特許第6080820号(P6080820)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6080820
(24)【登録日】2017年1月27日
(45)【発行日】2017年2月15日
(54)【発明の名称】高強度チタン銅箔及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/00 20060101AFI20170206BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20170206BHJP
   G02B 7/04 20060101ALI20170206BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20170206BHJP
【FI】
   C22C9/00
   C22F1/08 B
   C22F1/08 Q
   G02B7/04 D
   G02B7/04 E
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 622
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630F
   !C22F1/00 661A
   !C22F1/00 661Z
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 686A
   !C22F1/00 691A
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 692A
   !C22F1/00 692B
   !C22F1/00 694A
【請求項の数】11
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-176347(P2014-176347)
(22)【出願日】2014年8月29日
(65)【公開番号】特開2016-50341(P2016-50341A)
(43)【公開日】2016年4月11日
【審査請求日】2015年5月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】長野 真之
【審査官】 相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−037613(JP,A)
【文献】 特開2014−080670(JP,A)
【文献】 特開2009−084592(JP,A)
【文献】 特開2011−026635(JP,A)
【文献】 特開2004−176162(JP,A)
【文献】 特開2006−241573(JP,A)
【文献】 特開平06−264202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00−9/10
C22F 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2.0〜4.0質量%Tiを含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなり、圧延方向に平行な方向及び直角な方向での0.2%耐力が共に1200MPa以上であり、且つ、圧延方向に平行な方向及び直角な方向でのばね限界値が共に800MPa以上であることを特徴とするチタン銅箔。
【請求項2】
圧延方向に平行な方向及び直角な方向での0.2%耐力が共に1300MPa以上である請求項1に記載のチタン銅箔。
【請求項3】
圧延方向に直角な方向でのばね限界値が1000MPa以上である請求項1又は2に記載のチタン銅箔。
【請求項4】
箔厚が0.1mm以下である請求項1〜3の何れか一項に記載のチタン銅箔。
【請求項5】
Ag、B、Co、Fe、Mg、Mn、Mo、Ni、P、Si、CrおよびZrのうち1種以上を総量で0〜1.0質量%含有する請求項1〜4の何れか一項に記載のチタン銅箔。
【請求項6】
2.0〜4.0質量%Tiを含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなるインゴットを作製し、このインゴットに対して熱間圧延、冷間圧延を順に行い、次いで、700〜1000℃で5秒間〜30分間の溶体化処理、圧下率95%以上の冷間圧延を順次行った後、15℃/h以下の速度で昇温し、200〜400℃の範囲で1〜20時間保持し、150℃まで15℃/h以下の速度で冷却する時効処理を行うことを含む請求項1〜4の何れか一項に記載のチタン銅箔の製造方法。
