(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の水系導電性塗料について説明する。本発明の水系導電性塗料は、燃料電池セパレーターを形成するために用いる水系導電性塗料であって、前記水系導電性塗料は、導電性材料、バインダー及び水を含み、前記導電性材料は炭素系材料であって、前記導電性材料の含有量は前記水系導電性塗料中、50〜75wt%であり、前記バインダーは、ヨウ素価が20以下のアクリロニトリル・ブタジエン共重合体を含むことを特徴とする。
【0011】
(導電性材料)
本発明の水系導電性塗料において導電性材料としては、カーボン等を用いる。カーボンとしては、黒鉛、カーボンブラック等を用いることができ、黒鉛とカーボンブラックとを併用することが好ましい。黒鉛とカーボンブラックとを併用する場合には、黒鉛/カーボンブラックの重量比が90:10〜60:40であることが好ましい。黒鉛の比率が小さすぎると得られる水系導電性塗料の粘度が高くなり、基材上での流動性が失われるため、塗布に適さない。また、黒鉛の比率が大きすぎると形成される塗膜の平滑度が低下し、その結果接触抵抗の値が高くなる。
【0012】
また、水系導電性塗料中のカーボン量、即ちカーボンの固形分濃度は、水系導電性塗料100重量部中、通常50〜75重量部、好ましくは53〜73重量部、より好ましくは55〜70重量部である。この範囲よりも固形分濃度が低くなると水系導電性塗料を乾燥させるための時間やエネルギーが増加し、導電性塗膜を得るためのコストが増加する。さらに、得られる導電性塗膜の厚さを制御することが困難となる。
【0013】
また、この範囲よりも固形分濃度が高くなると水系導電性塗料の粘度が増加し、流動性が失われるため、塗布に適さない。また、この場合に導電性塗膜を形成したとしても、導電性塗膜にクラックが生じる。
【0014】
(バインダー)
本発明の水系導電性塗料においてバインダーは、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体(NBR)を含んでなる。また、NBRのヨウ素価は、通常20以下、好ましくは18以下、より好ましくは15以下である。ここで、ヨウ素価はJIS K6235;2006に従って求められる。
【0015】
NBRは、アクリロニトリルと1,3−ブタジエンとの共重合体である。共重合を行う際に用いるアクリロニトリルと1,3−ブタジエンとの重量比は5:95〜30:70であることが好ましい。アクリロニトリルの割合が大きすぎると導電性塗膜を形成した場合に導電性塗膜にクラックが生じる。また、アクリロニトリルの割合が小さすぎるとセパレーターの基材との剥離強度が低下する。
【0016】
また、NBRの製造方法は特に限定されず、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。重合反応としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などいずれの反応も用いることができる。重合に用いる重合開始剤としては、たとえば過酸化ラウロイル、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシピバレート、3,3,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイドなどの有機過酸化物、α,α'−アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物、または過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムなどが挙げられる。
【0017】
また、本発明においては、ヨウ素価を上述の範囲としたアクリロニトリル・ブタジエン共重合体を水素添加反応により得ることが好ましい。水素添加反応においては、上記重合法により得られた不飽和重合体(アクリロニトリル及び1,3−ブタジエンを含んでなる共重合体)中の共役ジエンモノマーを形成し得る重合単位に由来する炭素−炭素不飽和結合のみを選択的に水素化する。
【0018】
不飽和重合体中の共役ジエンモノマーを形成し得る重合単位に由来する炭素−炭素不飽和結合のみを選択的に水素化する選択的水素化方法としては、公知の方法によればよく、油層水素化法、水層水素化法のいずれも可能であるが、得られるバインダーを微小粒子とすることができるため水層水素化法が好ましく、水層水素化法のうち、前記のNBRの重合も乳化重合法などにより水層で行い、得られたNBRの水分散体をそのままの水層で水素化する水層直接水素化法がさらに好ましい。
