(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6082339
(24)【登録日】2017年1月27日
(45)【発行日】2017年2月15日
(54)【発明の名称】エッチング反応ガスの除害方法およびスクラバ装置
(51)【国際特許分類】
B01D 53/56 20060101AFI20170206BHJP
B01D 53/18 20060101ALI20170206BHJP
B01D 53/68 20060101ALI20170206BHJP
H01L 21/306 20060101ALI20170206BHJP
【FI】
B01D53/56 200
B01D53/18 150
B01D53/68 220
H01L21/306 JZAB
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-240874(P2013-240874)
(22)【出願日】2013年11月21日
(65)【公開番号】特開2015-100723(P2015-100723A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2015年12月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100106840
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100117444
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 健一
(72)【発明者】
【氏名】宮尾 秀一
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 和則
【審査官】
神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭49−004672(JP,A)
【文献】
特開2013−138097(JP,A)
【文献】
特開昭51−030166(JP,A)
【文献】
特開昭52−136877(JP,A)
【文献】
特開平04−131121(JP,A)
【文献】
米国特許第05034028(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 9/02
B01D 53/14−53/18
B01D 53/34−53/85
C02F 1/60
H01L 21/306
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン材料をフッ酸と硝酸を含む酸混合液でエッチングした際に発生する反応ガス中に含まれる有害な成分を除去する方法であって、
前記反応ガスを吸収剤としてのアルカリ水溶液に導き、該アルカリ水溶液を循環槽内でNaNO3、NaNO2、NaF、Na2SiO3といった硝酸塩、亜硝酸塩、フッ化物塩、ケイ酸塩の何れかが過飽和となるまで循環させ、前記循環槽に導かれた前記反応ガスに前記過飽和アルカリ水溶液を噴霧して前記有害成分を含む結晶化物を前記過飽和アルカリ水溶液中に生成させ、該結晶化物を分離して前記反応ガス中に含まれる有害成分を除去する、エッチング反応ガスの除害方法。
【請求項2】
シリコン材料をフッ酸と硝酸を含む酸混合液でエッチングした際に発生する反応ガス中に含まれる有害な成分を除去する方法であって、
前記反応ガスを吸収剤としてのアルカリ水溶液に導き、該アルカリ水溶液を循環槽内でNaNO3、NaNO2、NaF、Na2SiO3といった硝酸塩、亜硝酸塩、フッ化物塩、ケイ酸塩の何れかが過飽和となるまで循環させ、該過飽和アルカリ水溶液が循環する循環槽への前記反応ガス導入部の近傍に前記有害成分を含む結晶化物を生成させ、該結晶化物を分離して前記反応ガス中に含まれる有害成分を除去する、エッチング反応ガスの除害方法。
【請求項3】
