特許第6084397号(P6084397)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6084397焼結用無機粒子含有ペーストおよび塗布形成物
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  • 特許6084397-焼結用無機粒子含有ペーストおよび塗布形成物 図000012
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6084397
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】焼結用無機粒子含有ペーストおよび塗布形成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 1/00 20060101AFI20170213BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20170213BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20170213BHJP
   C08L 33/00 20060101ALI20170213BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20170213BHJP
【FI】
   C09D1/00
   C09D7/12
   C09D133/00
   C08L33/00
   C08K5/13
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-180769(P2012-180769)
(22)【出願日】2012年8月17日
(65)【公開番号】特開2014-37491(P2014-37491A)
(43)【公開日】2014年2月27日
【審査請求日】2015年7月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】591021305
【氏名又は名称】太陽ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100161458
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 淳郎
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(72)【発明者】
【氏名】小田桐 悠斗
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 正樹
(72)【発明者】
【氏名】福島 和信
【審査官】 村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−060752(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/046176(WO,A1)
【文献】 特開2014−037490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−10/00;
101/00−201/10
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粒子、
イソボルニル基を有する化合物、および、
変性ウレア化合物溶液からなる揺変剤、
を含有することを特徴とする300〜1000℃の焼結用無機粒子含有ペースト。
【請求項2】
さらに、アクリル樹脂を含有することを特徴とする請求項記載の300〜1000℃の焼結用無機粒子含有ペースト。
【請求項3】
前記イソボルニル基を有する化合物の分子量が300以下であることを特徴とする請求項1または2記載の300〜1000℃の焼結用無機粒子含有ペースト。
【請求項4】
前記イソボルニル基を有する化合物が下記一般式(I)で表される化合物であることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項記載の300〜1000℃の焼結用無機粒子含有ペースト。
(式中、Mは、水酸基で置換されたフェニル基または下記一般式(II)で表される構造を表す。)
(式中、Rは炭素原子数1〜4のアルキル基を表し、nは0〜3の整数を表す。)
【請求項5】
