(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6074673
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】有機物分解用複合菌、有機性廃棄物処理方法、有機肥料製造方法、及び菌床
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20170130BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20170130BHJP
B09B 3/00 20060101ALI20170130BHJP
C02F 11/02 20060101ALI20170130BHJP
C05F 17/00 20060101ALI20170130BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20170130BHJP
C12R 1/07 20060101ALN20170130BHJP
【FI】
C12N1/20 AZNA
C12N1/20 DZAB
C12N1/20 F
C12N1/00 S
B09B3/00 D
B09B3/00 A
C02F11/02
C05F17/00
!C12N15/00 A
C12N1/20 DZAB
C12R1:07
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-286986(P2011-286986)
(22)【出願日】2011年12月27日
(65)【公開番号】特開2013-132288(P2013-132288A)
(43)【公開日】2013年7月8日
【審査請求日】2014年12月26日
【微生物の受託番号】IPOD FERM P-22201
【微生物の受託番号】IPOD FERM P-22202
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】511269129
【氏名又は名称】リサイクル ファクトリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100172409
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 朗宏
(74)【代理人】
【識別番号】100109449
【弁理士】
【氏名又は名称】毛受 隆典
(72)【発明者】
【氏名】湯本 勳
(72)【発明者】
【氏名】広田 菊江
(72)【発明者】
【氏名】本村 信人
【審査官】
藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】
韓国登録特許第10−1098520(KR,B1)
【文献】
特開平11−292674(JP,A)
【文献】
特開平06−197770(JP,A)
【文献】
特開2002−293681(JP,A)
【文献】
特開平11−070400(JP,A)
【文献】
特開平07−143880(JP,A)
【文献】
特開2006−109780(JP,A)
【文献】
特開2009−207424(JP,A)
【文献】
J. Bacteriol. (2007), Vol.189, No.6, pp.2477-2486
【文献】
Int. J. Syst. Evol. Microbiol. (2011) Vol.61, No.8, pp.1954-1961
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE/WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーモビフィダ・フスカ(Thermobifida fusca)類似I−14菌株(受託番号FERM P−22201)又はその変異株である細菌と、
バチルス・サーモチトセンシス(Bacillus thermochitosensis)I−8−5菌株(受託番号FERM P−22202)又はその変異株と、
を含む、
ことを特徴とする有機物分解用複合菌。
【請求項2】
請求項1に記載の有機物分解用複合菌と、有機性廃棄物と、を接触させる工程を含む、
ことを特徴とする有機性廃棄物処理方法。
【請求項3】
エアレーションを行う工程をさらに含む、
ことを特徴とする請求項2に記載の有機性廃棄物処理方法。
【請求項4】
請求項1に記載の有機物分解用複合菌と、有機性廃棄物と、を接触させる工程を含む、
ことを特徴とする有機肥料製造方法。
【請求項5】
エアレーションを行う工程をさらに含む、
