(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、各層の衣料を厚くすると、高い保温性が得られ防寒性能が向上するが、一方では着ぶくれするために着用者の動きが妨げられ、作業活動性が悪くなるという問題がある。
【0008】
運動機能性は基本的に、着用する人体のヌード寸法に対して、衣服の寸法等をどの程度余裕を持たせて設計するかにより決まる部分が多い。
【0009】
例えば一人一人のヌード寸法に合わせて衣服をオーダーメイドにて設計すれば、比較的容易に高い運動機能性を持つ衣服を提供することができるものと思われるが、オーダーメイドでは一着毎に手間がかかり極めて高価なものとなるため、多数の利用者に適切な価格で大量に衣服を提供することは難かしい。
【0010】
一方、所定のサイズ規格に基づいてサイズ別に衣服をレディーメイドにて設計すれば、多数の利用者に比較的安価で大量に衣服を提供することができるが、高い運動機能性を発揮することは難しくなる。
【0011】
例えばJIS L−4004:2001(成人男子用衣料のサイズ)などの衣料品サイズ規格は良く知られている。この衣料品サイズ規格は成人男子ではJ、JY、Y、YA、A、AB、B、BB、BE、E体型等に分類され、各々の体型毎にさらに詳細区分されており、例えばA体型だけでもチェスト、ウエスト、身長別に分類すると22区分に分かれる。
【0012】
上記従来の衣料品サイズ規格は、重ね着する衣服の各サイズを規定するものではなく、さらに、区分が煩雑すぎて全ての体型の衣服を提供するような場合には適していない。
【0013】
本発明は以上のような従来の課題を考慮してなされたものであり、重ね着する衣料において、高い保温性と作業活動性とを兼ね備え、優れた防寒性能と運動機能性とを有する比較的安価な機動性被服を多数の利用者に向けて提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、肌着、内衣、中衣及び外衣を含む機動性被服であって、前記肌着は生地の伸び率εmが25%以上であり、前記内衣は生地の伸び率εmが14%以上であり、前記中衣は生地の伸び率εmが9%以上であり、前記外衣は生地の伸び率εmが1%以上であり、前記肌着、前記内衣、前記中衣及び前記外衣の順に生地の伸び率εmが小さくなっている。
【0015】
また本発明の機動性被服において、前記内衣は、胸廻り寸法が、前記肌着の胸廻り寸法に3cm以上25cm以下だけ加算した寸法であり、前記中衣は、胸廻り寸法が、前記肌着の胸廻り寸法に7cm以上31cm以下だけ加算した寸法であり、前記外衣は、胸廻り寸法が、前記肌着の胸廻り寸法に13cm以上51cm以下だけ加算した寸法であることが好ましい。
【0016】
また本発明の機動性被服において、前記内衣は、腰廻り寸法が、前記肌着の腰廻り寸法に2cm以上26cm以下だけ加算した寸法であり、前記中衣は、腰廻り寸法が、前記肌着の腰廻り寸法に4cm以上28cm以下だけ加算した寸法であり、前記外衣は、腰廻り寸法が、前記肌着の腰廻り寸法に22cm以上48cm以下だけ加算した寸法であることが好ましい。
【0017】
また本発明の機動性被服において、前記肌着は曲げ剛さBが0以上0.04(gfcm
2/cm)以下であり、前記内衣は曲げ剛さBが0.1(gfcm
2/cm)以上0.4(gfcm
2/cm)以下であり、前記中衣は曲げ剛さBが、0.2(gfcm
2/cm)以上0.9(gfcm
2/cm)以下であり、前記外衣は曲げ剛さBが0.5(gfcm
2/cm)以上1.3(gfcm
2/cm)以下であり、前記肌着、前記内衣、前記中衣及び前記外衣の順に曲げ剛さBが大きくなっていることが好ましい。
【0018】
また本発明の機動性被服において、前記肌着及び前記内衣はISO11092において規定された布の熱の通し難さを表す熱抵抗値が0.04(m
2・K/W)以上0.05(m
2・K/W)以下であり、ISO11092において規定された水分の透過し易さを示す蒸発抵抗値が4(m
2・K/W)以上4.5(m
2・K/W)以下であり、前記中衣及び前記外衣は前記熱抵抗値が、0.17(m
2・K/W)以上であり、該機動性被服は、さらに、前記外衣の内側に取り付ける保温性ライナーを含み、前記保温性ライナーは、前記熱抵抗値が0.19(m
2・K/W)以上であり、前記外衣に前記保温性ライナーを取り付けた状態及び前記中衣の前記蒸発抵抗値が13(m
2・K/W)以下であることが好ましい。
【0019】
また本発明の機動性被服において、前記外衣は、ISO11092において規定された布の熱の通し難さを表す熱抵抗値が0.19(m
2・K/W)以上であり、ISO11092において規定された水分の透過し易さを示す蒸発抵抗値が13(m
2・K/W)以下であり、生地のLOI値が26以上の難燃性を有し、生地の伸縮性εmが1%以上であり、曲げ剛さBが0.5(gfcm
2/cm)以上1.3(gfcm
