(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0013】
以下の説明において、「位相差板」及び「偏光板」とは、剛直な部材だけでなく、例えば樹脂製のフィルムのように可撓性を有する部材も含む。
【0014】
フィルム又は層の面内レターデーションは、別に断らない限り、(nx−ny)×dで表される値である。また、フィルム又は層の厚み方向のレターデーションは、別に断らない限り、{(nx+ny)/2−nz}×dで表される値である。ここで、nxは、フィルム又は層の厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって最大の屈折率を与える方向の屈折率を表す。nyは、フィルム又は層の前記面内方向であってnxの方向に垂直な方向の屈折率を表す。nzは、フィルム又は層の厚み方向の屈折率を表す。dは、フィルム又は層の膜厚を表す。前記のレターデーションは、市販の位相差測定装置(例えば、王子計測機器社製、「KOBRA−21ADH」、フォトニックラティス社製、「WPA−micro」)あるいはセナルモン法を用いて測定できる。
【0015】
また、構成要素の方向が「平行」、「垂直」又は「直交」とは、特に断らない限り、本発明の効果を損ねない範囲内、例えば±5°の範囲内での誤差を含んでいてもよい。
さらに、ある方向に「沿って」とは、ある方向に「平行に」との意味である。
【0016】
[1.概要]
本発明の位相差フィルム積層体は、脂環式構造を有する重合体を含む第一の樹脂(B)で形成された基材層と、前記基材層の表面に形成されたコート層とを備える。また、コート層は、脂環式構造を有する重合体を含む第二の樹脂(A)を有機溶媒に溶解させた溶液(以下、適宜「コート液」と呼ぶことがある。)を、基材層の表面に塗布し乾燥させて形成された層である。したがって、本発明の位相差フィルム積層体は、基材層の表面にコート液を塗布して、コート液の膜を形成する工程と、基材層の表面に形成されたコート液の膜を乾燥させて、コート層を得る工程とを含む製造方法により、製造しうる。
【0017】
[2.基材層]
前記のように、基材層は、第一の樹脂(B)で形成された層である。また、第一の樹脂(B)は、脂環式構造を有する重合体を含む樹脂である。
【0018】
脂環式構造を有する重合体とは、その重合体の構造単位が脂環式構造を有する重合体である。この脂環式構造を有する重合体は、主鎖に脂環式構造を有していてもよく、側鎖に脂環式構造を有していてもよい。この脂環式構造を有する重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。中でも、機械的強度、耐熱性などの観点から、主鎖に脂環式構造を有する重合体が好ましい。
【0019】
脂環式構造としては、例えば、飽和脂環式炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和脂環式炭化水素(シクロアルケン、シクロアルキン)構造などが挙げられる。中でも、例えば機械強度、耐熱性などの観点から、シクロアルカン構造及びシクロアルケン構造が好ましく、中でもシクロアルカン構造が特に好ましい。
【0020】
脂環式構造を構成する炭素原子数は、一つの脂環式構造あたり、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上であり、好ましくは30個以下、より好ましくは20個以下、特に好ましくは15個以下の範囲であるときに、当該脂環式構造を有する重合体を含む樹脂の機械強度、耐熱性、及び成形性が高度にバランスされ、好適である。
【0021】
脂環式構造を有する重合体において、脂環式構造を有する構造単位の割合は、使用目的に応じて適宜選択してもよく、好ましくは55重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。脂環式構造を有する重合体における脂環式構造を有する構造単位の割合がこの範囲にあると、当該脂環式構造を有する重合体を含む樹脂の透明性及び耐熱性が良好となる。
【0022】
脂環式構造を有する重合体の中でも、シクロオレフィン系重合体が好ましい。シクロオレフィン系重合体は、シクロオレフィン系単量体を重合して得られる構造を有する重合体である。また、シクロオレフィン系単量体は、炭素原子で形成される環構造を有し、かつ該環構造中に重合性の炭素−炭素二重結合を有する化合物である。重合性の炭素−炭素二重結合としては、例えば開環重合等の重合可能な炭素−炭素二重結合が挙げられる。また、シクロオレフィン系単量体の環構造としては、例えば、単環、多環、縮合多環、橋かけ環及びこれらを組み合わせた多環等が挙げられる。中でも、得られる重合体の誘電特性及び耐熱性等の特性を高度にバランスさせる観点から、多環のシクロオレフィン系単量体が好ましい。
【0023】
上記のシクロオレフィン系重合体の中でも好ましいものとしては、ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン系重合体、環状共役ジエン系重合体、及び、これらの水素化物等が挙げられる。これらの中でも、ノルボルネン系重合体は、成形性が良好なため、特に好適である。
【0024】
ノルボルネン系重合体の例としては、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体、若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との開環共重合体、又はそれらの水素化物;ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体、若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との付加共重合体、又はそれらの水素化物;などを挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環(共)重合体水素化物は、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、特に好適である。ここで「(共)重合体」とは、重合体及び共重合体のことをいう。
【0025】
ノルボルネン構造を有する単量体としては、例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、トリシクロ[4.3.0.1
2,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、7,8−ベンゾトリシクロ[4.3.0.1
2,5]デカ−3−エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ[4.4.0.1
2,5.1
7,10]ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、およびこれらの化合物の誘導体(例えば、環に置換基を有するもの)などを挙げることができる。ここで、置換基としては、例えばアルキル基、アルキレン基、極性基などを挙げることができる。また、これらの置換基は、同一または相異なって、複数個が環に結合していてもよい。また、ノルボルネン構造を有する単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0026】
極性基の種類としては、例えば、ヘテロ原子、またはヘテロ原子を有する原子団などが挙げられる。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、ハロゲン原子などが挙げられる。極性基の具体例としては、カルボキシル基、カルボニルオキシカルボニル基、エポキシ基、ヒドロキシル基、オキシ基、エステル基、シラノール基、シリル基、アミノ基、ニトリル基、スルホン酸基などが挙げられる。
