特許第6082634号(P6082634)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6082634
(24)【登録日】2017年1月27日
(45)【発行日】2017年2月15日
(54)【発明の名称】蛍光X線分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/223 20060101AFI20170206BHJP
【FI】
   G01N23/223
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-65714(P2013-65714)
(22)【出願日】2013年3月27日
(65)【公開番号】特開2014-190791(P2014-190791A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2015年12月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 龍介
(72)【発明者】
【氏名】高橋 春男
(72)【発明者】
【氏名】的場 吉毅
(72)【発明者】
【氏名】田村 浩一
【審査官】 深田 高義
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−512288(JP,A)
【文献】 実開平06−070145(JP,U)
【文献】 特開2007−292497(JP,A)
【文献】 特開平09−203713(JP,A)
【文献】 特開2004−319299(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/223
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に対して一次X線を照射するX線源と、前記X線源から照射される前記一次X線を集光して前記試料に対する照射面積を小さくする集光素子と、前記一次X線を照射された前記試料から発生する蛍光X線を検出する検出器と、少なくとも前記X線源及び前記集光素子を収納する筐体とを備えた蛍光X線分析装置であって、
前記X線源及び前記X線源の周囲の少なくとも一方に設置された温度センサと、
前記筐体に少なくとも一つ設けられ内部と外部との空気を入れ替え可能な外気用ファンと、
前記温度センサで検出した温度情報に基づいて前記外気用ファンを駆動し前記X線源の周囲の雰囲気温度を装置周辺の外気温度より高い一定の温度に調整する制御部とを備えていることを特徴とする蛍光X線分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の蛍光X線分析装置において、
前記X線源の周囲に設けられた循環用ファンを備えており、
前記X線源が、X線管球であり、
前記制御部が、前記温度センサで検出した温度が前記外気温度より低い場合に前記循環用ファンだけを駆動して前記調整を行うことを特徴とする蛍光X線分析装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の蛍光X線分析装置において、
外気を導入する前記外気用ファンと前記X線源との間に配されたヒータと、
前記温度センサとして、前記X線源に設置された第1の温度センサと、前記ヒータと前記X線源との間に配された第2の温度センサとを備えており、
前記制御部が、前記第1の温度センサと前記第2の温度センサとの温度情報に基づいて前記ヒータも駆動して前記調整を行うことを特徴とする蛍光X線分析装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の蛍光X線分析装置において、
前記集光素子が、ポリキャピラリであることを特徴とする蛍光X線分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害物質の検出等が可能で製品のスクリーニング等あるいはメッキ等の膜厚測定に使用される蛍光X線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光X線分析は、X線源から出射されたX線を試料に照射し、試料から放出される特性X線である蛍光X線をX線検出器で検出することで、そのエネルギーからスペクトルを取得し、試料の定性分析若しくは定量分析又は膜厚測定を行うものである。この蛍光X線分析は、試料を非破壊で迅速に分析可能なため、工程・品質管理などで広く用いられている。近年では、高精度化・高感度化が図られて微量測定が可能になり、特に材料や複合電子部品などに含まれる有害物質の検出を行う分析手法として普及が期待されている。
【0003】
