特許第6077250号(P6077250)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6077250原子力発電プラントにおける水処理方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6077250
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】原子力発電プラントにおける水処理方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/12 20060101AFI20170130BHJP
   G21F 9/06 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   G21F9/12 512J
   G21F9/06 521A
   G21F9/06 551Z
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-217133(P2012-217133)
(22)【出願日】2012年9月28日
(65)【公開番号】特開2014-71004(P2014-71004A)
(43)【公開日】2014年4月21日
【審査請求日】2015年9月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】出水 丈志
(72)【発明者】
【氏名】小松 誠
【審査官】 後藤 孝平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−232773(JP,A)
【文献】 国際公開第02/005960(WO,A1)
【文献】 特開2009−090259(JP,A)
【文献】 特開2003−156589(JP,A)
【文献】 藤原邦夫,“放射線グラフト重合法による機能性高分子材料の開発とその応用例”,エバラ時報,株式会社荏原製作所,2007年 7月,No.216,p.11−16
【文献】 堀隆博, ほか4名,“放射線グラフト重合法によるウラン吸着用中空糸状アミドオキシム樹脂の合成”,日本化学会誌,(社)日本化学会,1986年,Vol.12,p.1792−1798
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/06
G21F 9/12
B01D 39/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力発電プラントにおける水の放射線分解により生成する酸化促進物質を含有する被処理水を、ポリオレフィン製不織布に放射線グラフト重合により導入されたイオン交換官能基と当該イオン交換官能基の一部に添着されている金属酸化物微粒子とを有するフィルタに接触させて当該酸化促進物質を分解し、次いでイオン交換樹脂に接触させることを含む、原子力発電プラントにおける水処理方法。
【請求項2】
前記フィルタの金属酸化物微粒子は、マンガン、鉄又はチタンの酸化物微粒子から選択される、請求項1に記載の水処理方法。
【請求項3】
前記被処理水は、燃料プール水、サイトバンカープール水又は放射性物質含有廃水である、請求項1又は2に記載の水処理方法。
【請求項4】
前記酸化促進物質は、過酸化水素、ヒドロペルオキシラジカル又はヒドロキシラジカルである、請求項1〜3のいずれかに記載の水処理方法。
【請求項5】
原子力発電プラントにおける水の放射線分解により生成する酸化促進物質を含有する被処理水を貯留する被処理水貯留槽と、
当該被処理水貯留槽の下流に位置付けられている、ポリオレフィン製不織布に放射線グラフト重合により導入されてなるイオン交換官能基と当該イオン交換官能基の一部に添着されている金属酸化物微粒子とを有するフィルタが充てんされているろ過装置と、
イオン交換樹脂が充てんされている脱塩装置と、
を具備する、原子力発電プラントにおける水処理装置。
【請求項6】
前記被処理水貯留槽は、燃料プール、サイトバンカープール又は放射性物質含有廃水タンクである、請求項5に記載の水処理装置。
【請求項7】
