特許第6075292号(P6075292)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6075292金属酸化物被膜用塗布液の製造方法、金属酸化物被膜用塗布液及び金属酸化物被膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6075292
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】金属酸化物被膜用塗布液の製造方法、金属酸化物被膜用塗布液及び金属酸化物被膜
(51)【国際特許分類】
   C09D 1/00 20060101AFI20170130BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   C09D1/00
   C09D7/12
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-541791(P2013-541791)
(86)(22)【出願日】2012年10月30日
(86)【国際出願番号】JP2012078068
(87)【国際公開番号】WO2013065696
(87)【国際公開日】20130510
【審査請求日】2015年10月28日
(31)【優先権主張番号】特願2011-239371(P2011-239371)
(32)【優先日】2011年10月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090918
【弁理士】
【氏名又は名称】泉名 謙治
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 利春
(72)【発明者】
【氏名】江口 和輝
(72)【発明者】
【氏名】村梶 慶太
(72)【発明者】
【氏名】元山 賢一
【審査官】 上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−258646(JP,A)
【文献】 特開2010−006997(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/020781(WO,A1)
【文献】 特開2010−115608(JP,A)
【文献】 特開平07−278491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00
C09D 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の金属アルコキシドを、金属塩と有機溶媒の存在下で加水分解させて第1工程の溶液を得る第1工程と、
第1工程の溶液に、第1の金属アルコキシドと比較して反応性の低い第2の金属アルコキシドを加えて加水分解・縮合させて第2工程の溶液を得る第2工程と、
第2工程の溶液に、析出防止剤を加える第3工程とを有し、かつ第1工程における有機溶媒が、下記式(T1)、(T2)、又は(T3)で示される溶媒であり、
【化1】
(式中、X、X、Xは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、X、X、Xは炭素数1〜4のアルキル基及びフェニル基であり、Pは水素原子若しくは炭素数1〜3のアルキル基であり、m、nはそれぞれ独立に1〜3の整数であり、l、j、k、h、iはそれぞれ独立に2〜3の整数である。)
かつ、第3工程における析出防止剤が、N−メチル−ピロリドン、エチレングリコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール及びこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種である、
ことを特徴とする金属酸化物被膜用塗布液の製造方法。
【請求項2】
第1の金属アルコキシドが、下記式(I)で示される金属アルコキシドである、請求項1記載の金属酸化物被膜用塗布液の製造方法。
(式1)
(OR (I)
式(I)中、Mはチタン(Ti)、タンタル(Ta)、ジルコニウム(Zr)、ホウ素(B)、スズ(Sn)、インジウム(In)、ビスマス(Bi)及びニオビウム(Nb)からなる群より選ばれる少なくとも1種である。Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、nは、Mの価数2〜5である
【請求項3】
第1工程における金属塩が、下記式(II)で示される金属塩又は下記式(II)中で用いられる金属の蓚酸塩である、請求項1又は2に記載の金属酸化物被膜用塗布液の製造方法。
(X) (II)
(式(II)中、Mは、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、ビスマス(Bi)、ランタン(La)、タンタル(Ta)、イットリウム(Y)及びセリウム(Ce)からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、Xは、塩素、硝酸、硫酸、酢酸、スファミン酸、スルホン酸、アセト酢酸、アセチルアセトナート又はこれらの塩基性塩であり、kは、Mの価数である。)
【請求項4】
第2工程における第2の金属アルコキシドが、下記式(III)又は(IV)で示される金属アルコキシドである、請求項1〜のいずれかに記載の金属酸化物被膜用塗布液の製造方法。
(式3)
(OR (III)
式(III)中、Mは、珪素(Si)、マグネシウム(Mg)及び亜鉛(Zn)からなる群より選ばれる少なくとも1種である。Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、nは2〜5の整数である。
(式4)
(ORm−1 (IV)