【請求項7】
前記インゴットがAg、B、Co、Fe、Mg、Mn、Mo、Ni、P、Si、CrおよびZrのうち1種以上を総量で0〜1.0質量%含有する請求項6に記載のチタン銅箔の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5の何れか一項に記載のチタン銅箔を備えた伸銅品。
【請求項9】
請求項1〜5の何れか一項に記載のチタン銅箔を備えた電子機器部品。
【請求項10】
電子機器部品がオートフォーカスカメラモジュールである請求項9に記載の電子機器部品。
【請求項11】
レンズと、このレンズを光軸方向の初期位置に弾性付勢するばね部材と、このばね部材の付勢力に抗する電磁力を生起して前記レンズを光軸方向へ駆動可能な電磁駆動手段を備え、前記ばね部材が請求項1〜5の何れか一項に記載のチタン銅箔であるオートフォーカスカメラモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オートフォーカスカメラモジュール等の導電性ばね材として好適な、優れた強度を備えたCu−Ti系合金箔に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話のカメラレンズ部にはオートフォーカスカメラモジュールと呼ばれる電子部品が使用される。携帯電話のカメラのオートフォーカス機能は、オートフォーカスカメラモジュールに使用される材料のばね力でレンズを一定方向に動かす一方、周囲に巻かれたコイルに電流を流すことで発生する電磁力によりレンズを材料のばね力が働く方向とは反対方向へ動かす。このような機構でカメラレンズが駆動しオートフォーカス機能が発揮される(例えば、特許文献1、2)。
【0003】
したがって、オートフォーカスカメラモジュールに使用される銅合金箔には、電磁力による材料変形に耐えるほどの強度が必要になる。強度が低いと、電磁力による変位に材料が耐えることができず、永久変形(へたり)が発生する。へたりが生じると、一定の電流を流したとき、レンズが所望の位置に移動できずオートフォーカス機能が発揮されない。
【0004】
オートフォーカスカメラモジュールには、箔厚0.1mm以下で、1100MPa以上の0.2%耐力を有するCu−Ni−Sn系銅合金箔が使用されてきた。しかし、近年のコストダウン要求により、Cu−Ni−Sn系銅合金箔より比較的材料価格が安いチタン銅箔が使用されるようになり、その需要は増加しつつある。
【0005】
一方で、チタン銅箔の強度はCu−Ni−Sn系銅合金箔より低く、へたりが生じる問題があるため、その高強度化が望まれている。オートフォーカスカメラモジュールに好適な高強度チタン銅箔を得るため、特許文献3では、熱間圧延及び冷間圧延を行った後、溶体化処理、圧下率55%以上の冷間圧延、200〜450℃の時効、圧下率35%以上の冷間圧延を順次行い、銅合金箔の表面粗さを制御する方法、特許文献4では、熱間圧延及び冷間圧延を行った後、溶体化処理、圧下率55%以上の冷間圧延、200〜450℃の時効、圧下率50%以上の冷間圧延、必要に応じて歪取り焼鈍を順次行い、溶体化後の冷間圧延の圧下率を制御することで、I(220)/I(311)を制御する方法が提案されている。特許文献3及び特許文献4に記載のチタン銅箔においては、圧延方向に平行な方向での0.2%耐力について1100MPa以上が達成可能であると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−280031号公報
【特許文献2】特開2009―115895号公報
【特許文献3】特開2014−037613号公報
【特許文献4】特開2014−080670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術では、オートフォーカスカメラモジュールの小型化に伴い、材料に加わる変位が大きいと、へたりが発生するため、更なる改善が求められている。
そこで、本発明はオートフォーカスカメラモジュール等の電子機器部品に使用される導電性ばね材としてより好適な高強度チタン銅箔を提供することを目的とする。また、本発明はそのようなチタン銅箔の製造方法を提供することを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らはチタン銅箔の圧延平行方向及び圧延直角方向の0.2%耐力及びばね限界値とへたりの関係を調査した結果、両方向の0.2%耐力だけでなく、ばね限界値が高いほどへたり量が小さくなることを見出した。本発明は以上の知見を背景として完成したものであり、以下によって特定される。
