(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
n型半導体層と、少なくともAlを含む井戸層と障壁層とを有する量子井戸構造の発光層と、p型半導体層とをこの順に備えるIII族窒化物半導体発光素子の製造方法において、
前記p型半導体層を形成する工程は、
前記発光層の上に、水素を主成分とするキャリアガスを用いて、前記障壁層よりAl組成の大きい電子ブロック層を形成する電子ブロック層形成工程と、
前記電子ブロック層の直上に、AlxGa1-xN(0≦x≦0.1)からなる第1のp型コンタクト層を形成する第1p型コンタクト形成工程と、
前記第1のp型コンタクト層の直上に、AlyGa1-yN(0≦y≦0.1)からなる第2のp型コンタクト層を形成する第2p型コンタクト形成工程と、
を有し、
前記第1p型コンタクト形成工程は、窒素を主成分とするキャリアガスを用いて行い、
前記第2p型コンタクト形成工程は、水素を主成分とするキャリアガスを用いて行うことを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の技術では、素子の発光出力が不十分である問題があった。また、上記発光出力の改善は、順方向電圧を上昇させることなく実現することも重要である。そこで、本発明の目的は、順方向電圧を維持しつつ発光出力を高めることができるIII族窒化物半導体発光素子の製造方法およびIII族窒化物半導体発光素子を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決する方途について鋭意検討した。その結果、
図1に示したIII族窒化物半導体発光素子100のp型半導体層50において、p型コンタクト層を少なくとも2層構造として、p型クラッド層52を無くして電子ブロック層の直上に、Alの組成xが0≦x≦0.1である第1のp型コンタクト層を、窒素を主成分とするキャリアガスを用いて形成し、第1のp型コンタクト層の直上に、Alの組成yが0≦y≦0.1である第2のp型コンタクト層を、水素を主成分とするキャリアガスを用いて形成することが極めて有効であることを見出し、本発明を形成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の要旨構成は以下の通りである。
(1)n型半導体層と、少なくともAlを含む井戸層と障壁層とを有する量子井戸構造の発光層と、p型半導体層とをこの順に備えるIII族窒化物半導体発光素子を製造する方法において、前記p型半導体層を形成する工程は、前記発光層の上に
、水素を主成分とするキャリアガスを用いて、前記障壁層よりAl組成の大きい電子ブロック層を形成する電子ブロック層形成工程と、前記電子ブロック層の直上に、Al
xGa
1-xN(0≦x≦0.1)からなる第1のp型コンタクト層を形成する第1p型コンタクト形成工程と、前記第1のp型コンタクト層の直上に、Al
yGa
1-yN(0≦y≦0.1)からなる第2のp型コンタクト層を形成する第2p型コンタクト形成工程とを有し、前記第1p型コンタクト形成工程は、窒素を主成分とするキャリアガスを用いて行い、前記第2p型コンタクト形成工程は、水素を主成分とするキャリアガスを用いて行うことを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【0012】
(2)前記第1のp型コンタクト層の厚みは5nm以上30nm以下である、前記(1)に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【0014】
(
3)前記発光層から放射される光の中心波長が300nm以下である、前記(1)
または(
2)
に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【0015】
(
4)前記電子ブロック層形成工程は、水素を主成分とするキャリアガスを用いて行い、
前記電子ブロック層形成工程後に、有機金属ガスを流さないで窒素を主成分とするキャリアガスを流す工程を含む、前記(1)〜(