【0027】
ノルボルネン構造を有する単量体と開環共重合可能な他の単量体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどのモノ環状オレフィン類およびその誘導体;シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエンなどの環状共役ジエンおよびその誘導体;などが挙げられる。ノルボルネン構造を有する単量体と開環共重合可能な他の単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0028】
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体、およびノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との開環共重合体は、例えば、単量体を公知の開環重合触媒の存在下に重合又は共重合することにより製造しうる。
【0029】
ノルボルネン構造を有する単量体と付加共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテンなどの炭素原子数2〜20のα−オレフィンおよびこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセンなどのシクロオレフィンおよびこれらの誘導体;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエンなどの非共役ジエン;などが挙げられる。これらの中でも、α−オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。また、ノルボルネン構造を有する単量体と付加共重合可能な他の単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0030】
ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体、およびノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との付加共重合体は、例えば、単量体を公知の付加重合触媒の存在下に重合又は共重合することにより製造しうる。
【0031】
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の水素添加物、ノルボルネン構造を有する単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環共重合体の水素添加物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体の水素添加物、及び、ノルボルネン構造を有する単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との付加共重合体の水素添加物は、例えば、これらの重合体の溶液において、ニッケル、パラジウム等の遷移金属を含む公知の水素添加触媒の存在下で、炭素−炭素不飽和結合を好ましくは90%以上水素添加することによって製造しうる。
【0032】
ノルボルネン系重合体の中でも、構想単位として、X:ビシクロ[3.3.0]オクタン−2,4−ジイル−エチレン構造と、Y:トリシクロ[4.3.0.12,5]デカン−7,9−ジイル−エチレン構造とを有し、これらの構造単位の量が、ノルボルネン系重合体の構造単位全体に対して90重量%以上であり、かつ、Xの含有割合とYの含有割合との比が、X:Yの重量比で100:0〜40:60であるものが好ましい。このような重合体を用いることにより、当該ノルボルネン系重合体を含む樹脂の層を、長期的に寸法変化がなく、光学特性の安定性に優れるものにすることができる。
【0033】
単環の環状オレフィン系重合体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等の単環を有する環状オレフィン系モノマーの付加重合体を挙げることができる。
【0034】
環状共役ジエン系重合体としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等の共役ジエン系モノマーの付加重合体を環化反応して得られる重合体;シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン等の環状共役ジエン系モノマーの1,2−または1,4−付加重合体;およびこれらの水素化物;などを挙げることができる。
【0035】
脂環式構造を有する重合体の重量平均分子量(Mw)は、位相差フィルム積層体の使用目的に応じて適宜選定してもよく、好ましくは10,000以上、より好ましくは15,000以上、特に好ましくは20,000以上であり、好ましくは100,000以下、より好ましくは80,000以下、特に好ましくは50,000以下である。重量平均分子量がこのような範囲にあるときに、位相差フィルム積層体の機械的強度および成型加工性が高度にバランスされ好適である。ここで、前記の重量平均分子量は、溶媒としてシクロヘキサンを用いて(但し、試料がシクロヘキサンに溶解しない場合にはトルエンを用いてもよい)ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリイソプレンまたはポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0036】
脂環式構造を有する重合体の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、好ましくは1.2以上、より好ましくは1.5以上、特に好ましくは1.8以上であり、好ましくは3.5以下、より好ましくは3.0以下、特に好ましくは2.7以下である。分子量分布を前記範囲の下限値以上にすることにより、重合体の生産性を高め、製造コストを抑制できる。また、上限値以下にすることにより、低分子成分の量が小さくなるので、高温曝露時の緩和を抑制して、位相差フィルム積層体の安定性を高めることができる。
【0037】
第一の樹脂(B)は、本発明の効果を著しく損なわない限り、脂環式構造を有する重合体以外にも任意の成分を含みうる。任意の成分の例を挙げると、顔料、染料等の着色剤;可塑剤;蛍光増白剤;分散剤;熱安定剤;光安定剤;紫外線吸収剤;耐電防止剤;酸化防止剤;微粒子;界面活性剤等の添加剤が挙げられる。これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。ただし、第一の樹脂(B)に含まれる脂環式構造を有する重合体の量は、通常、50重量%〜100重量%、又は70重量%〜100重量%である。
【0038】
第一の樹脂(B)のガラス転移温度は、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、特に好ましくは120℃以上であり、好ましくは190℃以下、より好ましくは180℃以下、特に好ましくは170℃以下である。第一の樹脂(B)のガラス転移温度を前記範囲の下限値以上にすることにより、高温環境下における位相差フィルム積層体の耐久性を高めることができる。また、上限値以下にすることにより、延伸処理を容易に行えるようにできる。
【0039】
第一の樹脂(B)は、光弾性係数の絶対値が、好ましくは10×10
−12Pa
−1以下、より好ましくは7×10
−12Pa
−1以下、特に好ましくは4×10
−12Pa
−1以下である。これにより、位相差フィルム積層体の面内レターデーションのバラツキを小さくすることができる。ここで、光弾性係数Cは、複屈折をΔn、応力をσとしたとき、C=Δn/σで表される値である。
【0040】
