【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0044】
〔実施例1〕
(1)種結晶の合成
水酸化テトラエチルアンモニウムを有機SDAとして用い、アルミン酸ナトリウムをアルミナ源、微粉状シリカ(Mizukasil P707)をシリカ源とする従来公知の方法により、165℃、96時間、攪拌加熱を行って、SiO
2/Al
2O
3比が24.0のベータ型ゼオライトを合成した。これを電気炉中で空気を流通しながら550℃で10時間焼成して、有機物を含まない結晶を製造した。この結晶を走査型電子顕微鏡により観察した結果、平均粒子径は280nmであった。この有機物を含まないベータ型ゼオライトの結晶を、種結晶として使用した。
【0045】
(2)OSDAフリーベータ型ゼオライトの合成
純水13.9gに、アルミン酸ナトリウム0.235gと、36%水酸化ナトリウム1.828gを溶解した。微粉状シリカ(Cab−O−sil、M−5)2.024gと、前記の種結晶0.202gを混合したものを、少しずつ前記の水溶液に添加して攪拌混合し、反応混合物を得た。この反応混合物におけるSiO
2/Al
2O
3比は70、Na
2O/SiO
2比は0.3、H
2O/SiO
2比は20であった。この反応混合物を60mLのステンレス製密閉容器に入れて、熟成及び攪拌することなしに140℃で34時間、自生圧力下で静置加熱した。密閉容器を冷却後、生成物を濾過、温水洗浄して白色粉末を得た。この生成物についてX線回折測定を行ったところ、不純物を含まないベータ型ゼオライトであることが確認された。組成分析の結果、そのSi/Alは6.4であった。このベータ型ゼオライトの走査型電子顕微鏡像を
図2(a)に示す。同図に示すとおり、このベータ型ゼオライトは略八面体の形状を有するものであることが判る。
【0046】
(3)イオン交換処理
得られたOSDAフリーベータ型ゼオライトを原料として用い、これを硝酸アンモニウム水溶液中に分散させた。OSDAフリーベータ型ゼオライトと硝酸アンモニウムと水との質量比は1:2:50とした。この分散液を80℃に加熱した状態下に24時間にわたって静置してイオン交換を行った。その後、濾過を行い、ベータ型ゼオライトを濾別した。イオン交換及び濾過の操作をもう一度繰り返した後、水洗して80℃で乾燥して、アンモニウム型のベータ型ゼオライトを得た。
【0047】
(4)水蒸気による曝露
アンモニウム型のベータ型ゼオライトを
図1に示す装置に充填した。充填量は1gとした。同図に示す加熱手段15によって700℃に加熱した状態下に、アルゴン−水蒸気の混合ガスを24時間にわたって連続して流通させた。水蒸気の分圧は12.2kPaとした。水蒸気による曝露で、ベータ型ゼオライトはアンモニウム型からプロトン型に変換された。
【0048】
(5)酸処理
水蒸気曝露後のベータ型ゼオライトを、0.1mol/Lの硝酸水溶液で酸処理した。硝酸水溶液の温度は80℃とした。硝酸水溶液は、ベータ型ゼオライト0.1gに対して10mL添加した。マグネチックスターラーで液を撹拌しながら2時間にわたって処理を行った。このようにして、目的とするベータ型ゼオライトを得た。得られたベータ型ゼオライトの走査型電子顕微鏡像を
図2(b)に示す。また、X線回折図を
図3に示す。更に、元素分析から求めたSi/Al比を
図3中に記載した。
図2(b)に示すとおり、このベータ型ゼオライトは略八面体の形状を有するものであることが判る。
【0049】
〔実施例2ないし5〕
実施例1において、酸処理に用いた硝酸水溶液の濃度を0.5mol/L(実施例2)、1.0mol/L(実施例3)、2.0mol/L(実施例4)及び8.0mol/L(実施例5)とした。これ以外は実施例1と同様にして、Si/Al比が高められたベータ型ゼオライトを得た。得られたベータ型ゼオライトのX線回折図を
図3に示す。また、元素分析から求めたSi/Al比を同図中に記載した。なお、図示していないが、これらの実施例で得られたベータ型ゼオライトは略八面体の形状を有するものであった。また、実施例3で得られたベータ型ゼオライトに関しては、BET比表面積及びミクロ孔容積を以下の条件で測定した。測定によって得られたBET比表面積は617m
2/gであり、ミクロ孔容積は0.17cm
3/gであった。
【0050】
〔BET比表面積及びミクロ孔容積の測定条件〕
使用装置:日本ベル社製全自動吸着測定装置 Belsorp−max−1−N
測定温度:−196℃(窒素),空気恒温槽温度:40℃
平衡吸着時間:300s