2/cm)以下であり、耐水度が100kPa以上である表面が撥水加工された透湿防水加工布帛を、少なくとも表地として使用した複合布帛である請求項1〜5のいずれか1項に記載の機動性被服。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る機動性被服は、人体皮膚に近い肌着の生地の伸び性を大きくし且つ生地の剛性を小さくして身体の動く抵抗力を最小にするように設計して運動機能性を高め、皮膚層より遠くなる外層ほど生地の伸縮性を下げ剛性を内層より同等或いはそれ以上としてゆとり量を高めて空気層を保存して防寒性能及び保温性能を高めるので、防寒性能及び保温性能と、これらの性能とトレードオフの関係にあると思われる運動機能性とを併持させることができる。よって、重ね着する衣料において、高い保温性と作業活動性とを兼ね備え、優れた防寒性能と運動機能性とを有する比較的安価な機動性被服を多数の利用者に向けて提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<実施形態1>
本発明者らは、重ね着する4層の衣服(肌着、内衣、中衣、外衣)を統一的にカバーするサイズ規格について検討することにした。
【0023】
18才以上65才までの1万人以上の成人男子の人体ヌード寸法データから、衣料品サイズを、細身のA体、太身のB体、太L体、肥満LL体に区分し、身長、胸囲、ウエストの関係を調べた。
【0024】
結果を体型毎に注目すると、細身A体、太身のB体、太L体及び肥満LL体にそれぞれの身長と胸囲との間、及び身長とウエストとの間に強い相関関係があることが見い出された。
【0025】
身長と胸囲との関係については、細身A体と見られるグループは、身長をX(cm)とすると胸囲C(cm)は以下の(式1)に示す範囲に入っていた。
C=0.22・X+40〜C=0.22・X+53 ・・・(式1)
ここで、150≦X≦190
【0026】
太身のB体と見られるグループは身長をX(cm)とすると、胸囲C(cm)は以下の(式2)に示す範囲に入っていた。
C=0.21・X+56〜C=0.21・X+66 ・・・(式2)
ここで、150≦X≦190
【0027】
太L体及び肥満LL体と見られる各グループは、データ数が少し不足するため相関式を算出するまでには至らなかったが、細身A体及び太身のB体と同様の傾向であった。
【0028】
身長とウエストとの関係については、細身A体と見られるグループは身長をX(cm)とすると、ウエストW(cm)は以下の(式3)に示す範囲に入っていた。
W=0.2・X+27〜W=0.2・X+39 ・・・(式3)
ここで、150≦X≦190
【0029】
太身のB体と見られるグループは身長をX(cm)とすると、ウエストW(cm)は以下の(式4)に示す範囲に入っていた。
W=0.2・X+40〜W=0.07・X+78 ・・・(式4)
ここで、150≦X≦190
【0030】
太L体及び肥満LL体のウエストも、X=0時のWの初期値は異なるが、細身A体及び太身のB体と同様の傾向であった。
【0031】
このような胸囲とウエストを身長区分と共に分割整理できることは、実用的な機動性を確保するための設計基準としてゆとり量の設計に大変重要な数値となる。
【0032】
一方体型区分毎に人体サイズの平均値のみを使用して衣服を作製するだけでは、ゆとり量の不具合が生じ、十分な運動機能性を確保することができない事態が生じる可能性が高いので、体型区分以外に、さらに運動機能性を確保するために、本発明者らは、各層の衣服材料の物性を設計条件の因子に組み入れることを試みた。
【0033】
詳細には、人体皮膚に近い衣服層から人体皮膚より遠くなり外層に近づくにともない、順次衣服層の生地の物性を序々に変化させる。より具体的には、人体皮膚に近い肌着の生地の伸び性を大きくし且つ生地の剛性を小さくして身体の動く抵抗力を最小にするように設計して運動機能性を高め、皮膚層より遠くなる外層ほど生地の伸縮性を下げ剛性を内層より同等或いはそれ以上としてゆとり量を高めて空気層を保存して防寒性能及び保温性能を高める。よって、防寒性能及び保温性能と、これらの性能とトレードオフの関係にあると思われる運動機能性とを併持させることができる。
【0034】
上衣(トップス)にとって重要な身長と胸囲の関係については、人体ヌード寸法から身長をS(身長150cm以上160cm未満)、M(身長160cm以上170cm未満)、L(身長170cm以上180cm未満)、X(身長180cm以上190cm以下)に区分し、それぞれの身長と胸囲で少なくとも13区分してそれぞれ各上衣の胸廻り寸法を決定することとした。
【0035】
図1は、13区分した身長と胸囲との関係を示す相関図である。
【0036】
