特許第6076644号(P6076644)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6076644
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】冷菓シェルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23G 9/04 20060101AFI20170130BHJP
【FI】
   A23G9/04
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-173131(P2012-173131)
(22)【出願日】2012年8月3日
(65)【公開番号】特開2014-30386(P2014-30386A)
(43)【公開日】2014年2月20日
【審査請求日】2015年7月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006116
【氏名又は名称】森永製菓株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(72)【発明者】
【氏名】野口 裕介
【審査官】 長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第06399134(US,B1)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0164403(US,A1)
【文献】 特開昭64−023853(JP,A)
【文献】 特開平02−299552(JP,A)
【文献】 特開2010−046015(JP,A)
【文献】 特開平04−341143(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G
CAplus/FSTA/FROSTI/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷菓ミックスをモールド内面に沿って凍結固化させることを含む、冷菓シェルの製造方法であって、
冷菓ミックスを冷却しながら撹拌すること、及び/又は、2mm以下の径の微細氷結晶を冷却下、糖液と混合すること、により、冷菓ミックス中に、2mm以下の径の微細氷結晶を分散させる微細結晶分散工程と、
前記微細氷結晶を分散させた冷菓ミックスを、モールド内に充填する充填工程と、を含み、
前記微細結晶分散工程と前記充填工程との間で、前記微細氷結晶の分散状態を維持することを特徴とする、冷菓シェルの製造方法。
【請求項2】
前記充填工程における冷菓ミックスの充填温度が−1℃以下であることを特徴とする、請求項1に記載の冷菓シェルの製造方法。
【請求項3】
冷菓ミックスに30%以下のオーバーランを導入する工程を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の冷菓シェルの製造方法。
【請求項4】
前記微細氷結晶の分散状態の維持は、冷菓ミックスの温度を−1.0℃以下に維持することにより行う請求項1〜3の何れか一項に記載の冷菓シェルの製造方法。
【請求項5】
前記冷却撹拌前の冷菓ミックスの固形分濃度は、5〜35%である、請求項1〜のいずれかに記載の冷菓シェルの製造方法。
【請求項6】
前記充填工程の後、モールド内面に形成された冷菓シェルの内部の未凍結部分を除去する除去工程を含むことを特徴とする、請求項1〜の何れか一項に記載の冷菓シェルの製造方法。
【請求項7】
請求項に記載の冷菓シェルの製造方法により製造された冷菓シェルを有する冷菓の製造方法であって、冷菓シェルの内部に、前記冷菓ミックスと異なる菓子原料を挿入する挿入工程を含む、冷菓の製造方法。
【請求項8】
前記菓子原料は、冷菓ミックスであり、挿入した菓子原料を凍結固化する固化工程をさらに行う、請求項に記載の冷菓の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷菓で形成されたシェル(冷菓シェル)の製造方法、及び冷菓シェルを有する冷菓の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
