特許第6077916号(P6077916)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6077916
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】チルド保存用調理済食品封入体
(51)【国際特許分類】
   A23L 3/00 20060101AFI20170130BHJP
   A23L 3/3418 20060101ALI20170130BHJP
   A23L 3/3508 20060101ALI20170130BHJP
   A23L 3/3526 20060101ALI20170130BHJP
   A23L 3/3544 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   A23L3/00 101A
   A23L3/3418
   A23L3/3508
   A23L3/3526 501
   A23L3/3544
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-80099(P2013-80099)
(22)【出願日】2013年4月8日
(65)【公開番号】特開2013-233144(P2013-233144A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2015年9月25日
(31)【優先権主張番号】特願2012-91495(P2012-91495)
(32)【優先日】2012年4月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】野中 純子
(72)【発明者】
【氏名】谷田部 真琴
(72)【発明者】
【氏名】南澤 英子
(72)【発明者】
【氏名】東 雅文
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 俊之
【審査官】 野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−065186(JP,A)
【文献】 特開昭60−164468(JP,A)
【文献】 特開昭58−098072(JP,A)
【文献】 特開2008−295349(JP,A)
【文献】 特開昭48−026924(JP,A)
【文献】 特開平05−219925(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第103767045(CN,A)
【文献】 和気文博、外3名,「グリシンによる静菌作用について」,RES. BULL. OBIHIRO UNIV.,1974年,Vol.9,pp.159-163
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 3/00−3/54
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種または2種以上の加熱調理された食品が容器にガス置換包装されているチルド保存用調理済食品封入体であって、該ガス置換包装用のガスはO2濃度1容量%以下且つCO2濃度5容量%超のガスであり、該加熱調理された食品は有機酸塩、グリシンおよびビタミンB1を含み、該加熱調理された食品中において、該有機酸塩の濃度は0.1〜0.35質量%であり、該グリシンの濃度は0.5〜1.5質量%であり、該ビタミンB1の濃度は0.0005〜0.025質量%である
チルド保存用調理済食品封入体。
【請求項2】
前記ガスのCO2濃度が5容量%超〜50容量%である、請求項1記載の封入体。
【請求項3】
前記加熱調理された食品が、中心温度が75〜90℃に到達するまで加熱された食品である、請求項1又は2記載の封入体。
【請求項4】
前記1種または2種以上の加熱調理された食品が前記容器中で区分けされて配置されている、請求項1〜のいずれか1項記載の封入体。
【請求項5】
有機酸塩、グリシンおよびビタミンB1を含み且つ加熱調理された1種または2種以上の食品を準備する工程と;
該食品を、O2濃度1容量%以下且つCO2濃度5容量%超のガスを用いたガス置換包装により容器に封入して、調理済食品封入体を得る工程と;
得られた調理済食品封入体をチルド状態で保存する工程と
を含み、
該加熱調理された食品中において、該有機酸塩の濃度は0.1〜0.35質量%であり、該グリシンの濃度は0.5〜1.5質量%であり、該ビタミンB1の濃度は0.0005〜0.025質量%である
