特許第6077384号(P6077384)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6077384植物抽出物の含水溶液に含まれるピセアタンノールの安定化方法、及び、植物抽出物の含水溶液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6077384
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】植物抽出物の含水溶液に含まれるピセアタンノールの安定化方法、及び、植物抽出物の含水溶液
(51)【国際特許分類】
   C07C 37/88 20060101AFI20170130BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20170130BHJP
   A61K 36/00 20060101ALI20170130BHJP
   A61K 36/18 20060101ALI20170130BHJP
   C07C 39/21 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   C07C37/88
   A61K8/34
   A61K36/00
   A61K36/18
   C07C39/21
【請求項の数】14
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-102640(P2013-102640)
(22)【出願日】2013年5月14日
(65)【公開番号】特開2014-224051(P2014-224051A)
(43)【公開日】2014年12月4日
【審査請求日】2016年4月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006116
【氏名又は名称】森永製菓株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】木下 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】柳江 高次
【審査官】 鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−075831(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/070656(WO,A1)
【文献】 特開2009−102298(JP,A)
【文献】 特開2012−046448(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/113315(WO,A1)
【文献】 特開2012−000032(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/070836(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 37/88
A61K 8/34
A61K 36/00
A61K 36/18
C07C 39/21
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物抽出物(ただし、ブドウ(Vitaceae)抽出物を除く)の含水溶液に含まれるピセアタンノールの0〜40℃における安定化方法であって、前記溶液のpHを3.0〜4.5とする工程を含む、安定化方法。
【請求項2】
前記pHを3.0〜4.0とすることを特徴とする、請求項1に記載の安定化方法。
【請求項3】
前記植物抽出物が、パッションフルーツ種子抽出物、テンニンカ抽出物、または、ブラシノキ抽出物であることを特徴とする、請求項1または2に記載の安定化方法。
【請求項4】
前記植物抽出物が、前記植物から、水、エタノール、1,3−ブチレングリコール、または、これらから選択される2以上の溶媒の混合溶媒を溶媒として抽出された物であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の安定化方法。
【請求項5】
前記溶液の溶媒が、水、または、水とエタノールおよび/または1,3−ブチレングリコールとの混合溶媒であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の安定化方法。
【請求項6】
pHが3.0〜4.5に調整された、ピセアタンノールを含有する植物抽出物(ただし、ブドウ(Vitaceae)抽出物を除く)の含水溶液。
