特許第6084162号(P6084162)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6084162
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】ナチュラルチーズおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23C 19/032 20060101AFI20170213BHJP
   A23C 19/068 20060101ALI20170213BHJP
【FI】
   A23C19/032
   A23C19/068
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-540823(P2013-540823)
(86)(22)【出願日】2012年10月25日
(86)【国際出願番号】JP2012077559
(87)【国際公開番号】WO2013062034
(87)【国際公開日】20130502
【審査請求日】2015年10月23日
(31)【優先権主張番号】特願2011-237762(P2011-237762)
(32)【優先日】2011年10月28日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-83516(P2012-83516)
(32)【優先日】2012年4月2日
(33)【優先権主張国】JP
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-11433
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-11434
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(72)【発明者】
【氏名】城ノ下 兼一
(72)【発明者】
【氏名】土橋 英恵
(72)【発明者】
【氏名】小森 素晴
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 瑞恵
【審査官】 西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−517417(JP,A)
【文献】 LIU S.-Q. et al.,Esters and their biosynthesis in fermented dairy products: a review,Int. Dairy J.,2004年,Vol.14,pp.923-945
【文献】 RICHOUX R. et al.,Enhancement of ethyl ester and flavour formation in Swiss cheese by ethanol addition,Int. Dairy J.,2008年,Vol.18,pp.1140-1145
【文献】 QIAN, M. et al.,Quantification of aroma compounds in Parmigiano Reggiano Cheese by a dynamic headspace gas chromatography-mass spectrometry technique and calculation of odor activity value,J. Dairy Sci.,2003年,Vol.86,pp.770-776
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23J 1/00−99/00
A23C 1/00−23/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノール含有量が0.01 w/w%以上、および/または、パイン臭エステル含有量が0.3 ppm以上であるナチュラルチーズの製造方法であって、
(A)原料乳にスターターを添加した後に、該原料乳を凝固させ、次いで、得られた凝固物を圧搾して、上記スターターの作用によってエタノール含有量が増大した、熟成前のナチュラルチーズを得る工程と、
(B)上記熟成前のナチュラルチーズを熟成させて、エタノールからパイン臭エステルを生成させ、パイン臭エステル含有量が増大したナチュラルチーズを得る工程、
を含み、かつ、
上記スターターとして、(a)エタノールを産生する少なくとも1種以上の微生物、および、(b)L. casei、L. delbrueckii subsp. bulgaricus、L. helveticus、L. plantarum、L. rhamnosus、L. zeae、Lc. lactis subsp. cremoris、Lc. lactis subsp. lactis、および、S. thermophilusから選ばれる1種以上の乳酸菌を用い、
