【文献】
公益社団法人日本油化学会編,油脂・脂質・界面活性剤データブック,丸善出版株式会社,2012年12月30日,第12頁、表1・7
【文献】
社団法人日本油化学会編,油化学便覧−脂質・界面活性剤−,丸善株式会社,2001年11月20日,第四版,第604頁、表8・2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記エステル交換油脂が、原料油脂として、15〜35質量%のジアシルグリセロールを含有し、かつ、その構成脂肪酸に占めるステアリン酸含有量が20〜75質量%である油脂、を含む、請求項1または2に記載のエステル交換油脂。
ラウリン系油脂と、15〜35質量%のジアシルグリセロールを含有し、かつ、その構成脂肪酸に占めるステアリン酸含有量が20〜75質量%である非ラウリン系油脂と、を含む混合油脂をエステル交換する、請求項1〜3の何れか1項に記載のエステル交換油脂の製造方法。
【背景技術】
【0002】
チョコレートの製造に使用されるカカオ脂の代替脂であるハードバターは、一般に、テンパー型及びノンテンパー型に分類される。
【0003】
テンパー型ハードバターは、カカオ脂とよく似た対称型トリアシルグリセロールの分子構造を持つ類似脂から作られる。よって、テンパー型ハードバターは、カカオ脂と容易に配合される。そのため、テンパー型ハードバターは、CBE(cocoa butter equivalent)と呼ばれている。
【0004】
一方、ノンテンパー型ハードバターは、カカオ脂と似た融解性状を有している。しかし、その油脂としての分子構造は、カカオ脂とは全く異なる。ノンテンパー型ハードバターは、ラウリン酸型と非ラウリン酸型とに大きく分けられる。ラウリン酸型及び非ラウリン酸型の何れもカカオ脂との相溶性は低い。しかし、カカオ脂と比べて安価である。また、煩雑なテンパリング作業が不要なので、ノンテンパー型ハードバターを用いたチョコレートの製造の作業性が良い。そのため、ノンテンパー型ハードバターは、製菓及び製パン領域で広く使用されている。
【0005】
ノンテンパー型ハードバターの内、ラウリン酸型ハードバターは、典型的には、パーム核油を分別して得られる硬質部(パーム核ステアリン)を水素添加により極度硬化することにより得られることが知られている。この種のハードバターの融解性状は、極めてシャープである。しかし、カカオ脂との相溶性が極端に悪い。そのため、カカオ脂の配合率を極力少なくしなければならない。よって、ラウリン酸型ハードバターを使用して得られるチョコレートはカカオ風味に乏しいものとなる。また、ハードバターの構成脂肪酸の50%以上をラウリン酸が占める。このことから、チョコレートの保存状態が悪いことにより、上記ハードバターの加水分解が起こると、チョコレートの風味が極端に悪くなるという難点がある。
【0006】
ラウリン酸型ハードバターのこのような難点を改良するために、ラウリン系油脂と非ラウリン系油脂とを用いたエステル交換により得られるハードバターが開発されている(特許文献1参照)。しかしながら、特許文献1のハードバターを使用して得られるチョコレートの光沢が経時的に乏しくなるという難点がある。
【0007】
ラウリン系油脂と非ラウリン系油脂とを用いたエステル交換により得られるハードバターとして、その構成脂肪酸が炭素数20以上の脂肪酸を含む、ハードバターも開発されている(特許文献2参照)。当該ハードバター(エステル交換油脂)は、非ラウリン系油脂としてハイエルシン酸菜種油の極度硬化油を含む。これを使用して得られるチョコレートは光沢の維持に優れる傾向にある。しかしながら、菜種の低エルシン酸種への品種改良が進んだ結果、ハイエルシン酸菜種油の安定入手が困難となっている。すなわち、このようなハイエルシン酸菜種油は、何処ででも入手できるものではないという難点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、構成脂肪酸として炭素数20以上の脂肪酸を有意な量で含まなくても、チョコレートの光沢を長期間維持できるエステル交換油脂(ハードバター)の開発が望まれていた。