【請求項7】
pHが3.0〜4.0に調整された、請求項6に記載の溶液。
【請求項8】
前記植物抽出物が、パッションフルーツ種子抽出物、テンニンカ抽出物、または、ブラシノキ抽出物であることを特徴とする、請求項6または7に記載の溶液。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか1項に記載の溶液の製造方法であって、前記植物から、水、エタノール、1,3−ブチレングリコール、または、これらから選択される2以上の溶媒の混合溶媒を溶媒として前記植物抽出物を抽出する工程を含む製造方法
【請求項10】
前記溶液の溶媒が、水、または、水とエタノールおよび/または1,3−ブチレングリコールとの混合溶媒であることを特徴とする、請求項に記載の溶液の製造方法
【請求項11】
ピセアタンノールを含有する植物抽出物(ただし、ブドウ(Vitaceae)抽出物を除く)の製造方法であって、ピセアタンノールを含有する植物からピセアタンノールを含有する含水抽出液を調製する工程と、前記含水抽出液のpHを3.0〜4.5に調整する工程と、前記pHが調整された含水抽出液から植物抽出物を調製する工程とを含む、製造方法
【請求項12】
前記含水抽出液のpHが3.0〜4.0に調整された、請求項11に記載の植物抽出物の製造方法
【請求項13】
前記植物抽出物が、パッションフルーツ種子抽出物、テンニンカ抽出物、または、ブラシノキ抽出物であることを特徴とする、請求項11または12に記載の植物抽出物の製造方法
【請求項14】
前記含水抽出液が、前記植物から、水、エタノール、1,3−ブチレングリコール、または、これらから選択される2以上の溶媒の混合溶媒を溶媒として抽出されることを特徴とする、請求項11〜13のいずれか1項に記載の植物抽出物の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物抽出物の含水溶液に含まれるピセアタンノールの安定化方法、及び、植物抽出物の含水溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
パッションフルーツは、トケイソウ科トケイソウ属(Passiflora)の果物である。パッションフルーツの種子抽出物は、シミ、ソバカス、日焼けなどによる色素沈着の原因となるメラニンの生成を抑制する効果があり、この抑制効果の有効成分は、パッションフルーツの種子抽出物に含まれるピセアタンノールであることが報告されている(特許文献1を参照)。
また、テンニンカは、フトモモ科テンニンカ属(Rhodomyrtus)の常緑低木である。テンニンカ抽出物は、紫外線ダメージ回復効果があり、この回復効果の有効成分は、テンニンカ抽出物に含まれるピセアタンノールであることが報告されている(特許文献2を参照)。
ブラシノキはフトモモ科ブラシノキ属(Callistemon)の常緑の木本である。マキバブラシノキ(Callistemon rigidus)抽出物はMMP-2の阻害作用を有することが明らかとなっており、この阻害作用の有効成分の一つは、マキバブラシノキ抽出物に含まれるピセアタンノールであることが報告されている(非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−102298号公報
【特許文献2】特開2012− 46448号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】佐々木健郎他、東北薬科大学研究誌、57、61−65(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、植物抽出物の含水溶液に含まれるピセアタンノールの安定化方法、及び、植物抽出物の含水溶液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、パッションフルーツ種子の含水溶液に含まれるピセアタンノールは、時間の経過に伴って、別の化合物へと変換されることを見出した。さらに、パッションフルーツ種子抽出物の含水溶液のpHを、特定の範囲とすることによって、ピセアタンノールが別の化合物へと変換されるのを抑制できることを見出した。本発明は、これらの発見に基づき、完成されたものである。
【0007】
本発明に係る、植物抽出物(ただし、ブドウ(Vitaceae)抽出物を除く)の含水溶液に含まれるピセアタンノールの安定化方法は、溶液のpHを3.0〜4.5とする工程を含む。pHを3.0〜4.0とすることが好ましい。
