特許第6075307号(P6075307)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6075307シリコン単結晶中の炭素濃度評価方法及び半導体デバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6075307
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】シリコン単結晶中の炭素濃度評価方法及び半導体デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/66 20060101AFI20170130BHJP
   C30B 31/22 20060101ALI20170130BHJP
   G01N 21/62 20060101ALI20170130BHJP
   G01N 21/63 20060101ALI20170130BHJP
   G01N 21/00 20060101ALI20170130BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   H01L21/66 L
   C30B31/22
   G01N21/62 A
   G01N21/63 Z
   G01N21/00 B
   H01L21/265 W
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-30347(P2014-30347)
(22)【出願日】2014年2月20日
(65)【公開番号】特開2015-156420(P2015-156420A)
(43)【公開日】2015年8月27日
【審査請求日】2016年2月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 克佳
(72)【発明者】
【氏名】竹野 博
【審査官】 堀江 義隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−344443(JP,A)
【文献】 特開平04−104042(JP,A)
【文献】 特開平03−115841(JP,A)
【文献】 特開2012−220212(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/66
C30B 31/22
G01N 21/00
G01N 21/62
G01N 21/63
H01L 21/265
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン単結晶に含まれる炭素濃度を評価する方法であって、
前記シリコン単結晶から得られたシリコン基板中に炭素及び酸素のいずれでもないイオンを注入する第1の工程と、
前記第1の工程により発生する炭素関連欠陥の濃度を測定する第2の工程と、
前記第2の工程により測定された前記炭素関連欠陥の濃度から、シリコン単結晶中の炭素濃度を評価する第3の工程と
を含むことを特徴とするシリコン単結晶中の炭素濃度評価方法。
【請求項2】
前記炭素及び酸素のいずれでもないイオンは、ボロン、リン、砒素、アンチモン、水素、ヘリウム、アルゴン、ゲルマニウム、フッ素、窒素、シリコン、アルミニウム、インジウム、キセノンのイオンから選ばれることを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶中の炭素濃度評価方法。
【請求項3】
前記イオンを注入する工程は、ドーズ量が1×1012atoms/cm以上、1×1014atoms/cm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシリコン単結晶中の炭素濃度評価方法。
【請求項4】
前記炭素関連欠陥を、格子間炭素、格子間炭素と置換型炭素の複合欠陥、格子間炭素と格子間酸素の複合欠陥のうちいずれか一つ以上とすることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のシリコン単結晶中の炭素濃度評価方法。
【請求項5】
前記第2の工程において、カソードルミネッセンス法又はフォトルミネッセンス法を用いることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のシリコン単結晶中の炭素濃度評価方法。
【請求項6】
前記第2の工程は、格子間炭素に由来する発光線(H線)、格子間炭素と置換型炭素の複合欠陥に由来する発光線(G線)、格子間炭素と格子間酸素の複合欠陥に由来する発光線(C線)のうちいずれか一つ以上の強度を測定することを特徴とする請求項5に記載のシリコン単結晶中の炭素濃度評価方法。
【請求項7】
半導体デバイスを製造する方法であって、
炭素及び酸素のいずれでもないイオンをドーズ量が1×1012atoms/cm以上、1×1014atoms/cm以下となるように注入した際に炭素関連欠陥が検出されないシリコン基板を用いて、半導体デバイスを製造することを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶中の炭素の濃度を高感度で評価する方法及び半導体デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの基板として広く用いられるシリコン単結晶基板には、炭素が不純物として含まれている。炭素は、シリコン単結晶の製造工程において混入し、更に、ウェーハ加工工程、エピタキシャル成長工程、デバイス製造工程においても混入する場合がある。