前記反応ガスは、NOxガス、SiF4ガス、HNO3ガス、およびHFガスの何れかを含み、前記結晶化物は、硝酸塩、亜硝酸塩、フッ化物塩、ケイ酸塩の何れかを含む、請求項1または2に記載のエッチング反応ガスの除害方法。
【請求項4】
前記過飽和アルカリ水溶液は、pH値が9以上のNaOH水溶液またはKOH水溶液である、請求項1〜3の何れか1項に記載のエッチング反応ガスの除害方法。
【請求項5】
シリコン材料をフッ酸と硝酸を含む酸混合液でエッチングした際に発生する反応ガス中に含まれる有害な成分を除去するために用いられるスクラバ装置であって、
前記反応ガスを吸収剤としてのアルカリ水溶液に導く反応ガス導入部と、
該アルカリ水溶液を循環槽内でNaNO3、NaNO2、NaF、Na2SiO3といった硝酸塩、亜硝酸塩、フッ化物塩、ケイ酸塩の何れかが過飽和となるまで循環させる循環経路と、
前記循環槽に導かれた前記反応ガスに前記過飽和アルカリ水溶液を噴霧する噴霧部と、
前記過飽和アルカリ水溶液の噴霧により該過飽和アルカリ水溶液中に生成した前記有害成分を含む結晶化物を沈降させる沈降槽を備え、
該沈降槽は、前記結晶化物を下部で捕集するために円錐状とされている、スクラバ装置。
【請求項6】
シリコン材料をフッ酸と硝酸を含む酸混合液でエッチングした際に発生する反応ガス中に含まれる有害な成分を除去するために用いられるスクラバ装置であって、
前記反応ガスを吸収剤としてのアルカリ水溶液に導く少なくとも2系列の反応ガス導入部と、
該アルカリ水溶液を循環槽内でNaNO3、NaNO2、NaF、Na2SiO3といった硝酸塩、亜硝酸塩、フッ化物塩、ケイ酸塩の何れかが過飽和となるまで循環させる循環経路とを備え、
前記少なくとも2系列の反応ガス導入部の近傍には、それぞれ、該反応ガス導入部の近傍に生成した前記有害成分を含む結晶化物を取り出すための、内部が観察可能なフランジが設けられている、スクラバ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン材料をフッ酸と硝酸を含む酸混合液(フッ硝酸液)でエッチングした際に発生する反応ガス中に含まれる有害な成分を除去する方法、および、これに用いられるスクラバ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウエハや多結晶シリコン塊等のシリコン材料を洗浄するためにエッチングする際には、一般に、エッチャントとして、フッ酸(HF)と硝酸(HNO
3)を含む酸混合液が用いられる。この混合液中のフッ酸と硝酸の濃度や混合比は、エッチング対象となるシリコン材料に付着している汚染物の濃度や除去難度等に応じて選定される。
【0003】
このような酸混合液をエッチャントとして用いるエッチング工程では、反応により生成したガスや、エッチャントから気化したフッ酸ガスや硝酸ガスが発生するが、これらのガスは毒性が極めて高く、労働安全衛生法、大気汚染防止法、水質汚濁防止法にて管理すべき濃度が規制されている。このため、エッチング槽の近傍に局所排気用のフードを取り付けて排ガスを吸引し、作業者の健康が損なわれない様に制御風速が一定量以上に管理される。また、公害防止の観点から、排ガスをスクラバ等のガス吸収装置に導いて、有毒な成分を中和するなどの無害化が施される。
【0004】
ところで、シリコン材料をフッ酸と硝酸を含む酸混合液でエッチングすると、下記のような化学反応が進行する(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
反応式1:Si+2HNO
3→SiO
2+2NO
2↑+H
2↑
反応式2:Si+2HNO
3→SiO
2+NO↑+NO
2↑+H
2O
【0006】
反応式3:SiO
2+4HF→SiF
4↑+2H
2O
反応式4:SiO
2+6HF→H
2SiF
6
【0007】
反応式5:H
2SiF
6→SiF
4↑+2HF
反応式6:H
2SiF
6+H
2O→H
