特許第6077626号(P6077626)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6077626
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコールフィルム
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20170130BHJP
   G02F 1/1335 20060101ALI20170130BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   G02B5/30
   G02F1/1335 510
   C08J5/18CEX
【請求項の数】2
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-211724(P2015-211724)
(22)【出願日】2015年10月28日
(62)【分割の表示】特願2012-28069(P2012-28069)の分割
【原出願日】2012年2月13日
(65)【公開番号】特開2016-48382(P2016-48382A)
(43)【公開日】2016年4月7日
【審査請求日】2015年10月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】特許業務法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高藤 勝啓
(72)【発明者】
【氏名】磯▲ざき▼ 孝徳
【審査官】 吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−279751(JP,A)
【文献】 特開平05−232316(JP,A)
【文献】 特開2001−302867(JP,A)
【文献】 特開平07−120616(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/071093(WO,A1)
【文献】 特開2009−013368(JP,A)
【文献】 特開2011−252937(JP,A)
【文献】 特開2003−268128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコールフィルムの幅方向の任意の1直線上において一方の端をX、他方の端をYおよび幅方向中央部をZとし、XからYに向かって幅に対する長さが10%になるまでの範囲Aにおけるポリビニルアルコールフィルムの膨潤度を膨潤度A(%)とし、YからXに向かって幅に対する長さが10%になるまでの範囲Bにおけるポリビニルアルコールフィルムの膨潤度を膨潤度B(%)とし、ZからXに向かって幅に対する長さが30%になるまでの範囲Cにおけるポリビニルアルコールフィルムの膨潤度を膨潤度C(%)とし、ZからYに向かって幅に対する長さが30%になるまでの範囲Dにおけるポリビニルアルコールフィルムの膨潤度を膨潤度D(%)とし、XよりYに向かって幅に対する長さが10%になる位置から、XよりYに向かって幅に対する長さが20%になる位置までの範囲Eにおけるポリビニルアルコールフィルムの膨潤度を膨潤度E(%)とし、YよりXに向かって幅に対する長さが10%になる位置から、YよりXに向かって幅に対する長さが20%になる位置までの範囲Fにおけるポリビニルアルコールフィルムの膨潤度を膨潤度F(%)とした際に、下記式(1)〜(3)、(7)及び(8)を満たす、ポリビニルアルコールフィルムであって、
前記膨潤度Aが220〜250(%)であり、かつ
前記ポリビニルアルコールフィルムに用いられるポリビニルアルコールの重合度が2000〜4000である、
ポリビニルアルコールフィルム。
1.10≦膨潤度A/膨潤度C≦1.25 (1)
1.10≦膨潤度B/膨潤度D≦1.25 (2)
|膨潤度A−膨潤度B|≦5 (3)
1.10≦膨潤度A/膨潤度E≦1.25 (7)
1.10≦膨潤度B/膨潤度F≦1.25 (8)
【請求項2】
請求項1に記載のポリビニルアルコールフィルムを用いて製造した偏光フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光フィルム製造用の原反フィルムとして好適なポリビニルアルコールフィルムおよびその製造方法ならびに当該ポリビニルアルコールフィルムを用いて得られる偏光フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
光の透過および遮蔽機能を有する偏光板は、光の偏光状態を変化させる液晶と共に液晶ディスプレイ(LCD)の基本的な構成要素である。LCDは、電卓および腕時計などの小型機器、ノートパソコン、液晶モニター、液晶カラープロジェクター、液晶テレビ、車載用ナビゲーションシステム、携帯電話、屋内外で用いられる計測機器などの広範囲において用いられるようになっている。これらLCDの適用分野のうち液晶テレビや液晶モニターなどでは大型化や薄型化が進んでおり、それに用いられるLCDでは、明るく、高いコントラストを有することが求められている。上記課題を達成するため、偏光板には透過率および偏光度といった偏光性能に優れることが求められている。一方で、偏光板には収率の向上も強く求められている。
【0003】
偏光板は、通常、原反フィルムとなるポリビニルアルコールフィルムに対して、染色、一軸延伸、および必要に応じてさらにホウ素化合物等による固定処理を施して偏光フィルムを製造した後、その偏光フィルムの表面に三酢酸セルロース(TAC)フィルムなどの保護膜を貼り合わせることによって製造される。したがって、偏光板の偏光性能および収率を向上させるためには、原料となる偏光フィルムの偏光性能および収率を向上させることも必要となる。
【0004】
ところで、偏光フィルムにおける幅方向全体の偏光度を向上させ色斑を低減することのできるポリビニルアルコールフィルムとして、フィルムの幅方向の膨潤度が調整されたポリビニルアルコールフィルムが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−155995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されているポリビニルアルコールフィルムを用いて得られた偏光フィルムでは未だ偏光性能が不十分であり、近年の液晶テレビや液晶モニターに要求されるレベルの性能を満たすことが困難であった。また、偏光性能を向上させるためには特殊な偏光フィルム製造装置が必要なため、偏光フィルムの大型化や収率向上が難しく、さらなる改善が求められていた。
【0007】
そこで本発明は、高い偏光性能を有する偏光フィルムを容易に製造することができると共に、安定して高倍率まで延伸することができて偏光フィルムの収率を向上させることのできるポリビニルアルコールフィルムおよびその製造方法、ならびに当該ポリビニルアルコールフィルムを用いて得られる高い偏光性能を有する偏光フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、ポリビニルアルコールフィルムを熱処理する際にその熱処理温度の幅方向の分布を特定のものとすることにより、得られるポリビニルアルコールフィルムの膨潤度の幅方向の分布を特定のものとすることができること、および、このような熱処理されたポリビニルアルコールフィルムを原反フィルムとして用いて偏光フィルムを製造すると安定して高倍率まで延伸することができ、得られる偏光フィルムが高い偏光性能を発現することを見出し、これらの知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、
