特許第6080101号(P6080101)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越半導体株式会社の特許一覧

特許6080101シリコン基板の再結合ライフタイム測定方法
<>
  • 特許6080101-シリコン基板の再結合ライフタイム測定方法 図000002
  • 特許6080101-シリコン基板の再結合ライフタイム測定方法 図000003
  • 特許6080101-シリコン基板の再結合ライフタイム測定方法 図000004
  • 特許6080101-シリコン基板の再結合ライフタイム測定方法 図000005
  • 特許6080101-シリコン基板の再結合ライフタイム測定方法 図000006
  • 特許6080101-シリコン基板の再結合ライフタイム測定方法 図000007
  • 特許6080101-シリコン基板の再結合ライフタイム測定方法 図000008
  • 特許6080101-シリコン基板の再結合ライフタイム測定方法 図000009
  • 特許6080101-シリコン基板の再結合ライフタイム測定方法 図000010
  • 特許6080101-シリコン基板の再結合ライフタイム測定方法 図000011
  • 特許6080101-シリコン基板の再結合ライフタイム測定方法 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6080101
(24)【登録日】2017年1月27日
(45)【発行日】2017年2月15日
(54)【発明の名称】シリコン基板の再結合ライフタイム測定方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/66 20060101AFI20170206BHJP
【FI】
   H01L21/66 M
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-27242(P2013-27242)
(22)【出願日】2013年2月15日
(65)【公開番号】特開2014-157889(P2014-157889A)
(43)【公開日】2014年8月28日
【審査請求日】2015年1月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147935
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 進介
(74)【代理人】
【識別番号】100080230
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 詔二
(72)【発明者】
【氏名】竹野 博
【審査官】 工藤 一光
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−539678(JP,A)
【文献】 特開2000−183123(JP,A)
【文献】 特開平8−335618(JP,A)
【文献】 特開2002−329692(JP,A)
【文献】 特開2007−48959(JP,A)
【文献】 特開2010−192809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L21/66
G01R31/26−31/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板の表面に対してケミカルパシベーション処理を行った後に、再結合ライフタイムを測定する方法であって、
前記ケミカルパシベーション処理から前記再結合ライフタイムの測定が完了するまでの間、少なくとも前記シリコン基板を紫外線から防護する紫外線防護処理が行われることを特徴とするシリコン基板の再結合ライフタイム測定方法。
【請求項2】
前記ケミカルパシベーション処理から前記再結合ライフタイムの測定を、遮光された環境下で行うことで、前記紫外線防護処理が行われることを特徴とする請求項1に記載のシリコン基板の再結合ライフタイム測定方法。
【請求項3】
前記ケミカルパシベーション処理から前記再結合ライフタイムの測定を、紫外線がカットされた環境下で行うことで、前記紫外線防護処理が行われることを特徴とする請求項1に記載のシリコン基板の再結合ライフタイム測定方法。
【請求項4】
前記ケミカルパシベーション処理は、前記シリコン基板を紫外線をカットする材質の合成樹脂製の袋あるいは容器に挿入してケミカルパシベーション用の溶液に浸漬させることにより行い、再結合ライフタイムを測定することを特徴とする請求項1に記載のシリコン基板の再結合ライフタイム測定方法。
【請求項5】
前記ケミカルパシベーション処理を、ヨウ素アルコール溶液を用いて行うことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のシリコン基板の再結合ライフタイム測定方法。