シリコン単結晶中の炭素は、通常の状態ではシリコンの格子位置に存在し(格子位置に存在する炭素を置換型炭素と呼ぶ)、それ自身は電気的に不活性である。しかし、デバイス工程におけるイオン注入や熱処理などにより格子間位置に弾き出されると(格子間位置に存在する炭素を格子間炭素と呼ぶ)、他の不純物と反応して複合体を形成することで電気的に活性となり、デバイス特性に悪影響を及ぼすという問題が生じる。
特に、電子線やヘリウムイオンの粒子線をシリコン基板に照射することでキャリアライフタイムを制御するパワーデバイスでは、0.05ppma以下の極微量の炭素がデバイス特性に悪影響を及ぼすことが指摘されている。
このことから、シリコン基板に含まれる炭素をできる限り低減することが重要な課題であり、そのためには、炭素濃度を高感度で評価する方法が必要である。
【0003】
シリコン基板に含まれる炭素の濃度を測定する方法として、赤外吸収分光法が広く用いられている(例えば、特許文献1)。この方法では、シリコン基板に赤外線を透過させて、置換型炭素による局在振動吸収ピークの強度から炭素濃度を測定する。具体的には、シリコンの格子振動による吸収の影響を避けるため、被測定試料の赤外吸収スペクトルと、実質的に無炭素とみなせる参照試料の赤外吸収スペクトルの差を取った、差吸収スペクトルを求めて、605cm−1付近に現われる置換型炭素による局在振動吸収ピークの強度から炭素濃度を定量する。
【0004】
しかし、特許文献1に記載された方法では、参照試料とするシリコン単結晶の製造工程で混入する炭素を完全に無くすことができないため、参照試料の炭素濃度は厳密にはゼロではない。そのため、実際に測定される被測定試料の炭素濃度は、参照試料に含まれる炭素濃度の値だけ低く見積もられてしまうという問題がある。
特に近年では、半導体デバイスの高性能化に伴い、極微量の炭素濃度を高感度で評価する必要があるため、この問題が顕在化している。
また、赤外吸収分光法は、試料が薄いほど測定感度が低くなり、高感度の測定を行うためには、厚い試料を用いる必要がある。また、試料の浅い領域のみを測定することができない。シリコン中の炭素は拡散速度が遅いので、例えばエピタキシャル成長工程やデバイス製造工程で混入する炭素はウェーハ表層に留まるため、赤外吸収分光法では測定ができないという問題がある。
【0005】
このような問題を解決するために、試料に電子線や炭素イオン又は酸素イオンのイオンビームを照射して複合欠陥を生成させ、その複合欠陥に起因するフォトルミネッセンス強度を測定し、その強度から炭素濃度を算出する方法が開示されている(例えば、特許文献2、非特許文献1)。
【0006】
また、試料に電子線を照射した後に、フォトルミネッセンス法によりシリコンに由来する発光強度と炭素に由来する欠陥の発光強度とを取得し、それらの強度と予め用意されている検量線とを用いて、炭素濃度を測定する方法が開示されている(特許文献3、非特許文献2)。
【0007】
シリコン単結晶基板に対して、高エネルギーの電子線を照射すると、格子位置のシリコン原子が弾き出されて、格子間シリコン(以下、Iと称する)とその抜け殻である空孔(以下、Vと称する)のペア(以下、フレンケルペアと称する)が生成される。過剰に生成されたIやVは、単体では不安定なため、再結合したり(V+I→0)、I同士やV同士がクラスタリングしたり、シリコン基板中に含まれる不純物と反応して複合体を形成する。
シリコン基板中に置換型炭素(以下、Csと称する)が存在する場合、電子線照射で生成されたIがCsを弾き出すことにより、格子間炭素(以下、Ciと称する)が生成される。更にCiは、他のCsと反応することでCiCsを形成し、シリコン基板中に含まれる他の不純物である格子間酸素(以下、Oiと称する)と反応することでCiOiを形成する(例えば、非特許文献1)。
フォトルミネッセンス法では、Cs自体を検出することはできないが、Ci、CiCs、CiOiの欠陥は検出することができ、それらの発光強度から炭素濃度を測定することができる。Ciに由来する発光線はH線、CiCsに由来する発光線はG線、CiOiに由来する発光線はC線と呼ばれている。
【0008】
フォトルミネッセンス(PL)法では、半導体にバンドギャップより高いエネルギーの光を照射することによって発生した電子と正孔が、再結合する際に放出される光(ルミネッセンス)の強度を測定する。この再結合は、バンドギャップ中に準位をもつ不純物や格子欠陥の影響を受け、それらの準位に応じて発光のエネルギーが変化する。このことにより、不純物や格子欠陥を評価することができる。また、試料に照射する光の波長を短くすることにより、試料の浅い領域のみを測定することが可能である。
【0009】
ルミネッセンスを測定する他の方法として、カソードルミネッセンス(CL)法がある。CL法では、試料に電子線を照射することによって発生した電子と正孔が、再結合する際に放出される光の強度を測定する。PL法と同様に、CL法でもCi、CiCs、CiOiの欠陥が検出されることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平06−194310号公報
【特許文献2】特開平04−344443号公報
【特許文献3】特開2013−152977号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】M.Nakamura et al.,J.Electrochem.Soc.141(1993)3576.
