特許第6074242号(P6074242)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6074242
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】放射性セシウム除染方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/12 20060101AFI20170123BHJP
   B01J 20/02 20060101ALI20170123BHJP
   B01J 20/26 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   G21F9/12 501B
   G21F9/12 501J
   B01J20/02 A
   B01J20/26 C
【請求項の数】7
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-264118(P2012-264118)
(22)【出願日】2012年12月3日
(65)【公開番号】特開2014-109500(P2014-109500A)
(43)【公開日】2014年6月12日
【審査請求日】2015年12月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100114487
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 幸作
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】出水 丈志
(72)【発明者】
【氏名】小松 誠
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 貴志
【審査官】 後藤 孝平
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−305297(JP,A)
【文献】 特開昭64−015134(JP,A)
【文献】 特開2004−045371(JP,A)
【文献】 特開2004−202461(JP,A)
【文献】 特開昭48−094258(JP,A)
【文献】 特開平2−207839(JP,A)
【文献】 特開2013−75252(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/12
B01J 20/02
B01J 20/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性セシウムを、活性炭又はゼオライトに担持されたフェロシアン化鉄、フェロシアン化ニッケル、フェロシアン化銅から選択されるフェロシアン化合物に吸着させ、次いで、アニオン交換樹脂及び/又はキレート樹脂にシアンを吸着させる、放射性セシウムの除染方法。
【請求項2】
放射性セシウムを含む排水を、活性炭又はゼオライトに担持されたフェロシアン化鉄、フェロシアン化ニッケル、フェロシアン化銅から選択されるフェロシアン化合物と接触させ、次いで、アニオン交換樹脂及び/又はキレート樹脂に接触させて、放射性セシウムとシアンとを除去する放射性セシウムの除染方法。
【請求項3】
前記アニオン交換樹脂は、強塩基性I型アニオン交換樹脂である、請求項1又は2に記載の放射性セシウムの除染方法。
【請求項4】
前記キレート樹脂は、イミノジ酢酸型キレート樹脂又はポリアミン型キレート樹脂である、請求項1〜3のいずれかに記載の放射性セシウムの除染方法。
【請求項5】
フェロシアン化鉄、フェロシアン化ニッケル、フェロシアン化銅から選択されるフェロシアン化合物を活性炭又はゼオライトに担持してなるセシウム吸着材を充填してなる放射性セシウム吸着部を上流側に設け、アニオン交換樹脂及び/又はキレート樹脂を充填してなるシアン吸着部を下流側に設けてなる、放射性セシウム除染装置。
【請求項6】
前記アニオン交換樹脂は、強塩基性I型アニオン交換樹脂である、請求項5に記載の放射性セシウム除染装置。
【請求項7】
前記キレート樹脂は、イミノジ酢酸型キレート樹脂又はポリアミン型キレート樹脂である、請求項5又は6に記載の放射性セシウム除染装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性セシウム除染方法及び装置に関し、特に、フェロシアン化合物を用いる放射性セシウム除染において溶出するシアン化合物をも除去する放射性セシウム除染方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2011年3月11日の東日本大震災時の福島第一原子力発電所から環境中に放出された放射性セシウムの除染が急務となっている。紺青(フェロシアン化鉄)がセシウムを選択的に吸着するため、放射性セシウムの除染に有効であることが知られている(特許文献1)。除染作業等で発生した廃液は、紺青等のフェロシアン化合物で放射性セシウムを除去して放射能レベルを低減した上で、除染作業に再利用するか、もしくは河川等に排出することとなる。