3)のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、p型半導体層において、p型コンタクト層を2層構造として、電子ブロック層の直上に、窒素を主成分とするキャリアガスを用いて第1のp型コンタクト層を形成し、この第1のp型コンタクト層の直上に、水素を主成分とするキャリアガスを用いて第2のp型コンタクト層を形成するようにしたため、順方向電圧を維持しつつ発光出力を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(III族窒化物半導体発光素子)
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、同一の構成要素には原則として同一の参照番号を付して、説明を省略する。また、各図において、説明の便宜上、サファイア基板および各層の縦横の比率を実際の比率から誇張して示している。
【0020】
本発明の一実施形態に従うIII族半導体発光素子の製造方法は、n型半導体層と、少なくともAlを含む井戸層と障壁層とを有する量子井戸構造の発光層と、p型半導体層とをこの順に有するIII族半導体発光素子を製造する方法である。ここで、上記p型半導体層を形成する工程は、発光層の上に障壁層よりAl組成の大きい電子ブロック層を形成する電子ブロック層形成工程と、電子ブロック層の直上に、Al
xGa
1-xN(0≦x≦0.1)からなる第1のp型コンタクト層を形成する第1p型コンタクト形成工程と、第1のp型コンタクト層の直上にAl
yGa
1-yN(0≦y≦0.1)からなる第2のp型コンタクト層を形成する第2p型コンタクト形成工程とを有し、第1p型コンタクト形成工程は、窒素を主成分とするキャリアガスを用いて行い、第2p型コンタクト形成工程は、水素を主成分とするキャリアガスを用いて行うことが肝要である。
【0021】
本発明者は、順方向電圧を維持しつつ発光出力を高める方途について鋭意検討した結果、p型コンタクト層を2層構造として、電子ブロック層51の直上に、Alの組成xが0≦x≦0.1である第1のp型コンタクト層を窒素を主成分とするキャリアガスを用いて形成し、第1のp型コンタクト層の直上に、Alの組成yが0≦y≦0.1である第2のp型コンタクト層を水素を主成分とするキャリアガスを用いて形成することが極めて有効であることを見出し、本発明を形成するに至ったのである。
【0022】
このように、本発明は、発光層40上に設けられたp型半導体層50の形成に特徴を有するものであり、このp型半導体層50の下方に設けられたサファイア基板11、AlN層21、アンドープ層22、n型半導体層32および発光層40の具体的な構成は何ら限定されない。
【0023】
図2は、本発明の好適な実施形態に従うIII族窒化物半導体発光素子の製造方法のフローチャートを示している。まず、
図2(A)に示すように、サファイア基板11を用意する。サファイア基板11の主面11Aは、オフ角θを設けるための傾斜方向の結晶軸方位は、m軸方向またはa軸方向のいずれでもよく、上述の通りオフ角θの有無は任意であるが、例えば特願2014−224637号に記載のようにC面が0.5度のオフ角θで傾斜した面とすることができる。
【0024】
次に、
図2(B)に示すように、サファイア基板11上にAlN層21をエピタキシャル成長させる。AlN層21は、例えば、有機金属気相成長(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法や分子線エピタキシ(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法、スパッタ法などの公知の薄膜成長方法により形成することができる。
【0025】
AlN層21のAl源としては、トリメチルアルミニウム(TMA)を用いることができる。また、N源としては、アンモニア(NH
3)ガスを用いることができる。これらの原料ガスを、キャリアガスとして水素ガスを用いることにより、AlN層21を形成することができる。
【0026】