第一の樹脂(B)で基材層を製造する方法に制限は無い。例えば、溶融成形法、溶液流延法などにより、第一の樹脂(B)をフィルム状に成形することにより、基材層を製造してもよい。溶融成形法としては、例えば、溶融押し出しにより成形する押出成形法、並びに、プレス成形法、インフレーション成形法、射出成形法、ブロー成形法、及び延伸成形法などが挙げられる。これらの方法の中でも、機械強度及び表面精度に優れた基材層を得る観点から、押出成形法、インフレーション成形法及びプレス成形法が好ましい。その中でも特に、残留溶媒の量を減らせること、並びに、効率よく簡単な製造が可能なことから、押出成形法が特に好ましい。
【0041】
基材層は、延伸処理を施されていてもよい。しかし、コート液を塗布する以前の時点においては、基材層には延伸処理を施さないことが好ましい。
【0042】
[3.コート液の塗布]
位相差フィルム積層体を製造する際には、用意した基材層の表面に、コート液を塗布する。このコート液は、有機溶媒と、その有機溶媒に溶解した第二の樹脂(A)とを含む。この際、コート液は、基材層の表面に直接に塗布する。すなわち、基材層と塗布されたコート液の膜との間には、他の層が挟まれないようにする。
【0043】
第二の樹脂(A)としては、脂環式構造を有する重合体を含む樹脂を用いる。ただし、この第二の樹脂(A)は、下記の式(1)で表される要件を満たす。この式(1)において、TgBは、第一の樹脂(B)のガラス転移温度を表し、TgAは、第二の樹脂(A)のガラス転移温度を表す。
TgA+10℃≦TgB (1)
【0044】
前記の式(1)で表される要件について更に詳細に説明すると、第一の樹脂(B)のガラス転移温度TgB(℃)と第二の樹脂(A)のガラス転移温度TgAとの差は、通常10℃以上であり、好ましくは15℃以上である。すなわち、通常はTgA+10℃≦TgBであり、好ましくはTgA+15℃≦TgBである。第一の樹脂(B)のガラス転移温度TgB(℃)と第二の樹脂(A)のガラス転移温度TgAとの関係を前記のようにすることにより、位相差フィルム積層体の接着性を向上させることができる。
【0045】
ここで、第一の樹脂(B)及び第二の樹脂(A)が両方とも脂環式構造を有する重合体を含む樹脂であり、かつ、第一の樹脂(B)のガラス転移温度TgBよりも第二の樹脂(A)のガラス転移温度を低くする手段に制限は無い。例えば、重合体の重合度の調整、重合体の架橋、重合体に含まれる構造単位の調整、樹脂に含まれる任意の成分の調整などにより、樹脂のガラス転移温度を調整することができる。
【0046】
第二の樹脂(A)のガラス転移温度TgAは、前記の式(1)の関係を満たす限り任意であるが、好ましくは70℃以上、より好ましくは80℃以上、特に好ましくは90℃以上であり、好ましくは160℃以下、より好ましくは150℃以下、特に好ましくは140℃以下である。第二の樹脂(A)のガラス転移温度TgAを前記範囲の下限値以上にすることにより、位相差フィルム積層体の耐熱性を良好にできる。また、上限値以下にすることにより、位相差フィルム積層体の接着性を効果的に高めることができる。
【0047】
第二の樹脂(A)は、前記のようなガラス転移温度TgAを満たす範囲において、脂環式構造を有する重合体を含む任意の樹脂を用いうる。したがって、例えば、ガラス転移温度TgA以外の事項については、第一の樹脂(B)として用いうると説明した樹脂と同様の樹脂を用いうる。
【0048】
コート液における第二の樹脂(A)の濃度Caは、好ましくは20重量%以下、より好ましくは19重量%以下、特に好ましくは18重量%以下である。コート液における第二の樹脂(A)の濃度Caを低くすることにより、コート液の粘度を下げることができるので、コート液の塗布幅を広くすることができる。また、コート液における第二の樹脂(A)の濃度Caは、通常0重量%より大きく、コート液を塗布した基材層の表面全体に安定してコート層を形成する観点からは、好ましくは0.3重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上である。
【0049】
有機溶媒としては、第二の樹脂(A)を溶解させうる溶媒(良溶媒)を用いる。ここで第二の樹脂(A)を溶解させうるとは、25℃において、第二の樹脂(A)0.5gを100gの有機溶媒に溶解させた場合に、不溶分が0.5重量%未満であることをいう。具体的な有機溶媒の種類は、第二の樹脂(A)の種類に応じて適切に選択しうる。有機溶媒の例を挙げると、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、エチルシクロヘキサン等のケトン類;酢酸ブチル、酢酸アミル等の酢酸エステル類;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;1,4−ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル類などが挙げられる。また、単独では第二の樹脂(A)を溶解させ難い溶媒(貧溶媒)であっても、例えば良溶媒と混合して混合溶媒とした場合に当該混合溶媒が第二の樹脂(A)を溶解させうるのであれば、使用可能である。このような貧溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、エタノール、メタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、アセトン、酢酸イソプロピルなどが挙げられる。
【0050】
有機溶媒は、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。しかし、有機溶媒は、1種類の単一溶媒を用いることが好ましい。有機溶媒として単一溶媒を用いることにより、溶媒の揮発スピードの差により生じる表面の粗れを抑制できる。
【0051】
コート液は、本発明の効果を著しく損なわない限り、第二の樹脂(A)及び有機溶媒以外の任意の成分を含んでいてもよい。任意の成分としては、例えば、シリカ粒子などの無機粒子、有機粒子、紫外吸収剤、赤外吸収剤が挙げられる。任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。ただし、任意の成分の量は、第二の樹脂(A)100重量部に対して、好ましくは20重量部以下、より好ましくは10重量部以下、特に好ましくは5重量部以下である。
【0052】
コート液の塗布方法としては、例えば、リバースグラビアコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、ダイコーティング法、バーコーティング法等の方法が挙げられる。
【0053】
コート液を塗布することにより、基材層の表面にコート液の膜が形成される。このコート液の膜の乾燥前の時点における、当該コート液の膜の厚みtaは、0μm<ta≦110μmであることが好ましい。詳しくは、前記のコート液の膜の厚みtaは、好ましくは110μm以下、より好ましくは50μm以下、特に好ましくは30μm以下である。コート液の膜の厚みtaを前記のように薄くすることにより、コート層の厚みを薄くできるので、位相差フィルム積層体の厚みを薄くすることが可能である。また、コート液による基材層の過度の溶解を防止して、位相差フィルム積層体の強度を高くできる。また、コート液の膜の厚みtaは、通常0μmより大きく、コート液を塗布した基材層の表面全体に安定してコート層を形成する観点からは、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上である。
【0054】
[4.乾燥]
基材層の表面にコート液の膜を形成した後で、その形成されたコート液の膜を乾燥させることにより、コート層が得られる。これにより、基材層と、当該基材層の表面に形成されたコート層とを備える位相差フィルム積層体が得られる。
【0055】
