特許第6075435号(P6075435)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6075435-防汚膜付き透明基体 図000006
  • 特許6075435-防汚膜付き透明基体 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6075435
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】防汚膜付き透明基体
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/30 20060101AFI20170130BHJP
   C03C 17/42 20060101ALI20170130BHJP
   C03C 17/245 20060101ALI20170130BHJP
   B32B 7/02 20060101ALI20170130BHJP
   B32B 17/06 20060101ALI20170130BHJP
   G02B 1/18 20150101ALI20170130BHJP
   G02B 1/115 20150101ALI20170130BHJP
   G02B 5/02 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   C03C17/30 B
   C03C17/42
   C03C17/245 A
   B32B7/02 103
   B32B17/06
   G02B1/18
   G02B1/115
   G02B5/02 C
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-221981(P2015-221981)
(22)【出願日】2015年11月12日
(62)【分割の表示】特願2014-559646(P2014-559646)の分割
【原出願日】2014年1月22日
(65)【公開番号】特開2016-52992(P2016-52992A)
(43)【公開日】2016年4月14日
【審査請求日】2015年11月12日
(31)【優先権主張番号】特願2013-15968(P2013-15968)
(32)【優先日】2013年1月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】藤井 健輔
(72)【発明者】
【氏名】宮村 賢郎
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−114766(JP,A)
【文献】 特開2007−144916(JP,A)
【文献】 特開2010−037115(JP,A)
【文献】 特開2011−180211(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00−23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の主面と、前記第1の主面に対向する第2の主面とを有し、前記第1の主面の表面に防眩加工が施された透明基体と、
前記透明基体の前記第1の主面側に設けられた防汚膜であるフッ素含有有機ケイ素化合物被膜と、を有し、
前記第1の主面の表面粗さRMSが0.05μm以上0.25μm以下であって、粗さ曲線の要素の平均長さRSmが1μm以上40μm以下であり、
前記透明基体がガラス基板である、防汚膜付き透明基体。
【請求項2】
ヘイズが2%以上30%以下である請求項1に記載の防汚膜付き透明基体。
【請求項3】
前記第1の主面の表面粗さRMSが0.08μm以上0.20μm以下である請求項1または2に記載の防汚膜付き透明基体。
【請求項4】
前記第1の主面の粗さ曲線の要素の平均長さRSmが15μm以上35μm以下である請求項1または2に記載の防汚膜付き透明基体。
【請求項5】
前記透明基体の前記第1の主面の表面に低反射膜、フッ素含有有機ケイ素化合物被膜の順に積層されている請求項1乃至の何れか一項に記載の防汚膜付き透明基体。
【請求項6】
前記低反射膜が、酸化ニオブ層と酸化ケイ素層との積層体である請求項に記載の防汚膜付き透明基体。
【請求項7】
前記低反射膜が複数の膜が積層された積層体であって、該積層体は全体で2層以上6層以下の膜が積層されている請求項またはに記載の防汚膜付き透明基体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚膜付き透明基体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年特に携帯デバイスや、車載用機器において液晶ディスプレイ等の各種表示装置が多く用いられるようになってきている。このような表示装置においては、そのカバー部材として従来から透明基体を配置した構成がとられている。また、透明電極つきタッチパネルとカバーガラスとが一体化した基板構成も知られている。
【0003】
このような表示装置においては、透明基体表面に人の指等が触れる機会が多く、人の指等が触れた場合に、透明基体表面に脂等が付着し易い。そして、脂等が付着した場合には視認性に影響を及ぼすことから、透明基体の表面に防汚処理が施されたものが用いられている。
【0004】