13区分した身長と胸囲との組合せの具体例は、細身A体では、呼び名称SAが身長150cm以上160cm未満且つ胸囲76cm〜88cm、呼び名称MAが身長160cm以上170cm未満且つ胸囲77cm〜90cm、呼び名称LAが身長170cm以上180cm未満且つ胸囲82cm〜94cm、呼び名称XAが身長180cm以上190cm以下且つ胸囲82cm〜94cmであり、太身のB体では呼び名称SBは身長150cm以上160cm未満且つ胸囲88cm〜100cm、呼び名称MBは身長160cm以上170cm未満且つ胸囲90cm〜104cm、呼び名称LBは身長170cm以上180cm未満且つ胸囲94cm〜106cm、呼び名称XBは身長180cm以上190cm以下且つ胸囲94cm〜106cmであり、太L体では呼び名称ML5は身長160cm以上170cm未満且つ胸囲104cm〜116cm、呼び名称LL3は身長170cm以上180cm未満且つ胸囲106cm〜116cm、呼び名称XL1は身長180cm以上190cm以下且つ胸囲106cm〜116cmであり、肥満LL体では呼び名称LL4は身長170cm以上180cm未満且つ胸囲116cm〜126cm、呼び名称XL2は身長180cm以上190cm以下且つ胸囲116cm〜126cmである。
【0037】
下衣(ボトムス)にとって重要な身長とウエストとの関係については、人体ヌード寸法から身長をS(身長150cm以上160cm未満)、M(身長160cm以上170cm未満)、L(身長170cm以上180cm未満)、X(身長180cm以上190cm以下)に区分し、それぞれの身長とウエストで少なくとも13区分してそれぞれ各下衣の腰廻り寸法を決定することとした。
【0038】
図2は、13区分した身長とウエストとの関係を示す相関図である。
【0039】
13区分した身長とウエストとの組合せの具体例は、細身A体では呼び名称SAは身長150cm以上160cm未満且つウエスト58cm〜71cm、呼び名称MAは身長160cm以上170cm未満且つウエスト60cm〜73cm、呼び名称LAは身長170cm以上180cm未満且つウエスト64cm〜77cm、呼び名称XAは身長180cm以上190cm以下且つウエスト64cm〜77cmであり、太身のB体では呼び名称SBは身長150cm以上160cm未満且つウエスト71cm〜88cm、呼び名称MBは身長160cm以上170cm且つウエスト73cm〜90cm、呼び名称LBは身長170cm以上180cm未満且つウエスト77cm〜91cm、呼び名称XBは身長180cm以上190cm以下且つウエスト77cm〜91cmであり、太L体では呼び名称ML5は身長160cm以上170cm且つウエスト90cm〜104cm、呼び名称LL3は身長170cm以上180cm未満且つウエスト91cm〜104cm、呼び名称XL1は身長180cm以上190cm以下且つウエスト91cm〜104cmであり、肥満LL体では呼び名称LL4は身長170cm以上180cm未満且つウエスト104cm〜114cm、呼び名称XL2は身長180cm以上190cm以下且つウエスト104cm〜114cmである。
【0040】
なお、身長、胸囲、ウエストを更に細く区分することも出来る。区分を多くする程製造コストが増大する傾向にあるが、人体との適合不一致は少なくなるので、13区分以上とすることが望ましい。
【0042】
最内層の肌着は人体皮膚に最も近いため汗の吸収及び発散を良好とし且つ皮膚の動きを阻害しない運動機能性を維持する必要があり、べとつかず吸汗速汗性が高く且つ伸縮性を保有する素材を用いることが望ましく、生地自身の曲げ剛さは4層材料の中で最小である。
【0043】
最外層の外衣は、肌着とは逆に、降雨雪防御、火炎防御、外部衝撃や摩擦損耗に耐える強靱性を保つために適度な曲げ剛さや或る程度抑制された伸縮性を有する必要があり、人体の運動機能性確保の点で適切なゆとり量の設計縫製が肝要である。
【0044】
本発明で示す伸縮性や曲げ剛さは、KESシステム「(社)日本繊維機械学会発行 21世紀のテキスタイル科学(改訂版)2003年3月改訂版発行 松平光男ほか 90〜103頁」(非特許文献1)に記載された方法で測定できる。ここで曲げ剛さは曲げ変形カーブの傾きBから求めた。なお、中衣は生地厚みが過大で曲げ装置の把持部に支障があったので、45度カンチレバー法「JIS L1096:2010 8.21 剛軟度 A法(45°カンチレバー法)に準拠し、スライド法などで示されているカンチレバー長さから曲げモーメントの剛軟度に換算して測定した。また曲げ剛さはタテのBとヨコのBの平均値を生地の曲げ剛さBとした。KESシステムにおける伸縮性は最大上限荷重が、織物用(500gf/cm)と編み物用(250gf/cm)とで異なり、本実施形態の機動性被服は織物と編み物が混在するので、伸縮に敏感な最大上限荷重の低い方の編み物用(250gf/cm)に統一した。
【0045】
KESシステムの引っ張り特性の最大伸びεmは、タテ方向の最大伸びとヨコ方向の最大伸びの平均値を、生地の伸びやすさとして求めた。
【0046】
本発明は4層からなる機動性被服の各層の上衣と下衣は原則同一種材料であり、体型区分を細身のA体、太身のB体、太L体及び肥満LL体に区分し、体型区分に加えて身長を4区分以上に分類して13区分以上の階層に分けて、各々の人体寸法を基準に胸廻りと腰廻り設定値を用いて設計縫製してなる機動性被服である。
【0047】