乾燥方法に制限は無く、例えば、自然乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥、減圧加熱乾燥等を行いうる。
乾燥時の温度は、好ましくは25℃以上、より好ましくは30℃以上、特に好ましくは35℃以上であり、好ましくは100℃以下、より好ましくは95℃以下、特に好ましくは90℃以下である。
また、乾燥時間は、好ましくは10秒以上、より好ましくは20秒以上、特に好ましくは30秒以上であり、好ましくは60分以下、より好ましくは50分以下、特に好ましくは40分以下である。
【0056】
[5.延伸]
コート層を得た後で、必要に応じて、基材層及びコート層に延伸処理を施す工程を行ってもよい。これにより、位相差フィルム積層体に所望のレターデーションを発現させることができる。具体的には、位相差フィルム積層体を延伸することにより、基材層及びコート層を延伸する。
【0057】
延伸処理の方法としては、例えば、ロール間の周速の差を利用して長尺方向に一軸延伸する方法(縦一軸延伸);テンターを用いて幅方向に一軸延伸する方法(横一軸延伸);縦一軸延伸と横一軸延伸とを順に行う方法(逐次二軸延伸);延伸前フィルムの長尺方向に対して斜め方向に延伸する方法(斜め延伸);等が挙げられる。ここで「斜め方向」とは、平行でもなく、垂直でもない方向を意味する。
【0058】
延伸時のフィルム温度は、基材層を形成する第一の樹脂(B)のガラス転移温度TgBを基準として、好ましくはTgB以上、より好ましくはTgB+5℃以上、特に好ましくはTgB+10℃以上であり、好ましくはTgB+35℃以下、より好ましくはTgB+30℃以下、特に好ましくはTgB+25℃以下である。延伸時のフィルム温度を前記範囲の下限値以上にすることにより、コート層において大きなレターデーションが発現することを防止できる。そのため、基材層で発現するレターデーションの大きさを制御することにより、位相差フィルム積層体自体のレターデーションを容易に制御することができる。また、上限値以下にすることにより、基材層に所望のレターデーションを安定して発現させることができる。
【0059】
延伸倍率は、位相差フィルム積層体に発現させたいレターデーションに応じて適切に設定しうる。例えば、縦延伸を行う場合、延伸倍率は、好ましくは1.1倍以上であり、好ましくは5.0倍以下である。また、横延伸を行う場合、延伸倍率は、好ましくは1.3倍以上、より好ましくは1.5倍以上であり、好ましくは5.0倍以下、より好ましくは4.0倍以下である。延伸倍率を前記範囲の下限値以上にすることにより、厚みムラを防止することができる。また、上限値以下とすることにより、延伸処理用の設備にかかる負荷を抑えることができる。
【0060】
また、延伸処理の回数は、1回でもよく、2回以上でもよい。
【0061】
[6.任意の工程]
本発明の位相差フィルム積層体の製造方法においては、上述した工程以外の工程を更に行ってもよい。
例えば、延伸処理の前に位相差フィルム積層体に対して予熱処理を施してもよい。位相差フィルム積層体を加熱する手段としては、例えば、オーブン型加熱装置、ラジエーション加熱装置、又は液体中に浸すことなどが挙げられる。中でもオーブン型加熱装置が好ましい。予熱工程における加熱温度は、好ましくは「延伸温度−40℃」以上、より好ましくは「延伸温度−30℃」以上であり、好ましくは「延伸温度+20℃」以下、より好ましくは「延伸温度+15℃」以下である。ここで、延伸温度とは、加熱装置の設定温度を意味する。
【0062】
また、例えば、延伸処理後の位相差フィルム積層体に対して固定化処理を施してもよい。固定化処理における温度は、好ましくは室温以上、より好ましくは「延伸温度−40℃」以上であり、好ましくは「延伸温度+30℃」以下、より好ましくは「延伸温度+20℃」以下である。
【0063】
さらに、例えば、位相差フィルム積層体の保護及び取り扱い性の向上のため、マット層、ハードコート層、反射防止層、防汚層等の任意のフィルムを位相差フィルム積層体に貼り合せてもよい。
【0064】
[7.位相差フィルム積層体]
本発明の位相差フィルム積層体は、例えば偏光膜等の他のフィルムに対する接着性が高い。具体的には、コート層の表面における接着性が高くなっている。このような高い接着性が得られた理由は必ずしも定かでは無いが、本発明者の検討によれば、以下のように推察される。
【0065】
コート層を形成するためのコート液は、脂環式構造を有する重合体を溶解しうる有機溶媒を含む。そのため、コート層を形成するために基材層の表面にコート液を塗布した場合、基材層の表面が部分的に溶解される。そのため、コート層の厚みが薄い場合、コート層は、第一の樹脂(B)と第二の樹脂(A)との混合物により形成されると考えられる。この際、第二の樹脂(A)は第一の樹脂(B)よりもガラス転移温度が低いので、コート層は基材層を形成する第一の樹脂(B)よりもガラス転移温度が低い樹脂の層として形成される。そのため、コート層における分子の配向は基材層における配向よりも小さくなるので、接着性が向上しているものと推察される。
【0066】
また、本発明の位相差フィルム積層体は、コート層の厚みTaが基材層の厚みに比べて薄い。具体的には、基材層及びコート層の合計厚みをT(μm)、コート層の厚みをTa(μm)としたとき、Taは、好ましくは0.03×Tより小さく、より好ましくは0.025×T以下である。また、コート層の厚みTaの下限は、特に制限は無いが、好ましくは0.001×T以上である。一般に、ある基材の表面に接着性の向上のために易接着層を設けた場合、易接着層の厚みが薄くなると易接着層による接着性の向上効果は小さくなる。このような認識を前提に考えると、本発明の位相差フィルム積層体のようにコート層の厚みを薄くしても接着性を高くできることは、驚くべきことである。
【0067】
前記のようにコート層の厚みを薄くしても優れた接着性が得られる理由は定かでは無いが、本発明者の検討によれば、以下のように推察される。前記のように、コート層を形成するために基材層の表面にコート液を塗布した場合、基材層の表面が部分的に溶解される。そのため、基材層とコート層との間の部分(境界部分)では、第一の樹脂(B)と第二の樹脂(A)とが混在している。このため、通常、基材層とコート層との間には、組成の連続性があると考えられる。そのため、位相差フィルム積層体に外力が加えられた場合、基材層とコート層との境界面に力が集中して剥がれが生じたり、コート層だけに力が集中してコート層が破損したりすることが、生じ難い。したがって、コート層の厚みが薄くても、コート層の剥離及び破損が生じ難いので、コート層による接着力の向上効果を安定して発揮することができると推察される。
【0068】
また、前記のようにコート層の厚みTaを薄くすることにより、過剰のコート液による基材層の溶け過ぎを防止できるので、位相差フィルム積層体の強度を高くしたり、位相差フィルム積層体のレターデーションの制御を容易に行ったりできる。さらに、コート層の厚みTaを薄くすれば、通常、コート層に発現するレターデーションを無視できる程度に小さくできるので、基材層に発現するレターデーションをそのまま位相差フィルム積層体のレターデーションにできる。したがって、これによっても、位相差フィルム積層体のレターデーションの制御を容易に行うことができる。
【0069】
さらに、本発明の位相差フィルム積層体が延伸処理を施されたフィルムである場合、通常、延伸状態を良好にできる。そのため、延伸処理によるシワ及びクラックの発生を防止でき、好ましくは所望の大きさのレターデーションを面内で均一に発現させることができる。このように延伸状態を良好にできる点は、例えば特許文献2に比べると有利である。特許文献2のプライマー層は、シクロオレフィン系樹脂の溶液を延伸フィルムに塗布して形成されるものであるので、溶液により延伸フィルムが溶かされる。そのため、塗布後に延伸状態を良好に保つことが難しく、また、塗布により延伸フィルムの位相差が変化しやすい。したがって、特許文献2の技術では、均一な位相差を有する位相差フィルムを安定して製造することが難しいと考えられる。これに対し、本発明の位相差フィルム積層体ではこれらの課題を解決することが可能である。