【0010】
本発明の目的は、構成脂肪酸として炭素数が20以上の脂肪酸を有意な量で含まなくても、チョコレートの製造に使用された場合に、製造されたチョコレートの光沢を長期間維持できるエステル交換油脂(ハードバター)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、エステル交換油脂の構成脂肪酸が特定の組成を有するとき、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下のようなものを提供する。
〔1〕以下の条件(a)〜(e)を満たす、エステル交換油脂。
(a)全構成脂肪酸に占める炭素数12以下の脂肪酸含有量が15〜30質量%である。
(b)全構成脂肪酸に占めるパルミチン酸含有量が26〜52質量%である。
(c)全構成脂肪酸に占めるステアリン酸含有量が4〜22質量%である。
(d)全構成脂肪酸に占める不飽和脂肪酸含有量が13〜30質量%である。
(e)全構成脂肪酸に占める炭素数20以上の脂肪酸含有量が2質量%以下である。
〔2〕さらに以下の条件(f)を満たす、〔1〕のエステル交換油脂。
(f)全構成脂肪酸に占める、ステアリン酸含有量対する不飽和脂肪酸含有量(不飽和脂肪酸含有量/ステアリン酸含有量)の割合が、5.0以下である。
〔3〕さらに以下の条件(g)を満たす、〔1〕または〔2〕のエステル交換油脂。
(g)前記エステル交換油脂のジアシルグリセロール含有量が3.0〜10質量%である。
〔4〕前記エステル交換油脂の原料油脂に含まれる油脂が、15〜35質量%のジアシルグリセロールを含有し、かつ、その構成脂肪酸に占めるステアリン酸含有量が20〜75質量%である、〔1〕〜〔3〕の何れか1つのエステル交換油脂。
〔5〕〔1〕〜〔4〕の何れか1つのエステル交換油脂を70質量%以上含有する油脂を含有するチョコレート。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、構成脂肪酸として、有意な量の炭素数20以上の脂肪酸を含まなくても、チョコレートの製造に使用された場合に、チョコレートの光沢を長期間維持できるエステル交換油脂(ハードバター)を提供することができる。また、本発明によると、当該エステル交換油脂を使用することにより、口どけに優れたチョコレートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態に係るエステル交換油脂は、以下の条件(a)〜(e)を満たす。
(a)全構成脂肪酸に占める炭素数12以下の脂肪酸含有量が15〜30質量%である。
(b)全構成脂肪酸に占めるパルミチン酸含有量が26〜52質量%である。
(c)全構成脂肪酸に占めるステアリン酸含有量が4〜22質量%である。
(d)全構成脂肪酸に占める不飽和脂肪酸含有量が13〜30質量%である。
(e)全構成脂肪酸に占める炭素数20以上の脂肪酸含有量が2質量%以下である。
【0015】
本発明の実施の形態に係るエステル交換油脂の全構成脂肪酸に占める炭素数12以下の脂肪酸含有量は、15〜30質量%である(条件(a))。また、全構成脂肪酸に占める炭素数12以下の脂肪酸含有量は、好ましくは18〜27質量%であり、より好ましくは19〜26質量%である。炭素数12以下の脂肪酸の中でもラウリン酸は、全構成脂肪酸に占める含有量が、好ましくは12〜28質量%であり、より好ましくは16〜25質量%であり、さらに好ましくは17〜24質量%である。全構成脂肪酸に占める炭素数12以下の脂肪酸含有量が上記範囲内であると、エステル交換油脂を使用して得られるチョコレートの口どけが良好である。
【0016】