【0019】
本発明に用いるバインダーの製造を油層水素化法で行う場合には、次の方法により行うことが好ましい。すなわち、まず、乳化重合により調整した不飽和重合体の分散液を塩析により凝固させ、濾別および乾燥を経て、有機溶媒に溶解する。次いで、有機溶媒に溶解させた不飽和重合体について水素添加反応(油層水素化法)を行い、水素化物とし、得られた水素化物溶液を凝固、濾別および乾燥を行うことにより、本発明に用いるバインダーを得る。
【0020】
なお、乳化剤として、カプリン酸アルカリ金属塩を用いる場合には、不飽和重合体の分散液の塩析による凝固、濾別および乾燥の各工程において、最終的に得られるバインダー中におけるカプリン酸塩の量が0.01〜0.4重量%となるように調製することが好ましい。たとえば、分散液の塩析による凝固において、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硫酸アルミニウムなど公知の凝固剤を使用することができるが、好適には、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウムなどのアルカリ土類金属塩;または、硫酸アルミニウムなどの第13族金属塩;を用いることにより、不飽和重合体中に含有されるカプリン酸塩の量を低減させることができる。そのため、凝固剤として、アルカリ土類金属塩または第13族金属塩を用いることが好ましく、アルカリ土類金属塩を用いることがより好ましく、その使用量や凝固温度を制御することにより、最終的に得られるバインダー中におけるカプリン酸塩の量を上記範囲とすることができる。凝固剤の使用量は、水素化する不飽和重合体の量を100重量部とした場合に、好ましくは1〜100重量部、より好ましくは5〜50重量部、特に好ましくは10〜50重量部である。凝固温度は10〜80℃が好ましい。
【0021】
油層水素化法の溶媒としては、不飽和重合体を溶解する液状有機化合物であれば特に限定されないが、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、シクロヘキサノンおよびアセトンなどが好ましく使用される。
【0022】
油層水素化法の触媒としては、公知の選択的水素化触媒であれば限定なく使用でき、パラジウム系触媒およびロジウム系触媒が好ましく、パラジウム系触媒(酢酸パラジウム、塩化パラジウムおよび水酸化パラジウムなど)がより好ましい。これらは2種以上併用してもよいが、ロジウム系触媒とパラジウム系触媒とを組み合わせて用いる場合には、パラジウム系触媒を主たる活性成分とすることが好ましい。これらの触媒は、通常、担体に担持させて使用される。担体としては、シリカ、シリカ−アルミナ、アルミナ、珪藻土、活性炭などが例示される。触媒使用量は、水素化する不飽和重合体の量に対して、水素化触媒の金属量換算で、好ましくは10〜5000ppm、より好ましくは100〜3000ppmである。
【0023】
油層水素化法の水素化反応温度は、好ましくは0〜200℃、より好ましくは10〜100℃であり、水素圧力は、好ましくは0.1〜30MPa、より好ましくは0.2〜20MPaであり、反応時間は、好ましくは1〜50時間、より好ましくは2〜25時間である。
【0024】
あるいは、本発明に用いるバインダーを水層水素化法で製造する場合には、乳化重合により調製した不飽和重合体の分散液に、必要に応じて水を加えて希釈し、水素添加反応を行うことが好ましい。
【0025】
ここで、水層水素化法には、水素化触媒存在下の反応系に水素を供給して水素化する(I)水層直接水素化法と、酸化剤、還元剤および活性剤の存在下で還元して水素化する(II)水層間接水素化法とがある。
【0026】
(I)水層直接水素化法においては、水層の不飽和重合体の濃度(分散液状態での濃度)は、凝集を防止するために40重量%以下とすることが好ましい。
【0027】
また、用いる水素化触媒としては、水で分解しにくい化合物であれば特に限定されない。水素化触媒の具体例として、パラジウム触媒では、ギ酸、プロピオン酸、ラウリン酸、コハク酸、オレイン酸、フタル酸などのカルボン酸のパラジウム塩;塩化パラジウム、ジクロロ(シクロオクタジエン)パラジウム、ジクロロ(ノルボルナジエン)パラジウム、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸アンモニウムなどのパラジウム塩素化物;ヨウ化パラジウムなどのヨウ素化物;硫酸パラジウム・二水和物などが挙げられる。これらの中でもカルボン酸のパラジウム塩、ジクロロ(ノルボルナジエン)パラジウムおよびヘキサクロロパラジウム(IV)酸アンモニウムが特に好ましい。水素化触媒の使用量は、適宜定めればよいが、水素化する不飽和重合体の量に対して、水素化触媒の金属量換算で、好ましくは5〜6000ppm、より好ましくは10〜4000ppmである。