【非特許文献2】S.Nakagawa et al.,The Forum on the Science and Technology of Silicon Materials 2010,p.326.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記の従来技術では、高エネルギーの電子線照射が不可欠であった。高エネルギーの電子線を物質に照射すると管理基準値以上のエックス線が発生する。このため、電子線照射装置にはエックス線を遮蔽する大がかりな設備が必要となり、利便性が悪いという問題がある。
また、特許文献2のように炭素イオンや酸素イオンによるイオン注入を行うと、測定する炭素濃度に影響を与えるという問題がある。
【0013】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであって、シリコン単結晶に含まれる炭素の濃度を高精度で、利便性良く評価する方法を提供することを目的とする。また、本発明は、炭素濃度が極めて低いシリコン単結晶基板(以下、単にシリコン基板という場合がある)を用いて、デバイス特性の優れた半導体デバイスを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明では、シリコン単結晶に含まれる炭素濃度を評価する方法であって、
前記シリコン単結晶から得られたシリコン基板中に炭素及び酸素以外のイオンを注入する第1の工程と、
前記第1の工程により発生する炭素関連欠陥の濃度を測定する第2の工程と、
前記第2の工程により測定された前記炭素関連欠陥の濃度から、シリコン単結晶中の炭素濃度を評価する第3の工程と
を含むシリコン単結晶中の炭素濃度評価方法を提供する。
【0015】
このような評価方法であれば、シリコン単結晶に含まれる炭素の濃度を高精度で、利便性良く評価することができる。
【0016】
またこのとき、前記炭素及び酸素以外のイオンは、ボロン、リン、砒素、アンチモン、水素、ヘリウム、アルゴン、ゲルマニウム、フッ素、窒素、シリコン、アルミニウム、インジウム、キセノンのイオンから選ばれることが好ましい。
【0017】
このようなイオンであれば、測定する炭素濃度に影響を与えないため、本発明に好適に用いることができる。
【0018】
またこのとき、前記イオンを注入する工程は、ドーズ量が1×1012atoms/cm以上、1×1014atoms/cm以下であることが好ましい。
【0019】
このようなドーズ量であれば、測定するのに十分な炭素関連欠陥を発生させることができ、かつイオン注入に要する時間が長くなりすぎることがない。
【0020】
またこのとき、前記炭素関連欠陥を、格子間炭素、格子間炭素と置換型炭素の複合欠陥、格子間炭素と格子間酸素の複合欠陥のうちいずれか一つ以上とすることが好ましい。
【0021】
このような炭素関連欠陥であれば、濃度を測定する炭素関連欠陥として好適である。
【0022】
またこのとき、前記第2の工程において、カソードルミネッセンス法又はフォトルミネッセンス法を用いることが好ましい。
【0023】
このような方法であれば、容易に炭素関連欠陥の濃度を測定することができる。
【0024】
またこのとき、前記第2の工程は、格子間炭素に由来する発光線(H線)、格子間炭素と置換型炭素の複合欠陥に由来する発光線(G線)、格子間炭素と格子間酸素の複合欠陥に由来する発光線(C線)のうちいずれか一つ以上の強度を測定することが好ましい。
【0025】
H線、G線、C線の強度を測定することで、容易に格子間炭素、格子間炭素と置換型炭素の複合欠陥、格子間炭素と格子間酸素の複合欠陥の濃度を測定することができる。
【0026】
更に、本発明では、半導体デバイスを製造する方法であって、
炭素及び酸素以外のイオンをドーズ量が1×1012atoms/cm以上、1×1014atoms/cm以下となるように注入した際に炭素関連欠陥が検出されないシリコン基板を用いて、半導体デバイスを製造する半導体デバイスの製造方法を提供する。
【0027】
このような製造方法であれば、確実に炭素濃度が極めて低いシリコン基板を用いて半導体デバイスを製造することができるため、デバイス特性の優れた半導体デバイスを製造することができる。
