(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
液状オルガノシロキサンを気化させ、これを気相中で1,000℃以上に加熱し熱分解した後、この熱分解物を950℃以下に冷却された基体上に凝固させる工程を含む、非水電解質二次電池用負極材の製造方法。
非水電解質二次電池用負極材が、珪素含有量が50〜70質量%、結合炭素含有量が1質量%以上、全炭素含有量が1〜20質量%、及び酸素含有量が25〜40質量%である、請求項1〜4のいずれか1項記載の非水電解質二次電池用負極材の製造方法。
液状オルガノシロキサンを気化させ、これを気相中で1,000℃以上に加熱し熱分解した後、この熱分解物を950℃以下に冷却された金属箔上に凝固させる工程を含む、金属箔上に凝固膜が形成された非水電解質二次電池用負極の製造方法。
負極材を含む負極、正極及び電解液を有する電気化学キャパシタの製造方法であって、上記負極材の製造方法が、液状オルガノシロキサンを気化させ、これを気相中で1,000℃以上に加熱し熱分解した後、この熱分解物を950℃以下に冷却された基体上に凝固させる工程を含む電気化学キャパシタの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、従来の黒鉛系材料に比べ容量が大きく、かつ従来の珪素系材料では困難であった、高い初回効率を保ちつつ、良好な長期サイクル耐久性を有する非水電解質二次電池用負極材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、液状オルガノシロキサンを気化させ、気相中で1,000℃以上に加熱し熱分解した後、この熱分解物を、950℃以下に冷却された基体上に凝固させ、固体のSiCO系コンポジットを基体上に形成させることにより、高容量で高い初回効率を保ちつつ、良好な長期サイクル耐久性を有する非水電解質二次電池用負極材が得られることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0007】
従って、本発明は下記を提供する。
[1].液状オルガノシロキサンを気化させ、これを気相中で1,000℃以上に加熱し熱分解した後、この熱分解物を950℃以下に冷却された基体上に凝固させる工程を含む、非水電解質二次電池用負極材の製造方法。
[2].液状オルガノシロキサンが、1分子中の珪素数が2〜6であるオルガノシロキサンである[1]記載の非水電解質二次電池用負極材の製造方法。
[3].液状オルガノシロキサンが、1分子中の珪素数が4〜6である環状のオルガノシロキサンである[1]又は[2]記載の非水電解質二次電池用負極材の製造方法。
[4].熱分解の圧力雰囲気が10Pa〜10kPaである、[1]〜[3]のいずれかに記載の非水電解質二次電池用負極材の製造方法。
[5].非水電解質二次電池用負極材が、珪素含有量が50〜70質量%、結合炭素含有量が1質量%以上、全炭素含有量が1〜20質量%、及び酸素含有量が25〜40質量%である、[1]〜[4]のいずれかに記載の非水電解質二次電池用負極材の製造方法。
[6].[1]〜[5]のいずれかに記載の非水電解質二次電池用負極材の製造方法の工程を含む、負極材を含む非水電解質二次電池用負極の製造方法。
[7].液状オルガノシロキサンを気化させ、これを気相中で1,000℃以上に加熱し熱分解した後、この熱分解物を950℃以下に冷却された金属箔上に凝固させる工程を含む、金属箔上に凝固膜が形成された非水電解質二次電池用負極の製造方法。
[8].[6]又は[7]記載の非水電解質二次電池用負極の製造方法の工程を含む、負極、正極、及び電解液を有する非水電解質二次電池の製造方法。
[9].負極材を含む負極、正極及び電解液を有する電気化学キャパシタの製造方法であって、上記負極材の製造方法が、液状オルガノシロキサンを気化させ、これを気相中で1,000℃以上に加熱し熱分解した後、この熱分解物を950℃以下に冷却された基体上に凝固させる工程を含む電気化学キャパシタの製造方法。
【0008】
なお、本発明において、「SiCO化合物」とは、組成式がSiCxOy(0<x<1,0<y<2)で表される純物質をいう。また、「SiCO系コンポジット」とは、SiCO化合物を含む混合物(例えば、SiCO化合物とカーボンの混合物)をいう。
【発明の効果】
【0009】
本発明の非水電解質二次電池用負極材を用いることにより、高容量でかつ長期サイクル耐久性に優れた非水電解質二次電池及び電気化学キャパシタを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