[1]ポリビニルアルコールフィルムの幅方向の任意の1直線上において一方の端をX、他方の端をYおよび幅方向中央部をZとし、XからYに向かって幅に対する長さが10%になるまでの範囲Aにおけるポリビニルアルコールフィルムの膨潤度を膨潤度A(%)とし、YからXに向かって幅に対する長さが10%になるまでの範囲Bにおけるポリビニルアルコールフィルムの膨潤度を膨潤度B(%)とし、ZからXに向かって幅に対する長さが30%になるまでの範囲Cにおけるポリビニルアルコールフィルムの膨潤度を膨潤度C(%)とし、ZからYに向かって幅に対する長さが30%になるまでの範囲Dにおけるポリビニルアルコールフィルムの膨潤度を膨潤度D(%)とし、XよりYに向かって幅に対する長さが10%になる位置から、XよりYに向かって幅に対する長さが20%になる位置までの範囲Eにおけるポリビニルアルコールフィルムの膨潤度を膨潤度E(%)とし、YよりXに向かって幅に対する長さが10%になる位置から、YよりXに向かって幅に対する長さが20%になる位置までの範囲Fにおけるポリビニルアルコールフィルムの膨潤度を膨潤度F(%)とした際に、下記式(1)〜(3)、(7)及び(8)を満たす、ポリビニルアルコールフィルムであって、
前記膨潤度Aが220〜250(%)であり、かつ
前記ポリビニルアルコールフィルムに用いられるポリビニルアルコールの重合度が2000〜4000である、
ポリビニルアルコールフィルム、
1.10≦膨潤度A/膨潤度C≦1.25 (1)
1.10≦膨潤度B/膨潤度D≦1.25 (2)
|膨潤度A−膨潤度B|≦5 (3)
1.10≦膨潤度A/膨潤度E≦1.25 (7)
1.10≦膨潤度B/膨潤度F≦1.25 (8)
[2]上記[1]のポリビニルアルコールフィルムを用いて製造した偏光フィルム、
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高い偏光性能を有する偏光フィルムを容易に製造することができると共に、安定して高倍率まで延伸することができて偏光フィルムの収率を向上させることのできるポリビニルアルコールフィルムおよびその製造方法、ならびに当該ポリビニルアルコールフィルムを用いて得られる高い偏光性能を有する偏光フィルムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明における範囲A〜Fを示す概念図である。
図2】本発明における範囲a〜fを示す概念図である。
図3】膨潤度Aを測定するためのポリビニルアルコールフィルムのサンプリング位置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明のポリビニルアルコールフィルムは、その幅方向の任意の1直線上において一方の端をX、他方の端をYおよび幅方向中央部をZとし、XからYに向かって幅に対する長さが10%になるまでの範囲Aにおけるポリビニルアルコールフィルムの膨潤度を膨潤度A(%)とし、YからXに向かって幅に対する長さが10%になるまでの範囲Bにおけるポリビニルアルコールフィルムの膨潤度を膨潤度B(%)とし、ZからXに向かって幅に対する長さが30%になるまでの範囲Cにおけるポリビニルアルコールフィルムの膨潤度を膨潤度C(%)とし、ZからYに向かって幅に対する長さが30%になるまでの範囲Dにおけるポリビニルアルコールフィルムの膨潤度を膨潤度D(%)とした際に、下記式(1)〜(3)を満たす。
1.10≦膨潤度A/膨潤度C≦1.25 (1)
1.10≦膨潤度B/膨潤度D≦1.25 (2)
|膨潤度A−膨潤度B|≦5 (3)
【0013】
上記の範囲A〜Dについて図1に示した概略図を用いて説明する。図1において、ポリビニルアルコールフィルムFの幅方向の任意の1直線L上における当該ポリビニルアルコールフィルムの任意の一方の端がXであり他方の端がYである。また、当該直線L上におけるポリビニルアルコールフィルムの幅方向中央部がZである。そして、ポリビニルアルコールフィルムの幅を100%とした際に、XからYに向かって幅に対する長さが10%になるまでの範囲が範囲Aであり、YからXに向かって幅に対する長さが10%になるまでの範囲が範囲Bであり、ZからXに向かって幅に対する長さが30%になるまでの範囲が範囲Cであり、ZからYに向かって幅に対する長さが30%になるまでの範囲が範囲Dである。なお、範囲A〜Dにおけるポリビニルアルコールフィルムとは、各範囲近傍のポリビニルアルコールフィルムを示す。
【0014】
膨潤度Aおよび膨潤度Cは、1.10≦膨潤度A/膨潤度C≦1.25の関係にあることが必要であり、1.11≦膨潤度A/膨潤度C≦1.24の関係にあることが好ましく、1.12≦膨潤度A/膨潤度C≦1.23の関係にあることがより好ましい。膨潤度A/膨潤度Cが1.10未満であると得られる偏光フィルムの偏光度が低下する。一方、膨潤度A/膨潤度Cが1.25を超えるとポリビニルアルコールフィルムの両端部に大きな皺が発生し、偏光フィルム製造用の原反フィルムとして不適である。
【0015】
膨潤度Bおよび膨潤度Dについても上記した膨潤度Aおよび膨潤度Cの関係と同様、1.10≦膨潤度B/膨潤度D≦1.25の関係にあることが必要であり、1.11≦膨潤度B/膨潤度D≦1.24の関係にあることが好ましく、1.12≦膨潤度B/膨潤度D≦1.23の関係にあることがより好ましい。膨潤度B/膨潤度Dが1.10未満であると得られる偏光フィルムの偏光度が低下する。一方、膨潤度B/膨潤度Dが1.25を超えるとポリビニルアルコールフィルムの両端部に大きな皺が発生し、偏光フィルム製造用の原反フィルムとして不適である。
【0016】
また膨潤度Aと膨潤度Bとの差の絶対値(|膨潤度A−膨潤度B|)について、|膨潤度A−膨潤度B|≦5の関係にあることが必要であり、|膨潤度A−膨潤度B|≦4の関係にあることが好ましく、|膨潤度A−膨潤度B|≦3の関係にあることがより好ましい。|膨潤度A−膨潤度B|が5を超えると安定して高倍率まで延伸することができない。
【0017】
膨潤度Cと膨潤度Dとの差の絶対値(|膨潤度C−膨潤度D|)については、幅方向により均一なポリビニルアルコールフィルム、ひいては偏光フィルムを得る観点から、|膨潤度C−膨潤度D|≦5の関係にあることが好ましく、|膨潤度C−膨潤度D|≦3の関係にあることがより好ましく、|膨潤度C−膨潤度D|≦2の関係にあることがさらに好ましい。
【0018】
本発明を何ら限定するものではないが、本発明のポリビニルアルコールフィルムによって、高い偏光性能を有する偏光フィルムを容易に製造することができると共に、安定して高倍率まで延伸することができて偏光フィルムの収率を向上させることができる理由としては、次のことが考えられる。すなわち、通常、ポリビニルアルコールフィルムを一軸延伸するとネックインが起こるが、従来の一般的なポリビニルアルコールフィルムでは幅方向端部においてネックインが最も大きく一軸延伸により生じる応力も高いと考えられる。これに対して本発明のポリビニルアルコールフィルムでは、膨潤、染色、一軸延伸など水と接触させる処理を施した際に、膨潤度が相対的に低い範囲Cおよび範囲Dにおける部分が範囲Aおよび範囲Bにおける部分よりも硬くなって一軸延伸時に応力が集中し、その結果、幅方向に応力を分散させることができて、上記の効果が奏されるものと考えられる。
【0019】
本発明のポリビニルアルコールフィルムは、X、YおよびZを規定する上記した幅方向の1直線上において、XよりYに向かって幅に対する長さが10%になる位置から、XよりYに向かって幅に対する長さが20%になる位置までの範囲Eにおけるポリビニルアルコールフィルムの膨潤度を膨潤度E(%)とし、YよりXに向かって幅に対する長さが10%になる位置から、YよりXに向かって幅に対する長さが20%になる位置までの範囲Fにおけるポリビニルアルコールフィルムの膨潤度を膨潤度F(%)とした際に、下記式(7)および(8)を満たすことが必要である
1.10≦膨潤度A/膨潤度E≦1.25 (7)
1.10≦膨潤度B/膨潤度F≦1.25 (8)
上記式(7)および(8)を満たすポリビニルアルコールフィルムを用いることによって、より幅広の偏光フィルムを製造することができる。得られる偏光フィルムの幅の観点から、膨潤度Aおよび膨潤度Eは、1.11≦膨潤度A/膨潤度E≦1.24の関係にあることが好ましく、1.12≦膨潤度A/膨潤度E≦1.23の関係にあることがより好ましい。同様に、膨潤度Bおよび膨潤度Fは、1.11≦膨潤度B/膨潤度F≦1.24の関係にあることが好ましく、1.12≦膨潤度B/膨潤度F≦1.23の関係にあることがより好ましい。
【0020】