人体の運動機能性確保の点で適切なゆとり量の設計縫製が必要になるため、肌着の上衣は、無理なく皮膚にフィットする動作追随性を重視し、生地のεmが25%以上望ましくは30%以上であり、各区分の人体の胸廻り寸法に5cm以上20cm以内だけ加算した寸法を胸廻り寸法とし、保温性と運動追随性を確保する内衣の上衣は、生地のεmが14%以上であり、各区分の人体の胸廻り寸法に8cm以上30cm以内だけ加算した寸法を胸廻り寸法とし、中衣の上衣は、生地のεmが9%以上であり、各区分の人体の胸廻り寸法に12cm以上36cm以内だけ加算した寸法を胸廻り寸法とし、外衣の上衣は、生地のεmが1%以上であり、各区分の人体の胸廻り寸法に18cm以上56cm以内だけ加算した寸法を胸廻り寸法とした。
【0048】
ここでは、各区分の人体の胸廻り寸法を基準にして、肌着、内衣、中衣及び外衣の胸廻り寸法を規定したが、肌着、内衣、中衣及び外衣のいずれかの胸廻り寸法を基準に、その他の衣服の胸廻り寸法を相対的に規定することもできる。例えば肌着の胸廻り寸法を基準にして、内衣、中衣及び外衣の胸廻り寸法を規定すると、内衣の
胸廻り寸法は肌着の
胸廻り寸法に
3cm以上
25cm以下だけ加算した寸法であり、中衣の
胸廻り寸法は肌着の
胸廻り寸法に
7cm以上
31cm以下だけ加算した寸法であり、外衣の
胸廻り寸法は前記肌着の
胸廻り寸法に
13cm以上
51cm以下だけ加算した寸法である。
【0049】
ここで胸廻り寸法における加算値に幅を持たせたのは、生地の伸縮性数値εmが変化するためである。εmが大きいほど加算値は少なくても良く、εmが小さい程加算数値を大きくとる必要がある。
【0050】
下衣については上衣と比べ体躯の運動方向が異なるため、ゆとり量が上衣より少なくてよく、肌着の下衣は、その生地のεmが25%以上望ましくは30%以上であり、各区分の人体の腰廻り寸法に−12cm以上+12cm以内加算した寸法を腰廻り寸法とし、内衣は、その生地のεmが14%以上であり、各区分の人体の腰廻り寸法に−10cm以上+14cm以内だけ加算した寸法を腰廻り寸法とし、中衣の下衣は生地のεmが9%以上であり、各区分の人体の腰廻り寸法に−8cm以上+16cm以内だけ加算した寸法を腰廻り寸法とし、外衣はその生地のεmが1%以上であり、各区分の人体の腰廻り寸法に10cm以上36cm以内だけ加算した寸法を腰廻り寸法とした。
【0051】
ここでは、各区分の人体の腰廻り寸法を基準にして、肌着、内衣、中衣及び外衣の腰廻り寸法を規定したが、肌着、内衣、中衣及び外衣のいずれかの腰廻り寸法を基準に、その他の衣服の腰廻り寸法を相対的に規定することもできる。例えば肌着の腰廻り寸法を基準にして、内衣、中衣及び外衣の腰廻り寸法を規定すると、内衣の腰廻り寸法は肌着の腰廻り寸法に2cm以上26cm以下だけ加算した寸法であり、中衣の腰廻り寸法は肌着の腰廻り寸法に4cm以上28cm以下だけ加算した寸法であり、外衣の腰廻り寸法は肌着の腰廻り寸法に22cm以上48cm以下だけ加算した寸法である。
【0052】
人体皮膚に近い内層側になるほど生地の伸縮性εmを大きくすると共に、生地の曲げ剛さを少なくするように生地の物性を制御することが有用であることが見い出された。
【0053】
最内層の肌着は、身体の動きに直接的に作用するので、生地の曲げ剛さが大きいと筋肉疲労につながりやすい。従って、肌着の曲げ剛さBは0.04(gfcm
2/cm)以下が望ましい。保温層の内衣は熱絶縁性を維持するために布帛中の空気層を維持する必要があり、適度な曲げ剛性が必要となるため、内衣の生地は肌着より一桁大きい曲げ剛さ(曲げ剛さBは0.1〜0.4(gfcm
2/cm))が望ましいことが着用評価にて確認された。
【0054】
保温層の中衣は、生地の曲げ剛さBが0.2〜0.9(gfcm
2/cm)でないと、背中などの部位で冷え感が生ずるなどの部分的な保温性不足が認められた。
【0055】
外衣は火炎防御、外部衝撃、摩擦損耗に耐える強靱性を保つために適度な曲げ剛さや或る程度抑制された伸縮性を備える必要があり、衣服間の保温空気層を確保するためには外衣の曲げ剛さBが0.5〜1.3(gfcm
2/cm)である必要がある。
【0056】
外衣の曲げ剛さBは、通常の秋冬用スーツ地の3〜5倍の大きさであるため、胸廻り寸法や腰廻り寸法の詳細な最適化が極めて重要になる。
【0057】
一方、各衣服間の空気層の維持と併せて、各生地自身の熱抵抗を高いレベルにすることが防寒のためには当然有効である。
【0058】
熱の通し難さを表す熱抵抗値(Thermal Resistance)はISO11092に規定する方法で測定し、(不感蒸泄水分)で表示する。ここで熱抵抗値の数値が大きいほど熱移動し難く保温性に優れることを表す。
【0059】
肌着の生地の熱抵抗値は0.04〜0.05(m
2・K/W)を保有し、皮膚から蒸散する不感蒸泄水分や発汗水分を移動させることを重視して設計する必要がある。
【0060】
水分の透過性はISO11092で規定する「Hohenstein Skin Model」タイプの「発汗機能を有する多孔性金属板と加熱ブロックとにより構成される装置において測定された蒸発抵抗値(m
