特許第6076110号(P6076110)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6076110不快度推定装置及び不快度推定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6076110
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】不快度推定装置及び不快度推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/00 20170101AFI20170130BHJP
   H04N 5/57 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   G06T7/00 130
   H04N5/57
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-21660(P2013-21660)
(22)【出願日】2013年2月6日
(65)【公開番号】特開2014-153834(P2014-153834A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2016年1月4日
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100064414
【弁理士】
【氏名又は名称】磯野 道造
(74)【代理人】
【識別番号】100111545
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 悦夫
(72)【発明者】
【氏名】蓼沼 眞
【審査官】 板垣 有紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−238121(JP,A)
【文献】 特開2011−239295(JP,A)
【文献】 特開平11−234583(JP,A)
【文献】 特開2010−154343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 7/00
H04N 5/57
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
映像における輝度変化に対する不快度を推定する不快度推定装置であって、
前記映像に含まれる画像のブロックごとの輝度値であるブロック輝度値を算出するブロック輝度値算出部と、
算出された前記ブロック輝度値に基づいて、映像における被写体の1フレーム間の移動ベクトルを検出する移動ベクトル検出部と、
前記ブロックにおける前記ブロック輝度値と、1フレーム前の前記画像において検出された前記移動ベクトルで補正したブロックにおける前記ブロック輝度値と、の差分であるフレーム間輝度差分値に基づいて、前記ブロックのそれぞれにおける輝度変化のマグニチュードであるブロック別マグニチュードを計測するブロック別マグニチュード計測部と、
算出された前記ブロック別マグニチュードを全ブロックで所定計測間隔のフレーム数にわたり加算することによって、不快度を算出する不快度算出部と、
を備えることを特徴とする不快度推定装置。
【請求項2】
前記ブロック別マグニチュード計測部は、前計フレーム間輝度差分値を周波数感度補正フィルタにより補正した後に自乗することよって、前記ブロック別マグニチュードを計測する
ことを特徴とする請求項1に記載の不快度推定装置。
【請求項3】
さらに、各ブロックの前記ブロック輝度値を前記所定計測間隔のフレーム数にわたり全ブロックで平均することによって、前記所定計測間隔中の全画面の平均輝度を算出する平均輝度算出部を備え、
前記ブロック別マグニチュード計測部は、前記平均輝度に基づいて前記不快度を補正する平均輝度補正部とを備える
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の不快度推定装置。
【請求項4】
さらに、前計測時点での補正後不快度に0よりも大きく1よりも小さい定数を乗じ、前記現計測時点での不快度に加算することによって、前記現計測時点での補正後不快度を不快度として得る不快度補正部を備える
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の不快度推定装置。
【請求項5】
さらに、前記不快度を対数変換して推定不快度として出力する対数変換部を備える
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の不快度推定装置。