調理済食品の保存方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チルド状態で長期保存可能な調理済食品封入体、および調理済食品の保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活習慣の変化により、家庭で調理を行わず、弁当や総菜などの調理済食品を購入して家庭で食することが増えている。調理済食品は、一般に、工場や店内の厨房で大量に製造され、その後配送または店頭に陳列されるので、製造から家庭で食されるまでの間に長時間が経過している場合がある。そのため、こうした大量製造されて店頭で販売される調理済食品には、食品の品質を長期間維持するための工夫が施されているのが通常である。
【0003】
調理済食品を長期保存するとき問題となるのが、微生物の繁殖による食品の腐敗や変質である。特に、バチルス属やクロストリジウム属のような芽胞菌は、耐熱性が高く通常の調理の加熱で殺菌されにくいため問題となる。芽胞菌以外の菌でも、ミクロバクテリウムのような耐熱性の強い菌群は、通常の調理過程では殺菌されにくいため、制御が困難な菌である。
【0004】
従来、調理済食品における微生物の繁殖を抑えてその品質を保持するための手段として、保存料や日持ち向上剤の添加が一般に行われている。保存料としては、例えば、ソルビン酸、安息香酸、プロタミン、ポリリジン等の塩基性ペプチドなど、日持ち向上剤としては、酢酸、フマル酸、アジピン酸等の有機酸またはその塩、グリシン、アラニン等のアミノ酸、低級脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ビタミンB1エステル、含水エタノール、重合リン酸など、多くの物質が知られている(特許文献1〜6)。
【0005】
従来の食品保存手段としてはまた、冷凍保存や加圧加熱殺菌(レトルト)が知られているが、これらの手段は、高価な設備や煩雑な温度管理が必要なうえ、食品の食味や食感、風味を損ねる場合がある。
【0006】
無酸素下や不活性ガス存在下で食品を保存することにより、食品における微生物の繁殖を抑えることができることが知られている。例えば、特許文献7には、弁当の内部を密閉し、内部の雰囲気を窒素ガスで置換することにより弁当の保存性を向上させる方法が記載されている。また特許文献8には、加熱され、炭酸ガス濃度5%以上酸素濃度5%以下の状態で密封された食品を、10℃以下の温度で保存することにより食品の腐敗を防止する方法が記載されている。さらに、特許文献9には、食品を加熱した後、有機酸塩を添加して食品のpHを6.0〜7.0に保持し、さらに炭酸ガス濃度5%以上の状態で密封して、10℃以下の温度で保存することにより食品の保存性を向上させる方法が記載されている。
【0007】
上述した従来の方法により得られた調理済食品の保存性は、必ずしも十分ではなく、また食品の風味を低下させる場合があった。調理済食品の風味を低下させることなく、長期間の保存を可能にする保存手段の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−219925号公報
【特許文献2】特開平6−98783号公報
【特許文献3】特開平6−153882号公報
【特許文献4】特開2000−245417号公報
【特許文献5】特開2000−245418号公報
【特許文献6】特開2001−17138号公報
【特許文献7】特表2008−271831号公報
【特許文献8】特開昭58−98072号公報
【特許文献9】特開昭60−164468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、食品の食味、風味や外観を維持しながら、チルド状態で長期保存可能な調理済食品を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、加熱調理され、且つ酢酸ナトリウム等の有機酸塩、グリシンおよびビタミンB1を添加された食品を、特定の組成のガスを用いて容器にガス置換包装すれば、10℃前後のチルド状態で長期間保存しても食品中の微生物数の増殖を抑えることができるので、調理済食品をその風味や外観を損なうことなく長期保存することが可能になることを見出した。
【0011】
すなわち本発明は、1種または2種以上の加熱調理された食品が容器にガス置換包装されているチルド保存用調理済食品封入体であって、該ガス置換包装用のガスはO2濃度1容量%以下且つCO2濃度5容量%超のガスであり、該加熱調理された食品は有機酸塩、グリシンおよびビタミンB1を含む、チルド保存用調理済食品封入体を提供することにより、上記課題を解決したものである。