請求項1〜のいずれか一項記載の300〜1000℃の焼結用無機粒子含有ペーストを用いてなることを特徴とする塗布形成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無機粒子含有ペーストに関し、詳しくは、焼成性に優れ、炭化した有機物の残存、および、乾燥工程における塗膜のダレの発生が抑制された無機粒子含有ペーストおよびそれを用いた塗布形成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属粒子などの導電性物質やガラスフリットなどの誘電体、蛍光体といった無機粒子を含有する無機粒子含有ペーストは、インクジェット印刷、スクリーン印刷、グラビアオフセット印刷といった種々の印刷法により高精細回路を構成するように基板に印刷され、加熱による硬化、焼結処理を経て基板上に電極や電気配線、誘電体層、蛍光体層などを形成する。
【0003】
例えば、特許文献1には、バインダー樹脂、アルコキシシラン化合物および銀粒子を含有する焼結性導電ペーストが開示され、特許文献2には、導電性粉末、アルキルシリケート、有機チタンキレートおよび高粘性溶媒を含有する導電性ペースト組成物が開示されている。また、特許文献3には、カルボン酸含有樹脂、導電粒子、多価アルコール化合物および有機溶剤を含有する導電性ペーストが開示されている。
【0004】
上記特許文献等記載のペーストにおいてバインダー樹脂として使用される有機高分子バインダーは、印刷性の付与、塗膜の形成の為に用いられるものである。この有機高分子バインダーの除去には、高温での加熱を必要とする。また、有機高分子が、加熱処理時に炭化して残存すると、気泡や膨張の発生、無機物層の特性への悪影響が生じうるという問題がある。
【0005】
上記の有機高分子バインダーの高温処理、残存に関する問題の解決手段として、特許文献4には、テルペン骨格を有し、25℃における粘度が特定の範囲である有機化合物として、イソボルニル基を有する化合物を用いた無機粒子含有組成物が提案されている。即ち、特許文献4は、無機体或いは無機物層を従来よりも低エネルギーで形成できるとともに有機化合物に起因する悪影響を低減することが可能な無機粒子含有組成物を提供することを目的とし、イソボルニル基を有する化合物が、塗膜の形成に用いることができる一方、比較的低温で除去が可能であることに着目したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−106145号公報
【特許文献2】特開2011−60752号公報
【特許文献3】特開2011−76899号公報
【特許文献4】国際公開2008/149748号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、イソボルニル基を有する化合物を用いた無機粒子含有ペーストは焼成性に優れ、低温でイソボルニル基を有する化合物の除去が可能ではあるものの、乾燥工程において著しい塗膜のダレが発生することがあるという問題があった。
【0008】
そこで本発明の目的は、焼成性に優れ、炭化した有機物の残存、および、乾燥工程における塗膜のダレの発生が抑制された無機粒子含有ペーストおよびそれを用いた塗布形成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、無機粒子、イソボルニル基を有する化合物、および、変性ウレア化合物溶液からなる揺変剤を含有する無機粒子含有ペーストとすることで上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
ここで、本発明において、変性ウレア化合物溶液とは、イソシアネート単量体あるいはこれらのアダクト体と有機アミンとの反応物をいう。
【0010】
即ち、本発明の無機粒子含有ペーストは、無機粒子、イソボルニル基を有する化合物、および、変性ウレア化合物溶液からなる揺変剤を含有することを特徴とするものである。
【0011】
本発明の無機粒子含有ペーストは、さらに、アモルファスシリカを含有することが好ましい。
【0012】
本発明の無機粒子含有ペーストは、さらに、アクリル樹脂を含有することが好ましい。
【0013】
本発明の無機粒子含有ペーストは、前記アモルファスシリカが、親水性シリカであることが好ましい。
【0014】
本発明の無機粒子含有ペーストは、前記イソボルニル基を有する化合物の分子量が300以下であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の無機粒子含有ペーストは、前記イソボルニル基を有する化合物が下記一般式(I)で表される化合物であることが好ましい。
(式中、Mは、水酸基で置換されたフェニル基または下記一般式(II)で表される構造を表す。)
(式中、Rは炭素原子数1〜4のアルキル基を表し、nは0〜3の整数を表す。)
【0016】