前記フィルタの金属酸化物微粒子は、マンガン、鉄又はチタンの酸化物微粒子から選択される、請求項5又は6に記載の水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電プラントにおける、原子炉水や燃料プール水、サイトバンカープール水、放射性物質含有廃水の処理技術に関する。特に、本発明は、原子力発電プラントにおける水の放射線分解により生成する過酸化水素などの酸化促進物質を含む被処理水の処理方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラントでは、原子炉水や各種プール水、復水、廃水などを浄化する目的で、粒状イオン交換樹脂を用いた復水脱塩装置や廃液脱塩装置、中空糸膜やプリーツフィルタなどを用いたろ過装置、粉末イオン交換樹脂を用いたプリコート型ろ過装置などの浄化設備が設置されている。
【0003】
復水脱塩装置を例にして概要を説明する。沸騰水型原子力発電(BWR)プラントは、原子炉で発生した蒸気をタービンに導き、タービンに連結された発電機を回転させて発電し、タービンで仕事を終えた蒸気を復水器で復水して再び原子炉に給水するようにしている。復水器からの復水を原子炉に供給する復水系に復水脱塩装置が設けられ、復水に含まれるクラッドと呼ばれる鉄酸化物を主とする懸濁性腐食性物質や、冷却に用いている海水由来の海水成分などのイオン状不純物を除去する。また、原子炉水に含まれるクラッドやイオン状不純物などを除去するために原子炉冷却材浄化系が設けられており、原子炉水を原子炉冷却材浄化系の原子炉冷却材浄化系ろ過脱塩装置に導き、炉水中に含まれるクラッドおよびイオン状不純物を除去する。こうして、原子炉水を適正に浄化し高純度の純水に保つ。
【0004】
定検(定期点検)中など、原子炉停止中においては、原子炉水位を適正に保つため常に適当量の水を原子炉から余剰水として排出し続ける場合がある。また、燃料交換の際には、燃料交換のために上昇させた原子炉水位を元に戻すために一時的に大量の水を原子炉から余剰水として排出する必要がある。すなわち、原子炉の燃料交換の際には、原子炉と燃料プールとの燃料移動経路に水を張り、原子炉水位を大きく上昇させ、燃料交換の終了後には元の原子炉水位に戻す。このために一時的に大量の水を原子炉から余剰水として排出する必要がある。これらの原子炉からの余剰水排出にあたっては、原子炉冷却材浄化系の原子炉冷却材浄化系ろ過脱塩装置で炉水中に含まれるクラッドおよびイオン状不純物を除去した後、その処理水のうち余剰分を液体廃棄物処理系に導く。液体廃棄物処理系では、原子炉冷却材浄化系からの余剰水を一旦廃液収集槽に蓄え、液体廃棄物処理系でさらにクラッドおよびイオン状不純物を除去して、浄化された水を復水貯蔵プールにおいて貯蔵し、プラント内での再利用に備える。ここで、復水系の復水脱塩装置においては、イオン交換樹脂の能力低下時にはイオン交換樹脂を交換することが必要になり、その際には、新しいイオン交換樹脂の費用に加えて、使用済みイオン交換樹脂が放射性廃棄物として発生してしまい、放射性廃棄物の処理に伴う費用及び場所が必要になる。そのため、イオン交換樹脂の長寿命化を図ることが望まれている。そこで、原子力発電プラントの定検中においては、復水貯蔵プールに貯蔵された水を使用してイオン交換樹脂を逆洗し、イオン交換樹脂の長寿命化を図っている。更に、原子力発電プラント内に設置されている燃料プールやサイトバンカープールでは、保管されている燃料や種々の材料の腐食を抑止し、プール水中の放射性物質を除去することにより作業員の被ばく量を低減するなど健全性を長期間にわたり維持する目的で、粒状イオン交換樹脂を用いた脱塩装置や、粉末状イオン交換樹脂を用いたろ過装置が設置されている。
【0005】
ところが、原子炉水や燃料プール水には、水中にある燃料棒からの放射線により水が分
解されて、過酸化水素や過酸化水素から生成するヒドロペルオキシラジカルやヒドロキシラジカルなどの酸化促進物質(以下「酸化促進物質」という。)が含まれている。原子炉冷却材浄化系および液体廃棄物処理系では、これら酸化促進物質を除去することはできず、燃料プール水、サイトバンカープール水及びこれらを浄化して回収される復水貯蔵プールに貯蔵される水には、酸化促進物質が含まれたままとなっている。この酸化促進物質は、非常に強力な酸化作用を有するため、イオン交換樹脂のカチオン樹脂を酸化し、ポリスチレンスルホン酸(PSS)を溶出させる。溶出したPSSは、イオン交換樹脂のアニオン樹脂に付着してアニオン樹脂の反応速度を低下させ、結果として脱塩率を低下させる。また、過酸化水素によるカチオン樹脂の酸化劣化により、カチオン樹脂から硫酸イオン等が溶出し、イオン交換樹脂の出口の導電率を上昇させる。さらに、強力な酸化作用により、配管やタンク等の鋼材の腐食の一因ともなる。