夏季には、比較的水分の多いさっぱりしたタイプの冷菓が人気である。一方で、近年では、さっぱりした中にも、軟らかく滑らかな食感、味わい等の高い嗜好性が要求されている。
ところで、従来、複数の異なる組成の冷菓を組み合わせた冷菓が知られている。例えば、特許文献1には、冷菓で形成されたシェルの中にチョコレート層と他の冷菓を包含する冷菓が記載されている。また、特許文献2には、糖類とゼラチンを含む水溶液を凍結させてなるセンターと、センターの外周に被覆された氷層からなるシェルと、シェルの外周に被覆された、固化した油脂を主成分とするコーティング層を有する冷菓が記載されている。
【0003】
他方、特許文献3に記載されるように、半凍結状態の冷菓ミックスを収納容器に充填し、凍結する冷菓の製造方法は公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−124354号公報
【特許文献2】特開2003−79319号公報
【特許文献3】特開平6−62752号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1や特許文献2に記載されている、従来の冷菓シェルを有するタイプの冷菓は、冷菓シェルの強度を一定に維持しようとして水分量を高めに設定すると、製造時に、冷菓シェル内に針状結晶が発生するという問題があった。冷菓に針状結晶が存在すると、咀嚼する際に、針状結晶の配向方向に沿って冷菓がブロック状に割れ、固く軋むような触感(キシキシした食感)が発現してしまうという問題があった。
また、このような冷菓シェルの内部に比較的軟らかい食感のアイスミルクやアイスクリームを包含させようとすると、冷菓シェルの硬い食感と内部の軟らかい食感がかい離し、味の調和を感じにくいという問題があった。
【0006】
ところで、特許文献3の冷菓の製造方法は、比較的大きな氷結晶を生成することにより、シャリシャリとした食感を有する冷菓を提供しようとするものである。しかしながらこのような方法をそのまま冷菓シェルに適用しようとしても、成形性が悪く、製品として流通させることができない。また、冷菓シェルの内部にオーバーランが比較的高く軟らかい食感のアイスミルクやアイスクリームを包含させようとすると、これとの食感がかい離してしまい、嗜好性にも劣るものとなってしまう。
【0007】
上記のような背景において、針状結晶に起因するキシキシとした食感が抑制された冷菓シェルを製造する技術が求められていた。より具体的にいうと、針状結晶の発生を抑制しながら適度な硬さを有する冷菓シェルを製造する技術が求められていた。
【0008】
すなわち、本発明は、冷菓シェルの製造において、針状結晶の生成を抑制する技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明は、冷菓ミックスをモールド内面に沿って凍結固化させることを含む、冷菓シェルの製造方法であって、
冷菓ミックス中に、微細氷結晶を分散させる微細結晶分散工程と、
前記微細氷結晶を分散させた冷菓ミックスを、モールド内に充填する充填工程と、を含み、
前記微細結晶分散工程と前記充填工程との間で、前記微細氷結晶の分散状態を維持することを特徴とする。
微細結晶分散工程で得られた微細氷結晶の分散状態を維持しながら、モールドへの充填を行うことで、その後の凍結固化において針状結晶の生成を十分に抑制し、硬く軋むような食感が抑制された、良好な食感の冷菓シェルを製造することができる。
【0010】
本発明の好ましい形態では、前記微細氷結晶の分散状態の維持は、冷菓ミックスの温度を−1.0℃以下に維持することにより行うことを特徴とする。
このような温度制御により、微細氷結晶の分散状態の維持を容易に行うことが可能となり、効率よく針状結晶の生成を抑制することが可能となる。
【0011】
本発明の好ましい形態では、前記微細結晶分散工程は、冷菓ミックスを冷却しながら撹拌することを含む。
このような方法により、効率よく、冷菓ミックス中に十分量の微細氷結晶を分散させることが可能となる。また、撹拌することにより、冷菓ミックス中に空気を抱き込ませることができ、これにより針状結晶の成長をより効果的に妨ぐことが可能となる。
【0012】