2・K/W)を表す。蒸発抵抗値が大きいと水分が移動し難く、小さいと水分が移動し易いことを表す。肌着の生地は4層の衣服の中で一番低い4〜4.5(m
2・K/W)に設計している。内衣の熱抵抗値及び蒸発抵抗値は、肌着とほぼ同等程度として熱及び水分が移動し易い衣服とする。内衣のすぐ外層に位置する中衣は保温性能及び断熱性能を重視して、熱抵抗値を0.17(m
2・K/W)以上に大きくし、さらに外衣の内側に保温性ライナーを付与して熱抵抗値を0.19(m
2・K/W)以上とすることで、−10℃以下の極寒の環境にて作業することが可能となることが着用評価にて確認された。
【0061】
中衣及び保温性ライナー付き外衣において水分の移動が止まると汗が結露し保温断熱性を阻害するという問題が生じるので、蒸発抵抗値を13(m
2・K/W)以下とすることで該問題の発生を防ぐことが出来る。
【0062】
保温性ライナーは外気温が特に低い時には必要があるが、運動量が多く自己産熱が多い時や外気温がそれほど低くない場合に備えて取り外し可能になっており、保温性ライナーの取り付け方法は既存の防寒衣と同様である。
【0063】
肌着、内衣、中衣及び外衣の設計は人体体型区分13階層を決めて、上衣であれば身長と胸囲が決まれば、胸廻り寸法が決まり、それ以外の肩幅、裄丈、袖丈及び着丈は既存のグレディング計算方式に準拠して決定でき、下衣であれば身長とウエストが決まれば、腰廻り寸法が決まり、それ以外のヒップ股上、股下、ワタリ及び膝廻りが決まり、パンツ丈などは既存のグレディング計算方式に準拠して決定できる。
【0064】
図3は肌着10の外観図である。
図4は内衣20の外観図である。
【0065】
図3及び
図4に示すように、肌着10及び内衣20には脇や袖下及び股下に縫い目の無い機能的な構造11〜13、21〜23にすると共に、フラットシーマーで縫い目のゴロツキを排除するなど、被服構造の配慮により、制御された生地の伸縮性や柔軟さを活かす工夫を随所で取り入れることで、運動機能性及び体型適応性を向上させている。
【0066】
さらに、
図4に示すように内衣には通気性や防寒性能を調整することができるファスナー24や、首まで覆うことができる高い襟25が取り付けられている。
【0068】
図5に示すように、着脱の機会が比較的多い中衣には着脱の際に便利が良いファスナー31が取り付けられている。
【0070】
図7は保温性ライナー41の外観図である。
【0071】
図6、7に示すように、外衣40には取り外し可能な保温性ライナー41や、防寒フード(図示せず)が組み込まれた衿などを採用し、防寒性能を向上させている。
【0072】
なお、本発明は
図3〜
図6に示した機構に限定させるものではなく、
図3〜
図6に示した機構以外にも、一般の防寒衣に備えられている様々な機構を組み合わせることもできる。
【0073】
活動性に優れた機動性被服であっても、発汗による肌着の濡れ感やべとつき感、内衣、中衣等の湿潤感あるいは内部のむれ感等の不快感を排除する必要があり、利用する生地素材の選択は重要である。特に運動などにより発汗が多くなった場合には、多くの汗が外部に発散しきれずに肌面に水滴あるいは水膜として存在するようになり、肌着等が濡れてしまうことがある。さらに肌着等が著しく濡れた状態で運動を止めてしまうと、人体の発熱量が低下するため、濡れた肌着は一気に冷たくなり、着用者に多大な不快感や悪感を与える上、着用者が体調を崩す原因になる。
【0074】
そこで、機動性被服において、肌着、内衣、中衣及び外衣として特定のものを選び、これらを組合せることにより、汗等の水分をスムーズに外部へ発散し、発汗による不快感や悪感をなくし、着心地性を改善するとともに体温の低下を抑え保温性及び防寒性を発揮する必要がある。
【0075】
具体的には、例えば肌着、内衣、中衣及び外衣の各々の層の衣服が以下の要件を満足する布帛から構成されるとよいが、これらの例示に限定されるものでは無い。
【0076】
肌着の布帛:蒸発抵抗値が5(m
2・K/W)以下、熱抵抗値が0.04〜0.05(m
2・K/W)を保有し、皮膚から蒸散する不感蒸泄水分や発汗水分を移動させる編み地であって、生地の伸縮性εmが25%以上望ましくは30%以上であり、曲げ剛さBが0.04(gfcm
2/cm)以下であるパイル編地である。
【0077】
内衣の布帛:羊毛やアクリレート系繊維などの親水性繊維からなる層を含み、蒸発抵抗値が5(m
2・K/W)以下、熱抵抗値が0.04〜0.05(m
2・K/W)を保有し、生地の伸縮性εmが14%以上であり、肌着より一桁大きい曲げ剛さBが0.1〜0.4(gfcm
2/cm)の保温と吸湿を兼ね備えた3層構造編地である。
【0078】
中衣の布帛:熱抵抗値が0.17〜20(m
2・K/W)、蒸発抵抗値が13(m
2・K/W)以下、生地の伸縮性εmが9%以上であり、曲げ剛さBが0.2〜0.9(gfcm
2/cm)の表裏布帛と吸湿発熱繊維アクリレート系繊維を含む中綿層から構成される複合布帛である。
【0079】
外衣の布帛:熱抵抗値が0.19〜0.20(m