2SiO
3+6HF
【0008】
従って、シリコン材料をフッ酸と硝酸を含む酸混合液でエッチングする工程では発生する排ガス中には、主として、シリコン材料がエッチングされることにより発生するNOガス、NO
2ガス、H
2ガス、およびSiF
4ガスに加え、エッチャントの未反応成分として蒸発して排ガスに含まれることとなるHNO
3ガスおよびHFガス、さらに、エッチング環境の雰囲気である空気成分としてのN
2ガス、O
2ガス、および微量のCO
2ガス等が含まれている。
【0009】
このような排ガスは無害化処理されるが、その際、一般に、スクラバ(気体洗浄機)を用いて有害成分を薬液に吸収させて分解乃至中和する処理が行われる。
【0010】
上述した排ガス成分のうち、HFガス、HNO
3ガス、NO
2ガスの吸収にはアルカリ水(通常は苛性ソーダ)をスプレーする方法等が用いられ、NOガスの吸収には次亜塩素酸ソーダ水によって接触酸化させて苛性ソーダに吸収させる方法等が用いられている(例えば、特許文献1〜3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2013−138097号公報
【特許文献2】特開平6−99030号公報
【特許文献3】特開平10−314545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の排ガス無害化システムは、薬液のコストが膨大である上に、下記のような問題点を抱えていた。
【0013】
排ガス中に含まれるSiF
4は、水と反応するとコロイド状(膠状)のケイ酸SiO
2を生成する。この生成物は、苛性ソーダと反応して、一部は水溶性のケイ酸ナトリウムとなるが、薬液が中性に近づいた場合や薬液中の溶解量が増加した場合には、薬液中で凝結を起こして、再度、ヒドロゲルを形成する。そして、このゲルは、薬液中に電解質が存在すると全体が寒天様に固まることがある。このような状態となると、配管の閉塞を起こしたり、循環槽内での薬液の混合攪拌を妨げるなど、スクラバの装置トラブルの原因となる。このため、システムの運転を停止して、排ガス処理槽に溜まったゲルを除去する作業を頻繁に行う必要がある。
【0014】
また、フッ酸については、1999年の水質汚濁に係わる環境基準の改正により環境基準値は0.8mg/l以下と定められ、2001年の水質汚濁防止法も改正により排水基準は8mg/l以下と定められている。このため、スクラバ処理によりフッ酸を水若しくはアルカリに吸収させ、排出させた場合の排出濃度は上記の基準をクリアしなければならないが、そのためには、Ca系等の化学処理設備をスクラバ装置の後段に設ける必要があり、コストアップが避けられない。因みに、Caの化学処理設備を使用しても原理上、CaFの溶解度から計算される、水中へ溶解するF濃度は、9ppm程度となり排水基準を満足することはできない。
【0015】
本発明は上述したような従来技術が抱える問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、シリコン材料をフッ硝酸液でエッチングした際に発生する反応ガス中に含まれる有害な成分を、システムの運転を停止することなく且つCa系等の化学処理設備も付加することなく、除去する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明に係る第1の態様のエッチング反応ガスの除害方法は、シリコン材料をフッ酸と硝酸を含む酸混合液でエッチングした際に発生する反応ガス中に含まれる有害な成分を除去する方法であって、前記反応ガスを吸収剤としてのアルカリ水溶液に導き、該アルカリ水溶液を循環槽内で過飽和となるまで循環させ、前記循環槽に導かれた前記反応ガスに前記過飽和アルカリ水溶液を噴霧して前記有害成分を含む結晶化物を前記過飽和アルカリ水溶液中に生成させ、該結晶化物を分離して前記反応ガス中に含まれる有害成分を除去する、エッチング反応ガスの除害方法である。
