特許第6082741号(P6082741)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6082741ノンハロゲン難燃性樹脂組成物及び当該樹脂組成物を有する絶縁電線・ケーブル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6082741
(24)【登録日】2017年1月27日
(45)【発行日】2017年2月15日
(54)【発明の名称】ノンハロゲン難燃性樹脂組成物及び当該樹脂組成物を有する絶縁電線・ケーブル
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/08 20060101AFI20170206BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20170206BHJP
   C08L 23/10 20060101ALI20170206BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20170206BHJP
   C08K 5/3492 20060101ALI20170206BHJP
   H01B 3/00 20060101ALI20170206BHJP
   H01B 3/44 20060101ALI20170206BHJP
   H01B 7/295 20060101ALI20170206BHJP
【FI】
   C08L23/08
   C08L23/26
   C08L23/10
   C08K3/22
   C08K5/3492
   H01B3/00
   H01B3/44
   H01B7/295
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-524767(P2014-524767)
(86)(22)【出願日】2013年7月4日
(86)【国際出願番号】JP2013068331
(87)【国際公開番号】WO2014010500
(87)【国際公開日】20140116
【審査請求日】2016年6月14日
(31)【優先権主張番号】特願2012-153197(P2012-153197)
(32)【優先日】2012年7月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115842
【弁理士】
【氏名又は名称】秦 正則
(72)【発明者】
【氏名】千葉 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】西口 雅己
(72)【発明者】
【氏名】桑崎 悠介
【審査官】 上前 明梨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−250534(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/078406(WO,A1)
【文献】 特開2009−114230(JP,A)
【文献】 特開2010−157413(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/00
C08K 3/00−13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a1)〜(a4)を(A)樹脂成分とし、
(a1)エチレン−酢酸ビニル共重合体:(A)樹脂成分全体に対して20〜80質量%、
(a2)エチレン−αオレフィン共重合体(ただし、エチレン−プロピレン共重合体を除く。):(A)樹脂成分全体に対して5〜50質量%、
(a3)不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂:(A)樹脂成分全体に対して〜20質量%、
(a4)プロピレン系樹脂:(A)樹脂成分全体に対して5〜20質量%、
前記(A)樹脂成分の酢酸ビニル含有量を、前記(A)樹脂成分全体に対して10〜30質量%とし、
さらに、前記(A)樹脂成分100質量部に対して、
(b1)水酸化マグネシウム:120〜220質量部、
(b2)水酸化アルミニウム:20〜120質量部、
(b3)1,3,5−トリアジン誘導体化合物:30〜75質量部、
を含有することを特徴とするノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(b1)水酸化マグネシウムと前記(b2)水酸化アルミニウムの配合比率が、水酸化アルミニウム/水酸化マグネシウム=30/170〜60/220であることを特徴とする請求項1に記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(b1)水酸化マグネシウム及び(b2)水酸化アルミニウムの総和が、(A)樹脂成分100質量部に対して150〜280質量部であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
前記(b3)1,3,5−トリアジン誘導体化合物が、メラミンシアヌレートであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
前記請求項1ないし請求項のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物が絶縁被覆材料として被覆されていることを特徴とする絶縁電線・ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物及び当該樹脂組成物を有する絶縁電線・ケーブルに関する。さらに詳しくは、電線やケーブルの絶縁被覆材料として使用されるノンハロゲン難燃性樹脂組成物及び当該樹脂組成物を有する絶縁電線・ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
電線やケーブルの絶縁被覆材料としては、低コストであり、耐熱性、耐湿性に加えて難燃性、耐摩耗性等の諸特性に優れるポリ塩化ビニル系樹脂が広く使用されてきた。一方、ポリ塩化ビニル系樹脂はハロゲンを含有するため、火災等で焼却した際の発煙量が多いことやハロゲンガス等の有害なガスや、燃焼の条件によってはダイオキシンを発生させて環境破壊の原因となってしまうという問題があった。
【0003】
かかる問題から、電線等の絶縁被覆材料等としては、安全性を考慮して、火災時に煙の発生が少なく、ハロゲンガス等の有害ガスや、ダイオキシン、鉛等の有害物質の発生もない、ハロゲンを含有しない難燃性樹脂材料をベース材料として、これに金属水和物を添加した樹脂組成物を用いる必要があった。また、かかる樹脂組成物はリサイクル性も良好で、環境負荷も低減することができる。そして、このような樹脂組成物としては、例えば、ハロゲンを含有しないオレフィン系樹脂に水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の金属水和物等を配合したノンハロゲン難燃性樹脂組成物が提供されていた。