2・K/W)、蒸発抵抗値が13(m
2・K/W)以下、生地の伸縮性εmが1%以上であり、曲げ剛さBが0.5〜1.3(gfcm
2/cm)の耐水度が100kPa以上である表面が撥水加工された透湿防水加工布帛又はこの布帛を少なくとも表地として構成された複合布帛である。
【0080】
肌着は
図3に示すように一般に防寒用として適した長袖のもので、首廻り、袖口、ウエスト部及び足首等がゴム編組織あるいは絞り紐等により十分にフィットされる構造のものであればよい。肌着について、13区分された階層別に、寸法を上衣については胸廻り、下衣については腰廻りを規定し、その数値から上衣の肩幅、裄丈、袖丈及び着丈を、一方、下衣は下衣のヒップ、股上及び股下寸法を既存のグレディング計算方式に準拠して決定し、以下の(表1)のような結果が得られた。
【0082】
肌着に用いる生地の材料は前述したように熱抵抗値や蒸発抵抗値を発現するために繊維素材の工夫が必要である。皮膚面に液体状態の汗が残るとベトツキ感が大きくなり被服の滑り抵抗を著しく阻害するので、発汗時の液体状の汗を皮膚側から生地面に速やかに移動させ、移動面で拡散させ、速乾性を高める必要があり、気体状の汗が生地を透過し易くする必要がある。
【0083】
具体的な例として十文字断面のポリエステル繊維をシンカーパイルのパイル糸として使用し、地糸には高フィラメント数・細繊度ポリエステル加工糸と熱伝導率の高いポリエステル/エバール芯鞘複合繊維を用いた格子パイル編み地が好適生地材料の一つである。なお、水分の移動性を考慮して親水化処理された生地が望ましい。該編地は、防寒用としての保温性を有している必要から見掛けクロー値(以下「Iclo値」という)が0.6以上のものが選ばれる。ここでIclo値とは、着衣の保温性を示すものであるが、生地の特性を分かりやすく表現するために熱抵抗値から換算して表現されることがあるのでここに示した。測定法はASTM D1518(Standard test method for thermal-transmittance of textile materials)で測定された熱抵抗値より換算した。生地表面の不動空気層がもたらす保温力を差し引いたこの材料の生地だけの熱抵抗値で示すと0.83cloであった。また不動空気層の保温力を加えると1.4cloであった。
【0084】
内衣は
図4に示すように身体に無理なくフィットして、衣服の運動機能性を高めながら吸湿と保温性が維持できる構造になるように設計したものである。内衣について、13区分された階層別に、寸法は上衣については胸廻り、下衣についてはウエストを本発明で規定し、その数値から上衣の肩幅、裄丈、袖丈及び着丈を、一方下衣のヒップ、股上及び股下寸法を既存のグレディング計算方式に準拠して決定し、以下の(表2)のような結果が得られた。
【0086】
内衣に用いる生地の材料は前述したように熱抵抗値や蒸発抵抗値を発現するために繊維素材の工夫が必要である。3層構造のダブルフェイスニットは暖かい空気を糸内及び生地中間層へ閉じこめ保温性を高めると共に、アクリレート系繊維や羊毛の高い吸湿発熱機能によって保温性を高める構造となっている。この材料の生地だけの熱抵抗値で示すと0.73cloであった。また不動空気層の保温力を加えると1.3cloであった。
【0087】
中衣は
図5に示すように高い保温性を維持しながら活動機能性を高めるため適切なゆとり量の確保を重視した構造である。中衣について、13区分された階層別にその寸法は上衣については胸廻り、下衣についてはウエストを本発明で規定し、その数値から上衣の肩幅、裄丈、袖丈及び着丈を、一方下衣のヒップ、股上及び股下寸法を既存のグレディング計算方式に準拠して決定し、以下の(表3)のような結果が得られた。
【0089】
中衣に用いる材料は中ワタキルトで作られ、肌側、外側ともトリコットのかさ高い編み地を用いて、膝や肘の動作時屈曲の大きい部位にストレッチ性のある保温性の高い側地とし、中綿に含むアクリレート系繊維によって、水蒸気の汗を吸湿して結露することなく、中綿の外側へ水蒸気圧差で外側に放湿することができる構造となっている。この材料の複合地だけの熱抵抗値で示すと1.44cloであった。また不動空気層の保温力を加えると2.01cloであった。
【0090】
外衣は
図6に示すように、高い防御性能と保温性能を持ちながら活動機能性を高めた人体寸法に合わせた適切なゆとり量の確保を重視した構造である。外衣について、13区分された階層別にその寸法は上衣については胸廻り、下衣についてはウエストを本発明で規定し、その数値から上衣の肩幅、裄丈、袖丈及び着丈を、一方下衣のヒップ、股上及び股下寸法を既存のグレディング計算方式に準拠して決定し、以下の(表4)のような結果が得られた。
【0092】
外衣の表地には高い難燃性と強度の大きい難燃性ビニロン混紡バーバリー組織の生地にポリテトラフロロエチレン(PTFE)の微多孔膜を貼り付けた加工布帛を用いることで、外部からの降雨雪防御、火炎防御や衝撃や摩擦損耗に耐える強靱性を保つ構造とし、断熱と保温・快適性の確保のために保温性ライナーの中綿としてアクリレート系繊維とポリエステル繊維の混紡とすることで吸湿放湿性能を付与した。この材料の複合地だけの熱抵抗値で示すと1.78cloであった。また不動空気層の保温力を加えると2.35cloであった。