〔負極材〕
本発明は、液状オルガノシロキサンを気化させ、これを気相中で1,000℃以上に加熱し熱分解した後、この熱分解物を950℃以下に冷却された基体上に凝固させて得られる、固体のSiCO系コンポジットであり、負極材(負極活物質)として用いるものである。
【0012】
[I]液状オルガノシロキサンを気化させ、これを気相中で1,000℃以上に加熱し熱分解する。
本発明の第1の特徴として、液状オルガノシロキサンを気化し、この気化したオルガノシロキサンを、気相中で1,000℃以上に加熱し熱分解することが不可欠である。従来公知のオルガノシロキサンの固体を固相のまま熱分解する方法では、低温で熱分解すると分解が不十分なため、充放電時に副反応を生じる部分が残存し初回効率が低下する。このため、1,000℃以上の高温で分解する必要があるが、高温で熱分解すると長期サイクル耐久性が低下してしまうという問題が生じる。その主な原因として、高温で熱分解すると結晶化が進むため不完全な格子による膨張収縮の緩和作用が減少し長期サイクル耐久性を低下させることが考えられる。本発明の液状オルガノシロキサンを気化してから、気相中で熱分解する方法では、高温にしても気相では結晶化が起こらないため、十分に分解が進む1,000℃以上の高温で熱分解することができ、高い初回効率を保ちつつ、良好な長期サイクル耐久性を持った非水電解質二次電池用負極材が得られる。
【0013】
液状オルガノシロキサンとしては特に限定されず、1種単独で又は2種以上を適宜選択して用いることができる。1分子中の珪素数が2〜6のオルガノシロキサンが好ましい。オルガノシロキサンの1分子中の珪素数が6より大きいと気化が難しくなるおそれがある。1分子中の珪素数が2〜6のオルガノシロキサンは、得られるSiCO化合物の収率が高くなり、常温で化学的に安定であり、取り扱いや定量供給が容易であるという工業規模生産での利点もある。具体的には、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D
4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D
5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D
6)、テトラメチルシクロテトラシロキサン(H
4)、オクタメチルトリシロキサン(MDM)、ヘキサメチルジシロキサン(M
2)等が挙げられ、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D
4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D
5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D
6)等の環状のオルガノシロキサン、特に珪素数4〜6の環状のオルガノシロキサンが好ましい。
【0014】
液状オルガノシロキサンを気化させる条件は、使用する液状オルガノシロキサンにより適宜選定され、1,000℃未満であれば特に限定されないが、30〜300℃が好ましく、圧力は10Pa〜0.1MPaの範囲が好ましい。
【0015】
気相中で1,000℃以上に加熱し熱分解するが、1,000〜1,500℃が好ましく、1,100〜1,400℃がより好ましい。1,000℃未満では熱分解が不十分となり初回効率が低下し、1,500℃を超えるとSi−C結合が多量に生成し容量が低下する。
【0016】
熱分解の圧力雰囲気は、10Pa〜110kPaが好ましく、10Pa〜10kPaの減圧雰囲気がより好ましい。反応性の点から10Pa以上が好ましく、気相中で微粉体が生成し、基体上の堆積物中に取り込まれ、長期サイクル耐久性を低下させるおそれがあるため、110kPa以下が好ましい。
【0017】
気化したオルガノシロキサンはキャリアガスに同伴させて熱分解することができる。キャリアガスとしてはアルゴンガス等の不活性ガス、水素ガス等の還元性ガスを用いることが好ましい。
【0018】
[II]熱分解した後、950℃以下に冷却された基体上に凝固させる。