表面に防汚処理を施した透明基体として、例えば特許文献1には、凹凸形状を有するガラス基板の表面に撥水層を設けた撥水性ガラスが開示されている。
【0005】
さらに、撥水層を設けた撥水性ガラスにおいては、撥水剤とガラスとの接着力が弱いため撥水性能を維持することが困難であることから、その耐久性を高めるために、ガラス基板の表面形状を所定の形状にする方法が検討されてきた(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】日本国特開平07−126041号公報
【特許文献2】日本国特開平11−171594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2の撥水性ガラスは、風防ガラスや、窓ガラス板などの用途を目的に開発されたものであり、表示装置等の透明基体として用いることは予定されていない。
【0008】
このため、液晶ディスプレイ等の表示装置のカバー部材やタッチパネルの透明電極と一体化するカバーガラスとして係る撥水性ガラスを用いた場合、防眩特性がほとんどないため周囲の光が映りこみ、表示部分についての視認性が低下するという問題があった。
【0009】
また、上記のように特許文献2の撥水性ガラスは窓ガラス等、人の手に触れる機会の少ない部分に用いることを予定した撥水性ガラスであるため、表示装置のようにより高い頻度で人手に触れる可能性があるカバー部材やタッチパネルと一体化した基板として用いるには、耐久性が十分ではなかった。
【0010】
本発明は上記従来技術が有する問題に鑑み、防眩特性を有しつつも、防汚膜の耐久性を高めた防汚膜付き透明基体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため本発明は、第1の主面と、前記第1の主面に対向する第2の主面とを有し、前記第1の主面の表面に防眩加工が施された透明基体と、
前記透明基体の前記第1の主面側に設けられた防汚膜であるフッ素含有有機ケイ素化合物被膜と、を有し、
前記第1の主面の表面粗さRMSが0.05μm以上0.25μm以下であって、粗さ曲線の要素の平均長さRSmが1μm以上40μm以下であり、
前記透明基体がガラス基板である、防汚膜付き透明基体を提供する。


【発明の効果】
【0012】
本発明においては、防眩特性を有しつつも、防汚膜の耐久性を高めた防汚膜付き透明基体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1の実施形態に係る防汚膜付き透明基体の構成の説明図
図2】本発明の第2の実施形態に係る防汚膜付き透明基体の構成の説明図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[第1の実施形態]
本実施形態では、本発明の防汚膜付き透明基体について説明する。
【0015】
本実施形態の防汚膜付き透明基体は、第1の主面と、前記第1の主面に対向する第2の主面とを有し、前記第1の主面の表面に防眩加工が施された透明基体と、前記透明基体の前記第1の主面側に設けられた防汚膜であるフッ素含有有機ケイ素化合物被膜と、を有し、前記第1の主面の表面粗さRMSが0.05μm以上0.25μm以下であって、粗さ曲線の要素の平均長さRSmが10μm以上40μm以下であることを特徴とする。
【0016】
本実施形態の防汚膜付き透明基体について図1を用いて説明する。図1は、本実施形態の防汚膜付き透明基体の断面図を模式的に示したものであり、透明基体11の第1の主面側に防汚膜12が配置された構成を有している。防汚膜付き透明基体を構成する各部材について以下に説明する。
【0017】
まず、透明基体11の材料としては特に限定されるものではなく、少なくとも可視光を透過する各種透明基体を利用できる。例えばプラスチック基板、ガラス基板等の各種材料が挙げられる。中でも透明性や、強度等の観点から透明基体はガラス基板であることが好ましい。この場合、ガラスの種類は特に限定されるものではなく、無アルカリガラスや、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラスなど各種ガラスを利用できる。中でもその上面に設ける層(膜)との密着性の観点から、ソーダライムガラスを用いることが好ましい。
【0018】
透明基体11がガラス基板の場合、透明基体自体の強度の点からは、アルミノシリケートガラスを化学強化処理した強化ガラス基板(例えば、「ドラゴントレイル(登録商標)」等)を用いることが好ましい。
【0019】
化学強化処理とは、ガラスの表面のイオン半径が小さいアルカリイオン(例えば、ナトリウムイオン)をイオン半径の大きなアルカリイオン(例えば、カリウムイオン)に置換する処理をいう。例えば、ナトリウムイオンを含有するガラスを、カリウムイオンを含む溶融塩で処理することにより化学強化できる。このような化学強化処理後のガラス基板表面の圧縮応力層の組成は化学強化処理前の組成と若干異なるが、基板深層部の組成は化学強化処理前の組成とほぼ同じである。
【0020】
化学強化の条件としては特に限定されるものではなく、化学強化に供するガラスの種類や要求される化学強化の程度等に応じて選択できる。
【0021】