【0003】
紺青は、一般式 MFe[Fe(CN)6]但し、M=NH4、K、Fe で表される、無機化合物である。紺青は、非常に古くから製造された顔料のため、プルシアンブルー(Prussian Blue)、ミロリブルー(Milori Blue) 、ベルリンブルー(Berlin Blue)、Iron Blue等たくさんの慣用名があり、一般式Mの種類によっても、色々な種類の紺青が存在するが、現在工業用として製造されているのはアンモニウム紺青である。紺青はフェロシアン化合物であり、分解することで全シアンとして検出される成分が溶出する。特にpHがアルカリ領域ではこの溶出は顕著となる。
【0004】
紺青による放射性セシウムの除染では、紺青に由来するシアンが溶出されるが、シアン除去を考慮した除染方法は提案されていない。
河川等への放流については、環境省の省令や自治体の政令等で管理基準値が定められており、放射性セシウムは1.0mg/L未満、全シアンは通常の河川水等では検出されないこと(JIS K 0102.38で測定して0.1mg/L未満)とされている。放射性セシウム除染作業により発生する排水中に全シアンが検出されてしまうことは安全・安心の観点から望ましいことではない。紺青を利用した吸着剤はさまざまなものが開発され、除染作業等に使用されているが、放射性セシウムの除去性能にのみ着目されており、全シアンとして検出される成分に関しては何ら着目されていない現状にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭62-43519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、放射性セシウムとシアンを除去することができる除染方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、放射性セシウムをフェロシアン化合物に吸着させ、次いで、アニオン交換樹脂及び/又はキレート樹脂にシアンを吸着させる、放射性セシウムの除染方法が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、放射性セシウムを含む排水をフェロシアン化合物と接触させ、次いで、アニオン交換樹脂及び/又はキレート樹脂に接触させて、放射性セシウムとシア
ンとを除去する放射性セシウムの除染方法が提供される。
【0009】
本発明によれば、フェロシアン化合物を担持してなるセシウム吸着材を充填してなる放射性セシウム吸着部を上流側に設け、アニオン交換樹脂及び/又はキレート樹脂を充填してなるシアン吸着部を下流側に設けてなる、放射性セシウム除染装置が提供される。
【0010】
前記アニオン交換樹脂は、強塩基性I型アニオン交換樹脂であることが好ましい。
前記キレート樹脂は、イミノジ酢酸型キレート樹脂又はポリアミン型キレート樹脂であることが好ましい。
【0011】
前記フェロシアン化合物は、フェロシアン化鉄、フェロシアン化ニッケル、フェロシアン化銅であることが好ましい。また、フェロシアン化合物は、活性炭又はゼオライト等に担持されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の除染方法及び装置によれば、排水中から放射性セシウムとシアンを除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の放射性セシウム除染装置の概略を示すフロー図である。
図2】実施例1の結果を示す写真である。
図3】実施例2の結果を示すグラフである
【好ましい実施形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
図1に、本発明の放射性セシウム除染装置の概略を示す。本発明の放射性セシウム除染装置は、フェロシアン化合物を担持してなるセシウム吸着剤を充填してなる放射性セシウム吸着塔10と、アニオン交換樹脂及び/又はキレート樹脂を充填してなるシアン吸着塔20と、を具備する。図示した実施形態では、放射性セシウム吸着塔10とシアン吸着塔20とを別個の塔として直列に接続しているが、同一の吸着塔内の上流側にフェロシアン化合物を充填してなる放射性セシウム吸着部を設け、下流側にアニオン交換樹脂及び/又はキレート樹脂を充填してなるシアン吸着部を設けてもよい。
【0015】
本発明の除染方法は、放射性セシウムを含む排液を原水貯留槽1から放射性セシウム吸着塔又は吸着部10に導入し、放射性セシウムを吸着除去した後、放射性セシウム吸着塔10からの流出液をシアン吸着塔又は吸着部20に導入し、シアンを吸着除去する。
【0016】
フェロシアン化合物としては、フェロシアン化鉄、フェロシアン化ニッケル、フェロシアン化銅を好ましく用いることができる。フェロシアン化合物は活性炭やゼオライト等の担体に担持されていることが好ましい。