【0093】
本発明における外衣は、十分な防風性を有するとともに、透湿性と適度の防水、撥水性を有する加工布を少なくとも表地とした布地である。このような加工布は、例えばポリテトラフロロエチレン(PTFE)の微多孔膜や、ポリウレタンの湿式あるいは乾式凝固微多孔膜、その他延伸法や電子線法で微多孔化したミクロポーラスフィルム等を織物に貼合わせたもの、織物にポリウレタン溶液を塗布し湿式又は乾式凝固し、織物表面又は裏面に微多孔膜を形成したもので、さらに表面にフッ素系、シリコン系の撥水剤処理をしたものである。なお、表面の着色、撥水加工等により微多孔被膜の微多孔構造による蒸気透湿性が阻害されることがあるので、好ましくは、該微多孔被膜は織物の裏面に貼合わせたものが好適である。この加工布を少なくとも表地とした複合布帛とは、該加工布そのもの以外に、裏地と一体化したものあるいはさらに両布の間に中綿を入れたものをいう。
【0094】
加工布は、防風性、防水性の面から、通気度が2(cc/cm
2・sec)以下、耐水度が100kPa(JIS L‐1092B法)以上のものが良い。さらに、該加工布は、皮膚面から肌着、内衣あるいはさらに中衣を通して移行してくる水分を最終的に外気中に放出するために、蒸発抵抗値が13(m
2・K/W)以下であることが重要である。加えて、外衣構成布帛の表面は撥水加工されていることが必要で、この加工がなされていない場合には、低温下で外衣表面に水が付着し、場合によっては外衣内に侵入して氷結し、該布帛の透湿性を妨げることになる。また、該外衣用加工布は、難燃性を有していることが必要であり、生地の難燃性能の表示には燃焼限界酸素指数LOI値(JIS L−1091E)が良く用いられる。各種燃焼試験の結果、外衣用生地のLOI値は26以上が不可欠であった。そのために公知の難燃性繊維を主体として生地を構成する場合、或いは表面に公知の難燃加工が施される場合もあるが、特に難燃性繊維からなる生地を用いることは、難燃樹脂加工による布帛の重量増加、通気性及び透湿性の低下を防ぐことができるので有効である。さらに必要によりこの外衣は、可視光、赤外線及び紫外線等に対する各種の迷彩や偽装加工が施されてもよい。尚、外衣は必ずしも一層である必要はなく、例えば、偽装を目的とした衣服を外衣とは別に準備することができる。具体的には、複数の迷彩又は偽装が求められるとき、外衣に準じて、可視光線、赤外線偽装加工を行ない、紫外線偽装加工を施した偽装外衣を別途準備すればよい。さらに、本発明では、肌着から外衣までの組合せにおいて、各層の衣服を構成する布帛又は複合布帛の蒸発抵抗値がそれぞれの内側の生地等の蒸発抵抗値比べて極端に大きくないことが望まれ、外側の被服を構成する生地の蒸発抵抗値が内側の被服を構成する生地の蒸発抵抗値が3倍以下、好ましくは2.5倍以下になるように組み合わされるとよい。
【0095】
なお、本発明の機動性被服は、防寒性の点から各層を構成する布畠の見掛けのIclo値の総和が2以上であることが望まれる。この場合、軽労働時で外気温−5℃、風速1m/sec程度の環境に対応できるが、例えば軽作業時で外気温−20℃程度、風速1m
2/sec程度の環境に耐えるものを想定すれば、Iclo値の総和は3以上、運動を行わないときは5以上が必要となる。
【0096】
本発明においては、以上のようなものに加えて保温用の手袋、靴下、面覆及び足首巻等をセットとして準備することができる。
【0097】
以下のようなA〜Oの生地により、肌着、内衣、中衣及び外衣を作製し、各生地の伸縮、曲げ剛さB、熱抵抗及び蒸発抵抗をそれぞれ測定した。
【0098】
<実施例>
イ.肌着(
図3)
A:十文字断面のポリエステル繊維をシンカーパイルのパイル糸として使用し、地糸には高フィラメント数・細繊度ポリエステル加工糸と熱伝導率の高いポリエステル/エバール芯鞘複合繊維を用いた格子パイル編み地で、吸汗性を備えたフィラメント糸からなる格子パイル。
B:SR1000(高松油脂)を0.5質量%付着したポリエステル繊維紡績糸からなる3層パイル緯編地(パイル面起毛)。
【0100】
ロ.内衣(
図4)
C:肌側と外側がウール62%吸湿発熱繊維アクリレート繊維15%ポリエステル23%の特殊混繊糸とし中間ポリエステルフィラメント糸からなる3層構造緯編地。
D:ウール/ポリエステル/ウールの3層構造緯編地(ウール70質量%、ポリエステル繊維30%)。
【0102】
ハ.中衣(
図5)
E:側地がポリエステル繊維100%のトリコットハーフ、中綿ポリエステル60%/吸湿発熱アクリレート繊維ウェブを中綿とした複合布帛。
F:ポリエステル繊維経編地を表裏地に用い、ポリエステル/リヨセル/ポリエステルの3層ウェブを中綿とした複合布帛。
【0104】
ニ、外衣(
図6)