なお、AlN層21の成長温度としては、1270℃以上1350℃以下が好ましく、1290℃以上1330℃以下がより好ましい。この温度範囲であれば、続く熱処理工程の後にAlN層21の結晶性を向上することができる。また、チャンバ内の成長圧力については、例えば5Torr〜20Torrとすることができる。より好ましくは、8Torr〜15Torrである。
【0027】
また、NH
3ガスなどのV族元素ガスと、TMAガスなどのIII族元素ガスの成長ガス流量を元に計算されるIII族元素に対するV族元素のモル比(以降、V/III比と記載する)については、例えば130以上190以下とすることができる。より好ましくは140以上180以下である。なお、成長温度および成長圧力に応じて最適なV/III比が存在するため、成長ガス流量を適宜設定することが好ましい。
【0028】
続いて、上述のようにして得られた、サファイア基板11上のAlN層21に対して、このAlN層21の成長温度よりも高温で熱処理を施すことが好ましい。この熱処理工程は、公知の熱処理炉を用いて行うことができる。かかる熱処理を行うことにより、AlN層21の(10−12)面のX線ロッキングカーブの半値幅を400秒以下とし、高い結晶性を実現することができる(
図2(C))。
【0029】
その後、
図2(D)に例示するように、AlN層21上に、アンドープ層22およびn型半導体層32をこの順に有する積層構造を形成することができる。
【0030】
次に、
図2(E)に示すように、発光層40を形成する。この発光層40は、少なくともAlを含み、例えばAl
aGa
1-aN材料(0<a≦1)で形成することができる。ここで、Alの組成は、所望の波長の光を発光するように適切に設定するが、Al組成aが0.35以上の場合、発光層40から放射される光の中心波長が300nm以下となり、最終的に作製されるIII族窒化物半導体発光素子1はDUV−LEDとなる。
【0031】
この発光層40は、Al組成の異なるAlGaNからなる井戸層41と障壁層42とを繰り返し形成した多重量子井戸(MQW:Multiple Quantum Well)で構成することができる。井戸層41のAl組成aは、例えば0.3〜0.8であり、障壁層42のAl組成bは、井戸層41のAl組成aより大きく、例えば0.40〜0.95である。また、井戸層41および障壁層42の繰り返し回数は、例えば1〜10回である。さらに、井戸層41の厚みは、0.5nm〜5nm、障壁層42の厚みは、3nm〜30nmである。
【0032】
発光層40をAlGaN材料で形成する場合、Al源としてはTMA、Ga源としてはトリメチルガリウム(TMG)、N源としてはNH
3ガスを用いることができる。これらの原料ガスを、キャリアガスとして水素ガスを用いてチャンバ内に供給することにより、発光層40を形成することができる。発光層40をMQW構造とする場合には、Al源の流量とGa源の流量の比を適切に変更することにより、MQW構造を有する発光層40を形成することができる。
【0033】
発光層40をAl
aGa
1-aN材料(0<a≦1)で形成する場合、Al
aGa
1-aN材料の成長温度としては、1000℃以上1400℃以下が好ましく、1050℃以上1350℃以下がより好ましい。
【0034】
また、NH
3ガスなどのV族元素ガスと、TMAガスなどのIII族元素ガスの成長ガス流量を元に計算されるIII族元素に対するV族元素のモル比(以降、V/III比と記載する)については、例えば100以上100000以下とすることができる。より好ましくは300以上30000以下である。成長温度および成長圧力に応じて最適なV/III比が存在するため、成長ガス流量を適宜設定することが好ましいのはAlN層21の場合と同様である。
【0035】
続いて、
図2(F)に示すように、発光層40の上にp型半導体層150を形成する。上述のように、本発明においては、p型半導体層150が、
図1に示したp型クラッド層52に対応する層を含まず、電子ブロック層51と、該電子ブロック層51の直上に設けられたp型コンタクト層153とを有するように構成する。また、p型コンタクト層153は、第1のp型コンタクト層54と第2のp型コンタクト層55とからなる2層構造とする。
【0036】