【0017】
本発明に係る第2の態様のエッチング反応ガスの除害方法は、シリコン材料をフッ酸と硝酸を含む酸混合液でエッチングした際に発生する反応ガス中に含まれる有害な成分を除去する方法であって、前記反応ガスを吸収剤としてのアルカリ水溶液に導き、該アルカリ水溶液を循環槽内で過飽和となるまで循環させ、該過飽和アルカリ水溶液が循環する循環槽への前記反応ガス導入部の近傍に前記有害成分を含む結晶化物を生成させ、該結晶化物を分離、前記反応ガス中に含まれる有害成分を除去する、エッチング反応ガスの除害方法である。
【0018】
例えば、前記反応ガスは、NO
xガス、SiF
4ガス、HNO
3ガス、およびHFガスの何れかを含み、前記結晶化物は、硝酸塩、亜硝酸塩、フッ化物塩、ケイ酸塩の何れかを含む。
【0019】
好ましくは、前記過飽和アルカリ水溶液は、pH値が9以上のNaOH水溶液またはKOH水溶液である。
【0020】
本発明に係る第1の態様のスクラバ装置は、シリコン材料をフッ酸と硝酸を含む酸混合液でエッチングした際に発生する反応ガス中に含まれる有害な成分を除去するために用いられるスクラバ装置であって、前記反応ガスを吸収剤としてのアルカリ水溶液に導く反応ガス導入部と、該アルカリ水溶液を循環槽内で過飽和となるまで循環させる循環経路と、前記循環槽に導かれた前記反応ガスに前記過飽和アルカリ水溶液を噴霧する噴霧部と、前記過飽和アルカリ水溶液の噴霧により該過飽和アルカリ水溶液中に生成した前記有害成分を含む結晶化物を沈降させる沈降槽を備え、該沈降槽は、前記結晶化物を下部で捕集するために円錐状とされている、スクラバ装置である。
【0021】
本発明に係る第2の態様のスクラバ装置は、シリコン材料をフッ酸と硝酸を含む酸混合液でエッチングした際に発生する反応ガス中に含まれる有害な成分を除去するために用いられるスクラバ装置であって、前記反応ガスを吸収剤としてのアルカリ水溶液に導く少なくとも2系列の反応ガス導入部と、該アルカリ水溶液を循環槽内で過飽和となるまで循環させる循環経路とを備え、前記少なくとも2系列の反応ガス導入部の近傍には、それぞれ、該反応ガス導入部の近傍に生成した前記有害成分を含む結晶化物を取り出すための、内部が観察可能なフランジが設けられている、スクラバ装置である。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、シリコン材料をフッ酸と硝酸を含む酸混合液でエッチングした際に発生する反応ガス中に含まれる有害な成分を除去するにあたり、反応ガスを吸収剤としてのアルカリ水溶液に導き、該アルカリ水溶液を循環槽内で過飽和となるまで循環させ、該過飽和アルカリ水溶液中に有害成分を含む結晶化物を生成させ、若しくは、反応ガスを吸収剤としてのアルカリ水溶液に導く反応ガス導入部との近傍に有害成分を含む結晶化物を生成せしめ、該結晶化物を分離して反応ガス中に含まれる有害成分を除去する。
【0023】
これにより、シリコン材料をフッ硝酸液でエッチングした際に発生する反応ガス中に含まれる有害な成分を、システムの運転を停止することなく且つCa系等の化学処理設備も付加することなく除去する技術、つまり、除害のための薬液を可能な限り使用せず、効率的かつ低コストで、有害な成分を除去する技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1A】スクラバへの排ガス導入口の近傍に白色結晶化物が生成する様子を概念的に示した図である。
【
図1B】排ガス導入口の断面積の概ね半分が白色結晶化物によって閉塞している状態を概念的に示した図である。
【
図2】シリコン材料をエッチングした際に生じる排ガスに含まれている有害成分を除去するために、本発明で採用されるシステム例のブロック図である。
【
図3】排ガス導入口の近傍に透明な材料で作製したフランジを設けた態様を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、図面を参照して、本発明を実施するための形態について説明するが、予め、本発明者らが本発明を成すに至った経緯について説明しておく。