【0004】
このようなノンハロゲン難燃性樹脂組成物としては、例えば、コポリマー含有量が5〜30質量%であるポリオレフィン100質量部に、金属水和物50〜200質量部、ビニル基を有する化合物で変性したポリオレフィン5〜20質量部、メラミン化合物1〜40質量部を配合する難燃性樹脂組成物が提供されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0005】
また、酢酸ビニル成分が40質量%以上で、MFRが0.1〜1.0g/10分のエチレン−酢酸ビニル共重合体を単独、もしくはその他ポリオレフィン系樹脂と混合したベースポリマー100質量部に対して、金属水和物を150〜300質量部、及び1,3,5−トリアジン誘導体を20〜50質量部含むことを特徴とするノンハロゲン難燃性樹脂組成物が提供されている(例えば、特許文献2を参照。)。
【0006】
さらに、酢酸ビニル成分が60質量%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体を単独、もしくは他のエチレン系共重合体またはポリオレフィンと混合して、ベースポリマー100質量部中の酢酸ビニル含有量を50質量%以上とした樹脂組成物に対して、金属水和物を50〜300質量部、及び1,3,5−トリアジン誘導体を0.5〜50質量部含有するノンハロゲン難燃性樹脂組成物が提供されている(例えば、特許文献3を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−154646号公報
【特許文献2】特開2005−200574号公報
【特許文献3】特開2005−200575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、電気・電子機器の配線材に求められる難燃性、耐熱性、機械的特性(例えば引張特性、伸び特性、耐摩耗性等)等の規格は、UL規格やJIS規格等で要求水準に応じて定められている。特に、難燃性に関しては、さらに用途に応じてその試験方法が定められており、実際は、少なくともこの試験に合格する難燃性を有すればよい。規格や試験としては、例えば、UL1581(電線、ケーブル及びフレキシブルコードのための関連規格(Reference Standard for Electrical Wires,Cables and Flexible Cords))に規定される垂直燃焼試験(Vertical Flame Test)(VW−1)や、JIS C3005(ゴム・プラスチック絶縁電線試験方法)に規定される水平試験や傾斜試験等がそれぞれ挙げられる。
【0009】
この中でも、電子機器用に使用される電子機器用配線においては、UL規格で規定されている特に厳しい垂直難燃規格(UL1581 VW−1)に合格することが必要となる。このため、構成材料として、エチレン−酢酸ビニル共重合体やエチレン−アクリル酸エステル共重合体等のエチレン系共重合体を主体とした樹脂成分に、金属水和物を配合した樹脂組成物で被覆された絶縁電線が、難燃性と機械特性を両立させるものとして使用されている。
【0010】
しかしながら、垂直難燃性を満足させるためには、金属水和物を大量に配合しなければならないとともに、高含有量の酢酸ビニルを有するエチレン−酢酸ビニル共重合体を用いる必要があり、このような樹脂組成物は、例えば、UL1581で規定されている伸び150%、引張強度10.3MPa以上の引張特性を満足することが困難であった。また、かかる樹脂組成物は、耐寒性や絶縁特性(絶縁抵抗特性)にも劣ることになり、さらには、酢酸ビニル含有量の高いエチレン−酢酸ビニル共重合体は融点が低く、例えばドラムに巻かれた電線が高温の倉庫内で保管されると、電線同士が融着し、電線の取り扱いが悪くなる問題が発生していた。
【0011】
また、前記したノンハロゲン難燃性樹脂組成物のうち、特許文献1に開示された難燃性樹脂組成物は、高難燃性とともに、良好な機械的特性を発揮する一方で、金属水和物については水酸化マグネシウムを配合させ、その含有量も80質量部と少ないため、UL1581の垂直難燃試験(VW−1)を満足しないと考えられる。また、特許文献2や特許文献3に開示された難燃性樹脂組成物は、樹脂成分中、酢酸ビニル含有量が特許文献2のものは40質量%以上、特許文献3のものは60質量%以上を占めており、これでは耐寒性や絶縁特性に劣ると考えられる。また、電線製造時にボビンに巻き付けた際、高温環境下で保管すると、電線同士が融着してしまうと考えられるものであった。
【0012】
このように、前記した特許文献に開示されたノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、UL1581を満足する高い機械的特性、難燃性、耐熱性、耐寒性、絶縁特性等を具備し、加えて、高温環境下で電線同士が融着せず、優れた取り扱い性を兼ね備えたものではなかった。加えて、電線やケーブルの絶縁被覆材料として用いられることを考慮すると、押出成形後の成形品の外観も良好である必要がある。よって、かかる諸特性を満足し、押出成形後の成形品の外観も良好なノンハロゲン難燃性樹脂組成物の提供が望まれていた。
【0013】
本発明は前記の課題に鑑みてなされたものであり、ハロゲンを含まない構成材料からなるため環境的にも問題がないとともに、UL1581を満足する高い機械的特性、難燃性、耐熱性、耐寒性、絶縁特性に加えて、高温環境下で電線同士が融着せず、優れた取り扱い性を兼ね備え、押出成形時の成形品の外観も良好なノンハロゲン難燃性樹脂組成物及び当該樹脂組成物を有する絶縁電線・ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の課題を解決するために、本発明に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、
下記(a1)〜(a4)を(A)樹脂成分とし、
(a1)エチレン−酢酸ビニル共重合体:(A)樹脂成分全体に対して20〜80質量%、
(a2)エチレン−αオレフィン共重合体(ただし、エチレン−プロピレン共重合体を除く。):(A)樹脂成分全体に対して5〜50質量%、
(a3)不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂:(A)樹脂成分全体に対して〜20質量%、
(a4)プロピレン系樹脂:(A)樹脂成分全体に対して5〜20質量%、
前記(A)樹脂成分の酢酸ビニル含有量を、前記(A)樹脂成分全体に対して10〜30質量%とし、
さらに、前記(A)樹脂成分100質量部に対して、
(b1)水酸化マグネシウム:120〜220質量部、
(b2)水酸化アルミニウム:20〜120質量部、
(b3)1,3,5−トリアジン誘導体化合物:30〜75質量部、
を含有することを特徴とする。
本発明に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、前記した本発明において、前記(b1)水酸化マグネシウムと前記(b2)水酸化アルミニウムの配合比率が、水酸化アルミニウム/水酸化マグネシウム=30/170〜60/220であることを特徴とする。