電子ブロック層51は、通常、発光層とp型クラッド層との間に設けることにより、電子を堰止めして、電子を発光層40(MQWの場合には井戸層41)内に注入して、電子の注入効率を高めるための層である。特に、発光層40のAl組成が高い場合には、p型半導体層のホール濃度が低いため、ホールを発光層40に注入しにくく、一部の電子がp型半導体層側に流れてしまうが、電子ブロック層51を設けることにより、こうした電子の流れを防止することができる。なお、本発明において、「電子ブロック層」のAl組成zは、発光層40を構成する障壁層42のAl組成bよりも大きく、バンドギャップが大きな層を意味している。対して、「クラッド層」のAl組成は、電子ブロック層のAl組成よりも0.1を超えて小さく、p型コンタクト層よりも0.1を超えて大きいものを指す。なお、中心波長が300nm以下において使用されるp型のAlGaNはAl組成が大きいほど電流が流れにくいため、従来クラッド層として使用されるAl組成は障壁層のAl組成以下であることが多い。このため、本発明における電子ブロック層と従来技術におけるクラッド層とは障壁層のAl組成を基準としても区別できる。
【0037】
電子ブロック層51は、例えばp型のAl
zGa
1-zN材料(b<z≦1)で形成することができる。障壁層42のAl組成にもよるが、例えばこの電子ブロック層51のAl組成は、0.5以上1.0以下とすることが好ましい。これにより、井戸層41への電子の注入効率を高めることができる。また、電子ブロック層51の厚みは、例えば6nm〜60nmであることが好ましい。電子ブロック層51の厚さが6nmより薄くても60nmを超えても、出力の大幅な減少がみられるためである。なお、障壁層の厚みよりは厚いことが好ましい。
【0038】
この電子ブロック層51をp型とするためのドーパントとしては、マグネシウム(Mg)や亜鉛(Zn)を用いることができる。Mg源としては、シクロペンタジニエルマグネシウム(CP
2Mg)を用いることができ、Zn源としては、塩化亜鉛(ZnCl
2)を用いることができる。
【0039】
電子ブロック層51をp型のAl
zGa
1-zN材料(b<z≦1)で形成する場合、電子ブロック層51の形成は、キャリアガスとして水素を主成分とするガスを用い、原料ガスであるTMA、TMGおよびNH
3ガス、ならびに不純物ガスである、例えばCP
2Mgをチャンバ内に供給することにより行うことができる。なお、電子ブロック層51の形成に最初から窒素を主成分とするガスを用いた場合は、発光しなくなる。
【0040】
電子ブロック層51をAl
zGa
1-zN材料(b<z≦1)で形成する場合、Al
bGa
1-bN材料の成長温度としては、1000℃以上1400℃以下が好ましく、1050℃以上1350℃以下がより好ましい。また、チャンバ内の成長圧力については、例えば10Torr〜760Torrとすることができる。より好ましくは、20Torr〜380Torrである。
【0041】
また、NH
3ガスなどのV族元素ガスと、TMAガスなどのIII族元素ガスの成長ガス流量を元に計算されるIII族元素に対するV族元素のモル比(以降、V/III比と記載する)については、例えば100以上100000以下とすることができる。より好ましくは300以上30000以下である。成長温度および成長圧力に応じて最適なV/III比が存在するため、成長ガス流量を適宜設定することが好ましいのはAlN層21の場合と同様である。
【0042】
続いて、電子ブロック層51上に、2層構造を有するp型コンタクト層153を形成する。その際、電子ブロック層51の直上に形成される第1のp型コンタクト層54は、窒素を主成分とするキャリアガスを用いて行い、第1のp型コンタクト層54の直上に形成される第2のp型コンタクト層55は、水素を主成分とするキャリアガスを用いて行う。
【0043】