【0008】
植物抽出物が、パッションフルーツ種子抽出物、テンニンカ抽出物、またはブラシノキ抽出物であることが好ましい。
【0009】
植物抽出物が、植物から、水、エタノール、1,3−ブチレングリコール、または、これらから選択される2以上の溶媒の混合溶媒を溶媒として抽出された物であることが好ましい。
また、溶液の溶媒が、水、または、水とエタノールおよび/または1,3−ブチレングリコールとの混合溶媒であることが好ましい。
【0010】
本発明に係るピセアタンノールを含有する植物抽出物(ただし、ブドウ(Vitaceae)抽出物を除く)の含水溶液は、pHが3.0〜4.5に調整されていることを特徴とする。pHが3.0〜4.0であることが好ましい。
【0011】
植物抽出物が、パッションフルーツ種子抽出物、テンニンカ抽出物、またはブラシノキ抽出物であることが好ましい。
【0012】
植物抽出物が、植物から、水、エタノール、1,3−ブチレングリコール、または、これらから選択される2以上の溶媒の混合溶媒を溶媒として抽出された物であることが好ましい。
また、溶液の溶媒が、水、または、水とエタノールおよび/または1,3−ブチレングリコールとの混合溶媒であることが好ましい。
【0013】
本発明に係るピセアタンノールを含有する植物抽出物(ただし、ブドウ(Vitaceae)抽出物を除く)は、ピセアタンノールを含有する植物からピセアタンノールを含有する含水抽出液を調製する工程と、含水抽出液のpHを3.0〜4.5に調整する工程と、pHが調整された含水抽出液から植物抽出物を調製する工程とを含む方法により製造される。pHが3.0〜4.0であることが好ましい。
【0014】
植物抽出物が、パッションフルーツ種子抽出物、テンニンカ抽出物、またはブラシノキ抽出物であることが好ましい。
【0015】
含水抽出液が、植物から、水、エタノール、1,3−ブチレングリコール、または、これらから選択される2以上の溶媒の混合溶媒を溶媒として抽出された抽出液であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によって、植物抽出物の含水溶液に含まれるピセアタンノールの安定化方法、及び、植物抽出物の含水溶液を提供することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る、保存開始時から1ヶ月後の、ピセアタンノールの残存率を示すグラフである。
図2】本発明の一実施形態に係る、保存開始時から2ヶ月後の、ピセアタンノールの残存率を示すグラフである。
図3】本発明の一実施形態に係る、保存開始時から3.5ヶ月後の、ピセアタンノールの残存率を示すグラフである。
図4】本発明の一実施形態に係る、保存開始時から6ヶ月後の、ピセアタンノールの残存率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、上記知見に基づき完成した本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。なお、本発明の目的、特徴、利点、および、そのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をこれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0019】
==植物抽出物の含水溶液に含まれるピセアタンノールの安定化方法==
本発明の一実施形態である、植物抽出物(ただし、ブドウ(Vitaceae)抽出物を除く)の含水溶液に含まれるピセアタンノールの安定化方法は、溶液のpHを3.0〜4.5(3.0以上4.5以下)とする工程を含む。
【0020】
植物抽出物を得るための植物の種類は、ピセアタンノールを含む植物(ただし、ブドウ(Vitaceae)を除く)であれば特に限定されず、パッションフルーツ(例えば、Passiflora edulis、Passiflora alata、Passiflora amethystine、Passiflora antioquiensis、Passiflora biflora、Passiflora buonapartea、Passiflora capsularis、Passiflora cearensis、Passiflora coccinea、Passiflora cochinchinesis、Passiflora filamentosa、Passiflora herbertiana、Passiflora