【実施例】
【0032】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0033】
(実施例1)
チョクラルスキー法により、導電型がp型で、抵抗率が約10Ω・cm、酸素濃度が約15ppma(JEITA)のシリコン単結晶インゴットを育成した。直径は200mm、結晶軸方位は<100>である。そして、そのシリコン単結晶インゴットから、標準的なウェーハ加工プロセスにより、鏡面研磨仕上げのシリコン基板を作製した。
【0034】
次に、作製したシリコン基板において、自然酸化膜をフッ酸水溶液により除去した後、遮光した暗箱内でヨウ素エタノール溶液を用いたケミカルパシベーション処理を施した。この場合、シリコン基板を後述する比較例1と同じ紫外線透過率の高い透明のポリエチレン袋(厚み約0.1mm)に収納し、ヨウ素エタノール溶液を注入することにより、ケミカルパシベーション処理を行った。その後、遮光した装置内においてμ―PCD法により再結合ライフタイムを測定した。再結合ライフタイムの測定にはSemilab製のライフタイム測定器WT−2000を用いた。キャリア励起用パルスレーザーの波長は904nm、パルス幅は200ns、キャリア注入量は1.2E13/cm
2、マイクロ波の周波数は約10GHzとした。再結合ライフタイム測定値の経時変化を調べるため、測定は任意の時間間隔で繰り返し実施した。繰り返し測定の合間、シリコン基板は遮光した装置内に保持した。また、前記透明のポリエチレン袋の光透過率を分光光度計(日立分光光度計U−3000)で測定した。
【0035】
再結合ライフタイムの測定結果を
図1に示した。
図1のグラフにおいて、横軸はケミカルパシベーション処理後の経過時間を示し、縦軸は最初の再結合ライフタイム測定値を1とした場合の測定値の相対値で示したものである。最初の測定値の絶対値は約1800μsecであり、後述する実施例2、3および比較例1、2も同様である。また、光透過率の測定結果を
図2に示した。
図2のグラフにおいて、横軸は光の波長を示し、縦軸は光の透過率を示している。
【0036】
図1に示したように、ケミカルパシベーション処理から60分経過した時点での測定値の低下は10%以内となった。また、
図2に示したように、本実施例で使用した透明のポリエチレン袋は、約400nm以下の波長の光透過率が数十%となり、後述する実施例2で使用した紫外線カットポリエチレン袋と比べて高かった。この結果から、ケミカルパシベーションから再結合ライフタイムの測定を遮光された環境下で行うことにより、後述する比較例の場合と比べて経時変化を小さくできることがわかる。
【0037】
(実施例2)
実施例1と同じシリコン単結晶インゴットから作製されたシリコン基板を準備した。
【0038】
次に、準備したシリコン基板の自然酸化膜をフッ酸水溶液により除去した後、市販の紫外線カットポリエチレン袋(アソー株式会社製、半透明茶色、厚み約0.1mm)に収納し、ヨウ素エタノール溶液を注入することにより、ケミカルパシベーション処理を施した。その後、遮光した装置内においてμ―PCD法により再結合ライフタイムを測定した。再結合ライフタイムの測定条件は実施例1と同じである。再結合ライフタイム測定値の経時変化を調べるため、測定は任意の時間間隔で繰り返し実施した。ケミカルパシベーション処理を行っている間、および繰り返し測定の合間は、約400lxの蛍光灯下に置いた。また、前記紫外線カットポリエチレン袋の光透過率を分光光度計で測定した。
【0039】
再結合ライフタイムの測定結果を
図3に示した。
図3のグラフにおいて、横軸はケミカルパシベーション処理後の経過時間を示し、縦軸は最初の再結合ライフタイム測定値を1とした場合の測定値の相対値で示したものである。また、光透過率の測定結果を
図4に示した。
図4のグラフにおいて、横軸は光の波長を示し、縦軸は光の透過率を示している。
【0040】
図3に示したように、ケミカルパシベーション処理から60分経過した時点での測定値の低下は10%以内となった。また、
図4に示したように、本実施例で使用した紫外線カットポリエチレン袋は、約400nm以下の波長の光透過率が0.1%以下であった。
【0041】
この結果から、シリコン基板を紫外線カット材質のポリエチレン袋に収納してケミカルパシベーション処理を行って再結合ライフタイムを測定することにより、実施例1の遮光した場合と同程度まで経時変化を小さくできることがわかる。