ことを特徴とする請求項4に記載の有機肥料製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の有機物分解用複合菌を含む菌床。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌、有機物分解用複合菌、有機性廃棄物処理方法、有機肥料、有機肥料製造方法、及び菌床に関する。
【背景技術】
【0002】
環境保護の観点から、微生物を利用した有機性廃棄物処理に対する関心が高まっている。有機性廃棄物としては、家庭、飲食店、食品加工工場等から廃棄される生ゴミの他に、家畜糞尿、生汚泥、都市廃水由来の汚泥等が挙げられる。有機性廃棄物には、デンプン、タンパク質等の高分子物質が含まれている。微生物を利用した有機性廃棄物処理においては、こうした高分子物質に対して分解活性を有する微生物が用いられる。このような微生物が、有機性廃棄物に含まれる高分子物質を分解することで、有機性廃棄物の処理が図られる。
【0003】
有機性廃棄物には、野菜くず、落ち葉、籾殻、稲ワラ等が含まれる場合がある。このような有機性廃棄物には、セルロース、キシラン等といった繊維質が多く含まれる。
【0004】
一方、有機性廃棄物を高温で処理する方法が知られている。高温で処理することにより、有機性廃棄物中の水分蒸発が促進され、有機性廃棄物の迅速な減量化を図ることができる。また、好気性菌を用いた有機性廃棄物処理においては、菌床中の含水率が高いと好気性菌の活性が低下することが知られており、菌床の温度をある程度上げて菌床中の含水率を60〜65%に維持することが重要である。
【0005】
特許文献1には、70℃でタンパク質、デンプン、油脂等の分解活性を有するバチルス属細菌群(
Bacillus subtilis,
Bacillus licheniformis,
Bacillus sp.PR15,
Bacillus thermodenitrificans)を用いた有機性廃棄物分解方法が記載されている。特許文献2には、75〜85℃でリグニン等の難分解性繊維性物質の分解活性を有するサーマス属細菌(
Thermus aquaticus biovar SK542)を用いた方法が記載されている。特許文献3には、上記サーマス属細菌と好熱性のセルロース分解活性を有するクロストリジウム属細菌(
Clostridium thermocellum biovar SK552)とを組み合わせて用いた方法が記載されている。特許文献4及び5並びに非特許文献1には、80℃以上で増殖可能なカルドトリックス サツマエ(
Caldothrix satsumae=
Calditerricola satsumensis)YM081を用いた方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−58471号公報
【特許文献2】特開平6−105679号公報
【特許文献3】特開平6−191977号公報
【特許文献4】特開2005−013063号公報
【特許文献5】国際公開第2003/055985号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Moriya et al.;Calditerricola satsumensis gen.nov.,sp.nov.and Calditerricola yamamurae sp.nov.,extreme thermophiles isolated from a high−temperature compost.International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology,61,631−636,2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1〜5及び非特許文献1に記載の方法では、微生物を用いて高温で有機性廃棄物を分解することができるものの、セルロース及びキシランの両方を分解することはできず、繊維質を多く含む有機性廃棄物の処理においては課題を残していた。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、セルロース、キシランといった繊維質を含む有機性廃棄物を高温で効率的に分解することのできる細菌、有機物分解用複合菌、有機性廃棄物処理方法、及び菌床を提供することを目的とする。また本発明は、低コスト化が可能な有機肥料及び有機肥料製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る細菌は、サーモビフィダ・フスカ(
Thermobifida fusca)類似I−14菌株(受託番号FERM P−22201)又はその変異株である。
