(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
巻き芯及び前記巻き芯に巻き取られた長尺の第一フィルムを備えるフィルムロールから前記第一フィルムを繰り出し、繰り出された前記第一フィルムと長尺の第二フィルムとを貼り合わせて複層フィルムを製造するための複層フィルムの製造装置であって、
前記製造装置は、前記フィルムロールを周方向に回転可能に支持し、支持した前記フィルムロールから前記第一フィルムを繰り出しうるフィルム繰出し部と、前記フィルムロールから繰り出された前記第一フィルムと前記第二フィルムとを貼り合わせうる貼合部とを備え、
前記フィルム繰出し部は、前記フィルムロールに直接又は間接的に固定されて前記フィルムロールと一緒に回転しうるバランサを備え、
前記バランサは、基部と、前記基部に前記フィルムロールの径方向に移動可能に設けられたウェイトと、前記ウェイトを前記フィルムロールの径方向に移動させうるウェイト駆動部とを備える、複層フィルムの製造装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、保護フィルムと光学フィルムとを貼り合せる場合には、フィルムロールから保護フィルムを繰り出し、繰り出した保護フィルムを光学フィルムと貼り合せる。保護フィルムを繰り出す際、一般的には、保護フィルムの繰り出し速度を調整するためのブレーキがフィルムロールの支持部に設けられる。そのため、フィルムロールから繰り出される保護フィルムには、ブレーキの制動によって長尺方向に張力が掛けられる。
【0006】
保護フィルムに掛けられる前記の張力は、小さくすることが望ましい。これは、光学フィルムと保護フィルムとを貼り合せた場合に保護フィルムの張力によって光学フィルムの光学特性に影響を与えたり、光学フィルムにしわや反りが生じたりしないようにするためである。特に、近年では、光学フィルムの薄膜化が進められている一方で、クッション性による傷の防止や、ハンドリング性の向上のために複層フィルムの厚みをある程度厚くする観点から、保護フィルムは光学フィルムほどには薄膜化が進められていない。そのため、複層フィルムにおいては保護フィルムの割合が高まる傾向があり、保護フィルムの張力によって光学フィルムが受ける影響は大きくなっている。
また一般的に、長尺の光学フィルムは長尺の保護フィルムと貼り合わせられる工程において、それぞれ張力がかけられている。そして、その張力のバランスが崩れると複層フィルムにしわや反りが発生することがある。これを防止するためには、各々の張力を調整して、適正な張力で貼り合わせを行うことが求められる。保護フィルムは、表面への汚れの付着、傷の防止、ハンドリング性の向上等の目的のために、材料としては柔らかく伸びやすい樹脂が用いられる。そのため、光学フィルムと比較して伸びやすいので、保護フィルムに掛ける張力は小さい方が望ましい。
したがって、保護フィルムの張力は、小さい値に精密に制御することが望まれる。
【0007】
ところが、一般に、保護フィルムのフィルムロールには、質量の偏在がある。ここでフィルムロールの質量の偏在とは、フィルムロールの巻き取り中心と重心とが合っていないことをいう。フィルムロールの巻き取り中心は、保護フィルムの繰り出し時にそのフィルムロールを周方向に回転させるための回転軸となる。そのため、フィルムロールに質量の偏在があると、そのフィルムロールから繰り出される保護フィルムの張力が変動することがある。その変動した張力が大きくなった場合、保護フィルムを小さい張力で繰り出すことができなくなる可能性がある。このような質量の偏在は、フィルムロール1本毎に異なり、一様に調整することは難しい。また、質量の偏在は、外見からは分かり難いため、フィルムロールの使用前に解消することは困難である。
【0008】
前記の張力の変動について、図面を示して説明する。
図14は、従来の繰出し装置を用いてフィルムロールから保護フィルムを繰り出しているときの保護フィルムの張力の一例を示すグラフである。
通常、フィルムロールはその回転軸を水平に設置され、保護フィルムを長尺方向に引っ張ることにより繰り出される。この際、フィルムロールに質量の偏在があると、
図14に示すように、繰り出される保護フィルムの張力が変動する。具体的には、フィルムロールが周方向に一回転する期間Zに張力の増大及び減少が生じ、フィルムロールの回転に応じて張力の増大及び減少が繰り返される。これは、質量の偏在があると、フィルムロールを回転させる際に重力によるトルクがフィルムロールに作用するために生じる現象と考えられる。詳しくは、フィルムロールの重心が重力方向において上方に移動するときには、フィルムロールを重力に逆らって回転させるためのトルクの分だけ張力が上乗せされるので、張力が増大するものと推察される。また、フィルムロールの重心が重力方向において下方に移動するときには、フィルムロールが重力に従って回転しようとするトルクの分だけ張力が差し引かれるので、張力の低減が生じるものと推察される。
【0009】
フィルムロールから繰り出される保護フィルムの張力が大きくなった場合、その保護フィルムと光学フィルムとを貼り合わせて得られる複層フィルムにおいて、反りが生じたり、しわが生じたりする可能性がある。また、保護フィルムの張力が過度に大きくなると、保護フィルムが長尺方向に延伸されて幅が狭くなる可能性がある。そのため、前記のような張力の変動を無くし、小さい張力でフィルムロールから保護フィルムを繰り出すことができる技術の開発が求められる。
【0010】
本発明は上記の課題に鑑みて創案されたもので、第一フィルムと第二フィルムとを貼り合わせて複層フィルムを製造する際に、フィルムロールから繰り出される第一フィルムの張力の変動を抑制して、第一フィルムの貼り合わせ時の張力を小さくできる製造装置及び製造方法;並びに、フィルムロールからフィルムを繰り出す際のフィルムの張力の変動を抑制して、そのフィルムの張力を小さくできる繰出し装置及び繰出し方法;を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は前記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、フィルムロールの径方向に移動可能に設けられたウェイトと、そのウェイトを移動させうるウェイト駆動部とを備えたバランサを用いることにより、フィルムロールから繰り出されるフィルムの張力の変動を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0012】
〔1〕 巻き芯及び前記巻き芯に巻き取られた長尺の第一フィルムを備えるフィルムロールから前記第一フィルムを繰り出し、繰り出された前記第一フィルムと長尺の第二フィルムとを貼り合わせて複層フィルムを製造するための複層フィルムの製造装置であって、