【0015】
本発明に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、前記した本発明において、前記(b1)水酸化マグネシウム及び(b2)水酸化アルミニウムの総和が、(A)樹脂成分100質量部に対して150〜280質量部であることを特徴とする。
【0016】
本発明に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、前記した本発明において、前記(b3)1,3,5−トリアジン誘導体化合物が、メラミンシアヌレートであることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る絶縁電線・ケーブルは、前記した本発明のノンハロゲン難燃性樹脂組成物が絶縁被覆材料として被覆されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、ハロゲンを含まない構成材料からなるため環境的にも問題がないとともに、UL1581を満足する高い機械的特性、難燃性、耐熱性、耐寒性、絶縁特性に加えて、高温環境下で電線同士が融着せず、取り扱い性に優れ、押出成形時の成形品の外観も良好な難燃性樹脂組成物となる。
【0019】
また、本発明に係る絶縁電線・ケーブルは、本発明に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物を構成材料として有するので、前記した効果を享受し、UL1581を満足する高い機械的特性、難燃性、耐熱性、耐寒性、絶縁特性に加えて、高温環境下で電線同士が融着せず、取り扱い性に優れ、外観も問題がない絶縁電線・ケーブルとなる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一態様を説明する。本発明に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物(以下、単に「難燃性樹脂組成物」とする場合もある。)は、(a1)エチレン−酢酸ビニル共重合体、(a2)ポリエチレン及びエチレン−αオレフィン共重合体のうち少なくとも1種、(a3)不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂及び(a4)プロピレン系樹脂を(A)樹脂成分として、また、(b1)水酸化マグネシウム、(b2)水酸化アルミニウム及び(b3)1,3,5−トリアジン誘導体化合物を(B)難燃剤及び難燃助剤として、基本構成として含むものである。
【0021】
(A)樹脂成分:
(a1)エチレン−酢酸ビニル共重合体:
本発明の難燃性樹脂組成物に(a1)エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)を含有させることにより、難燃性を向上することができる。
【0022】
(A)樹脂成分に含有される酢酸ビニルの含有量は、(A)樹脂成分((a1)、(a2)、(a3)及び(a4)を指す。以下同じ。)全体(100質量%。以下同じ。)に対して、10〜30質量%である。酢酸ビニルの含有量をかかる範囲内とすることにより、金属水和物を十分配合することができるとともに、難燃性を確保することができる。一方、酢酸ビニルの含有量が10質量%より少ないと、難燃性が低下する場合があり、含有量が30質量%を超えると、機械的特性や耐寒性、絶縁特性が低下するとともに、高温雰囲気下で電線同士が融着しやすくなる場合がある、エチレン−酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニルは、(A)樹脂成分全体に対して15〜25質量%とすることが好ましい。
【0023】
なお、(A)樹脂成分における酢酸ビニルの含有量は、以下の式(1)により求めることができる。式(1)中、「Ai」はエチレン−酢酸ビニル共重合体の含有量(質量%)、「Bi」はエチレン−酢酸ビニル共重合体中の酢酸ビニルの含有量(質量%)、をそれぞれ示している。
【0024】
【数1】
【0025】
(a1)エチレン−酢酸ビニル共重合体のメルトフローレート(ASTM D−1238に準拠して測定した値を指し、以下、単に「MFR」とする場合もある。)は、絶縁電線を製造する際の成形性の点から0.1g/10分以上が好ましく、機械的強度の点から10g/10分以下であることが好ましい。
【0026】
本発明に係る難燃性樹脂組成物にあって、前記した(a1)エチレン−酢酸ビニル共重合体の含有量は、(A)樹脂成分全体に対して20〜80質量%とする。かかる含有量が20質量%より少ないと難燃性が低下する場合がある。一方、含有量が80質量%を超えると耐寒性や絶縁特性、機械的強度に加えて高温環境下における電線同士の融着性に悪影響を及ぼす場合がある。エチレン−酢酸ビニル共重合体の含有量は、35〜65質量%とすることが好ましく、40〜60質量%とすることが特に好ましい。
【0027】
なお、本発明に係る難燃性樹脂組成物に使用可能な(a1)エチレン−酢酸ビニル共重合体として、市販されているものとしては、例えば、エバフレックス(商品名:三井・デュポンポリケミカル(株)製)やレバプレン(商品名:バイエル社製)等を挙げることができる。
【0028】
(a2)ポリエチレン及びエチレン−αオレフィン共重合体のうち少なくとも1種:
本発明の難燃性樹脂組成物に(a2)ポリエチレンやエチレン−αオレフィン共重合体を含有させることにより、機械的強度、伸び特性を向上することができる。
【0029】
エチレン−αオレフィン共重合体としては、例えばエチレンと炭素数4〜12のαオレフィンとの共重合体が挙げられ、αオレフィンとしては、1−ブテン、1−へキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン等が挙げられる。これらのエチレン−αオレフィン共重合体は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用するようにしてもよい。
【0030】
また、ポリエチレンとしては、例えば、LDPE(低密度ポリエチレン)、LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)、MDPE(中密度ポリエチレン)、メタロセン触媒存在下に合成されたLLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)等のポリエチレン樹脂等が挙げられる。これらのポリエチレンは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用するようにしてもよい。これらのポリエチレンの中でも、メタロセン触媒存在下で合成されたLLDPEを使用することが好ましい。
【0031】