【請求項6】
前記再結合ライフタイムの測定は、マイクロ波光導電減衰法により測定することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載のシリコン基板の再結合ライフタイム測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン基板製造プロセス又はデバイス製造プロセスにおける金属汚染や結晶欠陥を評価するために、シリコン基板の再結合ライフタイムを高精度で測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン基板製造プロセス又はデバイス製造プロセス中の金属汚染を評価する方法として、マイクロ波光導電減衰法(μ―PCD法)による再結合ライフタイムの測定が広く用いられている。このμ―PCD法では、まずシリコン単結晶のバンドギャップよりも大きなエネルギーの光パルスを照射し、ウェーハ中に過剰キャリアを発生させる。発生した過剰キャリアによりウェーハの導電率が増加するが、その後、時間経過に伴い過剰キャリアが再結合によって消滅することで導電率が減少する。この変化を反射マイクロ波パワーの時間変化として検出し、解析することにより再結合ライフタイムを求めることができる。再結合ライフタイムは、禁制帯中に再結合中心となる準位を形成する金属不純物や欠陥などが存在すると短くなる。このことから、再結合ライフタイムの測定により、ウェーハ中の金属不純物や結晶欠陥などを評価することができる(例えば、非特許文献1)。
【0003】
評価対象の試料がウェーハ形状の場合、光パルスによって発生した過剰キャリアは、ウェーハ内部で再結合して消滅するだけではなく、ウェーハ表面及び裏面に拡散し、表面再結合により消滅する。従って、ウェーハ内部の金属汚染や結晶欠陥を評価するためには、表面及び裏面での表面再結合を抑制する必要がある。表面再結合を抑制する方法として、熱酸化処理(酸化膜パシベーション)や電解溶液処理(ケミカルパシベーション処理、CP処理と略称されることがある)が一般的に用いられている。酸化膜パシベーションでは、酸化膜を形成するための熱処理工程において、金属汚染や結晶欠陥を発生させないように注意する必要がある。そのため、酸化炉以外の熱処理炉、例えばエピタキシャルウェーハを製造するためのエピタキシャル成長炉の金属汚染を評価する場合は、ケミカルパシベーション処理が用いられる。
【0004】
ケミカルパシベーション処理用の溶液としては、ヨウ素アルコール溶液(例えば、非特許文献2)とキンヒドロンアルコール溶液(例えば、特許文献1)が知られている。キンヒドロンアルコール溶液の場合は、表面パシベーション効果が安定するまでに時間がかかる(例えば、非特許文献3)。そのため、金属汚染の評価結果をできるだけ早く得たい場合には、ヨウ素アルコール溶液が用いられる。
【0005】
しかし、ヨウ素アルコール溶液を用いたケミカルパシベーション処理では、処理後の時間経過に伴って測定値が低下してしまうため、測定値にばらつきが生じる問題があった。特許文献2には、その問題を解決するために、測定値の経時変化を補正するための補正値を時間の関数として表した補正式を用いて、測定値を補正する方法が開示されている。しかしながら、この方法では、再結合ライフタイムの経時変化を測定する必要があるため、手間と時間がかかるという問題があった。
【0006】
半導体デバイスの高性能化に伴い、微量な金属汚染でもデバイス性能に悪影響を及ぼすようになり、金属汚染を低減することが極めて重要な課題となっている。特に、CCD(電荷結合素子)やCIS(CMOSイメージセンサ)などの撮像素子においては、受光感度や解像度の向上に伴い、微弱な白キズや暗電流などが問題となり、極微量の金属汚染が悪影響を及ぼすことが懸念されている。そのため、撮像素子用基板として広く用いられているエピタキシャルウェーハでは、デバイス製造プロセスにおける金属汚染のみならず、エピタキシャルウェーハを製造するプロセスにおける金属汚染も低減することが強く望まれている。
【0007】
シリコン基板製造プロセス又はデバイス製造プロセス中における金属汚染を低減するためには、極微量な金属汚染を高感度、かつ高精度で評価する方法が必要である。また、金属汚染を評価した結果により製品製造の可否を判断するため、できるだけ迅速に評価結果が得られる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−329692号公報
【特許文献2】特開2010−192809号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】JEIDA−53−1997“シリコンウェーハの反射マイクロ波光導電減衰法による再結合ライフタイム測定方法”
【非特許文献2】T. S. Horanyi et al., Appl. Surf. Sci. 63(1993)306.