上記(a)の微生物として、乳酸菌であるL. fermentumの複数の菌株の中から、上記熟成前のナチュラルチーズ中のエタノール含有量を0.01 w/w%以上にすることができる菌株を選択して用いることを特徴とするナチュラルチーズの製造方法。
【請求項2】
上記ナチュラルチーズは、エタノール含有量が0.05 w/w%以上、および/または、パイン臭エステル含有量が0.5 ppm以上のものである請求項1に記載のナチュラルチーズの製造方法。
【請求項3】
上記(a)の微生物であるL. fermentumが、L. fermentum OLL203697(受託番号 FERM BP-11433)および/またはL. fermentum OLL203731(受託番号 FERM BP-11434)である請求項1又は2に記載のナチュラルチーズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナチュラルチーズおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パルミジャーノ・レッジャーノは、パルメザンチーズの一種であり、濃厚な旨みとフルーティーな香りを特徴とする超硬質チーズである。パルミジャーノ・レッジャーノを特徴づけるパイナップル様のフルーティーな香りの本体は、パイナップル様の香りを呈するエステル(以下、「パイン臭エステル」と称することがある。)である酪酸エチル(ethyl butyrate)とヘキサン酸エチル(ethyl hexanoate)である。パイン臭エステルは、遊離脂肪酸、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリドなどの低分子脂肪酸と、エタノールを原料として合成されるものであり、チーズの熟成中に乳酸菌の酵素によって生成される。
【0003】
チーズの熟成中の乳酸菌は、エステラーゼによってエステルを生成している。乳酸菌のエステラーゼは、カルボン酸(遊離脂肪酸)とアルコール(エタノール)から、エステルと水を生成する反応(esterification)、または、あるエステル(グリセリド)と、あるアルコール(エタノール)から、別のエステルと、別のアルコールを生成する反応(加アルコール分解)を触媒することが知られている。(非特許文献1)。
【0004】
特許文献1では、エステル交換活性の高い乳酸菌や微生物由来の酵素を用いて、チーズ風味が良好となるエステルを増強する方法が開示されている。エステル化反応の基質となるアルコールについては、エタノールをチーズに直接添加する方法に加え、微生物によってチーズ中でエタノールを産生させて、エタノール含有量を高める方法が開示されている。エタノールを直接添加してエタノール含有量を高めたチーズでは、フルーティーな香りがするが、若干の苦味とせっけん様の風味が認められている。これに対し、エタノールを産生する微生物によってエタノール含有量を高めたチーズでは、フルーティーな香りがする上に、エタノールを直接添加したチーズで認められた苦味やせっけん様の風味が認められていない。
【0005】
このような知見から、チーズ中のエタノール含有量を高めることは、パイナップル様のフルーティーな香りを増大するためには有益であること、および、エタノールを直接添加してエタノール含有量を高めたチーズよりも、エタノールを産生する微生物によってエタノール含有量を高めたチーズにおいて、苦味やせっけん様の風味のない、より好ましい風味が得られることが示唆される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2005−517417号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Holland R. et.al., Int. Dairy J., 15:711-718, 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、後述する試験例のように、特許文献1に開示されている方法を参考にして、パイン臭エステルを増大させた、パイナップル様のフルーティーな香りの高いナチュラルチーズを試作した。しかしながら、ナチュラルチーズを製造するために使用する微生物(チーズ製造用スターター)と、エタノールを産生する微生物(アジャンクトスターター)との相性によっては、パイナップル様のフルーティーな香りの高いナチュラルチーズを安定して製造できないなどの問題が発生した。つまり、従来技術では、パイナップル様のフルーティーな香りの高いナチュラルチーズについて、その品質を担保しながら、商業規模で安定して生産することが困難であることが判明した。
【0009】
本発明は、パイナップル様のフルーティーな香りが増強されたナチュラルチーズであって、苦味やせっけん様の風味がなく、商業規模で安定して製造することのできるナチュラルチーズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ナチュラルチーズ中のエタノール含有量が0.01