膨潤度Aは220〜250%であることが必要であり、222〜248%が好ましく、224〜246%がより好ましい。膨潤度Aが220%以上であると、より安定して高倍率まで延伸することができる。一方、膨潤度Aが250%以下であると、高温で延伸した場合であってもフィルムが溶解しにくいためより円滑に延伸することができる。
【0021】
同様に、膨潤度Bは220〜250%が好ましく、222〜248%がより好ましく、224〜246%がさらに好ましい。膨潤度Bが220%以上であると、より安定して高倍率まで延伸することができる。一方、膨潤度Aが250%以下であると、高温で延伸した場合であってもフィルムが溶解しにくいためより円滑に延伸することができる。
【0022】
膨潤度Cは180〜220%が好ましく、185〜215%がより好ましく、190〜210%がさらに好ましい。膨潤度Cが180%以上であると、水による可塑効果が高くなって、より安定して高倍率まで延伸することができる。一方、膨潤度Cが220%以下であることによっても、より安定して高倍率まで延伸することができる。
【0023】
同様に、膨潤度Dは180〜220%が好ましく、185〜215%がより好ましく、190〜210%がさらに好ましい。膨潤度Dが180%以上であると、水による可塑効果が高くなって、より安定して高倍率まで延伸することができる。一方、膨潤度Dが220%以下であることによっても、より安定して高倍率まで延伸することができる。
【0024】
さらに、膨潤度Eは180〜250%が好ましく、185〜230%がより好ましく、190〜210%がさらに好ましい。同様に、膨潤度Fは180〜250%が好ましく、185〜230%がより好ましく、190〜210%がさらに好ましい。
【0025】
膨潤度A〜D、場合によりさらに膨潤度Eおよび膨潤度Fに係る上記の関係は、ポリビニルアルコールフィルムの幅方向の任意の1直線上において規定される範囲A〜D、場合によりさらに範囲Eおよび範囲Fにおいて上記の関係を満たしていればよいが、長さ方向により均一なポリビニルアルコールフィルム、ひいては偏光フィルムを得る観点から、ポリビニルアルコールフィルムの長さ方向の連続または非連続の50%以上の範囲において、幅方向のいずれの直線上において規定される範囲A〜D、場合によりさらに範囲Eおよび範囲Fにおいても上記関係を満たしていることが好ましく、ポリビニルアルコールフィルムの長さ方向の連続または非連続の80%以上の範囲において、幅方向のいずれの直線上において規定される範囲A〜D、場合によりさらに範囲Eおよび範囲Fにおいても上記関係を満たしていることがより好ましく、ポリビニルアルコールフィルムの長さ方向の連続または非連続の95%以上の範囲において、幅方向のいずれの直線上において規定される範囲A〜D、場合によりさらに範囲Eおよび範囲Fにおいても上記関係を満たしていることがさらに好ましい。
【0026】
本発明において、範囲A〜Fにおけるポリビニルアルコールフィルムの膨潤度とは各範囲近傍のポリビニルアルコールフィルム(例えば、幅が各範囲に対応し、長さが各範囲を決める1直線(図1における直線L)を中心とし長さ方向に各10cm(長さ方向に合計20cm)採るようにサンプリングした矩形のポリビニルアルコールフィルム)の膨潤度を意味し、当該各範囲近傍のポリビニルアルコールフィルムを30℃の蒸留水中に30分間浸漬した際の質量を、浸漬後105℃で16時間乾燥した後の質量で除して得られる値の百分率として求めることができ、具体的には実施例において後述する方法により測定することができる。
【0027】
本発明において使用されるポリビニルアルコールとしては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、酢酸イソプロペニル等のビニルエステルの1種または2種以上を重合して得られるポリビニルエステルをけん化することにより得られるものを使用することができる。上記のビニルエステルの中でも、ポリビニルアルコールの製造の容易性、入手容易性、コスト等の点から、酢酸ビニルが好ましい。
【0028】
上記のポリビニルエステルは、単量体として1種または2種以上のビニルエステルのみを用いて得られたものが好ましく、単量体として1種のビニルエステルのみを用いて得られたものがより好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、1種または2種以上のビニルエステルと、これと共重合可能な他の単量体との共重合体であってもよい。
【0029】
上記のビニルエステルと共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等の炭素数2〜30のα−オレフィン;(メタ)アクリル酸またはその塩;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、(メタ)アクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N−メチロール(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体等の(メタ)アクリルアミド誘導体;N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン等のN−ビニルアミド;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル;(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;イタコン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;不飽和スルホン酸などを挙げることができる。上記のポリビニルエステルは、前記した他の単量体の1種または2種以上に由来する構造単位を有することができる。
【0030】
上記のポリビニルエステルに占める前記した他の単量体に由来する構造単位の割合は、ポリビニルエステルを構成する全構造単位のモル数に基づいて、15モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることがさらに好ましい。
特に前記した他の単量体が、(メタ)アクリル酸、不飽和スルホン酸などのように、得られるポリビニルアルコールの水溶性を促進する可能性のある単量体である場合には、得られるポリビニルアルコールフィルムを偏光フィルム製造用の原反フィルムとして使用する際などにおいてポリビニルアルコールが溶解するのを防止するために、ポリビニルエステルにおけるこれらの単量体に由来する構造単位の割合は、ポリビニルエステルを構成する全構造単位のモル数に基づいて、5モル%以下であることが好ましく、3モル%以下であることがより好ましい。
【0031】
上記のポリビニルアルコールは、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、1種または2種以上のグラフト共重合可能な単量体によって変性されたものであってもよい。当該グラフト共重合可能な単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸またはその誘導体;不飽和スルホン酸またはその誘導体;炭素数2〜30のα−オレフィンなどが挙げられる。ポリビニルアルコールにおけるグラフト共重合可能な単量体に由来する構造単位の割合は、ポリビニルアルコールを構成する全構造単位のモル数に基づいて、5モル%以下であることが好ましい。
【0032】
上記のポリビニルアルコールは、その水酸基の一部が架橋されていてもよいし架橋されていなくてもよい。また上記のポリビニルアルコールは、その水酸基の一部がアセトアルデヒド、ブチルアルデヒド等のアルデヒド化合物などと反応してアセタール構造を形成していてもよいし、これらの化合物と反応せずアセタール構造を形成していなくてもよい。
【0033】
上記のポリビニルアルコールの重合度は2000〜4000の範囲内であることが必要である。重合度が1500未満であると得られるポリビニルアルコールフィルムを用いて製造した偏光フィルムの耐久性が悪くなる傾向がある。一方、重合度が6000を超えると製造コストの上昇や、製膜時における工程通過性の不良などにつながる傾向がある。なお、本明細書でいうポリビニルアルコールの重合度はJIS K6726−1994の記載に準じて測定した平均重合度を意味する。