本発明の第2の特徴として、熱分解物を、950℃以下に冷却された基体上に凝固させることが不可欠である。冷却された基体により気体の熱分解物の温度を下げ、過飽和にして基体上の表面に凝固させることで、固体のSiCO系コンポジットとして回収することができる。さらに熱分解物を950℃以下にすることで、凝固後の結晶成長を抑制することがき、長期サイクル耐久性に優れた非水電解質二次電池用負極材を得ることができる。冷却された基体温度の下限は、50サイクルまでの初期サイクル耐久性の点から、100℃以上が好ましく、基体温度は200〜900℃がより好ましい。なお、基体温度は基体に設置された温度計により測定することができる。
【0019】
本発明の負極材の製造装置としては、
図1に示す装置が例示される。以下、
図1を用いてさらに詳細に説明する。原料タンク1は液体マスフローコントローラー2を介して、気化部3に接続し、別に、気体マスフローコントローラー4が気化部3に接続している。気化部3には、気化部ヒーター5が配置され、所定温度に気化部3を調整する。気化部3は炉芯管6の炉入口側に接続し、炉芯管6の炉出口側には冷却チャンバー7Aが接続されている。炉芯管6には炉芯管ヒーター8が配置され、所定温度に炉芯管6を調整する。冷却チャンバー7Aの内部には、回転可能な円柱状基体9、スクレーパー10、下方に回収容器11が配設されていて、円柱状基体9はモーター12により所定の速度で回転するとともに、冷媒循環(図示せず)により所定の温度に冷却されている。炉芯管6と冷却チャンバー7Aの内部は、メカニカルブースターポンプ13と油回転真空ポンプ14により減圧され、バタフライ弁15で所定の圧力に調節されている。
【0020】
原料である液状オルガノシロキサンは、原料タンク1に入れられており、液体マスフローコントローラー2により一定速度で原料タンク1から気化部3に供給される。気化部3は液状オルガノシロキサンが完全に気化するように気化部ヒーター5によって所定の気化温度まで加熱されている。一方、気化部3にはキャリアガスが気体マスフローコントローラー4によって一定速度で供給されている。気化部3で気化した液状オルガノシロキサンはキャリアガスに同伴し、気化部3に接続する炉芯管6の炉入口側に供給される。炉芯管6の内部は炉芯管ヒーター8により所定の温度に加熱されている。気化した液状オルガノシロキサンは、炉芯管6の内部で熱分解され、熱分解ガスが炉心管6の炉出口側を通り、冷却チャンバー7A内の冷却された円柱状基体9に到達し、冷却されて凝固し、円柱状基体9上に堆積する。円柱状基体9上に堆積した固体のSiCO系コンポジットは、円柱状基体9が回転すると共に回転し、スクレーパー10により掻き落とされ、回収容器11中に回収される。
【0021】
得られた凝固物(以下、SiCO系コンポジット)の組成は、原料である液状オルガノシロキサンの組成、熱分解温度、熱分解雰囲気圧力を変えることによって調節することができる。例えば、熱分解温度が1,300℃未満では、温度が高くなると全炭素量は減少するが、1,300℃以上では、温度が高くなると全炭素量は増加する。また、圧力が高いと全炭素量は増加する。具体的には、珪素含有量が50〜70質量%、結合炭素含有量が1質量%以上、好適には1〜15質量%であり、全炭素含有量が1〜20質量%以下、及び酸素含有量が25〜40質量%が好ましい。珪素含有量が50質量%より小さいと容量が低下するおそれがあり、70質量%より大きいと長期サイクル耐久性が低下するおそれがある。結合炭素量が1質量%より小さいと、長期サイクル耐久性が低下するおそれがあり、全炭素量が20質量%より大きいと容量が低下するおそれがある。酸素量が25質量%より小さいと、長期サイクル耐久性が低下するおそれがあり、40質量%より大きいと初回効率が低下するおそれがある。なお、珪素量は蛍光X線分析方法、酸素量は不活性ガス中黒鉛るつぼ内融解−赤外線吸収法で測定する。また、結合炭素量、全炭素量は、酸素気流中燃焼−赤外線吸収法で測定する。結合炭素量は全炭素量から遊離炭素量を差し引いて求める。全炭素量の測定では、燃焼温度を高温とし、遊離炭素量の測定では燃焼温度を低温とする。具体的な例としては、全炭素量の測定はSn触媒を添加して炉温1,350℃で行い、遊離炭素量の測定は触媒なし、炉温850℃で行う。
【0022】
SiCO系コンポジットは、例えば、銅を対陰極としたX線回折(Cu−Kα)の回析パターンが、2θ=25°付近のピークと、50〜70°に現れるブロードなピークがあることから確認できる。後者のピーク位置は組成によって変わり、xが大きいほど高角度寄りになる傾向である。
【0023】
得られたSiCO系コンポジットは、非水電解質二次電池用負極材(負極活物質)として用いることができる。必要に応じてボールミルやジェットミル等公知の手段で粉砕し、粉末状の負極材にすることが好ましい。粉末の平均粒径は0.1〜100μmが好ましく、0.5〜20μmがより好ましい。なお、平均粒径は、レーザー光回折法による粒度分布測定における重量平均値D