【0028】
水層直接水素化法における反応温度は、好ましくは0〜300℃、より好ましくは20〜150℃、特に好ましくは30〜100℃である。反応温度が低すぎると反応速度が低下するおそれがあり、逆に、高すぎるとニトリル基の水素添加反応などの副反応が起こる可能性がある。水素圧力は、好ましくは0.1〜30MPa、より好ましくは0.5〜20MPaである。反応時間は反応温度、水素圧、目標の水素化率などを勘案して選定される。
【0029】
一方、(II)水層間接水素化法では、水層の不飽和重合体の濃度(分散液状態での濃度)は、好ましくは1〜50重量%、より好ましくは1〜40重量%とする。
【0030】
水層間接水素化法で用いる酸化剤としては、酸素、空気、過酸化水素などが挙げられる。これら酸化剤の使用量は、炭素−炭素二重結合に対するモル比(酸化剤:炭素−炭素二重結合)で、好ましくは0.1:1〜100:1、より好ましくは0.8:1〜5:1である。
【0031】
水層間接水素化法で用いる還元剤としては、ヒドラジン、ヒドラジン水和物、酢酸ヒドラジン、ヒドラジン硫酸塩、ヒドラジン塩酸塩などのヒドラジン類またはヒドラジンを遊離する化合物が用いられる。これらの還元剤の使用量は、炭素−炭素二重結合に対するモル比(還元剤:炭素−炭素二重結合)で、好ましくは0.1:1〜100:1、より好ましくは0.8:1〜5:1である。
【0032】
水層間接水素化法で用いる活性剤としては、銅、鉄、コバルト、鉛、ニッケル、鉄、スズなどの金属のイオンが用いられる。これらの活性剤の使用量は、炭素−炭素二重結合に対するモル比(活性剤:炭素−炭素二重結合)で、好ましくは1:1000〜10:1、より好ましくは1:50〜1:2である。
【0033】
水層間接水素化法における反応は、0℃から還流温度までの範囲内で加熱することにより行い、これにより水素化反応が行われる。この際における加熱範囲は、好ましくは0〜250℃、より好ましくは20〜100℃、特に好ましくは40〜80℃である。
【0034】
水層での直接水素化法、間接水素化法のいずれにおいても、水素化に続いて、塩析による凝固、濾別、乾燥を行うことが好ましい。塩析は、前記油層水素化法における不飽和重合体の分散液の塩析と同様に、水素添加反応後のバインダー中におけるカプリン酸塩の量を制御するために、上述したアルカリ土類金属塩または第13族金属塩を用いることが好ましく、アルカリ土類金属塩を用いることが特に好ましい。また、凝固に続く濾別および乾燥の工程はそれぞれ公知の方法により行うことができる。
【0035】
また、本発明に用いるバインダーの製造方法は、水素添加反応を2段階以上に分けて実施する方法が特に好ましい。同一量の水素化触媒を用いても、水素添加反応を2段階以上に分けて実施することにより、水素添加反応効率を高めることができる。即ち、共役ジエンモノマーを形成し得る重合単位を直鎖アルキレン構造単位へ転換する際に、バインダーのヨウ素価を、より低くすることが可能となる。
【0036】
また、2段階以上に分けて水素添加反応を行なう場合、第1段階の水素添加反応率(水添率) (%)で、50%以上の水素化を達成することが好ましく、70%以上の水素化を達成することがより好ましい。即ち、下式で得られる数値を水素添加反応率(%)とするとき、この数値が50%以上となることが好ましく、70%以上となることがより好ましい。
【0037】
水素添加反応率(水添率)(%)
=100×(水素添加反応前の炭素−炭素二重結合量−水素添加反応後の炭素−炭素二重結合量)/(水素添加反応前の炭素−炭素二重結合量)
なお、炭素−炭素二重結合量は、NMRを用いて分析することができる。
【0038】
水素添加反応終了後、分散液中の水素化触媒を除去する。その方法として、例えば、活性炭、イオン交換樹脂等の吸着剤を添加して攪拌下で水素化触媒を吸着させ、次いで分散液をろ過又は遠心分離する方法を採ることができる。水素化触媒を除去せずに分散液中に残存させることも可能である。
【0039】
また、本発明に用いられるバインダーが分散媒に粒子状で分散している場合におけるバインダーの平均粒子径(分散粒子径)は、好ましくは0.05〜0.4μm、より好ましくは0.1〜0.3μmである。
【0040】
本発明に用いるバインダーは、分散媒にバインダーが分散された分散液または溶解された溶液の状態で使用される。分散媒としては、環境の観点に優れ、乾燥速度が速いという観点から水を用いることが好ましい。即ち、本発明に用いるバインダーは、本発明の水系導電性塗料において、水分散体として調製して用いることが好ましい。