本発明の好ましい形態では、前記冷菓ミックスの固形分濃度は、5〜35%である。
冷菓ミックスの固形分濃度を上記の範囲とすることにより、針状結晶を抑制しながら、一定のシェルの強度も実現することができる。これにより、保形性と良好な食感(キシキシする食感が抑制されていること)の両者に優れた冷菓シェルを製造することができる。
ここで、固形分濃度とは、水分以外の成分の濃度をいう。
【0013】
本発明は、また、上記の製造方法により製造された冷菓シェルに関する。
このような冷菓シェルは、スティックアイス等に用いることが可能であり、良好な食感(キシキシする食感が抑制されていること)を有する。
【0014】
本発明は、冷菓シェルを有する冷菓の製造方法であって、
モールド内面に形成された冷菓シェルの内部の未凍結部分を除去する除去工程と、冷菓シェルの内部に、前記冷菓ミックスと異なる菓子原料を挿入する挿入工程と、を含む。
【0015】
本発明の好ましい形態では、前記菓子原料は、冷菓ミックスであり、挿入した菓子原料を凍結固化する固化工程をさらに行う。
このような製造方法により、冷菓シェルが良好な食感(キシキシする食感が抑制されていること)を有する、嗜好性の高い冷菓を製造することができる。すなわち、外部(冷菓シェル)と内部の食感の違いを楽しみながらも、複数種の菓子が口の中で溶け合い、両者の味の調和を感じることができる非常に嗜好性の高い冷菓を製造することが可能となる。
【0016】
本発明の冷菓の製造方法においては、前記固化工程後の冷菓の冷菓シェル表面に、水を主成分とするコーティング液を付着させるコーティングする工程と、付着したコーティング液を凍結固化させる工程と、を行うことが好ましい。
これにより、冷菓シェルの強度を適度に向上させることができ、保形性に優れた冷菓を製造することが可能となる。
【0017】
本発明は、上記の製造方法により製造された冷菓に関する。
このような冷菓は、針状結晶が抑制され、良好な食感(キシキシする食感が抑制されていること)を有するものであり、嗜好性の高いものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の冷菓シェルの製造方法により、冷菓シェルの製造における針状結晶の生成を抑制することが可能となる。
そして、このような製造方法により製造された冷菓シェルは、良好な食感を有するものである。
また、本発明の冷菓の製造方法により、冷菓シェル内の針状結晶の生成が抑制された冷菓を製造することが可能となる。
そして、このような製造方法により製造された冷菓は、食感に優れるものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の冷菓シェルの製造方法の概略工程図である。
図2】本発明の冷菓の製造方法の説明図(断面図)である。
図3】本発明の冷菓の製造方法の説明図(断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の冷菓の製造方法の一実施形態を、図1〜3を参照しながら説明する。図1は、本発明の冷菓シェルの製造方法の概略工程図である。また、図2及び3は、本発明の冷菓の製造方法の一例を説明するための説明図(断面図)である。
【0021】
本発明の冷菓シェルの製造方法は、図1に示すように、冷菓シェルの原料となる冷菓ミックス中に、微細氷結晶を分散させる工程S1と、微細氷結晶を分散させた冷菓ミックスをモールド内に充填する工程S2を含む。
また、本発明の冷菓シェルの製造方法は、モールドに充填された冷菓ミックスを、モールドの内面に沿って凍結固化する工程S3を含む。また、本実施形態では、工程S3の後に、冷菓ミックスの中心部の未凍結部分を除去する工程S4を行う。この凍結固化及び未凍結部分の除去の工程は、冷菓シェルを形成させる方法として一般的な方法である。
【0022】
冷菓シェルの製造に用いる冷菓ミックスは、従来用いられているものを特に制限なく用いることができるが、針状結晶の問題が顕著である水分量が比較的高い冷菓ミックスを用いることが好ましい。これは、このような冷菓ミックスを用いる場合に、従来の技術に対する本発明の効果が顕著となるためである。また、冷菓シェルとしての一定の強度を実現するためにも、このような水分量とすることが好ましい。