w/w%以上であれば、パイン臭エステル産生量が顕著に高くなることを見出した。つまり、ナチュラルチーズ中のエタノール含有量が所定値よりも高いと、パイナップル様のフルーティーな香りを安定して強く感じられることを見出した。
さらに、本発明者らは、ナチュラルチーズを製造するために使用する微生物(チーズ製造用スターター)と、エタノールを産生する微生物(アジャンクトスターター)との相性(相乗効果)について検討した結果、エタノール産生量を相乗的に高める作用によってパイナップル様のフルーティーな香りが増強され、かつ、苦味やせっけん様の風味を有しない高品質のナチュラルチーズを、商業規模で安定して製造することのできる、チーズ製造用スターターとアジャンクトスターターの組み合わせとして、微生物の特定の種を見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、下記[1]〜[7]に係るものである。
[1]エタノール含有量が0.01 w/w%以上、および/または、パイン臭エステル含有量が0.3ppm以上であるナチュラルチーズ。
[2](a)エタノールを産生する少なくとも1種以上の微生物、を含有する前記[1]に記載のナチュラルチーズ。
[3](b)L. casei、L. delbrueckii subsp. bulgaricus、L. fermentum、L. helveticus、L. plantarum、L. rhamnosus、L. zeae、Lc. lactis subsp. cremoris、Lc. lactis subsp. lactis、および、S. thermophilusから選ばれる1種以上の乳酸菌、を含有する前記[2]に記載のナチュラルチーズ。
[4]上記(a)の微生物が、乳酸菌および/または酵母である前記[2]または[3]に記載のナチュラルチーズ。
[5]上記(a)の微生物が、乳酸菌であるL. fermentumである前記[4]に記載のナチュラルチーズ。
[6]上記(a)の微生物であるL. fermentumが、L. fermentum OLL203697(受託番号 FERM BP-11433)および/またはL. fermentum OLL203731(受託番号 FERM BP-11434)である前記[5]に記載のナチュラルチーズ。
[7]前記[1]〜[6]のいずれかに記載のナチュラルチーズを製造するための方法であって、(A)原料乳にスターターを添加した後に、該原料乳を凝固させ、次いで、得られた凝固物を圧搾して、上記スターターの作用によってエタノール含有量が増大した、熟成前のナチュラルチーズを得る工程と、(B)上記熟成前のナチュラルチーズを熟成させて、エタノールからパイン臭エステルを生成させ、パイン臭エステル含有量が増大したナチュラルチーズを得る工程、を含むナチュラルチーズの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、ナチュラルチーズの成分として添加物を使用することなく、パイナップル様のフルーティーな香りが増強され、かつ、苦味やせっけん様の風味を有しないナチュラルチーズを、商業規模で安定して提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】L.fermentumJCM1173T株と各種チーズ製造用スターター(A, B, C, D)とを共培養したときのエタノール増加量を示すグラフである。
図2】L. fermentum OLL203697 (FERM BP-11433)単独あるいは、各種微生物と共培養したときのエタノール産生量を示すグラフである。
図3】L. fermentum OLL203731 (FERM BP-11434)単独あるいは、各種微生物と共培養したときのエタノール産生量を示すグラフである。
図4】L. fermentum JCM1173T単独あるいは、各種微生物と共培養したときのエタノール産生量を示すグラフである。
図5】L. fermentum MEP1106301単独あるいは、各種微生物と共培養したときのエタノール産生量を示すグラフである。
図6】L. fermentum OLL203697 (FERM BP-11433)単独あるいは、L. fermentum OLL203697 (FERM BP-11434)とL.caseiを共培養した場合の酪酸エチル濃度を示すグラフである。
図7】各種スターターを使用してナチュラルチーズを製造したときの熟成期間とパイン臭エステル濃度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下に述べる個々の形態には限定されない。
【0015】
本発明のナチュラルチーズは、(i)エタノール含有量が0.01 w/w%以上であること、(ii)パイン臭エステル含有量が0.3ppm以上であること、のいずれか一方または両方を満たすものである。なお、(i)、(ii)のいずれか一方または両方を満たすことを、「(i)、および/または、(ii)」のように記載することがある。