(a2)ポリエチレン及びエチレン−αオレフィン共重合体のうち少なくとも1種の密度は、0.930g/cm以下とすることが好ましい。これによって、後記する(B)難燃剤である(b1)水酸化マグネシウム及び(b2)水酸化アルミニウム等といったフィラー受容性が向上し、優れた機械的特性を得られる。かかるポリエチレン及びエチレン−αオレフィン共重合体のうち少なくとも1種の密度は、0.860〜0.930g/cmとすることがさらに好ましく、0.870〜0.900g/cmとすることが特に好ましい。
【0032】
なお、ポリエチレンやエチレン−αオレフィン共重合体の密度は、前記した範囲の密度となる1種の樹脂を用いてよいことはもちろんのこと、好ましくは0.930g/cm以下の密度からなる2種以上の樹脂を混合させて、かかる範囲の密度に調整して使用するようにしても問題はない。
【0033】
なお、2種以上の樹脂を混合させた場合の混合樹脂の密度は、例えば、下記の式(X)に従って算出すればよい。式(X)中、ρは混合樹脂の密度(g/cm)、Aは、(a2)を合計100質量%としたとき、エチレン−αオレフィン共重合体やポリエチレンの個々の含有量(質量%)(Aは、i番目のAを指す。)、Bは、エチレン−αオレフィン共重合体やポリエチレンの個々の密度(g/cm)(Bは、i番目のBを指す。)、をそれぞれ示す。
【0034】
【数2】
【0035】
例えば、(a2)として2種類の樹脂を使用し、2種の樹脂を樹脂1、樹脂2としたとき、樹脂1の密度が0.920g/cm、樹脂2の密度が0.860g/cmであり、樹脂1と樹脂2を60/40(樹脂1を(a2)全体に対して60質量%、樹脂2を(a2)全体に対して40質量%)でブレンドした場合は、密度ρ(g/cm)は、下記の式により、0.896g/cmと算出される。
【0036】
【数3】
【0037】
本発明に係る難燃性樹脂組成物にあって、前記した(a2)ポリエチレン及びエチレン−αオレフィン共重合体のうち少なくとも1種の含有量は、(A)樹脂成分全体に対して5〜50質量%とする。かかる含有量が5質量%より少ないと機械的強度が低下する場合がある。一方、含有量が50質量%を超えると難燃性が低下する場合がある。ポリエチレン及びエチレン−αオレフィン共重合体のうち少なくとも1種の含有量は、10〜30質量%とすることが好ましく、10〜20質量%とすることが特に好ましい。
【0038】
なお、本発明に係る難燃性樹脂組成物に使用可能な(a2)ポリエチレンやエチレン−αオレフィン共重合体として、市販されているものとしては、例えば、「カーネル」(商品名:日本ポリエチレン(株)製)、「エボリュー」(商品名:(株)プライムポリマー製)等を挙げることができる。
【0039】
(a3)不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂:
本発明の難燃性樹脂組成物に(a3)不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂(不飽和カルボン酸で変性したポリオレフィン樹脂のこと。以下同じ。)を含有させることにより、機械的特性、耐磨耗性等を向上させることができる。不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂における不飽和カルボン酸による変性量は、ポリオレフィン樹脂に対し、0.5〜15質量%のものを好ましく使用することができる。
【0040】
(a3)不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂で使用可能なポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等を挙げることができ、かかるポリオレフィン樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用するようにしてもよい。本発明の難燃性樹脂組成物にあっては、ポリオレフィン樹脂としては、機械的強度特性及び伸び特性のバランスから、ポリエチレン、ポリプロピレン等を用いることが好ましい。
【0041】
また、不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水フマル酸等を使用することができる。これらの不飽和カルボン酸は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用するようにしてもよい。
【0042】
(a3)不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂におけるポリオレフィン樹脂の変性は、例えば、ポリオレフィン樹脂と不飽和カルボン酸を有機パーオキサイドの存在下で、加熱・混練することにより実施することができる。
【0043】
本発明の難燃性樹脂組成物における、前記した(a3)不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂の含有量は、(A)樹脂成分全体に対して0〜20質量%とする。含有量が20質量%を超えると、柔軟性や伸び特性が低下する場合がある。不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂の含有量は、5〜15質量%とすることが好ましい。
【0044】
なお、本発明に係る難燃性樹脂組成物に使用可能な(a3)不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂として、市販されているものとしては、例えば、「アドテックス」(商品名:日本ポリエチレン(株)製)、「アドマー」(商品名:三井化学(株)製)、「ポリボンド」(商品名:ケムチュラ(株)製)等を挙げることができる。
【0045】
(a4)プロピレン系樹脂:
本発明の難燃性樹脂組成物に(a4)プロピレン系樹脂を含有させることにより、耐熱性を向上させることができ、UL1581で規定されている、121℃で1時間後の加熱変形特性を満足することができることになる。
【0046】
(a4)プロピレン系樹脂としては、例えば、プロピレン単独重合体(ホモポリプロピレン樹脂)や、エチレン−プロピレンランダム共重合体、エチレン−プロピレンブロック共重合体等を使用することができる。かかるプロピレン系樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用するようにしてもよい。本発明の難燃性樹脂組成物にあっては、プロピレン系樹脂として、エチレン−プロピレンブロック共重合体等を使用することにより、良好な引張特性、耐熱性、加熱変形特性を得ることができるので好ましい。
【0047】
ここで、「エチレン−プロピレンランダム共重合体」とは、エチレン成分の含有量が共重合体全体に対して概ね1〜5質量%のものをいい、エチレン成分がプロピレン鎖中にランダムに取り込まれているものをいう。また、「エチレン−プロピレンブロック共重合体」とは、エチレン成分の含有量が概ね5〜15質量%のものをいい、エチレン成分とプロピレン成分が独立した成分として存在するものをいう。
【0048】
