特許第6075698号(P6075698)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6075698差動信号伝送用ケーブル及びコネクタ付きケーブル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6075698
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】差動信号伝送用ケーブル及びコネクタ付きケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 11/00 20060101AFI20170130BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20170130BHJP
   H01B 7/18 20060101ALI20170130BHJP
   H01R 13/6461 20110101ALI20170130BHJP
【FI】
   H01B11/00 G
   H01B7/00 306
   H01B7/18 D
   H01R13/6461
【請求項の数】18
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-31172(P2014-31172)
(22)【出願日】2014年2月21日
(65)【公開番号】特開2015-28911(P2015-28911A)
(43)【公開日】2015年2月12日
【審査請求日】2016年4月22日
(31)【優先権主張番号】特願2013-136442(P2013-136442)
(32)【優先日】2013年6月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 晴之
(72)【発明者】
【氏名】及川 実
【審査官】 和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−289047(JP,A)
【文献】 特開2002−319319(JP,A)
【文献】 特開2012−133991(JP,A)
【文献】 特表2003−505839(JP,A)
【文献】 実開昭57−183618(JP,U)
【文献】 特開2012−169251(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/157771(WO,A1)
【文献】 特表平09−511359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/00
H01B 11/00
H01R 13/6461
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本の信号線導体と、これら信号線導体を被覆する絶縁体と、該絶縁体の周囲に縦添え巻きされたシールドテープと、を備える差動信号伝送用ケーブルであって、
前記シールドテープの前記絶縁体への巻き付け方向両端部には、互いに重なり合う第1重複領域および第2重複領域が存在し、
前記シールドテープの前記第1重複領域は、前記第2重複領域によって覆われ、
前記第1重複領域の端部は、前記2本の信号線導体の中心を通る直線と直交する第1の信号線導体の2つの接線のうち、該第1の信号線導体の径方向外側に位置する接線を第1接線としたとき、該第1接線よりも外側に位置する、差動信号伝送用ケーブル。
【請求項2】
請求項1に記載の差動信号伝送用ケーブルであって、
前記第2重複領域の端部は、前記2本の信号線導体の中心を通る前記直線と直交する第2の信号線導体の2つの接線のうち、該第2の信号線導体の径方向外側に位置する接線を第2接線としたとき、該第2接線よりも外側に位置する、差動信号伝送用ケーブル。
【請求項3】
請求項1または2に記載の差動信号伝送用ケーブルであって、
前記第1重複領域および前記第2重複領域は、前記2本の信号線導体の中心同士を結ぶ線分の中点において該線分と直交する直線を跨いでいる、差動信号伝送用ケーブル。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の差動信号伝送用ケーブルであって、
前記第1重複領域および前記第2重複領域は、前記2本の信号線導体の中心を通る前記直線を跨いでいない、差動信号伝送用ケーブル。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の差動信号伝送用ケーブルであって、
前記絶縁体は、前記2本の信号線導体を一括被覆している、差動信号伝送用ケーブル。
【請求項6】
請求項5に記載の差動信号伝送用ケーブルであって、
前記絶縁体と前記シールドテープとの間の空隙は、前記第1重複領域の端部のみに形成されている、差動信号伝送用ケーブル。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の差動信号伝送用ケーブルであって、
