(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6078236
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】加工廃液処理装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20170130BHJP
B24B 55/12 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
H01L21/304 622E
B24B55/12
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-125912(P2012-125912)
(22)【出願日】2012年6月1日
(65)【公開番号】特開2013-251435(P2013-251435A)
(43)【公開日】2013年12月12日
【審査請求日】2015年5月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 幹
(72)【発明者】
【氏名】石黒 裕隆
(72)【発明者】
【氏名】藤田 敦史
【審査官】
内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−081385(JP,A)
【文献】
特開2010−017835(JP,A)
【文献】
特開2002−100555(JP,A)
【文献】
特開2001−038153(JP,A)
【文献】
特開2012−024661(JP,A)
【文献】
特開2002−113499(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 55/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン微粒子が混入された加工廃液をシリコン微粒子と清水に分離する加工廃液処理装置において、
加工廃液供給手段に連通する加工廃液流入口が底部に設けられた廃液処理槽と、該廃液処理槽に配設されマイナスに帯電される陰極手段と、該陰極手段と対面して配設されプラスに帯電される陽極手段と、該陰極手段の上部に配設され清水を吸引する清水吸引手段と、該加工廃液供給手段から廃液処理槽に流入する加工廃液のpHを調整するためのpH調整手段と、を備え、
該pH調整手段は、該廃液処理槽に供給される加工廃液に混入されているシリコン微粒子の該陽極手段による捕獲力が増大するpH値になるように調整する、
ことを特徴とする加工廃液処理装置。
【請求項2】
該pH調整手段は、加工廃液に酸を供給する酸供給手段と、該廃液処理槽に流入する加工廃液の電気抵抗値を計測する電気抵抗計測手段と、該電気抵抗計測手段からの計測信号に基づいて酸供給手段を制御する制御手段とを具備している、請求項1記載の加工廃液処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエーハ等の被加工物を切削する切削装置や被加工物を研削する研削装置等の加工装置に付設され、加工時に供給される加工液の廃液を処理する加工廃液処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造工程においては、略円板形状である半導体ウエーハの表面に格子状に配列されたストリートと呼ばれる分割予定ラインによって複数の領域が区画され、この区画された領域にIC、LSI等のデバイスを形成する。このように表面にデバイスが形成された半導体ウエーハをストリートに沿って切断することにより、デバイスが形成された領域を分割して個々の半導体デバイスを製造している。
【0003】
上述した半導体ウエーハのストリートに沿った切断は、通常、ダイサーと呼ばれる切削装置によって行われている。この切削装置は、半導体ウエーハ等の被加工物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された被加工物を切削するための切削ブレードを備えた切削手段と、切削ブレードに加工水を供給する加工水供給手段を具備し、該加工水供給手段によって加工水を回転する切削ブレードに供給することにより切削ブレードを冷却するとともに、切削ブレードによる被加工物の切削部に加工水を供給しつつ切削作業を実施する。
【0004】
このようにして分割されるウエーハは、ストリートに沿って切断する前に研削装置によって裏面が研削され、所定の厚さに加工される。研削装置は、被加工物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブル上に保持された被加工物を研削する研削手段とを具備している。この研削手段は、回転スピンドルと、該回転スピンドルの下端に設けられたホイールマウントと、該ホイールマウントの下面に着脱可能に装着される研削ホイールとを具備しており、該研削ホイールがホイール基台と該ホイール基台の下面における外周部の砥石装着部に装着された複数の研削砥石とからなっており、研削ホイールを回転し加工水を供給しつつ研削砥石をチャックテーブルに保持された被加工物に押圧することにより被加工物を研削する。