【請求項6】
映像における輝度変化に対する不快度を推定するためにコンピュータを、
前記映像に含まれる画像のブロックごとの輝度値であるブロック輝度値を算出するブロック輝度値算出部、
算出された前記ブロック輝度値に基づいて、映像における被写体の1フレーム間の移動ベクトルを検出する移動ベクトル検出部、
前記ブロックにおける前記ブロック輝度値と、1フレーム前の前記画像において検出された前記移動ベクトルで補正したブロックにおける前記ブロック輝度値と、の差分であるフレーム間輝度差分値に基づいて、前記ブロックのそれぞれにおける輝度変化のマグニチュードであるブロック別マグニチュードを計測するブロック別マグニチュード計測部、及び、
算出された前記ブロック別マグニチュードを全ブロックで所定計測間隔のフレーム数にわたり加算することによって、不快度を算出する不快度算出部、
として機能させることを特徴とする不快度推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頻繁に輝度変化する映像に対する不快度を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭において放送、録画映像、パーソナルコンピュータ映像等を視聴する際のディスプレイが大画面化するのに伴い、点滅等の頻繁な輝度変化が広い面積で発生している映像によって誘発される不快感が増大する傾向があり、場合によっては、視聴者が光感受性発作等を起こして健康被害に至る例もある。
【0003】
公共放送及び民間放送連盟加盟放送局から放送される映像では、このような健康被害を予防するために、ITU-RのBT.1702で勧告化された「Guidance for the reduction of photosensitive epileptic seizures caused by television」に準拠した「アニメーション等の映像手法に関するガイドライン」に則って、生放送及び速報性の高いニュース番組を除き、最大輝度の10%を超える輝度差を伴う輝度反転が1秒間に7回以上生じている面積が全画面の25%を超えることが無いように制限をかけている。
【0004】
映像がこの規準を満たしているかどうかを判定する装置は、国内外から多数発表及び販売されているが、それらはいずれも、前記した条件を超えることで光感受性発作に至る可能性の高い危険な映像を検出するだけであり、たとえば「全画面で輝度差が9.99%の輝度反転が1秒間に30回生じている映像」は「安全」であると判定されるが、「危険」であると判定される「全画面の25.01%の部分で輝度差が10.01%の輝度反転が1秒間に7回生じている映像」よりも遥かに視聴者の不快感の大きさ(不快度)は高いということが起きる。
【0005】
このような事象を緩和するために、英国CRS社製「Harding FPA」が、光点滅映像解析装置として全世界の放送局等で最も使用されていて、実質的に国際標準装置となっている。英国CRS社製「Harding FPA」では、映像の「危険度」をフレーム単位で表示し、「危険」と判定されなくても「注意」を発する機能が実装されているが、前記2例の映像の「危険度」に関しては、後者が「危険」、前者が「危険」に達しない「注意」と判定されることに変わりない。
【0006】
そこで、本出願人は、映像の良否を判定する基準として視聴者の不快感を数値化した「不快度」を用いることとし、この不快度を推定する不快度推定装置を発明した(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−238121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1の実施例では多段階(文献内の例示では16段階)の基準でそれぞれ判定を行う構成となっており、不快度推定の判定処理プロセス数は前記した「Harding FPA」の10倍以上になるため、特許文献1に記載の不快度推定装置を専用ハードウェアで構築する場合、論理ゲート数が数百万ゲートの高額なLSIが必要となり、装置自体の価格も高くなってしまう。また、ソフトウェア化した当該プロセスをコンピュータに実装して特許文献1に記載の不快度推定装置を構成する場合も、処理プロセス数の多さにより、実時間処理を実現するにはハイスペックCPUを複数搭載する高性能機が必要になり、やはり価格は高くなってしまう。
【0009】