laurifolia、Passiflora ligularis、Passiflora lunata、Passiflora lutea、Passiflora maliformis、Passiflora mixta、Passiflora mucronata、Passiflora mollissima、Passiflora nibiba、Passiflora organensis、Passiflora pallida、Passiflora parahypensis、Passiflora pedeta、Passiflora pinnatistipula、Passiflora popenovii、Passiflora quadrangularis、Passiflora riparia、Passiflora rubra、Passiflora serrate、Passiflora tiliaefolia、Passiflora tripartite、Passiflora villosa、Passiflora warmingiiなど)(例えば種子)、テンニンカ(例えば、Rhodomyrtus tomentosaなど)、ブラシノキ(例えば、Callistemon rigidusなど)(例えば茎)、カラガナチベチカ(Caragana tibetica)(例えば茎)、イタドリ(Fallopia japonica)(例えば根)、落花生(Arachis hypogaea)、ブドウ(Vitaceae)(例え
ば果実)、ブルーベリー(Cyanococcus)(例えば果実)、ディアベリー(Vaccinium stamineum)(例えば果実)などが挙げられるが、例えば、ピセアタンノールを高濃度で含むことが知られている、パッションフルーツ、テンニンカ、または、ブラシノキであることが好ましい。テンニンカである場合には、植物全体のうち、どの部分であっても良いが、例えば、果実、花、種子、葉、枝、樹皮、幹、茎、または、根であっても良く、果実であることが好ましい。
【0021】
本発明で用いる植物抽出物は、植物から抽出された成分を含有し、この成分の少なくとも一部としてピセアタンノールを含む。植物抽出物の形状は、特に限定されず、例えば粉体などの固体状、アモルファス状、または、オイル状であっても良いが、抽出に用いた溶媒は実質的に除去されている。
植物抽出物の具体的な製造方法として、公知の方法を用いることができ、例えば、植物を、乾燥した後に、破砕、粉砕、または、切断などした後に、溶媒を用いて抽出する方法が挙げられる。用いる溶媒の種類は、当業者であれば適切に選択することができるが、例えば、水、メタノール、エタノール、アセトン、酢酸エチル、グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、2−プロパノール、1,4−ジオキサン、ヘキサン、クロロホルム、ジクロロメタン、または、これらから選択される2以上の混合溶媒であっても良く、水、エタノール、1,3−ブチレングリコール、または、これらから選択される2以上の溶媒の混合溶媒であることが好ましく、水、エタノール、または、水およびエタノールの混合溶媒であることがより好ましい。混合溶媒を用いる場合の、各溶媒の混合比は特に限定されないが、例えば水およびエタノールの混合溶媒を用いる場合には、水とエタノールとの体積比は、1:99〜99:1であっても良く、3:97〜80:20であることが好ましく、5:95〜50:50であることがより好ましく、10:90〜40:60であることがさらに好ましい。
溶媒として、水、または、水との混合溶媒を用いる場合には、熱水、または、熱水との混合溶媒であることが好ましい。水、または、水との混合溶媒は、塩を含んでいても良く、塩を含む溶媒の例として、バッファー(緩衝液)であっても良い。バッファーのpHは、特に限定されず、酸性、中性、または、アルカリ性のいずれであっても良いが、酸性であることが好ましく、pH1.0〜pH5.0の酸性であることがより好ましく、pH3.0〜pH4.5の酸性であることがさらに好ましく、pH3.0〜pH4.0の酸性であることが特に好ましい。バッファーに用いる塩の種類は特に限定されず、例として、クエン酸塩、リンゴ酸塩、リン酸塩、酢酸塩および炭酸塩などが挙げられるが、クエン酸リン酸バッファーであることが好ましい。
抽出液から溶媒を留去する方法は、特に限定されず公知の方法を用いることができるが、例えば、減圧留去、凍結乾燥、または、スプレードライ(噴霧乾燥)であっても良く、凍結乾燥、または、スプレードライであることが好ましく、スプレードライであることがより好ましい。