【0006】
通常運転中は、酸化促進物質は熱分解して消滅するが、定検中及び2011年3月11日以後運転停止している福島第一原子力発電所などの使用済み燃料プールでは炉水温度が50℃程度であることから熱分解が起こりにくく、燃料棒から出る放射線により一次軽水中の過酸化水素濃度が上昇し、過酸化水素を数ppmオーダーで含んでいる。
【0007】
停止中の原子炉水は、原子炉冷却材浄化系の原子炉冷却材浄化系ろ過脱塩装置、液体廃棄物処理系のろ過器および脱塩塔で処理される。これら原子炉冷却材浄化系や液体廃棄物処理系では酸化促進物質は処理されず、復水貯蔵プールに移送されることになる。この水を使って復水脱塩装置のイオン交換樹脂の逆洗を行うため、イオン交換樹脂が酸化劣化を起こす。また、原子炉水浄化系脱塩装置や燃料プール浄化装置では、直接これらの水をイオン交換樹脂で処理するため、酸化促進物質がイオン交換樹脂を酸化劣化させ、イオン交換樹脂の交換頻度が増加する。
【0008】
イオン交換樹脂の劣化の主原因は、原子力発電プラントの定検中の原子炉水に含まれる酸化促進物質の接触によるものと考えられており、イオン交換樹脂に酸化促進物質を含んだ水が接触する前に酸化促進物質を分解することが、処理水質の高度化やイオン交換樹脂の寿命延長に繋がることとなる。このような知見に基づいて、過酸化水素がカチオン交換樹脂と接触する前に、アニオン交換樹脂を用いてアルカリ分解する方法(特許文献1)、粒状活性体により除去又はイオン交換樹脂に担持した白金族系触媒を用いて分解する方法(特許文献2)、白金をコーティングした触媒コーティング網を用いて分解する方法(特許文献3)、活性炭を用いて除去する方法(特許文献4)などが提案されているが、いずれも実用化されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−002787号公報
【特許文献2】特開平10−111387号公報
【特許文献3】特開2003−156589号公報
【特許文献4】特開2008−232773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、原子力発電プラントにおいて水の放射線分解により発生する過酸化水素などの酸化促進物質を含む被処理水をイオン交換樹脂による脱塩処理する前に、被処理水中の酸化促進物質を低減させ、脱塩装置の負荷を低減させて処理水の水質を高純度に維持すると共に、イオン交換樹脂の寿命を延長し、放射性二次廃棄物となる使用済みイオン交換樹脂の発生量を低減させる、原子力発電プラントにおける水処理技術を提供することにある。
【課題を解決する手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意研究した結果、過酸化水素などの酸化促進物質を含む被処理水をイオン交換樹脂による脱塩処理の前に、特定のフィルタを通過させることによって、被処理水中の酸化促進物質を劇的に低減させることができることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0012】
具体的には、本発明によれば、原子力発電プラントにおける水の放射線分解により生成する酸化促進物質を含有する被処理水を、ポリオレフィン製不織布に放射線グラフト重合により導入されたイオン交換官能基と当該イオン交換官能基の一部に添着されている金属酸化物微粒子とを有するフィルタに接触させて当該酸化促進物質を分解し、次いでイオン交換樹脂に接触させることを含む、原子力発電プラントにおける水処理方法が提供される。
【0013】
前記フィルタは、ポリオレフィン性不織布に放射線グラフト重合によりイオン交換官能基を導入して、当該イオン交換官能基の少なくとも一部に、マンガン、鉄又はチタンから選択される金属イオンを吸着させ、次いで当該金属イオンを酸化して製造することができる。ポリオレフィン性不織布を構成する繊維は、数百nm〜数十μmの繊維径であることが好ましい。従来の過酸化水素分解に用いられていたイオン交換樹脂や活性炭などの微粒子担体と異なり、ポリオレフィン性不織布は繊維間の隙間が大きく被処理水の通水抵抗とならず且つ多数の金属酸化物微粒子がポリオレフィン性不織布を構成する繊維内部にまで導入されるため、被処理水の通水量及び通水速度を損なうことなく被処理水と満遍なく接触することができることから、酸化促進物質との接触状況が極めて良好で、酸化促進物質の分解能力が格段に向上する。