なお、本発明において、「窒素を主成分とするキャリアガス」とは、キャリアガス全体の体積に対する窒素ガスの体積の比が60%以上であるキャリアガスを意味している。より好ましくは85%以上である。また、「水素を主成分とするキャリアガス」とは、キャリアガス全体の体積に対する水素ガスの体積の比が60%以上であるキャリアガスを意味している。より好ましくは85%以上である。なお、半導体製造用として市販される純度を有するガスを用いればよい。なお、ここでのキャリアガスの体積比は、チャンバ内に供給されウェーハ近傍の空間を通るガスを対象としており、ヒーターやチャンバ内壁のパージを主目的としてウェーハ近傍の空間を通らずに排気されるガスは含めない。つまり、ヒーターやチャンバ内壁に水素を大流量流して排気していても、ウェーハ近傍には実質的に窒素を流している場合には、窒素を主成分とするキャリアガスとなる。
【0044】
p型コンタクト層153は、p型のAl
cGa
1-cN材料で形成する。p型コンタクト層153は、この上に形成されるp型電極70と電子ブロック層51との間の接触抵抗を低減するための層である。そのため、このp型コンタクト層153のAl組成cは0≦c≦0.1とする。つまり、第1のp型コンタクト層54(Al
xGa
1-xN)のAl組成xを0≦x≦0.1とし、第2のp型コンタクト層55(Al
yGa
1-yN)のAl組成yを0≦y≦0.1とする。これにより、p型コンタクト層153上に形成されるp型電極70との接触抵抗を十分に低減することができる。特に、x=0およびy=0とすることが好ましい。
【0045】
このp型コンタクト層153をp型とするためのドーパントとしては、電子ブロック層51の場合と同様、マグネシウム(Mg)や亜鉛(Zn)を用いることができる。Mg源としては、シクロペンタジニエルマグネシウム(CP
2Mg)を用いることができ、Zn源としては、塩化亜鉛(ZnCl
2)を用いることができるのも同様である。
【0046】
以下に、本実施形態におけるガスの切り替え方法の一例を説明する。電子ブロック層51形成後、有機金属ガス(III族元素ガスおよびドーパント源ガス)を一旦チャンバ内からベントに切り替えた上で、チャンバ内に流れるキャリアガスを水素から窒素に切り替え、完全に窒素に切り替わった後に、有機金属ガスをチャンバ内に供給して、電子ブロック層51上に第1のp型コンタクト層54を形成する。次いで、再度有機金属ガスの流路を一旦チャンバ内からベントに切り替えた上でチャンバ内に流れるキャリアガスを水素ガスに切り替えた後、有機金属ガスをチャンバ内に供給して、第2のp型コンタクト層55を形成することにより行うことが好ましい。ベントへ切り替えずにキャリアガスを変えた場合は、ガスの流れが急変するため異常な成長を起こす恐れがある。なお、V族元素ガスは電子ブロック層からV族元素が分離しないようにチャンバ内へ流したままとする。また、上記のように有機金属ガスを一旦チャンバ内からベントに切り替えることで電子ブロック層51上への結晶成長を中断し、電子ブロック層51上の雰囲気を水素から窒素に入れ替えて窒素雰囲気となる間の時間、電子ブロック層51は水素分圧が下がりがりながらキャリアガスおよびV族元素ガスに晒された状態で加熱される。これが電子ブロック層51とp型コンタクト層153との界面付近のキャリア密度向上に好ましい効果を及ぼしたとも考えられる。完全に窒素に切り替わった後に、有機金属ガスをチャンバ内に供給するまでに、1秒以上の時間を空けることも好ましい様態である。
【0047】
p型コンタクト層153の成長温度としては、800℃以上1400℃以下が好ましく、900℃以上1300℃以下がより好ましい。また、チャンバ内の成長圧力については、例えば10Torr〜760Torrとすることができる。より好ましくは、20Torr〜600Torrである。
【0048】
また、NH
3ガスなどのV族元素ガスと、TMAガスなどのIII族元素ガスの成長ガス流量を元に計算されるIII族元素に対するV族元素のモル比(以降、V/III比と記載する)については、例えば100以上100000以下とすることができる。より好ましくは300以上30000以下である。成長温度および成長圧力に応じて最適なV/III比が存在するため、成長ガス流量を適宜設定することが好ましいのはAlN層21の場合と同様である。
【0049】