式(IV)中、Mは、珪素(Si)、マグネシウム(Mg)及び亜鉛(Zn)からなる群より選ばれる少なくとも1種である。Rは、水素原子又はフッ素原子で置換されてもよく、且つ、ハロゲン原子、ビニル基、グリシドキシ基、メルカプト基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、イオシアネート基、アミノ基又はウレイド基で置換されていてもよく、且つ、ヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基である。Rは、炭素数1〜5のアルキル基である。mは2〜5の整数である。lは、mの価数が3の場合に1又は2であり、mの価数が4の場合に1〜3のいずれかであり、mの価数が5の場合に1〜4のいずれかである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物被膜用塗布液及びその製法に関するものであり、更に詳しくはガラス、セラミック、金属、プラスチック等の基材上に機械的強度に優れ、任意の屈折率を有する被膜を形成でき且つ、低温焼成によっても充分な硬度を得ることが出来る金属酸化物被膜用塗布液及びその製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ガラス、セラミック、金属、プラスチック等の基材表面に、種々の目的で無機被膜を形成することが行なわれている。基材表面に無機被膜を形成させることで、基材に電気的特性、光学的特性、化学的特性、機械的特性などを付与することが可能となる。したがって、これらの無機被膜は、導電膜、絶縁膜、光線の選択透過又は吸収膜、アルカリ溶出防止膜、耐薬品膜、ハードコート膜などとして実用化されている。
このような無機被膜を形成させる方法としては、CVD(Chemical Vapor Deposition)、PVD(Physical Vapor Deposition)、スパッタリングなどの気相法又はアルコキシド化合物などを用いた液相法が挙げられる。
【0003】
一般に、気相法は、真空蒸着装置のような高価で大規模な装置が必要となる。また、成膜可能な基材の大きさや形状が制限されるという問題もある。一方、アルコキシド化合物などを用いた液相法としては、いわゆるゾル−ゲル法が知られている。この方法は、大面積への塗布や、製膜法としてフレキソ印刷法などで製膜する場合、パターニングへの対応が可能であるなどの利点を有する。このため、液相法による無機被膜は、電子デバイスにおけるコート膜として盛んに用いられるようになっている(例えば、特許文献1参照)。液相法、特にフレキソ印刷法などを用いる場合、塗布した被膜の面内均一性が重要となる。また、ゾル−ゲル法で用いられる高屈折率成分は、反応性が高く、貯蔵安定性などの観点からグリコールやアセチルアセトンなどで錯体を形成し、反応性を制御して重縮合を行うのが一般的である。しかし、上記方法で製造した場合、十分な硬度を得るためには、焼成温度としては300℃以上が必要となっていた。
【0004】
近年では、タッチパネル等の新たな用途に無機被膜が用いられるようになり、周辺部材への影響から、250℃以下で焼成し、かつ得られる膜の硬度が高いことが要求されるようになってきた。例えば、焼成温度が100℃帯では鉛筆硬度で3H以上、200℃帯では7H以上が求められている。
タッチパネル用途においては、素子寿命の観点のみならず、搬送工程において傷がつくことによる不良率の上昇を抑制するという観点からも硬度が求められる。
低温焼成で充分な硬度の膜を得るため、グリコールなどでの錯体形成を伴わないアルコール系溶媒により金属アルコキシドを加水分解する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。しかし、この方法では、フレキソ印刷法で製膜が困難であるといった問題があった。
【0005】
そこで、低温焼成で充分な硬度の膜を得、かつフレキソ印刷法で塗布した際の面内均一性をえるため、アルコール系溶媒により金属アルコキシドを加水分解及び重縮合をした後、該溶媒をグリコールなどの所望の溶媒へ置換する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。しかし、この方法では、溶媒置換工程を行わなければならず、製造工程が煩雑となる問題があった。
以上のことから、溶媒置換工程を伴わず、低温で高硬度の被膜を得ることと、フレキソ印刷法などで得られる膜が面内均一性を有することの両立が求められてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2881847号公報
【特許文献2】特公平01−014258
【特許文献3】WO2007/020781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、こうした点に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、低温焼成においても充分な硬度が得られ、かつ、良好な印刷性、面内均一性を有する金属酸化物被膜用塗布液の製造方法、該製造方法によって製造された金属酸化物被膜用塗布液及び金属酸化物被膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の目的を達成するため、鋭意研究を進めたところ、上記の目的を達成し得ることを見出した。
かくして、本発明は、下記を要旨とするものである。
1.第1の金属アルコキシドを、金属塩と有機溶媒の存在下で加水分解させて第1工程の溶液を得る第1工程と、
第1工程の溶液に、第1の金属アルコキシドと比較して反応性の低い第2の金属アルコキシドを加えて加水分解・縮合させて第2工程の溶液を得る第2工程と、
第2工程の溶液に、析出防止剤を加える第3工程とを有し、かつ
第1工程における有機溶媒が、下記式(T1)、(T2)、又は(T3)で示される溶媒であり、
【化3】
(式中、X、X、Xは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、X、X、Xは炭素数1〜4のアルキル基及びフェニル基であり、Pは水素原子若しくは炭素数1〜3のアルキル基であり、m、nはそれぞれ独立に1〜3の整数であり、l、j、k、h、iはそれぞれ独立に2〜3の整数である。)
かつ、第3工程における析出防止剤が、N−メチル−ピロリドン、エチレングリコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール及びこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種である、
ことを特徴とする金属酸化物被膜用塗布液の製造方法。
【0009】
2.第1の金属アルコキシドが、下記式(I)で示される金属アルコキシドである、上記1に記載の金属酸化物被膜用塗布液の製造方法。
(式1)
(OR (I)