本発明の実施の形態に係るエステル交換油脂の全構成脂肪酸に占めるパルミチン酸含有量は、26〜52質量%である(条件(b))。また、全構成脂肪酸に占めるパルミチン酸含有量は、好ましくは35〜50質量%であり、より好ましくは39〜48質量%である。
【0017】
本発明の実施の形態に係るエステル交換油脂の全構成脂肪酸に占めるステアリン酸含有量は、4〜22質量%である(条件(c))。また、全構成脂肪酸に占めるステアリン酸含有量は、好ましくは5〜16質量%であり、より好ましくは6.0〜12.0質量%である。
【0018】
本発明の実施の形態に係るエステル交換油脂の全構成脂肪酸に占める不飽和脂肪酸含有量は、13〜30質量%である(条件(d))。また、全構成脂肪酸に占める不飽和脂肪酸含有量は、好ましくは16〜26質量%であり、より好ましくは15〜24質量%である。不飽和脂肪酸の炭素数は、好ましくは16〜18であり、より好ましくは18である。
【0019】
本発明の実施の形態に係るエステル交換油脂の全構成脂肪酸に占める、ステアリン酸含有量に対する不飽和脂肪酸含有量の割合(不飽和脂肪酸含有量/ステアリン酸含有量)は、5.0以下であることが好ましい(条件(f))。上記割合は、より好ましくは1.0〜4.0であり、さらに好ましくは1.5〜3.5である。
【0020】
本発明の実施の形態に係るエステル交換油脂の全構成脂肪酸に占める炭素数20以上の脂肪酸含有量は、2質量%以下である(条件(e))。全構成脂肪酸に占める炭素数20以上の脂肪酸含有量は、1質量%以下(0〜1質量%)であることがより好ましい。
なお、油脂の脂肪酸の分析は、AOCS Ce1f−96に準じて、ガスクロマトグラフィー法を用いた測定により、行うことができる。
【0021】
健康上懸念されるトランス脂肪酸の含有量を低減するという理由から、本発明の実施の形態に係るエステル交換油脂のトランス脂肪酸含有量は、0〜5質量%であることが好ましい。0〜3質量%であることがより好ましく、0〜1質量%であることが更に好ましい。
【0022】
本発明の実施の形態に係るエステル交換油脂のジアシルグリセロール(以下、DGとも表す)含有量は、3.0〜10質量%であることが好ましい(条件(g))。エステル交換油脂のジアシルグリセロール含有量は、より好ましくは4.0〜6.0質量%である。ジアシルグリセロール含有量が上記範囲内であると、エステル交換油脂を使用して得られるチョコレートの光沢が良好である。
なお、油脂中のジアシルグリセロール含有量の分析はAOCS CD 11B−91に準じて行うことができる。
【0023】
本発明の実施の形態に係るエステル交換油脂は、上記条件(a)〜(e)を満たす。これにより、当該エステル交換油脂を使用して得られるチョコレートは、口どけがよく、良好な光沢が持続する。さらに、条件(f)及び/又は(g)を満たすことにより、上記特性がより優れたものとなる。
【0024】
本発明の実施の形態に係るエステル交換油脂の製造には、上記条件(a)〜(e)が満たされる限り、その原料油脂として、どのような食用油脂が使用されてもよい。原料油脂としては、例えば、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、胡麻油、カカオ脂、シア脂、サル脂、パーム油、パーム核油、ヤシ油、牛脂、豚脂、乳脂、魚油、及び鯨油等の各種の植物油脂及び動物油脂が挙げられる。また、これら植物油脂及び動物油脂に水素添加、分別、及びエステル交換のうちから選択された一又は二以上の処理を適用することにより得られる加工油脂が挙げられる。本発明の実施の形態に係るエステル交換油脂の製造には、上記食用油脂の一種以上の組み合せが原料油脂として使用されてもよい。
【0025】