化学強化処理を行うための溶融塩としては、化学強化に供するガラス基板に応じて選択すればよい。例えば、硝酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、塩化ナトリウムおよび塩化カリウム等のアルカリ硫酸塩およびアルカリ塩化塩などが挙げられる。これらの溶融塩は単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
溶融塩の加熱温度は、350℃以上が好ましく、380℃以上がより好ましい。また、500℃以下が好ましく、480℃以下がより好ましい。
【0023】
溶融塩の加熱温度を350℃以上とすることにより、イオン交換速度の低下により化学強化が入りにくくなるのを防ぐ。また、500℃以下とすることにより溶融塩の分解・劣化を抑制できる。
【0024】
また、ガラス基板を溶融塩に接触させる時間は、十分な圧縮応力を付与するためには、1時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましい。また、長時間のイオン交換では、生産性が落ちるとともに、緩和により圧縮応力値が低下するため、24時間以下が好ましく、20時間以下がより好ましい。
【0025】
透明基体の形状に関しても特に限定されるものではなく、各種形状の透明基体を利用できる。
【0026】
透明基体11は、上述のように、第1の主面11Aと、これに対向する第2の主面11Bとを有している。そして、第1の主面11Aには所望の凹凸形状を形成する防眩加工が施されている。この際、第1の主面11Aの表面粗さであるRMSを0.05μm以上0.25μm以下、第1の主面11Aの粗さ曲線の要素の平均長さであるRSmが10μm以上40μm以下とすることが好ましい。係る範囲とすることにより、後述する防汚膜の表面粗さRMS、粗さ曲線の要素の平均長さRSmを所望の範囲とすることができる。
【0027】
ここで、表面粗さRMSとは、基準面(ここでは表面処理前の基板表面)からの凹凸の平均深さである。なお、二乗平均粗さともいい、Rqで表わされる場合もある。また粗さ曲線の要素の平均長さRSmとは、基準面上にとった基準長さに含まれる粗さ曲線において、一周期分の凹凸が生じる基準面上の長さを平均した長さである。表面粗さRMS(μm)及び粗さ曲線の要素の平均長さRSmは、JIS B 0601(2001)で規定される方法に準拠した方法により測定できる。
【0028】
これは、本発明の発明者らが防汚膜付き透明基体において、防汚膜の耐久性を高めるため、検討を行ったところ、第1の主面11Aの表面特性が上記特性を有することにより、防眩特性に加えて、従来の防汚膜付き透明基体に比較して防汚膜の耐久性が特に向上することを見出したものである。
【0029】
防汚膜は透明基体の第1の主面側に形成されており、防汚膜は透明基体の表面形状をトレースするため、防汚膜表面も透明基体と略同様の表面粗さの特性を有している。
【0030】
透明基体の第1の主面11Aが上記規定を満たすことにより、従来用いられていた、RMSが0.25μmを超える、またはRSmが40μmを超える防眩加工を施された透明基体と比較して、透明基体の第1の主面の微細な凹凸において、凹部間のピッチが小さくなり、凸部の面積が増大していることを意味している。そして、上記の様に防汚膜の表面も同様の表面形状を有することになる。
【0031】
係る防汚膜付き透明基体の表面、すなわち、防汚膜に指等が接触した場合、指等と接触する防汚膜の凸部の面積が、従来の防汚膜つき透明基体と比較して大きくなっている。このため、指等により防汚膜付き透明基体の表面(防汚膜)部分に加えられる力が分散され、防汚膜に加わる圧力を低減でき、防汚膜の剥離、磨耗を抑制できると推認される。
【0032】
粗さ曲線の要素の平均長さであるRSmが小さいほど、すなわち凹部のピッチが小さいほど、指との接触面積が大きくなり、耐久性が向上することが推察される。しかし、RSmを非常に小さくするためには、たとえばフォトマスクを用いたエッチング処理などを施す必要があり、コストの観点からは、RSmが10μm以上であれば好ましく作成できる。このため、防汚膜を形成する面について、上記RSm範囲を満たす透明基体を用いることが好ましい。
【0033】
また、RMS、RSmが上記の数値範囲にある透明基体の場合、凹部のピッチが適切な範囲にあるため、防眩特性も有する透明基体とすることができる。
【0034】
さらに、第1の主面11Aの表面粗さであるRMSは0.08μm以上0.20μm以下であることがより好ましく、粗さ曲線の要素の平均長さであるRSmが15μm以上35μm以下であることがより好ましい。これらのパラメータを充足することにより、防汚膜の耐久性をより向上することが可能になる。
【0035】
このような表面特性を有する透明基体とする防眩加工方法は特に限定されるものではなく、第1の主面について表面処理を施し、所望の凹凸を形成する方法を利用できる。
【0036】
具体的には、透明基体の第1の主面についてフロスト処理を施す方法が挙げられる。フロスト処理は、例えば、フッ化水素とフッ化アンモニウムの混合溶液に、被処理体である透明基体を浸漬し、浸漬面を化学的に表面処理することで行うことができる。
【0037】
また、このような化学的処理による方法以外にも、例えば、結晶質二酸化ケイ素粉、炭化ケイ素粉等を加圧空気で透明基体表面に吹きつけるいわゆるサンドブラスト処理や、結晶質二酸化ケイ素粉、炭化ケイ素粉等を付着させたブラシを水で湿らせたもので磨く等の物理的処理による方法も利用できる。
