(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
結晶化温度Txが420℃〜600℃にあるFe基アモルファス合金薄帯を粉砕し、平均厚み20μm〜60μm、平均粒径60μm〜80μmの薄板状でシリカ皮膜を形成した粉砕粉と、前記粉砕粉より小径でシリカ皮膜を形成しないFe基アモルファス合金アトマイズ球状粉とを混合し、成形した後、当該得られた成形体を、(結晶化温度Tx−70℃)〜(結晶化温度Tx−90℃)の温度で熱処理することを特徴とする圧粉磁心の製造方法。
【背景技術】
【0002】
各種リアクトル、各種チョークコイルや各種トランスの磁心に用いられる磁性材料や圧粉磁心を製造する軟磁性粉末としてはフェライト、センダスト、パーマロイやケイ素鋼等が用いられている。しかし、小型化や高周波化が進んでいるため、より低損失で優れた直流重畳特性を有する金属磁性粉末としてアモルファス合金粉末が検討されている。
【0003】
しかし、アモルファス合金粉末を製造する方法としてガスアトマイズ法や水アトマイズ法があるが、これらの製法では冷却速度の関係から大きな粒径の粉末はアモルファスになりにくいという欠点がある。特に冷却速度が劣るガスアトマイズなどにより粉末を製造する場合は完全なアモルファス状態ではなく、結晶化することで磁気特性の悪い粉末が混在しやすくなる。
【0004】
そこで、更なる特性改善のために特許文献1ではFe基アモルファス合金薄帯を粉砕した粉砕粉を用いた圧粉磁心が提案されている。
【0005】
また、成形体密度を向上させる検討としては、特許文献2のようにシリカ被膜を軟磁性粉末に被覆することで薄く均一に絶縁膜を形成する方法や、特許文献3や特許文献4のように2種類以上のアモルファス粉砕粉やアモルファス合金粉末と粒度が異なる微小なアトマイズ粉末を混合した圧粉磁心が提案されている。
【0006】
これらアモルファス合金粉末を用いて圧粉磁心を作製する過程において、加圧成形が行われる。この際にアモルファス合金粉末中には大きな応力が残留して磁気特性が劣化するため、この残留応力を緩和する目的で成形後、熱処理を行うことが一般的である。
【0007】
このときの熱処理としては、特許文献3や特許文献4のように結晶化温度以下で結晶化させずにアモルファス状態を保つ条件で熱処理する方法が一般的である。これはFe基アモルファス合金粉末からなる圧粉磁心を熱処理し、bcc-Fe相が結晶化により析出するとヒステリシス損失の増大により磁心損失が増加すると考えられているためである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の圧粉磁心は、成形体を熱処理することによって残留応力を緩和するのであるが、このときbcc-Fe結晶相を僅かに析出させても残留応力の低減効果の方が上回り、結果的に鉄損が低減できることが分かった。この効果が得られる領域は、成形体をX線回析(PANalytical製X’Pert PROを使用、CuKα線で2θ= 20 〜 120°で測定。)したとき、2θ= 45°付近に現れるbcc-Fe結晶の(110)ピークとアモルファス相のメインのハローピークとの比を用いて示すことが出来る。即ち、bcc-Fe結晶相のピーク強度Icと、アモルファス相のピーク強度Iaとの強度比Ic / Iaが1.1≦Ic / Ia≦3.6の範囲にあることが好適である。
図1にピーク強度比Ic / Iaと鉄損との関係を示す。このピーク強度比Ic / Iaが1.1未満では鉄損が上がる傾向にある。これはまだ応力緩和による鉄損減少の余地を残しているものと考えられる。一方、ピーク強度比Ic / Iaが3.6超えだと鉄損は急上昇する。これは熱処理による応力緩和の鉄損減少の効果よりも結晶化による鉄損増加が大きくなり始めるためと考えられる。より望ましくは1.1≦ Ic / Ia ≦3、さらに望ましくは1.4≦ Ic / Ia ≦2.1の範囲に制御することである。
【0019】