特に、第1のp型コンタクト層53の厚みを5nm以上40nm以下とすることが好ましい。これにより、結晶性の高い第2のコンタクト層54が、順方向電圧を維持しつつ、発光出力を向上させることができる。基本的に、p型コンタクト層153のキャリアガスとしては、水素の方が好ましい。これは、水素ガスの方が結晶性のよい窒化物半導体層が形成されるためである。
【0050】
こうした結晶性のよい膜とすることにより、p型不純物であるMgが欠陥に偏析したり補償されたりすることが少なく、p型キャリアが供給され、キャリア注入効率が向上して光出力が増大し、また順方向電圧も良好に保たれる。
【0051】
しかし、高Al組成のAlGaN層(電子ブロック層51)上にGaN薄膜(第1のp型コンタクト層54)を成長開始させる場合には、GaN薄膜に対して大きな圧縮歪みが印加されることになる。本発明者は、そのような状況においてキャリアガスとして水素を用いると、歪みエネルギーの掛かったGaN成長核を水素が除去して開放してしまい、核密度が低下する。すると、少ない密度の核同士が成長して融合する段階で、大きな欠陥が生じたり、表面が荒れたりしてしまう。このような欠陥が生じることで、Mgが補償され、光出力の低下や順方向電圧の上昇につながってしまうと考えた。
【0052】
そこで、第1のp型コンタクト層54のキャリアガスとして窒素を用いると共に、厚みを上記範囲とすることにより、高Al組成のAlGaN層(電子ブロック層51)上のGaN成長核の維持と、結晶性の向上とを両立するこが可能となり、光出力の向上と順方向電圧の保持が実現可能となる。
【0053】
最後に、
図2(G)に示すように、発光層40およびp型半導体層150の一部をエッチング等により除去し、露出したn型半導体層32上にn側電極60を、第2のp型コンタクト層54上にp側電極70をそれぞれ形成する。こうして、本発明の好適な実施形態に係る窒化物半導体発光素子1を作製することができる。
【0054】
ここで、n側電極60は、例えばTi含有膜およびこのTi含有膜上に形成されたAl含有膜を有する金属複合膜とすることができ、その厚み、形状およびサイズは、発光素子の形状およびサイズに応じて適宜選択することができる。また、p側電極70についても、例えばNi含有膜およびこのNi含有膜上に形成されたAu含有膜を有する金属複合膜とすることができ、その厚み、形状およびサイズは、発光素子の形状およびサイズに応じて適宜選択することができる。
【0055】
(III族窒化物半導体発光素子)
また、本発明の一実施形態に係るIII族窒化物半導体発光素子は、上で説明したIII族窒化物半導体発光素子の製造方法によって製造されたものである。得られたIII族窒化物半導体発光素子1は、低い順方向電圧で高い出力の光を発光できるものである。
【0056】
こうして、順方向電圧を維持しつつ発光出力を高めることができるIII族窒化物半導体発光素子を製造することができる。
【実施例】
【0057】
(発明例)
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
図2に示したフローチャートに従って、III族窒化物半導体発光素子を作製した。まず、サファイア基板(直径2インチ、厚さ:430μm、面方位:(0001)、m軸方向オフ角θ:0.5度、テラス幅:100nm、ステップ高さ:0.20nm)を用意した(
図2(A))。次いで、MOCVD法により、上記サファイア基板上に中心膜厚0.60μm(平均膜厚0.61μm)のAlN層を成長させ、AlNテンプレート基板とした(
図2(B))。その際、AlN層の成長温度は1300℃、チャンバ内の成長圧力は10Torrであり、V/III比が163となるようにアンモニアガスとTMAガスの成長ガス流量を設定した。V族元素ガス(NH
3)の流量は200sccm、III族元素ガス(TMA)の流量は53sccmである。なお、AlN層の膜厚については、光干渉式膜厚測定機(ナノスペックM6100A;ナノメトリックス社製)を用いて、ウェーハ面内の中心を含む、等間隔に分散させた計25箇所の膜厚を測定した。
【0058】
次いで、上記AlNテンプレート基板を熱処理炉に導入し、10Paまで減圧後に窒素ガスを常圧までパージすることにより炉内を窒素ガス雰囲気とした後に、炉内の温度を昇温してAlNテンプレート基板に対して熱処理を施した(