【0038】
特に、フッ化水素等の薬液を用いて化学的に表面処理するフロスト処理を施す方法では、被処理体表面におけるマイクロクラックが生じ難く、機械的強度の低下が生じ難いため、透明基体の表面処理を施す方法として好ましく利用できる。
【0039】
このようにして凹凸を作成した後に、表面形状を整えるために、ガラス表面を化学的にエッチングすることが一般的に行われている。こうすることで、エッチング量によりヘイズを所望の値に調整でき、サンドブラスト処理等で生じたクラックを除去でき、またギラツキを抑えることができる。
【0040】
エッチングとしては、フッ化水素を主成分とする溶液に、被処理体である透明基体を浸漬する方法が好ましく用いられる。フッ化水素以外の成分としては、塩酸・硝酸・クエン酸などを含有してもよい。これらを含有することで、ガラスに入っているアルカリ成分とフッ化水素とが反応して析出反応が局所的におきることを抑えることができ、エッチングを面内均一に進行させることができる。
【0041】
透明基体の第2の主面11Bについてはその特性は特に限定されるものではなく、第1の主面と同様の表面粗さRMS及び粗さ曲線の要素の平均長さであるRSmを有するように加工を行うこともできる。
【0042】
また、透明基体の第2の主面11Bに、タッチパネル用の透明電極を作成することもできる。このように、タッチパネルの透明電極と防汚膜付き透明基体とが一体化した構成とすることによって、より一層の薄型軽量化を達成できる。なおこの場合は、第2の主面11Bについて上記した第1の主面11Aと同様の防眩加工は行わないことが好ましい。
【0043】
そして、透明基体11の第1の主面11A側には、図1に示すように防汚膜12が形成されている。防汚膜12はフッ素含有有機ケイ素化合物により構成できる。
【0044】
ここで、フッ素含有有機ケイ素化合物について説明する。本実施形態で用いるフッ素含有有機ケイ素化合物としては、防汚性、撥水性、撥油性を付与するものであれば特に限定されず使用できる。
【0045】
このようなフッ素含有有機ケイ素化合物としては例えば、ポリフルオロポリエーテル基、ポリフルオロアルキレン基及びポリフルオロアルキル基からなる群から選ばれる1つ以上の基を有するフッ素含有有機ケイ素化合物が挙げられる。なお、ポリフルオロポリエーテル基とは、ポリフルオロアルキレン基とエーテル性酸素原子とが交互に結合した構造を有する2価の基のことである。
【0046】
このポリフルオロポリエーテル基、ポリフルオロアルキレン基及びポリフルオロアルキル基からなる群から選ばれる1つ以上の基を有するフッ素含有有機ケイ素化合物の具体例としては、下記一般式(I)〜(V)で表される化合物等が挙げられる。
【0047】
【化1】
式中、Rfは炭素数1〜16の直鎖状のポリフルオロアルキル基(アルキル基として、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基等)、Xは水素原子又は炭素数1〜5の低級アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基等)、R1は加水分解可能な基(例えば、アミノ基、アルコキシ基等)又はハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等)、mは1〜50、好ましくは1〜30の整数、nは0〜2、好ましくは1〜2の整数、pは1〜10、好ましくは1〜8の整数である。
【0048】
2q+1CHCHSi(NH) (II)
ここで、qは1以上、好ましくは2〜20の整数である。
【0049】
一般式(II)で表される化合物としては例えば、n−トリフロロ(1,1,2,2−テトラヒドロ)プロピルシラザン(n−CFCHCHSi(NH)、n−ヘプタフロロ(1,1,2,2−テトラヒドロ)ペンチルシラザン(n−CCHCHSi(NH)等を例示できる。
【0050】
q'2q'+1CHCHSi(OCH (III)
ここで、q'は1以上、好ましくは1〜20の整数である。
【0051】
一般式(III)で表される化合物としては、2−(パーフルオロオクチル)エチルトリメトキシシラン(n−C17CHCHSi(OCH)等を例示できる。
【0052】
【化2】
式(IV)中、Rf2は、−(OC−(OC−(OCF−(s、t、uはそれぞれ独立に0〜200の整数)で表わされる2価の直鎖状ポリフルオロポリエーテル基であり、R、Rは、それぞれ独立に炭素原子数1〜8の一価炭化水素基(例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基等)である。X、Xは独立に加水分解可能な基(例えば、アミノ基、アルコキシ基、アシロキシ基、アルケニルオキシ基、イソシアネート基等)またはハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)であり、d、eは独立に1〜2の整数であり、c、fは独立に1〜5(好ましくは1〜2)の整数であり、aおよびbは独立に2または3である。
【0053】