【0042】
(実施例3)
実施例1と同じシリコン単結晶インゴットから作製されたシリコン基板を準備した。
【0043】
次に、準備したシリコン基板の自然酸化膜をフッ酸水溶液により除去した後、実施例1と同じ紫外線透過率の高い透明のポリエチレン袋に収納し、そのポリエチレン袋をマイラーフィルム(半透明黄色)で覆った後、ヨウ素エタノール溶液を注入することにより、ケミカルパシベーション処理を施した。その後、遮光した装置内においてμ―PCD法により再結合ライフタイムを測定した。再結合ライフタイムの測定条件は実施例1と同じである。再結合ライフタイム測定値の経時変化を調べるため、測定は任意の時間間隔で繰り返し実施した。ケミカルパシベーション処理を行っている間、および繰り返し測定の合間は、約400lxの蛍光灯下に置いた。また、前記マイラーフィルムの光透過率を分光光度計で測定した。
【0044】
再結合ライフタイムの測定結果を
図5に示した。
図5のグラフにおいて、横軸はケミカルパシベーション処理後の経過時間を示し、縦軸は最初の再結合ライフタイム測定値を1とした場合の測定値の相対値で示したものである。また、光透過率の測定結果を
図6に示した。
図6のグラフにおいて、横軸は光の波長を示し、縦軸は光の透過率を示している。
【0045】
図5に示したように、ケミカルパシベーション処理から60分経過した時点での測定値の低下は10%以内となった。また、
図6に示したように、本実施例で使用したマイラーフィルムは、約400nm以下の波長の光透過率が0.1%以下であった。すなわち、紫外線透過率の高い透明のポリエチレン袋を紫外線透過率の低いマイラーフィルムで覆ったことによって、シリコン基板を紫外線から防護したことになる。
【0046】
この結果から、シリコン基板を紫外線から防護した状態でケミカルパシベーション処理を行って再結合ライフタイムを測定することにより、実施例1の遮光した場合と同程度まで経時変化を小さくできることがわかる。
【0047】
(比較例1)
実施例1と同じシリコン単結晶インゴットから作製されたシリコン基板を準備した。
【0048】
次に、準備したシリコン基板の自然酸化膜をフッ酸水溶液により除去した後、約400lxの蛍光灯下において、ヨウ素エタノール溶液を用いたケミカルパシベーション処理を施した。この場合、シリコン基板を実施例1と同じ紫外線透過率の高い透明のポリエチレン袋に収納し、ヨウ素エタノール溶液を注入することにより、ケミカルパシベーションを行った。その後、遮光した装置内においてμ―PCD法により再結合ライフタイムを測定した。再結合ライフタイムの測定条件は実施例1と同じである。再結合ライフタイム測定値の経時変化を調べるため、測定は任意の時間間隔で繰り返し実施した。繰り返し測定の合間は、約400lxの蛍光灯下に置いた。
【0049】
再結合ライフタイムの測定結果を
図7に示した。
図7のグラフにおいて、横軸はケミカルパシベーション処理後の経過時間を示し、縦軸は最初の再結合ライフタイム測定値を1とした場合の測定値の相対値で示したものである。
【0050】
図7に示したように、ケミカルパシベーション処理から60分経過した時点での測定値の低下は約25%となり、実施例1〜実施例3の場合よりも経時変化が大きいことがわかる。本比較例で使用した透明のポリエチレン袋の光透過率は
図2に示したものであり、約400nm以下の波長の光透過率が数十%である。
【0051】
(比較例2)
実施例1と同じシリコン単結晶インゴットから作製されたシリコン基板を準備した。
【0052】
次に、準備したシリコン基板の自然酸化膜をフッ酸水溶液により除去した後、約400lxの蛍光灯下において、ヨウ素エタノール溶液を用いたケミカルパシベーション処理を施した。この場合、シリコン基板を紫外線透過率の高い透明のポリエチレンテレフタレート(PET、厚み約0.03mm)袋に収納し、ヨウ素エタノール溶液を注入することにより、ケミカルパシベーションを行った。その後、遮光した装置内においてμ―PCD法により再結合ライフタイムを測定した。再結合ライフタイム測定値の経時変化を調べるため、測定は任意の時間間隔で繰り返し実施した。繰り返し測定の合間は、約400lxの蛍光灯下に置いた。また、前記透明のPET袋の光透過率を分光光度計で測定した。
【0053】
再結合ライフタイムの測定結果を
図8に示した。