本発明の塗布形成物は、上記いずれかの無機粒子含有ペーストを用いてなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、焼成性に優れ、炭化した有機物の残存、および、乾燥工程における塗膜のダレの発生が抑制された無機粒子含有ペーストおよびそれを用いた塗布形成物を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は参考例の結果を表すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の無機粒子含有ペーストは、無機粒子、イソボルニル基を有する化合物、および、変性ウレア化合物溶液からなる揺変剤を含有することを特徴とするものである。イソボルニル基を有する化合物は、バインダーとして用いることができる性質を有しながら、比較的低温で揮発する。これにより、焼成時の炭化した有機物の残存、いわゆる残炭の発生が抑制される。さらに、本発明者等により、イソボルニル基を有する化合物、および、変性ウレア化合物溶液からなる揺変剤を含有することにより、イソボルニル基を有する化合物をバインダーとして使用したときに問題となる、塗膜のダレの発生が抑制されることが見出された。これは、主にペースト中で三次元構造を形成し、擬塑性およびチクソトロピー性を付与させるものと考えられる。
【0020】
本発明の無機粒子含有ペーストは、基板上への印刷ないし塗布、乾燥、焼成工程(加熱による硬化、焼結処理)を経て、基板上に電極や電気配線、誘電体層、蛍光体層などを形成することにより用いられる。
印刷ないし塗布の方法は特に限定されず、公知の方法によることができる。印刷方法としては、インクジェット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷、グラビアオフセット印刷等が挙げられる。これら印刷方法により印刷することで、下地層の特殊な処理を必要とせずに、高精細な回路を形成することができる。
乾燥工程は、熱風循環式乾燥炉などを用いた公知の方法によることができる。
焼成工程は、含まれる無機粒子の種類によっても異なりうるが、好ましくは300〜1000℃、より好ましくは500〜900℃である。また、焼成は有酸素下、大気中、無酸素下などの条件を、無機粒子の特性に合わせて適宜選択することができる。例えば、大気中で焼成すると酸化しやすい金属を用いる場合は、無酸素下で焼成を行うことが好ましい。
【0021】
本発明の無機粒子含有ペーストは、下記式で表されるチキソ比が1.0〜4.0であることが好ましく、1.1〜3.0であることがより好ましい。なお、下記粘度値は25℃における粘度値である。粘度値は、公知のコーンプレート型粘度計により測定することができる。
チキソ比=
[剪断速度10s−1での粘度値]/[剪断速度100s−1での粘度値]
【0022】
以下、各成分について詳述する。
【0023】
[無機粒子]
無機粒子は、基板上に電極や電気配線、誘電体層、蛍光体層などを形成するために用いられるものであればいずれでもよく、用途に応じて適宜選択される。無機粒子として例えば、金属、金属酸化物、ガラス、蛍光体の粒子が挙げられる。また、金属粒子を使用する場合に、結着材としてガラス粒子を添加してもよい。
【0024】
金属粒子としては、銀、銅、アルミニウム、金、白金、ニッケル、錫、亜鉛などからなる群から選ばれた少なくとも1種類の金属の他、その合金等が挙げられる。
金属酸化物としては上記金属の酸化物の他、ITO(Indium Tin Oxide)、酸化インジウムなどを用いることができる。
上記金属粒子、金属酸化物粒子の、レーザー回折・散乱法で測定した平均粒径(D50)は、好ましくは、0.01〜50μm、より好ましくは、0.1〜15μmである。
金属粒子、金属酸化物粒子の配合量は、ペーストの不揮発成分(乾燥工程でペースト中から揮発せず膜に残存する成分)を基準として、70〜99.9質量%であることが好ましい。70質量%未満であると焼成後の金属粒子または金属酸化物粒子の焼結が起き難くなるため好ましくない。一方、99.9質量%を超えると、良好な印刷性を得ることが困難となる。
【0025】
ガラス粒子(ガラスフリット)としては、酸化鉛、酸化ビスマス、酸化亜鉛、酸化リチウム、またはアルカリホウケイ酸塩を主成分とするものが好適に用いられる。ガラス粒子の具体例として例えば、PbO−B−SiO系、PbO−B−SiO−Al系、ZnO−B−SiO系、ZnO−B−SiO−Al系、PbO−ZnO−B−SiO系、PbO−ZnO−B−SiO−Al系、Bi−B−SiO系、Bi−B−SiO−Al系、Bi−ZnO−B−SiO系、Bi−ZnO−B−SiO−Al系等のガラス粒子が挙げられる。