【発明の効果】
【0028】
以上のように、本発明のシリコン単結晶中の炭素濃度評価方法によれば、広く普及しているイオン注入装置を利用することで、管理基準値以上のエックス線が発生することがないため、従来の電子線照射を利用した方法と比べて、利便性良く炭素濃度を評価することができる。また、注入イオンとして測定する炭素濃度に影響を与えないイオンを用いることで、高精度で炭素濃度を評価することができる。
また、本発明の半導体デバイスの製造方法によれば、確実に炭素濃度が極めて低いシリコン基板を用いて半導体デバイスを製造することができるため、デバイス特性の優れた半導体デバイスを製造することができ、特に、パワーデバイスを製造する場合に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明のシリコン単結晶中の炭素濃度評価方法のフローを示す図である。
図2】本発明の半導体デバイスの製造方法のフローを示す図である。
図3】実施例において、炭素濃度が(i)2.07ppma、(ii)0.03ppmaの場合のカソードルミネッセンス法により測定した発光スペクトルである。
図4】実施例において、ボロンイオンのドーズ量が(a)1×1012atoms/cm、(b)5×1012atoms/cm、(c)1×1013atoms/cm、(d)2×1013atoms/cm、(e)1×1014atoms/cmの場合のH線強度と炭素濃度との関係を示したグラフである。
図5】実施例において、ボロンイオンのドーズ量が(a)1×1012atoms/cm、(b)5×1012atoms/cm、(c)1×1013atoms/cm、(d)2×1013atoms/cm、(e)1×1014atoms/cmの場合のG線強度と炭素濃度との関係を示したグラフである。
図6】実施例において、ボロンイオンのドーズ量が(a)1×1012atoms/cm、(b)5×1012atoms/cm、(c)1×1013atoms/cm、(d)2×1013atoms/cm、(e)1×1014atoms/cmの場合のC線強度と炭素濃度との関係を示したグラフである。
図7】比較例における(x)G線強度/TO線強度の強度比と炭素濃度との関係、(y)C線強度/TO線強度の強度比と炭素濃度との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
上述のように、従来技術では、赤外吸収分光法よりも高感度に測定できるものの、高エネルギーの電子線照射が不可欠であった。高エネルギーの電子線を物質に照射すると管理基準値以上のエックス線が発生する。このため、電子線照射装置にはエックス線を遮蔽する大がかりな設備が必要となり、利便性が悪いという問題があった。
【0031】
そこで、本発明者らは、従来手法と同程度の感度で、利便性良く炭素濃度を評価することができるシリコン単結晶中の炭素濃度評価方法について鋭意検討を重ねた。
その結果、本発明者らは、管理基準値以上のエックス線を発生することがなく、広く利用されているイオン注入装置を利用し、測定する炭素濃度に影響を与えないイオンを注入することで、炭素濃度を高精度で利便性良く評価できることを見出し、本発明を完成させた。
【0032】
即ち、本発明は、シリコン単結晶に含まれる炭素濃度を評価する方法であって、
前記シリコン単結晶から得られたシリコン基板中に炭素及び酸素以外のイオンを注入する第1の工程と、
前記第1の工程により発生する炭素関連欠陥の濃度を測定する第2の工程と、
前記第2の工程により測定された前記炭素関連欠陥の濃度から、シリコン単結晶中の炭素濃度を評価する第3の工程と
を含むシリコン単結晶中の炭素濃度評価方法である。
【0033】
シリコン基板に対してイオンを注入すると、注入されたイオンが格子位置のシリコンを弾き出すことにより、格子間シリコン(I)とその抜け殻である空孔(V)のペア(フレンケルペア)が生成される。過剰に生成されたIやVは、単体では不安定なため、再結合したり(V+I→0)、I同士やV同士がクラスタリングしたり、シリコン基板中に存在する不純物と反応して複合体を形成する。シリコン基板中に置換型炭素(Cs)が存在する場合、イオン注入で生成されたIがCsを弾き出すことにより、格子間炭素(Ci)が生成される(Cs+I→Ci)。更に、CiはCsと反応してCiCsが形成され、あるいは格子間酸素(Oi)と反応してCiOiが形成される。