【0026】
[本発明に至る経緯]
本発明者らは、フッ素に関する排出基準をクリアするための技術検討を目的として、先ず、排ガスとしてのHFおよびSiF
4ガスを、スクラバで濃縮する方法を検討した。スクラバに、NaOH水溶液(pH=9)を循環させてHFおよびSiF
4ガスを吸収させたところ、NO
3濃度として4wt%、F濃度として1.4wt%まで、濃縮可能であることが確認された。
【0027】
なお、上記の濃度にまで濃縮された後にガス吸収のための循環を行っても、水溶液中のNO
3濃度とF濃度の増大は認められず、飽和に至っていることが確認された。このような濃縮液を産業廃棄物として処理すれば、水質環境への排出ゼロを達成することができる。
【0028】
つまり、シリコン材料をフッ酸と硝酸を含む酸混合液でエッチングした際に発生する反応ガス中に含まれる有害な成分を除去するにあたり、反応ガスを吸収剤としてのアルカリ水溶液に導き、該アルカリ水溶液を循環槽内で過飽和となるまで循環させ、該過飽和アルカリ水溶液中に有害成分を含む結晶化物を生成させ、該結晶化物を分離して反応ガス中に含まれる有害成分を除去することができる。なお、過飽和アルカリ水溶液中に有害成分を含む結晶化物を生成させる際には、循環槽に導かれた反応ガスに過飽和アルカリ水溶液を噴霧して有害成分を含む結晶化物を生成させるようにしてもよい。
【0029】
このような濃縮工程において、NaOH水溶液を循環させた槽の底部に、少量ではあるが、白色の沈降性の結晶化物が生成することが確認された。
【0030】
生成した結晶化物は、定性分析の結果、NaNO
3、NaF、および、Na
2SiO
2の混合物であり、過飽和に至ったNaOH水溶液中で結晶化したものと考えられる。また、この白色結晶化物は微細な結晶の集合であり、沈降性に優れて、付着性も認められないため、取り扱いが容易で濾過性にも優れていた。
【0031】
ところで、NaOH水溶液は、NO
3濃度が4wt%、F濃度が1.4wt%で飽和するが、過飽和状態に至ったNaOH水溶液を更に循環させてガス吸収を継続させてゆくと、スクラバへの排ガス導入口の近傍に上述の白色結晶化物が生成し、排ガス導入口の断面積の概ね半分を閉塞させる事態が発生した。
【0032】
図1Aは、スクラバ4への排ガス導入口13の近傍に上述の白色結晶化物20が生成する様子を概念的に示した図で、
図1Bに概念的に示したように、排ガス導入口13の断面積の概ね半分は、白色結晶化物20によって閉塞している。
【0033】
このような白色結晶化物20の生成は、スクラバ4への排ガス導入流量を低下させるという観点からは望ましくない。しかし、排ガスの除害という観点に立てば、上記排ガス導入口13の近傍に白色結晶化物20を生成せしめ、これを除去することで排ガスの除害化が容易に成し得るということでもあるから、低コストな除害方法としての可能性を秘めていると本発明者らは考えた。
【0034】
上記白色結晶化物20の生成は、過飽和状態にあるアルカリ水溶液からの析出によるものと理解されるが、白色結晶化物20の生成箇所が、過飽和アルカリ水溶液が循環しているスクラバ4内ではない点が重要である。
【0035】
白色結晶化物20が、排ガス導入口13の近傍から生成を開始し、スクラバ4側へと成長し、やがてはスクラバ4内においても生成し始めるとすると、その白色結晶化物20はアルカリ水溶液を循環させているポンプを閉塞させてしまう結果を招いてしまう。従って、過飽和アルカリ水溶液中に有害成分を含む結晶化物を生成させるエッチング反応ガスの除害方法を採用する際には、上記白色結晶化物20がある程度の沈降量となったタイミングで、沈降槽に設けたドレインから外部に排出する必要がある。
【0036】