(a4)プロピレン系樹脂のMFR(ASTM D−1238に準拠して測定した値)は、0.1〜60g/10分とすることが好ましく、0.1〜25g/10分とすることがさらに好ましく、0.3〜15g/10分とすることが特に好ましい。
【0049】
本発明の難燃性樹脂組成物における、前記した(a4)プロピレン系樹脂の含有量は、(A)樹脂成分全体に対して5〜20質量%とする。かかる含有量が5質量%より少ないと、耐熱性、特に加熱変形特性が低下する場合がある。一方、含有量が20質量%を超えると成形体の柔軟性や伸び特性が低下する場合がある。プロピレン系樹脂の含有量は、5〜18質量%とすることが好ましく、10〜15質量%とすることが特に好ましい。
【0050】
(B)難燃剤及び難燃助剤:
(b1)水酸化マグネシウム及び(b2)水酸化アルミニウム:
本発明では、使用できる金属水和物を(b1)水酸化マグネシウム及び(b2)水酸化アルミニウムを併用するようにする。水酸化マグネシウムと水酸化アルミニウムを併用することにより、それぞれを単独で使用する場合と比較して難燃性が向上する。
【0051】
(b1)水酸化マグネシウム及び(b2)水酸化アルミニウムは、表面処理を施されていてもよく、表面を処理しない(未処理の)ままでもよい。表面処理の例としては、脂肪酸処理、リン酸処理、チタネート処理、シランカップリング剤による処理等が挙げられる。樹脂成分との相互作用の点から、本発明にあっては、水酸化マグネシウムに関してはシランカップリング剤により表面処理したもの、水酸化アルミニウムに関しては無処理のものを使用するのが好ましい。
【0052】
(b1)水酸化マグネシウム及び(b2)水酸化アルミニウム(以下、単に「水酸化マグネシウム等」とする場合もある。)の表面処理のためのシランカップリング剤としては、例えば、末端にビニル基、メタクリロキシ基、グリシジル基、アミノ基を有するものを使用することが好ましい。具体的には、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ―アミノプロピルトリプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ―アミノプロピルトリプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。かかるシランカップリング剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用するようにしてもよい。これらのシランカップリング剤の中でも、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等を使用することが好ましい。
【0053】
シランカップリング剤による表面処理の方法としては、通常使用される方法で処理を行うことが可能であるが、例えば、表面処理をしていない水酸化マグネシウム等とシランカップリング剤をあらかじめドライブレンドしたり、湿式処理を行ったり、混練時にシランカップリング剤をブレンドすること等により表面処理が施された水酸化マグネシウム等を得ることができる。
【0054】
シランカップリング剤の水酸化マグネシウム等に対する使用量は、表面処理をするのに十分な量が適宜加えられるが、具体的には、水酸化マグネシウム等100質量部に対して0.1〜2.5質量部とすることが好ましく、0.2〜1.8質量部とすることがさらに好ましく、0.3〜1.0質量部とすることが特に好ましい。
【0055】
また、シランカップリング剤により表面処理が施された水酸化マグネシウムとして市販されているものとしては、例えば、「キスマ5L」、「キスマ5N」、「キスマ5P」(いずれも商品名:協和化学工業(株)製)や、「マグシーズS4」、「マグシーズS6」(商品名:神島化学工業(株)製)等を挙げることができる。
【0056】
一方、無処理の水酸化アルミニウムとして市販されているものとしては、例えば、ハイジライトH42M(商品名:昭和電工(株)製)等を挙げることができる。
【0057】
本発明の難燃性樹脂組成物における、前記した(b1)水酸化マグネシウムの含有量は、(A)樹脂成分100質量部に対して120〜220質量部である。水酸化マグネシウムの含有量が120質量部より少ないと難燃性に劣る場合がある一方、220質量部を超えると機械的特性が低下する場合がある。水酸化マグネシウムの含有量は、(A)樹脂成分100質量部に対し130〜170質量部とすることが好ましい。
【0058】
また、本発明の難燃性樹脂組成物における、前記した(b2)水酸化アルミニウムの含有量は、(A)樹脂成分100質量部に対して20〜120質量部である。水酸化アルミニウムの含有量が20質量部より少ないと難燃性に劣る場合がある一方、120質量部を超えると機械的特性が低下する場合があり、加えて、押出成形時に分解し、絶縁層が発泡してしまい、得られた絶縁電線等の成形品の外観が悪くなる場合がある。水酸化アルミニウムの含有量は、(A)樹脂成分100質量部に対して30〜70質量部が好ましい。
【0059】
また、(b1)水酸化マグネシウム及び(b2)水酸化アルミニウムの合計量(総和)は、(A)樹脂成分100質量部に対して150〜280質量部とすることが好ましい。合計量をかかる範囲とすることで、優れた機械的特性、難燃性、低温特性、絶縁抵抗特性を兼ね備えることができる。水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムの合計量(総和)は、(A)樹脂成分100質量部に対して190〜210質量部とすることが特に好ましい。
【0060】
本発明の難燃性樹脂組成物における(B)難燃剤である(b1)水酸化マグネシウムと(b2)水酸化アルミニウムの配合比率は、特に制限はないが、水酸化アルミニウム/水酸化マグネシウム=0.07/1〜1.00/1とすることが好ましい。配合比率をかかる範囲とすることにより、難燃性を向上させることができる。水酸化マグネシウムと水酸化アルミニウムの配合比率は、水酸化アルミニウム/水酸化マグネシウム=0.15/1〜0.55/1とすることが特に好ましい。
【0061】
(b3)1,3,5−トリアジン誘導体化合物:
本発明の難燃性樹脂組成物では、難燃剤である(b1)水酸化マグネシウム及び(b2)水酸化アルミニウムに加えて、難燃助剤として、(b3)1,3,5−トリアジン誘導体化合物を併用する。本発明において1,3,5−トリアジン誘導体化合物は難燃助剤として作用し、金属水和物の水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムと併用することにより、これらとの相乗効果を得られるため、(a1)エチレン−酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニル含有量を比較的少なくすることができる。そして、エチレン−酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニル含有量を比較的少なくすることにより、機械的特性、耐寒性及び絶縁特性の低下を抑え、優れた機械的特性、耐寒性、絶縁特性を維持することが可能となる。