化合物(IV)が有するRf2においてs+t+uは、20〜300であることが好ましく、25〜100であることがより好ましい。また、R、Rとしては、メチル基、エチル基、ブチル基がより好ましい。X、Xで示される加水分解性基としては、炭素数1〜6のアルコキシ基がより好ましく、メトキシ基、エトキシ基が特に好ましい。また、aおよびbはそれぞれ3が好ましい。
【0054】
【化3】
式(V)中、vは1〜3の整数であり、w、y、zはそれぞれ独立に0〜200の整数であり、hは1または2であり、iは2〜20の整数であり、Xは加水分解性基であり、Rは炭素数1〜22の直鎖または分岐の炭化水素基であり、kは0〜2の整数である。w+y+zは、20〜300であることが好ましく、25〜100であることがより好ましい。また、iは2〜10であることがより好ましい。Xは、炭素数1〜6のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基がより好ましい。Rとしては、炭素数1〜10のアルキル基がより好ましい。
【0055】
また、市販されているポリフルオロポリエーテル基、ポリフルオロアルキレン基及びポリフルオロアルキル基からなる群から選ばれる1つ以上の基を有するフッ素含有有機ケイ素化合物として、KP−801(商品名、信越化学社製)、KY178(商品名、信越化学社製)、KY−130(商品名、信越化学社製)、KY−185(商品名、信越化学社製)オプツ−ル(登録商標)DSXおよびオプツールAES(いずれも商品名、ダイキン社製)などが好ましく使用できる。
【0056】
なお、フッ素含有有機ケイ素化合物は、大気中の水分との反応による劣化抑制などのためにフッ素系溶媒等の溶媒と混合して保存されているのが一般的であるが、これらの溶媒を含んだまま成膜工程に供すると、得られた薄膜の耐久性等に悪影響を及ぼすことがある。
【0057】
このため、本実施形態においては、加熱容器で加熱を行う前に予め溶媒除去処理を行ったフッ素含有有機ケイ素化合物、または、溶媒で希釈されていない(溶媒を添加していない)フッ素含有有機ケイ素化合物を用いることが好ましい。例えば、フッ素含有有機ケイ素化合物溶液中に含まれる溶媒の濃度として1mol%以下のものが好ましく、0.2mol%以下のものがより好ましい。溶媒を含まないフッ素含有有機ケイ素化合物を用いることが特に好ましい。
【0058】
なお、上記フッ素含有有機ケイ素化合物を保存する際に用いられている溶媒としては、例えば、パーフルオロヘキサン、メタキシレンヘキサフルオライド(C(CF)、ハイドロフロオロポリエーテル、HFE7200/7100(商品名、住友スリーエム社製、HFE7200はC、HFE7100はCOCHで表わされる)等が挙げられる。
【0059】
フッ素系溶媒を含むフッ素含有有機ケイ素化合物溶液からの溶媒(溶剤)の除去処理は、例えばフッ素含有有機ケイ素化合物溶液を入れた容器を真空排気することにより行うことができる。
【0060】
真空排気を行う時間については、排気ライン、真空ポンプ等の排気能力、溶液の量等により変化するため限定されるものではないが、例えば10時間程度以上でもよい。
【0061】
本実施形態の防汚膜の成膜方法は特に限定されるものではないが、上記のような材料を用いて真空蒸着により成膜することが好ましい。
【0062】
また、上記溶媒の除去処理は、防汚膜を成膜する成膜装置の加熱容器にフッ素含有有機ケイ素化合物溶液を導入後、昇温する前に室温で加熱容器内を真空排気することにより行うこともできる。また、加熱容器に導入する前に予めエバポレーター等により溶媒除去を行っておくこともできる。
【0063】
ただし、前述の通り溶媒含有量が少ない、または含まないフッ素含有有機ケイ素化合物は溶媒を含んでいるものと比較して、大気と接触することにより劣化しやすい。
【0064】
このため、溶媒含有量の少ない(または含まない)フッ素含有有機ケイ素化合物の保管容器は容器中を窒素等の不活性ガスで置換、密閉したものを使用し、取り扱う際には大気への暴露、接触時間が短くなるようにすることが好ましい。
【0065】
具体的には、保管容器を開封後は直ちに防汚膜を成膜する成膜装置の加熱容器にフッ素含有有機ケイ素化合物を導入することが好ましい。そして、導入後は、加熱容器内を真空にするか、窒素、希ガス等の不活性ガスにより置換することにより、加熱容器内に含まれる大気(空気)を除去することが好ましい。大気と接触することなく保管容器(貯蔵容器)から本製造装置の加熱容器に導入できるように、例えば貯蔵容器と加熱容器とが、バルブ付きの配管により接続されていることがより好ましい。
【0066】
そして、加熱容器にフッ素含有有機ケイ素化合物を導入後、容器内を真空または不活性ガスで置換した後には、直ちに成膜のための加熱を開始することが好ましい。
【0067】
防汚膜の成膜方法として、本実施形態の説明では溶液または原液のフッ素含有有機ケイ素化合物を用いた例を述べたが、これには限定されない。他の方法としてたとえば、予めポーラスな金属(たとえば、錫や銅)や繊維状金属(たとえば、ステンレススチール)にフッ素含有有機ケイ素化合物を一定量含侵させた、いわゆる蒸着用ペレットが、市販されており(一例として、キャノンオプトロン社製のサーフクリア)、これを使用する方法がある。この場合、蒸着装置の容量や必要膜厚に応じた量のペレットを蒸着源として、簡便に防汚膜を成膜することもできる。
【0068】