前記製造装置は、前記フィルムロールを周方向に回転可能に支持し、支持した前記フィルムロールから前記第一フィルムを繰り出しうるフィルム繰出し部と、前記フィルムロールから繰り出された前記第一フィルムと前記第二フィルムとを貼り合わせうる貼合部とを備え、
前記フィルム繰出し部は、前記フィルムロールに直接又は間接的に固定されて前記フィルムロールと一緒に回転しうるバランサを備え、
前記バランサは、基部と、前記基部に前記フィルムロールの径方向に移動可能に設けられたウェイトと、前記ウェイトを前記フィルムロールの径方向に移動させうるウェイト駆動部とを備える、複層フィルムの製造装置。
〔2〕 前記フィルム繰出し部が、前記フィルムロールの前記巻き芯を固定して前記フィルムロール及び前記バランサと一緒に回転しうるチャックを備え、
前記バランサの前記基部が、前記チャックに固定され、
前記バランサが、前記チャックを介して前記フィルムロールに間接的に固定されうる、〔1〕記載の複層フィルムの製造装置。
〔3〕 前記バランサが、前記ウェイトを複数個備え、
複数個の前記ウェイトが径方向に移動しうる移動方向が、互いに非平行である、〔1〕又は〔2〕記載の複層フィルムの製造装置。
〔4〕 〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載の製造装置を用いて複層フィルムを製造する製造方法であって、
前記フィルム繰出し部に前記フィルムロールを取り付けて、前記フィルムロールと前記バランサとを直接又は間接的に固定する工程と、
前記フィルムロール及び前記バランサを周方向に回転させるときに前記フィルムロールに作用する重力によるトルクと前記バランサに作用する重力によるトルクとが釣り合うように、ウェイト駆動部が前記バランサのウェイトの位置を調整する工程と、
前記ウェイトの位置を調整した後で、前記フィルムロールから第一フィルムを繰り出す工程と、
前記フィルムロールから繰り出された前記第一フィルムを第二フィルムと貼り合せる工程と、
前記フィルムロールから前記第一フィルムを繰り出しているときに、前記ウェイト駆動部が、前記フィルムロール及び前記バランサを周方向に回転させるときに前記フィルムロールに作用する重力によるトルクと前記バランサに作用する重力によるトルクとが釣り合うように、前記バランサの前記ウェイトの位置を調整する工程とを含む、複層フィルムの製造方法。
〔5〕 巻き芯及び前記巻き芯に巻き取られた長尺のフィルムを備えるフィルムロールから前記フィルムを繰り出すための繰出し装置であって、
前記フィルムロールに直接又は間接的に固定されて前記フィルムロールと一緒に回転しうるバランサを備え、
前記バランサは、基部と、前記基部に前記フィルムロールの径方向に移動可能に設けられたウェイトと、前記ウェイトを前記フィルムロールの径方向に移動させうるウェイト駆動部とを備える、繰出し装置。
〔6〕 〔5〕記載の繰出し装置を用いてフィルムロールからフィルムを繰り出す繰出し方法であって、
前記繰出し装置に前記フィルムロールを取り付けて、前記フィルムロールと前記バランサとを直接又は間接的に固定する工程と、
前記フィルムロール及び前記バランサを周方向に回転させるときに前記フィルムロールに作用する重力によるトルクと前記バランサに作用する重力によるトルクとが釣り合うように、ウェイト駆動部が前記バランサのウェイトの位置を調整する工程と、
前記ウェイトの位置を調整した後で、前記フィルムロールからフィルムを繰り出す工程と、
前記フィルムロールから前記フィルムを繰り出しているときに、前記ウェイト駆動部が、前記フィルムロール及び前記バランサを周方向に回転させるときに前記フィルムロールに作用する重力によるトルクと前記バランサに作用する重力によるトルクとが釣り合うように、前記バランサの前記ウェイトの位置を調整する工程とを含む、繰出し方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の複層フィルムの製造装置及び製造方法によれば、第一フィルムと第二フィルムとを貼り合わせて複層フィルムを製造する際に、フィルムロールから繰り出される第一フィルムの張力の変動を抑制して、第一フィルムの貼り合わせ時の張力を小さくできる。
本発明の繰出し装置及び繰出し方法によれば、フィルムロールからフィルムを繰り出す際のフィルムの張力の変動を抑制して、そのフィルムの張力を小さくできる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施形態及び例示物を示して本発明について詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0016】
以下の説明において、「長尺」のフィルムとは、フィルムの幅に対して、5倍程度以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻回されて保管又は運搬される程度の長さを有するものをいう。
【0017】
また、以下の説明において、要素の方向が「平行」、「垂直」及び「直交」とは、特に断らない限り、本発明の効果を損ねない範囲内、例えば±5°の範囲内での誤差を含んでいてもよい。さらに、ある方向に「沿って」とは、ある方向に「平行に」との意味である。
【0018】
また、以下の説明において、重心の位置について説明する場合、別に断らない限り、ロールフィルムの回転軸と平行に見た場合の重心の位置について説明する。また、以下の説明において、回転軸とは、ロールフィルムを周方向に回転させる時に回転の中心となる直線を指す。この回転軸は、必ずしも具体的な部材によって構成されるものではなく、回転の中心として観念される直線を含む。以下に示す実施形態では、これらの回転軸はいずれも水平方向に平行になった例を示して説明するが、回転軸の方向は水平方向に必ずしも平行でなくてもよい。
【0019】
[1.第一実施形態]
図1は、本発明の第一実施形態に係る複層フィルムの製造装置10を模式的に示す概略図である。
図1に示すように、本発明の第一実施形態に係る製造装置10は、フィルムロール100から第一フィルムとしての保護フィルム110を繰り出し、繰り出された保護フィルム110と長尺の第二フィルムとしての光学フィルム120とを貼りあわせて複層フィルム140を製造するための製造装置である。
この製造装置10は、フィルムロール100を周方向に回転可能に支持し、支持したフィルムロール100から保護フィルム110を繰り出しうるフィルム繰出し部としての繰出し装置200と、フィルムロール100から繰り出された保護フィルム110と光学フィルム120とを貼り合わせうる貼合部300とを備える。また、この製造装置10は、フィルムロール100から繰り出された保護フィルム110の張力を測定しうる張力測定部400と、フィルムロール100の径を測定しうるロール径検出部500と、制御部600とを備える。