【0070】
このような良好な延伸状態が得られる理由は定かでは無いが、本発明者の検討によれば、以下のように推察される。本発明の位相差フィルム積層体では、コート層の厚みが薄いので、コート層による位相差フィルム積層体への力学的な影響は小さい。また、コート層を形成する材料と基材層を形成する材料との両方で脂環式構造を有する重合体を含む樹脂を用いているので、基材層とコート層とで、力学的な性状の相違は小さい。そのため、位相差フィルム積層体は、コート層を有していながらも、コート層を有さない基材層単独のフィルムと同等程度には延伸処理に適しているので、シワ及びクラックを生じないと推察される。さらに、基材層の表面にコート層を形成した後で延伸処理を施しているので、コート液が基材層の一部を溶解することによるレターデーションの変化の影響を排除できる。すなわち、コート液が基材層を溶解することによるレターデーションの変化の可能性が無い状態において延伸処理を行うので、所望のレターデーションを容易に発現させることができる。このため、所望の大きさのレターデーションを面内で均一に発現させることができると推察される。
【0071】
また、上述したように、コート層を形成するためのコート液における第二の樹脂(A)の濃度Caは、低くすることができる。このように濃度の低いコート液を用いた場合でも接着性を向上させることが可能な理由は、前述のように、基材層に含まれていた第一の樹脂(B)と、コート液に含まれていた第二の樹脂(A)との混合物により形成されるためと推察される。
【0072】
位相差フィルム積層体は、光学部材としての機能を安定して発揮させる観点から、全光線透過率が、85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。光線透過率は、JIS K0115に準拠して、分光光度計(日本分光社製、紫外可視近赤外分光光度計「V−570」)を用いて測定できる。
【0073】
位相差フィルム積層体のヘイズは、好ましくは1%以下、より好ましくは0.8%以下、特に好ましくは0.5%以下である。ヘイズを低い値とすることにより、位相差フィルム積層体を組み込んだ表示装置の表示画像の鮮明性を高めることができる。ここで、ヘイズは、JIS K7361−1997に準拠して、日本電色工業社製「濁度計 NDH−300A」を用いて、5箇所測定し、それから求めた平均値である。
【0074】
位相差フィルム積層体の面内レターデーションRe及び厚み方向のレターデーションRthは、位相差フィルム積層体の用途に応じて任意に設定しうる。具体的な面内レターデーションReの範囲は、好ましくは50nm以上、好ましくは200nm以下である。また、具体的な厚み方向のレターデーションRthは、好ましくは50nm以上であり、好ましくは300nm以下である。
【0075】
さらに、位相差フィルム積層体の面内レターデーションReのバラツキが、好ましくは10nm以内、より好ましくは5nm以内、特に好ましくは2nm以内である。面内レターデーションReのバラツキを前記範囲にすることにより、液晶表示装置用の位相差フィルムとして用いた場合に表示品質を良好なものにすることが可能になる。ここで、面内レターデーションReのバラツキは、光入射角0°(即ち、光線の方向と位相差フィルム積層体の主面とが垂直となる状態)の時の面内レターデーションReを、位相差フィルム積層体の幅方向において測定したときの最大値と最小値との差である。
【0076】
位相差フィルム積層体の基材層及びコート層の合計厚みTは、機械的強度等の物性の観点から、好ましくは30nm以上、より好ましくは40nm以上である。また、位相差フィルム積層体全体の厚みを薄くする観点から、基材層及びコート層の合計厚みTは、好ましくは90μm以下、より好ましくは80μm以下である。
【0077】
位相差フィルム積層体の厚みムラは、巻取りの可否に影響を与えるため、好ましくは3μm以下、より好ましくは2μm以下である。ここで厚みムラとは、厚みの最大値と最小値との差のことをいう。
【0078】
位相差フィルム積層体は、長尺状であることが好ましい。長尺状とは、フィルムの幅方向に対し少なくとも5倍程度以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍もしくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻回されて保管または運搬される程度の長さを有するものを言う。
【0079】
位相差フィルム積層体の幅は、好ましくは700mm以上、より好ましくは1000mm以上、特に好ましくは1200mm以上であり、好ましくは2500mm以下、より好ましくは2200mm以下、特に好ましくは2000mm以下である。
【0080】
位相差フィルム積層体は、基材層及びコート層を少なくとも1層ずつ備えていれば、更に別の任意の層を備えていてもよい。また、基材層及びコート層は、2層以上設けられていてもよい。例えば、位相差フィルム積層体が、コート層、基材層及びコート層をこの順に備えるようにしてもよい。ただし、少なくとも1組のコート層と基材層との間には、他の層が介在しないようにする。また、接着性の向上効果を顕著に発揮する観点から、少なくとも1層のコート層は、外部に露出していることが好ましい。
【0081】
位相差フィルム積層体において、基材層における残留揮発性成分の含有量は小さいが、コート層においては残留揮発性成分の含有量が基材層よりも多くなる傾向がある。これは、コート層がコート液の塗布により形成されたことによるものであり、コート液に含まれていた有機溶媒が揮発性成分としてコート層に残留したことによるものと推察される。コート層における残留揮発性成分の量は、重量基準で、通常100ppm以上、または通常200ppm以上である。ただし、位相差フィルム積層体の経時的な光学特性の変化を防止する観点では、コート層における残留揮発性成分の量は、好ましくは1500ppm以下、より好ましくは1000ppm以下である。
【0082】
ここで、揮発性成分は、層中に微量含まれる分子量200以下の物質であり、例えば、残留単量体及び溶媒などが挙げられる。揮発性成分の含有量は、層中に含まれる分子量200以下の物質の合計として、測定対象となる層をガスクロマトグラフィーにより分析することにより定量することができる。
【0083】
位相差フィルム積層体の飽和吸水率は、好ましくは0.03重量%以下、さらに好ましくは0.02重量%以下、特に好ましくは0.01重量%以下である。飽和吸水率が上記範囲であると、レターデーションの経時変化を小さくすることができる。また、位相差フィルム積層体を備えた偏光板又は液晶表示装置の劣化を抑制でき、長期的に表示品質を安定で良好に保つことができる。
【0084】
前記の飽和吸水率は、フィルムの試験片を一定温度の水中に一定時間、浸漬した場合に、増加した質量の浸漬前の試験片質量に対する百分率で表される値である。通常は、23℃の水中に24時間、浸漬して測定される。
【0085】
位相差フィルム積層体において、コート層は、その面配向係数Pが、1.0×10
−3以下であることが好ましく、0.5×10
−3以下であることがより好ましい。ここで、面配向係数とは、層内の分子鎖の配向状態を示す指標であり、コート層の屈折率nx、ny及びnzから、以下の式に従って算出される数値である。
P=(nx+ny)/2−nz
面配向係数Pを前記の範囲にすることで、コート層における分子の配向が過度に大きくならないようにして、接着性を高めることが可能である。
【0086】
[8.偏光板]