【0005】
上述したように切削装置による切削時や研削装置による研削時に供給された加工水にはシリコンを切削や研削することによって発生するシリコン微粒子が混入される。このシリコン微粒子が混入された加工廃液は環境を汚染することから、加工廃液を処理して排水しなければならず、廃液処理コストがかかるという問題がある。また、特に研削装置においては、被加工物であるウエーハの厚みを例えば600μmから100μm前後まで研削することから、1台の研削装置で使用される加工水は1日に2〜3tにおよびランニングコストが高額になるという問題がある。更に、ウエーハは比較的高価なシリコンによって形成されているが、上述したように研削及び切削によってシリコンが90%近く廃棄されており、資源が有効活用されていないという問題がある。
【0006】
上記問題を解消するために、加工廃液をフィルターで濾過して清水を生成し、切削水または研削水として循環して使用する加工廃液処理装置が提案されている。(例えば、特許文献1参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−95941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
而して、上述した加工廃液処理装置は、フィルターを交換しなければならず、生産性が悪いという新たな問題が生じた。特に、厚みが600μm程度のシリコンウエーハを100μm程度の厚みに研削する研削装置に付設する加工廃液処理装置においては、研削屑が多量に発生するため、フィルターを交換する作業が頻繁となる。
また、研削屑としてのシリコン微粒子はフィルターに捕捉されるので、フィルターからシリコン微粒子を回収してシリコンインゴットを再生することも可能であるが、フィルターに浸透したシリコン微粒子を効率よく回収することは困難である。
【0009】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、その主たる技術課題は、切削屑や研削屑としてのシリコン微粒子を含む加工廃液からシリコン微粒子を分離して清水を生成することができるとともに、シリコン微粒子を効率よく回収することができる加工廃液処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記主たる技術課題を解決するため、本発明によれば、シリコン微粒子が混入された加工廃液をシリコン微粒子と清水に分離する加工廃液処理装置において、
加工廃液供給手段に連通する加工廃液流入口が底部に設けられた廃液処理槽と、該廃液処理槽に配設されマイナスに帯電される陰極手段と、該陰極手段と対面して配設されプラスに帯電される陽極手段と、該陰極手段の上部に配設され清水を吸引する清水吸引手段と
、該加工廃液供給手段から廃液処理槽に流入する加工廃液のpHを調整するためのpH調整手段と、を備え、
該pH調整手段は、該廃液処理槽に供給される加工廃液に混入されているシリコン微粒子の該陽極手段による捕獲力が増大するpH値になるように調整する、
ことを特徴とする加工廃液処理装置が提供される。
【0011】
上
記pH調整手段は、加工廃液に酸を供給する酸供給手段と、該廃液処理槽に流入する加工廃液の電気抵抗値を計測する電気抵抗計測手段と、該電気抵抗計測手段からの計測信号に基づいて酸供給手段を制御する制御手段とを具備している。
【発明の効果】
【0012】
本発明による加工廃液処理装置は、加工廃液供給手段に連通する加工廃液流入口が底部に設けられた廃液処理槽と、該廃液処理槽に配設されマイナスに帯電される陰極手段と、該陰極手段と対面して配設されプラスに帯電される陽極手段と、該陰極手段の上部に配設され清水を吸引する清水吸引手段と
、該加工廃液供給手段から廃液処理槽に流入する加工廃液のpHを調整するためのpH調整手段と、を備え、該pH調整手段は、該廃液処理槽に供給される加工廃液に混入されているシリコン微粒子の該陽極手段による捕獲力が増大するpH値になるように調整するので、廃液処理槽に設けられた加工廃液流入口から廃液処理槽に流入した加工廃液は、陽極手段に吸着されるシリコン微粒子と、清水に分離される。このようにして、分離されたシリコン微粒子は複数の陽極手段に吸着されて堆積し、清水は主に陰極手段の上部に生成される。陰極手段の上部に生成された清水は、陰極手段の上部に配設された清水吸引手段を介して清水タンクに搬送される。そして、陽極手段に吸着されて堆積したシリコン微粒子を回収してシリコンインゴットを再生することが可能となる。従って、廃液処理槽の一方の側壁に設けられた加工廃液流入口から加工廃液を所定量ずつ流入することにより、シリコン微粒子を効率よく分離できるとともに、加工廃液から容易に清水を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に従って構成された加工廃液処理装置の斜視図。