前記絶縁体と前記シールドテープとの間にドレイン線を含まない、差動信号伝送用ケーブル。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の差動信号伝送用ケーブルであって、
前記シールドテープの周囲に螺旋巻きされた絶縁テープをさらに備える差動信号伝送用ケーブル。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の差動信号伝送用ケーブルであって、
10Gbit/s以上の伝送速度で用いられる、差動信号伝送用ケーブル。
【請求項10】
複数本の差動信号伝送用ケーブルを有する伝送ケーブルと、該伝送ケーブルの両端に設けられたコネクタとを備えたコネクタ付きケーブルであって、
前記差動信号伝送用ケーブルは、
2本の信号線導体と、これら信号線導体を被覆する絶縁体と、該絶縁体の周囲に縦添え巻きされたシールドテープと、を備え、
前記シールドテープの前記絶縁体への巻き付け方向両端部には、互いに重なり合う第1重複領域および第2重複領域が存在し、
前記シールドテープの前記第1重複領域は、前記第2重複領域によって覆われ、
前記第1重複領域の端部は、前記2本の信号線導体の中心を通る直線と直交する第1の信号線導体の2つの接線のうち、該第1の信号線導体の径方向外側に位置する接線を第1接線としたとき、該第1接線よりも外側に位置する、
コネクタ付きケーブル。
【請求項11】
請求項10に記載のコネクタ付きケーブルであって、
前記第2重複領域の端部は、前記2本の信号線導体の中心を通る前記直線と直交する第2の信号線導体の2つの接線のうち、該第2の信号線導体の径方向外側に位置する接線を第2接線としたとき、該第2接線よりも外側に位置する、コネクタ付きケーブル。
【請求項12】
請求項10または11に記載のコネクタ付きケーブルであって、
前記第1重複領域および前記第2重複領域は、前記2本の信号線導体の中心同士を結ぶ線分の中点において該線分と直交する直線を跨いでいる、コネクタ付きケーブル。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれかに記載のコネクタ付きケーブルであって、
前記第1重複領域および前記第2重複領域は、前記2本の信号線導体の中心を通る前記直線を跨いでいない、コネクタ付きケーブル。
【請求項14】
請求項10〜13のいずれかに記載のコネクタ付きケーブルであって、
前記絶縁体は、前記2本の信号線導体を一括被覆している、コネクタ付きケーブル。
【請求項15】
請求項14に記載のコネクタ付きケーブルであって、
前記絶縁体と前記シールドテープとの間の空隙は、前記第1重複領域の端部のみに形成されている、コネクタ付きケーブル。
【請求項16】
請求項10〜15のいずれかに記載のコネクタ付きケーブルであって、
前記絶縁体と前記シールドテープとの間にドレイン線を含まない、コネクタ付きケーブル。
【請求項17】
請求項10〜16のいずれかに記載の差動信号伝送用ケーブルであって、
前記シールドテープの周囲に螺旋巻きされた絶縁テープをさらに備えるコネクタ付きケーブル。
【請求項18】
請求項10〜17のいずれかに記載のコネクタ付きケーブルであって、
10Gbit/s以上の伝送速度で用いられる、コネクタ付きケーブル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに位相が異なる2以上の信号を伝送するための差動信号伝送用ケーブル及びコネクタ付きケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
数Gbit/s以上の高速デジタル信号を扱うサーバ,ルータ,ストレージなどの機器においては、差動インターフェース規格(例えば、LVDS(Low Voltage Differential Signaling))が採用され、各機器間あるいは機器内の各回路基板間では、差動信号伝送用ケーブルを用いて差動信号の伝送が行われている。差動信号は、システム電源の低電圧化を実現しつつ外来ノイズに対する耐性が高いという利点を有している。
【0003】
一般的な差動信号伝送用ケーブルは、平行に並べられた一対の信号線導体と、これら信号線導体を被覆する絶縁体と、絶縁体の周囲に巻かれたシールドテープと、シールドテープの周囲に巻かれた押さえテープと、を備えている。それぞれの信号線導体には、位相を180度反転させたプラス側(ポジティブ)信号およびマイナス側(ネガティブ)信号がそれぞれ伝送される。これらの2つの信号(プラス側信号およびマイナス側信号)の電位差が信号レベルとなって、例えば電位差がプラスであれば「High」,マイナスであれば「Low」として、当該信号レベルを受信側で認識できるようになっている。
【0004】