従い、上記ピーク強度比Ic / Iaの範囲を満足することを指針に熱処理を行えば良い。ただ、実用上は粉砕粉の形態と熱処理温度が関連してくるので以下の点に留意する。通常、Fe基アモルファス合金薄帯は急冷単ロール法により製造され、その厚みはおよそ10μm〜100μm程度である。本実施形態で用いたFe基アモルファス合金薄帯の平均厚みは23μm〜52μmであり、粉砕した扁平粉末の平均粒径は60μm〜80μmであった。尚、扁平粉末の平均粒径は目開き106μmの篩を通過した粉砕粉を、更に目開きがより小さい篩(目開き90、75、63、53、45、32μm)を用いて分級し、篩に残った粒径を通過した目開きと通過せずに篩に残った目開きの平均値(98、82.5、69、58、49、38.5、16μm)として重量比から計算した値である。このような薄板状の粉砕粉を主体とすることで配向性の良い成形体を得ることができる。
【0020】
また、熱処理温度はFe基アモルファス合金の結晶化温度Txを基に定めるが、(結晶化温度Tx−70℃)〜(結晶化温度Tx−110℃)の範囲とすることで上記ピーク強度比Ic / Iaを満足することができる。より望ましくは(結晶化温度Tx−70℃)〜(結晶化温度Tx−90℃)である。但し、粉砕粉の厚みと粒径によって最適な温度を選定することがより望ましい。例えば、急冷単ロール法により製造されたFe基アモルファス合金薄帯は冷却速度が速く、厚みが薄いものほど結晶化は起こっていない。しかし、逆に粉砕後の熱処理では薄いほど結晶化は進行し易い。このことから、より薄い薄帯の粉砕粉からなる成形体は、熱処理温度を低めに設定しbcc-Fe結晶相の析出を抑制してIc / Iaを所定範囲に収めるのが良い。一方、厚さ30μm以上の薄帯の粉砕粉からなる成形体では、同じ組成であれば比較的高い熱処理温度まで許容範囲があるので制御し易い。
【0021】
また、本発明に使用可能なFe基アモルファス合金としては、Fe-B系、Fe-Si-B系、Fe-Si-B-C系、Fe-Si-B-P系、Fe-Si-B-C-P系、Fe-P-B系、Fe-Si-B-C-M(MはCr、Mo、Zr、Hfの1種以上の元素)系等が挙げられるが、Fe,Si及びBを主成分とする系が好ましく、例えば、組成式がFe
aSi
bB
cC
dM
e(但し、MはCr、Mo、Zr、Hfの1種以上の元素であり、原子%で50≦a≦90、2≦b≦20、2≦c≦20、0≦d≦3、0≦e≦10、a+b+c+d+e=100)で表される組成が好ましい。
結晶化温度Txは組成により変動するが、結晶化温度Txが420℃〜600℃にある組成が適している。好ましくは450℃〜580℃、さらに好ましくは470℃〜570℃である。
【0022】
本発明の圧粉磁心は、上述のFe基アモルファス合金薄帯を粉砕した粉砕粉を単体で用いても良いが、異なる厚みの粉砕粉との混合粉や異なる合金の粉砕粉との混合粉を用いても良い。また、別途用意したアトマイズ粉を適宜混合した混合粉を用いて実施することも出来る。
【0023】
さらに、イソプロピルアルコール(IPA)やエタノールなどのアルコール溶液に粉砕粉を加え、そこにテトラエトキシシラン、水、アルカリを加えて加水分解反応を起こすことによりシリカ被膜を形成した粉砕粉を用いることはより好ましい。シリカ被覆を形成することで粉末の結晶化を抑制させることができるので有効である。
【0024】
(実施例1)
急冷単ロール法により作製したFe
75Si
8B
17(原子%)のFe基アモルファス合金薄帯(幅5mm、平均厚さ23μm、結晶化温度Tx = 560℃)を窒素雰囲気中で300℃において3時間保持する脆化熱処理を行った。これにより薄帯を脆化させて粉砕し易くする。脆化熱処理温度は280℃〜340℃が好ましい。この薄帯をパワーミル、インパクトミルにより粉砕し、目開き106μmの篩に通して分級し、Fe基アモルファス合金薄帯の粉砕粉を得た。粉砕粉の平均粒径は62μmであった。
【0025】
次にIPA 100mlを攪拌しながら前記粉砕粉200gを投入し、テトラエトキシシラン20 gと水20 ml、28%アンモニア水2 mlと混合し、3時間攪拌してシリカ被覆を形成した。この後、IPAで洗浄後に60℃にて2時間乾燥させた。
【0026】
他方でFe
74B
11Si
11C
2Cr
2(原子%)のアトマイズ粉による平均粒径11 μmの球状粉を用意する。なお、このアトマイズ粉は510℃以下で熱処理を行っても結晶化しない。