【
図2】
図1に示す加工廃液処理装置を構成する部材を分解して示す斜視図。
【
図4】
図1に示す加工廃液処理装置に装備されるpH調整手段の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に従って構成された加工廃液処理装置の好適な実施形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
図1には本発明に従って構成された加工廃液処理装置の斜視図が示されており、
図2には
図1に示す加工廃液処理装置を構成する部材を分解して示す斜視図が示されている。図示の実施形態における加工廃液処理装置は、廃液処理槽2と、該廃液処理槽2に配設されマイナスに帯電される陰極手段3と、該陰極手段3と対面して配設されプラスに帯電される陽極手段4を具備している。廃液処理槽2は、
図2に示すように幅方向に対して長さ方向が大きい底壁21と、底壁21の幅方向両側縁から立設された側壁22、23と、底壁21の長手方向両側縁から立設された端壁24、25によって形成され上側が解放されている。廃液処理槽2を構成する一方の端壁24の下部に加工廃液流入口241が設けられており、この加工廃液流入口241が
図3に示しように加工廃液供給手段5の加工廃液供給管51に連通されている。
【0016】
廃液処理槽2を構成する側壁22、23の内面には、陰極手段3を支持するための複数の第1の支持溝221と231および陽極手段4を支持するための複数の第2の支持溝222、232が設けられている。この複数の第1の支持溝221、231と複数の第2の支持溝222、232は、配列方向に互いに交互に設けられている。このように構成された廃液処理槽2は、合成樹脂等の絶縁部材によって形成されている。
【0017】
陰極手段3は、銅やステンレス鋼等の導電性部材からなる複数の陰極板31とからなっている。この複数の陰極板31は、廃液処理槽2内に長手方向である側壁22、23に設けられた複数の第1の支持溝221と231に嵌合される。陽極手段4は、銅やステンレス鋼等の導電性部材からなる複数の陽極板41とからなっており、上端中央部に把手411が設けられている。このように形成された複数の陽極板41は、廃液処理槽2内に長手方向である側壁22、23に設けられた複数の第2の支持溝222と232に嵌合される。このようにして、廃液処理槽2内に長手方向である側壁22、23に設けられた複数の第1の支持溝221と231および複数の第2の支持溝222と232に嵌合された陰極板31と陽極板41は、
図3に示すように互いに交互に対面して配設されたことになる。このように配設された陽極板41が直流電源6のプラス(+)に接続され、陰極板31が直流電源6のマイナス(−)に接続される。
【0018】
図2および
図3を参照して説明を続けると、図示の実施形態における加工廃液処理装置は、上記陰極手段3を構成する複数の陰極板31の上端に配設された清水吸引手段7を具備している。この清水吸引手段7は、複数の陰極板31の上端に沿って装着され両端が閉塞された清水吸引パイプ71を備えている。この清水吸引パイプ71の側面には長手方向に沿って複数の清水吸引口711設けられているとともに、端部に清水送出口712が設けられている。このように構成された清水吸引パイプ71の清水送出口712は、清水送給ポンプ72に連通されている。
【0019】
図4を参照して説明を続けると、図示に実施形態における加工廃液処理装置は、加工廃液供給手段5から廃液処理槽2に流入する加工廃液のpHを調整するためのpH調整手段8を備えている。このpH調整手段8は、加工廃液に酸を供給する酸供給手段81と、廃液処理槽に流入する加工廃液の電気抵抗値を計測する電気抵抗計測手段82と、該電気抵抗計測手段82からの計測信号に基づいて酸供給手段81を制御する制御手段83とを具備している。加工廃液供給手段5の加工廃液供給管51にはバイパス管52が設けられており、このバイパス管52にpH調整手段8を構成する酸供給手段81から酸が供給されるようになっている。なお、加工廃液供給管51の直径とバイパス管52の直径との比は、図示の実施形態においては50:1に設定されている。上記酸供給手段81は、図示の実施形態においては二酸化炭素供給手段811と、水供給手段812と、二酸化炭素供給手段811と水供給手段812によって供給された二酸化炭素と水を混合して炭酸水を生成する混合室813と、該混合室813とバイパス管52とを接続する配管中に配設された流量制御弁814とからなっている。