(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6083313
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】全硬度又はマグネシウム硬度の測定装置及び測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 31/00 20060101AFI20170213BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20170213BHJP
【FI】
G01N31/00 T
G01N27/46 351A
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-95535(P2013-95535)
(22)【出願日】2013年4月30日
(65)【公開番号】特開2014-215281(P2014-215281A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2016年4月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】森 信太郎
(72)【発明者】
【氏名】志村 幸祐
【審査官】
三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−159749(JP,A)
【文献】
特開平9−304327(JP,A)
【文献】
特開2004−275898(JP,A)
【文献】
特開平10−276722(JP,A)
【文献】
特開平11−64323(JP,A)
【文献】
特開2002−112983(JP,A)
【文献】
特開2004−305069(JP,A)
【文献】
特開平10−332596(JP,A)
【文献】
渡邊智子,水道水の無機質,臨床栄養,2016年 7月 1日,Vol.129 No.1,Page.86-87
【文献】
MEIER P C,Direct potentiometric water hardness determination using ion-selective electrodes,Microchim Acta,1980年,Vol.1 No.5-6,Page.317-327
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 31/00
G01N 33/18
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料水のカルシウム硬度を測定可能であってその測定結果を出力する水質測定部と、
予め測定したカルシウム硬度と全硬度との関係又はカルシウム硬度とマグネシウム硬度との関係の記憶および読み出しが可能な記憶部と、
前記水質測定部から出力される測定結果と測定地域に応じて前記記憶部から読み出された係数とに基づいて演算を行い、前記試料水の全硬度又はマグネシウム硬度の推定値を出力する演算部と
を有する全硬度又はマグネシウム硬度の測定装置。
【請求項2】
請求項1において、前記水質測定部がカルシウムイオン電極であることを特徴とする全硬度又はマグネシウム硬度測定装置。
【請求項3】
水中のカルシウム硬度をカルシウムイオン電極で測定する工程と、
このカルシウム硬度と測定地域に応じた係数とを用いて全硬度又はマグネシウム硬度を演算する工程と
を有する全硬度又はマグネシウム硬度の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中の全硬度又はマグネシウム硬度(マグネシウムイオン濃度)の測定に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水を利用するプラントを安全かつ効率よく運転するためには、そのプラントに適した水質管理を行うことが必要であり、そのためには水質分析が重要であり、特に水中の硬度を管理することは重要である。なお、硬度とは、水中のカルシウムイオン(Ca
2+)およびマグネシウムイオン(Mg
2+)の合計の濃度を示す単位であって、CaCO
3に換算したmg/Lで表わされる(JIS硬度)。
【0003】
硬度成分のうち、マグネシウムは開放循環冷却水系の濃縮によりスケールとして付着することが知られている。特に、熱交換器でスケールの付着が進行すると、熱交換器における熱効率の低下や通水の悪化を引き起こし、放置すれば操業停止などの大きな障害の要因となるため、定期的な分析が求められている。
【0004】
現在までのところ、マグネシウム硬度を現場で連続的に測定する信頼性の高いセンサが提案されていない。例えば、特許文献1の第0028段落には、精製水製造用の原水中のカルシウムイオン濃度をイオン電極を用いて測定することが記載されているが、マグネシウムイオン濃度の測定方法については記載されていない。そのため、現場で採取したサンプルを、例えばJIS K0101法に従ってEDTA標準溶液による滴定でマグネシウムイオン濃度を測定している。
【0005】
しかしながら、この滴定法による分析は手動で行うため、時間と労力を要する。特許文献2には発色試薬を用いた全硬度測定方法が記載されているが、測定に手間がかかる。
【0006】
これら以外の方法として、2価陽イオン電極を用いる方法が検討されている。すなわち、2価陽イオン電極の電位より算出したカルシウムイオン濃度とマグネシウムイオンの濃度の和(全硬度)から、カルシウムイオン選択性電極の電位から求めたカルシウムイオン濃度を差し引くことでマグネシウムイオン濃度を算出する方法である。しかし、2価陽イオン電極は、測定値の信頼性が低く、実用に耐えられる性能を有していない問題がある(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−192373
【特許文献2】特表2004−518113
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】共立薬科大学研究年報No.16(1971)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、水中の全硬度又はマグネシウム硬度を容易に測定することができる方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、全国各地の開放循環冷却水系において2価陽イオン電極を用いて、全硬度を直接測定することを試みた。しかし、上述のように、2価陽イオン電極から直接算出した測定値と手分析(EDTA滴定法)による分析値との相関が悪く、実用上の使用は不可能であった(後述の比較例)。すなわち、2価陽イオン電極では全硬度やマグネシウムイオン濃度の直接測定が不可能なことを確認した。