前記粉砕粉24 g(80重量部)に対して、前記アトマイズ粉を6 g(20重量部)加えた合計30 gに対して、無機バインダーを0.24 g(0.8重量部)、アクリル系有機バインダーを0.75 g(2.5重量部)とステアリン酸亜鉛0.12 g(0.4重量部)を混合し、目開き150μmの篩を通して造粒粉を得た。
この造粒粉をプレス機を用いて外形寸法が13.5 mm、内径7.5 mmのトロイダル形状の金型に入れて、圧力21トン、保持時間5秒でプレス成形した。得られた成形体を管状炉にて、アルゴン雰囲気中、450℃で1時間の熱処理を行った。
【0027】
以上により作製したトロイダルコアを磁束密度50 mT、周波数50 kHzと100 mT、100kHzの条件で鉄損と直流重畳特性を下記の測定手段により測定した。その結果、磁束密度50 mT、周波数50 kHzでは59 kW/m
3であり、100 mT、100kHzでは787 kW/m
3であった。また、直流重畳特性(比透磁率)は、H = 0 A/mで62、H = 10000 A/mでは32であり、変化率は−0.48であった。なおここでの変化率は((H = 0 A/mでの比透磁率)−(H = 10000 A/mでの比透磁率))/(H = 0 A/mでの比透磁率)の値とし、減少の割合なのでマイナスとした。
また、このトロイダルコアをX線回折測定し、下記の測定手段によりピーク強度比Ic/Iaを求めた。その結果、Ic/Ia = 1.6となっていた。
以上の結果を表1に示す。
【0028】
(測定手段)
鉄損は上記トロイダルコアをコアケース(外形:30 mm、内径:6 mm、高さ:7 mm)に入れて、直径0.25 mmの絶縁被覆銅線を2本で20回巻き線を行い、B-Hアナライザー(岩通計測株式会社製:SY-8232)により、磁束密度50 mT、周波数50 kHzと100 mT、100kHzの条件で測定を行った。
【0029】
また、直流重畳特性も同様のコアケースに入れて直径0.5 mmの絶縁被覆銅線を40回巻き、4284ALCRメーターを使用し、100 kHz、1Vの条件で磁場H = 0、10000 A/mでの比透磁率μの測定を行った。なお、直流重畳特性はμの値が大きく、且つH=0 A/mに対して、10000 A/mでの変化率が小さいほど良好な直流重畳特性である。
【0030】
X線回折測定はX線回折装置を使用し、X線チャート図の2θ= 45°付近に現れるbcc-Fe結晶の(110)ピークの強度Icの高さと、アモルファス相のメインのハローピークの強度Iaの高さを夫々測定し、Ic/Ia の比を求めた(
図5参照)。即ち、このピークはbcc-Fe相の回折ピークとアモルファス相のピークが重なっており、
図2〜4のようなピークが確認されるが、これらを分離して夫々のピークを求めている。尚、結晶化しておらずbcc-Feのピークが0である場合や結晶化していてもIc/Ia≦1の場合は、Icの高さが判別不能のためIc/Ia=1とする。
【0031】
(実施例2〜4)
実施例1と同じ条件と工程であるが、Fe基アモルファス合金薄帯の平均厚さが31μm、40μm、52μmの薄帯を用い、これを粉砕した。その後、実施例1と同様の条件でトロイダルコアを作製した。これらについて実施例1と同様に鉄損と直流重畳特性およびピーク強度比Ic/Iaを測定した。
【0032】
その結果、鉄損は磁束密度50 mT、周波数50 kHzではそれぞれ51 kW/m
3、51 kW/m
3、66 kW/m
3であり、100 mT、100kHzではそれぞれ693 kW/m
3、688 kW/m
3、861 kW/m
3であった。
また、直流重畳特性はH = 0 A/mでそれぞれ58、60、56であり、H = 10000 A/mではそれぞれ34、34、35であった。
そして、ピーク強度比Ic/Iaは何れも1.1となっていた。
以上の結果を表1に示す。
【0033】
(実施例5〜8)
上記実施例1〜4と同じ条件と工程であるが、粉砕粉に対しテトラエトキシシランによるシリカ被覆を行わなかった。その後、実施例1と同様の条件でトロイダルコアを作製した。これらについて実施例1と同様に鉄損と直流重畳特性およびピーク強度比Ic/Iaを測定した。
【0034】
その結果、鉄損は磁束密度50 mT、周波数50 kHzではそれぞれ71 kW/m
3、65 kW/m
3、70 kW/m
3、82 kW/m
3であり、100 mT、100kHzではそれぞれ927 kW/m