また本発明は、有機酸塩、グリシンおよびビタミンB1を含み且つ加熱調理された1種または2種以上の食品を準備する工程と;該食品を、O2濃度1容量%以下且つCO2濃度5容量%超のガスを用いたガス置換包装により容器に封入して、調理済食品封入体を得る工程と;得られた調理済食品封入体をチルド状態で保存する工程とを含む、調理済食品の保存方法を提供することにより、上記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、調理済食品を、その風味や外観を損なうことなく長期保存することが可能になる。また本発明によれば、食品における微生物の増殖を、0℃付近から10℃前後までのチルド温度帯において長期間にわたり制御することができるので、冷凍保存等の煩雑でコストのかかる温度管理を行う必要なく食品を流通・販売することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のチルド保存用調理済食品封入体は、加熱調理された食品をガス置換包装により密封したものである。当該加熱調理された食品としては、各種惣菜、例えば、煮物類、焼き物類、茹で物類、蒸し物類、炒め物類、揚げ物類、汁物類、麺類、飯類、パン類、菓子類等、通常の調理法で加熱調理された食品であれば、その種類や調理法は特に限定されない。好ましくは、本発明に適用される加熱調理された食品とは、中心温度が75〜90℃に到達するまで加熱された食品であり得、好ましくは、中心温度75〜90℃で1秒〜10分間加熱された食品であり得る。
【0014】
本発明のチルド保存用調理済食品封入体は、上記加熱調理された食品を1種類のみ含んでいてもよいが、2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。2種以上の組み合わせとしては、複数種の異なる惣菜の組み合わせ、惣菜と飯との組み合わせ等、所望に応じて任意に設定することができる。
【0015】
上記加熱調理された食品は、有機酸塩、グリシンおよびビタミンB1を含有する。上記有機酸塩としては、酢酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、フマル酸等の有機酸のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等、およびそれらの混合物が挙げられるが、酢酸ナトリウムが好ましい。上記ビタミンB1は、ラウリル硫酸塩、セチル硫酸塩等のエステル体であってもよい。上記有機酸塩、グリシンおよびビタミンB1は、加熱調理される前に食品に添加されても、加熱調理された後に食品に添加されてもよい。
【0016】
上記加熱調理された食品における上記有機酸塩の添加量は、当該加熱調理された食品の質量に対して、0.1〜0.35質量%、好ましくは0.1〜0.3質量%、より好ましくは0.1〜0.25質量%である。上記加熱調理された食品に対するグリシンの添加量は、当該加熱調理された食品の質量に対して、0.5〜1.5質量%、好ましくは0.5〜1.2質量%、より好ましくは0.5〜1.0質量%である。上記加熱調理された食品に対するビタミンB1の添加量は、当該加熱調理された食品の質量に対して、0.0005〜0.025質量%、好ましくは0.0005〜0.01質量%、より好ましくは0.0005〜0.001質量%である。
【0017】
次いで、上記加熱調理された食品をガス置換包装に供する。当該食品は、ガス置換包装用の容器に直接導入され得る。必要に応じて、当該ガス置換包装用の容器は、内部がいくつかの区画に仕切られていて、その各区画に加熱調理された食品が区分けされて配置されていてもよい。このような仕切りは、2種類以上の加熱調理された食品を分けて包装する場合や、1種類の加熱調理された食品を人数分小分けして包装する場合等に有利である。 あるいは、上記加熱調理された食品は、別の容器に収めた状態で、当該別の容器ごとガス置換包装用の容器に導入され、包装されてもよい。当該別の容器は、密封されていない容器であればその種類は特に限定されないが、トレー、カップなど開放された容器であるほうが、ガス置換しやすいため好ましい。当該別の容器もまた、必要に応じて内部がいくつかの区画に仕切られていて、その各区画に加熱調理された食品が区分けされて配置されてもよい。
【0018】
上記食品は、加熱調理された後直ちにガス置換包装に供されてもよく、加熱調理された後一旦無菌下または減菌下で冷却もしくは保温されてからガス置換包装に供されてもよい。あるいは、加熱調理された食品が、再加熱された後にガス置換包装に供されてもよい。
【0019】