【0034】
上記のポリビニルアルコールのけん化度は、得られるポリビニルアルコールフィルムを用いて製造した偏光フィルムの耐水性の点から、98.0モル%以上であることが好ましく、98.5モル%以上であることがより好ましく、99.0モル%以上であることがさらに好ましい。けん化度が98.0モル%未満であると、得られる偏光フィルムの耐水性が悪くなる傾向がある。なお、本明細書におけるポリビニルアルコールのけん化度とは、ポリビニルアルコールが有する、けん化によってビニルアルコール単位に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステル単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対して当該ビニルアルコール単位のモル数が占める割合(モル%)をいう。けん化度はJIS K6726−1994の記載に準じて測定することができる。
【0035】
本発明のポリビニルアルコールフィルムは可塑剤を含有することが好ましい。当該可塑剤としては、例えば、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン等の多価アルコールなどを挙げることができ、本発明のポリビニルアルコールフィルムはこれらの可塑剤の1種または2種以上を含むことができる。これらの中でも、延伸性の向上効果の点からグリセリンが好ましい。
【0036】
本発明のポリビニルアルコールフィルムにおける可塑剤の含有量は、それに含まれるポリビニルアルコール100質量部に対して、1〜20質量部の範囲内であることが好ましく、3〜17質量部の範囲内であることがより好ましく、5〜15質量部の範囲内であることがさらに好ましい。可塑剤が1質量部以上であることにより、ポリビニルアルコールフィルムの延伸性をより向上させることができる。一方、可塑剤が20質量部以下であることにより、ポリビニルアルコールフィルムが柔軟になり過ぎて取り扱い性が低下するのを防止することができる。
【0037】
本発明のポリビニルアルコールフィルムは、必要に応じて、酸化防止剤、凍結防止剤、pH調整剤、隠蔽剤、着色防止剤、油剤、後述する界面活性剤などの成分をさらに含有していてもよい。
【0038】
本発明のポリビニルアルコールフィルムの厚さは特に制限されないが、あまりに薄すぎると、偏光フィルムを製造するための一軸延伸時に、延伸切れが発生しやすくなり、偏光性能に優れる偏光フィルムが得られにくくなり、また、あまりに厚すぎると、偏光フィルムを製造するための一軸延伸時に延伸斑が発生しやすくなることから、20〜120μmの範囲内であることが好ましく、30〜100μmの範囲内であることがより好ましく、40〜80μmの範囲内であることがさらに好ましい。
【0039】
本発明のポリビニルアルコールフィルムの形状は特に制限されないが、より均一なポリビニルアルコールフィルムを連続して容易に製造することができると共に、それを用いて偏光フィルムを製造する場合などにおいても連続して使用することができることから長尺のフィルムであることが好ましい。長尺のフィルムの長さ(長さ方向の長さ)は特に制限されず、用途などに応じて適宜設定することができ、例えば、5〜15000mの範囲内とすることができる。
【0040】
本発明のポリビニルアルコールフィルムの幅は特に制限されず、ポリビニルアルコールフィルムや、それから製造される偏光フィルムの用途などに応じて適宜設定することができるが、近年、液晶テレビや液晶モニターの大画面化が進行している点から、ポリビニルアルコールフィルムの幅を3m以上、より好ましくは4m以上にしておくと、これらの用途に好適である。一方、ポリビニルアルコールフィルムの幅があまりに大きすぎると実用化されている装置で偏光フィルムを製造する場合に一軸延伸自体を均一に行うことが困難になり易いので、ポリビニルアルコールフィルムの幅は7m以下であることが好ましい。
【0041】
本発明のポリビニルアルコールフィルムの製造方法は特に限定されないが、従来公知の方法などを採用することによってポリビニルアルコールフィルムを製膜した後に、後述する方法で熱処理を施すことにより容易に製造することができる。
【0042】
熱処理に供されるポリビニルアルコールフィルムの製膜方法は特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコールが液体媒体中に溶解した製膜原液や、ポリビニルアルコールおよび液体媒体を含みポリビニルアルコールが溶融した製膜原液を用いて製膜することができる。
【0043】
製膜原液の調製に使用される液体媒体としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどを挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上を使用することができる。そのうちでも、環境に与える負荷や回収性の点から水が好適に使用される。
【0044】
製膜原液の揮発分率(製膜時に揮発や蒸発によって除去される液体媒体などの揮発性成分の含有割合)は、製膜方法、製膜条件などによって異なるが、一般的には、50〜95質量%、さらには55〜90質量%、特に60〜85質量%であることが好ましい。製膜原液の揮発分率が低すぎると、製膜原液の粘度が高くなり過ぎて、製膜原液調製時の濾過や脱泡が困難となり、異物や欠点の少ないポリビニルアルコールフィルムの製造が困難になる傾向がある。一方、製膜原液の揮発分率が高すぎると、製膜原液の濃度が低くなり過ぎて、工業的なポリビニルアルコールフィルムの製膜が困難になる傾向がある。
【0045】
また、製膜原液は界面活性剤を含有することが好ましい。界面活性剤を含有することにより、製膜性が向上してポリビニルアルコールフィルムの厚さ斑の発生が抑制されると共に、製膜に使用されるロールやベルトからのポリビニルアルコールフィルムの剥離が容易になる。界面活性剤を含有する製膜原液からポリビニルアルコールフィルムを製造した場合には、当該ポリビニルアルコールフィルム中には界面活性剤が含有される。上記の界面活性剤の種類は特に限定されないが、ロールやベルトなどからの剥離性の観点からアニオン性界面活性剤またはノニオン性界面活性剤が好ましく、ノニオン性界面活性剤が特に好ましい。
【0046】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリン酸カリウム等のカルボン酸型;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩、オクチルサルフェート等の硫酸エステル型;ドデシルベンゼンスルホネート等のスルホン酸型などが好適である。
【0047】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のアルキルエーテル型;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のアルキルフェニルエーテル型;ポリオキシエチレンラウレート等のアルキルエステル型;ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル等のアルキルアミン型;ポリオキシエチレンラウリン酸アミド等のアルキルアミド型;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル等のポリプロピレングリコールエーテル型;オレイン酸ジエタノールアミド等のアルカノールアミド型;ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル等のアリルフェニルエーテル型などが好適である。
【0048】
これらの界面活性剤は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0049】