3、831 kW/m
3、900 kW/m
3、1026 kW/m
3であった。
また、直流重畳特性はH = 0 A/mでそれぞれ54、58、57、57であり、H = 10000 A/mではそれぞれ32、32、32、31であった。
そして、ピーク強度比Ic/Iaはそれぞれ2.2、1.4、1.3、1.3となっていた。
以上の結果を表1に示す。
【0036】
以上よりピーク強度比Ic/Iaは1.1〜2.2の範囲にあり結晶化がわずかに進んでいても応力緩和の効果がでている。また、粉砕粉にシリカ被覆をすることで鉄損が2割以上減少することが分かる。鉄損をヒステリシス損と渦電流損に分離すると主にヒステリシス損が減少しており、これはIc/Iaが下がっていることからシリカ被覆により結晶化が抑制されているためと考えられる。
【0037】
(実施例9〜12)
実施例1〜4と同じ条件と工程であるが、成形後における熱処理条件を470℃で1時間に変更した。その後、実施例1と同様の条件でトロイダルコアを作製した。これらについて実施例1と同様に鉄損と直流重畳特性およびピーク強度比Ic/Iaを測定した。
【0038】
その結果、鉄損は磁束密度50 mT、周波数50 kHzではそれぞれ45 kW/m
3、40 kW/m
3、39 kW/m
3、46 kW/m
3であり、100 mT、100kHzでは615 kW/m
3、542 kW/m
3、528 kW/m
3、617 kW/m
3であった。
また、直流重畳特性はH = 0 A/mでそれぞれ62、57、61、54であり、H = 10000 A/mではそれぞれ32、34、35、35であった。
そして、ピーク強度比Ic/Iaはそれぞれ2.1、1.4、1.4、1.4となっていた。
以上の結果を表2に示す。
【0039】
(実施例13)
実施例1と同じ条件と工程であるが、成形後における熱処理条件を490℃で1時間に変更した。その後、実施例1と同様の条件でトロイダルコアを作製した。これらについて、実施例1と同様に鉄損と直流重畳特性およびピーク強度比Ic/Iaを測定した。
【0040】
その結果、鉄損は磁束密度50 mT、周波数50 kHzでは68 kW/m
3であり、100 mT、100kHzでは925 kW/m
3であった。
また、直流重畳特性はH = 0 A/mで53であり、H = 10000 A/mでは32であった。
そして、ピーク強度比Ic/Iaは3.6となっていた。
以上の結果を表2に示す。
【0041】
(実施例14〜16)
実施例2〜4と同じ条件と工程であるが、成形後における熱処理条件を490℃で1時間に変更した。その後、実施例1と同様の条件でトロイダルコアを作製した。これらについて実施例1と同様に鉄損と直流重畳特性およびピーク強度比Ic/Iaを測定した。
【0042】
その結果、鉄損は磁束密度50 mT、周波数50 kHzではそれぞれ38 kW/m
3、43 kW/m
3、44 kW/m
3であり、100 mT、100kHzではそれぞれ539 kW/m
3、612 kW/m
3、676 kW/m
3であった。
また、直流重畳特性はH = 0 A/mでそれぞれ57、58、53であり、H = 10000 A/mではそれぞれ35、35、35であった。
そして、ピーク強度比Ic/Iaはそれぞれ1.8、2.1、1.8となっていた。
以上の結果を表2に示す。
【0043】
(比較例1〜4)
実施例1〜4と同じ条件と工程であるが、成形後における熱処理条件を510℃で1時間に変更した。その後、実施例1と同様の条件でトロイダルコアを作製した。これらについて実施例1と同様に鉄損と直流重畳特性およびピーク強度比Ic/Iaを測定した。
【0044】
その結果、鉄損は磁束密度50 mT、周波数50 kHzではそれぞれ230kW/m
3、118kW/m
3、254kW/m
3、115kW/m
3であり、100 mT、100kHzではそれぞれ3126kW/m
3、1784kW/m
3、3402 kW/m
3、1663kW/m
3であった。
また、直流重畳特性はH = 0 A/mでそれぞれ30、34、26、38であり、H = 10000 A/mではそれぞれ25、30、23、32であった。
そして、ピーク強度比Ic/Iaはそれぞれ6.5、3.8、3.8、3.9となっていた。
