1]
250Lの加圧反応槽を用いて以下の条件でエチレン−酢酸ビニル共重合体の重合を実施した。
酢酸ビニル83.0kg、
メタノール26.6kg、
2,2‘−アゾビスイソブチルニトリル供給量 1119.5mL/hr
重合温度 60℃
重合槽エチレン圧力 4.93MPa
重合時間 5.0時間
得られた共重合体における酢酸ビニルの重合率は約40%であった。この共重合反応液にソルビン酸を添加した後、追出塔に供給し、塔下部からのメタノール蒸気の導入により未反応酢酸ビニルを塔頂より除去して、エチレン−酢酸ビニル共重合体の41%メタノール溶液を得た。このエチレン−酢酸ビニル共重合体のエチレン含有量は32mol%であった。このエチレン−酢酸ビニル共重合体のメタノール溶液をケン化反応器に仕込み、苛性ソーダ/メタノール溶液(80g/L)を、共重合体中のビニルエステル成分に対して0.4当量となるように添加し、メタノールを加えて共重合体濃度が20%になるように調整した。この溶液を60℃に昇温し、反応器内に窒素ガスを吹き込みながら約4時間反応させた。この溶液を円形の開口部を有する金板から水中に押し出して析出させ、切断することで直径約3mm、長さ約5mmのペレットを得た。得られたペレットは遠心分離機で脱液し、さらに大量の水を加え脱液する操作を繰り返した。
【0096】
[合成例2]
重合時にクロトンアルデヒドを全系に対して0.5ppm共存するように供給した以外は合成例1と同様にして重合、ケン化、ペレット化及び洗浄を行ってペレットを得た。
【0097】
<樹脂組成物の調製>
[実施例1〜17、19〜27及び比較例1〜2、4〜7]
上記合成例1で脱液して得られたペレット20kgを、180kgの水/メタノール=40/60(質量比)の混合溶媒に入れ、60℃で6時間攪拌し完全に溶解させた。得られた溶液に不飽和アルデヒド(B)、及び共役ポリエン化合物を添加し、さらに1時間攪拌して不飽和アルデヒド(B)及び共役ポリエン化合物を完全に溶解させ、樹脂組成物溶液を得た。この樹脂組成物溶液を直径4mmのノズルより、0℃に調整した水/メタノール=90/10(質量比)の凝固浴中に連続的に押出してストランド状に凝固させた。このストランドをペレタイザーに導入して多孔質の樹脂組成物チップを得た。得られた多孔質の樹脂組成物チップを酢酸水溶液及びイオン交換水を用いて洗浄した後、酢酸、酢酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム及びホウ酸を含む水溶液で浸漬処理を行った。この浸漬処理用水溶液と樹脂組成物チップを分離して脱液した後、熱風乾燥機に入れて80℃で4時間乾燥を行い、さらに100℃で16時間乾燥を行って、樹脂組成物(乾燥樹脂組成物ペレット)を得た。得られた樹脂組成物における各成分の含有量は、上記定量方法を用いて定量した。なお、不飽和アルデヒド(B)の添加量、浸漬処理用水溶液の各成分の濃度を調節することにより、各成分の含有量が表1及び表2に記載の通りとなるように樹脂組成物を調製した。
【0098】
[実施例18]
重合終了後にソルビン酸とクロトンアルデヒドを同時に添加した以外は合成例1と同様に行い、ペレットを得た。得られたペレット20kgを180kgの水/メタノール=40/60(質量比)の混合溶媒に入れ、60℃で6時間攪拌し完全に溶解させた。得られた溶液に共役ポリエン化合物としてソルビン酸を添加し、さらに1時間攪拌してソルビン酸を完全に溶解させ、樹脂組成物溶液を得た。この樹脂組成物溶液を直径4mmのノズルより、0℃に調整した水/メタノール=90/10(質量比)の凝固浴中に連続的に押出してストランド状に凝固させた。このストランドをペレタイザーに導入して多孔質の樹脂組成物チップを得た。得られた多孔質の樹脂組成物チップを酢酸水溶液及びイオン交換水を用いて洗浄した後、酢酸、酢酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム及びホウ酸を含む水溶液で浸漬処理を行った。この浸漬処理用水溶液と樹脂組成物チップを分離して脱液した後、熱風乾燥機に入れて80℃で4時間乾燥を行い、さらに100℃で16時間乾燥を行って、樹脂組成物(乾燥樹脂組成物ペレット)を得た。得られた樹脂組成物における各成分の含有量は、上記定量方法を用いて定量した。なお、浸漬処理用水溶液の各成分の濃度を調節することにより、各成分の含有量が表1及び表2に記載の通りとなるように樹脂組成物を調製した。
【0099】
[比較例3]
上記合成例2で得られたペレット20kgを180kgの水/メタノール=40/60(質量比)の混合溶媒に入れ、60℃で6時間攪拌し完全に溶解させた。得られた溶液に共役ポリエン化合物としてソルビン酸を添加し、さらに1時間攪拌してソルビン酸を完全に溶解させ、樹脂組成物溶液を得た。この樹脂組成物溶液を直径4mmのノズルより、0℃に調整した水/メタノール=90/10(質量比)の凝固浴中に連続的に押出してストランド状に凝固させた。このストランドをペレタイザーに導入して多孔質の樹脂組成物チップを得た。得られた多孔質の樹脂組成物チップを酢酸水溶液及びイオン交換水を用いて洗浄した後、酢酸、酢酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム及びホウ酸を含む水溶液で浸漬処理を行った。この浸漬処理用水溶液と樹脂組成物チップを分離して脱液した後、熱風乾燥機に入れて80℃で4時間乾燥を行い、さらに100℃で16時間乾燥を行って、樹脂組成物(乾燥樹脂組成物ペレット)を得た。得られた樹脂組成物における各成分の含有量は、上記定量方法を用いて定量した。なお、浸漬処理用水溶液の各成分の濃度を調節することにより、各成分の含有量が表1及び表2に記載の通りとなるように樹脂組成物を調製した。ここで不飽和アルデヒド(B)であるクロトンアルデヒドは検出下限未満であった。