式(I)中、Mはチタン(Ti)、タンタル(Ta)、ジルコニウム(Zr)、ホウ素(B)、スズ(Sn)、インジウム(In)、ビスマス(Bi)及びニオビウム(Nb)からなる群より選ばれる少なくとも1種である。Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、nは、Mの価数2〜5である
【0010】
.第1工程における金属塩が、下記式(II)で示される金属塩又は下記式(II)中で用いられる金属の蓚酸塩である、上記1又は2に記載の金属酸化物被膜用塗布液の製造方法。
(X) (II)
(式(II)中、Mは、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、ビスマス(Bi)、ランタン(La)、タンタル(Ta)、イットリウム(Y)及びセリウム(Ce)からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、Xは、塩素、硝酸、硫酸、酢酸、スファミン酸、スルホン酸、アセト酢酸、アセチルアセトナート又はこれらの塩基性塩であり、kは、Mの価数である。)
【0011】
.第2工程における第2の金属アルコキシドが、下記式(III)又は(IV)で示される金属アルコキシドである、上記1〜のいずれかに記載の金属酸化物被膜用塗布液の製造方法。
(式3)
(OR (III)
式(III)中、Mは、珪素(Si)、マグネシウム(Mg)及び亜鉛(Zn)からなる群より選ばれる少なくとも1種である。Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、nは2〜5の整数である。
(式4)
(ORm−1 (IV)
式(IV)中、Mは、珪素(Si)、マグネシウム(Mg)及び亜鉛(Zn)からなる群より選ばれる少なくとも1種である。Rは、水素原子又はフッ素原子で置換されてもよく、且つ、ハロゲン原子、ビニル基、グリシドキシ基、メルカプト基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、イオシアネート基、アミノ基又はウレイド基で置換されていてもよく、且つ、ヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基である。Rは、炭素数1〜5のアルキル基である。mは2〜5の整数である。lは、mの価数が3の場合に1又は2であり、mの価数が4の場合に1〜3のいずれかであり、mの価数が5の場合に1〜4のいずれかである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、安定的かつ効率的に金属酸化物被膜用塗布液を得ることが可能となる。さらに、本発明の製造方法によって製造した金属酸化物被膜用塗布液は、低温での焼成工程においても充分な硬度の金属酸化物被膜を得ることが可能となる。
本発明の製造方法によって、何故にそのような金属酸化物被膜が得られる塗布液を製造できるのかについては必ずしも明らかではないが、概ね以下のようなことが考えられる。
【0014】
従来の製造方法では、金属成分と溶媒成分が反応性の低い錯体を形成してしまい、充分な硬度の被膜を作ることが出来なかった。一方、本発明の製造方法では、そのような錯体が形成されず、金属成分が充分に反応することにより、低温においても硬度の高い被膜を得ることが出来ると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の金属酸化物被膜用塗布液の製造方法は、反応性の高い第1の金属アルコキシドを、金属塩と特定の有機溶媒1の存在下で加水分解した後、第1の金属アルコキシドと比較して反応性の低い第2の金属アルコキシドを加え、加水分解・重縮合を行い、最後に特定の溶媒2及び析出防止剤を加えるものである。
また、本発明の金属酸化物被膜用塗布液は、上記の方法によって製造された金属酸化物被膜用塗布液である。
【0016】
<第1工程>
本発明の金属酸化物被膜用塗布液の製造方法は、先ず、反応性の高い第1の金属アルコキシドを、金属塩と有機溶媒の存在下で加水分解・重縮合させる。
第1の金属アルコキシドとしては、下記式(I)で示される金属アルコキシドから選ばれる少なくとも1つを含有する。
(式5)
(OR (I)
式(I)中、Mはチタン(Ti)、タンタル(Ta)、ジルコニウム(Zr)、ホウ素(B)、スズ(Sn)、インジウム(In)、ビスマス(Bi)及びニオビウム(Nb)からなる群より選ばれる少なくとも1種である。Rは、炭素数1〜5、好ましくは2〜4のアルキル基であり、nは、2〜5の整数である。
【0017】
また、式(I)で示される金属アルコキシドとして、チタンアルコキシドを用いる場合、下記式(V)で示される少なくとも一種の化合物を含む混合物が用いられる。
(式7)
Ti(OR”) (V)
式(V)中、R”は、炭素数1〜5、好ましくは2〜4のアルキル基である。
【0018】
より具体的には、チタンアルコキシドとして、チタニウムテトラエトキシド、チタニウムテトラプロポキシド、チタニウムテトラブトキシドなどのチタニウムテトラアルコキシド化合物、又はチタニウムテトラ−n−ブトキシドテトラマーなどの部分縮合物などが用いられる。
その他、式(I)で示される金属アルコキシドの例としては、ジルコニウムテトラエトキシド、ジルコニウムテトラプロポキシド、ジルコニウムテトラブトキシドなどのジルコニウムテトラアルコキシド化合物、アルミニウムトリブトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリエトキシドなどのアルミニウムトリアルコキシド化合物、又は、タンタリウムペンタプロポキシド、タンタリウムペンタブトキシドなどのタンタリウムペンタアルコキシド化合物などを挙げることができる。
【0019】
上記金属塩としては、下記式(II)で示される金属塩又は下記式(II)中で用いられる金属の蓚酸塩の使用が可能である。
(式8)
(X) (II)
式(II)中、Mは金属である。Mとしては、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、ビスマス(Bi)、ランタン(La)、タンタル(Ta)、イットリウム(Y)又はセリウム(Ce)などの金属を挙げることができる。Xは、塩素、硝酸、硫酸、酢酸、スファミン酸、スルホン酸、アセト酢酸、アセチルアセトナート又はこれらの塩基性塩である。kは、Mの価数である。
【0020】