【0017】
アニオン交換樹脂としては、強塩基性I型アニオン交換樹脂を好ましく用いることができる。キレート樹脂としては、イミノジ酢酸型キレート樹脂又はポリアミン型キレート樹脂を好ましく用いることができる。
【実施例】
【0018】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。
[実施例1]
以下の手順にて、フェロシアン化鉄を担持した活性炭からの溶出液の外観確認を行い、
各種吸着剤による全シアン成分の除去試験を行った。
【0019】
はじめに、全シアンとして検出される成分の溶出液を作成した。作成手順は以下の通りである。
1)200mLのビーカにフェロシアン化鉄担持活性炭(化研製FC-PB/AC 32-60mesh)を20g採取した。
2)次いで、純水を加え100mLにメスアップして3分間撹拌した。
3)デカントにて水を採取し、サンプル1とした。
【0020】
このサンプル1を用い、各種吸着剤によるバッチ法による吸着試験を行った。試験手順は以下の通りである。
1)上記1バッチ目のサンプル1を200mLにメスアップした。
2)100mLのビーカに下記4種類の吸着剤を2g採取した。
(1)粒状活性炭 (水ing(株)製粒状活性炭LG-20S)
(2)アニオン樹脂(ダウケミカル製アニオン樹脂MS550A)
(3)キレート樹脂(三菱化学製イミノジ酢酸型キレート樹脂CR11)
(4)キレート樹脂(三菱化学製ポリアミン型キレート樹脂CR20)
3)サンプル1を上記(1)〜(4)の吸着剤それぞれに40mL加え、3分間撹拌した。
【0021】
サンプル1及び各種吸着剤による除去処理実施後の写真1〜5を図2に示す。写真1に示すように、サンプル1は紺青色であり、活性炭に担持されていたフェロシアン化鉄が溶出している。写真2に示すように、活性炭(A.C.)処理後は紺青色を示し、フェロシアン化鉄が溶出されたまま、シアンが除去されていないことがわかる。写真5に示すように、ポリアミン型キレート樹脂CR20処理後の紺青色はやや薄くなっているものの、シアンが残っていることがわかる。一方、写真3及び4に示すように、アニオン樹脂(A.R.)及びイミノジ酢酸型キレート樹脂CR11では明らかに着色成分の低減が認められ、溶出物の除去が可能であることが確認された。
【0022】
[実施例2]
JIS K102.38に準拠するカラム法により、各種吸着剤による全シアン成分の除去試験を行った。
【0023】
次の2種類のサンプルについて、被処理対象液(カラム試験の原水)として全シアン濃度の測定を行った。
1)フェロシアン化鉄担持活性炭洗浄液
(1)フェロシアン化鉄担持活性炭(化研製FC-PB/AC 32/60mesh)40gを200mlビーカに採取した。
(2)次いで、純水を加え200mlにメスアップして3分間撹拌した。
(3)デカントにて洗浄液を採取した。
上記(1)〜(3)を繰り返し実施して、約1.5Lを回収して、サンプル2とした。
2)長期間通水したときの出口水サンプル
(1)フェロシアン化鉄担持活性炭を1m層高でカラムに充填し、1mg/LのCsを含む1/10海水を通水し、365時間経過時の出口水を採取し、サンプル3とした。サンプル3に含まれるCsの濃度は、アジレント・テクノロジー社製Agilent7700ICP-MSを用い測定したところ、0.001mg/L以下 であった。
【0024】
サンプル2及び3の全シアン測定結果は、サンプル2:3.80mg/L、サンプル3:0.22mg/Lであった。この2種類の全シアンとして検出される成分を含む水を用い、カラム試験を実施した。カラム試験は次の2種類の吸着剤について実施した。
(1)三菱化学製イミノジ酢酸型キレート樹脂CR11
(2)ダウケミカル製強塩基性I型アニオン樹脂MS550A
カラム試験手順は以下の通りであった。
1)内径16mmΦカラムに吸着剤を10cm(体積20mL)充填した。
2)原水をLV=20m/h(66mL/min)で通水した。
3)通水後5分及び10分経過後に出口水を採取し、全シアン濃度を測定した。
【0025】
通水試験結果を整理して表1及び図3に示す。図3において、横軸は経過時間(時:分:秒)、縦軸は全シアン濃度(mg/L)を示す。
【0026】
【表1】
【0027】
表1から、キレート樹脂CR11とアニオン樹脂で全シアンとして検出される成分が除去可能であることを確認した。特に、アニオン樹脂MS550Aは高い除去率を示した。今回は10cm層高で実施したが、通常のイオン交換装置は層高が1m程度であるため、全シアンとして検出される成分をほとんど除去することが可能であると考えられる。
【0028】
なお、実施例2の原水として用いたセシウム吸着処理後のフェロシアン化鉄担持活性炭カラム出口水中の全シアン濃度は、450時間経過時に0.13mg/Lであり、シアンの溶出が継続していることが確認できている。
図1
図2
図3