本発明の偏光板は、上述した位相差フィルム積層体と偏光膜とを備える。偏光膜は、直角に交わる二つの直線偏光の一方を透過し、他方を吸収又は反射するものを用いうる。偏光膜の具体例を挙げると、ポリビニルアルコール、部分ホルマール化ポリビニルアルコール等のビニルアルコール系重合体のフィルムに、ヨウ素、二色性染料等の二色性物質による染色処理、延伸処理、架橋処理等の適切な処理を適切な順序及び方式で施したものが挙げられる。特に、このようにポリビニルアルコールを含む偏光膜は、位相差フィルム積層体との接着性に優れるので、好ましい。また、偏光膜の厚さは、通常5μm〜80μmである。
【0087】
位相差フィルム積層体は、偏光膜の片面に貼り合せてもよく、両面に貼り合せてもよい。また、偏光板における位相差フィルム積層体の数は、1枚でもよく、2枚以上でもよい。さらに、偏光膜と位相差フィルム積層体との貼り合わせに際しては、必要に応じて接着剤を用いてもよい。また、偏光膜と位相差フィルム積層体との間には、必要に応じて、任意の部材を介在させてもよい。ただし、偏光膜と位相差フィルム積層体との接着性を高めるためには、位相差フィルム積層体のコート層側の面と偏光膜とを貼り合わせることが好ましい。したがって、本発明の偏光板は、偏光膜、コート層及び基材層をこの順に備えることが好ましい。
【0088】
また、偏光膜の片側又は両側には、偏光膜の保護を目的として、適切な接着層を介して保護フィルムが接着されていてもよい。保護フィルムとしては、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮蔽性等に優れる樹脂フィルムが好ましい。この樹脂フィルムを形成する樹脂としては、例えば、トリアセチルセルロース等のアセテート重合体、脂環構造を有する重合体、ポリオレフィン重合体、ポリカーボネート重合体、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル重合体、ポリ塩化ビニル重合体、ポリスチレン重合体、ポリアクリロニトリル重合体、ポリスルホン重合体、ポリエーテルスルホン重合体、ポリアミド重合体、ポリイミド重合体、アクリル重合体等を含む樹脂が挙げられる。
【0089】
さらに、本発明の位相差フィルム積層体を、偏光膜の保護フィルムとして用いてもよい。これにより、保護フィルム一層を省いて、液晶表示装置を薄型化することができる。また、偏光膜の耐久性を高めることができる。
【0090】
[9.液晶表示装置]
本発明の液晶表示装置は、上述した位相差フィルム積層体を備える。位相差フィルム積層体は複屈折の高度な補償が可能なので、この位相差フィルム積層体を液晶表示装置に設けることにより、液晶表示装置の様々な特性を向上させることができる。
【0091】
液晶表示装置は、通常、光源側偏光板、液晶セル及び視認側偏光板がこの順に配置された液晶パネルと、液晶パネルに光を照射する光源とを備える。位相差フィルム積層体を、例えば液晶セルと光源側偏光板との間、液晶セルと視認側偏光板との間などに配置することで、液晶表示装置の視認性を大幅に向上できる。
【0092】
液晶セルの駆動方式としては、例えば、インプレーンスイッチング(IPS)モード、バーチカルアラインメント(VA)モード、マルチドメインバーチカルアラインメント(MVA)モード、コンティニュアスピンホイールアラインメント(CPA)モード、ハイブリッドアラインメントネマチック(HAN)モード、ツイステッドネマチック(TN)モード、スーパーツイステッドネマチック(STN)モード、オプチカルコンペンセイテッドベンド(OCB)モードなどが挙げることができる。
【0093】
[10.その他の用途]
本発明の位相差フィルム積層体は、容易に製造が可能で、複屈折の高度な補償が可能なので、それ単独あるいは他の部材と組み合わせて用いうる。例えば、位相差フィルム積層体を単独で位相差板又は視野角補償フィルムとして用いてもよい。また、例えば、位相差フィルム積層体を円偏光フィルムと組み合わせて輝度向上フィルムとして用いてもよい。また、これらは、例えば、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス表示装置、プラズマ表示装置、FED(電界放出)表示装置、SED(表面電界)表示装置などに適用してもよい。
【実施例】
【0094】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
【0095】
[評価方法]
(樹脂のガラス転移温度の測定方法)
サンプルとなる樹脂ペレットを用意し、示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ社製「DSC6220」)を用いて、その樹脂ペレットのガラス転移温度を測定した。条件は、サンプル重量10mg、昇温速度20℃/分とした。
【0096】
(厚みの測定方法)
延伸前フィルム、延伸前フィルム積層体、及び、位相差フィルム積層体の厚みは、次のようにして測定した。
サンプルとなるフィルムを、ミクロトーム(大和光機社製「RV−240」)を用いてスライスした。スライスしたフィルムの切断面を、偏光顕微鏡(オリンパス社製「BX51」)で観察し、そのフィルムの厚みを測定した。
【0097】
また、位相差フィルム積層体における、基材層及びコート層の厚みは、以下の式で計算して求めた。
コート層の厚み=コート液の膜の膜厚(wet膜厚)×第二の樹脂(A)の濃度Ca×{(位相差フィルム積層体の厚み)/(延伸前フィルム積層体の厚み)}
基材層の厚み=(位相差フィルム積層体の厚み)−(コート層の厚み)
【0098】
(延伸状態の評価方法)
位相差フィルム積層体に蛍光灯を当て、当該位相差フィルム積層体の表面を目視で観察し、シワ又はクラックがないか確認した。
【0099】
(剥離強度の測定方法)
偏光板の代わりに、ノルボルネン系重合体を含む樹脂のフィルムであるゼオノア未延伸フィルム(ガラス転移温度160℃、厚み100μ、日本ゼオン社製)を用意した。
位相差フィルム積層体及びゼオノア未延伸フィルムの片面に、コロナ処理を施した。位相差フィルム積層体のコロナ処理を施した面と、ゼオノア未延伸フィルムのコロナ処理した面とに接着剤を付着させ、接着剤を付着させた面同士を貼り合わせた。この際、接着剤としてはシランカップリング剤を用いた。これにより、位相差フィルム積層体及びゼオノア未延伸フィルムを備えるサンプルフィルムを得た。
その後、前記のサンプルフィルムを15mmの幅に裁断して、位相差フィルム側をスライドガラスの表面に粘着剤にて貼り合わせた。この際、粘着剤としては、両面粘着テープ(日東電工社製、品番「CS9621」)を用いた。
フォースゲージの先端にゼオノア未延伸フィルムを挟み、スライドガラスの表面の法線方向に引っ張ることにより、90度剥離試験を実施した。この際、ゼオノア未延伸フィルムが剥れる際に測定された力は、位相差フィルム積層体とゼオノア未延伸フィルムとを剥離させるために要する力であるので、この力の大きさを剥離強度として測定した。
【0100】
測定された剥離強度は、以下の基準で評価した。
良:剥離強度が2.0N以上であるか、又は、剥離前に材破壊が発生した。
不良:剥離強度が2.0N未満である。
【0101】
(剥離強度の測定方法についての補足)
前記の剥離強度の測定方法では、偏光板の代わりにゼオノア未延伸フィルムを用いている。このように、偏光板の代わりにゼオノア未延伸フィルムを用いて剥離強度の測定を行うことの妥当性を検証するため、実施例2で得られた位相差フィルム積層体について、発明者は以下の実験を行った。