【0034】
イオン注入により発生するこれらの炭素関連欠陥の濃度は、シリコン基板に含まれる炭素の濃度が高いほど高くなることから、炭素関連欠陥の濃度を測定することにより、シリコン基板中の炭素濃度、更にはシリコン単結晶中の炭素濃度を高精度で評価することができる。
また、一般的なイオン注入を用いるため、管理基準値以上のエックス線が発生することがない。従って、電子線照射を用いる従来技術よりも利便性良く炭素濃度を評価することができる。
【0035】
以下、本発明について、実施形態の一例として、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0036】
以下、図1を参照しながら、本発明のシリコン単結晶中の炭素濃度評価方法を説明する。
まず、シリコン基板中にフレンケルペアを形成させるために、炭素及び酸素以外のイオン注入を行う(図1のステップS11参照)。
【0037】
本発明の評価方法において、イオン注入に用いられるシリコン基板は、評価対象となるシリコン単結晶から得られたものであればよく、その状態は特に限定されない。例えば、シリコン単結晶の製造工程で混入する炭素濃度を評価したい場合は、該当のシリコン単結晶からウェーハを切り出し、必要に応じて切断ダメージを取り除くために化学的エッチング処理を行ったものをイオン注入に用いればよい。また、エピタキシャル成長工程で混入する炭素濃度を評価したい場合には、シリコン基板をエピタキシャル成長炉内でエピタキシャル成長させたものを用いればよい。あるいは、エピタキシャル層を成長させずに熱処理だけを施したものを用いてもよい。
【0038】
本発明の評価方法において、注入するイオンは炭素関連欠陥の濃度に影響を与える炭素及び酸素以外のイオンであり、具体的には、例えばボロン、リン、砒素、アンチモン、水素、ヘリウム、アルゴン、ゲルマニウム、フッ素、窒素、シリコン、アルミニウム、インジウム、キセノンのイオンから選ばれることが好ましい。
【0039】
また、ドーズ量は1×1012atoms/cm以上、1×1014atoms/cm以下とすることが好ましい。ドーズ量を1×1012atoms/cm以上とすることで、シリコン基板中にフレンケルペアが形成されやすくなるため、測定するのに十分な炭素関連欠陥を発生させることができる。また、ドーズ量を1×1014atoms/cm以下とすることで、イオン注入に要する時間が長くなりすぎることがないため、効率的である。
【0040】
また、イオン注入時のイオンの加速電圧は、格子位置のシリコン原子を格子間位置に弾き出す(フレンケルペアを形成する)のに必要な電圧であれば良く、特に限定されない。
【0041】
次に、炭素及び酸素以外のイオン注入により発生した炭素関連欠陥の濃度を測定する(図1のステップS12参照)。
このとき、濃度を測定する炭素関連欠陥を、格子間炭素(Ci)、格子間炭素(Ci)と置換型炭素(Cs)の複合欠陥(CiCs)、格子間炭素(Ci)と格子間酸素(Oi)の複合欠陥(CiOi)のうちいずれか一つ以上とすることが好ましい。
【0042】
また、これらの炭素関連欠陥の濃度の測定には、カソードルミネッセンス(CL)法又はフォトルミネッセンス(PL)法を用いることが好ましい。
CL法やPL法を用いる場合、発光波長1,340nm付近に現れるCiに由来する発光線(H線)、発光波長1,279nm付近に現れるCiCsに由来する発光線(G線)、発光波長1,570nm付近に現れるCiOiに由来する発光線(C線)のうちいずれか一つ以上の強度を測定することが好ましい。
H線強度を測定することによりCi濃度、G線強度を測定することによりCiCs濃度、C線強度を測定することによりCiOi濃度を測定することができる。そして、Ci濃度、CiCs濃度、CiOi濃度が低い場合には、イオン注入を行ったシリコン基板に含まれていた炭素濃度が低いと判断できる。
【0043】
また、CL法では電子の加速電圧を変えることにより、PL法ではレーザー光の波長を変えることにより、測定深さを変えることができるため、それらの条件を調整することで試料表面から所望の深さまでを評価することができる。
