(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6083991
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】チューインガム用香味供給組成物及び香味供給組成物含有チューインガム
(51)【国際特許分類】
A23G 4/00 20060101AFI20170213BHJP
【FI】
A23G3/30
【請求項の数】8
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-211674(P2012-211674)
(22)【出願日】2012年9月26日
(65)【公開番号】特開2014-64510(P2014-64510A)
(43)【公開日】2014年4月17日
【審査請求日】2015年8月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(72)【発明者】
【氏名】白井 祐介
(72)【発明者】
【氏名】中谷 充孝
【審査官】
川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−245638(JP,A)
【文献】
特開平05−038258(JP,A)
【文献】
特表2008−539762(JP,A)
【文献】
特開2010−143952(JP,A)
【文献】
特開2013−085553(JP,A)
【文献】
特開昭47−30871(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G 4/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チューインガム用香味供給組成物の製造方法であって、ポリ酢酸ビニル樹脂(但し平均分子量が45000〜100000g/molのものを除く)、乳化剤、ワックス、香料および/または呈味料を100〜150℃で加熱混合し、冷却固化後、粉砕して得ることを特徴とするチューインガム用香味供給組成物の製造方法。
【請求項2】
乳化剤のHLBが7〜9であることを特徴とする請求項1に記載のチューインガム用香味供給組成物の製造方法。
【請求項3】
乳化剤がアセチル化モノグリセリン脂肪酸エステルであることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のチューインガム用香味供給組成物の製造方法。
【請求項4】
ワックスの融点が60℃〜80℃であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のチューインガム用香味供給組成物の製造方法。
【請求項5】
チューインガムの製造方法であって、ポリ酢酸ビニル樹脂(但し平均分子量が45000〜100000g/molのものを除く)、乳化剤、ワックス、香料および/または呈味料を100〜150℃で加熱混合し、冷却固化後、粉砕し、該粉砕物をガムベースに添加混合し、成形することを特徴とするチューインガムの製造方法。
【請求項6】
粉砕物中の乳化剤のHLBが7〜9であることを特徴とする請求項5に記載のチューインガムの製造方法。
【請求項7】
粉砕物中の乳化剤がアセチル化モノグリセリン脂肪酸エステルであることを特徴とする請求項5または6のいずれかに記載のチューインガムの製造方法。
【請求項8】
粉砕物中のワックスの融点が60℃〜80℃であることを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載のチューインガムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チューインガムの香味を持続させる香味供給組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的なチューインガムの製造方法には、ガムベースに甘味料、香料、酸味料、着色料等を添加、均質に混練した後圧延、切断成形する方法や、粉末又は顆粒に成形したガムベースと糖質等の混合物を打錠成形する等がある。更にその周りを糖衣で被覆することもある。
そのチューインガムを咀嚼し、主にガムベース中に含まれる香味成分を口中に放出させることでその香味を味わうものである。
咀嚼し始めは良好な香味を呈するが、噛み続けていくうちに急速に低下するため、香りや呈味成分を封入したポリ酢酸ビニル粒子をガムベースに混合することで香りや呈味を持続させる方法が開示されている。この方法を用いた場合、香りや呈味を放出するリリース強度や持続特性を調整するにはこの粒子に使用するポリ酢酸ビニル重合度を変える必要があるが、この変更が、ガム全体の食感にも大きな影響を与えていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭47―30871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
つまり、そのポリ酢酸ビニルの重合度を上げると香りや呈味が持続しやすくなる反面全体的なリリース強度が低下してしまい、全体的に弱い香味になってしまう。
さらにガムベース全体に高重合度ポリ酢酸ビニルが分散するため噛めば噛むほどガムベースが硬くなってしまい噛み疲れてしまう。
一方、重合度を下げると本来の目的である香りや呈味の持続効果が得られにくい。
これらの理由より、ポリ酢酸ビニルの重合度の調整のみで、香味のリリース強度、持続時間や噛み心地の全てを向上することは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明者等は、鋭意検討を重ねた結果、香りや呈味のリリース強度および持続時間を向上しつつ、ガムの硬化を防止、嗜好性を向上させる組成物およびチューインガムを発明した。すなわち、本発明は以下の構成からなる。