【0011】
本発明の第2の観点に係る有機物分解用複合菌は、前記細菌と、バチルス・サーモチトセンシス(
Bacillus thermochitosensis)I−8−5菌株(受託番号FERM P−22202)又はその変異株と、を含む、ことを特徴とする。
【0012】
本発明の第3の観点に係る有機性廃棄物処理方法は、前記細菌又は前記有機物分解用複合菌と、有機性廃棄物と、を接触させる工程を含む、ことを特徴とする。
【0013】
前記有機性廃棄物処理方法は、エアレーションを行う工程をさらに含んでいてもよい。
【0014】
本発明の第4の観点に係る有機肥料は、前記有機性廃棄物処理方法により得られる、ことを特徴とする。
【0015】
本発明の第5の観点に係る有機肥料製造方法は、前記細菌又は前記有機物分解用複合菌と、有機性廃棄物と、を接触させる工程を含む、ことを特徴とする。
【0016】
前記有機肥料製造方法は、エアレーションを行う工程をさらに含んでいてもよい。
【0017】
本発明の第6の観点に係る菌床は、前記細菌又は前記有機物分解用複合菌を含む。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、セルロース、キシランといった繊維質を含む有機性廃棄物を高温で効率的に分解することのできる細菌、有機物分解用複合菌、有機性廃棄物処理方法、及び菌床を提供することができる。また、低コスト化が可能な有機肥料及び有機肥料製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】エアレーション設備を模式的に示す上面図である。
【
図2】エアレーション設備を模式的に示す斜視図である。
【
図3】サーモビフィダ・フスカ(
Thermobifida fusca)類似I−14菌株の16S rRNA遺伝子配列から近隣結合法に基づく系統的位置を示す図である(スケールバー=0.01
Knuc.)。分岐における数値は、1000回繰り返したbootstrap analysisで評価した信頼値を示す。
【
図4】バチルス・サーモチトセンシス(
Bacillus thermochitosensis)I−8−5菌株の16S rRNA遺伝子配列から近隣結合法に基づく系統的位置を示す図である(スケールバー=0.02
Knuc.)。分岐における数値は、1000回繰り返したbootstrap analysisで評価した信頼値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0021】
本明細書において有機性廃棄物とは、多種の有機物を含む廃棄物であり、以下に限定されるものではないが、例えば、家庭、飲食店、及び食品加工工場等から廃棄される野菜くず等を含む生ごみ、魚介類廃棄物、家畜糞尿、生汚泥、都市廃水由来の汚泥、並びに落ち葉、稲ワラ等の繊維質を多く含む廃棄物等が挙げられる。
【0022】
(1.サーモビフィダ・フスカ(
Thermobifida fusca)類似I−14菌株又はその変異株)
本発明により、サーモビフィダ・フスカ(
Thermobifida fusca)類似I−14菌株(以下、I−14という)又はI−14の変異株が提供される。I−14は、サーモビフィダ・フスカ(
Thermobifida fusca)の類縁菌株である。I−14は、配列番号1に示される16S rRNA遺伝子塩基配列を有する。
【0023】
I−14は、セルロース、キシラン、デンプン、及びタンパク質分解活性を有する。このため、I−14を有機性廃棄物処理に用いることにより、セルロース、キシランといった繊維質を多く含む有機性廃棄物を効率的に分解することができる。また、I−14は好熱性微生物であり、55℃以上でもセルロース、キシラン、デンプン、及びタンパク質分解活性を有する。このため、I−14を高温での有機性廃棄物処理に用いることができる。高温で有機性廃棄物処理を行うことにより、有機性廃棄物中の水分蒸発が促進されるため有機性廃棄物の迅速な減量化を図ることができる。特に90〜108℃ではさらに、有機性廃棄物中に含まれる病原微生物、雑草の種子等を効率的に殺滅させることができる。
【0024】
I−14は、平成23年12月19日付で、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(郵便番号305−8566 茨城県つくば市東1−1−1つくばセンター中央第6)に受託番号FERM P−22201にて寄託された。
【0025】