【0020】
(繰出し装置200)
図2は、本発明の第一実施形態に係る繰出し装置200を模式的に示す斜視図である。この
図2では、円筒状の巻き芯130(後述する
図3参照。)及びこの巻き芯130に巻き取られた長尺の保護フィルム110を備えるフィルムロール100を、繰出し装置200に取り付けた様子を示している。また、
図3は、
図2に示した繰出し装置200を分解して模式的に示す分解斜視図である。
【0021】
図2及び
図3に示すように、繰出し装置200は、チャック210と、バランサ220と、図示しないブレーキとを備える。チャックは、フィルムロール100の両端にそれぞれ固定されうるように2つ設けられるが、
図2及び
図3ではそのうちバランサ220が固定された一方のチャック210のみを図示している。これらのチャック210及びバランサ220は、繰出し装置200にフィルムロール100を取り付けた場合に、フィルムロール100の径方向、軸方向及び周方向が、チャック210の径方向、軸方向及び周方向、並びに、バランサ220の径方向、軸方向及び周方向にそれぞれ一致する構成を有している。
【0022】
(チャック210)
チャック210は、フィルムロール100の巻き芯130を固定して支持し、フィルムロール100と一緒に回転しうる部材である。したがって、チャック210は、フィルムロール100が回転軸A
Rを中心に回転するとき、フィルムロール100と同じ回転軸A
Rを中心にして、フィルムロール100と同じ角速度にて回転しうるように設けられている。このようなチャック210として、本実施形態では、巻き芯130内の空間131に挿入されうる挿入部211と、挿入部211から延長して形成された張出部212とを備えるものを用いている。
【0023】
挿入部211は、例えば空気を充填されることにより膨張しうる膨張部213を備える。したがって、チャック210は、挿入部211を巻き芯130内の空間131に挿入して膨張部213を膨張させることにより、膨張部213を巻き芯130の内壁に圧接させることで、巻き芯130に固定できる構造を有している。
【0024】
張出部212は、挿入部211を巻き芯130内の空間131に挿入したときに、巻き芯130の外に張り出す部分である。この張出部212には、バランサ220が固定されている。
【0025】
チャック210は、チャック210の回転軸A
R上に重心を有する。したがって、チャック210は、チャック210をフィルムロール100の巻き芯130に固定したときには、フィルムロール100の回転軸A
R上にチャック210の重心が位置する構成を有している。本実施形態では、挿入部211及び張出部212の形状が回転軸A
Rを中心とした回転対称となるように、チャック210が円柱状に形成された例を示して説明する。
【0026】
また、このチャック210は、図示しない支持器具によって回転可能に支持されている。
【0027】
(バランサ220)
バランサ220は、フィルムロール100に直接又は間接的に固定されて、チャック210及びフィルムロール100と一緒に回転しうる部材である。したがって、バランサ220は、フィルムロール100及びチャック210が回転軸A
Rを中心に回転するとき、フィルムロール100及びチャック210と同じ回転軸A
Rを中心にして、フィルムロール100及びチャック210と同じ角速度にて回転しうるように設けられている。本実施形態では、フィルムロール100の両端にそれぞれ固定されうるように2つ設けられたチャックのうち、一方のチャック210にだけバランサ220を設けた例を示す。
【0028】
図4は、本発明の第一実施形態に係るバランサ220を模式的に示す正面図である。また、
図5は、本発明の第一実施形態に係るバランサ220を模式的に示す側面図である。
図4及び
図5に示すように、バランサ220として、本実施形態では、基部221、ウェイト222X及び222Y、並びに、ウェイト駆動部223X及び223Yを備えるものを用いている。
【0029】
基部221は、ウェイト222X及び222Y並びにウェイト駆動部223X及び223Yを支持する支持部材である。本実施形態に係る基部221は、表裏を貫通する孔224を中央部に形成された円板形状を有している。この孔224は、チャック210へバランサ220を取り付けるための取付部として機能している。具体的には、
図2に示すように、基部221は、この孔224にチャック210の張出部212を通し、適切な固定具(図示省略)で固定されることにより、チャック210に固定されている。したがって、本実施形態に係るバランサ220は、基部221をチャック210に固定されていることにより、チャック210を介してフィルムロール100に間接的に固定されうる構造を有している。
【0030】
図4に示すように、前記の基部221には、複数個のウェイト222X及び222Yが設けられている。具体的には、基部221には、ウェイト222X及び222Yを移動可能に取り付けうるウェイト取付部225X及び225Yが形成されていて、これらのウェイト取付部225X及び225Yにそれぞれウェイト222X及び222Yが取り付けられている。
【0031】
本実施形態では、ウェイト取付部225X及び225Yは、それぞれ、基部221の径方向に延在する長穴226X及び226Y、並びに、その長穴226X及び226Yと同様の方向に延在して長穴226X及び226Y内に設けられたねじ軸227X及び227Yを有している。他方、ウェイト222X及び222Yには、前記のねじ軸227X及び227Yを通しうるねじ穴(図示せず。)が形成されている。そして、ウェイト222X及び222Yのねじ穴にねじ軸227X及び227Yが通されることにより、ウェイト222X及び222Yが、ねじ軸227X及び227Yに係合されて、それぞれウェイト取付部225X及び225Yに取り付けられている。
【0032】
ウェイト222X及び222Yは、それぞれ取り付けられたウェイト取付部225X及び225Yが有するねじ軸227X及び227Yが延在する方向に移動可能に設けられている。したがって、本実施形態に係る繰出し装置200にフィルムロール100を取り付けた場合、ウェイト222X及び222Yは、フィルムロール100の径方向に移動可能な構成を有している。
【0033】
本実施形態では、ねじ軸227X及び227Yを用いたボールねじ機構により、ウェイト222X及び222Yがねじ軸227X及び227Yが延在する方向に移動可能に設けられた例を示して説明する。具体的には、ウェイト222X及び222Yのねじ穴の表面に螺旋状の溝が形成されている。また、ねじ軸227X及び227Yの外周面に螺旋状の溝が形成されている。さらに、ウェイト222X及び222Yの溝とねじ軸227X及び227Yの溝との間にはボール(図示せず)が介装されている。そのため、これらのウェイト222X及び222Y、ねじ軸227X及び227Y及びボールにより、ボールねじ機構が構成されている。したがって、この例のウェイト222X及び222Yは、ねじ軸227X及び227Yを回転させることにより、ねじ軸227X及び227Yが延在する方向に移動できるように設けられている。