【0022】
植物抽出物の含水溶液を製造する方法は、特に限定されず公知の方法を用いることができるが、例えば、植物抽出物を希釈することによって製造しても良く、もしくは、植物抽出物の少なくとも一部を溶媒で溶解することによって製造しても良い。または、植物抽出物を製造する過程で得られる抽出液を、そのまま、植物抽出物の溶液として用いても良く、もしくは、抽出液を希釈、濃縮、もしくは濃縮及び希釈したものを、植物抽出物の溶液として用いても良い。植物抽出物の含水溶液の形状は、そのpHを測定できる程度に水を含んでいれば特に限定されず、例えば澄んだ含水溶液、濁りや沈殿が生じた含水溶液(懸濁液)、または、含水スラリーであっても、本明細書では、植物抽出物の含水溶液に含まれるものとする。
植物抽出物を溶解もしくは希釈する溶媒、または、抽出液を希釈する際に用いる溶媒の種類は、上述のように、植物抽出物の含水溶液が、そのpHを測定できる程度に溶媒として水を含有すれば特に限定されないが、例えば、水、または、水と、メタノール、エタノール、アセトン、グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、2−プロパノール、及び、1,4−ジオキサンからなる群から選択される1以上の溶媒との混合溶媒であっても良く、水、または、水とエタノールおよび/または1,3−ブチレングリコールとの混合溶媒であることが好ましく、水、エタノール、または、水およびエタノールの混合溶媒であることがより好ましい。混合溶媒を用いる場合の、各溶媒の混合比は特に限定されない。水、または、水との混合溶媒は、塩を含んでいても良く、塩を含む溶媒の例として、バッファーであっても良い。
なお、植物抽出物の含水溶液の形状は、上述したように、濁りや沈殿が生じた含水溶液(懸濁液)であっても良いが、この場合には、沈殿や濁りは、例えばろ過、遠心分離、または、デカンテーションなどの方法により除去することが好ましい。
また、植物抽出物の含水溶液は、ピセアタンノール以外の植物から抽出された成分を含んでも良い。
【0023】
植物抽出物の含水溶液のpHを、3.0〜4.5という狭い特定の範囲とすることによって、ピセアタンノールが、別の化合物へと変換されるのを抑制することができる。即ち、ピセアタンノールの安定性を向上させることができる。さらに、含水溶液のpHを、3.0〜4.0というより狭い特定の範囲とすることによって、ピセアタンノールの安定性を飛躍的に向上させることができる。
pHをこれらの範囲内の値にする方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、植物抽出物の含水溶液に、酸もしくはアルカリを加えても良く、または、植物抽出物の含水溶液の溶媒としてpHが3.0〜4.5付近のバッファーを用いても良い。バッファーに用いる塩の種類は、pHが3.0〜4.5付近で緩衝作用があるものであれば特に限定されず、例として、クエン酸塩、リンゴ酸塩、リン酸塩および酢酸塩などが挙げられるが、クエン酸塩およびリン酸塩であることが好ましい。これらバッファーの濃度は、特に限定されないが、0.1mM〜1Mであっても良く、1mM〜500mMであることが好ましく、10mM〜100mMであることがより好ましい。
植物抽出物の含水溶液のpHをこれらの範囲内の値にするタイミングは特に限定されず、上述したように植物抽出物またはその含水溶液を製造する工程の途中で、酸もしくはアルカリを添加しても良く、植物抽出物またはその含水溶液を製造した後で、酸もしくはアルカリを添加しても良い。
なお、植物抽出物の含水溶液は、含まれるピセアタンノールの安定性が著しく損なわれない限り、植物抽出物以外の物質を含んでいても良く、このような物質として、例えば、シクロデキストリンなどのデキストリン、及び、アスコルビン酸などの抗酸化剤が挙げられるが、例えば、ウィルスや生きた細胞は含まないことが好ましい。なお、植物抽出物が、パッションフルーツ種子抽出物である場合には、植物抽出物の含水溶液は、パッションフルーツの果肉の抽出物を含んでいても良く含まなくても良いが、実質的に含まないことが好ましい。
植物抽出物の含水溶液中には、植物抽出物が由来する植物から抽出されたピセアタンノール以外に、別途抽出または合成されたピセアタンノールが添加されていても良い。
【0024】
上述のように、本発明に係る安定化方法によれば、植物抽出物の含水溶液に含まれるピセアタンノールを安定化することができる。この結果、植物抽出物の含水溶液を、ピセアタンノールを高濃度に保ったまま、長期間保存することが可能となる。
