特許第6078982号(P6078982)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6078982
(24)【登録日】2017年1月27日
(45)【発行日】2017年2月15日
(54)【発明の名称】フィルタープレスの洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 25/12 20060101AFI20170206BHJP
【FI】
   B01D25/12 C
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-116739(P2012-116739)
(22)【出願日】2012年5月22日
(65)【公開番号】特開2013-240769(P2013-240769A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2015年5月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】吉川 たかし
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 一也
【審査官】 目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】 実公昭62−034575(JP,Y2)
【文献】 特開昭50−067726(JP,A)
【文献】 特開昭63−028890(JP,A)
【文献】 特開2002−105497(JP,A)
【文献】 特開昭54−046207(JP,A)
【文献】 特開昭63−161091(JP,A)
【文献】 特開2002−121598(JP,A)
【文献】 米国特許第05228467(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D24/00−35/34
B01D61/00−71/82
C02F1/44
C11D1/00−19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
濾布と、該濾布を保持した濾板とを有するフィルタープレスの該濾布及び濾板を洗浄液により洗浄するフィルタープレスの洗浄方法において、
該洗浄液はEDTA又はその塩とアルカノールアミンと、懸濁物質として鉄含有スラリーを含んでいることを特徴とするフィルタープレスの洗浄方法。
【請求項2】
請求項1において、アルカノールアミンはトリエタノールアミンであることを特徴とするフィルタープレスの洗浄方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、鉄含有スラリーが、転炉集塵水シックナーから引き抜かれた鉄含有スラリーであることを特徴とするフィルタープレスの洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタープレスの濾布及び濾板を洗浄液により洗浄するフィルタープレスの洗浄方法に係り、特に炭酸カルシウム等のスケールが付着したフィルタープレスの洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
汚泥等の脱水にフィルタープレスが広く用いられている。このフィルタープレスの濾板に閉塞・滞留が生じてくると、濾布の破れや、脱水効率の悪化を引き起こすため、頻繁に清掃を実施する必要がある。フィルタープレスの清掃には多量の洗浄水が必要であり、多額の費用がかかるため、課題となっていることが多い。フィルタープレスには、濾布や濾板を洗浄するための装置が組み込まれているが、十分でない場合が多い。また、その洗浄装置には、濾板上方から下方に向けて洗浄水を濾布に噴射するものがあるが、濾板を洗浄するよりも濾布を洗浄するものであるため、濾板の洗浄に対しては不十分な場合がある。
【0003】
特許文献1,2には、酸性の洗浄剤を含んだ洗浄液によりフィルタープレスの濾過ユニットを洗浄することが記載されている。特許文献1では、この酸性の洗浄剤を含んだ洗浄液を濾過ユニット内に充満させ、所定時間放置することにより、濾布や濾板に付着した炭酸カルシウム等のスケールを溶解させる。
【0004】
タンク、配管等の硬表面洗浄剤としてEDTA又はL−アスパラギン酸−N,N−二酢酸アルカリ金属塩とアルカリ金属水酸化物とからなる組成物が知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−222513
【特許文献2】実開平5−9607
【特許文献3】特開平9−176694