さらに、特許文献1の実施例では、明暗の最大輝度と最小輝度との差のみを基準に不感度を推定しているため、明暗が正弦波状に変化した場合も矩形波状に変化した場合も同じ不快度と判定されるが、実際の評定結果では矩形波状に変化する場合の不快度の方が高く、不快度推定結果に誤差が存在する。また、画面が表しうる最大輝度に対する当該時点の輝度の比が1秒間に
0.3→0.1→0.2→0.1→0.3→0.2→0.3
のように遷移する場合、特許文献1の実施例では、判定輝度差を0.09とすると6回の輝度反転、判定輝度差を0.20とすると2回の輝度反転があったと見なされ、より不快度の高い「輝度差0.09で輝度反転6回」の不快度が推定結果とされるが、実際の評定結果ではさらに不快度が高い「輝度差0.164で輝度反転6回」する場合の不快度と同等になっており、ここでも不快度推定結果に明らかな誤差が存在する。
【0010】
このように、安価な機材を用いて、複雑で頻繁な輝度変化がある映像に対する不快度を実時間でかつ高精度に推定できる技術は未だ存在しない。
【0011】
本発明は、前記の事情を鑑みて創案されたものであり、複雑で頻繁に輝度変化する映像に対する不快度を推定するに際し、推定精度を高めた上で処理プロセス数を低減し、高速化、低廉化及び高精度化を実現することが可能な不快度推定装置及び不快度推定プログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明の不快度推定装置は、映像における輝度変化に対する不快度を推定する不快度推定装置であって、ブロック輝度値算出部と、移動ベクトル検出部と、ブロック別マグニチュード計測部と、不快度算出部と、を備えることを特徴とする。
【0013】
かかる構成により、不快度推定装置は、前記ブロック輝度値算出部によって、前記映像に含まれる画像のブロックごとの輝度値であるブロック輝度値を算出し、前記移動ベクトル検出部によって、算出された前記ブロック輝度値に基づいて、映像における被写体の1フレーム間の移動ベクトルを検出し、ブロック別マグニチュード計測部によって、前記ブロックにおける前記ブロック輝度値と、1フレーム前の前記画像において検出された前記移動ベクトルで補正したブロックにおける前記ブロック輝度値と、の差分であるフレーム間輝度差分値に基づいて、前記ブロックのそれぞれにおける輝度変化のマグニチュードであるブロック別マグニチュードを計測し、不快度算出部によって、算出された前記ブロック別マグニチュードを全ブロックで所定計測間隔のフレーム数にわたり加算することによって、不快度を算出する。この不快度推定装置では、複雑で頻繁に輝度変化する映像に対する不快度を推定するに際し、推定精度を高めた上で処理プロセス数を低減し、高速化、低廉化及び高精度化を実現することができる。
【0014】
また、不快度推定装置は、前記ブロック別マグニチュード計測部によって、前記フレーム間輝度差分値を周波数感度補正フィルタにより補正した後に自乗することよって、前記ブロック別マグニチュードを計測する構成であってもよい。
【0015】
また、不快度推定装置は、平均輝度算出部をさらに備え、不快度推定装置の前記ブロック別マグニチュード計測部は、平均輝度補正部を備える構成であってもよい。かかる構成により、不快度推定装置は、前記平均輝度算出部によって、各ブロックの前記ブロック輝度値を前記所定計測間隔のフレーム数にわたり全ブロックで平均することによって、前記所定計測間隔中の全画面の平均輝度を算出し、前記平均輝度補正部によって、前記平均輝度に基づいて前記不快度を補正する。この不快度推定装置では、輝度変化のコントラストによる影響を考慮した不快度を得ることができる。
【0016】
また、不快度推定装置は、不快度補正部をさらに備える構成であってもよい。かかる構成により、不快度推定装置は、前計測時点での補正後不快度に0よりも大きく1よりも小さい定数を乗じ、前記現計測時点での不快度に加算することによって、前記現計測時点での補正後不快度を不快度として得る。この不快度推定装置では、時間蓄積効果を考慮した不快度を得ることができる。
【0017】
また、不快度推定装置は、対数変換部をさらに備える構成であってもよい。かかる構成により、不快度推定装置は、前記対数変換部によって、前記不快度を対数変換して推定不快度として出力する。この不快度推定装置では、心理評価値との対応がほぼ線形となる推定不快度を得ることができる。
【0018】
また、本発明は、コンピュータを前記した不快度推定装置として機能させる不快度推定プログラムとしても具現化可能である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、推定精度を高めた上で処理プロセス数を低減し、高速化、低廉化及び高精度化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係る不快度推定装置を示すブロック図である。