必要に応じて、上記ガス置換包装に供される上記加熱調理された食品のpHを調整してもよい。一般に、食品のpHが微生物の増殖に好ましいpHから低くまたは高くなれば、その保存性は向上するが、他方、風味や品質に対する影響がある。上記加熱調理された食品のpHは、保存性の点からは、当該ガス置換包装前の状態でpH7.5以下が好ましく、pH7.2以下がより好ましく、pH6.5以下がさらに好ましく、pH6.0以下がさらにより好ましい。他方、食品の風味の観点からは、当該ガス置換包装前の状態でpH4.0以上が好ましく、pH4.5以上がより好ましく、pH5.0以上がより好ましく、pH5.5以上がさらに好ましく、pH6.0以上がさらにより好ましい。しかし、加熱調理された食品のpHは、当該食品の種類に応じて、風味が損なわれない範囲で調整されることが望ましい。
【0020】
上記ガス置換包装に使用される置換ガスとしては、酸素を実質的に含まないガスであって、且つ食品包装のために使用可能なガスが好ましい。本発明においてガス置換包装に用いることのできるガスとしては、CO2、N2、He、Ne、Arガス、およびそれらの混合ガスが挙げられる。好ましい例として、O2濃度1容量%以下、CO2濃度5容量%超を含むガスが挙げられる。より好ましくは、当該ガスのCO2濃度は5容量%超〜50容量%であり、さらに好ましくは5容量%超〜40容量%であり、さらにより好ましくは5容量%超〜30容量%であり、なお好ましくは10〜30容量%である。また好適には、上記O2濃度1容量%以下、CO2濃度5容量%超を含むガスの残りはN2である。CO2濃度が5容量%以下であると、食品の保存性が低下し、他方、CO2濃度が50容量%を超えると、食品の風味が低下するおそれがある。
【0021】
ガス置換包装においては、製造された調理済食品封入体中の雰囲気が上記所定のガス組成になりさえすれば、ガス置換の手段は特に限定されない。例えば、加熱調理された食品を含む包装容器に予め調製された所与の組成のガスをフラッシュして容器内のガスを置換する方法や、加熱調理された食品を含む包装容器を真空脱気した後に、所与の組成のガスを充填する方法が挙げられる。あるいはさらに、通常使用される脱酸素剤を包装容器に同封することによって、容器内の酸素を除去し、上記所定の雰囲気を実現してもよい。
【0022】
上記ガス置換包装のための包装容器としては、食品のガス置換包装に通常使用される材料、例えばガスバリア性または酸素バリア性のプラスチック類や金属等から製造された包装容器であればよい。このような包装容器材料の例としては、アルミニウム等の金属類、ポリビニルアルコール(PVA)、ナイロン(NY)類、エチレン/ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、アルミラミネート(AL)、アルミ蒸着フィルム(VM)シリカ蒸着フィルム、PET/NY/ポリプロピレン(PP)またはポリエチレン(PE)、PET/NY/AL/PPまたはPE、PP/EVOH/PE、PP/PVA/PE等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
容器包装の手順も通常行われる方法に従えばよい。例えば、上述のような包装容器に上記加熱された食品とガス、必要に応じて脱酸素剤等を充填し、ヒートシール等の通常の方法で該容器を密封すればよい。
【0024】
好ましい一例として、本発明の調理済食品封入体においては、0.1〜0.35質量%の有機酸塩、0.5〜1.5質量%のグリシン、0.0005〜0.025質量%のビタミンB1を含む加熱調理された食品が、O2濃度1容量%以下、CO2濃度5容量%超〜70容量%、残りがN2であるガスでガス置換包装されている。
別の好ましい例として、本発明の調理済食品封入体においては、0.1〜0.35質量%の有機酸塩、0.5〜1.5質量%のグリシン、0.0005〜0.025質量%のビタミンB1を含む加熱調理された食品が、O2濃度1容量%以下、CO2濃度5容量%超〜50容量%、残りがN2であるガスでガス置換包装されている。
より好ましい例として、本発明の調理済食品封入体においては、0.1〜0.35質量%の有機酸塩、0.5〜1.5質量%のグリシン、0.0005〜0.025質量%のビタミンB1を含む加熱調理された食品が、O2濃度1容量%以下、CO2濃度5容量%超〜30容量%、残りがN2であるガスでガス置換包装されている。
さらに好ましい例として、本発明の調理済食品封入体においては、0.1〜0.25質量%の有機酸塩、0.5〜1.0質量%のグリシン、0.0005〜0.01質量%のビタミンB1を含む加熱調理された食品が、O2濃度1容量%以下、CO2濃度5容量%超〜30容量%、残りがN2であるガスでガス置換包装されている。