【0041】
本発明の水系導電性塗料において用いられるバインダーの量は固形分として、導電性材料100重量部に対して好ましくは1.5〜10重量部、より好ましくは1.8〜8重量部、さらに好ましくは2〜6重量部である。
【0042】
なお、本発明に用いるバインダーは、上記NBR以外に、アクリレート系重合体等の高分子化合物を含んでいてもよい。アクリレート系重合体は、一般式(1):CH
2=CR
1−COOR
2(式中、R
1は水素原子又はメチル基を、R
2はアルキル基又はシクロアルキル基を表す。R
2はさらにエーテル基、水酸基、カルボン酸基、フッ素基、リン酸基、エポキシ基、アミノ基を有していてもよい。)で表される化合物由来の単量体単位を含む重合体、具体的には、一般式(1)で表される化合物の単独重合体、又は前記一般式(1)で表される化合物を含む単量体混合物を重合して得られる共重合体である。
【0043】
一般式(1)で表される化合物の具体例としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレートなどのアクリル酸アルキルエステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n−テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレートなどのメタクリル酸アルキルエステルが挙げられる。これら(メタ)アクリル酸エステルは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、2−エチルヘキシルアクリレート、n−ブチルアクリレートを用いることが好ましい。
【0044】
なお、本発明において、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」又は「メタアクリル」を意味する。
【0045】
また、アクリレート系重合体としては、上述した(メタ)アクリル酸エステルと、これと共重合可能な単量体との共重合体であってもよく、このような共重合可能な単量体としては、たとえば、α,β−不飽和ニトリル化合物、酸成分を有するビニル化合物などが挙げられる。
【0046】
α,β−不飽和ニトリル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリルなどが挙げられる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
また、酸成分を有するビニル化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などが挙げられる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、アクリル酸を用いることが好ましい。
【0048】
(水系導電性塗料)
本発明の水系導電性塗料は、上述の導電性材料及びバインダーを混合することにより得られる。導電性材料及びバインダーの混合方法としては、特に限定されないが、例えば、バッチ式混練機でバインダーの分散液及び導電性材料を混練することにより得られる。また、混合する際に、分散剤としてポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどの水溶性ポリマー等を添加して混合してもよい。
【0049】
(添加剤)
本発明の水系導電性塗料には、必要に応じてさらに添加剤を加えてもよい。添加剤としては、シリコン系やフッ素系の消泡剤、ポリアクリル酸や添加剤としてのポリビニルアルコールなどの粘度調整剤等が挙げられる。水系導電性ペーストの製造方法としては、各材料をディスパーやロール、バンバリーミキサー、押し出し機、などの混錬機を用いて混錬する方法が挙げられる。好ましく用いられる混練機は、バンバリーミキサーなどの密閉式混錬機である。
【0050】
(導電性塗膜)
本発明の水系導電性塗料を、燃料電池のセパレーターの基材として用いられる金属材料または炭素材料等の上に塗布して乾燥することにより導電性塗膜を形成することができる。導電性塗膜の抵抗値としては5mΩcm以下が好ましく、4mΩcm以下であることがより好ましい。導電性塗膜の抵抗値が大きすぎると燃料電池のセパレーターとして用いるときに発電効率が低下する。また、80℃、80%RH、1000時間の湿熱処理を行った後の導電性塗膜の抵抗値の変化率は10%以下であることが好ましい。熱処理を行った後の導電性塗膜の抵抗値の変化率が大きすぎると燃料電池のセパレーターとして用いた場合の寿命が短くなる。