図2】フレーム間輝度差による不快度の周波数感度特性を示す図である。
図3】輝度差と輝度反転回数との組み合わせによる不快度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら説明する。図1に示すように、本発明の実施形態に係る不快度推定装置1は、映像における動きベクトルに基づいて輝度変化に対する不快度を推定するものであり、機能部として、ブロック輝度値算出部10と、移動ベクトル検出部20と、ブロック別マグニチュード計測部30と、平均輝度算出部40と、不快度算出部50と、不快度補正部60と、対数変換部70と、を備える。
【0022】
<ブロック輝度値算出部>
ブロック輝度値算出部10は、外部装置等から映像信号aが入力されるものであって、映像に含まれる画像を分割した複数のブロックごとにブロック輝度値を算出するものであって、画素輝度値決定部11と、ブロック輝度値決定部12と、を備える。
【0023】
画素輝度値決定部11は、画像の各画素の輝度値である画素輝度値を決定し、ブロック輝度値決定部12へ出力する。本実施形態において、画素輝度値決定部11は、取得された映像信号に含まれるRGB値に基づいて、画素ごとの輝度値である画素輝度値Yを決定し、決定結果をブロック輝度値決定部12へ出力する。映像信号においてRGB方式が採用されている場合には、画素輝度値Yは、映像信号に含まれる一画素のR値(0〜255)、G値(0〜255)及びB値(0〜255)を用いて、以下のように表される(ハイビジョン映像の場合)。
Y=0.212・R+0.701・G+0.087・B
【0024】
ブロック輝度値決定部12は、決定された画素輝度値に基づいて、ブロック輝度値を決定し、移動ベクトル検出部20、ブロック別マグニチュード計測部30及び平均輝度算出部40へ出力する。本実施形態において、ブロック輝度値決定部12は、標準観視条件での人間の視覚系において輝度変化に最も敏感な空間周波数の半周期に近い正方画素(水平・垂直とも6〜9画素程度)のブロックごとにブロック輝度値を決定する。ここで、標準観視条件とは、例えば、ハイビジョン映像の場合において、画面の高さの3倍の距離から視聴するような視聴条件のことを言う。本実施形態において、ブロック輝度値決定部12は、ブロックに含まれる画素の画素輝度値Yの平均値(例えば、相加平均値)を算出することによって、当該平均値をブロック輝度値として決定する。なお、ブロック輝度値決定部12によるブロック輝度値の決定手法は、前記したものに限定されず、例えば、ブロックの中心画素の画素輝度値Yをブロック輝度値として採用する構成であってもよい。
【0025】
<移動ベクトル検出部>
移動ベクトル検出部20は、算出された前記ブロック輝度値に基づいて、映像における被写体の1フレーム間の移動ベクトルを検出し、ブロック別マグニチュード計測部30へ出力する。
本実施形態において、移動ベクトル検出部20は、連続する2画像間に関して、特定サイズのマクロブロック(マクロブロックのサイズは、例えば前記ブロックが8×8から16×16集まった程度)において、ブロックマッチングを用いて直流分を除去した各画素の輝度値のフレーム間差分の合計(絶対値和又は自乗和)が最小となるブロック移動量を移動ベクトルとして検出する。移動ベクトルの探索範囲は、上下左右両方向とも、視覚系で十分に追従可能な範囲(画面高の1/10〜1/5程度)に制限することが望ましい。
【0026】
<ブロック別マグニチュード計測部>
ブロック別マグニチュード計測部30は、ブロックにおけるブロック輝度値と、1フレーム前の画像において検出された移動ベクトルで補正したブロックにおけるブロック輝度値と、の差分であるフレーム間輝度差分値に基づいて、ブロックのそれぞれにおける輝度変化のマグニチュードであるブロック別マグニチュードを計測するものであって、ブロックごとに、ブロック別フレーム間輝度差決定部31(31−1,31−2,…,31−n)と、ブロック別周波数感度補正フィルタ32(32−1,32−2,…,32−n)と、ブロック別補正輝度差自乗部33(33−1,33−2,…,33−n)と、のセットを備える。
【0027】
ブロック別フレーム間輝度差決定部31は、現フレーム(m枚目の画像)において対応するブロックのブロック輝度値と、前フレーム(m−1枚目の画像)において移動ベクトル検出部20で検出された移動ベクトルで示されるブロックのブロック輝度値との差分値、すなわちフレーム間輝度差を算出し、ブロック別周波数感度補正フィルタ32へ出力する。