この蛍光X線分析装置では、X線源からのX線を集光して試料に対する照射面積を小さくすることができるポリキャピラリを備えたものが知られている。このポリキャピラリは、直径10μm程のガラス管(キャピラリ)の束で構成され、入射されたX線を内部で全反射させて集光して出射するレンズ機能を有するX線集光素子である。
例えば、特許文献1には、X線管と、X線管からのX線を収集するX線光学機器としてポリキャピラリとを備えたX線ソースアセンブリが記載されている。このX線ソースアセンブリでは、位置調整のためにX線管のターゲットを直接、加熱/冷却する温度アクチュエータを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−71120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、ポリキャピラリをX線源の管球に取り付けている装置では、ポリキャピラリからの出力強度がその取付位置に依存し、位置ずれが生じると出力強度が低下してしまう問題がある。例えば、水平方向にポリキャピラリが相対的に10μmずれるだけで、出力強度が5%減少してしまう。そのため、安定した出力強度で測定を行うには、出力強度が最大となる部分にポリキャピラリを取り付ける必要があると共に、一度取り付けた位置からずれないようにすることが必須である。ポリキャピラリの位置がずれる要因としては、機械的な要因や熱(温度ドリフト)による要因が挙げられる。特に、X線源の管球には一般的に30Wから50Wの電力がかかるので、電力の変更に応じて温度の変化が大きい。また、装置周辺の温度も、特別に制御していない限り、10〜30℃まで変化する。このような温度変化による熱膨張はポリキャピラリの相対的な位置ずれを引き起こすため、出力強度が変動してしまう不都合があった。
これに対して、上記特許文献1の技術では、温度変化による出力強度の変動を抑えるために、周囲の温度変化に対し、管球のターゲット(アノード)を直接、温度アクチュエータで加熱/冷却することで位置を動かし、温度変化による位置補正を行っている。しかしながら、このように温度アクチュエータを管球のターゲットに設けることは構造を複雑化させてしまうと共に制御も難しく、コストも増大してしまう問題があった。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、比較的簡易な構成と制御とにより出力強度の変動を抑制可能な蛍光X線分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明に係る蛍光X線分析装置は、試料に対して一次X線を照射するX線源と、前記X線源から照射される前記一次X線を集光して前記試料に対する照射面積を小さくする集光素子と、前記一次X線を照射された前記試料から発生する蛍光X線を検出する検出器と、少なくとも前記X線源及び前記集光素子を収納する筐体とを備えた蛍光X線分析装置であって、前記X線源及び前記X線源の周囲の少なくとも一方に設置された温度センサと、前記筐体に少なくとも一つ設けられ内部と外部との空気を入れ替え可能な外気用ファンと、前記温度センサで検出した温度情報に基づいて前記外気用ファンを駆動し前記X線源の周囲の雰囲気温度を一定の温度に調整する制御部とを備えていることを特徴とする。
【0008】
この蛍光X線分析装置では、制御部が、温度センサで検出した温度情報に基づいて外気用ファンを駆動しX線源の周囲の雰囲気温度を一定の温度に調整するので、従来技術のようにX線源を部分的に温度制御するのではなく、X線源の周囲の雰囲気全体を一定の温度に温度制御することで、全体として温度変動を無くして位置ずれを抑制することができる。したがって、X線源に直接、温度制御機構を組み込んで構造を複雑化させる必要がなく、熱源となるX線源と、空気入れ替えを行う外気用ファンとによる比較的簡易な構成と制御とで、X線源とポリキャピラリとの間の温度変動を抑えることができ、位置ずれによる出力強度の変動を抑制することが可能になる。
【0009】
第2の発明に係る蛍光X線分析装置は、第1の発明において、前記X線源の周囲に設けられた循環用ファンを備えており、前記制御部が、前記循環用ファンも駆動して前記調整を行うことを特徴とする。
すなわち、この蛍光X線分析装置では、制御部が循環用ファンも駆動して前記調整を行うので、外気用ファンの駆動だけでは冷却効果が十分でない場合など、外気用ファンだけでなく循環用ファンも駆動することで、X線源の周囲の雰囲気を循環させ、滞留による温度差が生じないようにすることができる。
【0010】
第3の発明に係る蛍光X線分析装置は、第1又は第2の発明において、外気を導入する前記外気用ファンと前記X線源との間に配されたヒータを備えており、前記制御部が、前記ヒータも駆動して前記調整を行うことを特徴とする。