上記の化合物のうち、特に、金属硝酸塩、金属塩化物塩、金属蓚酸塩又はその塩基性塩が好ましい。この内、入手の容易性と、コーティング組成物の貯蔵安定性の点から、アルミニウム、インジウム又はセリウムの硝酸塩がより好ましい。
上記特定の有機溶媒1としては、下記式(T1)、(T2)、又は(T3)で示される溶媒を含有する。
【0021】
【化2】
(式中、X、X、Xは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基であり、X、X、Xは炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基であり、Pは水素原子若しくは炭素数1〜3のアルキル基である。m、nはそれぞれ独立に1〜3の整数であり、l、j、k、h、iはそれぞれ独立に2〜3の整数である。)
【0022】
上記式(T1)の例としては、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−プロポキシエタノール、2−ブトキシエタノール、2−フェノキシエタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジプロピルエーテル、又はプロピレングリコールジブチルエーテル等が挙げられる。
【0023】
上記式(T2)の例としては、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジプロピルエーテル、又はジプロピレングリコールジブチルエーテル等が挙げられる。
【0024】
上記式(T3)の例としては、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノフェニルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジプロピルエーテル、又はトリエチレングリコールジブチルエーテル等が挙げられる。
【0025】
また、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノールなどのアルコール類、酢酸エチルエステルなどのエステル類、又は、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素類などを上記有機溶媒1と少なくとも1種以上混ぜ合わせて反応させても構わない。その他の溶媒の含有量としては1〜90%程度が好ましく、より好ましくは10〜80%である。
第1工程の加水分解・重縮合の反応温度としては、最終溶液での貯蔵安定性の観点から、0〜50℃が好ましく、5〜40℃がより好ましい。反応時間としては、最終溶液での貯蔵安定性の観点から、5分〜5時間が好ましく、15分〜2時間がより好ましい。
【0026】
<第2工程>
第2工程では、第1工程で得られた溶液に、反応性の低い第二の金属アルコキシドを添加し、攪拌を行う。
第2の金属アルコキシドとしては、下記一般式(III)又は一般式(IV)で示される金属アルコキシドを含有する。
(式9)
(OR (III)
式(III)中、Mは、珪素(Si)、マグネシウム(Mg)又は亜鉛(Zn)である。Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、nは2〜5の整数である。
【0027】
(式10)
(ORm−1 (IV)
式(IV)中、Mは、珪素(Si)、マグネシウム(Mg)又は亜鉛(Zn)を表す。Rは、水素原子又はフッ素原子で置換されてもよく、且つ、ハロゲン原子、ビニル基、グリシドキシ基、メルカプト基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、イオシアネート基、アミノ基又はウレイド基で置換されていてもよく、且つ、ヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基である。Rは、炭素数1〜5のアルキル基である。mは、2〜5の整数である。lは、mが3の場合に1又は2であり、mが4の場合に1〜3のいずれかであり、mが5の場合に1〜4のいずれかである。
【0028】
式(III)で示される金属アルコキシドとして、シリコンアルコキシド又はその部分縮合物を用いる場合、下記式(VI)で示される少なくとも1種の化合物を含む混合物又は部分縮合物(好ましくは5量体以下)が用いられる。
(式11)
Si(OR’) (VI)
式(VI)中、R’は、炭素数1〜5のアルキル基、アセチル基である。
より具体的には、シリコンアルコキシドとして、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラアセトキシシランなどのテトラアルコキシシラン類などが用いられる。
【0029】
一般式(VI)に示される金属アルコキシドとしては、例えば以下の化合物を挙げることができる。
例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、メチルトリブトキシシラン、メチルトリペントキシシラン、メチルトリアミロキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、メチルトリベンジルオキシシラン、メチルトリフェネチルオキシシラン、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、αーグリシドキシエチルトリメトキシシラン、α−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリブトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリフェノキシシラン、α−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、α−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、δ−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、δ−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルトリメトキシシラン、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリプロポキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリブトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリフェノキシシラン、γ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン、γ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリエトキシシラン、δ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)ブチルトリメトキシシラン、δ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)ブチルトリエトキシシラン、グリシドキシメチルメチルジメトキシシラン、グリシドキシメチルメチルジエトキシシラン、α−グリシドキシエチルメチルジメトキシシラン、α−グリシドキシエチルメチルジエトキシシラン、β−グリシドキシエチルメチルジメトキシシラン、β−グリシドキシエチルエチルジメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β−グリシドキシプロピルエチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジブトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジフェノキシシラン、γ−グリシドキシプロピルエチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルエチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルビニルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルビニルジエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリアセトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリメトキシシラン、β−シアノエチルトリエトキシシラン、クロロメチルトリメトキシシラン、クロロメチルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジエトキシシラン、ジメチルジアセトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトメチルジエトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリプロポキシシラン、(R)−N−1−フェニルエチル−N’−トリエトキシシリルプロピルウレア、(R)−N−1−フェニルエチル−N’−トリメトキシシリルプロピルウレア、アリルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、ブロモプロピルトリエトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、p-スチリルトリエトキシシラン、p-スチリルトリプロポキシシラン又はメチルビニルジエトキシシランなどを挙げることができる。これらは、単独で、又は、2種以上組み合わせて使用することができる。
【0030】
第2工程の加水分解・重縮合の反応温度としては、最終溶液での貯蔵安定性の観点から、0〜50℃が好ましく、5〜40℃がより好ましい。
反応時間としては、最終溶液での貯蔵安定性の観点から、5分〜5時間が好ましく、15分〜2時間がより好ましい。
【0031】
<第3工程>
第3工程では、第2工程で得られた溶液に、析出防止剤を添加する。
本発明の金属酸化物被膜用塗布液に含まれる析出防止剤は、塗布被膜を形成する際に、塗膜中に金属塩が析出するのを防止する。析出防止剤としては、N−メチル−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール若しくはヘキシレングリコール又はそれらの誘導体などが挙げられる。これらを少なくとも1種以上使用することができる。
【0032】
析出防止剤は、金属塩の金属を金属酸化物に換算して、(析出防止剤)/(金属酸化物)の比率(重量比)が1以上が好ましい。上記比率が1未満であると、塗布被膜を形成時における金属塩の析出防止効果が小さくなる。一方、析出防止剤を多量に用いることは、コーティング組成物に何ら影響を与えないが、塗布した際の面内均一性を損なうため、上記比率は、200以下であるのがより好ましい。
【0033】
析出防止剤には、金属アルコキシド、特に、シリコンアルコキシド、チタンアルコキシド、又は、シリコンアルコキシドとチタンアルコキシドが、金属塩の存在下で加水分解・重縮合反応する際に添加されていてもよく、加水分解・重縮合反応の終了後に添加されていてもよい。
上記、析出防止剤の中で、N−メチル−ピロリドン、又はエチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、又はそれらのモノメチル、モノエチル、モノプロピル、モノブチル、若しくはモノフェニルエーテルがより好ましい。
【0034】
また、第3工程で添加する特定溶媒2としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,3−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、ヘキシレングリコール(2−メチル−2,4−ペンタンジール)、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコールなどのグリコール類、又はアセチルアセトン、2,4−ヘキサンジオンなどのジケトン類などが挙げられ、これらを少なくとも1種以上使用することができる。
【0035】
その中でも、製膜した際の面内均一性の観点から、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,3−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、ヘキシレングリコール(2−メチル−2,4−ペンタンジール)、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、又はトリエチレングリコールなどのグリコール類が好ましい。
【0036】