【0028】
ブロック別周波数感度補正フィルタ32は、各ブロックにおけるフレーム間輝度差の遷移を、図2に示す不快度の周波数感度特性で補正し、得られたブロック別補正輝度差をブロック別補正輝度差自乗部33へ出力する。ここで、フレーム間輝度差は、輝度振幅に周波数を乗じた値に相当し、図2の周波数感度特性が、周波数の平方根で除した感度で表されているので、この補正されたフレーム間輝度差であるブロック別補正輝度差は、周波数の平方根を乗じた輝度振幅を周波数感度補正した値に相当する。図2の周波数感度補正を行うブロック別周波数感度補正フィルタ32は、8タップ程度の無限インパルス応答(IIR)型デジタルフィルタ、例えば、4段の低域通過型フィルタと4段の高域通過型フィルタとを適宜配列して直列に接続することによって実現することができる。
【0029】
ブロック別補正輝度差自乗部33は、ブロック別補正輝度差を自乗することによって、各ブロックにおける輝度振幅の自乗に周波数を乗じた値、すなわち地震におけるマグニチュードに相当する値(以下、ブロック別マグニチュードと称する)を算出し、不快度算出部50へ出力する。このブロック別マグニチュードは、不快度の周波数感度特性(図2の特性を自乗した後に周波数を乗じた特性)で補正されたものとなっている。
【0030】
ここで「マグニチュード」は、網膜を地表に置き換えるとともに輝度変化を地表の揺れに置き換えたときの「地震のマグニチュード」に相当するものであり、本発明では、地震の揺れに相当する輝度変化に対して周波数感度補正を行うことによって、地震の体感震度に相当する不快度が導出される。
マグニチュードは、体感値と線形に対応させるため、最終的には対数変換した値で表されるが、算出過程では対数変換前の値を用いるため、本発明では、対数変換前のマグニチュードを「マグニチュード(ブロック別マグニチュード、総和マグニチュード)」と呼び、不快度についても同様に、対数変換前の不快度を「不快度」と呼ぶ。
【0031】
<平均輝度算出部>
平均輝度算出部40は、ブロック輝度値決定部12によって決定された全ブロックのブロック輝度値に基づいて、各ブロックのブロック輝度値を所定計測間隔(たとえば1秒間)のフレーム数にわたり全ブロックで平均することで、所定計測間隔中の全画面の平均輝度を算出し、不快度算出部50へ出力する。
【0032】
<不快度算出部>
不快度算出部50は、ブロック別マグニチュード計測部30によって計測されたブロック別マグニチュードに基づいて不快度を算出するものであって、総和マグニチュード算出部51と、平均輝度補正部52と、を備える。
【0033】
総和マグニチュード算出部51は、ブロック別マグニチュード計測部30から出力された各ブロックのブロック別マグニチュードを、前記所定計測間隔のフレーム数にわたり全ブロックで加算することによって、総和マグニチュードを算出し、平均輝度補正部52へ出力する。
【0034】
平均輝度補正部52は、輝度変化のコントラストによる影響を考慮した不快度を得るためのものであって、平均輝度算出部40から出力された平均輝度の値を用いて総和マグニチュード算出部51で得られた総和マグニチュードを補正することにより、現計測時点での不快度を算出する。
本実施形態において、平均輝度補正部52は、100%白の輝度に対する前記平均輝度の比の逆数をγ乗(0≦γ≦1)した値を前記総和マグニチュードに乗算することによって、不快度を算出する。すなわち、平均輝度が低い、高コントラストな輝度変化ほど、補正後の値である不快度は大きくなる。ただし、暗部のノイズを強調して不快度が大きいと判定してしまうことを防ぐために、前記平均輝度の最低値を100%白の輝度値の2%程度にとどめるように設定されることが望ましい。
【0035】
<不快度補正部>
不快度補正部70は、時間蓄積効果を考慮した不快度を得るためのものであって、前計測時点での補正後不快度が大きいほど現計測時点での補正後不快度が大きくなるように、不快度算出部50から出力された現計測時点での不快度を補正して補正後不快度を算出し、対数変換部70へ出力する。本実施形態において、不快度補正部60は、加算部61、記憶部62及び乗算部63を備えており、前計測時点での補正後不快度を記憶部62で1計測区間分だけ記憶しておき、現計測時点において、前計測時点での補正後不快度に乗算部63で定数α(0<α<1)を乗じたものを、加算部61で不快度算出部50から出力された現時点での不快度に加算することで実現される。ここで、定数αの値は明滅が長時間継続する場合の不快度の蓄積効果を表すもので、計測間隔が1秒である場合、0.84程度とした場合に不快度の推定誤差が最小となる。なお、不快度補正部60は、1回目の補正時には、前回の出力が記憶部62に記憶されていないため、無補正の不快度を出力する。