上述の様に防汚膜は透明基体の表面形状をそのままトレースするため、その表面特性は、透明基体の表面粗さRMS、粗さ曲線の要素の平均長さRSmと同等になる。このため、その表面粗さRMSが0.05μm以上0.25μm以下であって、粗さ曲線の要素の平均長さRSmが10μm以上40μm以下となる。また、特に表面粗さRMSは0.08μm以上0.20μm以下であることがより好ましく、粗さ曲線の要素の平均長さRSmが15μm以上35μm以下であることがより好ましい。
【0069】
また、透明基体と防汚膜との密着性を向上する目的で、透明基体と防汚膜との間に密着層を挿入してもよい。密着層を挿入する場合、防汚膜を成膜する前に予め透明基材の第1の主面に形成しておけばよい。密着層としては、酸化ケイ素膜が好適に用いられる。膜厚としては2nm以上50nm以下、好ましくは5nm以上20nm以下である。
【0070】
以上本実施形態の防汚膜つき透明基体の各部材について説明してきたが、本実施形態の防汚膜付き透明基体のヘイズは2%以上30%以下であることが好ましい。ヘイズが2%以上であれば、光の映りこみを、防眩加工が施されていない基板に比べて目視で確認して有意に抑制できるが、30%より大きいと光を乱反射するようになり、表示装置のカバー部材やタッチパネルと一体化した基板として用いた場合に、表示装置の表示の視認性を低下させるためである。また、本実施形態の防汚膜付き透明基体のヘイズは、15%以上27%以下であることがより好ましい。
【0071】
ヘイズが上記範囲にあることにより本実施形態の防汚膜付き透明基体が十分な防眩特性を有することを示しており、表示装置等のカバー部材やタッチパネルと一体化した基板としてより好ましく利用できる。
【0072】
以上説明してきた本実施形態の防汚膜付き透明基体によれば、防眩特性を有しつつも、防汚膜の耐久性を高めた防汚膜付き透明基体とすることができる。
[第2の実施形態]
本実施形態では、第1の実施形態において、低反射膜をさらに設けた構成について説明する。その他の構成については第1の実施形態で説明したとおりであるためここでは省略する。
【0073】
低反射膜は防汚膜付き透明基体表面での光の反射を抑制できるため、防眩特性をより高めることが可能になる。例えば表示装置のカバー部材として用いた場合に、周囲の光の映りこみを抑制し、表示装置の表示の視認性をより高めることが可能になる。
【0074】
低反射膜の材料は特に限定されるものではなく、反射を抑制できる材料であれば各種材料を利用できる。例えば低反射膜としては、高屈折率層と低屈折率層とを積層した構成とすることができる。
【0075】
高屈折率層と低屈折率層とは、それぞれ1層ずつ含む形態であってもよいが、それぞれ2層以上含む構成であってもよい。高屈折率層と低屈折率層とをそれぞれ2層以上含む場合には、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層した形態であることが好ましい。
【0076】
十分な反射防止性能とするためには、低反射膜は複数の膜(層)が積層された積層体であることが好ましい。例えば該積層体は全体で2層以上6層以下の膜が積層されていることが好ましく、2層以上4層以下の膜が積層されていることがより好ましい。ここでの積層体は、上記の様に高屈折率層と低屈折率層とを積層した積層体であることが好ましく、高屈折率層と低屈折率層との層の数の総計が上記範囲であることが好ましい。
【0077】
高屈折率層、低屈折率層の材料は特に限定されるものではなく、要求される反射防止の程度や生産性等を考慮して選択できる。高屈折率層を構成する材料としては、例えば酸化ニオブ(Nb)、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、窒化ケイ素(SiN)、酸化タンタル(Ta)から選択された1種以上を好ましく利用できる。低屈折率層を構成する材料としては、酸化ケイ素(SiO)を好ましく利用できる。
【0078】
高屈折率層としては生産性や、屈折率の程度から、特に酸化ニオブを好ましく利用できる。このため、前記低反射膜は、酸化ニオブ層と酸化ケイ素層との積層体であることがより好ましい。
【0079】
本実施形態の防汚膜付き透明基体において、低反射膜を設ける場所については特に限定されるものではなく、透明基体の第1の主面11Aおよび/または第2の主面11Bに配設できる。特に透明基体の第1の主面11Aに設けることが好ましい。例えば図2に示すように、透明基体11の第1の主面11Aの表面に(第1の主面側から)低反射膜13、フッ素含有有機ケイ素化合物被膜12の順に積層された構成とすることがより好ましい。
【0080】
このように透明基体の第1の主面11A上に低反射膜13、フッ素含有有機ケイ素化合物被膜(防汚膜)12を積層した構成とすることにより、低反射膜13についても剥離することを防止し、耐久性を向上できるため好ましい。
【0081】
また、防汚膜の耐久性を高める密着層を挿入する場合は、低反射膜と防汚膜との間に入れることが好ましい。この場合も酸化シリコン膜が好適に用いられる材料であるが、上記の例のように低反射膜の最上層も酸化シリコンである場合、低反射性と密着層の効果を同時に達成することができるために好ましい構成である。
【0082】
図2において、低反射膜13は2つの層131、132が積層された構成としているが、係る形態に限定されるものではなく、上記のように更に複数の層が積層された構成とすることもできる。