ゼオノア未延伸フィルムの代わりに、特開2005−70140号公報の実施例1に従って、偏光フィルムの片方の表面に位相差フィルム積層体を貼り合わせ、偏光フィルムのもう片方の表面にはトリアセチルセルロースフィルムを貼り合わせ、90度剥離試験を実施した。すなわち、まず、特開2005−70140号公報の実施例1に記載の偏光フィルム及び接着剤を用意した。用意した偏光フィルムの片方の表面に、位相差フィルム積層体のコロナ処理を施した面を、前記の接着剤を介して貼り合わせた。また、偏光フィルムのもう片方の表面には、前記の接着剤を介してトリアセチルセルロースフィルムを貼り合わせた。その後、80℃で7分間乾燥させて接着剤を硬化させて、サンプルフィルムを得た。得られたサンプルフィルムについて90度剥離試験を行った。
前記の実験の結果、偏光板の代わりにゼオノア未延伸フィルムを用いた場合と同様の結果が得られた。したがって、偏光板の代わりにゼオノア未延伸フィルムを用いた下記の実施例及び比較例の結果は、妥当なものである。
【0102】
[実施例1]
(1.1.コート液の製造)
シクロオレフィン系重合体を含む樹脂(ガラス転移温度100℃;日本ゼオン社製「ZEONOR」)のペレットをシクロペンチルメチルエーテルに溶解し、濃度2重量%のコート液を製造した。
【0103】
(1.2.延伸前フィルムの製造)
シクロオレフィン系重合体を含む樹脂(ガラス転移温度126℃;日本ゼオン社製「ZEONOR」)のペレットを100℃で5時間乾燥した。その後、乾燥した樹脂のペレットを、単軸の押出し機に供給した。樹脂は押出し機内で溶融された後、ポリマーパイプ及びポリマーフィルターを経て、Tダイからキャスティングドラム上にシート状に押出されて、冷却された。これにより、厚み78μm、幅1300mmの延伸前フィルムを、基材層として得た。
【0104】
(1.3.延伸前フィルム積層体の製造)
この延伸前フィルムを50mm×150mmの矩形に裁断して、延伸前フィルムのフィルム片を得た。このフィルム片の片面に、前記工程(1.1)で製造したコート液を、ワイヤーバーにて塗布した。この際、塗布により形成されるコート液の膜の膜厚(wet膜厚)は27.5μmとした。その後、コート液の膜を自然乾燥させて、基材層としての延伸前フィルム上にコート層を形成した。これにより、基材層及びコート層を備える延伸前フィルム積層体を得た。
【0105】
(1.4.位相差フィルム積層体の製造)
前記工程(1.3)にて製造した延伸前フィルム積層体を、恒温恒湿槽付の引張試験機(インストロン社製)を用いて、延伸温度144℃、延伸倍率4倍にて延伸した。これにより、コート層の厚み0.28μm、基材層の厚み39μm、全厚み39.28μmの位相差フィルム積層体を得た。
【0106】
得られた位相差フィルム積層体の延伸状態を確認した所、シワ及びクラックはなく、良好であった。
また、剥離強度測定結果は2.0N以上であり、良好であった。
【0107】
[実施例2]
(2.1.塗布液の作製)
実施例1の工程(1.1)と同様にして、コート液を作製した。
【0108】
(2.2.延伸前フィルム積層体の作製)
Tダイの開口幅を変更したこと以外は実施例1の工程(1.2)と同様にして、厚み63μm、幅1300mmの延伸前フィルムを、基材層として得た。
【0109】
(2.3.延伸前フィルム積層体の製造)
前記の延伸前フィルムの片面に、前記工程(2.1)で製造したコート液を、ワイヤーバーにて塗布した。この際、塗布により形成されるコート液の膜の膜厚(wet膜厚)は27.5μmとした。その後、70℃においてコート液の膜を乾燥させて、基材層としての延伸前フィルム上にコート層を形成した。これにより、基材層及びコート層を備える延伸前フィルム積層体を得た。
【0110】
(2.4.位相差フィルム積層体の製造)
前記工程(2.3)にて製造した延伸前フィルム積層体を横延伸機に供給し、延伸温度144℃、延伸倍率2.6倍にて延伸した。これにより、コート層の厚み0.21μm、基材層の厚み24μm、全厚み24.21μmの位相差フィルム積層体を得た。
【0111】
得られた位相差フィルム積層体の延伸状態を確認した所、シワ及びクラックはなく、良好であった。
また、剥離強度測定結果は2.0N以上であり、良好であった。
【0112】
[実施例3]
実施例1の工程(1.3)において、延伸前フィルムの片面だけではなく両面に、コート液の膜1つ当たりの膜厚(wet膜厚)が27.5μmとなるようにコート液を塗布した。
上記の事項以外は実施例1と同様にして、コート層1層当たりの厚み0.28μm、基材層の厚み39μm、全厚み39.56μmの位相差フィルム積層体を製造した。
【0113】
得られた位相差フィルム積層体の延伸状態を確認した所、シワ及びクラックはなく、良好であった。
また、剥離強度測定結果は2.0N以上であり、良好であった。
【0114】
[実施例4]
実施例1の工程(1.1)において、コート液における樹脂の濃度を2重量%から5重量%に変更した。
また、実施例1の工程(1.2)において、Tダイの開口幅を変更することにより、得られる延伸前フィルムの厚みを78μmから50μmに変更した。
さらに、実施例1の工程(1.3)において、コート液の膜の膜厚(wet膜厚)を27.5μmから25.2μmに変更した。
上記の事項以外は実施例1と同様にして、コート層の厚み0.63μm、基材層の厚み25μm、全厚み25.63μmの位相差フィルム積層体を製造した。
【0115】
得られた位相差フィルム積層体の延伸状態を確認した所、シワ及びクラックはなく、良好であった。
また、剥離強度測定結果は2.0N以上であり、良好であった。
【0116】
[実施例5]
実施例1の工程(1.1)において、コート液における樹脂の濃度を2重量%から18重量%に変更した。
また、実施例1の工程(1.3)において、コート液の膜の膜厚(wet膜厚)を27.5μmから6.9μmに変更した。
上記の事項以外は実施例1と同様にして、コート層の厚み0.62μm、基材層の厚み39μm、全厚み39.62μmの位相差フィルム積層体を製造した。
【0117】
得られた位相差フィルム積層体の延伸状態を確認した所、シワ及びクラックはなく、良好であった。
また、剥離強度測定結果は2.0N以上であり、良好であった。
【0118】
[実施例6]
実施例1の工程(1.1)において、コート液の溶媒をシクロペンチルメチルエーテルからシクロヘキサンに変更した。
上記の事項以外は実施例1と同様にして、コート層の厚み0.28μm、基材層の厚み39μm、全厚み39.28μmの位相差フィルム積層体を製造した。
【0119】
得られた位相差フィルム積層体の延伸状態を確認した所、シワ及びクラックはなく、良好であった。
また、剥離強度測定結果は2.0N以上であり、良好であった。
【0120】
[実施例7]
実施例1の工程(1.1)において、コート液の溶媒をシクロペンチルメチルエーテルからエチルシクロヘキサンに変更した。
上記の事項以外は実施例1と同様にして、コート層の厚み0.28μm、基材層の厚み39μm、全厚み39.28μmの位相差フィルム積層体を製造した。
【0121】
得られた位相差フィルム積層体の延伸状態を確認した所、シワ及びクラックはなく、良好であった。
また、剥離強度測定結果は2.0N以上であり、良好であった。
【0122】
[実施例8]
実施例1の工程(1.1)において、コート液における樹脂の濃度を2重量%から10重量%に変更した。
また、実施例1の工程(1.3)において、コート液の膜の膜厚(wet膜厚)を27.5μmから4.6μmに変更した。
上記の事項以外は実施例1と同様にして、コート層の厚み0.28μm、基材層の厚み39μm、全厚み39.28μmの位相差フィルム積層体を製造した。
【0123】
得られた位相差フィルム積層体の延伸状態を確認した所、シワ及びクラックはなく、良好であった。
また、剥離強度測定結果は2.0N以上であり、良好であった。
【0124】
[実施例9]
実施例1の工程(1.2)において、延伸前フィルムの材料としてのシクロオレフィン系重合体を含む樹脂を、ガラス転移温度126℃の日本ゼオン社製「ZEONOR」からガラス転移温度136℃の日本ゼオン社製「ZEONOR」)に変更した。
また、実施例1の工程(1.4)において、延伸温度を144℃から154℃に変更した。