【0100】
<樹脂組成物の評価>
このようにして得られた各樹脂組成物について、以下のように評価した。評価結果を表1及び表2に合わせて示す。
【0101】
(1)ロングラン性の評価
単軸押出し装置(「D2020」、株式会社東洋精機製作所製;D(mm)=20、L/D=20、圧縮比=2.0、スクリュー:フルフライト)を用い、各乾燥樹脂組成物ペレットから厚さ20μmの単層フィルムを作製した。このときの各条件は以下に示す通りである。
押出温度:220℃
スクリュー回転数:40rpm
ダイス幅:30cm
引取りロール温度:80℃
引取りロール速度:3.1m/分
上記条件で連続運転して単層フィルムを作製し、運転開始から8時間後及び15時間後に作製された各フィルムについて、フィルム長17cm当たりの欠点数をカウントした。上記欠点数のカウントは、フィルム欠点検査装置(「AI−10」、フロンティアシステム株式会社製)を用いて行った。なお、上記装置における検出カメラは、そのレンズ位置がフィルム面より195mmの距離となるように設置した。各樹脂組成物のロングラン性について、上記欠点数が50個未満の場合を「良好(A)」、50個以上200個未満の場合を「やや良好(B)」、200個以上の場合を「不良(C)」と判断した。
【0102】
(2)外観性の評価
15時間後に作製された上記フィルムについて、目視にて外観性(ストリーク及び着色)を下記評価基準により評価した。
【0103】
(ストリークの評価基準)
「良好(A)」:ストリークは認められなかった。
「やや良好(B)」:ストリークが確認された。
「不良(C)」:多数のストリークが確認された。
【0104】
(着色の評価基準)
「良好(A)」:無色
「やや良好(B)」:黄変
「不良(C)」:著しく黄変
【0105】
(3)溶液外観(透明性、着色)の評価
3時間加熱攪拌した溶液について、目視にて溶液の透明性と着色を下記評価基準により評価した。
【0106】
(透明性の評価基準)
「良好(A)」:透明、目視で確認できる浮遊物なし。
「やや良好(B)」:やや白濁、目視で確認できる浮遊物あり。
「不良(C)」:白濁、浮遊物あり。
【0107】
(溶液の着色評価基準)
「良好(A)」:無色
「やや良好(B)」:やや着色
「不良(C)」:著しく着色
【0108】
(4)モータートルク変動の評価
加熱状態の粘度変化を以下のように評価した。なお加熱状態での樹脂組成物の粘度は、二次加工時のロングラン性に影響する要因である。
(モータートルク変動の評価基準)
「良好(A)」:60分以上
「やや良好(B)」:40分以上60分未満
「不良(C)」:40分未満
【0109】
【表1】
【0110】
【表2】
【0111】
<多層構造体の製造>
[実施例28]
下記の4種7層共押出キャスト製膜設備を用いて、本発明の樹脂組成物層を含む共押出製膜試験を実施した。
押出機(1):単軸、スクリュー直径65mm、L/D=22、外層ポリオレフィン用
押出機(2):単軸、スクリュー直径40mm、L/D=26、ポリオレフィン用
押出機(3):単軸、スクリュー直径40mm、L/D=22、接着性樹脂用
押出機(4):単軸、スクリュー直径40mm、L/D=26、EVOH用
押出機(1)、押出機(2)にポリプロピレン(以下、PPと略称することがある)を、押出機(3)に無水マレイン酸変性ポリプロピレン系の接着性樹脂(ADMER QF−500(商品名)、三井化学製)を、押出機(4)に実施例1で得た樹脂組成物をそれぞれフィードして共押出製膜を行った。押出温度は、押出機(1)を200〜250℃、押出機(2)を200〜250℃、押出機(3)を160〜250℃、押出機(4)を170〜250℃、フィードブロックおよびダイは250℃に設定した。製膜した多層フィルムの構成および厚みは、PP/PP/接着性樹脂/EVOH/接着性樹脂/PP/PP=30/15/2.5/5/2.5/15/30μmの、トータル厚み100μmの4種7層の対象構成とした。
【0112】
製膜開始から10時間後のシートをサンプリングし、外観を観察したところ、EVOHの凝集による外観不良および流動異常によるフローマークはほとんど認められず、実用上問題のない多層フィルムが得られた。
【0113】
[比較例8]
上記実施例の樹脂組成物を比較例6で得た樹脂組成物に置き換える以外は実施例と同様に行い、製膜開始から10時間後のシートをサンプリングし、外観を観察したところ、EVOHの凝集による外観不良および流動異常によるフローマークが多数観察される多層フィルムが得られた。
【0114】
表1に示すように、本発明の樹脂組成物はストリークの発生及び成形品の着色が起こり難く、外観性に優れるフィルムを形成することができた。また、本発明の樹脂組成物は、溶融成形時のロングラン性に優れることがわかった。