【0062】
本発明の難燃性樹脂組成物で使用することができる(b3)1,3,5−トリアジン誘導体化合物の粒径(平均粒径)は、可能な限り小さくすることが好ましく、具体的には、平均粒径が10μm以下であることが好ましく、7μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることが特に好ましい。
【0063】
(b3)1,3,5−トリアジン誘導体化合物としては、例えば、シアヌル酸、メラミン、メラミン誘導体、メラミンシアヌレート等を挙げることができ、これらの1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用するようにしてもよい。これらの1,3,5−トリアジン誘導体化合物の中でも、メラミンシアヌレートを使用することが特に好ましい。なお、メラミンシアヌレートの構造は下記の化学構造式(2)で表され、使用可能なメラミンシアヌレートとして、市販されているものとしては、例えば、MC6000(商品名:日産化学工業(株)製)を挙げることができる。
【0064】
【化1】
【0065】
本発明の難燃性樹脂組成物における、前記した(b3)1,3,5−トリアジン誘導体化合物の含有量は、(A)樹脂成分100質量部に対して30〜75質量部である。含有量が30質量部より少ないと難燃性に劣る場合がある一方、75質量部を超えると機械的特性が著しく低下する場合があり、また、ある一定量以上含有させても難燃性が向上せず、むしろ低下してしまう場合がある。1,3,5−トリアジン誘導体化合物の含有量は、(A)樹脂成分100質量部に対して40〜50質量部が好ましい。
【0066】
(C)任意成分:
本発明の難燃性樹脂組成物には、電線、ケーブル、コード、チューブ、電線部品、シート等の被覆材料において、一般的に使用されている各種の添加剤、例えば、酸化防止剤、金属不活性剤、難燃(助)剤((B)で挙げているものを除く。)、充填剤、滑剤等を任意成分として、本発明の目的を損なわない範囲で適宜配合することができる。なお、下記の任意成分は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用するようにしてもよい。また、ここに挙げた以外の添加物や樹脂等を、本発明の目的を損なわない範囲で、添加するようにしてもよい。
【0067】
酸化防止剤としては、例えば、4,4'−ジオクチル・ジフェニルアミン、N,N'−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンの重合物等のアミン系酸化防止剤、ペンタエリスリチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン等のフェノール系酸化防止剤、ビス(2−メチル−4−(3−n−アルキルチオプロピオニルオキシ)−5−t−ブチルフェニル)スルフィド、2−メルカプトベンヅイミダゾール及びその亜鉛塩、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリル−チオプロピオネート)等のイオウ系酸化防止剤等が挙げられる。
【0068】
金属不活性剤としては、例えば、N,N'−ビス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル)ヒドラジン、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール、2,2'−オキサミドビス−(エチル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)等が挙げられる。
【0069】
難燃剤及び難燃助剤((B)で挙げているものを除く。)、充填剤としては、例えば、カーボン、クレー、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化モリブデン、三酸化アンチモン、シリコーン化合物、石英、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ホワイトカーボン等が挙げられる。
【0070】
このうち、特に、シリコーンゴム、シリコーンオイル等のシリコーン化合物は、難燃性を付与、向上させるだけでなく、絶縁電線等やコードにおいては、難燃性樹脂組成物からなる絶縁層と導体の密着力を制御する効果があり、ケーブルにおいては、滑性を付与することで、外傷を低減させる効果がある。このようなシリコーン化合物のうち、市販されているものとしては、例えば、「X21−3043」(商品名:信越化学工業(株)製)、「CF−9150」(商品名:東レ・ダウコーニング(株)製)等が挙げられる。
【0071】
本発明の難燃性樹脂組成物にシリコーン化合物を添加する場合の含有量としては、(A)樹脂成分100質量部に対して、シリコーン化合物を0.5〜5質量部添加することが好ましい。添加量が0.5質量部より少ないと、難燃性や滑性に対して実質的に効果がない場合があり、一方、添加量が5質量部を越えると絶縁電線の外観悪化や、押出成形速度が低下し量産性が悪くなる場合がある。
【0072】
滑剤としては、例えば、炭化水素系、脂肪酸系、脂肪酸アミド系、エステル系、アルコール系、金属石けん系等が挙げられる。
【0073】
以下、本発明の難燃性樹脂組成物の製造方法の一例を説明する。(A)樹脂成分、(B)難燃剤及び難燃助剤((b1)水酸化マグネシウム、(b2)水酸化アルミニウム、(b3)1,3,5−トリアジン誘導体化合物)、さらに必要に応じて(C)任意成分及び他の添加物を混合し、加熱混練する。混練温度や混練時間等の混練条件は、(A)樹脂成分の溶融温度以上で適宜設定できるが、混練温度は、例えば、160〜200℃とすることが好ましい。
【0074】
混練方法としては、ゴム、プラスチック等で通常用いられる方法であれば満足に使用でき、装置としては例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサーあるいは各種のニーダー等が用いられる。このような方法や装置を用いることにより、各成分が均一に分散された難燃性樹脂組成物を得ることができる。
【0075】
以上説明した本発明に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、所定量のエチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン及びエチレン−αオレフィン共重合体のうち少なくとも1種、不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂、プロピレン系樹脂を(A)樹脂成分として、所定量の水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、1,3,5−トリアジン誘導体化合物を(B)難燃剤及び難燃助剤を含み、(A)樹脂成分が含有する酢酸ビニルを一定量とするため、UL1581を満足する高い機械的特性、難燃性、耐寒性、絶縁特性に加えて、高温環境下で電線同士が融着せず、取り扱い性に優れ、押出成形時の成形品の外観も良好な難燃性樹脂組成物となる。