【0051】
また、塗布方法としては、例えば、ダイコート法、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗りなどが挙げられる。基材上に導電性塗膜を形成することにより、燃料電池のセパレーター、電磁波吸収体、導電回路、導電コネクタ等として用いることができる。
【0052】
本発明によれば、耐熱性に優れた導電性塗膜を有する燃料電池セパレーターを形成するために好適な導電性塗料を提供することができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例における部および%は、特に断りのない限り重量基準である。実施例および比較例における各特性は、下記の方法に従い測定した。
【0054】
(流動性:水系導電性塗料を塗布乾燥したシートの外観)
実施例および比較例で得られた水系導電性塗料を用いてPETフィルム上に、ギャップ500μmのドクターブレードで塗膜を形成し、90℃で1時間乾燥して導電性塗料シートを得た。この導電性塗料シート表面の外観を目視し、亀裂等の有無および塗工膜厚の安定性を判断した。なお、表1においては亀裂等の欠陥がない場合には○、亀裂等の欠陥がある場合には×として示した。
【0055】
(密着性)
実施例および比較例で得られた水系導電性塗料を用いてSUS板にギャップ500μmのドクターブレードで塗膜を形成し、90℃で1時間乾燥して導電性塗料シートを得た。この導電性塗料シートをカッターナイフで直線状に切断し、端面からのカーボンの脱落の有無を観察した。脱落のないものを○、一部脱落がみられるものを×とした。
【0056】
(抵抗値)
実施例および比較例で得られた水系導電性塗料を用いてPETフィルム上に、ギャップ500μmのドクターブレードで塗膜を形成し、90℃で1時間乾燥して導電性塗料シートを得た。この導電性塗料シートを所定の大きさに切り出し、金属端子を表面に接触させて体積抵抗率を測定した。体積抵抗率は、500mΩcm以下であると良好であることを示している。
【0057】
(耐湿熱性試験)
抵抗値測定を行った前記試験片を、80℃、80%RHの恒温恒湿槽を用いて1000時間の湿熱処理を行ったのち、室温で乾燥させ湿熱処理後の抵抗値を測定した。この湿熱処理後の抵抗値の、上記抵抗値(湿熱処理前の抵抗値)に対する変化率(%)を求めた。
【0058】
(平滑性:表面粗さ)
実施例および比較例で得られた水系導電性塗料を用いてPETフィルム上に、ギャップ500μmのドクターブレードで塗膜を形成し、90℃で1時間乾燥して導電性塗料シートを得た。この導電性塗料シートの表面の粗さをレーザー式深度計で測定した。JIS B0633:'01に準拠してRaを求めた。Raは、20μm以下であると平滑であることを示している。
【0059】
(実施例1)
(バインダーポリマーAおよびバインダー水分散液Aの製造)
攪拌装置を備えたステンレス製耐圧反応器に、シードラテックス(スチレン38部、メチルメタアクリレート60部及びメタクリル酸2部を重合して得られる、粒子径70nmの重合体粒子のラテックス)を固形分にて3部、アクリロニトリル20部、1,3−ブタジエン80部、およびイオン交換水100部、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム0.5部、を添加し、攪拌した。反応器を80℃に加温した。4%過硫酸カリウム水溶液10部を投入したのち、先の分散液を2時間かけて添加して重合した。添加終了後、反応温度を維持したまま1時間反応を継続した。重合転化率は97%であった。反応系を室温まで冷却して、重合反応を停止し、減圧して未反応単量体を除去した。イオン交換水を添加し、固形分濃度を45%、分散液のpHを7.5に調整することにより、NBRの分散液を得た。なお、分散液のpHの調整は、10%アンモニア水溶液を添加することにより行った。
【0060】
次に水素添加反応を行った。即ち、得られた重合体に対して水を用いて全固形分濃度を12重量%に調整した400ミリリットル(全固形分48グラム)の溶液を、撹拌機付きの1リットルオートクレーブに投入し、窒素ガスを10分間流して重合体中の溶存酸素を除去した後、水素化触媒として、酢酸パラジウム75mgを、Pdに対して4倍モルの硝酸を添加した水180mlに溶解して、添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素添加反応(「第一段階の水素添加反応」という)させた。