(1)2.0〜4.0質量%Tiを含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなり、圧延方向に平行な方向及び直角な方向での0.2%耐力が共に1200MPa以上であり、且つ、圧延方向に平行な方向及び直角な方向でのばね限界値が共に800MPa以上であることを特徴とするチタン銅箔。
(2)圧延方向に平行な方向及び直角な方向での0.2%耐力が共に1300MPa以上である(1)のチタン銅箔。
(3)圧延方向に直角な方向でのばね限界値が1000MPa以上である(1)又は(2)のチタン銅箔。
(4)箔厚が0.1mm以下である(1)〜(3)の何れかのチタン銅箔。
(5)Ag、B、Co、Fe、Mg、Mn、Mo、Ni、P、Si、CrおよびZrのうち1種以上を総量で0〜1.0質量%含有する(1)〜(4)の何れかのチタン銅箔。
(6)2.0〜4.0質量%Tiを含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなるインゴットを作製し、このインゴットに対して熱間圧延、冷間圧延を順に行い、次いで、700〜1000℃で5秒間〜30分間の溶体化処理、圧下率95%以上の冷間圧延を順次行った後、15℃/h以下の速度で昇温し、200〜400℃の範囲で1〜20時間保持し、150℃まで15℃/h以下の速度で冷却する時効処理を行うことを含むチタン銅箔の製造方法。
(7)前記インゴットがAg、B、Co、Fe、Mg、Mn、Mo、Ni、P、Si、CrおよびZrのうち1種以上を総量で0〜1.0質量%含有する(6)のチタン銅箔の製造方法。
(8)(1)〜(5)の何れかのチタン銅箔を備えた伸銅品。
(9)(1)〜(5)の何れかのチタン銅箔を備えた電子機器部品。
(10)電子機器部品がオートフォーカスカメラモジュールである(9)の電子機器部品。
(11)レンズと、このレンズを光軸方向の初期位置に弾性付勢するばね部材と、このばね部材の付勢力に抗する電磁力を生起して前記レンズを光軸方向へ駆動可能な電磁駆動手段を備え、前記ばね部材が(1)〜(5)の何れかのチタン銅箔であるオートフォーカスカメラモジュール。
【発明の効果】
【0009】
オートフォーカスカメラモジュール等の電子機器部品に使用される導電性ばね材としてより好適な高強度Cu−Ti系合金箔が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係るオートフォーカスカメラモジュールを示す断面図である。
図2図1のオートフォーカスカメラモジュールの分解斜視図である。
図3図1のオートフォーカスカメラモジュールの動作を示す断面図である。
図4】へたり量を測定する方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
オートフォーカスカメラモジュールのレンズのオートフォーカス機能は、レンズに設置された材料のばね力と、その反対方向に働く電磁力による変位によって発揮される。材料に加わる変位は材料の圧延面に対して垂直方向であり、材料には曲げ変形が加わる。したがって、材料は圧延に対して平行な方向の高い0.2%耐力だけでなく、直角な方向の0.2%耐力も必要であり、更には、圧延に対して平行及び直角な方向の高いばね限界値も必要と考えられる。
【0012】
(1)Ti濃度
本発明に係るチタン銅箔においては、Ti濃度を2.0〜4.0質量%とする。チタン銅は、溶体化処理によりCuマトリックス中へTiを固溶させ、時効処理により微細な析出物を合金中に分散させることにより、強度及び導電率を上昇させる。
Ti濃度が2.0質量%未満になると、析出物の析出が不充分となり所望の強度が得られない。Ti濃度が4.0質量%を超えると、加工性が劣化し、圧延の際に材料が割れやすくなる。強度及び加工性のバランスを考慮すると、好ましいTi濃度は2.5〜3.5質量%である。
【0013】
(2)その他の添加元素
本発明に係るチタン銅箔においては、Ag、B、Co、Fe、Mg、Mn、Mo、Ni、P、Si、CrおよびZrのうち1種以上を総量で0〜1.0質量%含有させることにより、強度を更に向上させることができる。これら元素の合計含有量が0、つまり、これら元素を含まなくても良い。これら元素の合計含有量の上限を1.0質量%としたのは、1.0質量%を超えると、加工性が劣化し、圧延の際に材料が割れやすくなるからである。強度及び加工性のバランスを考慮すると、上記元素の1種以上を総量で0.005〜0.5質量%含有させることが好ましい。
【0014】
(3)0.2%耐力