本発明の実施の形態に係るエステル交換油脂の好ましい原料油脂として、ラウリン系油脂と非ラウリン系油脂との混合油脂が挙げられる。上記ラウリン系油脂の構成脂肪酸に占めるラウリン酸含有量は、30質量%以上である。ラウリン系油脂として、例えば、ヤシ油、パーム核油、これらを分別して得られるパーム核オレイン及びパーム核ステアリン等の分別油、これらを用いたエステル交換により得られる油脂、及び、これらの硬化油(例えば、パーム核極度硬化油、パーム核オレイン極度硬化油)が挙げられる。本実施の形態においては、これらラウリン系油脂から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
【0026】
上記非ラウリン系油脂の構成脂肪酸に占める炭素数16以上の脂肪酸の含有量は、90質量%を超える。非ラウリン系油脂として、具体的には、菜種油、大豆油、コーン油、紅花油、綿実油、ヒマワリ油、カカオ脂、シア脂、サル脂、及びパーム油等が挙げられる。また、これらに水素添加、分別、及びエステル交換のうちから選択された一又は二以上の処理を適用することにより得られる加工油脂を例示することができる。本実施の形態においては、これらから選ばれる1種又は2種以上を混合して用いることができる。特に、非ラウリン系油脂は、パーム系油脂、及び/または、15〜35質量%(好ましくは20〜30質量%)のジアシルグリセロールを含有し、かつ、その構成脂肪酸に占めるステアリン酸含有量が20〜75質量%(好ましくは30〜70質量%)である油脂、を含むことが好ましい。当該非ラウリン系油脂が、例えば、パーム系油脂と、シア脂、サル脂、あるいは、高オレイン酸ヒマワリ油とステアリン酸とをエステル交換した油脂等の分別油とを、含むことが好ましい。
【0027】
上記パーム系油脂として、パーム油及びパーム油の分別油の何れも使用することができる。具体的には、(1)パーム油の1段分別油であるパームオレイン及びパームステアリン、(2)パームオレインを分別した分別油(2段分別油)であるパームオレイン(パームスーパーオレイン)及びパームミッドフラクション、及び、(3)パームステアリンを分別した分別油(2段分別油)であるパームオレイン(ソフトパーム)及びパームステアリン(ハードステアリン)、等が例示できる。パーム系油脂として、パームステアリン(ヨウ素価5〜40、好ましくは10〜30)、パーム極度硬化油、及びパームステアリン極度硬化油が好ましい。パーム系油脂として、2種以上のパーム系油脂を混合して使用してもよい。
【0028】
上記、ラウリン系油脂と非ラウリン系油脂との混合油脂中の両油脂の混合比は、好ましくは質量比30:70〜60:40であり、より好ましくは質量比35:65〜55:45であり、さらに好ましくは質量比40:60〜50:50である。
【0029】
本発明の実施の形態に係るエステル交換油脂の製造に用いられるエステル交換の方法は、特に制限はない。通常のエステル交換方法を用いることができる。ナトリウムメトキシド等の合成触媒を使用した化学的エステル交換、及び、リパーゼを触媒とした酵素的エステル交換のうちのどちらの方法を用いても本発明の実施の形態に係るエステル交換油脂を製造することができる。
【0030】
酵素的エステル交換は、1,3位特異性の高いエステル交換反応、及び、位置特異性の乏しいエステル交換反応のうちのどちらでも行うことができる。1,3位特異性の高いエステル交換反応を行うことのできるリパーゼ製剤として、リゾプスオリザエ由来及び/又はリゾプスデルマ由来(例えば、国際公開第2009/031679号に記載)、及び、リゾムコールミーハイ由来の固定化リパーゼ(ノボザイムズ社製のリポザイムTLIM、リポザイムRMIM等)等が挙げられる。位置特異性の乏しいエステル交換反応を行うことのできるリパーゼ製剤として、アルカリゲネス属由来リパーゼ(例えば、名糖産業株式会社製のリパーゼQLM、リパーゼPL等)、キャンディダ属由来リパーゼ(例えば、名糖産業株式会社製のリパーゼOF等)等が挙げられる。
【0031】