【0044】
次に、測定された炭素関連欠陥の濃度からシリコン基板中の炭素濃度を評価する(図1のステップS13参照)。
具体的には、予め取得された炭素関連欠陥の濃度とシリコン基板中の炭素濃度との関係に基づいて、炭素濃度を評価する。
【0045】
以上のように、本発明のシリコン単結晶中の炭素濃度評価方法によれば、広く普及しているイオン注入装置を利用することで、管理基準値以上のエックス線が発生することがないため、従来の電子線照射を利用した方法と比べて、利便性良く炭素濃度を評価することができる。また、注入イオンとして測定する炭素濃度に影響を与えないイオンを用いることで、高精度で炭素濃度を評価することができる。
【0046】
更に、本発明者らは、上述の本発明のシリコン単結晶中の炭素濃度評価方法から、ドーズ量が1×1012atoms/cm以上、1×1014atoms/cm以下の条件でイオン注入した際に、炭素関連欠陥が検出されなければ、Cs濃度が極めて低いと判断でき、このようにして選別したCs濃度が極めて低いシリコン単結晶から得られたシリコン基板を用いて半導体デバイスを製造すれば、確実にデバイス特性の優れた半導体デバイスを製造することができることを見出し、本発明の半導体デバイス製造方法を完成させた。
【0047】
即ち、本発明の半導体デバイスの製造方法は、
炭素及び酸素以外のイオンをドーズ量が1×1012atoms/cm以上、1×1014atoms/cm以下となるように注入した際に炭素関連欠陥が検出されないシリコン基板を用いて、半導体デバイスを製造する半導体デバイスの製造方法である。
【0048】
以下、図2を参照しながら、本発明の半導体デバイスの製造方法を具体的に説明する。
まず、炭素濃度評価用サンプルに炭素及び酸素以外のイオンを1×1012atoms/cm以上、1×1014atoms/cm以下のドーズ量で注入する(図2のステップS21参照)。
この炭素濃度評価用のサンプルは、シリコン単結晶から作製されたものであればよく、特に限定されない。
【0049】
次に、炭素関連欠陥が検出されるかどうかを調べる。ここで、炭素関連欠陥は、例えば、CL法又はPL法により行うことができる。その結果、炭素関連欠陥が検出されなかった場合、炭素濃度評価用サンプルを作製したシリコン単結晶に含まれる炭素濃度は極めて低いと判断し、このシリコン単結晶を特定する(図2のステップS22参照)。
【0050】
次に、特定されたシリコン単結晶からシリコン基板を作製し、そのシリコン基板を用いて半導体デバイスを製造する(図2のステップS23参照)。
【0051】
以上のように、本発明の半導体デバイスの製造方法によれば、炭素及び酸素以外のイオンを1×1012atoms/cm以上、1×1014atoms/cm以下のドーズ量で注入した際に、炭素関連欠陥が検出されなければ、置換型炭素濃度が極めて低いと判断できることに基づいて、シリコン単結晶を選別し、選別されたシリコン単結晶から作製した炭素濃度が極めて低いシリコン基板を用いて半導体デバイスを製造することにより、デバイス特性の優れた半導体デバイスを製造することができ、特に、パワーデバイスを製造する場合に好適である。
【実施例】
【0052】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
(実施例)
炭素濃度が約0.03〜2.07ppmaの範囲で異なる5水準のシリコン基板を準備した。なお、この炭素濃度は予め赤外吸収スペクトルにより測定しておいた。シリコン基板の導電型、抵抗率、酸素濃度、直径、結晶軸方位は、以下の通りである。
導電型 :n型
抵抗率 :5〜13Ω・cm
酸素濃度 :18ppma(JEIDA)
直径 :200mm
結晶軸方位 :<100>
【0054】
次に、準備したシリコン基板にボロンイオンを注入した。ドーズ量は、(a)1×1012atoms/cm、(b)5×1012atoms/cm、(c)1×1013atoms/cm、(d)2×1013atoms/cm、(e)1×1014atoms/cmとし、ボロンイオンの加速電圧は80kVとした。その後、カソードルミネッセンス法により、発光スペクトルを測定した。