本発明に係るチタン銅箔においては、圧延方向に平行な方向及び直角な方向での0.2%耐力が共に1200MPa以上を達成することができる。圧延方向に平行な方向及び直角な方向での0.2%耐力が共に1200MPa以上というのは、オートフォーカスカメラモジュールの導電性ばね材として利用する上で望ましい特性である。本発明に係るチタン銅箔の圧延方向に平行な方向及び直角な方向での0.2%耐力は好ましい実施形態において共に1300MPa以上であり、更に好ましい実施形態において共に1400MPa以上である。また、本発明に係るチタン銅箔の好ましい実施形態においては、圧延方向に直角な方向での0.2%耐力を1500MPa以上とすることも可能であり、更に1600MPa以上とすることも可能である。
0.2%耐力の上限値は、本発明が目的とする強度の点からは特に規制されないが、手間及び費用がかかるため、本発明に係るチタン銅箔の圧延方向に平行な方向及び直角な方向での0.2%耐力は一般には共に2000MPa以下であり、典型的には共に1800MPa以下である。
本発明においては、チタン銅箔の圧延方向に平行な方向及び直角な方向での0.2%耐力は、JIS Z2241:2011(金属材料引張試験方法)に準拠して測定する。
【0015】
(4)ばね限界値
本発明に係るチタン銅箔においては、圧延方向に平行な方向及び直角な方向でのばね限界値が共に800MPa以上を達成することができる。圧延方向に平行な方向及び直角な方向でのばね限界値が共に800MPa以上であるというのは、耐へたり性が優れていることを指し、オートフォーカスカメラモジュールの導電性ばね材として望ましい特性である。本発明に係るチタン銅箔の好ましい実施形態においては、圧延方向に平行な方向及び直角な方向でのばね限界値が共に900MPa以上を達成することができ、更には共に1000MPa以上を達成することもできる。本発明に係るチタン銅箔のより好ましい実施形態においては、圧延方向に直角な方向でのばね限界値が1000MPa以上であり、更に好ましくは1200MPa以上であり、更に好ましくは1400MPa以上であり、更に好ましくは1600MPa以上であり、更により好ましくは1700MPa以上である。
ばね限界値の上限値は、本発明が目的とする強度の点からは特に規制されないが、手間及び費用がかかるため、本発明に係るチタン銅箔の圧延方向に平行な方向及び直角な方向でのばね限界値は一般には共に2000MPa以下であり、典型的には共に1900MPa以下である。
本発明においては、チタン銅箔の圧延方向に平行な方向及び直角な方向でのばね限界値は、JIS H3130:2012(合金番号C1990)に準拠して、繰り返し式たわみ試験を実施し、永久歪が残留する曲げモーメントから表面最大応力を測定する。
【0016】
(5)銅箔の厚み
本発明に係るチタン銅箔の一実施形態においては、箔厚が0.1mm以下であり、典型的な実施形態においては箔厚が0.08〜0.01mmであり、より典型的な実施形態においては箔厚が0.05〜0.02mmである。
【0017】
(6)製造方法
本発明に係るチタン銅箔は以下に説明する方法により製造可能である。本発明に係るチタン銅箔の製造プロセスでは、まず溶解炉で電気銅、Ti等の原料を溶解し、所望の組成の溶湯を得る。そして、この溶湯をインゴットに鋳造する。チタンの酸化磨耗を防止するため、溶解及び鋳造は真空中又は不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。その後、熱間圧延、冷間圧延1、溶体化処理、冷間圧延2、時効処理をこの順で実施し、所望の厚み及び特性を有する箔に仕上げる。
【0018】
熱間圧延及びその後の冷間圧延1の条件はチタン銅の製造で行われている慣例的な条件で行えば足り、特段要求される条件はない。また、溶体化処理についても慣例的な条件で構わないが、例えば700〜1000℃で5秒間〜30分間の条件で行うことができる。
【0019】
上述の強度を得るために、冷間圧延2の圧下率を95%以上に規定するのが好ましい。より好ましくは96%以上、更に好ましくは98%以上である。この圧下率が95%未満になると、1200MPa以上の0.2%耐力を得るのは困難になる。圧下率の上限は、本発明が目的とする耐へたり性の点からは特に規定されないが、工業的に99.8%を超えることはない。なお、1パス当たりの圧下率は15〜30%とするのが強度発現の観点から好ましい。
【0020】