【非特許文献3】H. Takato et al., Jpn. J. Appl. Phys. 41(2002)L870.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、シリコン基板製造プロセスやデバイス製造プロセスにおける金属汚染や結晶欠陥を高精度で評価することができるシリコン基板の再結合ライフタイム測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のシリコン基板の再結合ライフタイム測定方法は、シリコン基板の表面に対してケミカルパシベーション処理を行った後に、再結合ライフタイムを測定する方法であって、前記ケミカルパシベーション処理から前記再結合ライフタイムの測定が完了するまでの間、少なくとも前記シリコン基板を紫外線から防護する紫外線防護処理が行われることを特徴とする。
【0012】
このように、ケミカルパシベーション処理から再結合ライフタイムの測定が完了するまでの間、少なくともシリコン基板に対して紫外線から防護する紫外線防護処理が行われるようにすれば、ケミカルパシベーション処理直後からの測定値の経時変化を小さくすることができるため、再結合ライフタイムを高精度で測定することができる。
【0013】
この場合、前記ケミカルパシベーション処理から前記再結合ライフタイムの測定を、遮光された環境下で行うことで、前記紫外線防護処理を行うことができる。たとえば暗室のように遮光された環境下であれば、前記シリコン基板を紫外線から防護することができるので、ケミカルパシベーション処理直後からの測定値の経時変化を小さくすることができ、再結合ライフタイムを高精度で測定することができる。
【0014】
また、前記ケミカルパシベーション処理から前記再結合ライフタイムの測定を、紫外線がカットされた環境下で行うことで、前記紫外線防護処理が行われることが好ましい。本明細書において、紫外線がカットされた環境下という意味は、紫外線が取り除かれた環境下又は紫外線が遮断された環境下の他、紫外線が低減された環境下を含む。たとえばイエロールームのような紫外線がカットされた環境下であれば、前記シリコン基板を紫外線から防護することができるので、ケミカルパシベーション処理直後からの測定値の経時変化を、遮光された環境下の場合と同程度に小さくすることができ、再結合ライフタイムを高精度で測定することができる。
【0015】
また、前記ケミカルパシベーション処理を、前記シリコン基板を紫外線を遮る材質の合成樹脂製の袋あるいは容器に収容してケミカルパシベーション用の溶液に浸漬させることにより行い、再結合ライフタイムを測定することができる。
【0016】
このように、シリコン基板を紫外線をカットする材質の合成樹脂製の袋あるいは容器に収容することにより、紫外線がカットされた環境下と同じ条件でケミカルパシベーション処理と再結合ライフタイム測定を行うことができるので、ケミカルパシベーション処理直後からの測定値の経時変化を、遮光された環境下の場合と同程度に小さくすることができ、再結合ライフタイムを高精度で測定することができる。合成樹脂としては、ポリエチレンやポリプロピレンが使用できる。また、前記紫外線をカットする材質の合成樹脂の袋あるいは容器としては、市販されている紫外線をカットするタイプの合成樹脂の袋あるいは容器を使用することができる。
【0017】
前記ケミカルパシベーション処理を、ヨウ素アルコール溶液を用いて行うことが好ましい。
【0018】
このように、ヨウ素アルコール溶液を用いたケミカルパシベーション処理であれば、パシベーション効果が高く、処理後早く安定するので、再結合ライフタイムを迅速に測定することができる。
【0019】
前記再結合ライフタイムの測定は、マイクロ波光導電減衰法(μ―PCD法)により測定することが好ましい。μ―PCD法であれば、ケミカルパシベーションされたシリコン基板の再結合ライフタイムを容易に測定することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るシリコン基板の再結合ライフタイム測定方法によれば、ケミカルパシベーション処理後の測定値の経時変化を小さくすることができるため、再結合ライフタイムを高精度で測定することができる。このことにより、シリコン基板製造プロセスやデバイス製造プロセスにおいて、金属汚染を高感度かつ高精度で、さらには迅速に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例1におけるケミカルパシベーション処理後の経過時間と再結合ライフタイム相対値との関係を示したグラフである。