ここで、シールドテープは、シート状の基材と、基材の一面に形成された金属導体層と、を有する。シールドテープは、金属導体層が外側を向くようにして、絶縁体の周囲に縦添え巻きされている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−169251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
絶縁体の周囲に縦添え巻きされているシールドテープの巻き付け方向両端部は互いに重なり合っている。このため、絶縁体とシールドテープとの間に、シールドテープの厚みに起因する空隙が発生する。具体的には、シールドテープの一方の端部の近傍において、絶縁体の外周面とシールドテープの内面との間に空隙が発生する。かかる空隙は、スキューの増大や差動同相変換量の増大といった伝送特性の劣化を招く。
【0007】
本発明の目的は、絶縁体とシールドテープとの間に発生する空隙に起因する差動信号伝送用ケーブルの伝送特性の劣化を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の差動信号伝送用ケーブルは、2本の信号線導体と、これら信号線導体を被覆する絶縁体と、該絶縁体の周囲に縦添え巻きされたシールドテープと、を備える。前記シールドテープの前記絶縁体への巻き付け方向両端部には、互いに重なり合う第1重複領域および第2重複領域が存在し、前記シールドテープの前記第1重複領域は前記第2重複領域によって覆われている。前記第1重複領域の端部は、前記2本の信号線導体の中心を通る直線と直交する第1の信号線導体の2つの接線のうち、該第1の信号線導体の径方向外側に位置する接線を第1接線としたとき、該第1接線よりも外側に位置する。
【0009】
本発明のコネクタ付きケーブルは、複数本の差動信号伝送用ケーブルを有する伝送ケーブルと、該伝送ケーブルの両端に設けられたコネクタとを備える。前記差動信号伝送用ケーブルは、2本の信号線導体と、これら信号線導体を被覆する絶縁体と、該絶縁体の周囲に縦添え巻きされたシールドテープと、を備え、前記シールドテープの前記絶縁体への巻き付け方向両端部には、互いに重なり合う第1重複領域および第2重複領域が存在し、前記シールドテープの前記第1重複領域は、前記第2重複領域によって覆われ、前記第1重複領域の端部は、前記2本の信号線導体の中心を通る直線と直交する第1の信号線導体の2つの接線のうち、該第1の信号線導体の径方向外側に位置する接線を第1接線としたとき、該第1接線よりも外側に位置する。
【0010】
本発明の一態様では、前記第2重複領域の端部は、前記2本の信号線導体の中心を通る前記直線と直交する第2の信号線導体の2つの接線のうち、該第2の信号線導体の径方向外側に位置する接線を第2接線としたとき、該第2接線よりも外側に位置する。
【0011】
本発明の他の態様では、前記第1重複領域および前記第2重複領域は、前記2本の信号線導体の中心同士を結ぶ線分の中点において該線分と直交する直線を跨いでいる。
【0012】
本発明の他の態様では、前記第1重複領域および前記第2重複領域は、前記2本の信号線導体の中心を通る前記直線を跨いでいない。
【0013】
本発明の他の態様では、前記絶縁体は、前記2本の信号線導体を一括被覆している。
【0014】
本発明の他の態様では、前記絶縁体と前記シールドテープとの間の空隙は、前記第1重複領域の端部のみに形成されている。
【0015】
本発明の他の態様では、前記絶縁体と前記シールドテープとの間にドレイン線を含まない。
【0016】
本発明の他の態様では、前記シールドテープの周囲に螺旋巻きされた絶縁テープをさらに備える。
【0017】
本発明の他の態様では、10Gbit/s以上の伝送速度で用いられる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、絶縁体とシールドテープとの間に発生する空隙に起因する差動信号伝送用ケーブルの伝送特性の劣化が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】(a)は本発明が適用された差動信号伝送用ケーブルの一例を示す一部断面の斜視図であり、(b)は(a)の部分拡大断面図である。
図2図1に示される差動信号伝送用ケーブルの断面内における電界強度分布を模式的に示す説明図である。
図3】(a)は本発明が適用された差動信号伝送用ケーブルの他の一例を示す一部断面の斜視図であり、(b)は(a)の部分拡大断面図である。