時効処理は、200〜400℃の範囲内の所定の温度まで速度15℃/h以下、好ましくは12℃/h以下、より好ましくは10℃/h以下で昇温し、200〜400℃の温度範囲で1〜20時間保持する。なお、200〜400℃の範囲に材料温度を保持している最中は、温度を一定に保つことが望ましいが、実質的な影響を与えないことから、設定した保持温度から±20℃以内であれば温度変化が生じても問題はない。加熱保持後、150℃まで速度15℃/h以下、好ましくは12℃/h以下、より好ましくは10℃/h以下で冷却する。所定の温度での保持時間を1時間以上としたのは時効硬化による強度発現を確保するためである。また、所定の温度での保持時間を20時間以内としたのは過時効による強度低下を防止するためである。保持時間は好ましくは1〜18時間であり、より好ましくは2〜15時間である。
【0021】
昇温又は冷却速度が15℃/hを超えると、圧延方向に平行な方向及び直角な方向において共に1200MPa以上の0.2%耐力を達成することと、圧延方向に平行な方向及び直角な方向において共に800MPa以上のばね限界値を達成することの両立が困難になる。さらに、保持温度が200℃未満であるか又は400℃を超えると、同様に、1200MPa以上の0.2%耐力と800MPa以上のばね限界値の両立が困難になる。保持時間が1時間未満又は20時間を超えると、これも同様に、1200MPa以上の0.2%耐力と800MPa以上のばね限界値の両立が困難になる。
【0022】
昇温及び冷却速度の下限は、本発明が目的とするばね限界値の点からは特に規定されないが、5℃/h未満になると製造コストが上がり工業的に好ましくない。一般的な工業における時効の昇温及び冷却速度は20℃/h以上であることからみて、上述した昇温及び冷却速度はかなり低いといえる。
【0023】
なお、昇温時の速度は昇温開始温度から200〜400℃の範囲内の設定温度に到達するまでの時間から算出し、冷却時の速度は冷却開始温度から150℃に到達するまでの時間から算出する。
【0024】
さらに、時効処理後に冷間圧延を行うと800MPa以上のばね限界値を得ることが困難になり、その後、歪取り焼鈍を行っても800MPa以上のばね限界値を得ることが困難になる。従って、本発明に係るチタン銅箔を製造する上では時効処理後に冷間圧延及び歪取り焼鈍の何れも行わないことが好ましい。
【0025】
(7)用途
本発明に係るチタン銅箔は、限定的ではないが、スイッチ、コネクタ、ジャック、端子、リレー等の電子機器用部品の材料として好適に使用することができ、とりわけオートフォーカスカメラモジュール等の電子機器部品に使用される導電性ばね材として好適に使用することができる。
【0026】
オートフォーカスカメラモジュールは一実施形態において、レンズと、このレンズを光軸方向の初期位置に弾性付勢するばね部材と、このばね部材の付勢力に抗する電磁力を生起して前記レンズを光軸方向へ駆動可能な電磁駆動手段を備える。電磁駆動手段は例示的には、コの字形円筒形状のヨークと、ヨークの内部壁の内側に収容されるコイルと、コイルを囲繞すると共にヨークの外周壁の内側に収容されるマグネットを備えることができる。
【0027】
図1は、本発明に係るオートフォーカスカメラモジュールの一例を示す断面図であり、図2は、図1のオートフォーカスカメラモジュールの分解斜視図であり、図3は、図1のオートフォーカスカメラモジュールの動作を示す断面図である。
【0028】
オートフォーカスカメラモジュール1は、コの字形円筒形状のヨーク2と、ヨーク2の外壁に取付けられるマグネット4と、中央位置にレンズ3を備えるキャリア5と、キャリア5に装着されるコイル6と、ヨーク2が装着されるベース7と、ベース7を支えるフレーム8と、キャリア5を上下で支持する2個のばね部材9a、9bと、これらの上下を覆う2個のキャップ10a、10bとを備えている。2個のばね部材9a、9bは同一品であり、同一の位置関係でキャリア5を上下から挟んで支持すると共に、コイル6への給電経路として機能している。コイル6に電流を印加することによってキャリア5は上方に移動する。尚、本明細書においては、上及び下の文言を適宜、使用するが、図1における上下を指し、上はカメラから被写体に向う位置関係を表わす。
【0029】
ヨーク2は軟鉄等の磁性体であり、上面部が閉じたコの字形の円筒形状を成し、円筒状の内壁2aと外壁2bを持つ。コの字形の外壁2bの内面には、リング状のマグネット4が装着(接着)される。
【0030】
キャリア5は底面部を持った円筒形状構造の合成樹脂等による成形品であり、中央位置でレンズを支持し、底面外側上に予め成形されたコイル6が接着されて搭載される。矩形上樹脂成形品のベース7の内周部にヨーク2を嵌合させて組込み、更に樹脂成形品のフレーム8でヨーク2全体を固定する。
【0031】