すなわち、この蛍光X線分析装置では、制御部がヒータも駆動して前記調整を行うので、外気用ファンで導入した外気の温度が低すぎる場合や、X線源自身の熱だけでは雰囲気温度の上昇が十分でない場合でも、導入した外気をヒータによって加熱して温風とすることで、雰囲気温度を容易に上げることができ、より柔軟な温度制御が可能になる。
【0011】
第4の発明に係る蛍光X線分析装置は、第1から第3の発明のいずれかにおいて、前記集光素子が、ポリキャピラリであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係る蛍光X線分析装置によれば、制御部が、温度センサで検出した温度情報に基づいて外気用ファンを駆動しX線源の周囲の雰囲気温度を一定の温度に調整するので、比較的簡易な構成及び制御により、低コストでX線源とポリキャピラリとの間の温度変動を抑えることができ、位置ずれによる出力強度の変動を抑制することが可能になる。したがって、X線源や装置周辺の温度が変化しても、装置内部の雰囲気温度を一定に保って出力強度の変動を抑制でき、安定した測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る蛍光X線分析装置の第1実施形態を示す全体構成図である。
図2】本発明に係る蛍光X線分析装置の第2実施形態を示す全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る蛍光X線分析装置の第1実施形態を、図1を参照しながら説明する。
【0015】
本実施形態の蛍光X線分析装置1は、図1に示すように、試料Sに対して一次X線を照射するX線源2と、X線源2から照射される一次X線を集光して試料Sに対する照射面積を小さくする集光素子3と、一次X線を照射された試料Sから発生する蛍光X線を検出する検出器4と、X線源2、集光素子3及び検出器4を収納する筐体5とを備えている。
【0016】
また、この蛍光X線分析装置1は、X線源2に設置された温度センサ6と、筐体5に2つ設けられ内部と外部との空気を入れ替え可能な外気用ファン7と、X線源2の周囲に設けられた循環用ファン8と、温度センサ6で検出した温度情報に基づいて外気用ファン7及び循環用ファン8を駆動しX線源2の周囲の雰囲気温度を一定の温度に調整する制御部Cとを備えている。
【0017】
上記X線源2は、一次X線を照射可能なX線管球であって、管球内のフィラメント(陰極)から発生した熱電子がフィラメント(陰極)とターゲット(陽極)との間に印加された電圧により加速されターゲットのW(タングステン)、Mo(モリブデン)、Cr(クロム)などに衝突して発生したX線を1次X線としてベリリウム箔などの窓から出射するものである。
【0018】
上記検出器4は、X線の入射窓に設置されている半導体検出素子(例えば、pin構造ダイオードであるSi(シリコン)素子)(図示略)を備え、X線光子1個が入射すると、このX線光子1個に対応する電流パルスが発生するものである。この電流パルスの瞬間的な電流値が、入射した特性X線のエネルギーに比例している。また、検出器4は、半導体検出素子で発生した電流パルスを電圧パルスに変換、増幅し、信号として出力するように設定されている。
【0019】
上記試料Sは、筐体5内に設置された試料台9の上に載置されて分析に供される。
上記集光素子3は、X線源2に位置調整機構10を介して取り付けられているポリキャプラリである。この集光素子3は、基端がX線源2からの一次X線が入射可能に基端が配されていると共に、集光された一次X線を出射する先端が試料台9に向けて配されている。上記位置調整機構10は、集光素子3の基端部を保持すると共に出力強度が最大となるようにX線源2と集光素子3との相対的な位置を調整する既知の3軸調整機構である。なお、集光素子3としては、モノキャピラリ、コリメータ又はポリキャピラリが好ましいが、集束結晶等を採用しても構わない。
【0020】
上記温度センサ6は、例えばサーミスタ素子等が採用され、X線源2の外側に設置されている。
上記2つの外気用ファン7は、互いに筐体5の対向する側壁部に設置され、一方が外気を内部に吸気して導入する方向にファンが回転され、他方が内部の空気を外部に排気する方向にファンが回転されて駆動される。
【0021】
上記制御部Cは、X線源2、検出器4及び試料台9にも接続され、これらも制御するCPU等で構成されたコンピュータである。
なお、本実施形態の蛍光X線分析装置1は、検出器4に接続され検出器4からの信号を分析する分析器(図示略)を備えている。この分析器は、上記信号から電圧パルスの波高を得てエネルギースペクトルを生成する波高分析器(マルチチャンネルパルスハイトアナライザー)である。
【0022】
次に、本実施形態のX線分析装置1による温度制御方法について説明する。