しかし、本発明者らが見出した上記白色結晶化物20の生成は、排ガス導入口13の近傍から生成を開始し、スクラバ4とは反対の方向へと成長するものであり、アルカリ水溶液が循環しない領域に生成するため、ポンプの閉塞を生じさせることがないことに加え、白色結晶化物20の除去も容易であるという利点もある。
【0037】
つまり、シリコン材料をフッ酸と硝酸を含む酸混合液でエッチングした際に発生する反応ガス中に含まれる有害な成分を除去するにあたり、反応ガスを吸収剤としてのアルカリ水溶液に導き、該アルカリ水溶液を循環槽内で過飽和となるまで循環させ、該過飽和アルカリ水溶液が循環する循環槽への反応ガス導入部の近傍に有害成分を含む結晶化物を生成させ、該結晶化物を分離して反応ガス中に含まれる有害成分を除去することができる。
【0038】
以下に、本発明で採用されるエッチング反応ガスの除害システムの概要について説明する。
【0039】
[本発明で採用されるエッチング反応ガスの除害システム]
図2は、シリコン材料をエッチングした際に生じる排ガスに含まれている有害成分を除去するために、本発明で採用されるシステム例のブロック図である。
【0040】
図2中に符号1で示したものは、多結晶シリコン塊等のシリコン材料(S)のエッチングに用いられる薬液槽(シリコンエッチング槽)であり、このシリコンエッチング槽1にはフッ酸と硝酸を含む酸混合液が充填されており、この酸混合液中でシリコン材料(S)のエッチングが行われる。
【0041】
このエッチングの工程では、反応ガスとしてのNO
2等のNO
XおよびSiF
4、未反応ガスとしてのHNO
3およびHFが発生する。このようなガスは、労働安全衛生法に規定されている基準に基づいた線速度以上の流速にて、局所排気用のフード2a、2bにより吸引される。
【0042】
フード2a、2bで吸引されたガスは、排気ダクト3を通じて、スクラバ4へと送られる。このスクラバ4は、充填塔型のガス吸収装置であり、上段が充填剤を収容させておく充填剤槽9となっており、下段が後述する吸収剤(過飽和アルカリ吸収液)を溜めておくための吸収剤槽7となっている。
【0043】
吸収剤槽7と充填剤槽9の間には、吸収剤(過飽和アルカリ吸収液)を循環させるための、送液ポンプ8を備えた送液ライン10が設けられており、吸収剤である(過飽和)アルカリ水溶液は、噴霧部であるスプレイライン14により、下方にある充填剤槽9へと噴霧される。
【0044】
なお、吸収剤槽7の上部7aは充填剤槽9を通過した吸収剤が液滴として落ちてくる領域であり、その側壁に排ガス導入口13が設けられている。また、吸収剤槽7の下部は、これら液滴をアルカリ水溶液として溜めておく領域である。
【0045】
吸収剤槽7の下部には、過飽和アルカリ水溶液中で生成した結晶物を沈降させるための円錐状の沈降槽11が設けられており、その下部には、過飽和アルカリ吸収液の液抜き、および、槽内で沈降した結晶物を取り除くための、ドレイン5が設けられている。
【0046】
また、スクラバ4の上部はミストエルミネータ12となっており、排風機6により、クリーンガスが外部へと排出される。
【0047】
スクラバ4に送られた排ガスは、吸収剤槽7の内部に収容されているアルカリ水溶液により吸収される。シリコンエッチング槽1から発生する排ガスには、大気成分を除くと、NO
2等のNO
x、H
2、SiF
4、HNO
3、HFが含まれる。これらの成分うち、NO
2等のNO
xおよびHNO
3はアルカリ水溶液に吸収されてNaNO
3、NaNO
2、NaF、Na
2SiO
3といった硝酸塩、亜硝酸塩、フッ化物塩、ケイ酸塩の何れかを含む結晶化物を生成する。
【0048】
アルカリ水溶液への排ガスの吸収の進行に伴って上述の溶質成分の液中濃度が上昇すると、やがては飽和濃度に達し、吸収剤槽7の水溶液中に白色結晶が析出し始め、アルカリ水溶液は過飽和状態に至り過飽和アルカリ吸収液となる。
【0049】
このような過飽和アルカリ吸収液中に析出した白色結晶を、連続運転中のスクラバ4から回収して除去するために、沈降槽11の形状を、