50(即ち、累積重量が50%となる時の粒子径(メジアン径)として測定した値である。
【0024】
さらに、導電性を付与するために、得られた粉末SiCO系コンポジットに対して、化学蒸着処理あるいはメカニカルアロイングによって炭素被覆を行うことが好ましい。なお、炭素被覆を行う場合、炭素被覆量は、炭素被覆された粉末の総質量に占める割合が1〜50質量%が好ましく、1〜20質量%がより好ましい。
【0025】
化学蒸着処理は、常圧下又は減圧下で、600℃〜950℃の温度範囲、より好ましくは800℃〜900℃の温度範囲で、炭化水素系化合物ガス及び/又は蒸気を蒸着用反応炉内に導入して、公知の熱化学蒸着処理等を施すことにより行うことができる。この炭化水素系化合物としては、上記の熱処理温度範囲内で熱分解して炭素を生成するものが選択される。例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン等の他、エチレン、プロピレン、ブチレン、アセチレン等の炭化水素の単独もしくは混合物、あるいは、メタノール、エタノール等のアルコール化合物、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、ジフェニルメタン、ナフタレン、フェノール、クレゾール、ニトロベンゼン、クロルベンゼン、インデン、クマロン、ピリジン、アントラセン、フェナントレン等の1環ないし3環の芳香族炭化水素もしくはこれらの混合物が挙げられる。また、タール蒸留工程で得られるガス軽油、クレオソート油、アントラセン油、ナフサ分解タール油も、単独もしくは混合物として用いることができる。
【0026】
〔負極〕
得られたSiCO系コンポジットからなる非水電解質二次電池用負極材を含む非水電解質二次電池用負極を得ることができる。例えば、負極(成型体)の製造方法としては、上記粉末状負極材と、ポリイミド樹脂等の結着剤と、必要に応じて導電剤と、その他の添加剤とに、N−メチルピロリドン又は水等の結着剤の溶解・分散に適した溶剤を混練してペースト状の合剤とし、この合剤を金属箔等の集電体に塗布し、乾燥させることにより負極を得ることができる。本発明の負極材の含有量は、負極(成型体(集電体を除く))に対して30〜90質量%が好ましい。
【0027】
導電剤の種類は特に限定されず、構成された電池において、分解や変質を起こさない電子伝導性の材料であればよい。具体的には、Al、Ti、Fe、Ni、Cu、Zn、Ag、Sn、Si等の金属粉末や金属繊維又は天然黒鉛、人造黒鉛、各種のコークス粉末、メソフェーズ炭素、気相成長炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、各種の樹脂焼成体等の黒鉛を用いることができる。本発明の負極材の導電剤は、負極(成型体(集電体)を除く)に対して0〜50質量%が好ましい。
【0028】
金属箔としては、導電性が高く、強度が高く、耐酸化性がある材質として銅、SUS、ニッケルが好ましく、銅が最も好ましい。金属箔の厚さは3〜30μmが好ましい。3μmより薄いと電極としての強度が不足し、30μmより厚いと電池容量密度が低下するので好ましくない。
【0029】
また、本発明の一つの実施形態として、上記SiCO系コンポジットを、負極の集電体である金属箔上に直接凝固させ、SiCO系コンポジットの薄膜を金属箔上に形成させることもできる。つまり、液状オルガノシロキサンを気化させ、これを気相中で1,000℃以上に加熱し熱分解した後、この熱分解物を、950℃以下に冷却された金属箔上に凝固させ、金属箔上に凝固膜が形成された非水電解質二次電池用負極とすることもできる。この方法により、負極活物質であるSiCO系コンポジットと集電体である金属箔との接合を強固なものとすることができ、短期及び長期サイクル耐久性とレート特性に優れた非水電解質二次電池用負極が得られる。金属箔の表面は、SiCO系コンポジットの薄膜との密着性を向上させるため、機械的又は化学的方法等公知の方法によって粗面化処理することが好ましい。
【0030】
この場合に用いられる装置としては、
図1に示す製造装置の冷却チャンバー7Aを
図2に示す冷却チャンバー7Bに置き換えたものが挙げられる。以下、