電気抵抗計測手段82は、上記加工廃液供給手段5の加工廃液供給管51におけるバイパス管52より下流側に配設され上記酸供給手段81によって酸が供給され廃液処理槽2に流入する加工廃液のpHを計測し、計測信号を制御手段83に送る。制御手段83は、pH調整手段8を構成する電気抵抗計測手段82からの検出信号に基づいて流量制御弁814を制御することにより、廃液処理槽2に流入する加工廃液のpHが所定の値を維持するように機能する。なお、加工廃液に供給する酸として塩酸を用いてもよいが安全のため炭酸水を用いることが好ましい。
【0020】
図示の実施形態における加工廃液処理装置は以上のように構成されており、以下その作用について説明する。
図示しない研削装置等の加工装置に装備される加工廃液送出手段から送られ図示しない廃液タンクに収容された加工廃液は、加工廃液供給手段5によって廃液処理槽2の一方の端壁24に設けられた加工廃液流入口241から廃液処理槽2に供給される。このとき、上記pH調整手段8を作動して二酸化炭素と水を加工廃液に供給する。そして、pH調整手段8は、電気抵抗計測手段82からの計測信号が1MΩcm即ち廃液処理槽2に供給される加工廃液がpH5を維持するように調整する。本発明者らの実験によると、シリコン微粒子に帯電したマイナス(−)のゼータ電位を調整すると、陽極板によるシリコン微粒子の捕獲力が増大することが判った。即ち、シリコン微粒子に帯電したマイナス(−)のゼータ電位は、高ければ陽極板によるシリコン微粒子の捕獲力が増大するということではなく、廃液処理槽に供給される加工廃液に混入されているシリコン微粒子のゼータ電位がマイナス(−)40mV程度のとき最も陽極板によるシリコン微粒子の捕獲力が増大することが判った。シリコンがマイナス(−)40mV程度のゼータ電位を示すpHはpH5程度であり、このときの加工廃液の電気抵抗は1MΩcmである。
【0021】
上述したようにpHが調整されて廃液処理槽2に送られた加工廃液にはシリコン微粒子が混入されており、このシリコン微粒子はマイナス(−)40mV程度に帯電されている。このようにして廃液処理槽2に収容された加工廃液に混入されているシリコン微粒子を分離するには、陽極手段4の陽極板41に直流電源6のプラス(+)を印加するとともに、陰極手段3の陰極板31に直流電源6のマイナス(−)を印加する。この結果、加工廃液に混入されマイナス(−)に帯電されているシリコン微粒子は、マイナス(−)に帯電された陰極板31から反発されプラス(+)に帯電された陽極板41に吸着する。このとき、廃液処理槽2に供給された加工廃液は上述したようにpH5程度に調整され加工廃液に混入されているシリコン微粒子のゼータ電位がマイナス(−)40mV程度に維持されているので、シリコン微粒子は効率よく陽極板41に捕獲される。
【0022】
以上のように、廃液処理槽2の一方の端壁24に設けられた加工廃液流入口241から廃液処理槽2に流入した加工廃液は、陽極板41に吸着されるシリコン微粒子と、清水に分離される。このようにして、分離されたシリコン微粒子は複数の陽極板41に吸着されて堆積し、清水は主に陰極手段3を構成する複数の陰極板31の上部に生成される。陰極手段3を構成する複数の陰極板31の上部に生成された清水は、複数の陰極板31の上端にそれぞれ配設された複数の清水吸引パイプ71に設けられた複数の清水吸引口711から複数の清水吸引パイプ71に吸引され、複数の清水吸引パイプ71の清水送出口712から送出され清水送給ポンプ72を介して図示しない清水タンクに搬送される。従って、廃液処理槽2の一方の端壁24に設けられた加工廃液流入口241から加工廃液を所定量ずつ流入することにより、シリコン微粒子を効率よく分離できるとともに、加工廃液から容易に清水を生成することができる。
【0023】
上述した加工廃液の処理工程を所定時間実施し、陽極手段4を構成する複数の陽極板41にシリコン微粒子が堆積したならば、シリコン微粒子が堆積した複数の陽極板41を廃液処理槽2の側壁22、23に形成された複数の第2の支持溝222と232から抜き取り、シリコン微粒子回収工程に搬送される。シリコン微粒子回収工程においては、複数の陽極板41に堆積したシリコン微粒子を剥離して回収する。このようにして回収されたシリコン微粒子は、シリコンインゴットに再生される。
【符号の説明】
【0024】
2:廃液処理槽
241:加工廃液流入口
3:陰極手段
31:陰極板
4:陽極手段
41:陽極板
5:加工廃液供給手段
51:加工廃液供給管
52:バイパス管
6:直流電源
7:清水吸引手段
71:清水吸引パイプ
72:清水送給ポンプ
8:pH調整手段
81:酸供給手段
82:電気抵抗計測手段
83:制御手段