また、前記析出防止剤として例示した、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール、及びジエチレングリコールに関しては、特定溶媒2としても使用できるため、これらを析出防止剤として用いた場合には、別途特定有機溶媒2を用いなくてもよい。
金属酸化物被膜用塗布液に含まれる金属アルコキシドの金属原子(M及びM)と金属塩の金属原子(M)の含有比率は、モル比換算で、
0.01≦M/(M+M+M)≦0.7
の関係を満たすことが好ましい。この比率が0.01より小さいと、得られる被膜の機械的強度が十分でないため好ましくない。一方、0.7を越えると、ガラス基板や透明電極などの基材に対するコート膜の密着性が低下する。かかる比率は、0.01〜0.6がより好ましい。
【0037】
<その他の成分>
本発明の金属酸化物被膜形成用塗布液においては、本発明の効果を損なわない限りにおいて、上記した成分以外のその他の成分、例えば、無機微粒子、メタロキサンオリゴマー、メタロキサンポリマー、レベリング剤、界面活性剤等の成分が含まれていてもよい。
無機微粒子としては、シリカ微粒子、アルミナ微粒子、チタニア微粒子、フッ化マグネシウム微粒子等の微粒子が好ましく、これらの無機微粒子のコロイド溶液が特に好ましい。このコロイド溶液は、無機微粒子粉を分散媒に分散したものでもよいし、市販品のコロイド溶液であってもよい。
【0038】
本発明においては、無機微粒子を含有させることにより、形成される硬化被膜の表面形状やその他の機能を付与することが可能となる。無機微粒子としては、その平均粒子径が0.001〜0.2μmであることが好ましく、更に好ましくは0.001〜0.1μmである。無機微粒子の平均粒子径が0.2μmを超える場合には、調製される塗布液を用いて形成される硬化被膜の透明性が低下する場合がある。
無機微粒子の分散媒としては、水及び有機溶剤を挙げることができる。コロイド溶液としては、被膜形成用塗布液の安定性の観点から、pH又はpKaが1〜10に調整されていることが好ましく、より好ましくは2〜7である。
【0039】
コロイド溶液の分散媒に用いる有機溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、エチレングリコールモノプロピルエーテル等のアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;酢酸エチル、酢酸ブチル、γ−ブチロラクトン等のエステル類;又はテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエ−テル類を挙げることができる。これらの中で、アルコール類及びケトン類が好ましい。これら有機溶剤は、単独で又は2種以上を混合して分散媒として使用することができる。
【0040】
金属酸化物被膜用塗布液中の固形分濃度については、金属アルコキシドと金属塩を金属酸化物として換算した場合、固形分としては、0.5wt%〜20wt%の範囲であることが好ましい。固形分が20wt%を越えると、金属酸化物被膜用塗布液の貯蔵安定性が悪くなるうえ、コート膜の膜厚制御が困難になる。一方、固形分が0.5wt%より少ない場合では、得られるコート膜の厚みが薄くなり、所定の膜厚を得るために多数回の塗布が必要となる。
金属アルコキシドの加水分解に用いられる水の量は、金属アルコキシドの総モル数に対して、モル比換算で2〜24にすることが好ましく、2〜20にすることがより好ましい。モル比(水の量(モル)/(金属アルコキシドの総モル数))が2以下の場合には、金属アルコキシドの加水分解が不十分となって、成膜性を低下させたり、得られる金属酸化物被膜の強度を低下させたりするので好ましくない。また、モル比が24より多い場合は、重縮合が進行し続けるため、貯蔵安定性を低下させるので好ましくない。
【0041】
尚、例えば、金属アルコキシドとして、シリコンアルコキシド、チタンアルコキシド、又は、シリコンアルコキシドとチタンアルコキシドを用いた場合、それらの加水分解に用いられる水の量は、同様に、シリコンアルコキシド、チタンアルコキシド、又は、シリコンアルコキシドとチタンアルコキシドの総モル数に対して、モル比換算で2より多くすることが好ましい。
金属酸化物被膜用塗布液を調製する際の加水分解過程において、共存する金属塩が含水塩の場合には、その含水分が反応に関与するため、加水分解に用いる水の量に対して金属塩の含水分を考慮する必要がある。例えば、共存する金属塩がアルミニウム塩であり、このアルミニウム塩が含水塩の場合には、その含水分が反応に関与するため、加水分解に用いる水の量に対してアルミニウム塩の含水分を考慮する必要がある。
【0042】
以上で説明した金属酸化物被膜用塗布液は、一般に行われている塗布法を適用して、塗膜を成膜し、その後、金属酸化物被膜とすることが可能である。塗布法としては、例えば、ディップコート法、スピンコート法、スプレーコート法、刷毛塗り法、ロール転写法、スクリーン印刷法、インクジェット法又はフレキソ印刷法などが用いられる。この内、パターン印刷に好適なインクジェット法とフレキソ印刷法が特に好ましい。
その中でもフレキソ印刷法で製膜する場合、製膜した際の面内均一性を得るためには、一般的に粘度範囲は8〜80mPa・sが好ましく、より好ましくは9〜70mPa・sさらに好ましくは9〜60mPa・sである。
【0043】
所望の粘度範囲を得るために、第3工程までに得られた塗布液に、ブタンジオール、ペンタンジオール、ジプロピレングリコール、又はトリエチレングリコールなどのグリコール類、炭素数6以上のアルキルアルコール類などを加えてもよい。
また、その他の製膜方法として、例えば、スピンコート法を用いる場合の粘度範囲は1〜40mPa・sが好ましく、ディップコート法を用いる場合は1〜10mPa・sが好ましく、インクジェット法を用いる場合は1.8〜18mPa・sが好ましい。
それら塗布方法を用いる場合は、上記フレキソ印刷法での塗布液を、アルコール類、グリコールエーテル類、グリコールエーテルアセテート類、又はケトン類などで所望の粘度範囲になるように希釈すれば良い。
【0044】
<金属酸化物被膜>
金属酸化物被膜用塗布液の塗膜を焼成して金属酸化物被膜を製造する場合、焼成温度により、金属酸化物被膜の屈折率は変動する。この場合、焼成温度を高くするほど、金属酸化物被膜の屈折率を高くすることができる。従って、焼成温度を適度な値に選択することで、得られる金属酸化物被膜の屈折率の調整が可能である。具体的には、他のタッチパネル構成部材の耐熱性を考慮して、焼成温度は、100℃〜300℃の範囲であることが好ましく、150℃〜250℃の範囲内であることがより好ましい。