ばね部材9a、9bは、いずれも最外周部がそれぞれフレーム8とベース7に挟まれて固定され、内周部120°毎の切欠き溝部がキャリア5に嵌合し、熱カシメ等にて固定される。
【0032】
ばね部材9bとベース7及びばね部材9aとフレーム8間は接着および熱カシメ等にて固定され更に、キャップ10bはベース7の底面に取付け、キャップ10aはフレーム8の上部に取付けられ、それぞればね部材9bをベース7とキャップ10b間に、ばね部材9aをフレーム8とキャップ10a間に挟み込み固着している。
【0033】
コイル6の一方のリード線は、キャリア5の内周面に設けた溝内を通って上に伸ばし、ばね部材9aに半田付する。他方のリード線はキャリア5底面に設けた溝内を通って下方に伸ばし、ばね部材9bに半田付する。
【0034】
ばね部材9a、9bは、本発明に係るチタン銅箔の板バネである。バネ性を持ち、レンズ3を光軸方向の初期位置に弾性付勢する。同時に、コイル6への給電経路としても作用する。ばね部材9a、9bの外周部の一箇所は外側に突出させて、給電端子として機能させている。
【0035】
円筒状のマグネット4はラジアル(径)方向に磁化されており、コの字形状ヨーク2の内壁2a、上面部及び外壁2bを経路とした磁路を形成し、マグネット4と内壁2a間のギャップには、コイル6が配置される。
【0036】
ばね部材9a、9bは同一形状であり、図1及び2に示すように同一の位置関係で取付けているので、キャリア5が上方へ移動したときの軸ズレを抑制することができる。コイル6は、巻線後に加圧成形して製作するので、仕上がり外径の精度が向上し、所定の狭いギャップに容易に配置することができる。キャリア5は、最下位置でベース7に突当り、最上位置でヨーク2に突当るので、上下方向に突当て機構を備えることとなり、脱落することを防いでいる。
【0037】
図3は、コイル6に電流を印加して、オートフォーカス用にレンズ3を備えたキャリア5を上方に移動させた時の断面図を示している。ばね部材9a、9bの給電端子に電圧が印加されると、コイル6に電流が流れてキャリア5には上方への電磁力が働く。一方、キャリア5には、連結された2個のばね部材9a、9bの復元力が下方に働く。従って、キャリア5の上方への移動距離は電磁力と復元力が釣合った位置となる。これによって、コイル6に印加する電流量によって、キャリア5の移動量を決定することができる。
【0038】
上側ばね部材9aはキャリア5の上面を支持し、下側ばね部材9bはキャリア5の下面を支持しているので、復元力はキャリア5の上面及び下面で均等に下方に働くこととなり、レンズ3の軸ズレを小さく抑えることができる。
【0039】
従って、キャリア5の上方への移動に当って、リブ等によるガイドは必要なく、使っていない。ガイドによる摺動摩擦がないので、キャリア5の移動量は、純粋に電磁力と復元力の釣合いで支配されることとなり、円滑で精度良いレンズ3の移動を実現している。これによってレンズブレの少ないオートフォーカスを達成している。
【0040】
なお、マグネット4は円筒形状として説明したが、これに拘わるものでなく、3乃至4分割してラジアル方向に磁化し、これをヨーク2の外壁2bの内面に貼付けて固着しても良い。
【実施例】
【0041】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0042】
表1に示す合金成分を含有し残部が銅及び不可避的不純物からなる合金を実験材料とし、合金成分及び製造条件が0.2%耐力、ばね限界値及びへたりに及ぼす影響を調査した。
【0043】
真空溶解炉にて電気銅2.5kgを溶解し、表1に記載の合金組成が得られるよう合金元素を添加した。この溶湯を鋳鉄製の鋳型に鋳込み、厚さ30mm、幅60mm、長さ120mmのインゴットを製造した。このインゴットを、次の工程順で加工し、表1に記載の所定の箔厚をもつ製品試料を作製した。
(1)熱間圧延:インゴットを950℃で3時間加熱し、厚さ10mmまで圧延した。
(2)研削:熱間圧延で生成した酸化スケールをグラインダーで除去した。研削後の厚みは9mmであった。
(3)冷間圧延1:圧下率に応じて所定の厚みまで圧延した。
(4)溶体化処理:800℃に昇温した電気炉に試料を装入し、5分間保持した後、試料を水槽に入れて急冷却した。
(5)冷間圧延2:表1に示す箔厚まで圧延した。ただし、圧延を実施しなかったものについては「なし」と記載し、冷間圧延3を実施したものについては圧下率に応じて所定の厚みまで圧延した。ここでは、1パス当たりの圧下率は15〜30%の範囲で行った。
(6)時効処理:表1に示す条件でAr雰囲気中で加熱した。