【0034】
また、本実施形態において、ウェイト取付部225X及び225Yが有するねじ軸227X及び227Yは、互いに非平行な方向に延在して設けられている。したがって、複数個の前記ウェイト222X及び222Yが径方向に移動しうる移動方向は、互いに非平行になっている。以下の説明では、適宜、一方のねじ軸227Xが延在する方向をX軸方向、他方のねじ軸227Yが延在する方向をY軸方向と呼ぶことがある。本実施形態では、X軸方向とY軸方向とが垂直になっている例を示して説明する。
【0035】
各ウェイト222X及び222Yの重量は、ウェイト222X及び222Yの位置の調整によってフィルムロール100の質量の偏在の影響を排除できる程度の重量に設定する。具体的なウェイト222X及び222Yの重量は、フィルムロール100が有する保護フィルム110の密度及び質量の偏在の程度などの要素に応じて設定しうる。
【0036】
ウェイト駆動部223X及び223Yは、ウェイト222X及び222Yをねじ軸227X及び227Yが延在する方向に移動させうる駆動部である。本実施形態においてはねじ軸227X及び227Yが基部221の径方向に延在して設けられているので、繰出し装置200にフィルムロール100を取り付けた場合、ウェイト駆動部223X及び223Yの駆動力によってウェイト222X及び222Yはフィルムロール100の径方向に移動できる構成を有している。本実施形態では、ウェイト駆動部223X及び223Yとして、ねじ軸227X及び227Yを回転させうるモーターを用いた例を示して説明する。この例では、モーターが所定の回数だけねじ軸227X及び227Yを回転させることにより、ねじ軸227X及び227Yの回転方向及び回転数に応じて、ウェイト222X及び222Yを移動させることができる。
【0037】
バランサ220は、ウェイト222X及び222Yの位置を調整する前の初期の状態においては、バランサ220の重心がバランサ220の回転軸A
R上に位置するように構成されている。本実施形態においては、基部221が円板形状を有していて、この円板の中心に重心が位置するように構成されている。バランサ220における重心の調整方法としては、例えば、ウェイト222X及び222Y、ウェイト駆動部223X及び223Y、並びにウェイト取付部225X及び225Yのカウンタウェイトを基部221に設けたり、基板221に重量調整用の穴を形成したりしてもよい。
【0038】
ここで、前記のような構成を有するバランサ220の重心の位置と、ウェイト222X及び222Yの位置との関係を、図面を示して説明する。
図6〜
図9は、本発明の第一実施形態に係るバランサ220を模式的に示す正面図である。
図6に示すように、ウェイト222X及び222Yの位置を調整する前の初期の状態においては、バランサ220の重心C
220は、バランサ220の回転の中心である基部221の中心にある。
図7に示すように、このようなバランサ220において、ウェイト222Xを移動させると、ウェイト222Xが移動した方向に重心C
220が移動する。また、
図8に示すように、このようなバランサ220において、ウェイト222Yを移動させると、ウェイト222Yが移動した方向に重心C
220が移動する。本実施形態に係るバランサ220では、ウェイト222Xが移動しうる移動方向とウェイト222Yが移動しうる移動方向とは非平行になっているので、ウェイト222X及びウェイト222Yの移動による重心C
220の移動方向は、一の方向に限定されない。そのため、バランサ220は、例えば
図9に示すように、ウェイト222X及びウェイト222Yを適切に移動させることにより、バランサ220の重心C
220の位置を任意の位置に移動させることが可能である。
【0039】
(ブレーキ)
ブレーキは、繰出し装置200において、チャック210に接続されている。繰出し装置200は、チャック210に固定されたフィルムロール100の保護フィルム110が引っ張られることにより、フィルムロール100から保護フィルム110を繰り出せる構造を有している。ブレーキは、前記のチャック210の回転に制動力を与えることにより、そのチャック210に固定されたフィルムロール100の回転速度を調整して、保護フィルム110の繰り出し速度を制御しうるものである。また、フィルムロール100から繰り出される保護フィルム110の張力を一定に保つ観点から、保護フィルム110が引き出されてフィルムロール100の径が小さくなるのに従って、ブレーキの制動力は次第に小さくなるように調整されている。本実施形態では、このブレーキとして、パウダーブレーキを用いた例を示して説明する。
【0040】
(貼合部300)
図1に示すように、貼合部300は、一対のニップロール310及び320を備える。ニップロール310及び320は、貼合部300に送られてきた保護フィルム110及び光学フィルム120を挟み込みうるように設けられている。したがって、貼合部300は、前記のニップロール310及び320間で挟み込むことにより保護フィルム110及び光学フィルム120を貼り合わせて複層フィルム140を製造し、その複層フィルム140を送出しうる構成を有している。また、本実施形態に係る製造装置10は、貼合部300のニップロール310及び320が保護フィルム110を引っ張ることで、フィルムロール100が回転して保護フィルム110が引っ張り出されることにより、繰出し装置200に取り付けられたフィルムロール100から保護フィルム110が繰り出される構成を有している。
【0041】
(張力測定部400)
図1に示すように、張力測定部400は、上流から順に、搬送ロール410、テンションピックアップロール420及び搬送ロール430を備える。この張力測定部400は、テンションピックアップロール420により、張力測定部400内を搬送される保護フィルム110の張力を測定できる構成を有している。
【0042】
(ロール径検出部500)
ロール径検出部500は、繰出し装置200に取り付けられたフィルムロール100の径を検出するための検出部である。このようなロール径検出部500としては、例えば、超音波センサー、位置検出装置等が挙げられる。また、ロール径検出部500は、フィルムロール100の回転速度と保護フィルム110の繰り出し量からロール径を算出する装置であってもよい。ロール径検出部500で検出されたロール径の情報は、制御部600に送られ、繰り出し時のウェイト駆動部223X及び223Yの制御に用いられる。