図4】本発明が適用されたコネクタ付きケーブルの一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態の一例について図面を参照しながら詳細に説明する。図1(a)に示されるように、本実施形態に係る差動信号伝送用ケーブル1Aは、第1の信号線導体2aおよび第2の信号線導体2bを備えている。すなわち、差動信号伝送用ケーブル1Aは一対の信号線導体2a,2bを備えている。一対の信号線導体2a,2bのいずれか一方にはプラス側(ポジティブ)信号が伝送され、一対の信号線導体2a,2bのいずれか他方にはマイナス側(ネガティブ)信号が伝送される。各信号線導体2a,2bは、例えば、その表面に銀めっき処理が施された円形断面の軟銅線(Silver Plated Copper Wire)によって形成されている。一対の信号線導体2a,2bは共通の絶縁体3によって一括被覆されている。
【0021】
絶縁体3は、例えば、発泡ポリエチレン(Expanded Poly-Ethylene)によって形成されており、差動信号伝送用ケーブル1Aの長手方向と直交する断面(横断面)における形状は略楕円形である。絶縁体3の断面形状の詳細については後述する。
【0022】
絶縁体3は、第1の信号線導体2aおよび第2の信号線導体2bが所定間隔で平行に並ぶようにこれら信号線導体2a,2bを保持している。絶縁体3は、それぞれの信号線導体2a,2bの周囲における肉厚が略同等となるように形成されている。本実施形態では、絶縁体3の材料である発砲ポリエチレンの溶融温度は110[℃]〜120[℃]に設定されている。
【0023】
絶縁体3の周囲には、外来ノイズの影響を抑制するためのシールドテープ4が巻かれている。図示は省略するが、シールドテープ4は、シート状の基材および該基材の一面に形成された金属導体層からなる二重構造を有している。金属導体層は、例えば銅箔によって形成される。
【0024】
シールドテープ4は、絶縁体3の周囲に、絶縁体3への巻き付け方向両端部が互いに重なり合うようにして縦添え巻きされている。以下、シールドテープ4の「端部」またはシールドテープ4の「両端部」と言う場合、特に断らない限り、絶縁体3への巻き付け方向におけるシールドテープ4の端部または同方向におけるシールドテープ4の両端部を意味する。
【0025】
上記のように、シールドテープ4は、その両端部が互いに重なり合うように、絶縁体3の周囲に縦添え巻きされている。よって、図1(b)に示されるように、シールドテープ4の両端部には、互いに重なり合う第1重複領域11および第2重複領域12が存在している。換言すれば、シールドテープ4の全領域のうち、互いに重なり合っている2つの領域の一方が第1重複領域11であり、他方が第2重複領域12である。
【0026】
さらに、シールドテープ4の第1重複領域11は、第2重複領域12によって覆われている。換言すれば、シールドテープ4の第2重複領域12は、第1重複領域11の上に重ねられている。さらに換言すれば、シールドテープ4の第2重複領域12は、第1重複領域11に乗り上げている。この結果、第1重複領域11の端部11aの近傍において、シールドテープ4の内面が絶縁体3の外周面から離反し、絶縁体3とシールドテープ4との間に空隙6が発生している。かかる空隙6がスキューの増大や差動同相変換量の増大といった伝送特性劣化の一因になることは既述のとおりである。例えば、10Gbit/s又はそれ以上の伝送速度で用いられる際には、この空隙6による伝送特性劣化の影響により、歩留まりが下がる問題がある。なお、本実施形態では、絶縁体3は、略楕円形の断面形状を有し、一対の信号線導体2a,2bを一括被覆しているため、第1重複領域11の端部11aの近傍の空隙6以外には、絶縁体3とシールドテープ4との間に空隙は発生していない。また、本実施形態では、絶縁体3とシールドテープ4との間にドレイン線を含まないことにより、ドレイン線に起因する空隙発生を回避している。
【0027】
図2を参照する。図2は、差動信号伝送用ケーブル1Aの横断面内における電界強度分布を模式的に示す説明図である。図2中では、色の濃さによって電界強度が示されている。具体的には、図中で色の濃い部分ほど電界強度が高く、色の薄い部分ほど電界強度が低い。
【0028】
ここで、2本の信号線導体2a,2bの中心を通る直線を“直線L1”と定義し、2本の信号線導体2a,2bの中心同士を結ぶ線分の中点において該線分と直交する直線を“直線L2”と定義する。また、直線L1と直線L2の交点を“中心X”と定義する。なお、2本の信号線導体2a,2bの中心同士を結ぶ線分が直線L1の一部であることは自明である。また、以下の説明では、直線L1を“長軸”、直線L2を“短軸”と呼ぶ場合がある。
【0029】
さらに、直線L1と直交する、第1の信号線導体2aの2本の接線のうち、該第1の信号線導体2aの径方向外側に位置する接線を“第1接線T1”と定義する。また、直線L1と直交する、第2の信号線導体2bの2本の接線のうち、該第2の信号線導体2bの径方向外側に位置する接線を“第2接線T2”と定義する。
【0030】