【0076】
加えて、構成材料がハロゲン成分を含まないため、燃焼時にハロゲンガスやダイオキシン等の有毒なガスが発生せず、火災時における有毒ガスの発生や二次災害等を防止することができ、かつ、廃却時に問題なく焼却処分を行うことができる、環境にも優しい難燃性樹脂組成物となり、絶縁電線やケーブルの絶縁被覆材料(シース材料含む)等として最適である。
【0077】
また、本発明の難燃性樹脂組成物を絶縁被覆材料として被覆した絶縁電線やケーブルは、前記した難燃性樹脂組成物における効果を享受し、UL1581を満足する高い機械的特性、難燃性、耐寒性、絶縁特性に加えて、高温環境下で電線同士が融着せず、取り扱い性に優れ、外観も問題がない絶縁電線・ケーブルとなるとともに、環境への適応性を兼ね備えた電線やケーブルとして広く利用することができる。なお、ケーブルは、所定の伝送媒体をコアとして、本発明の難燃性樹脂組成物をシース材料として被覆したものを含むものとする。
【0078】
本発明の難燃性樹脂組成物を用いて成形された絶縁電線等の絶縁層の厚さは、特に制限はなく、所望の厚さとして形成することができるが、0.6〜5.0mmとすることが好ましい。かかる範囲の厚さにすることにより以下のような難燃メカニズムが生じ、垂直難燃試験(VW−1)を満足させることができると考えられる。また、絶縁電線やケーブルの可撓性も良好であり、絶縁電線の重量が重くなり過ぎる等といった絶縁電線等の取り扱い性の問題もない。絶縁層の厚さは、0.8〜5.0mmとすることが特に好ましい。
【0079】
まず、1回目の15秒間の着火時に絶縁層が0.6mm以上であると、熱伝導率の高い金属導体まで熱が完全に伝わらず、絶縁層が熱せられにくくなるため、着火時においては1,3,5−トリアジン誘導体化合物が分解しない。すると、15秒後に火を離した際に、ちょうど樹脂成分が1,3,5−トリアジン誘導体化合物の分解温度まで上昇し、1,3,5−トリアジン誘導体化合物から窒素ガスが効果的に発せられ気相での酸素遮断効果により消火する。ここで、水酸化マグネシウムよりも分解温度の低い水酸化アルミニウムを加えることで、1回目の着火時の早期から吸熱反応が生じ、1,3,5−トリアジン誘導体化合物の分解を抑制する効果があると考えられる。その後、2回目の着火によって絶縁層から可燃成分が失われ、その後の着火においても樹脂成分は燃焼することなく、VW−1を満足させることができる。
【0080】
本発明の難燃性樹脂組成物を金属導体の周囲に被覆して絶縁電線等を得るには、例えば、汎用の押出成形機を用いて、押出成形により、金属導体やコアの周囲に押出被覆することにより製造することができる。このときの押出成形機の温度は、樹脂の種類、導体等の引取り速度の諸条件にもよるが、シリンダー部で約180℃、クロスヘッド部で約200℃程度にすることが好ましい。
【0081】
また、金属導体については、絶縁層の被覆前に、金属導体をあらかじめ100℃程度に加熱させておくことが好ましい。金属導体としては、軟銅や銅合金、アルミ等の単線や撚線等を用いることができる。また、裸線のほかに、錫メッキ等によりメッキされたものを用いてもよい。
【0082】
なお、本発明の難燃性樹脂組成物は、導体に被覆後、電子線照射により架橋処理を施してもよい。架橋方法としては、常法による電子線照射架橋法や化学架橋法を採用することができる。電子線照射架橋法の場合は、本発明の難燃性樹脂組成物を成形した後に常法により電子線を照射することによって架橋を行うことができる。一方、化学架橋法による場合は、樹脂組成物に有機パーオキサイド等を従来公知の架橋剤として添加し、成形した後に常法により加熱処理して架橋を行うようにすればよい
【0083】
本発明の難燃性樹脂組成物を用いて導体に被覆された絶縁電線・ケーブルは、被覆層が多層構造であってもよい。例えば、本発明の難燃性樹脂組成物を用いて成形された絶縁層のほかに、本発明の樹脂組成物からなる絶縁被覆材料と導体の間に、他の樹脂組成物等からなる中間層を別途設ける等、絶縁層が多層構造となるようにしても問題はない。
【0084】
このようにして得られた絶縁電線・ケーブルは、電気・電子機器の内部及び外部配線に使用される配線材として使用することができる。また、本発明の難燃性樹脂組成物は樹脂成形体とすることにより、前記した優れた効果を享受する樹脂成形体を提供することができる。かかる樹脂成形体の形状には特に制限はなく、例えば、電源プラグ、コネクター、スリーブ、ボックス、テープ基材、チューブ、シート等を挙げることができる。これらの樹脂成形体は、本発明の樹脂組成物を押出成形方法や射出成形方法等の従来公知の成形方法により成形加工することにより得ることができる。
【実施例】
【0085】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0086】
[実施例1〜実施例5、参考例6、実施例7〜実施例17、比較例1〜比較例11]
表1及び表2に組成を示す各成分((A)樹脂成分、(B)難燃剤及び難燃助剤、(C)任意成分)を、バンバリーミキサーを用いて混合し、溶融混練した後、ペレット化して難燃性樹脂組成物(コンパウンド)を得た。
【0087】
なお、表1及び表2において、各成分の値(含有量)は、(A)樹脂成分である(a1)、(a2)、(a3)及び(a4)については、(A)樹脂成分全体((a1)、(a2)、(a3)及び(a4)の全体)を100質量%とした場合の質量%であり、(b1)、(b2)、(b3)及び(C)は、(A)樹脂成分の合計を100質量部とした場合の質量部である。
【0088】
得られた難燃性樹脂組成物(コンパウンド)をφ40mm押出機(L/D=25)にて、ダイス温度200℃(以下、フィーダー側へ、C3=200℃、C2=190℃、C1=170℃)、金属導体の予熱温度=100℃とした押出温度条件により、金属導体(錫めっき処理軟銅線、7本/φ0.26mm)上に、外径がφ2.46mm、絶縁厚さが0.84mmとなるように押出・被覆して絶縁電線を得た。
【0089】
表1及び表2に示す組成の各成分としては、以下のものを用いた。
【0090】
(A)樹脂成分:
(a1)エチレン−酢酸ビニル共重合体:
(1)エチレン−酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル(VA)含有量 33質量%)(商品名:エバフレックスEV180、三井・デュポンポリケミカル(株)製)
【0091】
(2)エチレン−酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル(VA)含有量 41質量%)(商品名:V9000、三井・デュポンポリケミカル(株)製)
【0092】
(3)エチレン−酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル(VA)含有量 80質量%)(商品名:レバプレン800HV、ランクセス社製)
【0093】