サンプル前処理条件:真空下(1.33×10
-4Pa)の加熱処理(400℃,2h)
【0051】
〔比較例1〕
実施例1において、OSDAフリーベータ型ゼオライトをイオン交換した後、水蒸気による曝露及び酸処理を行わず、直接熱処理してプロトン型のベータ型ゼオライトを得た。熱処理の条件は、温度650℃、時間60分、空気の流通量40cm
3/minとした。得られたベータ型ゼオライトのX線回折図を
図3に示す。また、元素分析から求めたSi/Al比を同図中に記載した。ベータ型ゼオライトは、熱処理によって八面体の形状を失っていた。
【0052】
〔比較例2〕
(1)有機SDA(OSDA)を用いたベータ型ゼオライトの合成
有機構造規定剤(OSDA)としての水酸化テトラエチルアンモニウム及び水酸化ナトリウムを含む水溶液を室温下に撹拌し、そこにコロイダルシリカを添加した。コロイダルシリカとしては、Ludox HS-40(シリカ分40%)を用いた。コロイダルシリカを添加してから30分間にわたり撹拌を行った後、硫酸アルミニウム水溶液を添加し、更に30分間にわたり撹拌を行い、ゲルを得た。このゲルの組成は、SiO
21モルに対して、Al
2O
3が0.033モル、水酸化ナトリウムが0.24モル、水酸化テトラエチルアンモニウムが0.50モル、水が20モルであった。このゲルをオートクレーブ中に入れて、150℃に加熱した状態下に7日間にわたり反応を行った。このようにしてベータ型ゼオライトを得た。このゼオライトを、大気雰囲気下に550℃で6時間にわたり加熱して、OSDAである水酸化テトラエチルアンモニウムを分解除去した。この生成物についてX線回折測定を行ったところ、不純物を含まないベータ型ゼオライトであることが確認された。組成分析の結果、そのSi/Alは13.1であった。このベータ型ゼオライトの走査型電子顕微鏡像を
図4(a)に示す。同図に示すとおり、このベータ型ゼオライトは不規則な形状を有するものであることが判る。
【0053】
(2)イオン交換
実施例1と同様の条件で、イオン交換を行った。水蒸気による曝露及び酸処理は行わなかった。イオン交換の後、温度650℃、時間60分、空気の流通量40cm
3/minで熱処理を行い、ベータ型ゼオライトをプロトン型に変換した。このようにして、ベータ型ゼオライトを得た。得られたベータ型ゼオライトのX線回折図を
図5に示す。また、元素分析から求めたSi/Al比を同図中に記載した。
【0054】
〔比較例3〕
比較例2において、イオン交換の後に、実施例3と同様の条件で、水蒸気による曝露及び酸処理を行った。このようにして、ベータ型ゼオライトを得た。得られたベータ型ゼオライトの走査型電子顕微鏡像を
図4(b)に示す。また、X線回折図を
図5に示す。また、元素分析から求めたSi/Al比を
図5中に記載した。
図4(b)に示すとおり、このベータ型ゼオライトは不規則な形状を有するものであることが判る。
【0055】
〔評価〕
実施例3及び比較例1ないし3で得られたベータ型ゼオライトについて、ヘキサンのクラッキング反応における触媒活性の評価1及び評価2を以下の手順で行った。評価1及び評価2を行うのに先立ち、粉末状のベータ型ゼオライトを成型・整粒した。具体的には、ベータ型ゼオライト粉末1〜2gを、内径20mmの錠剤成型器に詰めたのち、油圧プレスにて0.4MPaで加圧成型し、径が20mmのペレットを得た。このペレットをふるいの上で適度に粉砕し、500〜600μmに整粒してこれを触媒として用いた。
【0056】
〔評価1〕
触媒反応は固定床常圧流通反応装置を用いて行った。装置の概略図を
図6に示す。反応物であるヘキサンはシリンジポンプを用いてシリンジから供給し、キャリアガスである窒素(1%)−アルゴン混合ガスに導入した。シリンジポンプから供給されたヘキサンは、あらかじめ加熱した気化室に導入されるため蒸発して気体となり、この気体をキャリアガスに同伴した。反応装置のガスラインには内径2mmのステンレスパイプを用いて、ヒーターで外側から適温に加熱することで気化したヘキサンの凝縮を防いだ。反応管は内径8mmの石英管を用い、これに、先に整粒したベータ型ゼオライト触媒を100mg詰め、石英ウールで触媒層を反応管中央部に保持した。反応前処理として、空気流通下で約7℃/minの昇温速度で650℃まで昇温し、この雰囲気で1時間保持した。その後、ヘリウム流通に切り替えてから5℃/minで450℃まで反応管温度を下げた。450℃で安定したのを確認してから、ヘキサンを同伴したメタン−ヘリウム混合ガスを触媒層に供給し、触媒反応を開始した。ヘキサンの分圧は5.0kPaであった。反応開始から5分経過後に六方バルブを切り替えて、サンプリングループに溜めた反応後の生成物をガスクロマトグラフへ導入し、キャピラリーカラムで分離後、水素炎検出器(FID)にて各生成物・未反応物の定性・定量を行った。所定時間(70分)経過後、触媒層へのヘキサンの供給をやめ、ヘリウム流通に切り替えた。その後で、1〜2℃/minで500℃まで昇温して温度が安定したところで、再びヘキサンを供給し、触媒反応を行った。同様の操作を550及び600℃でも続けて行った。触媒反応時のW/Fはいずれの反応温度でも、19.8g−catalyst h(mol−hexane)