以上の定義を前提として再び図2を参照すると、中心Xから遠ざかるほど電界強度が低くなることが分かる。より詳細には、第1の信号線導体2aと第2の信号線導体2bの間およびこれら信号線導体2a,2bの周囲に強電界が多く分布している。一方、長軸方向両外側には電界強度が低い領域が存在しており、特に、第1接線T1よりも長軸方向外側および第2接線T2よりも長軸方向外側にそれぞれ電界強度が低い領域が存在している。なお、「長軸方向外側」とは、長軸に沿って中心Xから遠ざかる方向であり、図2の紙面中で短軸(直線L2)よりも左側の領域においては、中心Xから左へ向かう方向が長軸方向外側であり、短軸(直線L2)よりも右側の領域においては、中心Xから右へ向かう方向が長軸方向外側である。
【0031】
ここで、図1(b)に示される空隙6が電界強度の高い領域に位置していると、該空隙6が差動信号伝送用ケーブル1Aの伝送特性に与える影響が大きくなる。すなわち、空隙6が電界強度の高い領域に位置していると、差動信号伝送用ケーブル1Aの伝送特性の劣化が顕著になる。
【0032】
そこで、図1(b)に示されるように、本実施形態に係る差動信号伝送用ケーブル1Aでは、シールドテープ4の第1重複領域11の端部11aが第1接線T1よりも長軸方向外側(左側)に位置するように、シールドテープ4が巻かれている。この結果、シールドテープ4の第2重複領域12が第1重複領域11に乗り上げることによって発生する空隙6も第1接線T1よりも長軸方向外側(左側)に位置している。すなわち、空隙6は、差動信号伝送用ケーブル1Aの横断面内において相対的に電界強度の低い領域に位置している。よって、空隙6が差動信号伝送用ケーブル1Aの伝送特性に与える影響が、該空隙6が第1接線T1よりも長軸方向内側(右側)、より具体的には、第1接線T1と第2接線T2の間に位置している場合に比べて低減される。
【0033】
上記作用効果は、空隙6が第2接線T2よりも長軸方向外側(右側)に配置されている実施形態においても同様に得られる。すなわち、図1(b)に示されるシールドテープ4の第1重複領域11の端部11aが第2接線T2よりも長軸方向外側(右側)に位置している実施形態も本発明の範囲に含まれる。第1重複領域11の端部11aを第2接線T2よりも長軸方向外側(右側)に位置させるためには、シールドテープ4の周方向(巻き付け方向)の寸法を短くすればよい。すなわち、第1重複領域11と第2重複領域12の重なり合いを少なくすればよい。
【0034】
もっとも、第1重複領域11の端部11aを第2接線T2よりも長軸方向外側(右側)に位置させた場合、第1重複領域11の端部11aおよび第2重複領域12の端部12aの双方が第2接線T2よりも長軸方向外側(右側)に位置することになり、対称性が低下する。
【0035】
一方、本実施形態に係る差動信号伝送用ケーブル1Aでは、第1重複領域11の端部11aは第1接線T1よりも長軸方向外側(左側)に位置し、第2重複領域12の端部12aは第2接線T2よりも長軸方向外側(右側)に位置している。よって、2つの端部11a,12aが揃って一方の接線(第1接線T1または第2接線T2)の外側(左側または右側)に偏在している場合に比べて対称性が高まり、伝送特性のさらなる向上が期待できる。
【0036】
また、図1(b)に示されるように、シールドテープ4の第1重複領域11は、短軸(直線L2)を越えて第1接線T1の長軸方向外側(左側)まで延びている。一方、シールドテープ4の第2重複領域12は、短軸(直線L2)を越えて第2接線T2の長軸方向外側(右側)まで延びている。すなわち、第1重複領域11および第2重複領域12は直線L2を跨いで互いに反対方向へ延びている。換言すれば、第1重複領域11と第2重複領域12の間に十分な重複量が確保されている。したがって、第1重複領域11と第2重複領域12を確実にオーバーラップさせつつ、シールドテープ4を絶縁体3の周囲に安定的に巻き付けることができる。
【0037】
一方、短軸(直線L2)を越えて第1接線T1の長軸方向外側(左側)まで延びている第1重複領域11の端部11aは、長軸(直線L1)には達していない。また、短軸(直線L2)を越えて第2接線T2の長軸方向外側(右側)まで延びている第2重複領域12の端部12aは、長軸(直線L1)には達していない。すなわち、第1重複領域11および第2重複領域12は長軸(直線L1)を跨いでいない。これにより、第1重複領域11の端部11aおよび第2重複領域12の端部12aの捲り上がりが防止される。
【0038】
再び図1(a)を参照すると、上記のように絶縁体3の周囲に縦添え巻きされたシールドテープ4の周囲には、押さえテープとしての絶縁テープ5が螺旋巻きされている。本実施形態では、絶縁テープ5の緩みを防止すべく、互いに対向するシールドテープ4の外面と絶縁テープ5の内面とが接着されている。さらに、必要に応じて絶縁テープ5を剥離させる場合にその剥離が容易となるように、シールドテープ4の外面と絶縁テープ5の内面とが部分的に接着されている。もっとも、シールドテープ4の外面と絶縁テープ5の内面とが全面的に接着された実施形態もあり、シールドテープ4の外面と絶縁テープ5の内面とが接着されていない実施形態もある。なお、第2重複領域12の端部12aは長軸(直線L1)に達していないので、絶縁テープ5を螺旋巻きする際に、第2重複領域12の端部12aの捲り上がりが抑制される。