具体的には、冷菓ミックスにおける水分量は、好ましくは65重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、より好ましくは75重量%以上である。一方で、水分量の上限としては、好ましくは95重量%、さらに好ましくは90重量%、より好ましくは85重量%である。
【0023】
また、上記冷菓ミックスは、従来の冷菓ミックスと同様、脂肪、糖類、タンパク質、果汁、果肉等を含んでいてよいが、冷菓ミックスにおける固形分は、好ましくは5重量%以上、さらに好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上である。一方で、固形分の上限としては、好ましくは35重量%、さらに好ましくは30重量%、より好ましくは25重量%である。ここでいう、冷菓ミックスにおける固形分とは、冷菓ミックスの水分以外のものを意味する。
【0024】
冷菓ミックスの固形分を5重量%以上、好ましくは10重量%以上、さらに好ましくは15重量%以上とすることで、より効果的に針状結晶の生成を抑制することができる。また、冷菓ミックスの固形分を35重量%以下、好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは25重量%以下とすることで、製造される冷菓シェルの強度を一定以上とすることができる。すなわち、固形分を上記の範囲とすることで、針状結晶の生成を抑制しながら、製造される冷菓シェルの強度も一定以上とすることができる。
【0025】
本発明の冷菓シェルの製造方法は、上記の冷菓ミックスをモールド内で凍結固化させる前に、予め冷菓ミックス中に微細氷結晶を分散させておくことを特徴としている。
従来のように、単に、冷菓ミックスを冷却したモールドに充填すると、モールド内で冷菓ミックスが凍結固化していく際に、針状結晶が成長してしまう。
【0026】
冷菓ミックス中に微細氷結晶を分散させる方法としては、冷菓ミックスを冷却しながら撹拌する方法が挙げられる。
【0027】
また、冷菓ミックス中に微細氷結晶を分散させる方法としては、撹拌冷却する方法のほかに、微細氷結晶を、氷を破砕する方法などにより製造しておき、これを冷却下、糖液などと混合する方法が挙げられる。
【0028】
上述した方法によって、微細氷結晶を全体に含む冷菓ミックスを調製することができる。冷菓ミックスにおける微細氷結晶は、50%以上の氷結晶、好ましくは70%以上の氷結晶、好ましくは90%以上の氷結晶、実質的にはすべての氷結晶が、2mm以下の径であることが好ましい。微細氷結晶の径は、たとえば顕微鏡などによりサンプル調査をすることにより確認することができる。
【0029】
微細結晶分散工程、及び充填工程において、微細氷結晶の分散状態を維持するために、冷菓ミックスの温度は、好ましくは−1.0℃以下、好ましくは−1.0〜−5.0℃、より好ましくは−2.0〜−4.0℃に維持することが好ましい。
冷菓ミックスの温度を、−1.0℃以下、好ましくは−2.0℃以下に維持することにより、冷菓ミックス中の微細氷結晶の溶解を防ぎ、微細結晶の分散状態を維持することが可能となる。
一方で、冷菓ミックスの温度を、−5.0℃以上、好ましくは−4.0℃以上に維持することにより、充填に適した流動性を確保することができる。また、図2(b)に示すように、充填した冷菓ミックス11aの中心部を吸引する際に、容易に吸引できる流動性を確保することができる。
【0030】
さらに、本発明では、上記充填する冷菓ミックスのオーバーランを、通常0〜50%、好ましくは3〜30%、さらに好ましくは5〜25%とすることができる。
また、オーバーランは、0%より大きいことが好ましい。これにより、針状結晶の生成をより有効に抑制することができる。
また、冷菓ミックスのオーバーランを3%以上、好ましくは5%以上とすることで、針状結晶の生成をより有効に抑制することができる。オーバーランを3%以上とすることにより、冷菓ミックス内に分散した気体が結晶の成長を十分に妨げるため、針状結晶の成長を抑制することができる。また、オーバーランを50%以下、好ましくは30%以下、さらに好ましくは25%以下とすることで、製造される冷菓シェルを一定以上の強度とすることができる。