【0014】
前記フィルタの金属酸化物微粒子は、マンガン、鉄又はチタンの酸化物微粒子から選択されることが好ましい。イオン交換官能基としては、カチオン交換基又はアニオン交換基の何れでもよい。カチオン交換基の場合はスルホン酸基などの強酸性カチオン交換基が好ましく、アニオン交換基の場合は4級アンモニウム基、低級アミノ基などの強塩基性アニオン交換基又はイミノジエタノール基、イミノジ酢酸基、エチレンジアミン基などの弱塩基性アニオン交換基が好ましい。カチオン交換基を用いる場合には、Mn2+、Fe3+、Ti4+などの金属イオンを吸着させた後、酸化させて、金属酸化物とすることができる。アニオン交換基を用いる場合には、MnO4-、FeO42-、TiO32-などの金属イオンを吸着させた後、還元させて金属酸化物とすることができる。
【0015】
前記被処理水として、燃料プール水、サイトバンカープール水又は放射性物質含有廃水に適用した場合に本発明は特に有効である。これらの被処理水は、50℃程度の低温であるため、過酸化水素などの酸化促進物質が熱分解することがなく、大量の酸化促進物質を含む。
【0016】
本発明の方法により分解できる前記酸化促進物質としては、過酸化水素、ヒドロペルオキシラジカル又はヒドロキシラジカルを挙げることができる。もっとも、ヒドロペルオキシラジカル又はヒドロキシラジカルは不安定であり生成後すぐに分解するため、通常は過酸化水素が分解対象物質となる。
【0017】
また、本発明によれば、原子力発電プラントにおける水の放射線分解により生成する酸化促進物質を含有する被処理水を貯留する被処理水貯留槽と、当該被処理水貯留槽の下流に位置付けられている、ポリオレフィン製不織布に放射線グラフト重合により導入されたイオン交換官能基と当該イオン交換官能基の一部に添着されている金属酸化物微粒子とを有するフィルタが充てんされているろ過装置と、イオン交換樹脂が充てんされている脱塩
装置と、を具備する、原子力発電プラントにおける水処理装置も提供される。
【0018】
前記被処理水貯留槽は、燃料プール、サイトバンカープール又は放射性物質含有廃水タンクであってもよい。
前記フィルタの形状は、特に限定されず、平膜をプリーツ型とするカートリッジタイプ、平膜を集水管に巻きつけるワインドタイプ、平膜を通水方向に重ねる積層タイプなど、通常使用される形状でよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の原子力発電プラントの水処理方法及び装置によれば、原子力発電プラントにて水の放射線分解により生成する過酸化水素などの酸化促進物質を効率よく分解できるので、脱塩装置に充填されているイオン交換樹脂の酸化劣化を防止し、処理水の水質を高純度に維持できるとともに、イオン交換樹脂の寿命を長くして放射性二次廃棄物となる使用済みイオン交換樹脂の発生量を低減することができる。
【0020】
また、本発明の水処理方法及び装置で用いるフィルタは、繊維間の隙間が大きいポリオレフィン性不織布を基材とするため、被処理水の通水抵抗が小さく、被処理水の通水量を大きく維持できるので、フィルタ処理を行わない場合や従来技術である活性炭やイオン交換樹脂などの中実微粒子を前処理として用いる場合と比較して、短い時間で効率よく被処理水中の酸化促進物質を分解できる。
【0021】
放射線暴露の影響を最小限に抑制することが求められる原子力発電プラントにおける水処理にとって、処理時間の短縮及び放射性二次廃棄物の減容化は重要な課題であり、これらを達成することができる本発明の意義は大きい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、放射性物質含有廃水を処理する場合の本発明の水処理装置のフローを示す概略構成図である。
図2図2は、燃料プール水を処理する場合の本発明の水処理装置のフローを示す概略構成図である。
図3図3は、実施例1の過酸化水素濃度が2mg/Lの場合の処理結果を示すグラフである。