製膜原液が界面活性剤を含有する場合は、その含有量はポリビニルアルコール100質量部に対して0.01〜0.5質量部の範囲内であることが好ましく、0.02〜0.3質量部の範囲内であることがより好ましく、0.05〜0.1質量部の範囲内であることが特に好ましい。界面活性剤の含有量がポリビニルアルコール100質量部に対して0.01質量部よりも少ないと、界面活性剤を添加したことによる製膜性および剥離性の向上効果が現れにくくなり、一方、ポリビニルアルコール100質量部に対して0.5質量部を超えると、界面活性剤がポリビニルアルコールフィルムの表面にブリードアウトしてブロッキングの原因になり、取り扱い性が低下する場合がある。
【0050】
上記した製膜原液を用いてポリビニルアルコールフィルムを製膜する際の製膜方法としては、例えば、湿式製膜法、ゲル製膜法、流延製膜法、押出製膜法などを採用することができる。また、これらの組み合わせによる方法などを採用することもできる。以上の製膜方法の中でも流延製膜法または押出製膜法が、膜の厚さおよび幅が均一で、物性の良好なポリビニルアルコールフィルムが得られることから好ましく採用される。
【0051】
具体的な製膜方法としては、T型スリットダイ、ホッパープレート、I−ダイ、リップコーターダイなどを用いて、製膜原液を最上流側に位置する回転する加熱したロール(あるいはベルト)の周面上に均一に吐出または流延し、このロール(あるいはベルト)上に吐出または流延された膜の一方の面から揮発性成分を蒸発させて乾燥し、続いてその下流側に配置した1個または複数個の回転する加熱したロールの周面上でさらに乾燥するか、または熱風乾燥装置の中を通過させてさらに乾燥した後、巻き取り装置により巻き取る方法を工業的に好ましく採用することができる。加熱したロールによる乾燥と熱風乾燥装置による乾燥とは、適宜組み合わせて実施してもよい。
【0052】
上記のようにして製膜されたポリビニルアルコールフィルムを特定の方法で熱処理することにより本発明のポリビニルアルコールフィルムを製造することができる。すなわち、熱処理に供されるポリビニルアルコールフィルムの幅方向の任意の1直線上において一方の端をx、他方の端をyおよび幅方向中央部をzとし、xからyに向かって幅に対する長さが10%になるまでの範囲aにおける熱処理時の平均熱処理温度を温度a(℃)とし、yからxに向かって幅に対する長さが10%になるまでの範囲bにおける熱処理時の平均熱処理温度を温度b(℃)とし、zからxに向かって幅に対する長さが30%になるまでの範囲cにおける熱処理時の平均熱処理温度を温度c(℃)とし、zからyに向かって幅に対する長さが30%になるまでの範囲dにおける熱処理時の平均熱処理温度を温度d(℃)とした際に、下記式(4)〜(6)を満たす方法により、容易に製造することができる。
1.10≦温度c/温度a≦1.25 (4)
1.10≦温度d/温度b≦1.25 (5)
|温度a−温度b|≦2 (6)
【0053】
上記の範囲a〜dについて図2に示した概略図を用いて説明する。図2において、熱処理に供されるポリビニルアルコールフィルムfの幅方向の任意の1直線l上における当該ポリビニルアルコールフィルムの任意の一方の端がxであり他方の端がyである。また、当該直線l上におけるポリビニルアルコールフィルムの幅方向中央部がzである。そして、当該ポリビニルアルコールフィルムの幅を100%とした際に、xからyに向かって幅に対する長さが10%になるまでの範囲が範囲aであり、yからxに向かって幅に対する長さが10%になるまでの範囲が範囲bであり、zからxに向かって幅に対する長さが30%になるまでの範囲が範囲cであり、zからyに向かって幅に対する長さが30%になるまでの範囲が範囲dである。なお、範囲a〜dおよび後述する範囲eおよびfにおける熱処理時の平均熱処理温度とは、熱処理時における各範囲近傍のポリビニルアルコールフィルムの温度の幅方向に対する平均である。
【0054】
温度aおよび温度cは、本発明において規定される膨潤度Aおよび膨潤度Cの関係(または膨潤度Bおよび膨潤度Dの関係)を満たすポリビニルアルコールフィルムを容易に製造することができることから、1.10≦温度c/温度a≦1.25の関係にあることが必要であり、1.11≦温度c/温度a≦1.24の関係にあることが好ましく、1.12≦温度c/温度a≦1.23の関係にあることがより好ましい。
【0055】
温度bおよび温度dについても上記した温度aおよび温度cの関係と同様、本発明において規定される膨潤度Bおよび膨潤度Dの関係(または膨潤度Aおよび膨潤度Cの関係)を満たすポリビニルアルコールフィルムを容易に製造することができることから、1.10≦温度d/温度b≦1.25の関係にあることが必要であり、1.11≦温度d/温度b≦1.24の関係にあることが好ましく、1.12≦温度d/温度b≦1.23の関係にあることがより好ましい。
【0056】
また温度aと温度bとの差の絶対値(|温度a−温度b|)について、本発明において規定される膨潤度Aおよび膨潤度Bの関係を満たすポリビニルアルコールフィルムを容易に製造することができることから、|温度a−温度b|≦2の関係にあることが必要であり、|温度a−温度b|≦1.5の関係にあることが好ましく、|温度a−温度b|≦1の関係にあることがより好ましい。
【0057】
温度cと温度dとの差の絶対値(|温度c−温度d|)については、膨潤度Cおよび膨潤度Dの好ましい関係を満たすポリビニルアルコールフィルムを容易に製造することができることから、|温度c−温度d|≦2の関係にあることが好ましく、|温度c−温度d|≦1の関係にあることがより好ましく、|温度c−温度d|≦0.5の関係にあることがさらに好ましい。
【0058】
上記の熱処理の際に、x、yおよびzを規定する上記した幅方向の1直線上において、xよりyに向かって幅に対する長さが10%になる位置から、xよりyに向かって幅に対する長さが20%になる位置までの範囲eにおける熱処理時の平均熱処理温度を温度e(℃)とし、yよりxに向かって幅に対する長さが10%になる位置から、yよりxに向かって幅に対する長さが20%になる位置までの範囲fにおける熱処理時の平均熱処理温度を温度f(℃)とした際に、下記式(9)および(10)を満たすことが好ましい。
1.10≦温度e/温度a≦1.25 (9)
1.10≦温度f/温度b≦1.25 (10)
上記式(9)および(10)を満たすように熱処理をすると、膨潤度Aおよび膨潤度Eならびに膨潤度Bおよび膨潤度Fの好ましい関係を満たすポリビニルアルコールフィルムを容易に製造することができる。温度aおよび温度eは、1.11≦温度e/温度a≦1.24の関係にあることがより好ましく、1.12≦温度e/温度a≦1.23の関係にあることがさらに好ましい。同様に、温度bおよび温度fは、1.11≦温度f/温度b≦1.24の関係にあることがより好ましく、1.12≦温度f/温度b≦1.23の関係にあることがさらに好ましい。
【0059】
温度aは83〜96℃の範囲内にあることが好ましく、84〜95℃の範囲内にあることがより好ましい。同様に、温度bは83〜96℃の範囲内にあることが好ましく、84〜95℃の範囲内にあることがより好ましい。一方、温度cは95〜115℃の範囲内にあることが好ましく、96〜114℃の範囲内にあることがより好ましい。同様に、温度dは95〜115℃の範囲内にあることが好ましく、96〜114℃の範囲内にあることがより好ましい。さらに、温度eは83〜114℃の範囲内にあることが好ましく、100〜110℃の範囲内にあることがより好ましい。同様に、温度fは83〜114℃の範囲内にあることが好ましく、100〜110℃の範囲内にあることがより好ましい。
【0060】
また範囲a〜fにおける熱処理温度は、各範囲において、幅方向に一定であっても異なっていてもよいが、各範囲において幅方向の熱処理温度の差が大きすぎると得られるポリビニルアルコールフィルムに斑が生じる可能性がある。そのため、範囲aにおける熱処理温度の幅方向の最大値および最小値は共に83〜96℃の範囲内にあることが好ましく、84〜95℃の範囲内にあることがより好ましい。同様に、範囲bにおける熱処理温度の幅方向の最大値および最小値は共に83〜96℃の範囲内にあることが好ましく、84〜95℃の範囲内にあることがより好ましい。一方、範囲cにおける熱処理温度の幅方向の最大値および最小値は共に95〜115℃の範囲内にあることが好ましく、96〜114℃の範囲内にあることがより好ましい。同様に、範囲dにおける熱処理温度の幅方向の最大値および最小値は共に95〜115℃の範囲内にあることが好ましく、96〜114℃の範囲内にあることがより好ましい。さらに、範囲eにおける熱処理温度の幅方向の最大値および最小値は共に83〜114℃の範囲内にあることが好ましく、100〜110℃の範囲内にあることがより好ましい。同様に、範囲fにおける熱処理温度の幅方向の最大値および最小値は共に83〜114℃の範囲内にあることが好ましく、100〜110℃の範囲内にあることがより好ましい。