本明細書においてI−14の変異株とは、例えば、配列番号1に示される塩基配列と95%以上、好ましくは96%以上、97%以上、98%以上又は99%以上、さらに好ましくは100%の相同性を示す16S rRNA遺伝子塩基配列を有する菌株をいう。また、I−14の変異株は、セルロース、キシラン、デンプン、及びタンパク質分解活性を有する。さらに、I−14の変異株は、55℃以上でもセルロース、キシラン、デンプン、及びタンパク質分解活性を有する。
【0026】
I−14の変異株は、例えば、I−14から当業者に公知の変異処理により誘導され得る。該変異処理として、例えば、紫外線、γ線といった放射線等の照射、メチルニトロソウレア等の変異原性化学物質の接触、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)処理、エチルメタンスルホン酸(EMS)処理等が挙げられる。本発明の効果を奏する変異処理であれば、適宜選択され得る。
【0027】
(2.バチルス・サーモチトセンシス(
Bacillus thermochitosensis)I−8−5菌株又はその変異株)
本発明による有機物分解用複合菌には、I−14又はその変異株と、バチルス・サーモチトセンシス(
Bacillus thermochitosensis)I−8−5菌株(以下、I−8−5という)又はその変異株と、が含まれる。
【0028】
I−8−5は、バチルス・サーモチトセンシス(
Bacillus thermochitosensis)に属する新規微生物である。I−8−5は、配列番号2に示される16S rRNA遺伝子塩基配列を有する。
【0029】
I−8−5は、デンプン分解活性を有する。また、I−8−5は好熱性微生物であり、55℃以上でもデンプン分解活性を有する。このため、I−14と同様に、高温での有機性廃棄物処理に好適に用いることができる。
【0030】
I−8−5は、平成23年12月19日付で、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(同上)に受託番号FERM P−22202にて寄託された。
【0031】
本明細書においてI−8−5の変異株とは、例えば、配列番号2に示される塩基配列と95%以上、好ましくは96%以上、97%以上、98%以上又は99%以上、さらに好ましくは100%の相同性を示す16S rRNA遺伝子塩基配列を有する菌株をいう。また、I−8−5の変異株は、デンプン分解活性を有する。さらに、I−8−5の変異株は、55℃以上でもデンプン分解活性を有する。
【0032】
I−8−5の変異株は、例えば、I−8−5から上述と同様の変異処理により誘導され得る。
【0033】
(3.菌株の単離及び同定)
上述の各菌株は、例えば、北海道千歳市近郊で伐採された広葉樹及び針葉樹を裁断した木材チップに、有機性廃棄物(野菜くず等を含む生ゴミ、食品工場からの食品廃棄物、水産廃棄物、家畜糞尿、稲わら等)を繰り返し投入し、90℃〜108℃に維持することで形成された高温菌床から単離、同定することができる。
【0034】
上述の各菌株を単離、同定する方法としては、例えば、上述の高温菌床から、65℃以上で生育する能力を有し、かつ、セルロース、キシラン、デンプン、及びタンパク質の分解活性を有する微生物を単離し、その後、16S rRNA遺伝子塩基配列の相同性を解析することで菌株の分類学的位置の決定等を行うことが挙げられる。本発明の効果を奏する単離及び同定方法であれば、適宜選択され得る。
【0035】
菌株のセルロース分解活性は、例えば、カルボキシメチルセルロースを含有する寒天培地に、単離された菌株を接種し、培養した後、コンゴーレッド等で染色し、コロニー周辺のクリアーゾーンの形成の有無を観察することにより評価される。本発明の効果を奏する評価方法であれば、適宜選択され得る。
【0036】
菌株のキシラン分解能は、例えば、キシランを含有する寒天培地に、単離された菌株を接種し、培養した後、コンゴーレッド等で染色し、コロニー周辺のクリアーゾーンの形成の有無を観察することにより評価される。本発明の効果を奏する評価方法であれば、適宜選択され得る。
【0037】
菌株のデンプン分解能は、例えば、デンプンを含有する寒天培地に、単離された菌株を接種し、培養した後、ルゴール液等で染色し、コロニー周辺のクリアーゾーンの形成の有無を観察することにより評価される。本発明の効果を奏する評価方法であれば、適宜選択され得る。
【0038】
菌株のタンパク質分解能は、例えば、カゼインを含有する寒天培地に、単離された菌株を接種し、培養した後、コロニー周辺のクリアーゾーンの形成の有無を観察することにより評価される。本発明の効果を奏する評価方法であれば、適宜選択され得る。
【0039】