上記の事項以外は実施例1と同様にして、コート層の厚み0.28μm、基材層の厚み39μm、全厚み39.28μmの位相差フィルム積層体を製造した。
【0125】
得られた位相差フィルム積層体の延伸状態を確認した所、シワ及びクラックはなく、良好であった。
また、剥離強度測定結果は2.0N以上であり、良好であった。
【0126】
[実施例10]
実施例1の工程(1.2)において、延伸前フィルムの材料としてのシクロオレフィン系重合体を含む樹脂を、ガラス転移温度126℃の日本ゼオン社製「ZEONOR」からガラス転移温度160℃の日本ゼオン社製「ZEONOR」に変更した。
また、実施例1の工程(1.4)において、延伸温度を144℃から178℃に変更した。
上記の事項以外は実施例1と同様にして、コート層の厚み0.28μm、基材層の厚み39μm、全厚み39.28μmの位相差フィルム積層体を製造した。
【0127】
得られた位相差フィルム積層体の延伸状態を確認した所、シワ及びクラックはなく、良好であった。
また、剥離強度測定結果は2.0N以上であり、良好であった。
【0128】
[実施例11]
実施例1の工程(1.1)において、コート液の溶質としてのシクロオレフィン系重合体を含む樹脂を、ガラス転移温度100℃の日本ゼオン社製「ZEONOR」からガラス転移温度126℃の日本ゼオン社製「ZEONOR」に変更した。
また、実施例1の工程(1.2)において、延伸前フィルムの材料としてのシクロオレフィン系重合体を含む樹脂を、ガラス転移温度126℃の日本ゼオン社製「ZEONOR」からガラス転移温度136℃の日本ゼオン社製「ZEONOR」に変更した。
また、実施例1の工程(1.4)において、延伸温度を144℃から154℃に変更した。
上記の事項以外は実施例1と同様にして、コート層の厚み0.28μm、基材層の厚み39μm、全厚み39.28μmの位相差フィルム積層体を製造した。
【0129】
得られた位相差フィルム積層体の延伸状態を確認した所、シワ及びクラックはなく、良好であった。
また、剥離強度測定結果は2.0N以上であり、良好であった。
【0130】
[比較例1]
実施例1の工程(1.1)において、コート液における樹脂の濃度を2重量%から10重量%に変更した。
また、実施例1の工程(1.3)において、コート液の膜の膜厚(wet膜厚)を27.5μmから100.8μmに変更した。
上記の事項以外は実施例1と同様にして、コート層の厚み5μm、基材層の厚み39μm、全厚み44μmの位相差フィルム積層体を製造した。
【0131】
得られた位相差フィルム積層体の延伸状態を確認した所、大量のシワが発生し、位相差フィルム積層体の幅が5mmまで収縮してしまい、延伸不良であった。
また、延伸不良のため、剥離強度は測定できなかった。
【0132】
[比較例2]
実施例1の工程(1.1)において、コート液における樹脂の濃度を2重量%から10重量%に変更した。
また、実施例1の工程(1.3)において、コート液の膜の膜厚(wet膜厚)を27.5μmから32.1μmに変更した。
上記の事項以外は実施例1と同様にして、コート層の厚み1.6μm、基材層の厚み39μm、全厚み40.6μmの位相差フィルム積層体を製造した。
【0133】
得られた位相差フィルム積層体の延伸状態を確認した所、シワの発生があり、延伸不良であった。
また、延伸不良のため、剥離強度は測定できなかった。
【0134】
[比較例3]
実施例1の工程(1.1)において、コート液の溶質としてのシクロオレフィン系重合体を含む樹脂を、ガラス転移温度100℃の日本ゼオン社製「ZEONOR」からガラス転移温度126℃の日本ゼオン社製「ZEONOR」に変更した。
上記の事項以外は実施例1と同様にして、コート層の厚み0.28μm、基材層の厚み39μm、全厚み39.28μmの位相差フィルム積層体を製造した。
【0135】
得られた位相差フィルム積層体の延伸状態を確認した所、シワやクラックはなく良好であった。
しかし、剥離強度測定結果は2.0N未満であり、剥離強度が不十分であった。
【0136】
[比較例4]
実施例1の工程(1.1)において、コート液の溶質としてのシクロオレフィン系重合体を含む樹脂を、ガラス転移温度100℃の日本ゼオン社製「ZEONOR」からガラス転移温度126℃の日本ゼオン社製「ZEONOR」に変更し、また、コート液における樹脂の濃度を2重量%から10重量%に変更した。
さらに、実施例1の工程(1.3)において、コート液の膜の膜厚(wet膜厚)を27.5μmから100.8μmに変更した。
上記の事項以外は実施例1と同様にして、コート層の厚み5μm、基材層の厚み39μm、全厚み44μmの位相差フィルム積層体を製造した。
【0137】
得られた位相差フィルム積層体の延伸状態を確認した所、シワやクラックはなく良好であった。
しかし、剥離強度測定結果は2.0N未満であり、剥離強度が不十分であった。
【0138】
[比較例5]
実施例1の工程(1.2)と同様にして、厚み78μm、幅1300mmの延伸前フィルムを得た。
この延伸前フィルムを50mm×150mmに裁断し、恒温恒湿槽付引張試験機(インストロン社製)を用いて、延伸温度144℃、延伸倍率4倍にて延伸した。これにより、基材層に相当する厚み39μmの位相差フィルムを得た。
【0139】
得られた位相差フィルムの延伸状態を確認した所、シワやクラックはなく良好であった。
しかし、剥離強度測定結果は2.0N未満であり、剥離強度が不十分であった。
【0140】
[比較例6]
Tダイの開口幅を変更したこと以外は実施例1の工程(1.2)と同様にして、厚み63μm、幅1300mmの延伸前フィルムを得た。
この延伸前フィルムを横延伸機に供給し、延伸温度144℃、延伸倍率2.6倍にて延伸した。これにより、基材層に相当する厚み24μmの位相差フィルムを得た。
【0141】
得られた位相差フィルムの延伸状態を確認した所、シワやクラックはなく良好であった。
しかし、剥離強度測定結果は2.0N未満であり、剥離強度が不十分であった。
【0142】
[比較例7]
延伸前フィルムの材料としてのシクロオレフィン系重合体を含む樹脂を、ガラス転移温度126℃の日本ゼオン社製「ZEONOR」からガラス転移温度136℃の日本ゼオン社製「ZEONOR」)に変更したこと以外は実施例1の工程(1.2)と同様にして、厚み78μm、幅1300mmの延伸前フィルムを得た。
この延伸前フィルムを50mm×150mmに裁断し、恒温恒湿槽付引張試験機(インストロン社製)を用いて、延伸温度154℃、延伸倍率4倍にて延伸した。これにより、基材層に相当する39μmの位相差フィルムを得た。
【0143】
得られた位相差フィルムの延伸状態を確認した所、シワやクラックはなく良好であった。
しかし、剥離強度測定結果は2.0N未満であり、剥離強度が不十分であった。
【0144】
[結果]
実施例及び比較例の結果を、表1及び表2に示す。ここで、下記の表における略称の意味は、以下の通りである。
A/B 2層:コート層/基材層の2層構造
A/B/A 3層:コート層/基材層/コート層の3層構造
B 1層:基材層に相当するフィルムの1層構造
TgA:コート層を形成する樹脂(A)のガラス転移温度
TgB:基材層を形成する樹脂(B)のガラス転移温度
Ta:コート層の厚み
T:位相差フィルム積層体の全厚み
Ca:コート液における樹脂の濃度
ta:コート液の膜の厚み
CPMA:シクロペンチルメチルエーテル
CH:シクロヘキサン
ECH:エチルシクロヘキサン
【0145】
【表1】
【0146】
【表2】
【0147】
[検討]
表1及び表2から分かるように、実施例においては、厚みが薄く、接着性及び延伸状態に優れる位相差フィルム積層体が得られている。このことから、本発明によれば、接着性に優れ、厚みを薄くすることが可能であり、通常は延伸状態に優れる位相差フィルム積層体を実現できることが確認された。