【0061】
温度a〜d、場合によりさらに温度eおよび温度fに係る上記の関係は、熱処理に供されるポリビニルアルコールフィルムの幅方向の任意の1直線上において規定される範囲a〜d、場合によりさらに範囲eおよび範囲fにおいて上記の関係を満たしていればよいが、長さ方向により均一なポリビニルアルコールフィルム、ひいては偏光フィルムを得る観点から、熱処理に供されるポリビニルアルコールフィルムの長さ方向の連続または非連続の50%以上の範囲において、幅方向のいずれの直線上において規定される範囲a〜d、場合によりさらに範囲eおよび範囲fにおいても上記関係を満たしていることが好ましく、熱処理に供されるポリビニルアルコールフィルムの長さ方向の連続または非連続の80%以上の範囲において、幅方向のいずれの直線上において規定される範囲a〜d、場合によりさらに範囲eおよび範囲fにおいても上記関係を満たしていることがより好ましく、熱処理に供されるポリビニルアルコールフィルムの長さ方向の連続または非連続の95%以上の範囲において、幅方向のいずれの直線上において規定される範囲a〜d、場合によりさらに範囲eおよび範囲fにおいても上記関係を満たしていることがさらに好ましい。
【0062】
熱処理時間に特に制限はないが、本発明のポリビニルアルコールフィルムを効率よく製造する観点から、3〜120秒の範囲内であることが好ましく、4〜90秒の範囲内であることがより好ましく、5〜60秒の範囲内であることがさらに好ましい。
【0063】
本発明のポリビニルアルコールフィルムの用途に特に制限はないが、本発明のポリビニルアルコールフィルムによれば、安定して高倍率まで延伸することができることから、偏光フィルムや位相差フィルム等の光学用フィルムを製造するための原反フィルムとして用いることが好ましく、高い偏光性能を有する偏光フィルムを容易に製造することができることから、特に偏光フィルムを製造するための原反フィルムとして用いることが好ましい。
【0064】
本発明のポリビニルアルコールフィルムを原反フィルムとして用いて偏光フィルムを製造する際の方法は特に制限されず、従来から採用されているいずれの方法を採用してもよく、例えば、本発明のポリビニルアルコールに対して、膨潤、染色、一軸延伸、および必要に応じてさらに、固定処理、乾燥、熱処理などを施すことにより偏光フィルムを製造することができる。この場合、膨潤、染色、一軸延伸、固定処理などの各処理の順序は特に制限されず、1つまたは2つ以上の処理を同時に行うこともできる。また、各処理の1つまたは2つ以上を2回またはそれ以上行うこともできる。
【0065】
膨潤は、ポリビニルアルコールフィルムを水に浸漬することにより行うことができる。水に浸漬する際の水の温度としては、20〜40℃の範囲内であることが好ましく、22〜38℃の範囲内であることがより好ましく、25〜35℃の範囲内であることがさらに好ましい。また、水に浸漬する時間としては、例えば、0.1〜5分間の範囲内であることが好ましく、0.5〜3分間の範囲内であることがより好ましい。なお、水に浸漬する際の水は純水に限定されず、各種成分が溶解した水溶液であってもよいし、水と水性媒体との混合物であってもよい。
【0066】
染色は、ヨウ素を用いて行うのがよく、染色の時期としては、一軸延伸前、一軸延伸時、一軸延伸後のいずれの段階であってもよい。染色はポリビニルアルコールフィルムを染色浴としてヨウ素−ヨウ化カリウムを含有する溶液(特に水溶液)中に浸漬させることにより行うのが一般的であり、本発明においてもこのような染色方法が好適に採用される。染色浴におけるヨウ素の濃度は0.01〜0.5質量%の範囲内であることが好ましく、ヨウ化カリウムの濃度は0.01〜10質量%の範囲内であることが好ましい。また、染色浴の温度は20〜50℃、特に25〜40℃とすることが好ましい。
【0067】
一軸延伸は、湿式延伸法または乾式延伸法のいずれで行ってもよい。湿式延伸法の場合は、ホウ酸を含む水溶液中で行うこともできるし、上記した染色浴中や後述する固定処理浴中で行うこともできる。また乾式延伸法の場合は、吸水後のポリビニルアルコールフィルムを用いて空気中で行うことができる。これらの中でも、湿式延伸法が好ましく、ホウ酸を含む水溶液中で一軸延伸するのがより好ましい。ホウ酸水溶液中におけるホウ酸の濃度は0.5〜6.0質量%の範囲内であることが好ましく、1.0〜5.0質量%の範囲内であることがより好ましく、1.5〜4.0質量%の範囲内であることが特に好ましい。また、ホウ酸水溶液はヨウ化カリウムを含有してもよく、その濃度は0.01〜10質量%の範囲内にすることが好ましい。
一軸延伸における延伸温度は、30〜90℃の範囲内であることが好ましく、40〜80℃の範囲内であることがより好ましく、50〜70℃の範囲内であることが特に好ましい。
また、一軸延伸における延伸倍率は、得られる偏光フィルムの偏光性能の点から5倍以上であることが好ましく、5.5倍以上であることがより好ましく、6倍以上であることが特に好ましい。延伸倍率の上限は特に制限されないが、延伸倍率は8倍以下であることが好ましい。
【0068】
偏光フィルムの製造に当たっては、ポリビニルアルコールフィルムへの染料(ヨウ素等)の吸着を強固にするために固定処理を行うことが好ましい。固定処理に使用する固定処理浴としては、ホウ酸、硼砂等のホウ素化合物の1種または2種以上を含む水溶液を使用することができる。また、必要に応じて、固定処理浴中にヨウ素化合物や金属化合物を添加してもよい。固定処理浴におけるホウ素化合物の濃度は、一般に2〜15質量%、特に3〜10質量%程度であることが好ましい。固定処理浴の温度は、15〜60℃、特に25〜40℃であることが好ましい。
【0069】
乾燥は、30〜150℃、特に50〜130℃で行うことが好ましい。乾燥により偏光フィルムの水分率が10%以下になった時点で偏光フィルムに張力を掛けて80〜120℃程度で1〜5分間程度熱処理を行うと、寸法安定性、耐久性等に一層優れる偏光フィルムを得ることができる。
【0070】
以上のようにして得られた偏光フィルムは、通常、その両面または片面に、光学的に透明で且つ機械的強度を有する保護膜を貼り合わせて偏光板にして使用される。保護膜としては、三酢酸セルロース(TAC)フィルム、酢酸・酪酸セルロース(CAB)フィルム、アクリル系フィルム、ポリエステル系フィルムなどが使用される。また、貼り合わせのための接着剤としては、ポリビニルアルコール系接着剤やウレタン系接着剤などを挙げることができるが、中でもポリビニルアルコール系接着剤が好適である。
【0071】
上記のようにして得られた偏光板は、アクリル系等の粘着剤をコートした後、ガラス基板に貼り合わせて液晶表示装置の部品として使用することができる。同時に位相差フィルムや視野角向上フィルム、輝度向上フィルム等と貼り合わせてもよい。
【実施例】
【0072】
本発明を以下の実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において採用された各評価方法を以下に示す。
【0073】
ポリビニルアルコールフィルムの膨潤度の測定