次いで、オートクレーブを大気圧にまで戻し、更に水素化触媒として、酢酸パラジウム25mgを、Pdに対して4倍モルの硝酸を添加した水60mlに溶解して、添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素添加反応(「第二段階の水素添加反応」という)させた。
【0061】
その後、内容物を常温に戻し、系内を窒素雰囲気とした後、エバポレータを用いて、固形分濃度が40%となるまで濃縮してバインダーAおよびバインダー水分散液Aを得た。なお、得られたバインダーポリマーAのヨウ素価は12であった。また、粒子径測定機(コールターLS230:コールター社製)を用いて、測定したバインダーポリマーAの平均粒子径(分散粒子径)は、130
nmであった。
【0062】
(水系導電性塗料の製造)
得られたバインダー水分散液Aおよびカーボンをバッチ式混錬機で30分間混錬して水系導電性塗料を作製した。ここで、得られる水系導電性塗料100部に対してカーボンを60部用いた。また、バインダーポリマーAをカーボン100部に対して5部用いた。また、カーボンとしては黒鉛70部に対してカーボンブラックを30部用いた。
【0063】
(実施例2)
(バインダーポリマーB及びバインダー水分散液Bの製造)
重合に用いる単量体混合物の組成をアクリロニトリル30部、1,3−ブタジエン70部とした以外は実施例1と同様にバインダーポリマーBの製造を行い、バインダー水分散液Bを得た。なお、得られたバインダーポリマーBのヨウ素価は13であった。また、得られたバインダーポリマーBの平均粒子径(分散粒子径)は、150
nmであった。
【0064】
(水系導電性塗料の製造)
得られたバインダー水分散液Bおよびカーボンをバッチ式混錬機で30分間混錬して水系導電性塗料を作製した。ここで、得られる導電性塗料100部に対してカーボンを62部用いた。また、バインダーポリマーBをカーボン100部に対して5部用いた。また、カーボンとしては黒鉛80部に対してカーボンブラックを20部用いた。
【0065】
(実施例3)
(バインダーポリマーCおよびバインダー水分散液Cの製造)
水素添加反応において第二段階の水素添加反応時間を12時間とした以外は、実施例1と同様にバインダーポリマーCの製造を行い、バインダー水分散液Cを得た。なお、得られたバインダーポリマーCのヨウ素価は8であった。また、得られたバインダーポリマーCの平均粒子径(分散粒子径)は、160
nmであった。
【0066】
(水系導電性塗料の製造)
得られたバインダー水分散液Cおよびカーボンをバッチ式混錬機で30分間混錬して水系導電性塗料を作製した。ここで、得られる水系導電性塗料100部に対してカーボンを58部用いた。また、バインダーポリマーCをカーボン100部に対して6部用いた。また、カーボンとしては黒鉛70部に対してカーボンブラックを30部用いた。
【0067】
(実施例4)
(バインダーポリマーDおよびバインダー水分散液Dの製造)
重合に用いる単量体混合物の組成をアクリロニトリル30部、1,3−ブタジエン70部とした以外は実施例1と同様にバインダーポリマーDの製造を行い、バインダー水分散液Dを得た。なお、得られたバインダーポリマーDのヨウ素価は8であった。また、得られたバインダーポリマーDの平均粒子径(分散粒子径)は、150
nmであった。
【0068】
(水系導電性塗料の製造)
得られたバインダー水分散液Dおよびカーボンをバッチ式混錬機で30分間混錬して水系導電性塗料を作製した。ここで、得られる水系導電性塗料100部に対してカーボンを55部用いた。また、バインダーポリマーDをカーボン100部に対して3部用いた。また、カーボンとしては黒鉛70部に対してカーボンブラックを30部用いた。
【0069】
(実施例5)
(バインダーポリマーEおよびバインダー水分散液Eの製造)
攪拌装置を備えたステンレス製反応器に、シードラテックス(スチレン38部、メチルメタアクリレート60部及びメタクリル酸2部を重合して得られる、粒子径70nmの重合体粒子のラテックス)を固形分にて3部、ブチルアクリレート50部、2−エチルヘキシルアクリレート40部、アクリル酸10部、イオン交換水150部およびアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム0.5部を添加し、攪拌した。反応器を80℃に加温した。4%過硫酸カリウム水溶液10部を投入したのち、先の分散液を5時間かけて添加して重合した。添加終了後、反応温度を維持したまま3時間反応を継続した。重合転化率は93%であった。反応系を室温まで冷却して、重合反応を停止し、減圧して未反応単量体を除去した。イオン交換水を添加し、固形分濃度を45%、分散液のpHを7.5に調整することにより、バインダーポリマーEおよびバインダー水分散液Eを得た。なお、分散液のpHの調整は、10%アンモニア水溶液を添加することにより行った。