オーバーランを0%より大きくするためには、撹拌装置で撹拌するなどすればよい。微細氷結晶の分散を、冷却撹拌により行う場合には、通常オーバーランは0%より大きくなる。
【0031】
このようにして調製された、微細氷結晶が分散された冷菓ミックスは、図2に示すように、冷菓シェルの原料として、成形のためのモールド内に充填される。例えば、スティックアイスを製造する場合には、−25〜−40℃程度に冷却された冷媒(図示しない)に浸漬されているモールド2に、冷菓ミックス11aをホッパー31及び充填ノズル32を用いて充填する(図2(a))。
【0032】
本発明の冷菓シェルの製造方法では、上述した通り、充填工程において冷菓ミックスの温度を−1.0〜−5.0℃、好ましくは−2.0〜−4.0℃に維持する。
モールドに充填する際の冷菓ミックスの温度を上記の範囲とすることで、冷菓ミックスの充填工程中、十分な量の微細氷結晶を維持することができ、続くモールド2内での凍結固化の際に、針状結晶の生成を抑制することが可能となる。
また、冷菓ミックス11aの温度の下限を上記の値とすることで、充填に適した流動性を確保することができる。また、図2(b)に示すように、充填した冷菓ミックス11aの中心部を吸引する際に、容易に吸引できる流動性を確保することができる。
上記冷菓ミックス11aの温度は、上述した冷却撹拌工程で用いるフリーザー内温度、モールドに冷菓ミックス11aを充填するためのホッパー31内温度、及びこれらをつなぐライン内の温度等の条件設定により、調整することができる。
【0033】
上述したように、モールド2に充填された冷菓ミックス11aを凍結固化した後、吸引装置33と吸引ノズル34を用いて凍結部分11cを残して未凍結部分11dを吸引することにより(図2(b))、冷菓シェル11bを製造することができる(図2(c))。
【0034】
続いて、冷菓シェル11b内に、冷菓ミックス12aを、ホッパー35と充填ノズル36を用いて充填する(図2(d))。その後、木製のスティック4を中心部に挿入し(図3(e))、冷菓ミックス12aを凍結固化した後、冷菓センター12b、冷菓シェル11b、スティック4からなる冷菓11をモールド2から取り出す(図3(f))。
【0035】
続いて、取り出した冷菓11を、4〜20℃に調整したコーティング液14a内に浸漬する(図3(g))。浸漬時間は、1〜4秒程度が好ましい。続いて冷菓11をコーティング液14a内から取り出すことにより、冷菓シェル11b表面に、コーティング液14aが付着する。続いて、付着したコーティング液14aを凍結固化して、冷菓の表面にコーティング層14bが形成され、冷菓1が製造される(図3(h))。なお、図3では説明の便宜上、コーティング層14bを厚めに記載しているが、実際には大幅に薄い層となる。
このようなコーティング層14bを形成することにより、冷菓シェル11bの強度を適度に向上させ、冷菓の保形性を向上させることができる。
ここで、コーティング液の水分含有量は、好ましくは90〜100重量%である。
コーティング液の水分含有量が多すぎると、流通、保存時にひび割れなどが生じることがある。一方、水分含有量が小さすぎると、十分なコーティング効果が得られないことがある。
また、コーティング液は、増粘剤を含んでいることが好ましい。増粘剤としては、タマリンドシードガム、グアーガムなどが好ましく挙げられる。増粘剤の含有量は、増粘剤の種類によって調整することができる。
【0036】
このようにして、製造した冷菓1は、密閉性の袋等の容器に収容され、製品として流通する。
【実施例】
【0037】
<実施例>
以下の原料を用いて、冷菓を製造した。
<冷菓ミックス1−1(冷菓シェル用)>
砂糖 12.0%
異性化糖 2.0%
スクラロース 0.02%
リンゴ酸 0.005%
クエン酸 0.01%
増粘剤 0.3%
濃縮果汁 10.0%
着色料 少量
香料 少量
水 75% (全体水分80%)
【0038】
<冷菓ミックス2(冷菓センター用)>
無塩バター 10.0%
脱脂粉乳 9.0%
砂糖 15.5%
水あめ 5.0%
安定剤 0.2%
乳化剤 0.2%
香料 少量
水 60%
【0039】
<コーティング液>
砂糖 5.0%
スクラロース 0.03%
リンゴ酸 0.01%