【0083】
また、本実施形態の防汚膜付き透明基体についても第1の実施形態で説明した同様の理由からヘイズは2%以上30%以下であることが好ましく、15%以上27%以下であることがより好ましい。
【0084】
以上、本実施形態では、低反射膜を有する防汚膜付き透明基体について説明してきたが、係る構成を有することにより、防眩特性をより向上できる。このため、表示装置のカバー装置やタッチパネルと一体化した基板等、防眩特性を特に要求される用途においてより好ましく利用できる。
【実施例】
【0085】
以下に具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、例1〜例4は実施例、例5〜例7は比較例である。
(1)評価方法
以下の例1〜例7において得られた防汚膜付き透明基体の特性評価方法について以下に説明する。
(表面形状の測定)
例1〜例7で用いた防汚膜成膜後の試料の防汚膜の表面形状について、レーザー顕微鏡(キーエンス社製、商品名:VK−9700)を用いて、50倍の倍率で平面プロファイルを測定した。そして、得られた平面プロファイルから、JIS B 0601(2001)に基づいて表面粗さRMSおよび粗さ曲線要素の平均長さRSmの値を得た。
【0086】
各例において成膜される防汚膜や低反射膜は、透明基体の厚みに対して非常に薄い膜であるので、表面の凹凸構造は実質的に透明基体の表面形状をそのままトレースする。従って、透明基材の(防汚膜を形成した側の面の)表面形状についても同等のものであると考えられる。
(ヘイズの測定)
実施例、比較例において、防汚膜を形成した後の試料について透過へイズの測定を行った。ヘイズの測定は、ヘイズメーター(スガ試験機株式会社製、型式:HZ−V3)を用いて行った。
(擦り耐久性(耐摩耗性)試験)
例1〜例7において防汚膜成膜後の試料について、該試料の防汚膜について擦り耐久性試験を以下の手順により行った。
【0087】
まず、例1〜7の防汚膜について以下の手順により擦り試験を行った。
【0088】
底面が10mm×10mmである平面金属圧子の表面に、スチールウール#0000を装着して、サンプルを擦る摩擦子とした。
【0089】
次に、上記摩擦子を用い、平面摩耗試験機3連式(大栄科学精器社製、型式:PA−300A)にて擦り試験を行った。具体的には、まず上記圧子の底面がサンプルの防汚膜面に接触するよう摩耗試験機に取り付け、摩擦子への加重が1000gとなるように重りを載せ、平均速さ6400mm/min、片道40mmで往復摺動した。往復1回を擦り回数1回と数えて、擦り回数1000回となるように試験を行った。
【0090】
その後、防汚膜について以下の手順により水接触角の測定を行った。
【0091】
防汚膜の水接触角の測定は、自動接触角計(協和界面科学社製、型式:DM−501)を用いて、防汚膜上に純水1μLを滴下し、その接触角を測定することにより行った。測定に際しては、各試料について防汚膜表面の10箇所で測定を行い、その平均値を当該試料の耐久性試験後の水接触角とした。
【0092】
この際、水の接触角が90°以上を合格とし、90°以下を不合格として評価した。
(2)実験手順
[例1]
以下の手順により、防汚膜付き透明基体を製造した。
【0093】
本例では透明基体として化学強化処理が施されたガラス基板(旭硝子株式会社製、商品名:ドラゴントレイル(登録商標))を用い、該ガラス基板の第1の主面に所定のフロスト処理がされたガラス基板(以下、透明基体Aとする)を用いた。
【0094】
そして、透明基体Aの第1の主面に以下の手順により防汚膜を成膜した。
【0095】
まず、蒸着材料として、フッ素含有有機ケイ素化合物(信越化学社製、商品名:KY−185)を加熱容器内に導入した。その後、加熱容器内を真空ポンプで10時間以上脱気して溶液中の溶媒除去を行ってフッ素含有有機ケイ素化合物被膜形成用の組成物とした。
【0096】
次いで、上記フッ素含有有機ケイ素化合物膜形成用の組成物が入った加熱容器を270℃まで加熱した。270℃に到達した後、温度が安定するまで10分間その状態を保持した。
【0097】
そして、真空チャンバ内に設置した透明基体Aの第1の主面(フロスト処理された面)に対して、前記フッ素含有有機ケイ素化合物膜形成用の組成物が入った加熱容器と接続されたノズルから、フッ素含有有機ケイ素化合物膜形成用の組成物を供給し、成膜を行った。
【0098】
成膜の際には、真空チャンバ内に設置した水晶振動子モニタにより膜厚を測定しながら行い、透明基体A上に形成したフッ素含有有機ケイ素化合物膜の膜厚が10nmになるまで成膜を行った。
【0099】
フッ素含有有機ケイ素化合物膜が10nmになった時点でノズルから原料の供給を停止し、真空チャンバからフッ素含有有機ケイ素化合物膜が形成された透明基体Aを取り出した。
【0100】
取り出されたフッ素含有有機ケイ素化合物膜が形成された透明基体Aは、ホットプレートに膜面を上向きにして設置し、大気中で150℃、60分間熱処理を行った。
【0101】
このようにして得られた試料について上記表面形状の測定、ヘイズの測定、擦り耐久性試験を行った。結果を表1に示す。
[例2]