(a2)エチレン−αオレフィン共重合体:
(4)エチレン−1へキセン共重合体(商品名:カーネルKS240T、日本ポリエチレン(株)製)(密度 0.880g/cm
【0094】
(a3)不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂:
(5)マレイン酸変性ポリエチレン(商品名:アドテックスL6100M、日本ポリエチレン(株)製)
【0095】
(a4)プロピレン系樹脂:
(6)エチレン−プロピレンブロック共重合体(商品名:ノバテックBC8A、日本ポリプロ(株)製)(エチレン含有量 15質量%)
【0096】
(B)難燃剤及び難燃助剤:
(b1)水酸化マグネシウム:
(7)シランカップリング剤で表面処理された水酸化マグネシウム(商品名:キスマ5L、協和化学工業(株)製)
【0097】
(b2)水酸化アルミニウム:
(8)無処理水酸化アルミニウム(商品名:ハイジライトH42M、昭和電工(株)製)
【0098】
(b3)1,3,5−トリアジン誘導体化合物:
(9)メラミンシアヌレート(商品名:MC6000、日産化学工業(株)製)
【0099】
(C)任意成分:
(10)ヒンダードフェノール系酸化防止剤(商品名:イルガノックス1076、BASF社製)
【0100】
(11)ヒンダードフェノール系金属不活性剤(商品名:イルガノックスMD1024、BASF社製)
【0101】
(11)ポリエチレンワックス(商品名:AC−ポリエチレンNo.6、ハネウェル社製)
【0102】
(12)シリコーンガム(商品名:X−21−3043、信越ポリマー(株)製)
【0103】
[試験例1]
得られた実施例1〜実施例5、参考例6、実施例7〜実施例17、比較例1〜比較例11の絶縁電線について、下記に示したUL1581に準拠した試験方法を用いて、「(1)引張試験」、「(2)垂直燃焼試験(VW−1)」、「(3)加熱変形試験」、「(4)低温巻き付け試験」、「(5)絶縁抵抗試験」及び「(6)電線融着性」の各試験を実施して、比較・評価した。結果を表1(実施例)及び表2(比較例)に示した。
【0104】
また、絶縁電線製造時の押出成形性について、成形品の外観に問題がなかったもの(成形性が良好であったもの)を「○」、発泡を生じ外観が悪化したものを「×」として、あわせて比較・評価した。
【0105】
(1)引張試験:
絶縁電線から導体を抜き取った管状サンプルを準備し、標点距離25mm、引張速度500mm/分で、破断伸び(%)、破断強度(MPa)を測定した。破断強度が10.3MPa以上、破断伸びが150%以上を「○(合格)」とし、10.3MPa未満のものを「×」とした。なお、「○(合格)」のうち、特に、破断強度が12.0MPa以上、破断伸びが180%以上のものを「◎」とした。
【0106】
(2)垂直燃焼試験(VW−1)(難燃性):
絶縁電線サンプルを、たるみのない状態で垂直に張った状態のサンプル上部に指示旗、サンプル下部に綿を設置し、フードを外した状態で15秒の着火と60秒の離火を5回繰り返した。60秒以上のサンプルの燃焼、指示旗の燃焼及び綿の燃焼の全てが観察されなかったサンプルを「○(合格)」とし、それ以外を「×」とした。なお、「○(合格)」のうち、特に、着火1〜5回目のうち、全ての回が30秒以下の燃焼の場合を「◎」とした。
【0107】
(3)加熱変形試験(耐熱性):
UL1581に基づき、絶縁電線サンプルの絶縁材料の加熱変形特性を測定した。250gfの負荷荷重を、50%以下を「○(合格)」とし、50%を超えるものを「×」とした。なお、「○(合格)」のうち、特に、25%以下のものは「◎」とした。
【0108】
(4)低温巻き付け試験(耐寒性):
UL1581に基づき、絶縁電線サンプルを−10℃の環境下で4時間以上放置した後、同様に−10℃の環境下で冷却した、絶縁電線サンプル外径の2倍径を有する金属マンドレルに巻き付けた。巻き付け後に、絶縁材料にクラックが観察されなかったものを「○(合格)」とし、クラックが観察されたものを「×」とした。
【0109】
(5)絶縁抵抗試験(絶縁特性):
50mの絶縁電線サンプルを20℃の水槽に24時間浸漬させ、絶縁抵抗値を測定した。測定電圧、荷電時間、測定時間はそれぞれ500V、10秒、50秒で行った。絶縁抵抗値が10MΩ・km以上であるものを「○(合格)」とし、10MΩ・km未満のものを「×」とした。なお、「○(合格)」のうち、特に、50MΩ・km以上のものを「◎」とした。
【0110】
(6)電線融着性:
絶縁電線サンプルをボビンに巻き付け、60℃の環境下で24時間以上放置した。放置後、絶縁電線サンプル同士が融着せずにスムースに繰り出すことができたものを「○(合格)」とし、繰り出しが困難だったものを「×」とした。
【0111】
(実施例)
【表1】
【0112】
(比較例)
【表2】
【0113】
表1に示すように、本発明に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物で金属導体を被覆した実施例1〜実施例5、参考例6、実施例7〜実施例17の絶縁電線は、押出成形性も良好で絶縁電線の外観も問題なく、また、全ての項目に対して合格であり、UL1581を満足する高い機械的特性、難燃性、耐熱性、耐寒性、絶縁特性に加えて、高温環境下で電線同士が融着せず、取り扱い性に優れる絶縁電線であることが確認できた。なお、絶縁厚さを5.5mmとした実施例17は、他の実施例と比較して、若干ではあるが可撓性が悪かった。
【0114】
一方、表2に示すように、本発明の構成と比較して、(a1)エチレン−酢酸ビニル共重合体及び酢酸ビニル含有量が高い比較例1は、破断強度、耐寒性(低温巻き付け試験)、絶縁特性、電線融着性に、(a1)エチレン−酢酸ビニル共重合体の含有量及び酢酸ビニル含有量が低い比較例2は、難燃性(垂直燃焼試験)に、(a4)プロピレン系樹脂の含有量が高い比較例3は、破断伸びに、(a4)プロピレン系樹脂を含有しない比較例4は、耐熱性(加熱変性試験)に、それぞれ問題があった。
【0115】
また、本発明の構成と比較して、(b2)水酸化アルミニウムの含有量が高い比較例5は、押出成形性、破断強度及び破断伸びに、(b1)水酸化マグネシウムの含有量が高く、(b2)水酸化アルミニウムの含有量が低い比較例6及び(b1)水酸化マグネシウムの含有量が低い比較例7は、難燃性(垂直燃焼試験)に、(b1)水酸化マグネシウムの含有量が高い比較例8は、破断強度及び破断伸びに、(b3)1,3,5−トリアジン誘導体化合物の含有量が低い比較例9は、難燃性(垂直燃焼試験)に、(b3)1,3,5−トリアジン誘導体化合物の含有量が高い比較例10は、破断強度及び破断伸びに、(b2)水酸化アルミニウムを含有しない比較例11は、難燃性(垂直燃焼試験)に、それぞれ問題があった。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明は、UL1581を満足する高い機械的特性、難燃性等を兼ね備え、押出成形された後の外観も問題がない絶縁被覆材料等として利用することができ、産業上の利用可能性は高いものである。