【0070】
(水系導電性塗料の製造)
得られたバインダー水分散液E、上記バインダー水分散液Aおよびカーボンをバッチ式混錬機で30分間混錬して水系導電性塗料を作製した。ここで、得られる水系導電性塗料100部に対してカーボンを55部用い、カーボン100部に対してバインダーポリマーAを1.5部、バインダーポリマーEを1.5部になるようにそれぞれバインダー水分散液A,Eを用いた以外は、実施例1と同様に水系導電性塗料の製造を行った。
【0071】
(参考例1)
(バインダーポリマーFおよびバインダー水分散液Fの製造)
攪拌装置を備えたステンレス製反応器に、シードラテックス(スチレン38部、メチルメタアクリレート60部及びメタクリル酸2部を重合して得られる、粒子径70nmの重合体粒子のラテックス)を固形分にて3部、ブチルアクリレート20部、2−エチルヘキシルアクリレート70部、アクリル酸10部、イオン交換水120部およびアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム0.5部を添加し、攪拌した。反応器を80℃に加温した。4%過硫酸カリウム水溶液10部を投入したのち、先の分散液を5時間かけて添加して重合した。添加終了後、反応温度を維持したまま3時間反応を継続した。重合転化率は93%であった。反応系を室温まで冷却して、重合反応を停止し、減圧して未反応単量体を除去した。イオン交換水を添加し、固形分濃度を45%、分散液のpHを7.5に調整することにより、バインダーポリマーFおよびバインダー水分散液Fを得た。なお、分散液のpHの調整は、10%アンモニア水溶液を添加することにより行った。
【0072】
(水系導電性塗料の製造)
得られたバインダー水分散液F、上記バインダー水分散液Aおよびカーボンをバッチ式混錬機で30分間混錬して水系導電性塗料を作製した。ここで、得られる水系導電性塗料100部に対してカーボンを30部用い、カーボン100部に対してバインダーポリマーAを2部、バインダーポリマーFを1部になるようにそれぞれバインダー水分散液A,Fを用いた以外は、実施例1と同様に水系導電性塗料の製造を行った。
【0073】
(比較例1)
(バインダーポリマーGおよびバインダー水分散液Gの製造)
水素添加反応において反応時間を15分とした以外は、実施例2と同様にバインダーポリマーの製造を行い、バインダーポリマーGおよびバインダー水分散液Gを得た。なお、得られたバインダーポリマーGのヨウ素価は40であった。また、得られたバインダーポリマーGの平均粒子径(分散粒子径)は、130
nmであった。
【0074】
(水系導電性塗料の製造)
得られたバインダーポリマー水分散液G及びカーボンをバッチ式混錬機で30分間混錬して水系導電性塗料を作製した。ここで、得られる水系導電性塗料100部に対してカーボンを55部用いた。また、バインダーポリマーGをカーボン100部に対して5部用いた。また、カーボンとしては黒鉛30部に対してカーボンブラックを70部用いた。
【0075】
(比較例2)
(バインダーポリマーAおよびバインダー水分散液Aの製造)
実施例1と同様にバインダーポリマーAおよびバインダー水分散液Aの製造を行い、バインダー水分散液Aを得た。
【0076】
(水系導電性塗料の製造)
水系導電性塗料100部に対してカーボンを80部用いた以外は、実施例1と同様に水系導電性塗料の製造を行った。
【0077】
(比較例3)
(バインダーポリマーAおよびバインダー水分散液Aの製造)
実施例1と同様にバインダーポリマーAおよびバインダー水分散液Aの製造を行い、バインダー水分散液Aを得た。
【0078】
(水系導電性塗料の製造)
水系導電性塗料100部に対してカーボンを30部用い、バインダーポリマーAをカーボン100部に対して3部用いた以外は、実施例1と同様に水系導電性塗料の製造を行った。
【0079】
実施例1〜6及び比較例1〜3において製造した水系導電性塗料の流動性、抵抗値、耐湿熱性試験による抵抗値変化及び平滑性について評価を行った結果を表1に示す。なお、比較例2については、耐湿熱性試験及び表面粗さにおける測定を行うことができなかった。
【0080】
【表1】
【0081】
表1に示すように、水系導電性塗料100部に対してカーボンの固形分濃度が50〜75部であり、さらにヨウ素価が20以下のアクリロニトリル・ブタジエン共重合体を含むバインダーを用いると、流動性、抵抗値、耐湿熱性試験による抵抗値変化及び平滑性がいずれも良好なものとなる。