化学的エステル交換では、例えば、十分に乾燥させた原料油脂に、当該原料油脂に対して0.1〜1質量%のナトリウムメトキシドが添加される。その後、減圧下、80〜120℃で0.5〜1時間攪拌しながらエステル交換反応を行うことができる。エステル交換反応終了後は、水洗等により触媒を除去した後、通常の食用油脂の精製工程で行われる脱色及び脱臭処理を適用することができる。
【0032】
酵素的エステル交換では、例えば、原料油脂に対して0.02〜10質量%、好ましくは0.04〜5質量%のリパーゼ粉末又は固定化リパーゼが当該原料油脂に添加される。その後、40〜80℃、好ましくは40〜70℃で0.5〜48時間、好ましくは0.5〜24時間攪拌しながらエステル交換反応を行うことができる。エステル交換反応終了後、濾過等により反応生成物から触媒を除去する。その後、通常の食用油脂の精製工程で行われる脱色及び脱臭処理を適用することができる。
【0033】
本発明の実施の形態に係るチョコレートに含まれる油脂に占める、本発明の実施の形態に係るエステル交換油脂の含有量は、70質量%以上である。上記含有量は、80〜100質量%であることが好ましく、85〜100質量%であることがより好ましい。
【0034】
本発明においてチョコレートとは、「チョコレート類の表示に関する公正競争規約」(全国チョコレート業公正取引協議会)乃至法規に規定されているチョコレートに限定されない。本発明におけるチョコレートは、食用油脂、並びに糖質及び糖類を主原料とする。主原料には、必要によりカカオ成分(カカオマス、ココアパウダー等)、乳製品、香料、または乳化剤等を加える。かかるチョコレートは、チョコレート製造の工程(混合工程、微粒化工程、精練工程、成形工程、及び、冷却工程等の全部乃至一部)を経て製造される。また、本発明におけるチョコレートは、ダークチョコレート及びミルクチョコレートの他に、ホワイトチョコレート及びカラーチョコレートも含む。
【0035】
また、本発明においてノンテンパー型チョコレートとは、テンパリング、及び、その代替であるシーディングのうちのいずれも行わずに製造されたチョコレートを意味する。本発明の実施の形態に係るチョコレートは、好ましくはノンテンパー型チョコレートである。
【0036】
本発明においてチョコレートに含まれる油脂とは、チョコレート中の全油脂分のことである。この全油脂分には、配合される油脂の他に、含油原料(カカオマス、ココアパウダー、全脂粉乳等)中の油脂(ココアバター、乳脂等)も含まれる。
【0037】
本発明の実施の形態に係るチョコレートに使用する本発明の実施の形態に係るエステル交換油脂以外の原料油脂は、その配合量が、チョコレートに含まれる油脂中の上記エステル交換油脂の含有量が70質量%以上であるという条件を満たす限り、特に制限されることはない。通常の食用油脂、例えば、ココアバター、パーム油、パーム分別油(パームオレイン、パームスーパーオレイン、パーム中融点部等)、シア脂、シア分別油、サル脂、サル分別油、イリッペ脂、コクム脂、マンゴー脂、マンゴー分別油、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ひまわり油、米油、コーン油、ゴマ油、オリーブ油、牛脂、豚脂、及び乳脂などの動植物油脂の中から1種以上を選択して使用することができる。あるいは、これら動植物油脂に、混合、分別、エステル交換、及び水素添加等のうちの1種以上の処理が適用されることにより得られる加工油脂等の中から1種以上を選択して使用することができる。
【0038】
本発明の実施の形態に係るチョコレートに含まれる油脂中のココアバター含有量は、好ましくは2〜10質量%であり、より好ましくは2〜8質量%であり、さらに好ましくは2〜6質量%である。ココアバター含有量が上記範囲内にあると、風味がよく、光沢の優れたチョコレートが得られる。
なお、本発明においてココアバターは、カカオマス及びココアパウダー等の含油原料由来のココアバターも含む。
【0039】
