特許第6078338号(P6078338)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友精化株式会社の特許一覧

特許60783383−ハロ−1,2−ベンゾイソチアゾール類の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6078338
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】3−ハロ−1,2−ベンゾイソチアゾール類の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 275/04 20060101AFI20170130BHJP
【FI】
   C07D275/04
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-509372(P2012-509372)
(86)(22)【出願日】2011年3月14日
(86)【国際出願番号】JP2011055943
(87)【国際公開番号】WO2011125423
(87)【国際公開日】20111013
【審査請求日】2014年1月9日
【審判番号】不服2015-16294(P2015-16294/J1)
【審判請求日】2015年9月3日
(31)【優先権主張番号】特願2010-86377(P2010-86377)
(32)【優先日】2010年4月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】坂上 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】飯田 幸生
【合議体】
【審判長】 佐藤 健史
【審判官】 加藤 幹
【審判官】 木村 敏康
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−168070(JP,A)
【文献】 特開昭54−106464(JP,A)
【文献】 特表2008−540370(JP,A)
【文献】 特表2009−516667(JP,A)
【文献】 特開平11−199540(JP,A)
【文献】 特開昭53−111064(JP,A)
【文献】 特公昭47−1926(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus,REGISTRY
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】
(式中、R1は、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ニトロ基またはハロゲン原子を示す)
で表される1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オン類と、該1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オン類1モルに対して0.8〜5モルの塩化チオニル又は臭化チオニルとを、該1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オン類1モルに対して1〜6モルのN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド又はN,N−ジブチルホルムアミド中で、反応させることを特徴とする一般式(2):
【化2】
(式中、R1は、前記一般式(1)におけるR1と同じ基を、Xは塩素原子又は臭素原子を示す)
で表される3−ハロ−1,2−ベンゾイソチアゾール類の製造方法。
【請求項2】
塩化チオニル又は臭化チオニルが、塩化チオニルである請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド又はN,N−ジブチルホルムアミドが、N,N−ジメチルホルムアミドである請求項1又は2記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3−ハロ−1,2−ベンゾイソチアゾール類の製造方法に関する。さらに詳しくは、医薬品等の製造原料として有用な3−ハロ−1,2−ベンゾイソチアゾール類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、3−ハロ−1,2−ベンゾイソチアゾール類の製造方法としては、
(A)1,2−ベンゾイソチアゾールとオキシ塩化リンもしくは三塩化リンとを無溶媒で反応させて3−クロロ−1,2−ベンゾイソチアゾールを得る方法(特許文献1参照)、
【0003】
【化1】
【0004】
(B)1,2−ベンゾイソチアゾールとホスゲンとを、ジブチルホルムアミド等の触媒の存在下に反応させて3−クロロ−1,2−ベンゾイソチアゾールを得る方法(特許文献2参照)、
【0005】
【化2】
【0006】
(C)ジチオサリチル酸に塩化チオニルとメチルアミンを反応させてアミド体を製造し、続いて五塩化リンを反応させて3−クロロ−1,2−ベンゾイソチアゾールを得る方法(特許文献3参照)
【0007】
【化3】
【0008】
等が知られている。
【0009】
しかしながら、(A)の方法は、副反応生成物であるリンハロゲン化物の分離が困難で、廃水処理上問題となるオキシ塩化リンもしくは三塩化リンを用いる必要があり、また収率も低いといった問題がある。(B)の方法は、毒性が非常に高く安全上取り扱いに問題があるホスゲンを用いる必要があるため、工業的に有利な方法とは言い難い。(C)の方法は、高価なジチオサリチル酸を用いており、反応工程数が多く、収率も低いため、工業的に有利な方法とは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭61−112063号公報(請求項30、第15頁(実施例19))
【特許文献2】特開平10−168070号公報(請求項7)
【特許文献3】特開昭63−83085号公報(第8頁(参考例4))
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、高価な原料を用いることなく、工業的に有利に3−ハロ−1,2−ベンゾイソチアゾール類を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明の要旨は、一般式(1):