【0043】
(制御部600)
本実施形態に係る製造装置10は、保護フィルム110の繰り出し時におけるウェイト駆動部223X及び223Yの制御を行うための制御部600を備える。制御部600は、ロール径検出部500から送られてきたフィルムロール100のロール径の情報を受け取り、そのフィルムロール100のロール径から巻き芯130の外径を引くことにより、フィルムロール100が有する保護フィルム110が巻き重ねられた部分の厚み(以下、適宜「巻取厚み」ということがある。)T(
図3参照。)を計算する。そして、制御部600は、この巻取厚みTに基づいて、保護フィルム110の繰り出し時におけるウェイト駆動部223X及び223Yの制御を行う構成を有している。
【0044】
この制御部600のハードウェア構成に制限はないが、通常は、CPU等のプロセッサ、RAM及びROM等のメモリ、入出力端子等のインターフェースなどで構成されるコンピュータにより構成される。そして、予めメモリ等に記録された処理内容に従って処理を行い、そのコンピュータが制御部600の機能を実現しうる。
【0045】
(複層フィルム140の製造方法)
本発明の第一実施形態に係る複層フィルム140の製造装置10は以上のように構成されている。この製造装置10を用いて複層フィルム140を製造するためには、以下のような製造方法を行う。
【0046】
本実施形態に係る複層フィルム140の製造方法では、巻き芯130及びその巻き芯130に巻き取られた保護フィルム110を備えるフィルムロール100を用意する。そして、この用意したフィルムロール100を周方向に回転可能な状態に置いたときの、フィルムロール100の重心の周方向における位置と、フィルムロール100に作用する重力によるトルクを測定する。例えば、以下のような方法により、測定を行なう。
【0047】
フィルムロール100の巻き芯130を、当該フィルムロール100の回転軸A
Rが水平方向と平行になり、且つ、フィルムロール100が周方向に自由に回転可能となるように、ロール支持具で支持する。そうすると、フィルムロール100は周方向に回転し、重心が回転軸A
Rの重力方向真下に来る。これにより、フィルムロール100の重心の周方向における位置が分かる。
【0048】
その後、このフィルムロール100を、周方向に90°回転させて、フィルムロール100の重心及びフィルムロール100の回転軸A
Rを含む平面が水平方向に平行になるようにする。そして、このときにフィルムロール100に作用する重力によるトルクの大きさT
100を測定する。このトルクの大きさT
100は、フィルムロール100が重力に従って回転しようとする際に生じるトルクの最大値であり、また、フィルムロール100を重力に逆らって回転させるためのトルクの最大値である。ここで、重力に従った回転とは、重力方向において重心が上から下へと移動する回転である。また、重力に逆らった回転とは、重力方向において重心が下から上へと移動する回転である。こうして測定されたトルクの大きさT
100は、バランサ220のウェイト222X及び222Yの位置の調整に利用される。
【0049】
図10は、本発明の第一実施形態に係るフィルムロール100を繰出し装置200に取り付けた様子を、フィルムロール100(
図10では図示せず。)の軸方向のバランサ220側から見た様子を模式的に示す側面図である。
図10に示すように、フィルムロール100を用意した後で、そのフィルムロール100を、繰出し装置200に取り付ける工程を行う。具体的には、
図3に示すように、フィルムロール100の巻き芯130内にチャック210の挿入部211を挿入し、膨張部213を膨張させて、チャック210にフィルムロール100を固定する。これにより、チャック210を介してフィルムロール100とバランサ220とが間接的に固定される。ここでは、
図10に示すように、フィルムロール100の重心C
100がフィルムロール100の回転軸A
Rの重力方向真下に位置するように、フィルムロール100を取り付けた例を示す。また、この例では、ウェイト222Yの移動可能な方向であるY軸方向が重力方向と平行になるように、バランサ220の向きが設定されている。この際、バランサ220の重心C
220は、回転軸A
R上に位置している。
【0050】
図11は、本発明の第一実施形態に係るフィルムロール100を繰出し装置200に取り付けた様子を、フィルムロール100の軸方向のバランサ220側から見た様子を模式的に示す側面図である。
フィルムロール100を繰出し装置200に取り付ける工程の前又は後に、
図11に示すように、フィルムロール100(
図11では図示せず。)及びバランサ220を周方向に回転させるときにフィルムロール100に作用する重力によるトルクとバランサ220に作用する重力によるトルクとが釣り合うように、ウェイト駆動部223X及び223Yがバランサ220のウェイト222X及び222Yの位置を調整する工程を行う。この工程では、例えば、フィルムロール100に作用する重力によるトルクよりもフィルムロール100に作用する重力によるトルクとバランサ220に作用する重力によるトルクとを合わせたトルクが小さくなるように、ウェイト222X及び222Yの位置を調整する。この工程により、フィルムロール100に作用する重力によるトルクとバランサ220に作用する重力によるトルクとを、フィルムロール100から引き出される保護フィルム110の張力の変動を所望の程度に抑制できる範囲で釣り合わせることができる。中でも、フィルムロール100に作用する重力によるトルクとバランサ220に作用する重力によるトルクとを合わせたトルクがゼロになるようにして、フィルムロール100に作用する重力によるトルクとバランサ220に作用する重力によるトルクとが正確に釣り合うことが好ましい。
【0051】
例えば、ウェイト駆動部223X及び223Yがウェイト222X及び222Yを移動させることにより、フィルムロール100が重力に従って回転するときにバランサ220が重力に逆らって回転し、且つ、フィルムロール100が重力に逆らって回転するときにバランサ220が重力に従って回転できるようにし、さらに、フィルムロール100に作用する重力によるトルクの変動幅とバランサ220に作用する重力によるトルクの変動幅とが同程度になるようにする。ここで、フィルムロール100に作用する重力によるトルクの変動幅とバランサ220に作用する重力によるトルクの変動幅とが同程度であるとは、フィルムロール100に作用する重力によるトルクの変動幅に対するバランサ220に作用する重力によるトルクの変動幅の大きさが、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上であり、好ましくは120%以下、より好ましくは110%以下であることをいい、理想的には100%であることをいう。これにより、フィルムロール100に作用する重力によるトルクとバランサ220に作用する重力によるトルクとを、前記のように釣り合わせることができる。