本発明の実施の形態に係るチョコレート中の油脂含有量は、好ましくは28〜68質量%、より好ましくは31〜60質量%、さらに好ましくは33〜55質量%である。油脂含有量が上記範囲内にあると、融解した油脂結晶を含む溶融状態のチョコレートが適度な流動性示す。このようなチョコレートは、クッキー及びビスケット等の被覆用途に好適である。
【0040】
本発明の実施の形態に係るチョコレートの製造には、油脂以外にも、チョコレートに一般的に配合される原料を使用することができる。例えば、ショ糖(砂糖、粉糖)、乳糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、還元澱粉糖化物、液糖、酵素転化水飴、異性化液糖、ショ糖結合水飴、還元糖ポリデキストロース、オリゴ糖、ソルビトール、還元乳糖、トレハロース、キシロース、キシリトース、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、ラフィノース、及びデキストリンなどの糖類を使用することができる。また、他の原料の例として、全脂粉乳及び脱脂粉乳等の乳製品、カカオマス及びココアパウダー等のカカオ成分、大豆粉、大豆蛋白、果実加工品、野菜加工品、抹茶粉末、及びコーヒー粉末等の各種粉末、ガム類、澱粉類、レシチン、リゾレシチン、酵素分解レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等の乳化剤、酸化防止剤、着色料、及び香料を挙げることができる。
【0041】
本発明の実施の形態に係るチョコレートを、テンパリング、及び、その代替であるシーディングのうちのいずれも行わずに製造することができる。ここでシーディングとは、テンパリングを行う替りに、ココアバターあるいはココアバター代替脂(CBE)の安定型結晶を添加する方法である。本発明の実施の形態に係るチョコレートは、例えば、油脂、カカオ成分、及び糖類を原料として、混合工程、微粒化工程(リファイニング)、精練工程(コンチング)、成形工程、及び冷却工程を経て製造することができる。
【0042】
本発明の実施の形態に係るチョコレートは、良好な口どけを有し、かつ、良好な光沢を長期間維持する。また、その製造工程で煩雑なテンパリングが必要とされないので、チョコレート原料の取扱いが容易である。本発明の実施の形態に係るチョコレートは、ブロック状、板状、及び粒状等に容易に成型される。本発明の実施の形態に係るチョコレートは、型抜きされたチョコレート塊としてそのまま食する他、製菓製パン製品、例えば、パン、ケーキ、洋菓子、焼き菓子、ドーナツ、及びシュー菓子等の製造に用いられる、コーティング材、フィリング材、及び、生地へ混ぜ込むチップ材等として使用できる。
【実施例】
【0043】
次に実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
〔油脂の脂肪酸分析方法〕
油脂の脂肪酸の分析は、AOCS Ce1f−96に準じて、ガスクロマトグラフィー法を用いた測定により、実施した。
〔油脂のジアシルグリセロール分析方法〕
油脂のジアシルグリセロールの分析は、AOCS CD 11B−91に準じて行った。
【0044】
〔エステル交換油脂の原料油脂〕
エステル交換油脂の原料油脂として以下の油脂を使用した。
(油脂1) RBDパームステアリン、ヨウ素価12、マレーシアISF社製
(油脂2) RBDパームステアリン、ヨウ素価20、マレーシアISF社製
(油脂3) RBDパームステアリン、ヨウ素価32、マレーシアISF社製
(油脂4) RBDパーム核ステアリン、ヨウ素価7、構成脂肪酸に占めるラウリン酸の含有量53質量%、マレーシアISF社製
(油脂5) RBDパーム核油、ヨウ素価17、構成脂肪酸に占めるラウリン酸の含有量44質量%、マレーシアISF社製
(油脂6) RBDシアオレイン、ヨウ素価65、DG含有量24質量%、構成脂肪酸に占めるステアリン酸の含有量30質量%、マレーシアISF社製