【0013】
【化4】
【0014】
(式中、R1は、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ニトロ基またはハロゲン原子を示す)
で表される1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オン類と、該1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オン類1モルに対して0.8〜5モルの塩化チオニル又は臭化チオニルとを、該1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オン類1モルに対して1〜6モルのN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド又はN,N−ジブチルホルムアミド中で、反応させることを特徴とする一般式(2):
【0015】
【化5】
【0016】
(式中、R1は、前記一般式(1)におけるR1と同じ基を、Xは塩素原子又は臭素原子を示す)
【0017】
で表される3−ハロ−1,2−ベンゾイソチアゾール類の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、医薬品等の製造原料として有用な3−ハロ−1,2−ベンゾイソチアゾール類を、高価な原料を用いることなく、工業的に有利に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明で用いられる1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オン類は、前記一般式(1)で表される化合物である。
【0020】
前記一般式(1)中、R1は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基、ニトロ基またはハロゲン原子を表す。
【0021】
炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等を挙げることができる。
【0022】
炭素数1〜4のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等を挙げることができる。
【0023】
炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基等を挙げることができる。
【0024】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等を挙げることができる。
【0025】
前記一般式(1)で表される1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オン類の具体例としては、1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オン、7−メチル−1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オン、5−ブチル−1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オン、6−メトキシ−1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オン、6−メトキシカルボニル−1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オン、7−ニトロ−1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オン、6−クロロ−1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オン等を挙げることができる。
【0026】
1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オン類は、公知の方法により製造することができる。例えば、2−ハロベンゾニトリル類とアルカンチオール類とを、塩基の存在下に不均一系で反応させて2−(アルキルチオ)ベンゾニトリル類を得、さらに水の存在下で塩素、塩化スルフリル等のハロゲン化剤とを反応させることにより1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オン類を製造することができる。
【0027】
本発明で用いられるハロゲン化チオニルとしては、塩化チオニル、臭化チオニル等を挙げることができる。これらの中でも、経済性および入手が容易である観点から塩化チオニルが好適に用いられる。
【0028】
ハロゲン化チオニルの使用量は、未反応で残存する1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オン類を低減する観点および使用量に見合うだけの効果を得る観点から、1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オン類1モルに対して、0.8〜5モルが好ましく、さらに好ましくは1〜3モルである。
【0029】
本発明で用いられる極性溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジブチルホルムアミド、スルホラン、ピリジン等を挙げることができる。これらの中でも経済性および入手が容易である観点からN,N−ジメチルホルムアミドが好適に用いられる。
【0030】
極性溶媒の使用量は、反応を円滑に進行させる観点および使用量に見合うだけの効果を得る観点から、1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オン類1モルに対して、1〜6モルが好ましく、さらに好ましくは1.5〜5.5モル、特に好ましくは2.2〜5モルである。
【0031】
本発明においては、前記極性溶媒に加えて反応に対して不活性な溶媒を混合して使用することもできる。反応に対して不活性な溶媒としては、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン等の炭化水素類;ジクロロエタン、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類等を挙げることができる。これらの中でも、トルエン、クロロベンゼン等が好適に用いられる。反応に対して不活性な溶媒の使用量は、極性溶媒100重量部に対して、通常50〜2000重量部が好ましい。