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1,2では、洗浄液が酸性の洗浄剤を含んでいるため、この洗浄液との接触により濾布や濾板あるいは周辺設備を腐食させるおそれがある。また、酸性洗浄剤を用いると、溶出した鉄イオンが中和工程で水酸化鉄として析出し、濾布を目詰りさせることがある。
【0007】
キレート剤を含む洗浄剤を用いた場合も、水酸化鉄が析出し、濾布を目詰りさせることがある。
【0008】
本発明は、濾布や濾板あるいは周辺設備を腐食させることなく十分に洗浄することができ、また、水酸化鉄による濾布の目詰りも防止されるフィルタープレスの洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のフィルタープレスの洗浄方法は、濾布と、該濾布を保持した濾板とを有するフィルタープレスの該濾布及び濾板を洗浄液により洗浄するフィルタープレスの洗浄方法において、該洗浄液はEDTA又はその塩とアルカノールアミンと、懸濁物質として鉄含有スラリーを含んでいることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のフィルタープレスの洗浄方法においては、洗浄液は、洗浄剤としてEDTA又はその塩を含んでいるため、この洗浄液との接触により濾布や濾板が腐食することが十分に防止ないし抑制され、且つ、濾布や濾板に付着した炭酸カルシウム等のスケールを洗浄液によって十分に溶解除去することができる。
【0011】
また、本発明では、洗浄剤がアルカノールアミンを含んでおり、このアルカノールアミンの作用により水酸化鉄の発生を防止ないし抑制することができる。これは、アルカノールアミンが鉄イオンと配位結合して水酸化鉄の析出を防止又は抑制するためであると推察される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
本発明方法に用いられる洗浄液は、EDTA又はその塩とアルカノールアミンとを含む。
【0014】
EDTAの塩としては、EDTA四ナトリウム塩(EDTA−4Na・4HO)、EDTA四カリウム塩(EDTA−4K)などが好適である。EDTA又はその塩よりなるキレート剤を含む洗浄液を用いることにより、濾布や濾板に付着した炭酸カルシウム等のスケールを効果的に溶解除去することができる。なお、EDTAとEDTAの塩とを併用してもよい。
【0015】
洗浄液中のキレート剤(EDTA又はその塩)の濃度は0.1〜20重量%(以下、wt%と略記することがある。)特に1〜10重量%が好ましい。なお、このキレート剤の濃度は、濾布及び濾板に付着したスケール量に応じて適宜変更される。
【0016】
この洗浄液にはさらにアルカノールアミンを含有させる。アルカノールアミンとしては炭素数2〜9のアルカノールのアミン、具体的にはモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチル−ジエタノールアミン、N,N−ジメチルモノエタノールアミンなどが好適である。洗浄液中のアルカノールアミンの濃度は0.01〜10wt%特に0.1〜5wt%程度が好ましい。このアルカノールアミンを添加しておくことにより、水酸化鉄の析出が防止ないし抑制され、濾布の水酸化鉄による目詰りが防止される。この機構については、前述の通り、アルカノールアミンが鉄イオンと配位結合して水酸化鉄の析出が防止ないし抑制されるものであると推察される。
【0017】
この洗浄液のベースとなる液(キレート剤にとっての溶媒)としては、水が好適である。
【0018】
本発明では、洗浄液が懸濁物質を含んでもよい。懸濁物質としては、砂(特に珪砂)、砕石粉、転炉スラグ、珪藻土等が好適である。懸濁物質を含むスラリーとして転炉集塵水シックナーから引き抜かれた鉄を主体とするスラリーを用いてもよい。スラリーが鉄含有スラリーである場合、アルカノールアミンはこのスラリーに対し0.1〜30wt%の割合で添加されることが好ましい。
【0019】
懸濁物質の平均粒径は0.1〜500μm特に10〜100μmであることが好ましい。懸濁物質の洗浄液への添加量は固形分量として10〜400g/L特に200〜300g/Lであることが好ましい。
【0020】
洗浄液に懸濁物質を含有させておくことにより、従来の洗浄液に比べて、この洗浄液を濾布及び濾板に接触させたときに、該濾布及び濾板の表面や該濾布の内部に洗浄液が滞留しやすくなる。そのため、比較的少ない洗浄液使用量であっても、十分に濾布及び濾板の全体に洗浄液を接触させることができる。この結果、比較的少ない洗浄液使用量であっても十分に且つ効率よく濾布及び濾板を洗浄することができる。
【0021】
本発明方法において用いられる洗浄液には、必要に応じてその他の添加剤(例えば凝集剤、界面活性剤、スケール防止剤等)を添加してもよい。