【0055】
ボロンイオンのドーズ量が1×1012atoms/cmの場合の発光スペクトルの例を図3に示す。図3の(i)は炭素濃度が約2.07ppmaの場合を示し、(ii)は炭素濃度が約0.03ppmaの場合を示している。
図3の(i)では、シリコンに由来するTO線(1,130nm付近)、CiCsに由来するG線(1,278nm付近)、Ciに由来するH線(1,340nm付近)、CiOiに由来するC線(1,570nm付近)が観測されている。一方で、図3の(ii)ではTO線、C線、H線が観測されているが、G線は観測されていない。また、C線、H線はピーク強度が低下していることがわかる。
【0056】
次に、発光スペクトルからH線、G線、C線強度を測定した。H線強度と炭素濃度との関係を図4、G線強度と炭素濃度との関係を図5、C線強度と炭素濃度との関係を図6に示した。なお、図4〜6の(a)〜(e)は、それぞれ上記の(a)〜(e)のドーズ量でイオン注入を行ったものである。いずれのドーズ量の場合も、炭素濃度が低くなるほどH線、G線、C線強度が低下した。このことから、Ci、CiCs、CiOi濃度を測定することにより、炭素濃度を評価できることがわかる。
【0057】
カソードルミネッセンス法、フォトルミネッセンス法においては、H線、G線、C線強度により評価する場合と、H線/TO線強度の強度比、G線/TO線強度の強度比、C線/TO線強度の強度比により評価する場合がある。TO線強度で規格化すべきかどうかは、評価対象により異なることがわかっている。
本実施例において、TO線強度で規格化しない場合と、TO線強度で規格化する場合の両方について検討した結果、本発明においてはTO線強度で規格化しない方が好ましいことがわかった。原因は不明であるが、非発光中心が深さ方向に分布していることに起因している可能性がある。
【0058】
なお、フォトルミネッセンス法でもカソードルミネッセンス法と同じ発光線が観測されることがわかっているので、フォトルミネッセンス法でも同様な方法により炭素濃度を評価することができる。
【0059】
(比較例)
炭素濃度が約0.01〜1ppmaの範囲で異なる5水準のシリコン基板を準備した。なお、この炭素濃度は予め赤外吸収スペクトルにより測定しておいた。シリコン基板の導電型、抵抗率、酸素濃度、直径、結晶軸方位は、以下の通りである。
導電型 :n型
抵抗率 :8〜12Ω・cm
酸素濃度 :10〜16ppma(JEIDA)
直径 :200mm
結晶軸方位 :<100>
【0060】
次に、準備したシリコン基板に電子線を照射した。電子線の照射量は1×1017/cmとし、電子線の加速電圧は2MVとした。その後、カソードルミネッセンス法により、発光スペクトルを測定した。
【0061】
次に、シリコン由来の発光線(TO線)の強度、G線、C線の強度を測定した。電子線照射の場合には、特許文献3を参考に、G線強度/TO線強度の強度比、C線強度/TO線強度の強度比を求め、炭素濃度との関係を調査した。図7に(x)G線強度/TO線強度の強度比と炭素濃度との関係、(y)C線強度/TO線強度の強度比と炭素濃度との関係を示した。
図7の(x)、(y)に示されるように、炭素濃度が低くなるほどG線強度/TO線強度の強度比、C線強度/TO線強度の強度比が小さくなった。G線強度/TO線強度の強度比は、相対的なCiCs濃度、C線強度/TO線強度の強度比は、相対的なCiOi濃度を示している。このことから、CiCs濃度、CiOi濃度を測定することにより炭素濃度を評価することはできるが、電子線の照射によって管理基準値以上のエックス線が発生するため、利便性の悪い電子線照射装置が必要であった。
【0062】
以上のことから、本発明のシリコン単結晶中の炭素濃度評価方法であれば、管理基準値以上のエックス線が発生することがないイオン注入装置を利用するため、従来の電子線照射を利用した方法と比べて、利便性が良く、また注入イオンとして測定する炭素濃度に影響を与えないイオンを用いるため、高精度で炭素濃度を評価できることが明らかとなった。
【0063】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7