図2】実施例1におけるポリエチレン袋の光の波長と透過率との関係を示したグラフである。
図3】実施例2におけるケミカルパシベーション処理後の経過時間と再結合ライフタイム相対値との関係を示したグラフである。
図4】実施例2における紫外線カットポリエチレン袋の光の波長と透過率との関係を示したグラフである。
図5】実施例3におけるケミカルパシベーション処理後の経過時間と再結合ライフタイム相対値との関係を示したグラフである。
図6】実施例3におけるマイラーフィルムの光の波長と透過率との関係を示したグラフである。
図7】比較例1におけるケミカルパシベーション処理後の経過時間と再結合ライフタイム相対値との関係を示したグラフである。
図8】比較例2におけるケミカルパシベーション処理後の経過時間と再結合ライフタイム相対値との関係を示したグラフである。
図9】比較例2におけるポリエチレンテレフタレート袋の光の波長と透過率との関係を示したグラフである。
図10】実施例4におけるケミカルパシベーション処理後の経過時間と再結合ライフタイム相対値との関係を示したグラフである。
図11】比較例3におけるケミカルパシベーション処理後の経過時間と再結合ライフタイム相対値との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
シリコン基板の再結合ライフタイム測定において、表面パシベーション処理として広く用いられているヨウ素アルコール溶液によるケミカルパシベーションの場合、まず、シリコン基板表面のダングリングボンドはヨウ素により終端され、その時点で再結合ライフタイムの測定値が最大となる。その後、時間の経過に伴い、溶液中のアルコキシ基による求核置換反応により、ヨウ素が脱離してアルコキシ基による終端に置き換わる。その化学反応の過程で表面パシベーション効果が弱まることにより、測定値が低下すると考えられる。本発明者は、その化学反応の速度に対して光が影響しており、遮光することによりその化学反応が抑制されて、経時変化が小さくなることを見出した。さらに、光の中でも波長の短い紫外線をカットすることにより、遮光の場合と同程度まで経時変化を小さくできることを見出し、本発明を完成させた。
【0023】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
まず、評価対象となるシリコン基板を準備する。このシリコン基板を準備する方法は、本発明において特に限定されない。たとえば、シリコン単結晶の育成工程における金属汚染や結晶欠陥を評価したい場合は、該当のシリコン単結晶からウェーハを切断し、切断ダメージを取り除くために化学的エッチング処理を行うことにより準備できる。また、エピタキシャル成長炉の金属汚染を評価したい場合には、シリコン基板をエピタキシャル成長炉内でエピタキシャル層を成長させることで、評価対象となるシリコン基板を準備することができる。あるいは、エピタキシャル層を成長させずに熱処理だけを施すことで、評価対象となるシリコン基板を準備することもできる。
【0025】
準備されたシリコン基板の表面に酸化膜が形成されている場合は、ケミカルパシベーション処理の前にフッ酸水溶液により自然酸化膜を除去する。
【0026】
次に、シリコン基板が紫外線から防護された環境下において、シリコン基板の表面再結合を抑制するために、ケミカルパシベーション処理を行う。ケミカルパシベーション処理は、ヨウ素アルコール溶液を用いて行うことができ、たとえばヨウ素エタノール溶液を用いることができる。引き続き、ケミカルパシベーションされたシリコン基板が紫外線から防護された環境下において、再結合ライフタイムを測定する。再結合ライフタイムの測定には、マイクロ波光導電減衰法(μ―PCD法)を用いることができる。μ―PCD法における測定条件は、一般的に用いられている条件で良く、例えば非特許文献1に記載された条件により測定することができる。測定装置は市販されているものを用いることができる。
【0027】
このように、シリコン基板が紫外線から防護された環境下において、ケミカルパシベーション処理から再結合ライフタイムの測定を行うことにより、ケミカルパシベーション処理直後からの測定値の経時変化を小さくすることができ、再結合ライフタイムを高精度で測定することができる。
【0028】
シリコン基板を紫外線から防護するために、ケミカルパシベーション処理から再結合ライフタイムの測定を、遮光された環境下で行うことができる。遮光された環境として、たとえば部屋全体を遮光しても良いし、作業領域のみを遮光しても良い。
【0029】