図2を用いてさらに詳細に説明する。冷却チャンバー7Bの内部には、冷媒循環により冷却された冷却ドラム16、繰出ロール17、巻取ロール18が配設されており、金属箔19が繰出ロール17から繰出され冷却ドラム16表面を経由して巻取ロール18で巻取られるように設置されている。冷却ドラム16、繰出ロール17、巻取ロール18にはそれぞれモーター20、ブレーキ21、クラッチ付モーター22が取り付けられ、これらにより金属箔19は一定の速度とテンションで走行すると共に、冷却ドラム16により所定の温度に冷却されている。熱分解物(ガス)は冷却チャンバー7B内の冷却ドラム16表面の金属箔19に到達し、冷却されて凝固し、金属箔19上の表面に薄膜として堆積する。
【0031】
金属箔は950℃以下に冷却することが必要であり、900℃以下がより好ましい。金属箔が銅箔の場合は、銅の結晶が成長し銅箔の強度が低下するおそれがあるため、500℃以下が好ましい。下限は100℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましい。
【0032】
SiCO系コンポジットの薄膜の厚さは、電気容量の点から1μm以上が好ましく、金属箔が裂けることを防ぐ点から50μm以下が好ましい。さらに、3〜40μmが好ましい。
【0033】
〔非水電解質二次電池〕
本発明の非水電解質二次電池は、上記負極、正極及び電解液を有するものであり、本発明の負極を用いる点に特徴を有し、その他の正極、電解質、セパレータ等の材料及び電池形状等は公知のものを用いることができ限定されない。例えば、正極活物質としてはLiCoO
2、LiNiO
2、LiMn
2O
4、LiCo
1/3Ni
1/3Mn
1/3O
2、LiFePO
4、V
2O
5、MnO
2、TiS
2、MoS
2等の遷移金属の酸化物、リチウム及びカルコゲン化合物等が用いられる。電解質としては、六フッ化リン酸リチウム、過塩素リチウム、ホウフッ化リチウム、六フッ化砒素酸リチウム等のリチウム塩を含む非水溶液が用いられ、非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、2−メチルテトラヒドロフラン等の単体又は2種類以上を組み合わせて用いられる。また、それ以外の種々の非水系電解質や固体電解質も使用できる。
【0034】
〔電気化学キャパシタ〕
また、液状オルガノシロキサンを気化させ、これを気相中で1,000℃以上に加熱し熱分解した後、950℃以下に冷却された基体上に凝固させて得る負極材を含む負極、正極及び電解液を有する電気化学キャパシタを製造することもできる。負極材の好適な範囲等は上記と同様である。この場合、製造する電気化学キャパシタは、本発明の負極を用いる点に特徴を有し、その他の正極、電解質、セパレータ等の材料及びキャパシタ形状等は公知のものを用いることができ、限定されない。例えば、正極活物質としては、活性炭、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等が用いられ、電解質としては、六フッ化リン酸リチウム、過塩素リチウム、ホウフッ化リチウム、六フッ化砒素酸リチウム等のリチウム塩を含む非水溶液が用いられ、非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、2−メチルテトラヒドロフラン等の単体又は2種類以上を組み合わせて用いられる。また、それ以外の種々の非水系電解質や固体電解質も使用できる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0036】
[実施例1]
図1に示す製造装置を用いた。内径120mm、長さ1,800mmのアルミナ製炉芯管6の内部を、油回転真空ポンプ14で10Paに排気しながら、炉芯管6中央部が1,200℃(分解温度)になるように加熱した。液状のオクタメチルシクロテトラシロキサン(D
4)を、気化部3内で100Pa減圧下・250℃に加熱し気化させた後、キャリアガスであるアルゴンガス2NL/minに同伴させ、炉口側から炉芯管6内に1g/minの速度で供給した。この時の炉芯管6内の圧力が100Paになるようにバタフライ弁を調整した。オクタメチルシクロテトラシロキサンは炉芯管6中央部で熱分解された後、炉出口側に接続された冷却チャンバー7A内で、900℃(基体温度)に冷却された円柱状基体9上に堆積した。この堆積物を回収し、ボールミルで平均粒径が10μmになるように粉砕した。この粉末を、銅を対陰極としたX線回折(Cu−Kα)したところ、