(7)冷間圧延3:表1に示す箔厚まで圧延した。冷間圧延3を実施しなかったものについては「なし」と記載した。
(8)歪取り焼鈍:冷間圧延3を行った後、400℃に昇温した電気炉に試料を装入し、10秒間保持した後、試料を水槽に入れて急冷却した。表1には、この歪取り焼鈍を実施したものについては「あり」、実施しなかったものについては「なし」と記載した。
【0044】
作製した製品試料について、次の評価を行った。
(イ)0.2%耐力
引張試験機を用いて上述した測定方法に従い圧延方向と平行な方向及び直角な方向の0.2%耐力を測定した。
(ロ)ばね限界値
高力板ばね試験機を用いて上述した測定方法に従い圧延方向と平行な方向及び直角な方向のばね限界値を測定した。
(ハ)へたり
幅12.5mm、長さ15mmの短冊試料を長手方向が圧延平行方向となるように採取し、図4のように、試料の片端を固定し、この固定端から距離Lの位置に、先端をナイフエッジに加工したポンチを1mm/分の移動速度で押し当て、試料に距離dのたわみを与えた後、ポンチを初期の位置に戻し除荷した。除荷後、へたり量δを求めた。
試験条件は試料の箔厚が0.05mm以下の場合、L=3mm、d=3mmであり、箔厚が0.05mmより厚い場合、L=5mm、d=5mmである。また、へたり量は0.01mmの分解能で測定し、へたりが検出されなかった場合は<0.01mmと表記している。なお、dの値は特許文献3よりも大きくし、銅箔がへたり易い条件とした。
【0045】
試験結果を表2に示す。本発明の規定範囲内である発明例1〜29は、圧延方向に対して、平行方向及び直角方向のいずれもが1200MPa以上の0.2%耐力、800MPa以上のばね限界値が得られ、それらのへたり量は0.1mm以下と小さく良好な特性が得られた。
【0046】
冷間圧延2の圧下率が95%未満である比較例1は、0.2%耐力が1200MPa未満、ばね限界値が800MPa未満となり、へたり量は0.1mmを越えた。
【0047】
時効処理の昇温速度が15℃/hを超えた比較例2及び3は圧延方向に対して平行方向のばね限界値が800MPa未満となり、へたり量は0.1mmを越えた。
【0048】
時効処理の温度が200〜400℃の範囲外である比較例4及び5、時効処理の時間が1〜20時間の範囲外である比較例6及び7は、0.2%耐力が1200MPa未満または/及びばね限界値が800MPa未満となり、へたり量は0.1mmを越えた。
【0049】
時効処理の冷却速度が15℃/hを超えた比較例8及び9は圧延方向に対して平行方向のばね限界値が800MPa未満となり、へたり量は0.1mmを越えた。
【0050】
Ti濃度が2.0質量%未満である比較例10は、0.2%耐力が1200MPa未満となり、へたり量は0.1mmを越えた。一方、Ti濃度が4.0質量%を越えた比較例11、Ti以外の添加元素の総量が1.0質量%を越えた比較例12は圧延中に割れが発生し評価できなかった。
【0051】
また、比較例13は時効処理後に冷間圧延を実施した例であり、比較例14は時効処理後に冷間圧延、歪取り焼鈍を順次実施した例である。いずれも0.2%耐力が1200MPa未満または/及びばね限界値が800MPa未満となり、へたり量は0.1mmを越えた。
【0052】
比較例15は冷間圧延2を実施せず、時効処理後に冷間圧延を実施した例である。0.2%耐力が1200MPa未満及びばね限界値が800MPa未満となり、へたり量は0.1mmを越えた。
【0053】
比較例16は時効処理の昇温及び冷却速度の両方が15℃/hを超えた例である。圧延方向に対して平行方向のばね限界値が800MPa未満となり、へたり量は0.1mmを越えた。
【0054】
比較例17は冷間圧延2の圧下率が95%未満、時効処理の昇温及び冷却速度の両方が15℃/hを超え、時効処理後に冷間圧延、歪取り焼鈍を順次実施した例である。0.2%耐力が1200MPa未満、圧延方向に対して直角方向のばね限界値が800MPa未満となり、へたり量は0.1mmを越えた。
【0055】
比較例18及び19は時効処理の昇温及び冷却速度の両方が15℃/hを超え、時効処理後に冷間圧延を実施した例である。ばね限界値が800MPa未満となり、へたり量は0.1mmを越えた。
【0056】
【表1-1】
【0057】
【表1-2】
【0058】
【表2-1】
【0059】
【表2-2】
【符号の説明】
【0060】
1 オートフォーカスカメラモジュール
2 ヨーク
3 レンズ
4 マグネット
5 キャリア
6 コイル
7 ベース
8 フレーム
9a 上側のばね部材
9b 下側のばね部材
10a、10b キャップ
図1
図2
図3
図4