【0052】
本実施形態において示す例では、先に測定したフィルムロール100の重心C
100の周方向における位置と、フィルムロール100の重心及びフィルムロール100の回転軸A
Rを含む平面が水平方向に平行になるようにしたときにフィルムロール100に作用する重力によるトルクの大きさT
100とを用いて、下記のようにウェイト222X及び222Yの位置を調整している。
【0053】
ウェイト駆動部223Yが、ウェイト222Yを、ウェイト222Yの位置を調整する前の初期の状態における位置(以下、適宜「初期位置」ということがある。)B
0よりも重力方向上方に移動させる。また、ウェイト駆動部223Xは、ウェイト222Xを、ウェイト222Xの位置を調整する前の初期の状態における位置から移動させない。これにより、バランサ220の重心C
220の位置は、バランサ220の回転軸A
Rの重力方向真上に来る。そのため、バランサ220の重心C
220は、フィルムロール100の回転軸A
R及びフィルムロール100の重心C
100と同一の平面P
100上に位置し、且つ、フィルムロール100の回転軸A
Rに対してフィルムロール100の重心C
100とは反対の位置にくる。したがって、フィルムロール100が重力に従って回転するときにバランサ220が重力に逆らって回転し、且つ、フィルムロール100が重力に逆らって回転するときにバランサ220が重力に従って回転できるようになる。
【0054】
前記のウェイト222Yを初期位置B
0から移動させる距離(即ち、初期位置B
0から移動後のウェイト222Yまでの距離)Lは、バランサ220に作用する重力によるトルクの最大の大きさが、前記のフィルムロール100に作用する重力によるトルクの大きさT
100と同じになるように設定する。具体的には、バランサ220の周方向の向きを、バランサ220の重心C
220及びバランサ220の回転軸A
Rを含む平面P
220が水平方向に平行になるように調整したとき、そのバランサ220に作用する重力によるトルクの大きさT
220が、前記のフィルムロール100に作用する重力によるトルクの大きさT
100と、同じになるように、ウェイト222Yを移動させる距離Lを設定する。前記のトルクT
100及びトルクT
220は、それぞれ、フィルムロール100及びバランサ220に作用する重力によるトルクの最大値であるので、これらのトルクT
100とトルクT
220とが同じになるように距離Lを設定することにより、フィルムロール100に作用する重力によるトルクの変動幅と、バランサ220に作用する重力によるトルクの変動幅とを、同じにできる。
【0055】
したがって、前記のようにウェイト222Yの位置を調整することにより、フィルムロール100に作用する重力によるトルクとバランサ220に作用する重力によるトルクとを合わせたトルクはゼロになり、フィルムロール100に作用する重力によるトルクとバランサ220に作用する重力によるトルクとを釣り合わせることができる。本実施形態では、チャック210には質量の偏在が生じていないので、このような状態のフィルムロール100、チャック210及びバランサ220を合わせた重心は、通常、フィルムロール100の回転軸A
R上に位置している。
【0056】
前記のようにウェイト222X及び222Yの位置を調整した後で、
図1に示すように、フィルムロール100から保護フィルム110を繰り出す工程を行う。保護フィルム110を繰り出す際には、フィルムロール100はチャック210及びバランサ220と一緒に周方向に回転する。本実施形態に示す例では、回転の際、前記のように、フィルムロール100に作用する重力によるトルクとバランサ220に作用する重力によるトルクとは釣り合っている。また、本実施形態では、チャック210は回転軸A
R上に重心を有する。そのため、このような状態でフィルムロール100をチャック210及びバランサ220と一緒に周方向に回転させて保護フィルム110を繰り出しても、その保護フィルム110の張力に重力によるトルクの分だけ上乗せが生じたり、張力が重力によるトルクの分だけ差し引かれたりする現象は生じない。したがって、繰り出される保護フィルム110における張力の変動を抑制することができるので、その保護フィルム110の張力が意図せず過大になることを防止でき、小さい張力で保護フィルム110を安定して繰り出すことが可能である。
【0057】
図1に示すように、フィルムロール100から繰り出された保護フィルム110は、張力測定部400に送られ、テンションピックアップロール420によって張力を測定される。測定された張力は、保護フィルム110の繰り出し張力の制御に用いられる。具体的には、この繰り出し張力が一定の大きさとなるように、ブレーキによる制動力が調整される。通常は、フィルムロール100の径が小さくなるに従ってブレーキによる制動力が小さくなるように、制御が行われる。
【0058】
張力測定部400で張力を測定された保護フィルム110は、貼合部300に送られる。貼合部300では、保護フィルム110を光学フィルム120と貼り合せる工程が行われる。具体的には、保護フィルム110及び光学フィルム120はニップロール310及び320の間で押圧されることにより貼り合わせられる。そして、このような貼り合わせが行われることにより、保護フィルム110及び光学フィルム120を備える複層フィルム140が得られる。この際、繰出し装置200から繰り出される保護フィルム110の張力は、光学フィルム120と貼り合せるときの保護フィルム110の張力となる。ここで、保護フィルム110の張力を小さくすることができるので、しわなどの保護フィルム110自体の変形を防ぐことができるとともに、光学フィルム120と貼り合せて複層フィルム140を得る際の反りを防止することが可能である。
【0059】
また、本実施形態に係る製造方法では、フィルムロール100から保護フィルム110を繰り出しているときに、ウェイト駆動部223X及び223Yが、フィルムロール100及びバランサ220を周方向に回転させるときにフィルムロール100に作用する重力によるトルクとバランサ220に作用する重力によるトルクとが釣り合うように、バランサ220のウェイト222X及び222Yの位置を調整する工程を行う。
【0060】
図11に示すように、フィルムロール100の重心C
100と回転軸A
Rとの距離Dは、保護フィルム110の繰り出し始めの時点で最も大きく、保護フィルム110を繰り出すのに伴ってフィルムロール100の巻取厚みT(
図3参照。)が減少すると小さくなり、保護フィルム110を全て繰り出した時点でほぼゼロとなって、フィルムロール100の重心C