【0022】
次に、本発明方法によるフィルタープレスの洗浄手順について説明する。
【0023】
まず、例えば溶解槽内で攪拌機を用いてキレート剤、アルカノールアミン及び溶媒(並びに必要に応じ懸濁物質や添加剤)を混合し、濾布及び濾板へのスケール付着量等に応じて適宜、各成分の濃度を調整し、洗浄液を製造する。次に、この洗浄液を、スラリー供給流路及びスラリーポンプを介してフィルタープレスに圧入する。これにより、洗浄液がフィルタープレス内を流れ、濾布や濾板に付着した炭酸カルシウム等のスケールを溶解させる。その際、キレート剤中の窒素原子及び酸素原子がカルシウムイオンと配位結合することにより、濾布及び濾板に付着した炭酸カルシウム等のスケールが溶解する。
【0024】
このフィルタープレスへの洗浄液供給システムは、フィルタープレスを透過してきた濾液をフィルタープレスの上流側に戻し、再度ポンプによりフィルタープレスに圧入するように構成されていることが好ましい。このように洗浄液を循環させて繰り返しフィルタープレスに供給することにより、薬剤成分を無駄なく利用することができる。
【0025】
フィルタープレスの洗浄時間は1〜24時間特に3〜10時間であることが好ましい。
【0026】
フィルタープレスの洗浄の間、スケールの溶解に伴って洗浄液中のキレート剤やアルカノールアミンが消耗するので、適宜キレート剤やアルカノールアミンを洗浄液に追加する。
【実施例】
【0027】
以下、実施例及び比較例について説明する。
【0028】
以下の試験では、下記(1)〜(3)の洗浄剤と、スラリーと、下記(a)〜(d)の添加剤とを用いた。
(1) EDTA−4Na・4H
(2) L−アスパラギン酸−N,N−二酢酸四ナトリウム
(3) EDTA
スラリー:転炉集塵水シックナー引き抜き後の鉄を主体としたスラリー(SS濃度:25w/v%)
(a) トリエタノールアミン
(b) ヒドロキシエチルイミノ二酢酸二ナトリウム
(c) N−メチル−ジエタノールアミン
【0029】
[洗浄剤を添加したスラリーの濾布に対する影響試験]
下記方法により洗浄剤を添加したスラリーの濾布に対する影響を試験した。
【0030】
実施例1
洗浄剤(1)及び添加剤(a)をそれぞれ濃度10wt%となるように上記スラリーに添加して洗浄液とした。
【0031】
比較例1
洗浄剤()及び添加剤()をそれぞれ濃度10wt%となるように上記スラリーに添加して洗浄液とした。
【0032】
比較例2
洗浄剤(2)及び添加剤(b)をそれぞれ濃度10wt%となるように上記スラリーに添加して洗浄液とした。
【0033】
比較例3(添加剤無添加)
洗浄剤(1)のみを濃度10wt%となるように上記スラリーに添加して洗浄液とした。
【0034】
比較例4(添加剤無添加)
洗浄剤(2)のみを濃度10wt%となるように上記スラリーに添加して洗浄液とした。
【0035】
比較例5(純水のみ)
洗浄剤、添加剤及びスラリーをいずれも使用せず、純水のみを用いた。
【0036】
実施例2
洗浄剤(3)及び添加剤(a)をそれぞれ濃度10wt%となるように上記スラリーに添加して洗浄液とした。
【0037】
実施例3
洗浄剤(1)及び添加剤(c)をそれぞれ濃度10wt%となるように上記スラリーに添加して洗浄液とした。
【0038】
試験方法は次の通りである。
i) 洗浄液100gを100mLビーカーに投入する。(比較例5では純水100gのみを投入する。)
ii) この液を18時間撹拌する。
iii) 新品の濾布を用いて、撹拌後の液の減圧濾過時間を測定する。
【0039】
減圧濾過時間の測定結果を表1に示す。
【0040】
[濾板に付着したスケールの溶解試験]
上記実施例1〜3、比較例1〜5の液を用いて(ただし比較例5は純水のみ)使用済み濾板を洗浄し、洗浄効果を観察した。
【0041】
洗浄方法は次の通りである。
1) 上記各洗浄液100gを100mLビーカーに投入する。(比較例5では純水100gのみを投入する。)
2) スケールが付着した濾板を105℃で2時間乾燥させ、乾燥スケールが0.5g付着したテストピースとする。
3) 各テストピースをスケールが全浸漬状態となるように1)のビーカー内に固定し、18時間撹拌する。
4) 撹拌後、テストピースを取り出し、105℃で2時間乾燥させる。
5) 乾燥後、テストピースの重量を測定し、スケールの重量溶解率(wt%)を計算する。
【0042】
結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1より明らかな通り、EDTA又はその塩、懸濁物質およびアルカノールアミンを含んだ洗浄液により、濾布を詰まらせることなくフィルタープレスの濾布および濾板全体を洗浄することができる。