遺伝子塩基配列の相同性については、例えば、DNA Data Bank of Japan (DDBJ)のホームページ(http://www.ddbj.nig.ac.jp/Welcome−j.html)に掲載されているBLAST検索またはGENETYX(株式会社ゼネティックス)等のDNA配列解析ソフトを使用して決定することができる。本発明の効果を奏する方法であれば、適宜選択され得る。
【0040】
(4.有機物分解用複合菌)
本発明による有機物分解用複合菌は、上述の通り、I−14又はその変異株の他に、I−8−5又はその変異株をさらに含む。上述の通り、I−14又はその変異株はセルロース、キシラン、デンプン、及びタンパク質分解活性を有し、I−8−5又はその変異株はデンプン分解活性を有する。このため、該有機物分解用複合菌を有機性廃棄物処理に用いることにより、セルロース、キシランといった繊維質を分解できるとともに、デンプン分解活性の相乗効果により、さらに効率的に有機性廃棄物を分解することができる。また、これらの菌株は、上述の通り、55℃以上でも上述の分解活性を有する。このため、該有機物分解用複合菌を高温での有機性廃棄物処理に用いることができる。このような高温で有機性廃棄物処理を行うことにより、有機性廃棄物中の水分蒸発が促進されるため有機性廃棄物の迅速な減量化を図ることができる。特に90〜108℃ではさらに、有機性廃棄物中に含まれる病原微生物、雑草の種子等を効率的に殺滅させることができる。
【0041】
(5.菌床)
本発明による菌床は、I−14若しくはその変異株、又は本発明による有機物分解用複合菌を含有する。該菌床は、例えば、土状、土塊状等であり、55℃以上、好ましくは90〜108℃での有機性廃棄物処理に用いられる。該菌床の大きさは、例えば、幅10m、奥行き10m、高さ2〜3mである。
【0042】
(6.有機性廃棄物処理方法)
本発明による有機性廃棄物処理方法は、I−14若しくはその変異株、又は本発明による有機物分解用複合菌と、有機性廃棄物と、を接触させる工程を含む。該有機性廃棄物処理方法においては、例えば、上述の菌床に有機性廃棄物を投入し、該有機物分解用複合菌と有機性廃棄物とを接触させることにより、有機性廃棄物を分解する。
【0043】
I−14若しくはその変異株、又は該有機物分解用複合菌は、上述の通り、セルロース、キシラン、デンプン、及びタンパク質を分解することができるため、該有機性廃棄物処理方法により、セルロース、キシランといった繊維質を多く含む有機性廃棄物を効率的に分解することができる。また、I−14若しくはその変異株、又は該有機物分解用複合菌を、上述の通り、55℃以上での有機性廃棄物処理に用いることがきる。このため、有機性廃棄物中の水分蒸発が促進され有機性廃棄物の迅速な減量化を図ることができる。特に90〜108℃ではさらに、有機性廃棄物中に含まれる病原微生物、雑草の種子等を効率的に殺滅させることができる。
【0044】
本発明による有機性廃棄物処理方法は、さらにエアレーションを行う工程を含んでいてもよい。エアレーションの方法としては、例えば、送風機を用いて菌床に空気を送り込む方法が挙げられる。該方法においては、例えば、複数の空気孔を設けた管を、菌床の床部に複数設置し、該管を送風機に接続することにより、該管の空気孔を介して菌床に空気を送り込む。本発明の効果を奏するエアレーションの方法であれば、適宜選択され得る。エアレーションを行うことにより、好気性菌であるI−14又はその変異株及びI−8−5又はその変異株に持続的に酸素を供給することができる。その結果、これらの菌株の活性を高めることができるため、有機性廃棄物をより効率的に分解することができる。また、有機性廃棄物に含まれる水分をより効果的に蒸発させることができるため、有機性廃棄物のさらなる迅速な減量化を図ることができる。
【0045】
本発明による有機性廃棄物処理方法を用いて、例えば、含水率の高い野菜くずを含む生ゴミ、水産廃棄物、家畜糞尿等の有機性廃棄物を処理する場合について説明する。例えば、I−14及びI−8−5を含有する菌床に、毎日、2〜3トンの該有機性廃棄物を投入し、常時エアレーションを行う。該菌床は、外部から熱を加えることなく、例えば、90℃〜108℃に維持され得る。I−14及びI−8−5により、該有機性廃棄物中のセルロース、キシラン、デンプン、及びタンパク質が効率的に分解され、かつ、高温での処理により該有機性廃棄物の迅速な減量化を図ることができる。
【0046】
本発明による有機性廃棄物処理方法を用いて、例えば、敷料(稲ワラ、おがくず、籾殻等からなり、セルロース、キシラン等の繊維質が多く含まれる)が混入した家畜糞尿を処理する場合について説明する。例えば、I−14及びI−8−5を含有する菌床に、毎日、該家畜糞尿を投入し、常時エアレーションを行う。また、家畜糞尿は粘性が高いため、家畜糞尿とこれらの菌株との接触の機会を多くする目的で、タイヤショベル等で該菌床を2〜3カ月に1回程度簡単に攪拌する。該菌床は、外部から熱を加えることなく、例えば、90℃〜108℃に維持され得る。I−14及びI−8−5により、該有機性廃棄物中のセルロース、キシラン、デンプン、及びタンパク質が効率的に分解され、かつ、高温での処理により該有機性廃棄物の迅速な減量化を図ることができる。該方法により、約1年間、家畜糞尿の処理を継続的に行うことが可能である。