100が回転軸A
Rとほぼ一致する状態となる。また、フィルムロール100の質量は、フィルムロール100の巻取厚みTが小さくなるのに従って小さくなる。そのため、フィルムロール100の巻取厚みTが小さくなるのに従って、フィルムロール100に作用する重力によるトルクの大きさは小さくなる。そこで、このようなフィルムロール100に作用する重力によるトルクの減少に対応してバランサ220のウェイト222X及び222Yの位置を調整することにより、保護フィルム110を繰り出している期間、常に、前述のようにフィルムロール100に作用する重力によるトルクとバランサ220に作用する重力によるトルクとが釣り合うようにしている。本実施形態で示す例においては、以下のような操作が行われる。
【0061】
繰出し装置200から保護フィルム110を繰り出しているとき、ロール径検出部500がフィルムロール100のロール径を周期的に測定し続ける。測定されたロール径の情報は、測定された都度、制御部600へと送られる。
【0062】
フィルムロール100のロール径の情報を受け取った制御部600は、そのロール径から巻き芯130の外径を引くことにより、フィルムロール100の巻取厚みT(
図3参照。)を計算する。そして、制御部600は、この巻取厚みTの情報に基づいて、フィルムロール100に作用する重力によるトルクの大きさを計算する。通常、フィルムロール100が有する保護フィルム110の密度、並びに巻き芯130の形状及び質量等の情報は予め判明しているので、繰り出し始めの時点でのフィルムロール100に作用する重力によるトルクの大きさT
100から、巻取厚みTを有するフィルムロール100に作用する重力によるトルクの大きさを計算することができる。
【0063】
そして、制御部600は、前記のようにして計算したフィルムロール100に作用する重力によるトルクとバランサ220に作用する重力によるトルクとが釣り合うように、バランサ220のウェイト駆動部223X及び223Yの駆動制御を行い、ウェイト222X及び222Yを移動させる。ここで示す例では、フィルムロール100の巻取厚みTが小さくなるに従って、ウェイト222Yが初期位置B
0に近づくように、制御部600がウェイト駆動部223Yを制御する。
【0064】
制御部600が前記のような制御を行ってバランサ220のウェイト222Yの位置を調整することにより、フィルムロール100から保護フィルム110を繰り出す期間の全体において、繰り出される保護フィルム110における張力の変動を抑制することができる。
【0065】
以上のように、本発明の第一実施形態に係る製造装置10を用いれば、保護フィルム110と光学フィルム120とを貼り合わせて複層フィルム140を製造する際に、フィルムロール100から繰り出される保護フィルム110の張力の変動を抑制して、保護フィルム110の貼り合わせ時の張力を小さくできる。
【0066】
また、バランサ220をチャック210に固定したので、フィルムロール100を取り替えるたびにバランサ220を取り替える必要が無く、複層フィルム140の製造を効率的に行うことができる。また、チャック210にバランサ220を固定することにより、繰出し装置200の省スペース化を実現することができる。
【0067】
さらに、バランサ220が複数個のウェイト222X及び222Yを備え、且つ、それらウェイト222X及び222Yが移動しうる移動方向が互いに非平行であるので、バランサ220の重心の位置を任意に設定することができる。
【0068】
[2.第二実施形態]
上述した第一実施形態ではバランサ220が複数個のウェイト222X及び222Yを備える例を示して説明したが、ウェイトの数は1個であってもよい。以下、1個のウェイトだけを備えるバランサを用いた実施形態を示して説明する。
【0069】
図12は、本発明の第二実施形態に係るバランサ720を模式的に示す正面図である。本発明の第二実施形態は、バランサ220の代わりにバランサ720を用いたこと以外は、第一実施形態と同様である。また、バランサ720は、
図12に示すように、基部721が矩形状に形成されていること、及び、ウェイト222X、ウェイト駆動部223X及びウェイト取付部225Xを有さないこと以外は、第一実施形態に係るバランサ220と同様の構成を有する。
【0070】
このようなバランサ720をバランサ220の代わりに用いた場合でも、第一実施形態と同様の製造方法によって、保護フィルム110と光学フィルム120とを貼り合わせて複層フィルム140を製造する際に、フィルムロール100から繰り出される保護フィルム110の張力の変動を抑制して、保護フィルム110の貼り合わせ時の張力を小さくできる。
また、第一実施形態において得られる効果のうち、複数個のウェイト222X及び222Yを用いたことによる効果以外の効果については、第二実施形態においても得ることができる。
【0071】
[3.第三実施形態]
上述した第一実施形態ではバランサ220が備える複数個のウェイト222X及び222Yの移動方向が互いに非平行となっている例を示して説明したが、複数個のウェイトの移動方向を平行にしてもよい。以下、移動方向が平行な複数個のウェイトを備えるバランサを用いた実施形態を示して説明する。
【0072】
図13は、本発明の第三実施形態に係るバランサ820を模式的に示す正面図である。本発明の第三実施形態は、バランサ220の代わりにバランサ820を用いたこと以外は、第一実施形態と同様である。また、このバランサ820は、
図13に示すように、ウェイト222X、ウェイト駆動部223X及びウェイト取付部225Xの代わりに、ウェイト222Y、ウェイト駆動部223Y及びウェイト取り付け部225Yと回転軸A
Rを中心に2回対称の位置にウェイト822Y、ウェイト駆動部823Y及びウェイト取付部825Yを有すること以外は、第一実施形態に係るバランサ220と同様の構成を有する。ここで、ウェイト取付部825Yは、長穴826Y及びねじ軸827Yを有する。
【0073】
このような構成を有するバランサ820では、複数個のウェイト222Y及び822Yは、いずれも同じY軸方向に移動しうる。したがって、ウェイト222Y及び822Yの移動方向が平行になっているので、フィルムロール100に作用する重力によるトルクが大きい場合でも、そのフィルムロール100に作用する重力によるトルクとバランサ820に作用する重力によるトルクとを、容易に釣り合わせることができる。
また、このようにウェイト222Y及び822Yを回転軸A
Rを中心に回転対称に設けることにより、バランサ820の重心が回転軸A
R上にくるようにする調整を容易に行うことができる。
【0074】