【0011】
本発明者は、任意の地域における年間のカルシウムイオンと全硬度又はマグネシウム硬度との比率を確認した結果、各地域毎にこの比率は一定であり、ある地域において開放循環冷却水系のカルシウム濃度を測定することにより、その地域の開放循環冷却水系の全硬度とマグネシウムイオン濃度を推定することが可能であることを知見した。本発明はかかる知見に基くものである。
【0012】
本発明の全硬度又はマグネシウム硬度の測定装置は、試料水のカルシウム硬度を測定可能であってその測定結果を出力する水質測定部と、予め測定したカルシウム硬度と全硬度との関係又はカルシウム硬度とマグネシウム硬度との関係の記憶および読み出しが可能な記憶部と、前記水質測定部から出力される測定結果と測定地域に応じて前記記憶部から読み出された係数とに基づいて演算を行い、前記試料水の全硬度又はマグネシウム硬度の推定値を出力する演算部とを有する。
【0013】
前記水質測定部は、カルシウムイオン電極を備えることが好ましい。
【0014】
本発明の全硬度又はマグネシウム硬度の測定方法は、水中のカルシウム硬度をカルシウムイオン電極で測定する工程と、このカルシウム硬度と測定地域に応じた係数とを用いて全硬度又はマグネシウム硬度を演算する工程とを有する。
【発明の効果】
【0015】
対象とする水系において、カルシウム硬度と全硬度とは一定の関係にある。そのため、予めその地域のカルシウム硬度と全硬度又はマグネシウム硬度の関係を調べておくことにより、その地域における、水中のカルシウム硬度を測定すれば全硬度又はマグネシウム硬度を推定できる。なお、全硬度の推定値からカルシウム硬度測定値を差し引くことでもマグネシウム硬度を推定できる。
【0016】
本発明によれば、対象水系中のマグネシウム硬度を、精度良く簡便かつ迅速に連続して推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施の形態に係る全硬度又はマグネシウム硬度の測定装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0019】
全国の各地域に設置された開放循環冷却水系において、全硬度及びカルシウム硬度を測定したところ、地域によって硬度値は変化するが、全硬度とカルシウム硬度との比はその地域に応じ全測定期間(約10ヶ月間)を通じてほぼ一定であることを見出した。これは、開放循環冷却水系で用いる補給水は、その地域の水道水、地下水又は工業用水もしくはそれらを処理した水であり、当該水中の全硬度及びカルシウム硬度は一年を通じてほぼ一定であるためである。主な地域のデータを挙げると、表1の通りである。
【0021】
従って、カルシウムイオン電極を用いてある地域の水系のカルシウム硬度を求めると、このカルシウム硬度をその地域のb/aで除算する(カルシウム硬度にb/aの逆数a/bを乗算する)ことにより全硬度が求まる。この全硬度からカルシウム硬度測定値を減算する([全硬度]−[カルシウム硬度]を演算する)ことにより、マグネシウム硬度が求まる。
【0022】
なお、b/aが一定であることから、マグネシウム硬度(a−b)とカルシウム硬度(b)との比(a−b)/bも一定である。従って、地域に応じて[マグネシウム硬度/カルシウム硬度]比を予め求めておき、カルシウム硬度測定値に対しこの[マグネシウム硬度/カルシウム硬度]比を乗算することによってマグネシウム硬度を直ちに求めることもできる。
【0023】
図1は全硬度又はマグネシウム硬度の測定装置のブロック図であり、カルシウムイオン電極1の検出信号がA/D変換器2でデジタル信号に変換され、コンピュータ3の演算部4に入力される。この演算部4は、入力部6から与えられる地域情報に応じて記憶部5から上記(b/a)又は(a−b)/bなどの係数値を読み出し、全硬度又はマグネシウム硬度の演算を行い、その結果を液晶などよりなる表示部7に表示する。なお、記憶部5に対しては、地域毎の上記係数値が予め入力部6から入力されている。上記の演算結果は通信回線を通じて管理センター等に送信されてもよい。
【実施例】
【0024】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に示すが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0025】
[比較例1]従来法データ
全国の開放循環冷却水系の冷却水サンプルを収集し、2価陽イオン電極にて測定した値とキレート滴定にて測定した全硬度の値を比較した結果を
図2に示す。2価陽イオン電極および比較電極としてはオリオン社製93−32およびオリオン社製シングルジャンクション比較電極90−01をそれぞれ用いた。
【0026】
図2の通り、マグネシウムの測定値とキレート滴定値との間に相関関係は認められず、マグネシウムを用いたときには硬度測定値の信頼性は著しく低いことが認められた。
【0027】
[実施例1]
茨城県鹿島地区の実機循環冷却水について、年間を通じてカルシウム硬度(b)と全硬度(a)とを滴定法により測定し、その結果を
図2に示した。
図2の通り、b/a値は0.48〜0.63(平均0.55)であり、CV値は5%の範囲内で収まっていた。
【0028】
以上より、b/a値は年間を通して一定であり、カルシウム硬度から全硬度を推定できることが確認された。
【0029】
そこで、b/a=0.55を用い、カルシウム硬度から推定した全硬度と、実測全硬度との関係を求め、
図4に示した。
図4の通り、循環水、補給水とも、同一の直線状にあり、良好な相関関係を有していることが認められた。
【0030】
以上より、キレート滴定により求めた値と本発明法により求めた値とがほぼ一致する結果が得られることがわかる。このように、本発明により水中の全硬度又はマグネシウム硬度を、連続して、精度良く、簡便に測定できることがわかる。
【0031】
なお、実施例では、循環水をバッチでサンプリングしたものであるが、循環水ラインにバイパスを設け、そこに設置したカルシウムイオン電極や自動滴定装置の値をもとに全硬度の値を推定しても良い。また、オンラインで測定する場合には、測定結果に基づき、薬注制御機器やブロー制御機器と連携させても良い。
【符号の説明】
【0032】
1 カルシウムイオン電極
4 演算部
5 記憶部