-1とした。600℃での触媒反応を停止した後には、ヘリウム流通下で自然放冷した。結果を、以下の表5及び
図7に示す。各生成物への選択率はカーボンベース(炭素原子換算)で求めた。プロピレン(C
3=)収率は、「転化率×プロピレン(C
3=)への選択率」から求めた。なお、反応温度は、固定床常圧流通反応装置の石英製反応管を外側から加熱するように設置したヒーターと、反応管との間で測定したものである。
【0057】
【表5】
【0058】
〔評価2〕
評価1において、反応温度を600℃に固定し、反応開始から5分経過後、55分経過後、105分経過後及び155分経過後に、反応後の生成物をガスクロマトグラフへ導入し、キャピラリーカラムで分離後、水素炎検出器(FID)にて各生成物・未反応物の定性・定量を行った。これ以外は評価1と同様とした。そして、転化率の時間依存性を求めた。結果を
図8に示す。
【0059】
表5並びに
図7及び
図8に示す結果から明らかなように、実施例3で得られたベータ型ゼオライトを触媒として用い、ヘキサンのクラッキングを行うと、化学原料として有用な物質であるC
3=(プロピレン)が、高収率で生成することが判る。また、ベータ型ゼオライトの失活が観察されないことも判る。これに対して、略八面体の形状を有するものの、低Si/Al比である比較例1のベータ型ゼオライトや、高Si/Al比であるものの、不規則な形状を有する比較例2のベータ型ゼオライトは、C
3=(プロピレン)の収率が、実施例3よりも低いものであった。しかも、失活が観察された。Si/Al比が非常に高いものの、不規則な形状を有する比較例3のベータ型ゼオライトは、C
3=(プロピレン)の収率は良好であるが、600℃での反応において経時的な失活が観察された。
【0060】
〔実施例6ないし18〕
以下の表6に記載の製造条件を採用した以外は実施例1と同様にして、ベータ型ゼオライトを得た。実施例6ないし8で得られたベータ型ゼオライトのX線回折図を
図9に示す。実施例9ないし16で得られたベータ型ゼオライトのX線回折図を
図10に示す。実施例17及び18で得られたベータ型ゼオライトのX線回折図を
図11に示す。また、元素分析から求めたSi/Al比をこれらの図中に記載した。なお、図示していないが、実施例6ないし18で得られたベータ型ゼオライトは略八面体の形状を有するものであった。以下の表6には、前記の実施例1ないし5で採用した製造条件についても併せて記載されている。
【0061】
【表6】
【0062】
図3及び
図9に示す実施例1ないし8のX線回折図の結果から、酸処理工程において、酸濃度を高くしたり、酸処理の時間を長くしたりすると、ベータ型ゼオライトのSi/Al比が高まることが判る。一方で、酸濃度を13.4mol/Lまで高め、かつ酸処理の時間を24時間まで長くしても、ベータ型ゼオライトの結晶構造の破壊が起こっていないことが判る。また、
図10における実施例9ないし16のX線回折図の結果から、特に、水蒸気曝露工程における水蒸気温度が550〜750℃の場合(実施例13ないし15)は、それよりも低温である150〜450℃の場合(実施例9ないし12)に比べて、ベータ型ゼオライトの結晶構造がより維持されていることが判る。また、
図3及び
図11に示す実施例3、17及び18のX線回折図の結果から、水蒸気曝露時間を、24時間(実施例3)から、2時間(実施例17)又は6時間(実施例18)と短くした場合は、ベータ型ゼオライトのSi/Al比は低下するものの、結晶性に変化がないことが判る。
【0063】
〔実施例19〕
(1)種結晶の合成
有機SDAとしてN,N,N’,N’−テトラエチルビシクロ[2.2.2]−オクト−7−エン−2,3:5,6−ジピロリジニウムジアイオダイドを用いた。米国特許第6049018号明細書の記載にしたがって、水酸化アルミニウムをアルミナ源、コロイダルシリカをシリカ源、水酸化カリウムをアルカリ源として反応混合物を調製し、160℃で16日間静置法で加熱した。生成物を空気中で540℃で8時間加熱して焼成して得られたMSE型ゼオライトを種結晶とした。そのSi/Al比は12.0であった。この有機物を含まないMSE型ゼオライトの結晶を、種結晶として使用した。