図1に示したような円錐形状とし、上記白色結晶の沈降物を当該沈降槽11の下部に捕集して、ドレイン5から外部に排出させる構造としている。
【0050】
過飽和アルカリ水溶液は、pH値が9以上のNaOH水溶液またはKOH水溶液であることが好ましい。排ガス成分をアルカリ水溶液により吸収させると、排ガスに含まれる酸性成分によりアルカリ水溶液のpHが低下する傾向を示すようになる。
【0051】
本発明者らの検討によれば、pHが9より低くなると、上述した白色結晶化物20の排ガス導入口13の近傍での生成速度が顕著に低下し、場合によっては、全く生成しなくなる。このため、過飽和アルカリ水溶液のpH制御は重要なファクタである。
【0052】
従って、過飽和アルカリ水溶液のpH値を9以上とすることが好ましく、例えば、pH=9〜9.5を維持するようにアルカリを添加することが好ましい。例えば、このアルカリの添加は、25%−NaOHや25%−KOHにより行う。
【0053】
スクラバ4の吸収方式等に特別な制限等はないが、過飽和アルカリ水溶液がスクラバ4の上方より散布(噴霧)され、排ガスがスクラバ4の下方より導入されるタイプ(向流式)のスクラバは、排ガス成分の過飽和アルカリ水溶液への吸収効率が高く好ましい。また、吸収剤槽7や、送液ポンプ8および送液ライン10などの過飽和アルカリ水溶液が触れる部分は、その接触面(内面)が耐酸性、耐アルカリ性樹脂であることが好ましい。
【0054】
充填剤槽9に充填される充填剤は吸収効率を向上させるためのものであり、このような充填剤としては、例えば、テラレット(月島環境エンジニアリング社)、トリパックス(協和エンジニアリング社)、ネットリング(大日本プラスチック社)、トリカルパッキン(タキロン社)等の耐酸性プラスチックを例示することができる。
【0055】
除害システムを実際に運転する際には、先ず、アルカリ水溶液を循環させて排ガス成分を吸収させてアルカリ水溶液中の各成分のNa塩濃度を徐々に高めてゆく。
【0056】
アルカリ水溶液が過飽和の状態に達すると、上述したように、排ガス導入口13の近傍に白色結晶化物20の生成が始まるが、この段階では、特別な操作等は不要である。
【0057】
白色結晶化物20の生成の程度は、スクラバ4に設置してあるマノメータ(不図示)により把握することが可能であるが、確実に観察や点検をするためには、例えば
図3に示したように、排ガス導入口13の近傍に、透明PVCやアクリル等の透明な材料で作製したフランジ15a、15bを設け、そのフランジから内部を観察することが好ましい。
【0058】
排ガス導入口13の近傍に白色結晶化物20の生成が始まった後もシステムを連続的に運転すると、白色結晶化物20の生成も継続し、それに伴い、排ガス導入口13の閉塞が進行するため、排ガス導入口13の前後での圧力損失が高くなり、全体の排風量が低下する。
【0059】
スクラバ4へのエッチング反応ガスの導入経路が1系統しかない場合には、排ガス導入口13の近傍に生成した白色結晶化物20の除去は、当該排ガス導入口13からのスクラバ4へのガス導入を停止して行わざるを得ない。そのため、スクラバ4への排ガス導入経路を複数(少なくとも2系列)設けておき、切り替えを交互に行えるようにしておけば、白色結晶化物20の除去のためにわざわざシステムを停止させる必要がなくなる。
【0060】
このように、本発明に係る第1の態様のエッチング反応ガスの除害方法は、シリコン材料をフッ酸と硝酸を含む酸混合液でエッチングした際に発生する反応ガス中に含まれる有害な成分を除去する方法であって、前記反応ガスを吸収剤としてのアルカリ水溶液に導き、該アルカリ水溶液を循環槽内で過飽和となるまで循環させ、前記循環槽に導かれた前記反応ガスに前記過飽和アルカリ水溶液を噴霧して前記有害成分を含む結晶化物を前記過飽和アルカリ水溶液中に生成させ、該結晶化物を分離して前記反応ガス中に含まれる有害成分を除去する、エッチング反応ガスの除害方法である。