クエン酸 0.02%
増粘剤 0.4%
着色料 少量
香料 少量
水 94.0%
【0040】
冷菓ミックス1−1を、−3.0℃に調整した撹拌式フリーザー(カゴ型)内で、撹拌冷却することにより、冷菓ミックス中に微細氷結晶を生成、分散させた。また撹拌は、オーバーランが10%となるように行った。
続いて、微細氷結晶を含む冷菓ミックスを、−2.8℃を維持しながら、ホッパー及びノズルを用いてモールド内に充填した。充填から所定時間経過後に中心部(未凍結部分)を、吸引装置及びノズルを用いて吸引除去した。
次に、冷菓ミックス2を撹拌することにより、冷菓ミックス2のオーバーランを30%とした。冷菓ミックス2を−2.5℃に調節し、先に吸引除去した中心部に、ホッパー及びノズルを用いて注入し、−35℃で4分以上冷却した。冷却の途中で、木製のスティックの先端部を挿入した。
その後、モールドを加温することにより冷菓をモールドから抜き出し、コーティング液に浸漬した後、液体窒素に数秒浸漬することによりコーティング液を凍結し、スティックアイスを製造した。
【0041】
<試験例1>
冷菓ミックス1−1のオーバーランと、冷菓ミックス1−1の充填温度を以下の表に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてスティックアイス(実施例2〜12、比較例1〜3)を製造した。
なお、上記で製造した実施例1〜12、比較例1〜3のいずれのスティックアイスについても、冷菓の大きさは、100mm×60mm×25mmであった。また、冷菓シェルの厚さは3〜20mmの範囲であった。
【0042】
これらのスティックアイスについて、針状結晶の生成の度合い、スティックアイスの保形性、及び冷菓ミックスの中心部の吸引容易性(スプリット性)について、以下の基準により評価した。
【0043】
針状結晶の生成の度合いは、パネラーによる喫食した際の官能評価、及び冷菓を分断したときの露出面の観察により行った。評価基準は以下のとおりである。
(評価基準)
◎:喫食時にブロック状に冷菓が割れることがない。針状結晶に起因するキシキシとした食感は感じない。露出面に針状結晶がほとんど確認できない。
○:喫食時にブロック状に冷菓が割れることがない。針状結晶に起因するキシキシとした食感は感じない。露出面に小さな針状結晶が確認できる。
×:喫食時にブロック状に冷菓が割れる。針状結晶に起因するキシキシとした食感を感じる。露出面に太い針状結晶が確認できる。
【0044】
保形性については、−18℃の冷凍庫内に、冷菓を立てかけ、1ヶ月後の形状を観察することにより行った。評価基準は以下のとおりである。
(評価基準)
◎:試験開始時からの形状の変化がほとんどない。
○:試験開始時からの形状の変化がわずかにあるものの、容易には通常視認できない程度の変化である。
×:試験開始時からの形状の変化が明らかに視認できる。
【0045】
スプリット性についてはモールド内でシェルワーク後の中心部の冷菓ミックス2を吸出する際の適性について、目視確認を行った。評価基準は以下のとおりである。
(評価基準)
◎:吸出し用のノズルが容易に挿入でき、吸出し後に中心部分の冷菓ミックス1−1表面にあきらかな凸凹などが確認されない。
○:吸出し用のノズルが容易に挿入できるが、吸出し後に中心部分の冷菓ミックス1−1表面にわずかな凸凹が確認できる。
×:吸出し用のノズルが容易に挿入できない、または吸出しが困難で吸出し後の中心部分の冷菓ミックス1−1表面にあきらかな凸凹が確認できる。
【0046】
針状結晶の生成の度合いについての評価結果を以下に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
実施例のスティックアイスは、冷菓シェル部分及びセンター部分の何れにも太く食感を損なうような針状結晶が存在せず、キシキシとした食感は問題とならなかった。また、咀嚼した時に冷菓シェルがサクっと崩壊し、センターの冷菓と口の中で混ざり合いながら溶けていくものであった。
中でも、実施例1〜4、6、7、10〜12の冷菓に関しては、針状結晶の生成がほとんどなく、食感に優れるものであった。
【0049】