【0032】
反応温度は、反応を円滑に進行させる観点および副反応が起こるのを防止する観点から、0〜180℃が好ましく、さらに好ましくは40℃〜150℃である。反応時間は、1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オン類の種類や反応温度により異なるため一概には言えないが、通常、1〜40時間である。
【0033】
反応液から、目的とする3−ハロ−1,2−ベンゾイソチアゾール類を単離精製する方法としては、例えば、該3−ハロ−1,2−ベンゾイソチアゾール類が液体の場合は減圧蒸留する方法、固体の場合は、晶析または抽出して再結晶させる方法等を挙げることができる。
【0034】
かくして得られる3−ハロ−1,2−ベンゾイソチアゾール類は、前記一般式(2)で表される化合物である。
【0035】
前記一般式(2)中、R1は前記一般式(1)におけるR1と同じ基を、Xはハロゲン原子を表す。
【0036】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等を挙げることができる。
【0037】
前記一般式(2)で表される3−ハロ−1,2−ベンゾイソチアゾール類の具体例としては、3−クロロ−1,2−ベンゾイソチアゾール、3−クロロ−7−メチル−1,2−ベンゾイソチアゾール、5−ブチル−3−クロロ−1,2−ベンゾイソチアゾール、3−クロロ−6−メトキシ−1,2−ベンゾイソチアゾール、3−クロロ−6−メトキシカルボニル−1,2−ベンゾイソチアゾール、3−クロロ−7−ニトロ−1,2−ベンゾイソチアゾール、3,6−ジクロロ−1,2−ベンゾイソチアゾール、3−ブロモ−1,2−ベンゾイソチアゾール、3−ブロモ−7−メチル−1,2−ベンゾイソチアゾール、5−ブチル−3−ブロモ−1,2−ベンゾイソチアゾール、3−ブロモ−6−メトキシ−1,2−ベンゾイソチアゾール、3−ブロモ−6−メトキシカルボニル−1,2−ベンゾイソチアゾール、3−ブロモ−7−ニトロ−1,2−ベンゾイソチアゾール、3,6−ジブロモ−1,2−ベンゾイソチアゾール等を挙げることができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0039】
実施例1
攪拌器、温度計および冷却管を備えた1L容の4つ口フラスコに1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オン75.6g(0.5モル)、N,N−ジメチルホルムアミド54.8g(0.75モル)およびクロロベンゼン100.0gを仕込み、攪拌しながら塩化チオニル71.4g(0.6モル)を70〜80℃で、1時間かけて滴下し、同温度で8時間反応させた。反応終了後、反応液を濃縮し、得られた粗生成物を128℃、0.93kPaの減圧下で蒸留することにより、3−クロロ−1,2−ベンゾイソチアゾール75.1g(0.45モル)を得た。1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オンに対する収率は90%であった。
【0040】
実施例2
攪拌器、温度計および冷却管を備えた1L容の4つ口フラスコに7−メチル−1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オン82.6g(0.5モル)、N,N−ジメチルホルムアミド80.4g(1.1モル)およびトルエン200.0gを仕込み、攪拌しながら塩化チオニル83.3g(0.7モル)を70〜80℃で、1時間かけて滴下し、同温度で3時間反応させた。反応終了後、反応液を濃縮し、得られた粗生成物を110℃、0.40kPaの減圧下で蒸留することにより、3−クロロ−7−メチル−1,2−ベンゾイソチアゾール81.7g(0.45モル)を得た。7−メチル−1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オンに対する収率は89%であった。
【0041】
実施例3
攪拌器、温度計および冷却管を備えた1L容の4つ口フラスコに6−メトキシ−1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オン90.6g(0.5モル)、N,N−ジメチルホルムアミド109.6g(1.5モル)およびクロロベンゼン150.0gを仕込み、攪拌しながら塩化チオニル89.2g(0.75モル)を80〜90℃で、1時間かけて滴下し、同温度で5時間反応させた。反応終了後、反応液を濃縮し、得られた粗生成物をシクロヘキサンで再結晶することにより、3−クロロ−6−メトキシ−1,2−ベンゾイソチアゾール86.9g(0.44モル)を得た。6−メトキシ−1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オンに対する収率は87%であった。
【0042】
実施例4
攪拌器、温度計および冷却管を備えた1L容の4つ口フラスコに7−ニトロ−1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オン98.1g(0.5モル)、N,N−ジメチルホルムアミド146.2g(2モル)およびクロロベンゼン500.0gを仕込み、攪拌しながら塩化チオニル119.0g(1.0モル)を80〜90℃で、1時間かけて滴下し、同温度で3時間反応させた。反応終了後、反応液を濃縮し、得られた粗生成物をトルエンで再結晶することにより、3−クロロ−7−ニトロ−1,2−ベンゾイソチアゾール91.2g(0.43モル)を得た。7−ニトロ−1,2−ベンゾイソチアゾール−3−オンに対する収率は85%であった。
【0043】
比較例
実施例4において、N,N−ジメチルホルムアミド146.2gを用いない以外は実施例4と同様に反応を行ったが、反応が進行せず3−クロロ−7−ニトロ−1,2−ベンゾイソチアゾールは得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の方法により得られる3−ハロ−1,2−ベンゾイソチアゾール類は、医薬品等の製造原料等として好適に用いられる。