【0061】
また、本発明に係る第2の態様のエッチング反応ガスの除害方法は、シリコン材料をフッ酸と硝酸を含む酸混合液でエッチングした際に発生する反応ガス中に含まれる有害な成分を除去する方法であって、前記反応ガスを吸収剤としてのアルカリ水溶液に導き、該アルカリ水溶液を循環槽内で過飽和となるまで循環させ、該過飽和アルカリ水溶液が循環する循環槽への前記反応ガス導入部の近傍に前記有害成分を含む結晶化物を生成させ、該結晶化物を分離して前記反応ガス中に含まれる有害成分を除去する、エッチング反応ガスの除害方法である。
【0062】
本発明に係る第1の態様のスクラバ装置は、シリコン材料をフッ酸と硝酸を含む酸混合液でエッチングした際に発生する反応ガス中に含まれる有害な成分を除去するために用いられるスクラバ装置であって、前記反応ガスを吸収剤としてのアルカリ水溶液に導く反応ガス導入部と、該アルカリ水溶液を循環槽内で過飽和となるまで循環させる循環経路と、前記循環槽に導かれた前記反応ガスに前記過飽和アルカリ水溶液を噴霧する噴霧部と、前記過飽和アルカリ水溶液の噴霧により該過飽和アルカリ水溶液中に生成した前記有害成分を含む結晶化物を沈降させる沈降槽を備え、該沈降槽は、前記結晶化物を下部で捕集するために円錐状とされている、スクラバ装置である。
【0063】
また、本発明に係る第2の態様のスクラバ装置は、シリコン材料をフッ酸と硝酸を含む酸混合液でエッチングした際に発生する反応ガス中に含まれる有害な成分を除去するために用いられるスクラバ装置であって、前記反応ガスを吸収剤としてのアルカリ水溶液に導く少なくとも2系列の反応ガス導入部と、該アルカリ水溶液を循環槽内で過飽和となるまで循環させる循環経路とを備え、前記少なくとも2系列の反応ガス導入部の近傍には、それぞれ、該反応ガス導入部の近傍に生成した前記有害成分を含む結晶化物を取り出すための、内部が観察可能なフランジが設けられている、スクラバ装置である。
【実施例】
【0064】
スクラバの運転条件を表1のものとし、排ガス導入口近傍に生成の白色結晶化物生成量、および、過飽和アルカリ水溶液中の硝酸塩、亜硝酸塩、フッ化物塩、ケイ酸塩の生成量につき、実施例1および2、比較例1および2の、4条件で比較した。その結果を表2に纏めた。実施例1および2において、スクラバ1台を運転した際の排ガス濃度の最大値は、HFは、0.1v/vppm未満、NO
Xは最大で3v/vppmであった。
【0065】
なお、何れにおいても、エッチングに供したシリコン材料の重量、エッチングに使用したフッ硝酸の重量、および、エッチングにより溶解・揮発したシリコンの重量は、それぞれ、6,000kg、1,652kg、および、120kgである。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
また、表3は、実施例1および2において生成した排ガス導入口近傍の白色結晶化物の組成分析結果である。
【0069】
【表3】
【0070】
上述の結晶化物の析出は常温で生じるため、高温化乃至低温化などのための設備や特別な薬液等は不要であり、従来の除害方法に比較して低コストで済む。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、シリコン材料をフッ硝酸液でエッチングした際に発生する反応ガス中に含まれる有害な成分を、システムの運転を停止することなく且つCa系等の化学処理設備も付加することなく、除去する技術を提供する。これにより、除害のための薬液を可能な限り使用せず、効率的かつ低コストで、有害な成分を除去する技術が提供される。
【符号の説明】
【0072】
1 シリコンエッチング槽
2a、2b フード
3 排気ダクト
4 スクラバ
5 ドレイン
6 排風機
7 吸収剤槽
8 送液ポンプ
9 充填剤槽
10 送液ライン
11 沈降槽
12 ミストエルミネータ
13 排ガス導入口
14 スプレイライン
15a、15b フランジ
20 白色結晶化物