別のさらに好ましい例として、本発明の調理済食品封入体においては、0.1〜0.25質量%の有機酸塩、0.5〜1.0質量%のグリシン、0.0008〜0.01質量%のビタミンB1を含む加熱調理された食品が、O2濃度1容量%以下、CO2濃度5容量%超〜30容量%、残りがN2であるガスでガス置換包装されている。
別のさらに好ましい例として、本発明の調理済食品封入体においては、0.1〜0.25質量%の有機酸塩、0.5〜1.0質量%のグリシン、0.0005〜0.001質量%のビタミンB1を含む加熱調理された食品が、O2濃度1容量%以下、CO2濃度5容量%超〜30容量%、残りがN2であるガスでガス置換包装されている。
上記に挙げた例において、該有機酸塩は、好ましくは酢酸塩であり、より好ましくは酢酸ナトリウムである。また上記に挙げた例において、該加熱調理された食品のpHは、好ましくはpH5.5〜7.5、より好ましくはpH6.0〜7.2である。
【0025】
上記の手順により、本発明の調理済食品封入体を製造することができる。当該封入体中の生地は、チルド状態で長期保存が可能である。
本明細書において、「チルド状態」とは、保存環境の平均温度が0℃〜10℃の範囲内にある条件をいい、「チルド保存」とは、上記チルド状態での保存をいう。なお、チルド状態には、冷蔵装置の稼働状況や、本発明の封入体の移送時、搬入・搬出時などの作業中における、一時的な上記温度からの逸脱(一般的には、品温として±2℃程度)も含まれるものとする。したがって、本明細書において「チルド保存」とはまた、品温が−2℃〜+12℃に維持される温度条件下での保存であり得る。本発明の封入体は、上記チルド状態の中でも高温域である8℃〜10℃といった温度帯においても長期保存が可能であり、より低温域で取り扱うための手間やコストを軽減することができるので、きわめて有用性が高い。
本明細書において、「長期保存」とは、7日間以上、好ましくは10日間以上、より好ましくは14日間以上、さらに好ましくは21日間以上の期間の保存をいう。
【0026】
本発明の調理済食品封入体に封入された食品においては、微生物の増殖が抑えられており、チルド状態で7日間、好ましくは10日間、より好ましくは14日間、さらに好ましくは21日間保存した後でも、該食品1gあたりの微生物数は、1×105未満に保たれている。
本発明の封入体において増殖が抑制される微生物の例としては、バチルス(Bacillus)属、クロストリジウム(Clostridium)属等の芽胞菌、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属等の耐熱性菌等が挙げられる。
本発明の封入体に封入された食品における微生物数を測定する場合、例えば、平板塗沫法等の通常の方法に従って行えばよい。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0028】
試験例1 微生物増殖試験
(1)試験培地の調製
試験培地は、Bacillus属用には標準寒天培地(栄研化学)を、Clostridium属用にはABCM寒天培地(栄研化学)をそれぞれ使用した。酢酸ナトリウム、グリシン、ビタミンB1をそれぞれ異なる濃度で添加した各培地を、標準寒天培地は121℃で15分間、ABCM寒天培地は115℃で15分間予め加熱し滅菌した。試験培地のpHは、いずれもpH7.0に調整した。これらの試験培地に、Bacillus属菌またはClostridium属菌を、菌数が1.0×102〜9.9×103cfu/gの範囲内に収まるように植菌した。
(2)ガス置換包装
2とCO2をMAP Mix9001ME(PBI Dansensor社)およびバッファータンクによって混合し、CO2:N2が30:70の混合ガスを調整した。当該混合ガスを用いて、卓上型真空包装器V−380G(東静電気株式会社)により、上記試験培地をガス置換包装し、密封して封入体を製造した。製造した封入体は、CheckMate(PBI Dansensor社)を用いたサンプリング検査により、ガス置換包装後の封入体内の雰囲気がCO2濃度は目標値±2.5容量%以内、O2濃度は0〜1容量%の範囲であることを確認した。製造された封入体を10℃でチルド保存した。
【0029】
(3)菌数の測定
封入体中の培地中の微生物数を、包装直後、および14日間保存後にそれぞれ測定した。微生物数は表面塗抹平板法により計測した。具体的には次の通りで行った。