(油脂7) StOSt脂肪分別ステアリン(高オレイン酸ヒマワリ油に1,3選択性リパーゼを用いてステアリン酸をトリグリセロールの1,3位に選択的に結合させたエステル交換油脂から、高融点部及び低融点部を除去することにより、カカオ脂代替脂としてのStOSt脂肪(St:ステアリン酸、O:オレイン酸)を生産する過程で副生する高融点部(ステアリン部))、DG含有量22質量%、構成脂肪酸に占めるステアリン酸の含有量69質量%、マレーシアISF社製
(油脂8) RBDパーム核オレイン極度硬化油、ヨウ素価1以下、マレーシアISF社製
(油脂9) RBDパームステアリン極度硬化油、ヨウ素価1以下、DG含有量3質量%、構成脂肪酸に占めるステアリン酸の含有量34質量%、マレーシアISF社製
【0045】
〔エステル交換油脂の製造〕
表1及び2に従って混合することにより得られた油脂を用いて以下の方法により、エステル交換反応を実施した。常法により、得られた反応生成物の精製を行うことにより、実施例1〜5及び比較例1〜2のエステル交換油脂を製造した。表1及び2に、各エステル交換油脂の、各脂肪酸含有量(条件(a)〜(e))、特定の脂肪酸含有量比(条件(f))及びジアシルグリセロール含有量(条件(g))を記載した。
<化学的エステル交換方法>
常法に従い、十分に乾燥させた原料油脂に対して0.45質量%のナトリウムメトキシドを当該原料油脂に添加した。その後、減圧下、115℃で0.5時間攪拌しながら反応を行った。原料油脂に対して10質量%の10質量%クエン酸水溶液を添加することにより、反応を終了させた。
<酵素的エステル交換方法>
(粉末リパーゼ組成物1の調製)
天野エンザイム社の商品:リパーゼDF“Amano”15−K(リパーゼDともいう)の酵素溶液(150000U/ml)を用意した。また、脱臭全脂大豆粉末(脂肪含有量が23質量%、商品名:アルファプラスHS−600、日清コスモフーズ(株)社製)10%水溶液をオートクレーブ滅菌した後、室温程度に冷却した。上記酵素溶液に3倍量の上記脱臭全脂大豆粉末水溶液を攪拌しながら加えた。得られた混合物のphを、0.5N NaOH溶液で7.8に調整した。その後、噴霧乾燥(東京理科器械(株)社、SD−1000型)により、粉末リパーゼ組成物1(90質量%以上が粒径1〜100μmである)が得られた。
(エステル交換方法)
原料油脂に対して0.3質量%の上記粉末リパーゼ組成物1を当該原料油脂に添加した。その後、70℃で8時間攪拌しながら反応を行った。エステル交換反応終了後、濾過により反応生成物から触媒が除去された。
【0046】
【表1】
表中の数値は条件(f)を除き質量%
【0047】
【表2】
表中の数値は条件(f)を除き質量%
【0048】
〔チョコレートの製造〕
表3の配合に従って、常法(混合、微粒化、精練、及び冷却)により、ただし、テンパリングを行わずに、実施例1〜7及び比較例1〜3のエステル交換油脂をそれぞれ使用して、実施例8〜14及び比較例4〜6のチョコレート(ノンテンパー型チョコレート)を製造した。
【0049】
【表3】
チョコレートの油脂含有量36.5質量%
【0050】
〔チョコレートの評価〕
以下の評価方法及び評価基準に従って、実施例8〜14及び比較例4〜6のチョコレートの有する口どけ及び光沢を評価した。評価結果を表4及び5に示した。
【0051】
(口どけの評価方法及び評価基準)
「評価方法」
以下の評価基準に従って、試料を試食した5名の専門パネラが総合的に評価した。
「評価基準」
1:良好
2:若干口残り感がある
3:口残り感がある
【0052】
(光沢の評価方法及び評価基準)
「評価方法」
チョコレートでコーティングされたパイを20℃で、1、3、及び6ヵ月保存した。その後、パイ表面のチョコレートの光沢を以下の評価基準に従って、5名の専門パネラが総合的に評価した。
「評価基準」
1:光沢あり
2:若干光沢がなくなる
3:若干くすむ
4:くすむ
5:ブルーム発生
【0053】
【表4】
【0054】
【表5】