膨潤度Aを測定するためのポリビニルアルコールフィルムのサンプリング位置について図3にその概略図を示すように、各範囲に対応する幅を有し、長さが各範囲を決める1直線を中心とし長さ方向に各10cm(長さ方向に合計20cm)採るようにサンプリングした矩形のポリビニルアルコールフィルムを用い、これを30℃の蒸留水中に30分間浸漬後に取り出し、ろ紙で表面の水を取り、質量「N」を求めた。続いてそのポリビニルアルコールフィルムを105℃の乾燥機で16時間乾燥した後、質量「M」を求めた。得られた質量「N」および「M」から、下記式(11)により各範囲におけるポリビニルアルコールフィルムの膨潤度を算出した。なお、サンプリングしたポリビニルアルコールフィルムの幅が20cm以上あった場合には、幅方向の一方から幅10cmずつカットしたポリビニルアルコールフィルムを測定に用いて(最後に余った幅10cm未満の部分は前のフィルムから切り離さずに用いた)、カットした全てのポリビニルアルコールフィルムを合わせた全体の質量「N」および「M」から膨潤度を算出した。また、浸漬に使用する蒸留水の量はポリビニルアルコールフィルム20cm×10cmあたり1000gとした。
膨潤度(%) = N/M×100 (11)
【0074】
ポリビニルアルコールフィルムの皺の有無の確認
ポリビニルアルコールフィルムを観察し、皺が認められなかったものを「○」とし、皺が認められたものを「×」とした。
【0075】
ポリビニルアルコールフィルムの延伸安定性試験
ロール状のポリビニルアルコールフィルムを巻き出し、順次30℃の純水に浸漬して膨潤させながら3.8倍まで一軸延伸し、続いて、ホウ酸を4質量%の割合で含有する55℃の水溶液中で総延伸倍率6.8倍に一軸延伸するという操作を10時間以上破断なく継続できた場合を「○」、破断が認められた場合を「×」とした。
【0076】
偏光フィルムの偏光性能の評価
(a)透過率Tsの測定
偏光フィルムの幅方向の中央部から、長さ方向に8cm×幅方向に4cmの矩形のサンプルを切り取り、これをさらに長さ方向の中央部で2つに切って、正方形(4cm×4cm)の偏光フィルムサンプル2枚を採取し、日立製作所製の分光光度計U−4100(積分球付属)を用いて、JIS Z 8722(物体色の測定方法)に準拠し、C光源、2°視野の可視光領域の視感度補正を行い、1枚の偏光フィルムサンプルについて、延伸軸方向に対して45°傾けた場合の光の透過率と−45°傾けた場合の光の透過率を測定して、それらの平均値Ts1(%)を求めた。もう1枚の偏光フィルムサンプルについても同様にして、45°傾けた場合の光の透過度と−45°傾けた場合の光の透過度を測定して、それらの平均値Ts2(%)を求めた。下記式(12)によりTs1とTs2を平均し、偏光フィルムの透過率Ts(%)とした。
Ts = (Ts1+Ts2)/2 (12)
【0077】
(b)偏光度Pの測定
上記透過率Tsの測定で採取した2枚の偏光フィルムを、その延伸方向が平行になるように重ねた場合の光の透過率Ts‖(%)、延伸方向が直交するように重ねた場合の光の透過率Ts⊥(%)を、上記(a)透過率Tsの測定の場合と同様にして測定し、下記式(13)により偏光度P(%)を求めた。
P = {(Ts‖−Ts⊥)/(Ts‖+Ts⊥)}1/2×100 (13)
【0078】
(c)透過率44%時の二色性比の算出
下記の実施例および比較例に記載するように、各実施例および比較例において、2段目延伸時における30℃の水溶液中への浸漬時間を変更して製造した5枚の偏光フィルムのそれぞれについて上記した方法で透過率Tsおよび偏光度Pを求め、各実施例または比較例ごとに、透過率Tsを横軸、偏光度Pを縦軸として5つの点をグラフにプロットして近似曲線を求め、当該近似曲線から、透過率Tsが44%であるときの偏光度P(P44)の値を求めた。
得られたP44から、下記式(14)により透過率44%時の二色性比を求めて、偏光性能の指標とした。
透過率44%時の二色性比 = log(44/100−44/100×P44/100)/log(44/100+44/100×P44/100) (14)
【0079】
[実施例1]
(1)ポリビニルアルコールフィルムの製造
ポリビニルアルコール(重合度2400、けん化度99.95モル%)100質量部、可塑剤としてグリセリン10質量部、界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム0.1質量部および水からなる揮発分率66質量%の製膜原液をTダイから金属ロールに溶融押出し、幅3m、長さ5000m、厚さ60μmの長尺のポリビニルアルコールフィルムを製膜した。
次いで、得られたポリビニルアルコールフィルムの幅の長さ(3m)を100%としたとき、幅方向の両端から中央方向にそれぞれ長さ10%(それぞれ幅方向30cm)の範囲全体を90℃で、幅方向の中央から両端方向にそれぞれ長さ40%(全体として幅方向240cm)の範囲全体を105℃で、それぞれ熱処理を行った。なお熱処理時間は20秒とした。熱処理されたポリビニルアルコールフィルムはロール状に巻き取った。
熱処理されたポリビニルアルコールフィルムは、幅方向の任意の1直線上において、膨潤度A=235%、膨潤度B=234%、膨潤度C=201%、膨潤度D=200%、膨潤度E=201%および膨潤度F=200%であった。また当該ポリビニルアルコールフィルムに皺は認められなかった。さらに当該ポリビニルアルコールフィルムを用いて延伸安定性試験を実施したところ、破断は認められなかった。
【0080】
(2)偏光フィルムの製造
(i) (1)で得られた熱処理されたポリビニルアルコールフィルムに対して、膨潤、染色、一軸延伸、固定処理、乾燥処理を施して偏光フィルムを作製した。すなわち、(1)で得られた熱処理されたポリビニルアルコールフィルムを30℃の純水に浸漬して膨潤させながら2.0倍に一軸延伸し(1段目延伸)、次いで、ヨウ素を0.05質量%、ヨウ化カリウムを2.5質量%およびホウ酸を1質量%の割合で含有する30℃の水溶液中で染色しながら1.4倍(ここまでの総延伸倍率2.8倍)に一軸延伸した(2段目延伸)。なお、2段目延伸時における30℃の水溶液中への浸漬時間は60秒とした。続いて、ホウ酸を4質量%およびヨウ化カリウムを5質量%の割合で含有する55℃の水溶液中で総延伸倍率6.5倍に一軸延伸し(3段目延伸)、ホウ酸を4質量%およびヨウ化カリウムを5質量%の割合で含有する30℃の水溶液中に浸漬して固定処理を行った。その後、60℃で乾燥して偏光フィルムを得た。得られた偏光フィルムの幅は1.2mであった。
これにより得られた偏光フィルムの透過率Tsおよび偏光度Pを上記した方法で求め、横軸を透過率Tsおよび縦軸を偏光度Pとするグラフにその点をプロットした。
(ii) 上記(i)で、2段目延伸時における30℃の水溶液中への浸漬時間を60秒から、70秒、80秒、90秒または100秒に変更したこと以外は、上記(i)と同様にして偏光フィルムを製造した。
これにより得られた各偏光フィルムの透過率Tsおよび偏光度Pを上記した方法でそれぞれ求め、横軸を透過率Tsおよび縦軸を偏光度Pとするグラフに各点をプロットした。
(iii) 上記(i)および(ii)でグラフにプロットした5つの点の近似曲線をグラフ上にひいて、当該近似曲線から、透過率Tsが44%であるときの偏光度P(P44)の値を求め、上記式(14)により透過率44%時の二色性比を求めたところ54.6であり、高い偏光性能を有していた。
【0081】
[実施例2]
実施例1の(1)において、幅方向の両端から中央方向にそれぞれ長さ10%(それぞれ幅方向30cm)の範囲全体における熱処理温度を86℃に変更したこと以外は実施例1の(1)と同様にして、熱処理されたポリビニルアルコールフィルム(ロール状に巻き取ったもの)を得た。
当該熱処理されたポリビニルアルコールフィルムは、幅方向の任意の1直線上において、膨潤度A=247%、膨潤度B=244%、膨潤度C=201%、膨潤度D=200%、膨潤度E=201%および膨潤度F=200%であった。また当該ポリビニルアルコールフィルムに皺は認められなかった。さらに当該ポリビニルアルコールフィルムを用いて延伸安定性試験を実施したところ、破断は認められなかった。
また、上記熱処理されたポリビニルアルコールフィルムを用いて、実施例1の(2)(i)と同様にして偏光フィルムを作製した。得られた偏光フィルムの幅は1.1mであった。さらに、実施例1の(2)と同様にして透過率44%時の二色性比を求めたところ60.2であり、高い偏光性能を有していた。
【0082】
[実施例3]
実施例1の(1)において、幅方向の両端から中央方向にそれぞれ長さ10%(それぞれ幅方向30cm)の範囲全体における熱処理温度を93℃に変更したこと以外は実施例1の(1)と同様にして、熱処理されたポリビニルアルコールフィルム(ロール状に巻き取ったもの)を得た。