【0025】
==pHが3.0〜4.5に調整されたピセアタンノールを含有する植物抽出物の含水溶液==
本発明の一実施形態であるピセアタンノールを含有する植物抽出物(ただし、ブドウ(Vitaceae)抽出物を除く)の含水溶液は、pHが3.0〜4.5に調整されたことを特徴とする。含水溶液のpHを、このような狭い特定の範囲に調整することによって、含水溶液に含まれるピセアタンノールが別の化合物へと変換されるのを抑制し、その安定性を向上させることができる。
例えば、本願実施例が示すように、植物抽出物の含水溶液を、20℃にて1ヶ月保存した後で比較すると、pHが3.0〜4.5に調整された水溶液では、ピセアタンノールが保存開始時の65%以上残存するのに対し、pHがこれ以外の領域では、半分未満しか残らないという顕著な差が生じる。20℃で2ヵ月保存した後で比較すると、この差はより明確になり、pHが3.0〜4.5の水溶液では、ピセアタンノールが40%以上残存するのに対し、pHがこれ以外の領域では、pHが3.0〜4.5の水溶液の約半分量以下しか残存しないという顕著な差が生じる。さらに、20℃にて3.5ヶ月保存した後で比較すると、pHが3.0〜4.5に調整された水溶液では、ピセアタンノールが保存開始時の約20%〜35%残存するのに対し、pHがこれ以外の領域では、0%〜3%しか残存しないという顕著な差が生じる。
即ち、pHが3.0〜4.5に調整されてから20日間〜40日間保存された含水溶液、50日間〜70日間保存された含水溶液、及び、95日間〜115日間保存された含水溶液が、それぞれ、上述のような効果を奏する。なお、含水溶液のpHが3.0〜4.5に調整された後、保存期間中にそのpHを3.0〜4.5に再度調整しても良く、再度の調整は行わなくても良い。
【0026】
加えて、含水溶液のpHを、3.0〜4.0というより狭い特定の範囲とすることによって、ピセアタンノールの安定性を飛躍的に向上させることができる。例えば、本願実施例が示すように、20℃にて6ヶ月保存した後で比較すると、pHが3.0〜4.0に調整された水溶液では、ピセアタンノールが残存するのに対し、pHがこれ以外の領域では全く残らないというさらに顕著な差が生じる。
即ち、pHが3.0〜4.0に調整されてから5ヶ月間〜7ヶ月間保存された含水溶液は、上述のような効果を奏する。含水溶液のpHが3.0〜4.0に調整された後、保存期間中にそのpHを3.0〜4.0に再度調整しても良く、再度の調整は行わなくても良い。
【0027】
なお、本願実施例では、室温のモデルケースとして20℃における保存試験を行っており、本発明に係る安定化方法は、少なくとも「室温」といわれる温度範囲において実施することができる。ここで、「室温」とは、当業者、及び、本発明に係る植物抽出物の含水溶液を使用する消費者にとっての通常の意味で用いられるが、例えば、0℃〜40℃であっても良く、5℃〜35℃であることが好ましく、10℃〜30℃であることがより好ましい。
【0028】
pHが3.0〜4.5に調整された植物抽出物の含水溶液の製造方法は、特に限定されないが、例えば、上述の「植物抽出物の含水溶液に含まれるピセアタンノールの安定化方法」を参照することによって製造できる。
植物抽出物の含水溶液の使用方法は特に限定されないが、含水溶液には、ピセアタンノールが長期間、高濃度で含まれることから、ピセアタンノールの含水溶液を効率的に保存することができ、また、ヒト及びヒト以外の動物や細胞などを対象として、食品、化粧品、医薬、または試薬などとして、非常に効率的に投与、摂取、または混合することが可能である。
植物抽出物の含水溶液を使用する際は、さらに濃縮や希釈をしてもよく、どのような最終の使用形状にするかは、当業者が適宜決めることができる。
==含水抽出液のpHを3.0〜4.5に調整する工程を含む方法により製造された、ピセアタンノールを含有する植物抽出物==
本発明の一実施形態であるピセアタンノールを含有する植物抽出物(ただし、ブドウ(Vitaceae)抽出物を除く)は、ピセアタンノールを含有する植物からピセアタンノールを含有する含水抽出液を調製する工程と、前記含水抽出液のpHを3.0〜4.5、好ましくはpHを3.0〜4.0に調整する工程と、前記pHが調整された含水抽出液から植物抽出物を調製する工程とを含む方法により製造されたことを特徴とする。ピセアタンノールを含有する含水抽出液のpHを、このような狭い特定の範囲にすることによって、抽出液に含まれるピセアタンノールが別の化合物へと変換されるのを抑制し、その安定性を向上させることができるため、高濃度でピセアタンノールを含有する植物抽出物とすることができる。