【0039】
先に説明したとおり、図1(b)に示される絶縁体3の断面形状は略楕円形であって、完全な楕円形ではない。具体的には、絶縁体3の断面形状は、曲率の異なる複数の円弧の組み合わせによって構成されている。もっとも、本発明の範囲から断面形状が完全な楕円形である絶縁体を備えた差動信号伝送用ケーブルが排除されるものではない。また、絶縁体の断面形状が楕円形および略楕円形以外の形状である差動信号伝送用ケーブルが本発明の範囲から除外されるものでもない。
【0040】
図3(a),(b)に、楕円形および略楕円形以外の断面形状を備えた絶縁体を有する差動信号伝送用ケーブル1Bを示す。図示されている絶縁体3の断面形状は、曲率が一定である2つの円弧と、これら円弧同士を接続する2本の直線とによって構成されている。
【0041】
図3に示される差動信号伝送用ケーブル1Bにおいても、シールドテープ4の第1重複領域11の端部11aは第1接線T1よりも長軸方向外側(左側)に位置しており、よって、空隙6も第1接線T1よりも長軸方向外側(左側)に位置している。
【0042】
また、第1重複領域11の端部11aは第1接線T1よりも長軸方向外側(左側)に位置し、第2重複領域12の端部12aは第2接線T2よりも長軸方向外側(右側)に位置しており、良好な対称性が得られている。
【0043】
さらに、第1重複領域11および第2重複領域12は直線L2を跨いで互いに反対方向へ延びている一方、第1重複領域11の端部11aおよび第2重複領域12の端部12aは長軸(直線L1)に達していない。
【0044】
図4は、伝送ケーブル42と、伝送ケーブル42の両端に設けられたコネクタ43とを備えたコネクタ付きケーブル41(Direct Attach Cable)の斜視図である。伝送ケーブル42は、複数本(例えば2本、8本、24本)の差動信号伝送用ケーブル1を備えている。複数本の差動信号伝送用ケーブル1の外周には、複数本の差動信号伝送用ケーブル1を一括して被覆する一括シールドと、一括シールドを被覆する絶縁体からなるジャケット44とを備えている。一括シールドは、例えば、シールドテープ4を螺旋巻したもの、編組線を用いたもの、又はこれらを組み合わせたものである。
【0045】
伝送ケーブル42として、2本の差動信号伝送用ケーブル1を備えたものを用いた場合、1チャンネルの送受信が可能となり、8本の差動信号伝送用ケーブル1を備えたものを用いた場合、4チャンネルの送受信が可能となる。各差動信号伝送用ケーブル1は、10Gbit/s以上の伝送速度で信号を伝送する。
【0046】
コネクタ43は、差動信号伝送用ケーブル1の信号線導体2a,2bと電気的に接続される接続用基板(内蔵基板)46と、接続用基板46を収容するコネクタ筐体45とを備えている。さらに、電気信号の長距離伝送を可能にするために、コネクタ43の少なくとも一方に補償回路を搭載することもできる。
【0047】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、発泡タイプの絶縁体に代えてソリッドタイプの絶縁体が用いられる実施形態もある。なお、気泡を内包する発泡タイプの絶縁体の誘電率は、ソリッドタイプの絶縁体の誘電率よりも低い。したがって、発泡タイプの絶縁体を用いることによって信号速度の低下等を抑制することができる。なお、発泡タイプの絶縁体が用いられる場合には、絶縁体とシールドテープとの間に絶縁体スキン層が設けられることが一般的である。絶縁体スキン層は、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の絶縁体によって略筒状に形成され、絶縁体を押し出し成形等する際に、硬化する前の柔らかい絶縁体の変形を防止する役割を果たす。
【0048】
また、信号線導体はSilver Plated Copper Wireに限定されず、例えば、表面に錫めっき処理が施された円形断面の軟銅線(Tinned Annealed Copper Wire)が用いられることもある。また、表面にめっき処理が施されていない軟銅線が用いられることもある。
【0049】
また、図1(a)や図3(a)に示される絶縁テープ5の周囲に、第2の絶縁テープが螺旋巻きされる実施形態もある。この場合、第2の絶縁テープは、絶縁テープ5と逆向きに螺旋巻きされる場合もあれば、絶縁テープ5と同じ向きに螺旋巻きされる場合もある。
【符号の説明】
【0050】
1 差動信号伝送用ケーブル
2a,2b 信号線導体
3 絶縁体
4 シールドテープ
5 絶縁テープ
11 第1重複領域
11a (第1重複領域の)端部
12 第2重複領域
12a (第2重複領域の)端部
図1
図2
図3
図4