当該熱処理されたポリビニルアルコールフィルムは、幅方向の任意の1直線上において、膨潤度A=225%、膨潤度B=224%、膨潤度C=200%、膨潤度D=201%、膨潤度E=200%および膨潤度F=201%であった。また当該ポリビニルアルコールフィルムに皺は認められなかった。さらに当該ポリビニルアルコールフィルムを用いて延伸安定性試験を実施したところ、破断は認められなかった。
また、上記熱処理されたポリビニルアルコールフィルムを用いて、実施例1の(2)(i)と同様にして偏光フィルムを作製した。得られた偏光フィルムの幅は1.3mであった。さらに、実施例1の(2)と同様にして透過率44%時の二色性比を求めたところ51.3であり、高い偏光性能を有していた。
【0083】
比較例7
実施例1の(1)において、幅方向の両端から中央方向にそれぞれ長さ20%(それぞれ幅方向60cm)の範囲全体を90℃で、幅方向の中央から両端方向にそれぞれ長さ30%(全体として幅方向180cm)の範囲全体を105℃で、それぞれ変更して熱処理を行ったこと以外は実施例1の(1)と同様にして、熱処理されたポリビニルアルコールフィルム(ロール状に巻き取ったもの)を得た。
当該熱処理されたポリビニルアルコールフィルムは、幅方向の任意の1直線上において、膨潤度A=235%、膨潤度B=235%、膨潤度C=199%、膨潤度D=201%、膨潤度E=235%および膨潤度F=235%であった。また当該ポリビニルアルコールフィルムに皺は認められなかった。さらに当該ポリビニルアルコールフィルムを用いて延伸安定性試験を実施したところ、破断は認められなかった。
また、上記熱処理されたポリビニルアルコールフィルムを用いて、実施例1の(2)(i)と同様にして偏光フィルムを作製した。得られた偏光フィルムの幅は1.1mであった。さらに、実施例1の(2)と同様にして透過率44%時の二色性比を求めたところ54.6であり、高い偏光性能を有していた。
【0084】
[比較例1]
実施例1の(1)において、幅方向の両端から中央方向にそれぞれ長さ10%(それぞれ幅方向30cm)の範囲全体における熱処理温度を82℃に変更したこと以外は実施例1の(1)と同様にして、熱処理されたポリビニルアルコールフィルム(ロール状に巻き取ったもの)を得た。
当該熱処理されたポリビニルアルコールフィルムは、幅方向の任意の1直線上において、膨潤度A=256%、膨潤度B=255%、膨潤度C=200%、膨潤度D=199%、膨潤度E=200%および膨潤度F=199%であった。また当該ポリビニルアルコールフィルムには大きな皺が認められ、偏光フィルム製造用の原反フィルムとしては不適であった。
【0085】
[比較例2]
実施例1の(1)において、幅方向の両端から中央方向にそれぞれ長さ10%(それぞれ幅方向30cm)の範囲全体における熱処理温度を99℃に変更したこと以外は実施例1の(1)と同様にして、熱処理されたポリビニルアルコールフィルム(ロール状に巻き取ったもの)を得た。
当該熱処理されたポリビニルアルコールフィルムは、膨潤度A=212%、膨潤度B=211%、膨潤度C=201%、膨潤度D=201%、膨潤度E=201%および膨潤度F=201%であった。また当該ポリビニルアルコールフィルムに皺は認められなかった。さらに当該ポリビニルアルコールフィルムを用いて延伸安定性試験を実施したところ、破断が認められた。
また、上記熱処理されたポリビニルアルコールフィルムを用いて、実施例1の(2)(i)と同様にして偏光フィルムを作製した。得られた偏光フィルムの幅は1.45mであった。さらに、実施例1の(2)と同様にして透過率44%時の二色性比を求めたところ42.8であり、偏光性能に劣っていた。
【0086】
[比較例3]
実施例1の(1)において、ポリビニルアルコールフィルム全体を105℃で熱処理したこと以外は実施例1の(1)と同様にして、熱処理されたポリビニルアルコールフィルム(ロール状に巻き取ったもの)を得た。
当該熱処理されたポリビニルアルコールフィルムは、幅方向の任意の1直線上において、膨潤度A=200%、膨潤度B=199%、膨潤度C=199%、膨潤度D=199%、膨潤度E=200%および膨潤度F=199%であった。また当該ポリビニルアルコールフィルムに皺は認められなかった。さらに当該ポリビニルアルコールフィルムを用いて延伸安定性試験を実施したところ、破断が認められた。
また、上記熱処理されたポリビニルアルコールフィルムを用いて、実施例1の(2)(i)と同様にして偏光フィルムを作製した。得られた偏光フィルムの幅は1.5mであった。さらに、実施例1の(2)と同様にして透過率44%時の二色性比を求めたところ44.0であり、偏光性能に劣っていた。
【0087】
[比較例4]
実施例1の(1)において、幅方向の一方の端から中央方向に長さ10%(幅方向30cm)の範囲全体における熱処理温度を93℃に変更(幅方向の他方の端から中央方向に長さ10%(幅方向30cm)の範囲全体における熱処理温度は90℃のまま)したこと以外は実施例1の(1)と同様にして、熱処理されたポリビニルアルコールフィルム(ロール状に巻き取ったもの)を得た。
当該熱処理されたポリビニルアルコールフィルムは、幅方向の任意の1直線上において、膨潤度A=234%、膨潤度B=227%、膨潤度C=200%、膨潤度D=200%、膨潤度E=200%および膨潤度F=200%であった。また当該ポリビニルアルコールフィルムに皺は認められなかった。さらに当該ポリビニルアルコールフィルムを用いて延伸安定性試験を実施したところ、破断が認められた。
また、上記熱処理されたポリビニルアルコールフィルムを用いて、実施例1の(2)(i)と同様にして偏光フィルムを作製した。得られた偏光フィルムの幅は1.4mであった。さらに、実施例1の(2)と同様にして透過率44%時の二色性比を求めたところ46.9であり、偏光性能に劣っていた。
【0088】
[比較例5]
特許文献1の実施例1に記載されたポリビニルアルコールフィルムと同様の膨潤度の分布を有するポリビニルアルコールフィルム(幅3m、長さ5000m、厚さ60μm、膨潤度A=180%、膨潤度B=180%、膨潤度C=167%、膨潤度D=167%、膨潤度E=176%および膨潤度F=176%、皺が認められないもの)を作製してロール状に巻き取った。これを用いて延伸安定性試験を実施したところ、破断が認められた。
また、このポリビニルアルコールフィルムを用いて、実施例1の(2)(i)と同様にして偏光フィルムを作製した。得られた偏光フィルムの幅は1.5mであった。さらに、実施例1の(2)と同様にして透過率44%時の二色性比を求めたところ41.8であり、偏光性能に劣っていた。
【0089】
[比較例6]
特許文献1の実施例2に記載されたポリビニルアルコールフィルムと同様の膨潤度の分布を有するポリビニルアルコールフィルム(幅3m、長さ5000m、厚さ60μm、膨潤度A=196%、膨潤度B=196%、膨潤度C=181%、膨潤度D=181%、膨潤度E=190%および膨潤度F=190%、皺が認められないもの)を作製してロール状に巻き取った。これを用いて延伸安定性試験を実施したところ、破断が認められた。
また、このポリビニルアルコールフィルムを用いて、実施例1の(2)(i)と同様にして偏光フィルムを作製した。得られた偏光フィルムの幅は1.45mであった。さらに、実施例1の(2)と同様にして透過率44%時の二色性比を求めたところ44.0であり、偏光性能に劣っていた。
【0090】
【表1】
【0091】
実施例1〜のポリビニルアルコールフィルムは、いずれも皺が認められず、また当該
ポリビニルアルコールフィルムを原反フィルムとして用いて製造された偏光フィルムは高
い偏光性能を有していたことから、これらのポリビニルアルコールフィルムによれば、高
い偏光性能を有する偏光フィルムを容易に製造することができることが分かる。また、実
施例1〜のポリビニルアルコールフィルムは延伸安定性試験においていずれも破断が認
められず、安定して高倍率まで延伸することができて偏光フィルムの収率を向上させるこ
とができることが分かる。一方、比較例1〜6のPVAフィルムでは、いずれかの評価が
劣っていた。
図1
図2
図3