また、シリコン基板を紫外線から防護するために、ケミカルパシベーション処理から再結合ライフタイムの測定を、紫外線がカットされた環境下で行うことができる。紫外線がカットされた環境として、たとえばイエロールームとすることができる。遮光された環境では作業が極めて難しいが、紫外線がカットされた環境であれば作業が容易になるのでより好適である。
【0030】
さらに、シリコン基板を紫外線から防護するために、シリコン基板を紫外線をカットする材質の合成樹脂製の袋あるいは容器に収容し、ケミカルパシベーション用の溶液を注入することによりケミカルパシベーション処理を行い、再結合ライフタイムを測定することができる。合成樹脂としては、ポリエチレンやポリプロピレンが使用できる。
【0031】
このように、シリコン基板を紫外線をカットする材質の合成樹脂製の袋あるいは容器に収容することにより、暗室やイエロールームなどを新たに準備する必要がなく、簡便にケミカルパシベーション処理と再結合ライフタイム測定を行うことができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0033】
(実施例1)
チョクラルスキー法により、導電型がp型で、抵抗率が約10Ω・cm、酸素濃度が約15ppma(JEITA)のシリコン単結晶インゴットを育成した。直径は200mm、結晶軸方位は<100>である。そして、そのシリコン単結晶インゴットから、標準的なウェーハ加工プロセスにより、鏡面研磨仕上げのシリコン基板を作製した。
【0034】
次に、作製したシリコン基板において、自然酸化膜をフッ酸水溶液により除去した後、遮光した暗箱内でヨウ素エタノール溶液を用いたケミカルパシベーション処理を施した。この場合、シリコン基板を後述する比較例1と同じ紫外線透過率の高い透明のポリエチレン袋(厚み約0.1mm)に収納し、ヨウ素エタノール溶液を注入することにより、ケミカルパシベーション処理を行った。その後、遮光した装置内においてμ―PCD法により再結合ライフタイムを測定した。再結合ライフタイムの測定にはSemilab製のライフタイム測定器WT−2000を用いた。キャリア励起用パルスレーザーの波長は904nm、パルス幅は200ns、キャリア注入量は1.2E13/cm、マイクロ波の周波数は約10GHzとした。再結合ライフタイム測定値の経時変化を調べるため、測定は任意の時間間隔で繰り返し実施した。繰り返し測定の合間、シリコン基板は遮光した装置内に保持した。また、前記透明のポリエチレン袋の光透過率を分光光度計(日立分光光度計U−3000)で測定した。
【0035】
再結合ライフタイムの測定結果を図1に示した。図1のグラフにおいて、横軸はケミカルパシベーション処理後の経過時間を示し、縦軸は最初の再結合ライフタイム測定値を1とした場合の測定値の相対値で示したものである。最初の測定値の絶対値は約1800μsecであり、後述する実施例2、3および比較例1、2も同様である。また、光透過率の測定結果を図2に示した。図2のグラフにおいて、横軸は光の波長を示し、縦軸は光の透過率を示している。
【0036】
図1に示したように、ケミカルパシベーション処理から60分経過した時点での測定値の低下は10%以内となった。また、図2に示したように、本実施例で使用した透明のポリエチレン袋は、約400nm以下の波長の光透過率が数十%となり、後述する実施例2で使用した紫外線カットポリエチレン袋と比べて高かった。この結果から、ケミカルパシベーションから再結合ライフタイムの測定を遮光された環境下で行うことにより、後述する比較例の場合と比べて経時変化を小さくできることがわかる。
【0037】
(実施例2)
実施例1と同じシリコン単結晶インゴットから作製されたシリコン基板を準備した。
【0038】
次に、準備したシリコン基板の自然酸化膜をフッ酸水溶液により除去した後、市販の紫外線カットポリエチレン袋(アソー株式会社製、半透明茶色、厚み約0.1mm)に収納し、ヨウ素エタノール溶液を注入することにより、ケミカルパシベーション処理を施した。その後、遮光した装置内においてμ―PCD法により再結合ライフタイムを測定した。再結合ライフタイムの測定条件は実施例1と同じである。再結合ライフタイム測定値の経時変化を調べるため、測定は任意の時間間隔で繰り返し実施した。ケミカルパシベーション処理を行っている間、および繰り返し測定の合間は、約400lxの蛍光灯下に置いた。また、前記紫外線カットポリエチレン袋の光透過率を分光光度計で測定した。
【0039】
再結合ライフタイムの測定結果を図3に示した。図3のグラフにおいて、横軸はケミカルパシベーション処理後の経過時間を示し、縦軸は最初の再結合ライフタイム測定値を1とした場合の測定値の相対値で示したものである。また、光透過率の測定結果を図4に示した。図4のグラフにおいて、横軸は光の波長を示し、縦軸は光の透過率を示している。