(1)ポリ酢酸ビニル樹脂、乳化剤、ワックス、香料および/または呈味料、の混合物を粉砕して得ることを特徴とするチューインガム用香味供給組成物。
(2)ポリ酢酸ビニル樹脂の平均重合度が200〜600であることを特徴とする(1)に記載のチューインガム用香味供給組成物。
(3)乳化剤のHLBが7〜9であることを特徴とする(1)又は(2)に記載のチューインガム用香味供給組成物。
(4)乳化剤がアセチル化モノグリセリン脂肪酸エステルであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のチューインガム用香味供給組成物。
(5)ワックスの融点が60℃〜80℃であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のチューインガム用香味供給組成物。
(6)ポリ酢酸ビニル樹脂、乳化剤、ワックス、香料および/または呈味料、の混合物を粉砕し、該粉砕物をガムベースに添加混合し、成形することを特徴とするチューインガム。
(7)ポリ酢酸ビニル樹脂の平均重合度が200〜600であることを特徴とする(6)に記載のチューインガム。
(8)乳化剤のHLBが7〜9であることを特徴とする(6)又は(7)に記載のチューインガム。
(9)乳化剤がアセチル化モノグリセリン脂肪酸エステルであることを特徴とする(6)〜(8)のいずれかに記載のチューインガム。
(10)ワックスの融点が60℃〜80℃であることを特徴とする(6)〜(9)のいずれかに記載のチューインガム。
(11)チューインガム用香味供給組成物の製造方法であって、ポリ酢酸ビニル樹脂、乳化剤、ワックス、香料および/または呈味料を加熱混合して得られることを特徴とする、チューインガム用香味供給組成物の製造方法。
(12)ポリ酢酸ビニル樹脂、乳化剤、ワックス、香料および/または呈味料を加熱混合するときの原料全体の品温が、100℃以上150℃以下であることを特徴とする、(11)に記載のチューインガム用香味供給組成物の製造方法。
(13)チューインガム用香味供給組成物を含有することを特徴とする、チューインガムの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、香りや呈味の強度及び持続時間を向上しつつ、ガムの硬化を防止、嗜好性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】各ガムを咀嚼したときの硬さの経時的変化を示したグラフである。
【
図2】各ガムを咀嚼したときのガムの口中でのボリューム感の経時的変化を示したグラフである。
【
図3】各ガムを咀嚼したときの食感の好ましさの経時的変化を示したグラフである。
【
図4】各ガムを咀嚼したときに感じる風味の強さの経時的変化を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明では、先ずポリ酢酸ビニル樹脂、乳化剤、ワックス、香料および/または呈味料を混合することで香味供給組成物を作製する。
【0009】
本発明では、ポリ酢酸ビニル樹脂を香味供給組成物用エラストマーとして使用することが好ましい。なぜならば、ポリ酢酸ビニル樹脂を使用した香味供給組成物を含有したガムを咀嚼し続けたときに、常温では固形だったそのポリ酢酸ビニル樹脂は体温で軟化し、ガムベースに分散する。そのときに、水を吸収しやすく、そのポリ酢酸ビニル樹脂がガムベースに分散したときのガムの硬さやボリューム感の変化が少ないからである。
【0010】
使用するポリ酢酸ビニルの平均重合度は200以上600以下であることが好ましい。
平均重合度が200より小さいと、粒子の強度が充分得られず、香りや呈味の持続効果が小さくなる。
平均重合度が600より大きいと、チューインガムを噛み続けて香味供給組成物中のポリ酢酸ビニルがガムベース全体に分散することにより全体の硬さや弾力が大きくなり過ぎ、噛み疲れが生じる。
また重合度が異なるポリ酢酸ビニルを2種以上組み合わせて使用しても良い。この場合、ポリ酢酸ビニル混合物の平均重合度が200以上600以下であることが好ましい。
使用する乳化剤は、グリセリルモノステアレート、レシチン、脂肪酸モノグリセリド、ジグリセリド、プロピレングリコールモノステアレート等、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0011】
使用する乳化剤のHLBは7〜9であることが好ましい。
HLBが7より小さいと、ガムを咀嚼し続けたときに吸水作用による香りや呈味のリリース増強や、長時間咀嚼した時のチューインガムの硬度低減による噛み疲れ防止効果が小さくなる。
【0012】
使用するワックスは、石油精製ワックス(マイクロクリスタリンワックス)で、使用するワックスの融点は60℃〜80℃であることが好ましい。
融点が60℃より低いと香りや呈味持続の増強効果が小さくなる。
融点が80℃より高いと香りや呈味のリリースが悪くなり、またワキシー感が口中に残留し、香りや呈味を感じにくくなる。
【0013】
使用する呈味料には、甘味料、香辛料、苦味料、酸味料、旨味料等が使用できる。
例えば甘味料では、ショ糖、ぶどう糖、果糖、キシリトール等の呈味性糖類や、ステビア、アスパルテーム、アセスルファムカリウム等の高甘味度甘味料が挙げられる。
【0014】
ポリ酢酸ビニル樹脂、乳化剤、ワックス、香料および/または呈味料、をミキサーに投入し、加熱しながら混合する。
上記加熱混合時の原料品温は100℃以上150℃以下が好ましく、さらに好ましくは120℃以上140℃以下である。