図3に示す回折パターンが得られ、SiCO系コンポジットであることを示すピークが確認された。蛍光X線分析装置(PHILIPS X−ray spectrometer MagiX PRO)で珪素量、炭素分析装置(Horiba carbon analyzer EMIA−110)で結合炭素量と全炭素量、酸素分析装置(Horiba oxygen/nitrogen analyzer EMGA−2800)で酸素量を測定した結果を表1に示す。
【0037】
次に、得られた粉末45質量部に、人造黒鉛(平均粒子径10μm)を45質量部、ポリイミド樹脂(商標名:U−ワニスA、固形分18質量%)56質量部を加え、更にN−メチル−2−ピロリドンを加え、撹拌してスラリーとした。このスラリーをドクターブレードで厚さ12μmの銅箔に塗布し、80℃で1時間乾燥後、ローラープレスにより加圧成形し、更に350℃で1時間真空乾燥した。これを面積2cm
2の円形に打ち抜き、負極を作製した。
【0038】
[実施例2]
分解温度を1,500℃とした以外は実施例1と同様に負極材粉末を作製した。この粉末をX線回折装置で分析したところ
図4に示す回折パターンが得られ、SiCO系コンポジットであることを示すピークが確認された。実施例1と同様に珪素量、結合炭素量、全炭素量、酸素量を測定した結果を表1に示す。次に、この粉末から実施例1と同様に負極を作製した。
【0039】
[実施例3]
分解温度を1,000℃とした以外は実施例1と同様に負極材粉末を作製した。この粉末をX線回折装置で分析したところ
図5に示す回折パターンが得られ、SiCO系コンポジットであることを示すピークが確認された。実施例1と同様に珪素量、結合炭素量、全炭素量、酸素量を測定した結果を表1に示す。次に、この粉末から実施例1と同様に負極を作製した。
【0040】
[実施例4]
雰囲気圧力を9,000Paとした以外は実施例1と同様に負極材粉末を作製した。この粉末をX線回折装置で分析したところ
図6に示す回折パターンが得られ、SiCO系コンポジットであることを示すピークが確認された。実施例1と同様に珪素量、結合炭素量、全炭素量、酸素量を測定した結果を表1に示す。次に、この粉末から実施例1と同様に負極を作製した。
【0041】
[実施例5]
キャリアガスを水素ガスとした以外は実施例1と同様に負極材粉末を作製した。この粉末をX線回折装置で分析したところ、SiCO系コンポジットであることを示すピークが確認された。実施例1と同様に珪素量、結合炭素量、全炭素量、酸素量を測定した結果を表1に示す。次に、この粉末から実施例1と同様に負極を作製した。
【0042】
[実施例6]
液状オルガノシロキサンをデカメチルシクロペンタシロキサン(D
5)とした以外は実施例1と同様に負極材粉末を作製した。この粉末をX線回折装置で分析したところ、SiCO系コンポジットであることを示すピークが確認された。実施例1と同様に珪素量、結合炭素量、全炭素量、酸素量を測定した結果を表1に示す。次に、この粉末から実施例1と同様に負極を作製した。
【0043】
[実施例7]
液状オルガノシロキサンをドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D
6)とした以外は実施例1と同様に負極材粉末を作製した。この粉末をX線回折装置で分析したところ、SiCO系コンポジットであることを示すピークが確認された。実施例1と同様に珪素量、結合炭素量、全炭素量、酸素量を測定した結果を表1に示す。次に、この粉末から実施例1と同様に負極を作製した。
【0044】
[実施例8]
液状オルガノシロキサンをテトラメチルシクロテトラシロキサン(H
4)とした以外は実施例1と同様に負極材粉末を作製した。この粉末をX線回折装置で分析したところ、SiCO系コンポジットであることを示すピークが確認された。実施例1と同様に珪素量、結合炭素量、全炭素量、酸素量を測定した結果を表1に示す。次に、この粉末から実施例1と同様に負極を作製した。
【0045】
[実施例9]
液状オルガノシロキサンをオクタメチルトリシロキサン(MDM)とした以外は実施例1と同様に負極材粉末を作製した。この粉末をX線回折装置で分析したところ、SiCO系コンポジットであることを示すピークが確認された。実施例1と同様に珪素量、結合炭素量、全炭素量、酸素量を測定した結果を表1に示す。次に、この粉末から実施例1と同様に負極を作製した。
【0046】
[実施例10]
液状オルガノシロキサンをヘキサメチルジシロキサン(M
2)とした以外は実施例1と同様に負極材粉末を作製した。この粉末をX線回折装置で分析したところ、SiCO系コンポジットであることを示すピークが確認された。実施例1と同様に珪素量、結合炭素量、全炭素量、酸素量を測定した結果を表1に示す。次に、この粉末から実施例1と同様に負極を作製した。