【0040】
図3に示したように、ケミカルパシベーション処理から60分経過した時点での測定値の低下は10%以内となった。また、図4に示したように、本実施例で使用した紫外線カットポリエチレン袋は、約400nm以下の波長の光透過率が0.1%以下であった。
【0041】
この結果から、シリコン基板を紫外線カット材質のポリエチレン袋に収納してケミカルパシベーション処理を行って再結合ライフタイムを測定することにより、実施例1の遮光した場合と同程度まで経時変化を小さくできることがわかる。
【0042】
(実施例3)
実施例1と同じシリコン単結晶インゴットから作製されたシリコン基板を準備した。
【0043】
次に、準備したシリコン基板の自然酸化膜をフッ酸水溶液により除去した後、実施例1と同じ紫外線透過率の高い透明のポリエチレン袋に収納し、そのポリエチレン袋をマイラーフィルム(半透明黄色)で覆った後、ヨウ素エタノール溶液を注入することにより、ケミカルパシベーション処理を施した。その後、遮光した装置内においてμ―PCD法により再結合ライフタイムを測定した。再結合ライフタイムの測定条件は実施例1と同じである。再結合ライフタイム測定値の経時変化を調べるため、測定は任意の時間間隔で繰り返し実施した。ケミカルパシベーション処理を行っている間、および繰り返し測定の合間は、約400lxの蛍光灯下に置いた。また、前記マイラーフィルムの光透過率を分光光度計で測定した。
【0044】
再結合ライフタイムの測定結果を図5に示した。図5のグラフにおいて、横軸はケミカルパシベーション処理後の経過時間を示し、縦軸は最初の再結合ライフタイム測定値を1とした場合の測定値の相対値で示したものである。また、光透過率の測定結果を図6に示した。図6のグラフにおいて、横軸は光の波長を示し、縦軸は光の透過率を示している。
【0045】
図5に示したように、ケミカルパシベーション処理から60分経過した時点での測定値の低下は10%以内となった。また、図6に示したように、本実施例で使用したマイラーフィルムは、約400nm以下の波長の光透過率が0.1%以下であった。すなわち、紫外線透過率の高い透明のポリエチレン袋を紫外線透過率の低いマイラーフィルムで覆ったことによって、シリコン基板を紫外線から防護したことになる。
【0046】
この結果から、シリコン基板を紫外線から防護した状態でケミカルパシベーション処理を行って再結合ライフタイムを測定することにより、実施例1の遮光した場合と同程度まで経時変化を小さくできることがわかる。
【0047】
(比較例1)
実施例1と同じシリコン単結晶インゴットから作製されたシリコン基板を準備した。
【0048】
次に、準備したシリコン基板の自然酸化膜をフッ酸水溶液により除去した後、約400lxの蛍光灯下において、ヨウ素エタノール溶液を用いたケミカルパシベーション処理を施した。この場合、シリコン基板を実施例1と同じ紫外線透過率の高い透明のポリエチレン袋に収納し、ヨウ素エタノール溶液を注入することにより、ケミカルパシベーションを行った。その後、遮光した装置内においてμ―PCD法により再結合ライフタイムを測定した。再結合ライフタイムの測定条件は実施例1と同じである。再結合ライフタイム測定値の経時変化を調べるため、測定は任意の時間間隔で繰り返し実施した。繰り返し測定の合間は、約400lxの蛍光灯下に置いた。
【0049】
再結合ライフタイムの測定結果を図7に示した。図7のグラフにおいて、横軸はケミカルパシベーション処理後の経過時間を示し、縦軸は最初の再結合ライフタイム測定値を1とした場合の測定値の相対値で示したものである。
【0050】
図7に示したように、ケミカルパシベーション処理から60分経過した時点での測定値の低下は約25%となり、実施例1〜実施例3の場合よりも経時変化が大きいことがわかる。本比較例で使用した透明のポリエチレン袋の光透過率は図2に示したものであり、約400nm以下の波長の光透過率が数十%である。
【0051】
(比較例2)
実施例1と同じシリコン単結晶インゴットから作製されたシリコン基板を準備した。
【0052】
次に、準備したシリコン基板の自然酸化膜をフッ酸水溶液により除去した後、約400lxの蛍光灯下において、ヨウ素エタノール溶液を用いたケミカルパシベーション処理を施した。この場合、シリコン基板を紫外線透過率の高い透明のポリエチレンテレフタレート(PET、厚み約0.03mm)袋に収納し、ヨウ素エタノール溶液を注入することにより、ケミカルパシベーションを行った。その後、遮光した装置内においてμ―PCD法により再結合ライフタイムを測定した。再結合ライフタイム測定値の経時変化を調べるため、測定は任意の時間間隔で繰り返し実施した。繰り返し測定の合間は、約400lxの蛍光灯下に置いた。また、前記透明のPET袋の光透過率を分光光度計で測定した。