試料液は希釈液にて10倍に希釈し、よく混合することで調製した。その後、各種寒天培地をあらかじめ平板として固めた培地表面に、試料液0.1mLあるいは100倍、10000倍に希釈した試料液0.1mLを滴下し、コンラージ棒で均等に塗抹し、培養した。培地および培養条件としては、Bacillus属の菌数測定には、標準寒天培地(栄研化学)を用いた25℃、48時間または35℃、48時間の好気培養、Clostridium属菌数測定には、ABCM寒天培地(栄研化学)を用いた35℃、48時間の嫌気培養を採用した。
微生物数は、培地で生育したコロニー数に希釈倍数を乗じて培地1gあたりの微生物数(cfu/g)として計測した。例えば、試料液を希釈せずに0.1mLの試料液を接種した培地において、培養後に3個のコロニーが観察された場合、3.0×102cfu/gとした。各菌についての培地のなかで最大の微生物数となった培地の値を、微生物数測定結果とした。
【0030】
試験例2 品質評価試験
各材料に、酢酸ナトリウム、グリシン、ビタミンB1をそれぞれ異なる濃度で添加、よく混合し、85℃で2.5分加熱調理してハンバーグを製造した。このハンバーグを、上記試験例1(2)と同様の手順でCO2:N2が30:70の混合ガスを用いてガス置換包装して密封し、10℃で14日間チルド保存した。対照(無添加)として酢酸ナトリウム、グリシン、ビタミンB1をいずれも含有しないハンバーグを製造し、同様にガス置換包装して密封し、チルド保存した。保存後のハンバーグの品質を下記評価基準にて評価した。
評価基準
5: 無添加と同等の非常に良好な風味
4: 無添加よりやや劣るが良好な風味
3: 無添加と比べて風味が劣る
2: 無添加と比べて風味が著しく劣る
1: 風味が悪く、商品として提供できない
【0031】
結果
酢酸ナトリウム(0.25質量%)、グリシン(1.0質量%)およびビタミンB1(0.01質量%)の3成分を添加した培地では、14日間保存した後でも、Bacillus属およびClostridium属の増殖はいずれも観察されなかった。これに対し、同じ量の酢酸ナトリウムのみを添加した培地では14日間保存後には菌の増殖が観察された。酢酸ナトリウムに加えてグリシンまたはビタミンB1のいずれかのみを添加した培地では、Bacillus属およびClostridium属の一方または両方が増殖した。また、酢酸ナトリウム、グリシンおよびビタミンB1の添加濃度をさらに下げた場合でも、当該3成分を添加することにより菌の増殖を抑制することができた(表1)。
酢酸ナトリウムの添加量が0.35質量%を超えた場合、またはグリシンの添加量が1.5質量%を超えた場合、またはビタミンB1の添加量が0.025質量%を超えた場合、食品の風味が低下することが明らかになった(表2)。
したがって、酢酸ナトリウム、グリシンおよびビタミンB1を組み合わせて添加することにより、単独添加(例えば酢酸ナトリウムのみ)と比べて、ガス置換包装食品の保存性を向上させることができる。また当該上記成分を組み合わせて添加することによって、各成分の添加量を大幅に減らすことができるので、食品の風味を良好に保つことができる。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
試験例3
標準寒天培地(栄研化学)に、表3記載の量で酢酸ナトリウム、グリシンおよびビタミンB1を添加した。培地のpHはpH7.0に調整した。この培地を121℃で15分間加熱滅菌した後、Bacillus属菌を植菌し、次いで、上記試験例1(2)と同様の手順でCO2/N2混合ガスを用いてガス置換包装して密封し、封入体を製造した。得られた封入体を10℃でチルド保存した。ガス置換包装に用いた混合ガスのCO2濃度は表3の通りであった。
上記試験例1(3)と同様の手順で、封入体中の培地中の微生物数を、包装直後および保存14日後にそれぞれ測定した。結果を表3に示す。CO2濃度が5容量%を超えた場合、Bacillus属菌の増殖は観察されなかった。
【0035】
【表3】
【0036】
試験例4
添加物(0.25質量%酢酸ナトリウム、1.0質量%グリシン、および0.01質量%ビタミンB1)を添加し、表4の通り加熱して製造された惣菜を容器に充填し、菌液(Bacillus属)を全体に滴下し、上記試験例1(2)と同様の手順でCO2:N2が30:70の混合ガスを用いてガス置換包装して密封し、封入体を製造した。得られた封入体を10℃でチルド保存した。
【0037】
【表4】
【0038】
上記試験例1(3)と同様の手順で、封入体中の惣菜中の微生物数を、包装直後、ならびに保存7日後、10日後、14日後および21日後にそれぞれ測定した。
結果を表5に示す。酢酸ナトリウム、グリシンおよびビタミンB1の添加により、惣菜の保存性が向上した。
【0039】
【表5】