一方、比較例のスティックアイスは、冷菓シェル部分に針状結晶が存在し、そのため、食したときに冷菓シェルがブロック状に割れたようになった。そして、それを咀嚼した時に、冷菓シェルが結晶の配向方向に沿って割け、シェルとセンターが分離して口の中に存在するような食感であった。
【0050】
これより、冷菓シェルのミックス中の微細氷結晶の分散状態を維持しながら充填をし、続いて固化させることにより、針状結晶を成長させることを防ぐことができることが分かった。また、冷菓シェルのミックスの水分量が80%程度のものについて、微細氷結晶の分散状態を維持するためには、充填温度が−1.0℃以下、さらには−2.0℃より小さくなるように、冷菓ミックスの温度を維持することが好ましいことが分かった。
また、オーバーランは、0%より大きいことが、針状結晶を成長させることを防ぐ観点から、より一層好ましいことが分かった。
【0051】
次に、保形性についての評価結果を以下に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
実施例1〜3、6〜8、11の冷菓に関しては、特に保形性に優れていた。
これより、冷菓シェルミックスの水分量が80%程度のものについては、冷菓ミックスのオーバーランが50%より小さい場合に保形性が実現でき、さらに冷菓ミックスのオーバーランが20%以下の場合には、優れた保形性の冷菓が得られることが分かった。
【0054】
スプリット性についての評価結果を以下に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
実施例1、2、5〜9の冷菓に関しては、スプリット性に優れていた。
これより、冷菓シェルミックスの水分量が80%程度のものについては、充填温度を−3.3℃程度以上とすることで、優れたスプリット性が得られることが分かった。
【0057】
<試験例2>
上記で用いた冷菓ミックス1−1を、以下の冷菓ミックス1−2に置換し、同様にして冷菓(スティックアイス)を製造した(実施例13〜24、比較例4〜6)。また、針状結晶の生成の度合い、スティックアイスの保形性、及び冷菓ミックスの中心部の吸引容易性(スプリット性)について、以下の基準により評価した。
【0058】
<冷菓ミックス1−2(冷菓シェル用)>
砂糖 2.0%
スクラロース 0.08%
リンゴ酸 0.005%
クエン酸 0.01%
増粘剤 0.3%
濃縮果汁 5.0%
着色料 少量
香料 少量
水 92% (全体水分95%)
【0059】
針状結晶の生成の度合いについての評価結果を以下に示す。
【0060】
【表4】
【0061】
実施例のスティックアイスは、冷菓シェル部分及びセンター部分の何れにも太く食感を損なうような針状結晶が存在せず、キシキシとした食感は問題とならなかった。また、咀嚼した時に冷菓シェルがサクっと崩壊し、センターの冷菓と口の中で混ざり合いながら溶けていくものであった。
中でも、実施例15〜24の冷菓に関しては、針状結晶の生成がほとんどなく、食感に優れるものであった。
【0062】
一方、比較例のスティックアイスは、冷菓シェル部分に針状結晶が存在し、そのため、食したときに冷菓シェルがブロック状に割れたようになった。そして、それを咀嚼した時に、冷菓シェルが結晶の配向方向に沿って割け、シェルとセンターが分離して口の中に存在するような食感であった。
【0063】
これより、冷菓シェルのミックス中の微細氷結晶の分散状態を維持しながら充填をし、続いて固化させることにより、針状結晶を成長させることを防ぐことができることが分かった。また、冷菓シェルミックスの水分量が95%程度のものについて、微細氷結晶の分散状態を維持するためには、充填温度が−1.0℃以下、さらには−2.0℃以下となるように、冷菓ミックスの温度を維持することが好ましいことが分かった。
【0064】
次に、保形性についての評価結果を以下に示す。
【0065】
【表5】
【0066】
実施例13〜15、19、20、23の冷菓に関しては、特に保形性に優れていた。
これより、冷菓シェルミックスの水分量が95%程度のものについては、冷菓ミックスのオーバーランが50%以下、さらには20%以下の場合に、優れた保形性が得られることが分かった。
【0067】
スプリット性についての評価結果を以下に示す。
【0068】
【表6】
【0069】