例えば、装置周辺の外気温度が10〜30℃の範囲である場合、温度センサ6で検出されるX線源2の温度が33℃になるように、制御部Cが外気用ファン7及び循環用ファン8を駆動制御する。このように制御部Cは、温度センサ6で検出する温度が外気温度の上限よりも少し上の温度となるように温度制御を行う。
【0023】
すなわち、温度センサ6で検出した温度が33℃よりも低い場合、制御部Cは循環用ファン8だけを駆動させる。通常、X線源2の管球は50W程で動作しており、管球自身が熱を持っているため、これを熱源として筐体5内の雰囲気温度を上昇させる効果を有している。したがって、X線源2からの熱を循環用ファン8による筐体5内の空気を流動させることによって、筐体5内の雰囲気温度が33℃になるように制御する。
【0024】
また、温度センサ6で検出した温度が33℃よりも高い場合、制御部Cは2つの外気用ファン7と循環用ファン8との両方を駆動させる。これにより、外気用ファン7で低い温度の外気を導入すると共に循環用ファン8で筐体5内の雰囲気を循環させ、雰囲気温度を33℃になるように下げることができる。
【0025】
このように本実施形態の蛍光X線分析装置1では、制御部Cが、温度センサ6で検出した温度情報に基づいて外気用ファン7を駆動しX線源2の周囲の雰囲気温度を一定の温度に調整するので、従来技術のようにX線源を部分的に温度制御するのではなく、X線源2の周囲の雰囲気全体を一定の温度に温度制御することで、全体として温度変動を無くして位置ずれを抑制することができる。
【0026】
したがって、X線源2に直接、温度制御機構を組み込んで構造を複雑化させる必要がなく、熱源となるX線源2と、空気入れ替えを行う外気用ファン7とによる比較的簡易な構成と制御とで、X線源2と集光素子3との間の温度変動を抑えることができ、位置ずれによる出力強度の変動を抑制することが可能になる。
また、制御部Cが循環用ファン8も駆動して温度調整を行うので、外気用ファン7の駆動だけでは冷却効果が十分でない場合など、外気用ファン7だけでなく循環用ファン8も駆動することで、X線源2の周囲の雰囲気を循環させ、滞留による温度差が生じないようにすることができる。
【0027】
次に、本発明に係る蛍光X線分析装置の第2実施形態について、図2を参照して以下に説明する。なお、以下の実施形態の説明において、上記実施形態において説明した同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0028】
第2実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、外気用ファン7等のファンで温度調整されているのに対し、第2実施形態の蛍光X線分析装置21では、図2に示すように、外気を導入する外気用ファン7とX線源2との間に配されたヒータ22を備えており、制御部Cが、ヒータ22も駆動して温度調整を行う点である。なお、第2実施形態では、循環用ファン8は設置されていない。
【0029】
また、第2実施形態では、2つの温度センサ6A,6Bが設置されている点でも第1実施形態と異なっている。すなわち、一方の温度センサ6Aは第1実施形態と同様にX線源2に取り付けられていると共に、他方の温度センサ6BはX線源2の周囲であって、ヒータ22とX線源2との間に設置されている。したがって、この温度センサ6Bは、ヒータ22からX線源2に向けて送り出される温風の温度を直接測定可能である。
【0030】
このように第2実施形態の蛍光X線分析装置21では、制御部Cがヒータ22も駆動して温度調整を行うので、外気用ファン7で導入した外気の温度が低すぎる場合や、X線源2自身の熱だけでは雰囲気温度の上昇が十分でない場合でも、導入した外気をヒータ22によって加熱して温風とすることで、雰囲気温度を容易に上げることができ、より柔軟な温度制御が可能になる。特に、第2実施形態では、X線源2に送られる温風の温度を温度センサ6Bで測定し、この温風の温度情報と温度センサ6AからのX線源2の温度情報との2つの情報に基づいて温度調整を行うので、筐体5内全体の雰囲気温度をより高精度に制御することが可能である。
【0031】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、波高分析器でX線のエネルギーと強度とを測定するエネルギー分散方式の蛍光X線分析装置に適用したが、蛍光X線を分光結晶により分光し、X線の波長と強度を測定する波長分散方式の蛍光X線分析装置に適用しても構わない。
【符号の説明】
【0032】
1,21…蛍光X線分析装置、2…X線源、3…集光素子(ポリキャピラリ)、4…検出器、5…筐体、6,6A,6B…温度センサ、7…外気用ファン、8…循環用ファン、22…ヒータ、C…制御部、S…試料
図1
図2