透明基体として化学強化処理が施されたガラス基板(旭硝子株式会社製、商品名:ドラゴントレイル(登録商標))を用い、該ガラス基板の第1の主面にフロスト処理された透明基体Bを用いた以外は例1と同様にして、透明基体Bの第1の主面に防汚膜を成膜した。得られた防汚膜付き透明基体について例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
[例3]
透明基体として化学強化処理が施されたガラス基板(旭硝子株式会社製、商品名:ドラゴントレイル(登録商標))を用い、該ガラス基板の第1の主面にフロスト処理された透明基体Cを用いた以外は例1と同様にして、透明基体Cの第1の主面に防汚膜を成膜した。得られた防汚膜付き透明基体について例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
[例4]
透明基体A上に、以下のようにして低反射膜を成膜した。
【0102】
まず、アルゴンガスに10体積%の酸素ガスを混合した混合ガスを導入しながら、酸化ニオブターゲット(AGCセラミックス社製、商品名NBOターゲット)を用いて、圧力0.3Pa、周波数20kHz、電力密度3.8W/cm、反転パルス幅5μsecの条件でパルススパッタリングを行い、透明基体Aの第1の主面上に、厚さ13nmの酸化ニオブ(ニオビア)からなる高屈折率層を形成した。
【0103】
次いで、アルゴンガスに40体積%の酸素ガスを混合した混合ガスを導入しながら、シリコンターゲットを用いて、圧力0.3Pa、周波数20kHz、電力密度3.8W/cm、反転パルス幅5μsecの条件でパルス幅5μsecの条件でパルススパッタリングを行い、前記高屈折率層上に厚さ30nmの酸化ケイ素(シリカ)からなる低屈折率層を形成した。
【0104】
次いでアルゴンガスに10体積%の酸素ガスを混合した混合ガスを導入しながら、酸化ニオブターゲット(AGCセラミックス社製、商品名NBOターゲット)を用いて、圧力0.3Pa、周波数20kHz、電力密度3.8W/cm、反転パルス幅5μsecの条件でパルススパッタリングを行い、前記低屈折率層上に厚さ110nmの酸化ニオブ(ニオビア)からなる高屈折率層を形成した。
【0105】
次いで、アルゴンガスに40体積%の酸素ガスを混合した混合ガスを導入しながら、シリコンターゲットを用いて、圧力0.3Pa、周波数20kHz、電力密度3.8W/cm、反転パルス幅5μsecの条件でパルス幅5μsecの条件でパルススパッタリングを行い、厚さ90nmの酸化ケイ素(シリカ)からなる低屈折率層を形成した。
【0106】
このようにして、酸化ニオブ(ニオビア)と酸化ケイ素(シリカ)が総計4層積層された低反射膜を形成した。
【0107】
次に、例1と同様にして、低反射膜の上に防汚膜を形成した。
【0108】
得られた防汚膜付き透明基体について、例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
[例5]
透明基体として化学強化処理が施されたガラス基板(旭硝子株式会社製、商品名:ドラゴントレイル(登録商標))を用い、該ガラス基板の第1の主面にフロスト処理された透明基体Dを用いた以外は例1と同様にして、透明基体Dの第1の主面に防汚膜を成膜した。得られた防汚膜付き透明基体について例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
[例6]
透明基体として化学強化処理が施されたガラス基板(旭硝子株式会社製、商品名:ドラゴントレイル(登録商標))を用い、該ガラス基板の第1の主面にフロスト処理された透明基体Eを用いた以外は例1と同様にして、透明基体Eの第1の主面に防汚膜を成膜した。得られた防汚膜付き透明基体について例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
[例7]
透明基体として例5と同じ透明基体Dを用いた以外は例4と同様にして、低反射膜と防汚膜を形成し、得られた防汚膜付き透明基体について、例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0109】
【表1】
表1に示した結果によると、本発明の規定を充足する例1〜4についてはいずれも擦り耐久性試験において水接触角が90°以上となっているのに対して、例5〜7については、80°以下であった。
【0110】
防汚膜は撥水性を有しており、上記のように水接触角が小さくなっている場合、防汚膜が剥離、磨耗していることを示す。このため、例5〜7については防汚膜が剥離、磨耗していることが分かる。
【0111】
これらの結果から、本発明の規定を充足する例1〜4については、比較例である例5〜7と比較して防汚膜の耐久性が非常に高くなっていることが確認できた。
【0112】
また、例1〜4については、そのヘイズの値から適切な防眩特性を有するものであることも確認できた。
【0113】
以上に防汚膜付き透明基体を、実施形態および実施例等で説明したが、本発明は上記実施形態および実施例等に限定されない。特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【0114】
本出願は、2013年1月30日に日本国特許庁に出願された特願2013−015968号に基づく優先権を主張するものであり、特願2013−015968号の全内容を本国際出願に援用する。
【符号の説明】
【0115】
11 透明基体
12 防汚膜
13 低反射膜
図1
図2