加熱混合時の原料品温が100℃より低いと、ポリ酢酸ビニルが十分軟化しないため原料を均一に混合することができず、香味供給組成物の品質が低下する。
混合時の品温が150℃より高いと、香料や呈味料が加熱により劣化してしまう。
【0015】
次に、本発明では得られた香味供給組成物塊を粉砕し、粒子状に加工する。
得られた粒子の最大粒度は10μm以上1000μm以下が好ましい。
得られた粒子の最大粒度が10μmより小さいと、ガムを咀嚼したときに香味供給組成物からの香味成分のリリースが短時間で起こってしまうため、本発明の香味持続効果が小さくなる。
得られた粒子の最大粒度が1000μmより大きいと、ガムを咀嚼したときに香味供給組成物からの香味成分のリリースの速度が遅くなりすぎ、得られる香味が小さくなる。また、チューインガム中の香味供給組成物を噛み砕いたときのザラツキ感が大きくなる。
【0016】
次に得られた香味供給組成物粒子をガムベース中に混合しチューインガムを作製する。
混合、成型方法は従来のチューインガム製造方法で構わない。
例えば、ガムベースに甘味料、香料、酸味料、着色料等と共に当該香味供給組成物を添加、均質に混練した後圧延、切断成形する方法や、粉末又は顆粒に成形したガムベースと糖質等との混合物を打錠成形する方法等が挙げられる。
【0017】
以下に実施例を示し具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0018】
重合度350のポリ酢酸ビニル樹脂(日本合成製、商品名:Nz―3)60重量部、ワックス(日本精蝋製、商品名:Himic1070)10重量部、HLBが8のアセチル化モノグリセリン脂肪酸エステル(理研ビタミン製、商品名:GBP―A)5重量部、甘味料(味の素製、商品名:パルスイートダイエット)10重量部、粉末香料15重量部をニーダー(S1-1GH-E型、モリヤマ社製)で130℃、10分混練し、香味供給組成物塊を得た。
得られた香味供給組成物塊を冷却固化後、カッターミキサー(大阪ケミカル製)にて粉砕した。
得られた粉砕物を100Me篩(目開き147μm)にて分画篩下を香味供給組成物粉末として得た。
得られた香味供給組成物粉末3重量部、ガムベース30重量部、キシリトール60重量部、粉末水飴3重量部、炭酸カルシウム3重量部、粉末香料1重量部を、チューインガム製造の定法に基づき、ニーダーで50℃、15分混練し、チューインガム生地を得た。
得られたチューインガム生地を40℃まで冷却し、縦18mm、横11mm、厚さ5.5mmに成型、20℃まで冷却し、質量1gの粒状チューインガム(A)を得た。
(比較実施例1)
【0019】
重合度350のポリ酢酸ビニル樹脂(日本合成製、商品名:Nz―3)50重量部、粉末水飴33重量部、甘味料(味の素製、商品名:パルスイートダイエット)17重量部をニーダー(S1-1GH-E型、モリヤマ社製)で130℃、10分混練し、香味供給組成物塊を得た。
得られた香味供給組成物塊を冷却固化後、カッターミキサー(大阪ケミカル製)にて粉砕した。
得られた粉砕物を100Me篩(目開き147μm)にて分画篩下を香味供給組成物粉末として得た。
得られた香味供給組成物粉末3重量部、ガムベース30重量部、キシリトール60重量部、粉末水飴3重量部、炭酸カルシウム3重量部、粉末香料1重量部を、チューインガム製造の定法に基づき、ニーダーで50℃、15分混練し、チューインガム生地を得た。
得られたチューインガム生地を40℃まで冷却し、縦18mm、横11mm、厚さ5.5mmに成型、20℃まで冷却し、質量1gの粒状チューインガム(a)を得た。
(比較実施例2)
【0020】
重合度350のポリ酢酸ビニル樹脂粉末(日本合成製、商品名:Nz−3)1.8重量部、粉末香料2.2重量部、ガムベース30重量部、キシリトール60重量部、粉末水飴3重量部、炭酸カルシウム3重量部を、チューインガム製造の定法に基づき、ニーダーで50℃、15分混練し、チューインガム生地を得た。
得られたチューインガム生地を85℃まで冷却し、縦18mm、横11mm、厚さ5.5mmに成型、20℃まで冷却し、質量1gの粒状チューインガム(b)を得た。
(試験例)
【0021】
専門パネル6人によって、実施例1、比較実施例1、比較実施例2で得た粒状チューインガムA、a、bを咀嚼したときの硬さ、ボリューム感、食感の好ましさ、風味の強さの経時的変化を1(弱い、悪い)から5(強い、良い)の5段階で評価し、噛み始めてから呈味がなくなるまでの時間を測定した。
測定結果を
図1〜
図4に示した。
噛み始めてからのチューインガムの硬さの経時的変化は差が無かったが(
図1)、ガムのボリューム感は比較実施例2のチューインガム(b)に比べ、噛み始めてから20分後の時点で実施例1(A)、比較例1のチューインガム(a)がよりそのボリュームを保っていた(
図2)。
また、実施例1のチューインガム(A)の食感の好ましさは、比較実施例2のチューインガム(b)より良く、比較実施例1のチューインガム(a)と同程度であった(
図3)。
噛み始めてから5分後では、比較実施例2のチューインガム(b)に比べて実施例1(A)、比較実施例1(a)のチューインガムがより風味を保っており、さらに20分後では、比較実施例1(a)、比較実施例2のチューインガム(b)に比べて実施例1のチューインガム(A)がより風味を保っていた(
図4)。
また、噛み始めてからチューインガムからの呈味がなくなるまでの時間は、比較実施例2のチューインガム(b)が11.6分、比較実施例1のチューインガム(a)が16.8分、実施例1のチューインガム(A)が18.2分と実施例1のチューインガム(A)が一番長かった。