G:<表地>難燃性ビニロン70質量%と綿30質量%からなる織物(バーバリー)の裏縞に、PFTEフィルム(ゴアテックス社)を貼り合わせ、表面に迷彩色をプリントし、さらにフッ素系樹脂で撥水加工した透湿防水加工布。
<裏地>ポリエステル繊維織物(タフタ)。
H:<表地>難燃性ビニロン70質量%と綿30質量%からなる織物(1/1平織)の裏縞に、PFTEフィルム(ゴアテックス社)を貼り合わせ、表面に迷彩色をプリントし、さらにフッ素系樹脂で撥水加工した透湿防水加工布。
【0105】
<裏地>ポリエステル繊維織物(タフタ)。
【0107】
ホ、保温性ライナー(外衣用、
図7)
I:側地がポリエステル繊維100%のトリコット、中綿がポリエステル繊維と吸湿発熱アクリレート繊維40%の混綿複合布帛。
J:側地がナイロン100%のトリコット、中綿がポリエステル繊維の複合布帛。
【0109】
<比較例>
イ、肌着(
図3と同様の外観)
K:木綿80%、ナイロン15%、スパンデックス5%カバーヤーン糸のインターロック緯編地。
ロ、内衣(
図4と同様の外観)
L:ポリアクリルニトリル繊維30質量%と綿70質量%との混紡糸からなる裏パイル編地。
ハ.中衣(
図5と同様の外観)
M:ポリアクリルニトリル繊維75質量%、ナイロン15質量%及びウール10質量%の混紡糸からなる両面立毛緯編地。
ニ、外衣(
図6と同様の外観)
N:<表地>難燃性メタアラミド繊維80質量%と綿20質量%からなる織物(3/1綾織)の裏縞に、PFTEフィルム(ゴアテックス社)を貼り合わせ、さらにフッ素系樹脂で撥水加工した透湿防水加工布。
<裏地>ポリエステル繊維織物(1/1平織)
ホ、保温性ライナー(外衣用、
図7と同様の外観)
O:難燃性モダアクリル系繊維100%のボア複合布。
【0111】
上記各層の衣服を(表11)の組合せにより体型区分LAのケースで各層衣服の寸法は(表1)〜(表4)に示すサイズ防寒被服セットを作製して組み合わせ、3種の着用比較試験(被験者10名)を行なった。ただし比較例の肌着は伸縮性の大きいストレッチ生地の特性上、股上、股下以外のサイズを設定値の30%減のサイズとした。その結果を(表12)に示す。
【0114】
(ただし、運動は穏やかな丘陵地における連続スキー歩行で、人体発熱量は170〜280kcal/m
2/h、発汗量は100〜300g/m
2/h程度である。尚、数値は被験者10人の平均である。)
【0115】
比較例に用いた肌着のタイト感は着用初期には快適と感じたが8時間経過すると疲労を感じた。実施例組み合わせNo.1に比べて比較例のセットは重たくかさばって、保温断熱は良いが運動性に欠陥を感じた感想が多い結果となった。
【0116】
ゆとり量の上限と下限を把握するため各13区分の体型で設定されている細身A体、太身のB体の衣服には、胸廻り寸法下限値、腰廻り下限値を各2cm小さく採ってその下限値以下の寸法で実施例1の生地組み合わせで4層からなる機動性被服を縫製した。一方太L体、肥満LL体には胸廻り寸法上限値、腰廻り上限値を各2cm大きく採って実施例1の生地組み合わせで各体型の4層からなる機動性被服を作製した。それら各区分の平均身長と胸囲を有する男子に着用試験評価を行い、着心地のアンケート調査を行った。それらの結果の要約を(表13)に示す。
○:優れる △:我慢できる範囲だが改善要求 ×:運動や作業性に不満
【0118】
標準体型に近いA体、B体の4層からなる機動性被服では本発明の寸法を採用することで機動性被服の運動機能性・作業性を満足し、被服と人体の適合性にミスマッチが少ないことが分かった。太L体や肥満LL体の一部に不適合が見られたのは腰廻りから算出したヒップを中心より少し大きめの方が良かったとの評価であった。一方A体、B体は下限値より胸廻りや腰廻りを細く設定したため、伸縮性の少ない外衣で窮屈さを感じさせ、運動性及び作業性に不満が認められた。太L体や肥満LL体の場合には、上限値より少し大きめでは運動性及び作業性の不満は少ないようだが、体型の肥満を感じさせる見栄えとなって、不適合とする意見もあった。
【0119】
以上のように、本発明に係る機動性被服は、上記のように特定の条件を満足する肌着−
内衣−中衣−外衣の組合せからなる重ね着する衣服のセットであり、多数の人員の集団の実着用に際して実着用者体格の不一致率を大きく低減し、高い保温性と作業活動性とを兼ね備え、優れた防寒性能と運動機能性とを有する比較的安価な機動性被服を多数の利用者に向けて提供することができる。
【0120】
また、本発明に係る機動性被服はそれぞれの層が十分な保温性を有し、外衣は防風性に優れているので十分な防寒性を発揮する。さらに各層の生地の伸縮性と曲げ剛さを制御し、各層のゆとり量も計算して設計しているので、寒冷地や極寒地で機動性被服を着用した場合に、作業中や長時間着用後にも疲れを生じ難いことが、アンケート調査で見出された。本発明に係る機動性被服は、通常は、肌着−内衣−中衣−外衣、又は肌着−内衣−中衣−外衣−偽装外衣の組み合せとして着用され、環境あるいは運動状態により、中衣、保温性ライナー等を適宜除いて着用することができ、運動機能性に優れた機動性被服として幅広い効果が見出された。