【0047】
[実施例11]
図1に示す製造装置の冷却チャンバー7Aを
図2に示す冷却チャンバー7Bに置き換えた装置を用い、表面を粗面化した厚さ12μmの銅箔を、繰出ロール17から繰出され、冷却ドラム16表面を経由して巻取ロール18で巻取られるように走行させながら、実施例1と同様に1,200℃(分解温度)でオクタメチルシクロテトラシロキサン(D
4)の熱分解を行い、400℃(基体温度)に冷却された銅箔表面に堆積させた。この堆積物をX線回折装置で分析したところ、SiCO系コンポジットであることを示すピークが確認された。この堆積物を掻き落として回収し、珪素量、結合炭素量、全炭素量、酸素量を測定した結果を表1に示す。次に、堆積物が銅箔に密着した状態(膜厚32μm(銅箔含む))のままで面積2cm
2の円形に打ち抜き、負極を作製した。
【0048】
[比較例1]
特開2006−62949号公報の実施例1に記載の方法でSiCO系コンポジット粉末を得た。即ち、テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン〔信越化学工業(株)製、LS−8670〕120g、メチル水素シロキサン〔信越化学工業(株)製、KF−99〕80gからなる硬化性シロキサン混合物に塩化白金酸触媒〔塩化白金酸1%溶液〕0.1gを添加して、よく混合した。その後、60℃で一昼夜プレキュアした。塊状のまま、ガラス容器に入れて、雰囲気コントロール可能な温度プログラム付マッフル炉で窒素雰囲気下にて、200℃で2時間加熱して、完全に硬化させた。この硬化物をボールミルにより平均粒子径が10μmになるように微粉砕した。その後、蓋付のアルミナ製容器に入れて、雰囲気コントロール可能な温度プログラム付マッフル炉で窒素雰囲気下にて、1,000℃で3時間焼成を行った。冷却後、クリアランスを20μmに設定した粉砕機(マスコロイダー)で粉砕し、平均粒径約10μmのSiCO系コンポジット粉末を得た。次に、この粉末を用いること以外は実施例1と同じ方法で円形(面積2cm
2)の負極を作製した。
【0049】
[電池評価]
リチウムイオン二次電池負極活物質としての評価はすべての実施例、比較例ともに同一で、以下の方法・手順にて行った。
《初期充放電特性評価》
得られた負極の初期充放電特性を評価するために、対極にリチウム箔を使用し、非水電解質として六フッ化リンリチウムをエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの1/1(体積比)混合液に1モル/Lの濃度で溶解した非水電解質溶液を用い、セパレータに厚さ30μmのポリエチレン製微多孔質フィルムを用いた評価用ハーフセルを作製した。
作製したハーフセルは、一晩室温で放置した後、二次電池充放電試験装置((株)ナガノ製)を用いて、セル電圧が5mVに達するまで1.5mAの定電流で充電を行い、5mVに達した後は、セル電圧を5mVに保つように電流を減少させて充電を行い、電流値が200μAを下回った時点で充電を終了し、充電容量を求めた。放電は0.6mAの定電流で行い、セル電圧が2.0V上回った時点で放電を終了し、放電容量を求めた。求めた放電容量を充電容量で割り初回効率とした。これらの結果を表2に示した。なお、表2中の放電容量及び充電容量は、導電性付与のために添加した黒鉛分を除いたSiOC系コンポジット1g当りの容量である。
【0050】
《長期サイクル耐久性評価》
得られた負極のサイクル耐久性を評価するために、正極材料としてコバルト酸リチウム94質量部に、アセチレンブラック3質量部、ポリフッ化ビニリデン3質量部を加え、更にN−メチル−2−ピロリドンを加え、撹拌してスラリーとした。このスラリーをドクターブレードで厚さ16μmのアルミ箔に塗布し、100℃で1時間乾燥後、ローラープレスにより加圧成形し、更に120℃で5時間真空乾燥した。これを面積2cm
2の円形に打ち抜き、正極を作製した。この正極と上記負極を使用し、非水電解質として六フッ化リンリチウムをエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの1/1(体積比)混合液に1モル/Lの濃度で溶解した非水電解質溶液を用い、セパレータに厚さ30μmのポリエチレン製微多孔質フィルムを用いた評価用フルセルを作製した。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】