このような植物抽出物は、具体的には、例えば、上述した「植物抽出物の含水溶液に含まれるピセアタンノールの安定化方法」及び「pHが3.0〜4.5に調整されたピセアタンノールを含有する植物抽出物の含水溶液」の欄を参照することによって製造することができる。
また、このような植物抽出物の使用方法は特に限定されないが、植物抽出物には、ピセアタンノールが高濃度で含まれることから、ヒト及びヒト以外の動物、またはそれらの細胞などを対象として、食品、化粧品、医薬、試薬、または、医薬部外品などとして、非常に効率的に投与、摂取、または混合することが可能である。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、下記の実施例は本発明の範囲を限定するために記載されるものではない。
【0030】
パッションフルーツ(Passiflora edulis)の種子を破砕し、含水エタノール(水:エタノール=20:80(v/v))で抽出した。含水エタノール抽出溶液を、適量にまで濃縮した後、スプレードライすることによって、パッションフルーツ種子抽出物を粉体として得た。得られた抽出物の組成を調べたところ、ピセアタンノールを含有していた。
このパッションフルーツ種子抽出物50mgを、pH2.0の塩酸水溶液10mL、または、pH2.5、pH3.0、pH3.5、pH4.0、pH4.5もしくはpH5.0の50mMクエン酸リン酸バッファー10mLに、室温にて溶解させることによって、各pHの抽出物水溶液を得た。
【0031】
得られた抽出物水溶液10mLを、スクリューバイアル管にそれぞれ移した。各スクリューバイアル管を、アルミ箔を用いて遮光した後に、室温のモデルとして20℃に保たれた恒温器中で6ヶ月間保存した。
保存開始時、保存開始から1ヵ月後、2ヵ月後、3.5ヵ月後、そして、6ヵ月後の時に、各抽出物水溶液に含まれるピセアタンノールの量を、下記の条件のHPLCにより測定した。
【0032】
[HPLC条件]
・カラム:Mightysil RP-18 GP250-10 径10 mm、長さ250 mm(関東化学株式会社製)
・カラム温度:40℃
・溶出条件:流速3mL/min、0%メタノール−100%純水 → 30%メタノール−70%純水(グラジエント、10min)
・UV検出:280nm
【0033】
保存開始時のピセアタンノールの量を100とした場合の、保存開始から1ヵ月後のピセアタンノールの量の測定結果を図1に、2ヵ月後の測定結果を図2に、3.5ヵ月後の測定結果を図3に、そして、6ヵ月後の測定結果を図4に示す。
【0034】
図1が示すように、パッションフルーツ種子抽出物の保存を開始してから1ヵ月が経過した後であっても、pHが3.0〜4.5の水溶液では、ピセアタンノールが65%以上残存していた。これに対し、pH2.5及びpH5.0の水溶液では、ピセアタンノールは半分未満しか残存しておらず、pH2.0の水溶液では4分の1以下しか残存していなかった。
さらに、図2が示すように、パッションフルーツ種子抽出物の保存を開始してから2ヵ月が経過した後には、この差はより明確になり、pHが3.0〜4.5の水溶液では、ピセアタンノールが40%以上残存していたのに対し、pH2.5及びpH5.0の水溶液では、pHが3.0〜4.5の水溶液の約半分量しか残存しておらず、pH2.0の水溶液では、Hが3.0〜4.5の水溶液の1割程度した残存していなかった。
そして、図3が示すように、パッションフルーツ種子抽出物の保存を開始してから3.5ヵ月が経過した後には、pHが3.0〜4.5の水溶液では、ピセアタンノールが保存開始時の約20%〜35%残存するのに対し、pH2.0、pH2.5及びpH5.0の水溶液では、0%〜3%しか残存しないという顕著な差が生じた。
【0035】
加えて、図4が示すように、パッションフルーツ種子抽出物の保存を開始してから6ヵ月が経過した後には、pHが3.0〜4.0の水溶液では、ピセアタンノールが残存するのに対し、pH2.0、pH2.5及びpH5.0の水溶液では、ピセアタンノールは全く残存していなかったというさらに顕著な差が生じた。
【0036】
このように、パッションフルーツ種子抽出物の溶液のpHを3.0〜4.5に調整することによって、溶液に含まれるピセアタンノールの安定性が飛躍的に向上した。加えて、溶液のpHを3.0〜4.0にすることによって、溶液に含まれるピセアタンノールの安定性がさらに飛躍的に向上した。
図1
図2
図3
図4