実施例13〜15、19、20の冷菓に関しては、特にスプリット性に優れていた。
これより、冷菓シェルミックスの水分量が95%程度のものについては、充填温度を−2.8℃以上、さらには−2.0以上に設定することで、優れたスプリット性が得られることが分かった。
【0070】
<試験例3>
次に、上記で用いた冷菓ミックス1−1を、以下の冷菓ミックス1−3に置換し、同様にして冷菓(スティックアイス)を製造した。また、針状結晶の生成の度合い、スティックアイスの保形性、及び冷菓ミックスの中心部の吸引容易性(スプリット性)について、以下の基準により評価した。
【0071】
<冷菓ミックス1−3(冷菓シェル用)>
砂糖 12.0%
水あめ 20.0%
リンゴ酸 0.005%
クエン酸 0.01%
増粘剤 0.3%
濃縮果汁 10.0%
着色料 少量
香料 少量
水 55% (全体水分65%)
【0072】
【表7】
【0073】
実施例のスティックアイスは、冷菓シェル部分及びセンター部分の何れにも太く食感を損なうような針状結晶が存在せず、キシキシとした食感は問題とならなかった。また、咀嚼した時に冷菓シェルがサクっと崩壊し、センターの冷菓と口の中で混ざり合いながら溶けていくものであった。
中でも、実施例25、26、28〜31、33、35、36の冷菓に関しては、針状結晶の生成がほとんどなく、食感に優れるものであった。
【0074】
一方、比較例のスティックアイスは、冷菓シェル部分に針状結晶が存在し、そのため、食したときに冷菓シェルがブロック状に割れたようになった。そして、それを咀嚼した時に、冷菓シェルが結晶の配向方向に沿って割け、シェルとセンターが分離して口の中に存在するような食感であった。
【0075】
これより、冷菓シェルのミックス中の微細氷結晶の分散状態を維持しながら充填をし、続いて固化させることにより、針状結晶を成長させることを防ぐことができることが分かった。また、冷菓シェルミックスの水分量が65%程度のものについては、微細氷結晶の分散状態を維持するためには、充填温度が−2.0℃より小さく、さらには−3.0℃より小さくなるように、冷菓ミックスの温度を維持することが好ましいことが分かった。
【0076】
次に、保形性についての評価結果を以下に示す。
【0077】
【表8】
【0078】
実施例25、26、31、32、35の冷菓に関しては、特に保形性に優れていた。
これより、冷菓シェルミックスの水分量が65%程度のものについては、冷菓ミックスのオーバーランが30%より小さい場合、さらには15%より小さい場合には、特に優れた保形性の冷菓が得られることが分かった。
【0079】
スプリット性についての評価結果を以下に示す。
【0080】
【表9】
【0081】
実施例25、27、30〜32の冷菓に関しては、特にスプリット性に優れていた。
これより、冷菓シェルミックスの水分量が65%程度のものについては、充填温度を−5.0℃以上、さらには−3.7℃以上に設定することで、優れたスプリット性が得られることが分かった。
【0082】
以上の結果をまとめると、冷菓シェルのミックス中に微細氷結晶を分散させておき、この状態を維持しながら充填をすることで、針状結晶の生成が抑制された冷菓シェルを製造することができることが分かった。また、微細氷結晶を分散させておき、これを維持しながら分散を行うことによる針状結晶の生成の抑制効果は、65〜95重量%の水分含有量のいずれの冷菓ミックスを用いた場合にも得られることが分かった。
また、冷菓ミックスに空気を抱き込ませることが、針状結晶を成長させることを防ぐ観点からより好ましいことが分かった。一方で、冷菓ミックスのオーバーランを20%以下、好ましくは15%以下とすることにより、水分量の異なる冷菓ミックスにおいても特に優れた保形性の冷菓が得られることが分かった。
また、上述した冷菓ミックス中の微細氷結晶の分散状態は、冷菓ミックスの温度を制御することにより維持することができ、スプリット性などの製造効率を加味すると、−2.0〜−4.0℃程度が特に好ましいことが分かった。
【符号の説明】
【0083】
1 冷菓
11a 冷菓ミックス(冷菓シェル用)
11b 冷菓シェル
11d 未凍結部分
12a 冷菓ミックス(センター用)
2 モールド
21 モールド内面
図1
図2
図3