また、前記のバランサ820をバランサ220の代わりに用いた場合でも、第一実施形態と同様の製造方法によって、保護フィルム110と光学フィルム120とを貼り合わせて複層フィルム140を製造する際に、フィルムロール100から繰り出される保護フィルム110の張力の変動を抑制して、保護フィルム110の貼り合わせ時の張力を小さくできる。
さらに、第一実施形態において得られる効果と同様の効果を、第三実施形態においても得ることができる。
【0075】
[4.第四実施形態]
本発明の複層フィルムの製造方法において、各工程を行う順番は第一実施形態において説明した順番に限定されるものではない。例えば、以下に説明する第四実施形態のようにして、複層フィルム140を製造してもよい。
【0076】
本発明の第四実施形態においては、第一実施形態において説明したのと同様の製造装置10を用いて、複層フィルム140を製造する。
第四実施形態に係る製造方法では、フィルムロール100を用意し、フィルムロール100を繰出し装置200に取り付ける工程を行う。これにより、フィルムロール100がチャック210及びバランサ220に固定される。互いに固定されたフィルムロール100、チャック210及びバランサ220は、一緒に回転しうる回転体となる。
【0077】
その後、フィルムロール100の重心C
100の周方向における位置、及び、そのフィルムロール100に作用する重力によるトルクを測定する。具体的には、フィルムロール100、チャック210及びバランサ220を含む回転体を周方向に自由に回転できる状態に置く。そうすると、回転体は周方向に回転し、回転体の重心が回転軸A
Rの重力方向真下に来る。このとき、チャック210及びバランサ220の重心は回転軸A
R上にくるように設定されているので、前記の回転体の重心の周方向における位置から、第一実施形態と同様に、フィルムロール100の重心C
100の周方向における位置が分かる。
【0078】
その後、回転体を、周方向に90°回転させて、その回転体の重心及び回転軸A
Rを含む平面が水平方向と平行になるようにする。そして、このときに回転体に作用する重力によるトルクの大きさを測定する。このとき、チャック210及びバランサ220の重心は回転軸A
R上にくるように設定されているので、この状態においてチャック210及びバランサ220に作用する重力によるトルクはゼロとなるはずである。そのため、前記の回転体に作用する重力によるトルクの大きさが、第一実施形態と同様の、フィルムロール100に作用する重力によるトルクの大きさT
100として求められる。
【0079】
こうして得られたフィルムロール100の重心の周方向における位置、及び、そのフィルムロール100に作用する重力によるトルクT
100の情報を用いて、第一実施形態と同様に、フィルムロール100及びバランサ220を周方向に回転させるときにフィルムロール100に作用する重力によるトルクとバランサ220に作用する重力によるトルクとが釣り合うように、ウェイト駆動部223X及び223Yがバランサ220のウェイト222X及び222Yの位置を調整する工程を行う。
【0080】
そして、ウェイト222X及び222Yの位置を調整した後で、フィルムロール100から保護フィルム110を繰り出す工程、テンションピックアップロール420によって繰り出された保護フィルム110の張力を測定する工程、及び、貼合部300において保護フィルム110を光学フィルム120と貼り合せる工程を行い、複層フィルム140を製造する。
【0081】
また、フィルムロール100から保護フィルム110を繰り出しているときには、第一実施形態と同様にして、ウェイト駆動部223X及び223Yが、フィルムロール100及びバランサ220を周方向に回転させるときにフィルムロール100に作用する重力によるトルクとバランサ220に作用する重力によるトルクとが釣り合うように、バランサ220のウェイト222X及び222Yの位置を調整する工程を行う。
【0082】
以上のような第四実施形態に係る製造方法によっても、保護フィルム110と光学フィルム120とを貼り合わせて複層フィルム140を製造する際に、フィルムロール100から繰り出される保護フィルム110の張力の変動を抑制して、保護フィルム110の貼り合わせ時の張力を小さくできる。
また、第四実施形態によれば、第一実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0083】
[5.変形例]
本発明は上述した実施形態に限定されず、更に変更して実施してもよい。
例えば、上述した実施形態ではバランサ220をチャック210を介してフィルムロール100に間接的に固定したが、例えば巻き芯130にバランサ220の基部221を固定することにより、フィルムロール100にバランサ220を直接に固定してもよい。
【0084】
また、例えば、フィルムロール100の両端部に固定されうるチャックの両方に、バランサ220を固定してもよい。
【0085】
また、製造装置10は、上述したもの以外の構成要素を備えていてもよい。
例えば、バランサ220に、ウェイト駆動部223X及び223Yとしてのモーターの電源として、電池を取り付けてもよい。さらには、バランサ220の外部からモーターに電力を供給するために、例えばスリップリング(ブラシ方式)、マグネット等の電極供給機構を製造装置10に設けてもよい。
【0086】
また、例えば、制御部600からウェイト駆動部223X及び223Yとしてのモーターへ制御信号を伝えるべく、製造装置10に適切な通信装置を設けてもよい。このような通信装置に制限は無く、例えば、無線カップリングによる通信装置、有線式の通信装置(スリップリング(ブラシ方式)等)を用いてもよい。
【0087】
また、上述した実施形態では、繰出し装置200から保護フィルム110を繰り出し、その保護フィルム110を光学フィルム120と貼り合せる実施形態を示したが、繰出し装置200から繰り出すフィルム(第一フィルム)の種類、及び、その繰り出されたフィルムと貼り合わせられるフィルム(第二フィルム)の種類は任意である。ただし、繰出し装置200から繰り出されるフィルムとしては、繰り出される際の張力を小さくしたいフィルムが好ましく、例えば、自己粘着性のポリエチレンフィルム、粘着加工を行ったポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等が好適である。
【0088】
また、ウェイト222X及び222Yを径方向に移動させるためには、前記実施形態のようなモーター及びボールねじ機構を組み合わせた装置以外の方法を採用してもよい。例えば、ウェイトとして水及びオイル等の流体を用いて、基部内に設けられた複数個の部屋での流体の移動によりウェイトの移動を行わせてもよい。また、例えば、ウェイトとして粒状の金属球を用い、基部内に設けられた複数個の部屋での金属球の移動によりウェイトの移動を行わせてもよい。