【0045】
また、焼成前に塗膜に紫外線(UV)を照射すると、重縮合反応が促進されるため、十分な硬度が得られやすい。コート膜において、組成等の条件選択により所望の硬度が実現できる場合は、紫外線照射は行わなくてもよい。
所望の硬度を得るために紫外線照射が必要な場合は、例えば、高圧水銀ランプを使用することができる。高圧水銀ランプを使用した場合、365nm換算で、全光照射1000mJ/cm以上の照射量が好ましく、3000mJ/cm〜10000mJ/cmの照射量がより好ましい。尚、UV光源に特に指定はなく、別のUV光源を使用することもできる。別の光源を用いる場合は、上記高圧水銀ランプを使用した場合と同量の積算光量が照射されればよい。
上記のように製造された金属酸化物被膜は、タッチパネル、液晶表示素子、電子ペーパーなどの各種電子デバイス中の、センサー保護膜や絶縁膜として広く用いることが可能である。
【実施例】
【0046】
以下本発明の実施例によりさらに具体的に説明するが、これらに限定して解釈されるものではない。
本実施例で用いた化合物における略語は以下のとおりである。
TEOS:テトラエトキシシラン
UPS:γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン
MPMS:メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
MTES:メチルトリエトキシシラン
TTE:テトラエトキシチタン
TIPT:テトライソプロポキシチタン
AN:硝酸アルミニウム九水和物
EG:エチレングリコール
HG:2−メチル−2,4−ペンタンジオール(別称:へキシレングリコール)
BCS:2−ブトキシエタノール(別称:ブチルセロソルブ)
PGME:プロピレングリコールモノメチルエーテル
EtOH:エタノール
InN:硝酸インジウム三水和物
ZTB:ジルコニウムテトラ-n-ブトキシド
【0047】
<合成例1>
300mLフラスコ中にAN11.9g、水2.8gを加えて攪拌し、ANを溶解した。そこに、BCS25.8g、TTE12.4gを入れ、室温下で30分攪拌した。その後、TEOS14.7g、MPMS7.5gを入れ、さらに室温下で30分攪拌した。この溶液に、HG120.5g、BCS4.4gを混合し、溶液(K1)を得た。
<合成例2>
300mLフラスコ中にAN11.9g、水2.8gを加えて攪拌し、ANを溶解した。そこに、BCS28.2g、TTE12.4gを入れ、室温下で30分攪拌した。その後、TEOS12.6g、MTES7.2gを入れ、さらに室温下で30分攪拌した。この溶液に、HG122.5g、BCS2.4gを混合し、溶液(K2)を得た。
【0048】
<合成例3>
300mLフラスコ中にAN11.9g、水2.8gを加えて攪拌し、ANを溶解した。そこに、BCS25.9g、TTE12.4gを入れ、室温下で30分攪拌した。その後、TEOS15.7g、MPMS5.0g、UPS1.3gを入れ、さらに室温下で30分攪拌した。この溶液に、HG120.7g、BCS4.3gを混合し、溶液(K3)を得た。
<合成例4>
300mLフラスコ中にAN11.9g、水2.8gを加えて攪拌し、ANを溶解した。そこに、PGME25.8g、TTE12.4gを入れ、室温下で30分攪拌した。その後、TEOS14.7g、MPMS7.5gを入れ、さらに室温下で30分攪拌した。この溶液に、HG120.5g、PGME4.4gを混合し、溶液(K4)を得た。
【0049】
<合成例5>
300mLフラスコ中にAN11.9g、水2.8gを加えて攪拌し、ANを溶解した。そこに、BCS26.8g、TTE12.4gを入れ、室温下で30分攪拌した。その後、TEOS21.0gを入れ、さらに室温下で30分攪拌した。この溶液に、HG121.6g、BCS3.5gを混合し、溶液(K5)を得た。
<合成例6>
<A1液>
200mLフラスコ中にAN11.9g、水2.8gを加えて攪拌し、ANを溶解した。そこに、EG13.6g、HG38.8g、BCS37.0g、TEOS14.7g、MPMS7.5gを入れ、室温下で30分攪拌した。
<A2液>
300mLフラスコ中にTIPT15.4g、HG58.3gを入れ、室温下で30分攪拌した。
<A1液>と<A2液>を混合し、室温下で30分攪拌して溶液(K6)を得た。
【0050】
<合成例7>
300mlフラスコ中にAN3.4g、水3.1g、EtOH75.1gを加えて攪拌し、ANを溶解した。この溶液TEOS16.3g、MPMS8.33gを入れ、室温下で30分撹拌した。その後、TTEを13.8gを入れ、室温下でさらに30分撹拌した。
この溶液に、HG124.1g、BCS31.0gを加え、ロータリーバキュームエバポレーター(東京理化器械社製、N−1000S−WD)により60℃で80mmHg(10.7kPa)まで徐々に減圧しながら溶媒を留去して、200gの溶液(K7)を得た。
【0051】
<合成例8>
300mLフラスコ中にAN11.9g、水2.8gを加えて攪拌し、ANを溶解した。そこに、HG120.6g、BCS30.2g、TEOS14.7g、MPMS7.5gを入れ、室温下で30分攪拌した。その後、TTE12.4gを入れ、さらに室温下で30分攪拌し、溶液(K8)を得た。
【0052】
<合成例9>
<B1液>
200mLフラスコ中にAN11.9g、水2.8gを加えて攪拌し、ANを溶解した。そこに、EG13.7g、HG39.2g、BCS37.2g、TEOS21.0gを入れ、室温下で30分攪拌した。
<B2液>
300mLフラスコ中にTIPT15.4g、HG58.8gを入れ、室温下で30分攪拌した。
<B1液>と<B2液>を混合し、室温下で30分攪拌して溶液(K9)を得た。
【0053】
<合成例10>
300mlフラスコ中にAN3.4g、水3.1g、EtOH76.4gを加えて攪拌し、ANを溶解した。この溶液TEOS23.3gを入れ、室温下で30分撹拌した。その後、TTEを13.8gを入れ、室温下でさらに30分撹拌した。
合成例10で得られた溶液にEtOH80.0gを入れ、溶液(K10)を得た。