【0053】
再結合ライフタイムの測定結果を図8に示した。図8のグラフにおいて、横軸はケミカルパシベーション処理後の経過時間を示し、縦軸は最初の再結合ライフタイム測定値を1とした場合の測定値の相対値で示したものである。また、光透過率の測定結果を図9に示した。図9のグラフにおいて、横軸は光の波長を示し、縦軸は光の透過率を示している。
【0054】
図8に示したように、ケミカルパシベーション処理から60分経過した時点での測定値の低下は50%以上となり、実施例1〜実施例3の場合よりも経時変化が大きいことがわかる。また、図9に示したように、本比較例で使用した透明のPET袋は、約400nm以下の波長の光透過率が数十%であり、比較例1よりも高かった。この結果から、約400nm以下の波長の光透過率が高くなると、経時変化が大きくなることがわかる。
【0055】
(実施例4)
チョクラルスキー法により、導電型がp型で、抵抗率が約60Ω・cm、酸素濃度が約10ppma(JEITA)のシリコン単結晶インゴットを育成した。直径は200mm、結晶軸方位は<100>である。そして、そのシリコン単結晶インゴットから、標準的なウェーハ加工プロセスにより、鏡面研磨仕上げのシリコン基板を作製した。
【0056】
次に、準備したシリコン基板の自然酸化膜をフッ酸水溶液により除去した後、実施例2と同じ紫外線カットポリエチレン袋に収納し、ヨウ素エタノール溶液を注入することにより、ケミカルパシベーション処理を施した。その後、遮光した装置内においてμ―PCD法により再結合ライフタイムを測定した。再結合ライフタイムの測定条件は実施例1と同じである。再結合ライフタイム測定値の経時変化を調べるため、測定は任意の時間間隔で繰り返し実施した。ケミカルパシベーション処理を行っている間、および繰り返し測定の合間は、約400lxの蛍光灯下に置いた。
【0057】
再結合ライフタイムの測定結果を図10に示した。図10のグラフにおいて、横軸はケミカルパシベーション処理後の経過時間を示し、縦軸は最初の再結合ライフタイム測定値を1とした場合の測定値の相対値で示したものである。最初の測定値の絶対値は約4200μsecであり、後述する比較例3も同様である。
【0058】
図10に示したように、ケミカルパシベーション処理から60分経過しても測定値の低下はほとんどなかった。実施例2よりも経時変化が小さくなったのは、シリコン基板の抵抗率が高いためと考えられる。この結果から、シリコン基板を紫外線カット材質のポリ袋に収納してケミカルパシベーション処理を行って再結合ライフタイムを測定することにより、後述する比較例3の場合と比べて経時変化を小さくできることがわかる。
【0059】
(比較例3)
実施例4と同じシリコン単結晶インゴットから作製されたシリコン基板を準備した。
【0060】
次に、準備したシリコン基板の自然酸化膜をフッ酸水溶液により除去した後、約400lxの蛍光灯下において、ヨウ素エタノール溶液を用いたケミカルパシベーション処理を施した。この場合、シリコン基板を実施例1と同じ紫外線透過率の高い透明のポリエチレン袋に収納し、ヨウ素エタノール溶液を注入することにより、ケミカルパシベーションを行った。その後、遮光した装置内においてμ―PCD法により再結合ライフタイムを測定した。再結合ライフタイムの測定条件は実施例1と同じである。再結合ライフタイム測定値の経時変化を調べるため、測定は任意の時間間隔で繰り返し実施した。繰り返し測定の合間は、約400lxの蛍光灯下に置いた。
【0061】
再結合ライフタイムの測定結果を図11に示した。図11のグラフにおいて、横軸はケミカルパシベーション処理後の経過時間を示し、縦軸は最初の再結合ライフタイム測定値を1とした場合の測定値の相対値で示したものである。
【0062】
図11に示したように、ケミカルパシベーション処理から60分経過した時点での測定値の低下は約10%となり、実施例4の場合よりも経時変化が大きいことがわかる。本比較例で使用した透明のポリエチレン袋の光透過率は図2に示したものであり、約400nm以下の波長の光透過率が数十%である。
【0063】
以上の実施例及び比較例の結果から、本発明によれば、ケミカルパシベーション後の再結合ライフタイム測定値の経時変化を小さくすることができ、高精度に再結合ライフタイムを測定できることがわかった。
【0064】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11