以上の結果を表2に示す。
【0046】
各実施例によれば鉄損は低減し、且つ直流重畳特性の大きな悪化もなく良好な結果が得られた。なお、実施例13は、同じ熱処理条件であっても他の厚みの粉砕粉から作製したコアと比べて鉄損が増加している。これは比較的厚みが薄く粒径の小さい粉砕粉であることから490℃ではbcc-Fe結晶相の析出が他のものより促進され、その結果鉄損が増加したものと考える。同じ厚みでも470℃では良好であったことから、比較的薄い20μm
台の合金薄帯の粉砕粉は30μm以上のものよりも熱処理温度は低めに設定すべきであることが分かる。
また、比較例1〜4によれば510℃で熱処理したコアは他の熱処理温度と比べて鉄損が著しく高く、直流重畳特性も低下していた。これらのピーク強度比Ic/Iaは比較例1よりも高く、Ic/Iaが3.6を超えるとさらに結晶化が急激に進んでしまうものと推察される。このように510℃では応力緩和効果よりも結晶化による磁気特性悪化の影響が大きく、(結晶化温度Tx−70℃)を超える熱処理条件は適していない。
【0047】
次に、実施例13〜16(490℃、1時間で熱処理)のトロイダルコアをX線回折測定した結果を
図2に示す。
図2から分かるように実施例13(平均厚さ23μm)のコアのみ2θ= 45°付近のbcc-Fe結晶ピークの高さIcがアモルファスハローピークの高さIaと比べて高くなっており、このピークの高さの比はIc/Ia = 3.6であった。従って、このコアは他の厚さの粉砕粉から作製したコアよりも結晶化が進んでおり、鉄損や直流重畳特性がやや低下している。実施例1、9(平均厚さ23μm)のコアも強度比Ic / Iaの数値は比較的高く結晶化が進行している傾向がある。しかし、鉄損は比較的低く、直流重畳特性も安定しているのでピーク強度比Ic/Iaは3.6以下であれば実用に
供せると判定した。
【0048】
次に、実施例9〜12(470℃、1時間で熱処理)のトロイダルコアをX線回折測定した結果を
図3に、同じ条件で熱処理をしたアモルファス薄帯をX線回折測定した結果を
図4に示す。
図3〜4のようにアモルファス薄帯ではコアや粉砕粉と異なり、厚さが厚い方が2θ= 45°付近のbcc-Fe結晶ピークの高さIcが高く、結晶化が進んでいる。
尚、これら実施例9〜12の粉砕粉のみを用いて、同様の熱処理をした粉砕粉についてX線回折測定を行ったところ、ピーク強度比Ic / Iaの値が若干増加しているが平均厚さ23μmの粉末のみ他の厚さに比べてIc / Iaが大きいという同様の傾向が確認できた。このためアトマイズ粉の影響によるものではないと言える。
このことからアモルファス薄帯を粉砕することで厚さによる結晶化の傾向が粉砕前と異なっていることがわかる。単ロール法で作製したアモルファス薄帯は表面に薄い酸化被膜ができているが、粉砕を経ることで酸化被膜が破壊されているため、粉砕することでより結晶化しやすくなり、粉砕粉やトロイダルコアではアモルファス薄帯と結晶化の傾向が異なっていると推察される。
【0049】
以上より、粉砕するアモルファス薄帯の厚さにより最適な熱処理条件が異なることが分かる。一般的にアモルファス薄帯は厚さが薄く、急冷単ロール法での冷却速度が速い程、結晶化しづらい。ところが粉砕後では
図3や
図4の様に厚さが薄い方が結晶化しやすいため、その両方の影響の足し合わせにより結晶化の傾向が決まる。その結果、平均厚さ30〜40μm前後の粉砕粉から作製したトロイダルコアはより高温でも結晶化の進行が遅く、鉄損が平均厚さ20、50μm付近の粉砕粉から作製したトロイダルコアに比べて低くなっていると推察される。
【0050】
結果的に厚さに依存せず最適な熱処理条件を判断する指標の一つとしてX線回折測定データから得られるbcc-Fe結晶ピークの高さとアモルファスハローピークの強度比Ic / Iaが挙げられる。シリカ被覆をした場合のトロイダルコアの磁束密度50 mT、周波数50 kHzでの鉄損とIc / Iaの関係を
図1に示す。この図からおよそIc / Ia≦3.6であれば磁束密度50 mT、周波数50 kHzでの鉄損が70 kW/m
3以下の、1.1 ≦ Ic / Ia ≦ 3であれば40〜60 kW/m
3のトロイダルコアを得ることができることが読み取れる。