【0047】
(7.有機肥料)
本発明により、有機肥料が提供される。該有機肥料は、上述の有機性廃棄物処理方法を用いることで得られる。該有機肥料は、従来廃棄するだけであった有機性廃棄物を分解させることにより得られるため、低コスト化が可能である。また、植物、動物等の自然由来の有機性廃棄物を分解することで得られた有機肥料は、化学肥料の使用で懸念される環境汚染の問題を回避することが可能である。
【0048】
(8.有機肥料製造方法)
本発明により、有機肥料製造方法が提供される。該有機肥料製造方法は、I−14若しくはその変異株、又は本発明による有機物分解用複合菌と、有機性廃棄物と、を接触させる工程を含む。該有機肥料製造方法においては、従来廃棄するだけであった有機性廃棄物を分解させて有機肥料を製造することができるため、低コスト化が可能となる。また、該有機肥料製造方法は、さらにエアレーションを行う工程を含んでいてもよく、この場合、有機性廃棄物をより効率的に分解することができるため、より迅速に有機肥料を製造することができる。
【実施例1】
【0049】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
(菌株の分離及び同定)
菌株は、北海道千歳市において形成された高温菌床より分離された。この高温菌床は、北海道千歳市近郊で伐採された広葉樹及び針葉樹を長さ40mm以下、直径10mm以下に裁断した木材チップに、野菜くずを含む生ゴミ、食品工場からの食品廃棄物、水産廃棄物、家畜糞尿等の有機性廃棄物を約10年間にわたり繰り返し投入することで形成された。途中、高温菌床の一部を、エアレーション設備100の床部110(
図1及び
図2)の上に新たに取り分け、上記木材チップ及び上記有機性廃棄物と混合させることで、高温菌床を継続させた。
【0051】
エアレーション設備100は、床部110、送風機120(富士電機社製、商品名「VFC602A」,「VFC705A」)、本管130、支管140、及びコンクリート壁150を備える(
図1及び
図2)。床部110は、幅10m、奥行き10mであった。コンクリート壁150の高さは、10m程度であった。本管130は、直径8〜10cmの鉄製の管であり、送風機120に接続された。本管130は、エアレーション設備100の床部110に設けられた溝内に設置された。支管140は、直径4cmのゴム製の管であり、本管130に複数接続された。支管140には、50cm間隔で直径5mmの空気孔(図示せず)が設けられた。支管140は本管130と同様に、エアレーション設備100の床部110に設けられた溝内に設置された。コンクリート壁150は、厚さ10cm程度であった。コンクリート壁150には、開口部が設けられた。
【0052】
高温菌床は、エアレーション設備100の床部110の上に、常時2〜3m程度の高さに積み上げられた(
図2)。送風機120から送られた空気は、本管130を経由して支管140に送られ、支管140の空気孔を介して、矢印Wの向きに高温菌床に常時送られた。エアレーションは、継続的に行われた。有機性廃棄物は、エアレーション設備100の開口部より、ショベルカー等により、毎日2〜3トン投入された。高温菌床内部の温度は、外部から熱を加えることなく、冬季においても90℃〜108℃に維持された。このようにして形成された高温菌床を試料とした。
【0053】
上述の試料5mLを入れた滅菌ディスポーサブル容器に滅菌水5mLを加えて、該試料を希釈した。これをpH8.0のPYG培地(ペプトン8g、酵母エキス(極東製薬工業社製、商品コード:551−01310−8)3g、リン酸二カリウム(K
2HPO
4)1g、ゲランガム(和光純薬社製、商品コード:075−03075)30gを1000mLの脱イオン水に溶解)に接種し、60℃で24時間培養した。培地上で生育したコロニーを分離し、該PYG培地に接種、培養することで単離精製を繰り返した。単離精製の結果得られた2菌株のDNAを各々抽出した。PCR法により、9Fプライマー(配列番号3)及び1541Rプライマー(配列番号4)を用いて、16S rRNA遺伝子を増幅し、オートシークエンサー(アプライドバイオシステムズ社製、製品名「PRISM 3100」)を用いて16S rRNA塩基配列をコードする遺伝子の塩基配列を各々解析した。それらの塩基配列を配列番号1及び2に示す。