本発明のナチュラルチーズ中のエタノール含有量は、ナチュラルチーズの熟成前の状態において、好ましくは0.01 w/w%以上、より好ましくは0.02 w/w%以上、さらに好ましくは0.05 w/w%以上である。
本発明のナチュラルチーズ中のエタノールは、ナチュラルチーズ中に直接添加されたものではなく、ナチュラルチーズの原料である生乳から、乳酸菌等の微生物の作用によって産生されたものである。つまり、本発明のナチュラルチーズは、微生物によってエタノール含有量が好ましくは0.01 w/w%以上に高められている。
ナチュラルチーズ中のエタノール含有量が0.01 w/w%以上であると、通常の熟成によって、エステル生成量を十分に高めることができ、パイナップル様のフルーティーな香りを十分に増強することができる。
一方、ナチュラルチーズ中のエタノール含有量が高いほど、微生物の作用によって、熟成中などにおけるエステル産生量が多くなる。このため、エタノール含有量は、特に制限されない。しかし、チーズ本来の風味を損なわない観点からは、ナチュラルチーズ中のエタノール含有量の上限値は、好ましくは10 w/w%、より好ましくは5 w/w%、さらに好ましくは2 w/w%である。
【0016】
本発明のナチュラルチーズ中のパイン臭エステル含有量は、ナチュラルチーズの熟成が進んだ状態において、好ましくは0.3 ppm以上、より好ましくは0.5 ppm以上、さらに好ましくは1.0 ppm以上である。
より詳しく説明すると、本発明のナチュラルチーズ中のパイン臭エステル含有量は、ナチュラルチーズの製造時(圧搾の終了時)から4週間経過後の時点で、好ましくは0.3 ppm以上、より好ましくは0.5 ppm以上であり、ナチュラルチーズの製造時から8週間経過後の時点で、好ましくは0.6 ppm以上、より好ましくは1.0 ppm以上である。
本発明において、パイン臭エステル含有量とは、ナチュラルチーズ中の酪酸エチル(ethyl butyrate)とヘキサン酸エチル(ethyl hexanoate)の含有量の合計を意味する。本発明のナチュラルチーズ中のパイン臭エステルは、ナチュラルチーズ中に直接添加されたものではなく、ナチュラルチーズに含まれるエタノールから、乳酸菌等の微生物の作用によって産生されたものである。つまり、本発明のナチュラルチーズは、微生物によってパイン臭エステル含有量が好ましくは0.3 ppm以上に高められたものである。
本発明では、ナチュラルチーズ中のパイン臭エステル含有量が0.3 ppm以上であると、パイナップル様のフルーティーな香りを十分に感じることができる。
一方、ナチュラルチーズ中のパイン臭エステル含有量が高いほど、パイナップル様のフルーティーな香りが強くなる。このため、パイン臭エステル含有量は、特に制限されず、消費者の好みなどに応じて、熟成条件などを適宜調整し、実際に目的とする香りの強さが得られるように加減すれば良い。なお、例えば、パルミジャーノ・レッジャーノにおける、酪酸エチル(ethyl butyrate)とヘキサン酸エチル(ethyl hexanoate)の含有量の合計は、4 ppmであると報告されている(M. Qian and G. A. Reineccius,
J. Dairy Sci. , 86(3) ,770-776, 2005)。
【0017】
本発明のナチュラルチーズでは、エタノールを産生する少なくとも1種以上の微生物を含有する。本発明において、エタノールを産生する微生物には、絶対へテロ発酵型または通性ヘテロ発酵型の乳酸菌や酵母などを挙げることができる。中でも、絶対ヘテロ発酵型のラクトバチルス(Lactobacillus)属の乳酸菌が、好ましい。
【0018】
通性ヘテロ発酵型のラクトバチルス属に含まれる種の例として、Lactobacillus agilis、L. alimentarius、L. bavaricus、L. casei、L. paracasei、L. rhamnosus、L. zeae、L. coriniformis、L. curvatus、L. homohiochii、L. maltaromicus、L. murinus、L. plantarum、L. sakeなどを挙げることができる。
【0019】
絶対ヘテロ発酵型のラクトバチルス属に含まれる種の例として、Lactobacillus bifermentans、L. brevis、L. buchneri、L. collinoides、L. confuses、L. divergens、L. fermentum、L. fructosus、L. halotolerans、L. hilgardii、L. kandleri、L. kefir、L. minor、L. reuteri、L.
sanfrancisco、L. vaccinostercus、L.