図4図4は、実施例1の過酸化水素濃度が20mg/Lの場合の処理結果を示すグラフである。
図5図5は、実施例2の処理結果を示すグラフである。
【好ましい実施形態】
【0023】
以下、添付図面を参照しながら本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
図1に、放射性物質含有廃水を処理する場合の本発明の水処理装置の概略フローを示す。原子力発電プラントにおいて発生する放射性物質含有排水は、放射性物質含有廃水タンクである被処理水貯留槽1に貯留されている。被処理水は、被処理水貯留槽1から移送ポンプ2によってろ過装置4に送られ、酸化促進物質が分解された後、脱塩装置3に搬送されて脱塩処理される。脱塩処理後の処理水をサンプルタンク5に送り、処理水の性状を確認する。性状に問題がなければ、処理水は、脱塩装置3から移送ポンプ6によって純水タンク7に送られ、原子力発電プラント内での再利用に供されるか、環境基準に合致している場合には広域水域に放流される。
【0024】
図2に、燃料プール水を処理する場合の本発明の水処理装置の概略フローを示す。燃料プール8では、水中に保管されている燃料棒から出る放射線によって水が放射線分解され
ている。燃料プール8(被処理水貯留槽)からの燃料プール水(被処理水)は、移送ポンプ11によってろ過装置4に送られ、酸化促進物質が分解された後、脱塩装置3に送られて脱塩処理される。脱塩処理後の処理水は復水として、燃料プール8に戻される。
【0025】
図1及び図2において、ろ過装置4には、ポリオレフィン製不織布に放射線グラフト重合により導入されたイオン交換官能基と当該イオン交換官能基の一部に添着されている金属酸化物微粒子とを有するフィルタが充てんされている。フィルタの形態としては特に限定されず、プリーツフィルタ、ワインドフィルタなどを挙げることができる。脱塩装置3には、粒状イオン交換樹脂が充填されている。脱塩装置3内のイオン交換樹脂は、強酸性カチオン交換樹脂と強塩基性アニオン交換樹脂を体積比で1:3〜6:1の範囲で混合した混床形態が好ましい。
【0026】
ろ過装置4への被処理水の通水量は、線流速で0.1〜2m/h程度の範囲とすることが望ましい。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
[製造例1]マンガン酸化物添着アニオン交換フィルタの製造
繊維径15μmのポリエチレン繊維よりなる目付50g/m、厚さ0.3mmの不織布1枚(寸法21cm×30cm、3.16g)をチャック付ポリエチレン袋に入れ、ポリエチレン袋内部を窒素置換し、ガンマ線を150kGy照射した。不織布を取り出し、メタクリル酸グリシジル溶液に浸漬し、減圧条件下(0.67kPa)、45℃で5時間グラフト重合反応(前照射放射線グラフト重合)させた。不織布を取り出し、ジメチルホルムアミド溶液に浸漬して50℃で2時間洗浄した。その後、アセトン及びメタノールで洗浄し、乾燥して、グラフト済み不織布7.2gを得た。乾燥後の重量変化から算出したグラフト率は128%であった。次に、このグラフト済み不織布をイミノジエタノール30%水溶液に浸漬し、70℃で3時間反応させ、イミノジエタノール基を導入した。乾燥後、2.81meq/gの酸吸着容量を有する弱塩基性アニオン交換不織布を得た。
【0028】
次に、この弱塩基性アニオン交換不織布を0.2mol/Lの過マンガン酸カリウム水溶液中に室温で10分間浸漬して、イミノジエタノール基の少なくとも一部に過マンガン酸イオンを吸着させた。これを純水1リットルで3回洗浄した後、室温で乾燥した。その結果、不織布の色が濃い紫色から酸化マンガンの茶褐色へと速やかに変色し、マンガン酸化物添着アニオン交換フィルタが得られたことが確認できた。マンガン酸化物添着量は、添着に用いた過マンガン酸カリウムの量からMn投入量を求め、処理後に残留するMnイオン濃度は原子吸光光度計を用いて測定し、Mn投入量と残留量の差分から求めた。マンガン酸化物添着量はMnとして21.6g/mであった。
【0029】
[製造例2]マンガン酸化物添着カチオン交換フィルタの製造