【0054】
配列番号1に示す塩基配列をもとにDNA Data Bank of Japan(DDBJ)のホームページ(http://www.ddbj.nig.ac.jp/Welcome−j.html)に掲載されているBLAST検索によりホモロジー検索したところ、配列番号1に示す塩基配列は、サーモビフィダ・フスカ(
Thermobifida fusca)と最も高い相同性(98.9%)を示した。配列番号1に示される16S rRNA遺伝子塩基配列を有する菌株を、I−14とした。
図3において、I−14の16S rRNA塩基配列に基づく近縁種との系統的関係を示す。
【0055】
配列番号2に示す塩基配列をもとに上記と同様にホモロジー検索したところ、配列番号2の16S rRNA遺伝子塩基配列を有する菌株は、バチルス・サーモチトセンシス(
Bacillus thermochitosensis)の新規菌株であることが判明した。該菌株を、I−8−5とした。
図4において、I−8−5の16S rRNA塩基配列に基づく近縁種との系統的関係を示す。
【0056】
上記2菌株の菌学的性質を表1及び表2に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【実施例2】
【0059】
(セルロース、キシラン、デンプン、及びタンパク質の分解活性の評価)
I−14及びI−8−5のセルロース、キシラン、デンプン、及びタンパク質の分解活性を評価した。
【0060】
(1)セルロース分解活性の評価
カルボキシメチルセルロース(CMC)(和光純薬社製、商品コード:039−01335)0.5%を含有するpH8.0の寒天培地(ペプトン10g/L、酵母エキス3.0g/L、CMC5g/L、及び寒天15g/Lを含有する)に、I−14、I−8−5を各々接種し、55℃で約1週間培養した。培養後、0.1%コンゴーレッド水溶液を重層し、室温下で30分間置いた。その後、1M NaClを重層して30分間置き、NaClを除去することで培地を洗浄した。1M NaClによる洗浄を数回繰り返した。コロニー周辺に黄色のクリアーゾーンが形成されている場合を、セルロース分解活性陽性と判定した。その結果、I−14にセルロース分解活性が認められた。
【0061】
(2)キシラン分解活性の評価
上記のCMC0.5%に替えてキシラン(シグマ社製、商品コード:x0627−25G)0.5%を含有する寒天培地に、I−14、I−8−5を各々接種し、55℃で約1週間培養した。培養後、上記同様に染色及び洗浄を行った。コロニー周辺に黄色のクリアーゾーンが形成されている場合を、キシラン分解活性陽性と判定した。その結果、I−14にキシラン分解活性が認められた。
【0062】
(3)デンプン分解活性の評価
上記のCMC0.5%に替えて可溶性デンプン(和光純薬社製、商品コード:196−13185)0.5%を含有する寒天培地に、I−14、I−8−5を各々接種し、55℃で約1週間培養した。培養後、デンプンを特異的に染色するルゴール液を重層し、培地中に残存するデンプンを染色した。デンプンが分解されたことによってコロニー周辺にクリアーゾーンが形成されている場合を、デンプン分解活性陽性と判定した。その結果、I−14及びI−8−5にデンプン分解活性が認められた。
【0063】
(4)タンパク質分解活性の評価
カゼイン(森永乳業社製、商品名「スキムミルク」)1%を含有するpH8.0の寒天培地(ペプトン10g/L、酵母エキス3.0g/L、カゼイン10g/L、及び寒天15g/Lを含有する)に、I−14、I−8−5をそれぞれ接種し、55℃で約1週間培養した。培養後、カゼインが分解されたことによってコロニー周辺にクリアーゾーンが形成されている場合を、タンパク質分解活性陽性と判定した。その結果、I−14にタンパク質分解活性が認められた。
【0064】
以上より、I−14は、セルロース、キシラン、デンプン、及びタンパク質分解活性を有し、I−8−5は、デンプン分解活性を有することが示された。
【0065】
以上説明したように、本発明によれば、セルロース、キシランといった繊維質を含む有機性廃棄物を高温で効率的に分解することのできる細菌、有機物分解用複合菌、有機性廃棄物処理方法、及び菌床を提供することができる。また、低コスト化が可能な有機肥料及び有機肥料製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0066】
100 エアレーション設備
110 床部
120 送風機
130 本管
140 支管
150 コンクリート壁
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]