viridescensなどを挙げることができる。
【0020】
絶対ヘテロ発酵型の乳酸菌に含まれる、ラクトバチルス属以外の属の例として、Lueconostoc属、Weisella属などを挙げることができる。
【0021】
本発明において、絶対ヘテロ発酵型のラクトバチルス属の乳酸菌の好ましい例として、L. fermentum種の乳酸菌などを挙げることができる。L. fermentum種の乳酸菌の菌株の例としては、特に制限されないが、例えば、L. fermentum ATCC
14931T、受託番号 FERM BP-11433で特定されるL. fermentum OLL203697、受託番号 FERM BP-11434で特定されるL. fermentum OLL203731などを挙げることができる。
【0022】
本発明においては、先に述べた通り、微生物の作用によって、熟成中においてエタノールからパイン臭エステルが多量に産生されることが好ましい。そのため、ナチュラルチーズを製造するために使用する微生物と、エタノールを産生する微生物との相性が良く、それらの微生物の共生作用(相乗効果)によって、熟成前のナチュラルチーズ中のエタノール含有量が好ましくは0.01w/w%以上になるように、それらの微生物の組み合わせを定めることが好ましい。
【0023】
それらの微生物の組み合わせとして、例えば、エタノールを産生する微生物として、L. fermentum種の乳酸菌(特に、ナチュラルチーズを製造するために使用する下記の微生物との組み合わせによって、エタノールを多量に産生する菌株)を使用した場合を想定すると、ナチュラルチーズを製造するために使用する微生物として、L. casei種、L. delbrueckii subsp. bulgaricus種、L. fermentum種(例えば、前記のエタノールを産生する菌株以外の菌株)、L. helveticus種、L. plantarum種、L. rhamnosus種、L. zeae種、Lc. lactis subsp. cremoris種、Lc. lactis subsp. lactis種、およびS. thermophilus種から選ばれる1種以上を使用することが好ましく、L. casei種、L. delbrueckii subsp. bulgaricus種、L. helveticus種、Lc. lactis subsp. cremoris種、Lc. lactis subsp. lactis種、S. thermophilus種から選ばれる1種以上を使用することがより好ましく、L. casei種、L. delbrueckii subsp. bulgaricus種、L. helveticus種、S. thermophilus種から選ばれる1種以上を使用することがさらに好ましい。これらの組み合わせにより、ナチュラルチーズ中のエタノール含有量を安定して高く維持できる。次いで、ナチュラルチーズの熟成によるエタノール含有量の減少およびそれに伴うパイン臭エステル含有量の増大によって、ナチュラルチーズ中のエステル含有量を安定して高く維持できて、パイナップル様のフルーティーな香りの高いナチュラルチーズを商業規模で安定して製造(生産)することが可能となる。
【0024】
本発明では、エタノールを産生する微生物として、L. fermentumを使用した場合、ナチュラルチーズ中の、エタノールを産生するL. fermentumの生菌数は、好ましくは1×105 cfu/g(チーズの単位重量)以上、より好ましくは1×106 cfu/g(チーズの単位重量)以上、さらに好ましくは1×107 cfu/g(チーズの単位重量)以上である。これらの菌数でL. fermentumの菌体がチーズに含まれるように、菌体(スターター)培養液、菌体濃縮液、菌体乾燥物などを調製して添加した後、所定の条件で熟成するなどして、ナチュラルチーズに好ましいパイナップル様のフルーティーな香りを与えることができる。
【0025】
本発明のナチュラルチーズを製造するための原料乳としては、特に制限されず、獣乳(牛乳、羊乳、山羊乳、水牛乳などの哺乳類由来の乳)などを一般的に使用することが可能である。なお、この原料乳は、必ずしも、生乳や殺菌乳のみから構成されるものではなく、還元乳原料(バター、クリーム、脱脂乳、全脂濃縮乳、脱脂濃縮乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、練乳など)や、必要に応じて、その他の食品や食品添加物も配合(添加)することが可能である。
【0026】
本発明のナチュラルチーズは、そのもの自体をプロセスチーズやチーズフードの原料として使用することもでき、特に、熟成風味の強いプロセスチーズやチーズフードの原料として好ましく使用することができる。
【0027】