図8のグラフにおいて、横軸はケミカルパシベーション処理後の経過時間を示し、縦軸は最初の再結合ライフタイム測定値を1とした場合の測定値の相対値で示したものである。また、光透過率の測定結果を
図9に示した。
図9のグラフにおいて、横軸は光の波長を示し、縦軸は光の透過率を示している。
【0054】
図8に示したように、ケミカルパシベーション処理から60分経過した時点での測定値の低下は50%以上となり、実施例1〜実施例3の場合よりも経時変化が大きいことがわかる。また、
図9に示したように、本比較例で使用した透明のPET袋は、約400nm以下の波長の光透過率が数十%であり、比較例1よりも高かった。この結果から、約400nm以下の波長の光透過率が高くなると、経時変化が大きくなることがわかる。
【0055】
(実施例4)
チョクラルスキー法により、導電型がp型で、抵抗率が約60Ω・cm、酸素濃度が約10ppma(JEITA)のシリコン単結晶インゴットを育成した。直径は200mm、結晶軸方位は<100>である。そして、そのシリコン単結晶インゴットから、標準的なウェーハ加工プロセスにより、鏡面研磨仕上げのシリコン基板を作製した。
【0056】
次に、準備したシリコン基板の自然酸化膜をフッ酸水溶液により除去した後、実施例2と同じ紫外線カットポリエチレン袋に収納し、ヨウ素エタノール溶液を注入することにより、ケミカルパシベーション処理を施した。その後、遮光した装置内においてμ―PCD法により再結合ライフタイムを測定した。再結合ライフタイムの測定条件は実施例1と同じである。再結合ライフタイム測定値の経時変化を調べるため、測定は任意の時間間隔で繰り返し実施した。ケミカルパシベーション処理を行っている間、および繰り返し測定の合間は、約400lxの蛍光灯下に置いた。
【0057】
再結合ライフタイムの測定結果を
図10に示した。
図10のグラフにおいて、横軸はケミカルパシベーション処理後の経過時間を示し、縦軸は最初の再結合ライフタイム測定値を1とした場合の測定値の相対値で示したものである。最初の測定値の絶対値は約4200μsecであり、後述する比較例3も同様である。
【0058】
図10に示したように、ケミカルパシベーション処理から60分経過しても測定値の低下はほとんどなかった。実施例2よりも経時変化が小さくなったのは、シリコン基板の抵抗率が高いためと考えられる。この結果から、シリコン基板を紫外線カット材質のポリ袋に収納してケミカルパシベーション処理を行って再結合ライフタイムを測定することにより、後述する比較例3の場合と比べて経時変化を小さくできることがわかる。
【0059】
(比較例3)
実施例4と同じシリコン単結晶インゴットから作製されたシリコン基板を準備した。
【0060】
次に、準備したシリコン基板の自然酸化膜をフッ酸水溶液により除去した後、約400lxの蛍光灯下において、ヨウ素エタノール溶液を用いたケミカルパシベーション処理を施した。この場合、シリコン基板を実施例1と同じ紫外線透過率の高い透明のポリエチレン袋に収納し、ヨウ素エタノール溶液を注入することにより、ケミカルパシベーションを行った。その後、遮光した装置内においてμ―PCD法により再結合ライフタイムを測定した。再結合ライフタイムの測定条件は実施例1と同じである。再結合ライフタイム測定値の経時変化を調べるため、測定は任意の時間間隔で繰り返し実施した。繰り返し測定の合間は、約400lxの蛍光灯下に置いた。
【0061】
再結合ライフタイムの測定結果を
図11に示した。
図11のグラフにおいて、横軸はケミカルパシベーション処理後の経過時間を示し、縦軸は最初の再結合ライフタイム測定値を1とした場合の測定値の相対値で示したものである。
【0062】
図11に示したように、ケミカルパシベーション処理から60分経過した時点での測定値の低下は約10%となり、実施例4の場合よりも経時変化が大きいことがわかる。本比較例で使用した透明のポリエチレン袋の光透過率は
図2に示したものであり、約400nm以下の波長の光透過率が数十%である。
【0063】
以上の実施例及び比較例の結果から、本発明によれば、ケミカルパシベーション後の再結合ライフタイム測定値の経時変化を小さくすることができ、高精度に再結合ライフタイムを測定できることがわかった。
【0064】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。