【0064】
(2)OSDAフリーMSE型ゼオライトの合成
純水10.74gに、アルミン酸ナトリウム0.096gと、36%水酸化ナトリウム2.147gを溶解して水溶液を得た。微粉状シリカ(Cab−O−Sil、M−5)2.022gと、0.202gの種結晶とを混合したものを、前記の水溶液に少しずつ添加して攪拌混合して反応混合物を得た。この反応混合物におけるSiO
2/Al
2O
3比は100、(Na
2O+K
2O)/SiO
2比は0.3、K
2O/(Na
2O+K
2O)比は0、H
2O/SiO
2比は20であった。この反応混合物と種結晶の混合物を60ccのステンレス製密閉容器に入れて、熟成及び攪拌することなしに140℃で60時間、自生圧力下で静置加熱した。密閉容器を冷却後、生成物を濾過、温水洗浄して白色粉末を得た。この生成物についてX線回折測定を行ったところ、MSE型ゼオライトであることが確認された。組成分析の結果、そのSi/Alは6.8であった。
【0065】
(3)イオン交換処理
得られたOSDAフリーMSE型ゼオライトを原料として用い、これを硝酸アンモニウム水溶液中に分散させた。OSDAフリー
MSE型ゼオライトと硝酸アンモニウムと水との質量比は1:2:50とした。この分散液を80℃に加熱した状態下に24時間にわたって静置してイオン交換を行った。その後、濾過を行い、
MSE型ゼオライトを濾別した。イオン交換及び濾過の操作をもう一度繰り返した後、水洗して80℃で乾燥して、アンモニウム型のMSE型ゼオライトを得た。
【0066】
(4)水蒸気による曝露
アンモニウム型のMSE型ゼオライトを
図1に示す装置に充填した。充填量は1gとした。同図に示す加熱手段15によって700℃に加熱した状態下に、アルゴン−水蒸気の混合ガスを24時間にわたって連続して流通させた。水蒸気の分圧は12.2kPaとした。水蒸気による曝露で、MSE型ゼオライトはアンモニウム型からプロトン型に変換された。
【0067】
(5)酸処理
水蒸気曝露後の
MSE型ゼオライトを、6.0mol/Lの硝酸水溶液で酸処理した。硝酸水溶液の温度は80℃とした。硝酸水溶液は、MSE型ゼオライト0.1gに対して10mL添加した。マグネチックスターラーで液を撹拌しながら2時間にわたって処理を行った。このようにして、目的とするMSE型ゼオライトを得た。得られた
MSE型ゼオライトのX線回折図を
図12に示す。元素分析から求めたSi/Al比は62.9であった。
【0068】
〔比較例4〕
実施例19において、OSDAフリーMSE型ゼオライトをイオン交換した後、水蒸気による曝露及び酸処理を行わず、直接熱処理してプロトン型のMSE型ゼオライトを得た。熱処理の条件は、温度650℃、時間60分、空気の流通量40cm
3/minとした。得られたMSE型ゼオライトのX線回折図を
図12に示す。また、元素分析から求めたSi/Al比は6.5であった。
【0069】
〔比較例5〕
実施例19において、OSDAフリーMSE型ゼオライトをイオン交換し、次いで水蒸気で曝露した後、酸処理を行わず、直接熱処理してプロトン型のMSE型ゼオライトを得た。熱処理の条件は、温度650℃、時間60分、空気の流通量40cm
3/minとした。得られたMSE型ゼオライトのX線回折図を
図12に示す。また、元素分析から求めたSi/Al比は6.8であった。
【0070】
〔評価〕
実施例19並びに比較例4及び5で得られたMSE型ゼオライトについて、ヘキサンのクラッキング反応における触媒活性の評価を、上述した評価2に従い行った。転化率の時間依存性を
図13に示す。また、各生成物への選択率及びプロピレンの収率を表7に示す。
【0071】
【表7】
【0072】
図13及び表7に示す結果から明らかなように、実施例19で得られたMSE型ゼオライトを触媒として用い、ヘキサンのクラッキングを行うと、化学原料として有用な物質であるC
3=(プロピレン)が、高収率で生成することが判る。また、MSE型ゼオライトの失活が観察されないことも判る。これに対して、イオン交換処理のみを行った比較例4のMSE型ゼオライトや、イオン交換処理及び水蒸気暴露処理のみを行い酸処理を行わなかった比較例5のMSE型ゼオライトでは、プロピレンの収率が低く、しかも失活が観察された。