本発明は、所定の条件で熟成することが特徴である硬質ナチュラルチーズや特別硬質ナチュラルチーズに分類されるゴーダ、チェダー、グラナ、パルメザンなどに適用されるだけでなく、これ以外にも、軟質ナチュラルチーズに分類されるモッツァレラ、カマンベール、ブリーなどや、フレッシュチーズに分類されるカッテージ、クワルク、フェタなどにも応用して、特徴的な香りを付与することが可能である。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の好ましい実施例を説明するが、本発明は、前述した実施の形態や以下の実施例に限定されることなく、特許請求の範囲の記載から把握される技術的範囲内において、種々に変更することが可能である。なお、実施例に記載の供試菌株のうち、菌株名にJCMと記載された菌株は、独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンターの微生物材料開発室から入手した基準株や菌株であり、菌株名にNCIMBまたはGTCと記載された菌株は、英国NCIMB研究所(National Collection of Industrial
and Marine Bacteria)から入手した基準株や菌株であり、菌株名にMEPと記載された菌株は、株式会社明治の保有菌株である。また、下記の実施例中、L.fermentum OLL203697およびL. fermentum OLL203731は、2011年10月5日付(受託日)で独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1-1-1 つくばセンター 中央第6)に、各々、受託番号FERM BP-11433、FERM BP-11434として、ブタペスト条約に基づき国際寄託されている乳酸菌である。
【0029】
[試験例]
(方法)
チーズ用の原料乳を模擬した脱脂粉乳培地(脱脂粉乳:10 w/w%)に対し、メインスターターに加えて、アジャンクトスターターとしてL. fermentum JCM1173T株のスターター(1重量%)を接種した。メインスターターには、チーズ製造用の一般的な中温性の乳酸菌で構成されるバルクスターター(Lactococcus lactis;以下、Lc. lactisと略す。)の4種(A:Lc. lactis MEP1201901、B:Lc. lactis MEP1201902、C:Lc. lactis MEP1201903、D:Lc. lactis MEP1201904)をそれぞれ用いた。アジャンクトスターターには、一般的な乳酸菌用合成培地でL. fermentum JCM1173T株を賦活した培養液を用いた。
【0030】
これらのスターターをチーズ用の原料乳へ接種した後に、チーズ製造用の一般的なスターターに適した温度でpHが5.0になるまで培養した(発酵させた)。この培養が終了してから、遠心分離処理により、上清を除去した後に、食塩を2重量%になるように添加し、18℃で2週間培養し(熟成させ)、モデルチーズを製造した。この培養(熟成)の開始日と終了日のエタノール濃度をF-kitエタノール(JKインターナショナル社製)により測定し、エタノール増加量(エタノール産生量=培養終了日のエタノール含有量−培養開始日のエタノール含有量)を算出した。
【0031】
(結果)
試験結果を図1に示す。ここで使用した4種類(A:Lc. lactis MEP1201901、B:Lc. lactis MEP1201902、C:Lc. lactis MEP1201903、D:Lc. lactis MEP1201904)のチーズ製造用のスターターのうち、そのスターターの種類によっては、エタノールが産生される場合(スターターA、B)もあれば、エタノールが産生されない場合(スターターC、D)もあることが明らかになった。よって、L. fermentumを用いて、チーズ中におけるエタノールを効率的に産生させるためには、チーズ製造用のスターターとの相性を検討する必要があると考えられた。
【0032】
[実施例1]
(方法)
一般的な乳酸菌用合成培地で賦活した供試菌株の培養液を、脱脂粉乳培地(脱脂粉乳:10 w/w%)に1 w/w%で接種し、好気条件下にて、37℃、24時間で静置培養した。そして、この培養物中のエタノール濃度をF-kit エタノール(JKインターナショナル社製)により測定した。このとき、L. fermentumの各菌株と、ナチュラルチーズの製造に一般的に利用される乳酸菌(中温性の乳酸菌)を共培養した。
【0033】
(結果)
試験結果を図2図5に示す。L. fermentumの供試菌株では何れにおいても、単菌で培養した場合に比べ、他菌種と共培養した場合に、エタノール産生量が増加すること、および、その産生量は菌種の組み合わせによって、差異が生じることが明らかとなった。
【0034】
[実施例2]
(方法)
一般的な乳酸菌用合成培地で賦活した供試菌株の培養液を、トリブチリンを3.3 mMで含む脱脂粉乳培地(脱脂粉乳:10 w/w%)に1 w/w %で接種し、好気条件下にて、37℃、24時間で静置培養した。そして、この培養物中の酪酸エチル濃度をGC-MSにより測定した。酪酸エチルの分析方法は、次の通りである。