同じく、合成例10で得られた溶液に、HG125.1g、BCS31.3gを加え、ロータリーバキュームエバポレーター(東京理化器械社製、N−1000S−WD)により60℃で80mmHg(10.7kPa)まで徐々に減圧しながら溶媒を留去して、200gの溶液(K11)を得た。
【0054】
<合成例11>
300mLフラスコ中にAN10.7g、水2.5gを加えて攪拌し、ANを溶解した。そこに、BCS39.6g、TTE25.3gを入れ、室温下で30分攪拌した。その後、TEOS2.9g、MPMS3.4gを入れ、さらに室温下で30分攪拌した。この溶液に、HG124.1g、BCS7.0gを混合し、溶液(K12)を得た。
<合成例12>
300mLフラスコ中にAN12.7g、水3.0gを加えて攪拌し、ANを溶解した。そこに、BCS25.1g、TTE3.8gを入れ、室温下で30分攪拌した。その後、TEOS21.7g、MPMS11.1gを入れ、さらに室温下で30分攪拌した。この溶液に、HG118.2g、BCS4.4gを混合し、溶液(K13)を得た。
【0055】
<合成例13>
300mLフラスコ中にAN3.4g、水3.1gを加えて攪拌し、ANを溶解した。そこに、BCS26.4g、TTE13.8gを入れ、室温下で30分攪拌した。その後、TEOS16.3g、MPMS8.3gを入れ、さらに室温下で30分攪拌した。この溶液に、HG124.1g、BCS4.7gを混合し、溶液(K14)を得た。
<合成例14>
300mLフラスコ中にInN9.3g、水2.3gを加えて攪拌し、ANを溶解した。そこに、BCS27.1g、TTE10.3gを入れ、室温下で30分攪拌した。その後、TEOS12.2g、MPMS6.2gを入れ、さらに室温下で30分攪拌した。この溶液に、HG127.8g、BCS4.8gを混合し、溶液(K15)を得た。
【0056】
<合成例15>
300mLフラスコ中にAN9.6g、水2.3gを加えて攪拌し、ANを溶解した。そこに、BCS38.8g、ZTB19.2gを入れ、室温下で30分攪拌した。その後、TEOS11.0g、MPMS5.6gを入れ、さらに室温下で30分攪拌した。この溶液に、HG106.6g、BCS6.9gを混合し、溶液(K16)を得た。
【0057】
<製膜法I>
上記合成例で作成された溶液を孔径0.5μmのメンブランフィルターで加圧濾過し、ITO(Indium−Tin−Oxide)付ガラス基板にスピンコート法により成膜した。この基板を60℃のホットプレート上で3分間乾燥した後、180℃の熱風循環式オーブンで30分焼成し金属酸化物被膜を形成した。
【0058】
<製膜法II>
上記合成例で作成された溶液を孔径0.5μmのメンブランフィルターで加圧濾過し、ITO付ガラス基板にスピンコート法により成膜した。この基板を60℃のホットプレート上で3分間乾燥した後、紫外線照射装置(アイグラフィックス社製、UB011−3A形)、高圧水銀ランプ(入力電源1000W)を用いて50mW/cm(波長365nm換算)で2分間照射し(積算6000mJ/cm)、230℃の熱風循環式オーブンで30分焼成し被膜を形成した。
【0059】
溶液K1〜K5を上記製膜法I又はIIにて製膜した金属酸化物被膜(KL1〜KL5)を実施例1〜5とした。
溶液K6〜K11を上記製膜法I又はIIにて製膜した金属酸化物被膜(KM1〜KM6)を比較例1〜6とした。
溶液K12〜K16を上記製膜法I又はIIにて製膜した金属酸化物被膜(KL6〜KL10を実施例6〜10とした。
【0060】
〔鉛筆硬度〕
基板に透明導電膜基板を用い、上記の製膜法I又は製膜法IIで金属酸化物被膜を形成した。得られた被膜を試験法JIS K5400に準拠して測定した。
〔印刷性〕
実施例の被膜形成用塗布液及び比較例の塗布液を孔径0.5μmのメンブランフィルターで加圧濾過し、その後、S−15型印刷機(飯沼ゲージ製作所社製、アニロックスロール(300#)、凸版(網点400L30%70°))を用いてITO付ガラス基板(基板の厚みが0.7mm)上に塗膜を形成した。この塗膜を、温度60℃のホットプレート上で3分間乾燥し、硬化被膜を得た。得られた硬化被膜を目視で観察し、硬化被膜にピンホール・ムラがない良好な場合を○、ピンホール・ムラが生じている、又ははじきを生じて基板上に充分に成膜されていない状態を×とした。
得られた被膜の鉛筆硬度を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
実施例1〜5は、溶媒留去工程を行わずとも印刷性が良好であり、かつ高い硬度が得られることが分かった。比較例1、3及び4は十分な硬度が得られず、比較例2及び比較例5は十分な硬度が得られるものの、比較例2については溶媒留去工程が必要であり、比較例5はフレキソ印刷では塗布が困難であった。
詳細には、例えば実施例1と、比較例2、比較例5及び比較例6を比較した場合、硬度は同等程度である。しかし、比較例2及び比較例6は溶媒留去工程を必要とするため、工程が煩雑になってしまう。
また、実施例5と比較例5を比較した場合、硬度は比較例の方が良好である。しかし、比較例5ではフレキソ印刷での製膜は困難であり、またスピンコート法で塗布した際も、その他の溶液に比べ強いストリエーションも発生した。
【0063】
以上のことから、工程性、印刷性、硬度の特徴を全て満たすには、当該製造方法を用いて得られる実施例1〜10のみであることがわかった。
また、これら実施例1〜10で得られる被膜を、例えばタッチパネルの電極保護膜として用い、素子を作成した場合、工程上で生じる不良を低減でき、かつフレキソ印刷にてパターン印刷を行うことで、生産性の向上が見込まれる。また、低温で焼成し、かつ高硬度な膜が得られるため、信頼性の良好なタッチパネル素子を得ることが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の製造方法で得られた金属酸化物被膜用塗布液を用いれば、ガラス、セラミック、金属、プラスチック等の基材上に機械的強度に優れ、任意の屈折率を有し、低温での焼成工程においても充分な硬度を有する金属酸化物被膜を製造することが可能となる。更に、当該塗布液を塗膜することで得られる金属酸化物被膜はタッチパネル、液晶表示素子、電子ペーパーなどの各種電子デバイス中の、センサー保護膜や絶縁膜等として有用である。
なお、2011年10月31日に出願された日本特許出願2011−239371号の明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の開示として取り入れるものである。