ポリエチレンテレフタレート(PET)芯/ポリエチレン鞘の構造の直径15μmの繊維で構成される、目付55g/m、厚さ0.2mmの熱融着不織布1枚(寸法21cm×30cm、3.34g)をチャック付ポリエチレン袋に入れ内部を窒素置換し、ガンマ線を150kGy照射した。不織布を取り出し、メタクリル酸グリシジルに浸漬し、減圧条件下(0.67kPa)、45℃で4時間グラフト重合反応させた(前照射放射線グラフト重合)。不織布を取り出し、ジメチルホルムアミドに浸漬して50℃で2時間洗浄した。その後、アセトン及びメタノールで洗浄した後に乾燥し、不織布7.85gを得た。乾燥後の重量変化から算出したグラフト率135%であった。次に、このグラフト済み不織布をスルホン化液(8%の亜硫酸ナトリウム及び12%のイソプロピルアルコールを含む水溶液)に浸漬し、90℃で10時間反応させ、スルホン酸基を導入した。これを純水で洗浄した後、5%塩酸に浸漬・攪拌することでスルホン酸基をH型とし、再び純水で洗
浄、乾燥することにより、2.62meq/gの中性塩分解容量を有するカチオン交換不織布を得た。
【0030】
次に、このカチオン交換不織布を500mLの2%塩化マンガン(II)水溶液に30分間浸漬した。次に、不織布を200mLの1%次亜塩素酸ナトリウム水溶液(アルカリ性)中に浸漬することによって、カチオン交換不織布の繊維表面にマンガン酸化物を析出させ、マンガン酸化物添着カチオン交換フィルタを得た。マンガン酸化物添着量を製造例1と同様にして測定したところ、Mnとして66.1g/mであった。
【0031】
[実施例1]
製造例1により製造したマンガン酸化物添着アニオン交換フィルタを用いて、過酸化水素の分解能力を確認した。
【0032】
まず、製造例1で得たマンガン酸化物添着アニオン交換フィルタを2cm×2cmに切断してサンプルフィルタとした。200mlビーカーに過酸化水素水100mlを入れ、サンプルフィルタを浸漬させ、時間経過による過酸化水素濃度を測定した。対照は、サンプルフィルタを浸漬させなかった。過酸化水素濃度は2mg/Lと20mg/Lの2種類とした。結果を図3及び4に示す(○はサンプルフィルタの結果であり、●は対照の結果である)。
【0033】
図3及び4より、サンプルフィルタによる過酸化水素の分解能力が高いことがわかる。特に、過酸化水素濃度が高い図4では、マンガン酸化物添着アニオン交換フィルタの過酸化水素分解能力が極めて高く、浸漬後120分で50%を分解していることがわかる。
【0034】
[実施例2]
製造例2により製造したマンガン酸化物添着カチオン交換フィルタを用いて、過酸化水素の分解能力を確認した。
【0035】
製造例2により製造したマンガン酸化物添着カチオン交換フィルタ2を直径16mmの円形に切出し、内径16mmのガラスカラムに充填した。約2mg/Lに調整した過酸化水素水を流速3.5mL/min(線速度LV=1m/h)で通水することによってマンガン酸化物添着カチオン交換フィルタの過酸化水素除去性能を調べた。ガラスカラムに充填するマンガン酸化物添着カチオン交換フィルタを3枚及び5枚として、同様に過酸化水素除去性能を調べた。試験結果を図5に示す。図5において、縦軸は入口の過酸化水素濃度(C)に対する出口の過酸化水素濃度(C)の比を表している。マンガン酸化物添着カチオン交換フィルタが1枚の場合はC/C=0.4、すなわち分解率60%程度であった。マンガン酸化物添着カチオン交換フィルタを3枚又は5枚重ねると、6時間の通水試験でも破過しなかったことがわかる。このように、マンガン酸化物添着カチオン交換フィルタによりにより水中の過酸化水素が有効に分解されていることが確認できた。
【0036】
実施例1及び2と同様にして、フィルタ1層当たりのマンガン添着量がMnとして10〜100g/mの範囲のフィルタを製造し、過酸化水素除去性能を調べ、過酸化水素が分解可能であることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によれば、原子力発電プラントの燃料プール水、サイトバンカープール水、放射性物質含有廃水などに含まれる過酸化水素などの酸化促進物質を分解し、脱塩装置による被処理水の水質を高純度に維持するとともに、脱塩装置に使用しているイオン交換樹脂の寿命を延長して発生する廃棄物量を低減することが可能である。放射線暴露の影響を最小限に抑制することが求められる原子力発電プラントにおける水処理にとって、処理時間の
短縮及び放射性二次廃棄物の減容化は重要な課題であり、これらを達成することができる本発明の意義は大きい。
図1
図2
図3
図4
図5