【0036】
<対数変換部>
対数変換部60は、推定不快度と心理評価値との対応がほぼ線形となるように、不快度補正部60から出力された補正後不快度の対数値を計算し、推定不快度bとして出力する。
【0037】
特許文献1に記載の発明では、図3の表に基づき、明暗輝度差(輝度振幅)と輝度反転回数(周波数の2倍)との組み合わせによって不快度を算出していたが、この表の値を用いて本実施形態におけるブロック別マグニチュードと図3に示す不快度との関係を調べた結果、いずれの輝度振幅と周波数との組み合わせにおいても、ブロック別マグニチュードが同じ値であれば、評定値の90%信頼区間の範囲内で同じ不快度となることが確認されている。したがって、輝度変化の最大輝度、最小輝度及び輝度反転周期が全て一定である場合、本実施形態による推定不快度は、特許文献1に記載の発明による推定不快度と一致する。それに加えて、本実施形態に係る不快度推定装置1は、前記課題において示した、特許文献1に記載の発明では正確な不快度を推定することができなかった複雑な輝度遷移をする輝度変化に対しても、定常的な輝度変化における場合と同精度で不快度を推定することができる。
【0038】
また、特許文献1に記載の発明におけるブロック別不快度算出部では、ブロックごとに多段階の明暗輝度差と輝度反転回数との組み合わせによる不快度を明暗輝度差の段階の数だけ算出するため、各ブロック別不快度算出部では1つ明暗輝度差に必要な処理ステップ数(装置の場合は回路規模)の段階数倍を必要としていたが、本実施形態に係る不快度推定装置1は、マグニチュードが既に不快度に相当するため、ブロック別マグニチュード計測部30では1段階分の処理を行えばよく、総合的な処理ステップ数(装置の場合は回路規模)を特許文献1に記載の不快度推定装置の十分の一以下に抑えることができる。すなわち、本実施形態に係る不快度推定装置1は、不快度の推定精度を高めた上で処理プロセス数を低減し、高速化、低廉化及び高精度化を実現することができる。
【0039】
また、不快度推定装置1は、映像コンテンツ制作者によって制作段階で用いられる場合には、映像の良否の判定、映像に含まれる頻繁な輝度変化をどの程度まで低減すべきかの目標設定等に好適な不快度を映像コンテンツ制作者に提示することができるので、制作に要する時間、労力及びコストの削減が図られるだけでなく、供給される映像コンテンツの安全性及び快適性も高められる。
【0040】
また、不快度推定装置1は、映像の視聴者側で用いられる場合には、頻繁な輝度変化に関して安全、快適であることを保証せずに制作、流通された映像に対して、視聴前又は視聴中の表示直前に不快度を推定してディスプレイ又はスピーカへ出力することによって、視聴時に警告を発することができるので、映像酔いによる健康被害及び不快感の誘発を防止することが可能になる。
【0041】
以上、本発明の実施形態について実施形態を参照して説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更可能である。例えば、本発明は、コンピュータを前記不快度推定装置1として機能させる不快度推定プログラムとして具現化することも可能である。また、対数変換部70によって算出された不快度が閾値を超えた場合に、映像が不快な輝度変化を含んでいると判定し、判定結果をディスプレイ等の外部装置へ出力する構成であってもよい。また、不快度を線形的な知覚量に近似させる必要が無い場合には、対数変換部70を省略し、不快度補正部60によって算出された補正後不快度を不快度として出力することも可能である。また、映像を修正する際には、時間蓄積の無い短時間でのマグニチュードを把握する必要があるので、不快度補正部60及び対数変換部70を省略し、不快度算出部50によって算出された不快度を出力することも可能である。また、不快度補正部60を省略し、不快度算出部50によって算出された不快度を対数変換部70が対数変換することによって不快度を算出する構成も可能である。すなわち、本発明の不快度推定装置1は、不快度の用途等に応じて、出力される不快度を変更することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 不快度推定装置
10 ブロック輝度値算出部
20 移動ベクトル検出部
30 ブロック別マグニチュード計測部
40 平均輝度算出部
50 不快度算出部
60 不快度補正部
70 対数変換部
図1
図2
図3