図2(C))。その際、加熱温度は1650℃、加熱時間は4時間とした。
【0059】
続いて、MOCVD法により、アンドープ層として、Al
0.7Ga
0.3Nからなる層厚1μmのアンドープAl
0.7Ga
0.3N層を形成した。次に、アンドープ層上に、n型半導体層として、Al0
.62Ga
0.38Nからなり、Siドープした層厚2μmのn型Al
0.62Ga
0.38N層を上記AlN層上に形成した(
図2(D))。なお、SIMS分析の結果、n型半導体層のSi濃度は1.0×10
19atoms/cm
3である。
【0060】
続いて、n型半導体層上に、Al
0.45Ga
0.55Nからなる層厚3nmの井戸層およびAl
0.65Ga
0.35Nからなる層厚7nmの障壁層を交互に3.5組繰り返して積層した発光層を形成した(
図2(E))。3.5組の0.5は、発光層の最初と最後を障壁層としたことを表す。
【0061】
その後、発光層上に、水素ガスをキャリアガスとして、Al
0.68Ga
0.32Nからなり、Mgドープした層厚40nmの電子ブロック層を形成した。次いで、窒素ガスをキャリアガスとして、GaNからなり、Mgドープした層厚30nmの第1のp型コンタクト層を形成した。その際、チャンバ内の成長圧力は300mbarであった。また、キャリアガスである窒素ガス、NH
3ガス、TMG、Cp
2Mgの流量は、それぞれ30slm、30slm、150sccmおよび1000sccmであった。続いて、キャリアガスを水素ガスに切り替えた後、Mgドープした層厚150nmの第2のp型コンタクト層を形成した。キャリアガスである水素ガスの流量は、30slmとし、その他の条件は第1のp型コンタクト層の形成と同じにした。なお、層厚150nmの内の電極に接する厚さ30nmの領域においては、TMGガスの流量を減らしてMgの存在確率を上げ、かつ、成長速度を落とすことにより高Mg濃度の層とした。その後、第2のp型コンタクト層の上にマスクを形成してドライエッチングによるメサエッチングを行い、n型半導体層を露出させた。次いで、第2のp型コンタクト層上に、Ni/Auからなるp型電極を形成し、露出したn型半導体層上には、Ti/Alからなるn型電極を形成した。なお、p型電極のうち、Niの厚みは50Åであり、Auの厚みは1500Åである。また、n型電極のうち、Tiの厚みは200Åであり、Alの厚みは1500Åである。最後に550℃でコンタクトアニール(RTA)を行って、電極を形成した。こうして発明例に係るIII族窒化物半導体発光素子を作製した。
【0062】
(比較例1)
発明例と同様に窒化物半導体発光素子を作製した。ただし、p型コンタクト層を1層構造(厚み:180nm)とし、窒素をキャリアガスとしてp型コンタクト層を形成した。すなわち、p型電極側に水素をキャリアガスとして用いて形成した領域を設けなかった。その他の条件は発明例と全て同じである。
【0063】
(比較例2)
Al
0.68Ga
0.32Nからなる電子ブロック層とp型コンタクト層との間に、Al
0.35Ga
0.65Nからなるクラッド層を形成した以外は、比較例1と同様にIII族窒化物半導体発光素子を作製した。ただし、電子ブロック層とp型クラッド層の2つの層は、水素をキャリアガスとして用いて形成した。その他の条件は比較例1と全て同じである。
【0064】
<発光特性および順方向電圧の評価>
発明例について、作製したフリップチップ型のIII族窒化物半導体発光素子を、積分球により電流20mAのときの発光出力Po(mW)および順方向電圧V
fをそれぞれ測定したところ、2.9mW、8.7Vであった。これに対して、比較例1について発光出力および順方向電圧を測定したところ、それぞれ2.0mW、8.7Vであった。同様に、比較例2について発光出力および順方向電圧を測定したところ、それぞれ3.0mW、9.1Vであった。このように、発明例は、比較例1に比べて、順方向電圧を維持しつつ、発光出力を大きく向上できることが分かる。比較例2は、比較例1より発光出力が向上したものの、順方向電圧が上昇した。得られた結果を表1に示す。
【0065】
【表1】