(酪酸エチルの分析方法)
供試液0.5mLおよび純水9.5mLを20mL容バイアル瓶に採取して密栓した後に、60℃、40分間で保持し、ヘッドスペースに揮発したエステルを固相マイクロファイバ(SUPELCO, Stable Flex (DVB/Carboxen/PDMS; 50/30μm))に抽出した。このファイバをGC/MS分析(Scanモード)に供し、m/z88イオンのピーク面積から酪酸エチルを検出し、絶対検量線法(濃度範囲:0.1mg/L〜5mg/L)により、酪酸エチル濃度を定量した。
【0035】
(結果)
試験結果を図6に示す。L. fermentum OLL203697(FERM BP-11433)を単菌で培養すると、酪酸エチルの産生に必要かつ十分なエタノールが産生されないため、酪酸エチルが検出されない。一方、L. fermentum OLL203697(FERM BP-11433)をL. casei MEP1106303と共培養すると、酪酸エチルの産生に必要かつ十分なエタノールが産生されるため、酪酸エチルが著量で検出された。
【0036】
[実施例3]
(方法)
アジャンクトスターターとして L. fermentum OLL203697(FERM BP-11433)を使用し、以下の方法に従ってナチュラルチーズを製造した。
すなわち、チーズの固形分中の脂肪濃度が42 w/w%となるように、原料乳を調製した。この原料乳を、63℃、30分間で加熱殺菌した後に、33℃に冷却し、次いで、塩化カルシウム(0.01 w/w%)を添加した。次に、塩化カルシウムの添加後の原料乳に、L. fermentum OLL203697(FERM BP-11433)およびチーズ製造用の市販スターターを添加した。製造番号とスターターの組み合わせは、表1の通りである。
【0037】
【表1】
【0038】
これらスターターを添加した後に、カーフレンネット(力価:15,000ユニット)を0.003 w/w%で添加し、原料乳を凝固させた。この凝固物をカッテングし、ホエイのpHが6.1〜6.2となるまで攪拌して、ホエイを排出し、カード粒を得た。次に、このカード粒に食塩を所定量で添加してから、型詰めして圧搾し、ナチュラルチーズを製造した。このナチュラルチーズを18℃、8週間で熟成した。
なお、製造直後(熟成前)のナチュラルチーズ中のエタノール含有量は、「製造番号4−B」の場合で、0.03 w/w%であり、「製造番号4−A」および「製造番号4−C」の場合で、0.001
w/w%以下であった。
【0039】
[実施例4]
(方法)
実施例3で製造したナチュラルチーズの熟成0週、熟成4週および熟成8週の各経過時点におけるパイン臭エステルの濃度を測定するとともに、熟成8週におけるナチュラルチーズの官能評価を実施した。パイン臭エステル濃度の測定方法は次の通りである。試料0.2gを細切してから、バイアル瓶に採取して密栓した。窒素ガスを用いた動的ヘッドスペース法により、試料中の酪酸エチルとヘキサン酸エチルを窒素ガスの気流中に揮発させ、捕集剤(TENAX-TA)に捕集した。この捕集剤を加熱して、酪酸エチルとヘキサン酸エチルを脱着し、GC/MS・Scanモード分析に供した。この得られたm/z88のイオンクロマトグラムから、酪酸エチルとヘキサン酸エチルのピークを検出し、その面積を基に、別途作成したマトリクス検量線により各々の濃度を求めた。
パイン臭エステル濃度は、酪酸エチル濃度とヘキサン酸エチル濃度の総和である。また、官能評価は、専門パネラーによって、チーズの香り(フルーティな香りの有無)について1〜5の5段階で評価した。
【0040】
(結果)
試験結果を図7に示す。4-Aのスターターで製造したナチュラルチーズや4-Cのスターターで製造したナチュラルチーズと比べ、4-Bのスターターで製造したナチュラルチーズでは、パイン臭エステル濃度が顕著に高かった。また、専門パネラーによる熟成8週におけるナチュラルチーズの官能評価の結果は、表2の通りである。4-Aのスターターで製造したナチュラルチーズや4-Cのスターターで製造したナチュラルチーズと比べ、4-Bのスターターで製造したナチュラルチーズでは、顕著に高いスコアを示した。
【0041】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、エタノール産生能を有する微生物を利用し、かつ、エタノール産生能を高めるように、他の微生物と共培養することによって、製造直後のナチュラルチーズ中のエタノール含有量を高め、その結果、熟成によって、パイナップル様のフルーティーな香りを増強したナチュラルチーズを商業規模で安定して提供することが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7