【0026】
酸化鉛を主成分とするガラスフリットとしては、例えば、酸化物基準の質量%で、PbOが48〜82%、Bが0.5〜22%、SiOが3〜32%、Alが0〜12%、BaOが0〜15%、TiOが0〜2.5%、Biが0〜25%の組成を有する非晶性ガラスフリットが好ましい。
【0027】
酸化ビスマスを主成分とするガラスフリットとしては、酸化物基準の質量%で、Biが6〜88%、Bが5〜30%、SiOが5〜25%、Alが0〜5%、BaOが0〜20%、ZnOが1〜20%の組成を有する非晶性ガラスフリットが好ましい。
【0028】
酸化亜鉛を主成分とするガラスフリットとしては、酸化物基準の質量%で、ZnOが25〜60%、KOが2〜15%、Bが25〜45%、SiOが1〜7%、Alが0〜10%、BaOが0〜20%、MgOが0〜10%の組成を有する非晶性ガラスフリットが好ましい。
【0029】
ガラス粒子の平均粒径(D50)は、レーザー回折・散乱法で測定することができ、好ましくは0.3〜5.0μm、より好ましくは0.5〜3.0μmである。平均粒径が0.3μm未満であると、収率が著しく低下しコスト高となり、5.0μmを超えると、薄膜の形成や、焼成時の均一な収縮が困難となり、ライン形状や緻密性が劣化する。
【0030】
ガラス粒子の軟化点は、好ましくは530〜650℃である。ガラス軟化点が530℃未満であると、得られる回路において十分な緻密性を得ることが困難となり、650℃を超えると抵抗値が上昇する。また、ガラス粒子の熱膨張係数α300は、60×10−7〜110×10−7であることが好ましい。
【0031】
ガラス粒子の配合量は、ペーストの不揮発成分(乾燥工程でペースト中から揮発せず膜に残存する成分)を基準として、70〜99.9質量%であることが好ましい。70質量%未満であると、焼成後の回路の基板への良好な密着性を得ることが困難となる。一方、99.9質量%を超えると、良好な印刷性を得ることが困難となる。
【0032】
[イソボルニル基を有する化合物]
本発明において、イソボルニル基を有する化合物は、溶剤として用いられる。イソボルニル基を有することで、その立体構造故に高粘度となり、無機粒子を分散させつつ好適な印刷適性を保持することができると考えられる。イソボルニル基を有する化合物としては分子量が300以下であるものが好ましい。また、焼結処理により揮発するものであることが好ましく、沸点が150〜350℃の範囲であるものが好ましい。イソボルニル基を有する化合物としては、例えば、1−イソボルニル−3,3−ジメチル−2−メチレンノルボルナン、(メタ)アクリル酸イソボルニル、5‐イソボルニル‐2‐メトキシフェノール、イソボルニルシクロヘキサノール、イソボルニルフェノール、5‐[2‐(イソボルニルオキシ)エチル]シクロペンタジエンが挙げられる。
【0033】
上記イソボルニル基を有する化合物の配合量は、組成物全体を基準として、0.1〜90質量%が好ましく、5〜90質量%がより好ましく、10〜60質量%がさらに好ましい。0.1質量%未満であると、ペーストとして十分な粘度が得られないため、好ましくない。一方、90質量%を超えると、ペーストとしての流動性を損なうため、好ましくない。
【0034】
上記イソボルニル基を有する化合物の粘度(25℃における)としては、1000〜10000dPa・sが好ましく、3000〜7000dPa・sがより好ましい。粘度は例えばコーンプレート型粘度計により測定することができる。
【0035】
本発明において、イソボルニル基を有する化合物としては、下記一般式(I)で表されるものが好ましい。
(式中、Mは、水酸基で置換されたフェニル基または下記一般式(II)で表される構造を表す。)
(式中、Rは炭素原子数1〜4のアルキル基を表し、nは0〜3の整数を表す。)
【0036】
上記一般式(I)で表される化合物としては、イソボルニルシクロヘキサノール、イソボルニルフェノール等が挙げられる。
【0037】
[変性ウレア化合物溶液]
本発明の無機粒子含有ペーストは、揺変剤として、変性ウレア化合物溶液(イソシアネート単量体あるいはこれらのアダクト体と有機アミンとの反応物)を含む。
この変性ウレア化合物溶液によれば、主にペースト中で三次元構造を形成し、擬塑性およびチクソトロピー性を付与させるものと考えられる。
このような変性ウレア化合物溶液としては、BYK−410、BYK−411、BYK−420、官報公示整理番号 化審法7−885にかかる物質等が挙げられる。
変性ウレア化合物溶液の配合量は、組成物全体を基準として、0.01〜5質量%が好ましく、0.05〜3質量%がより好ましく、0.1〜1.5質量%がさらに好ましい。0.01質量%未満であると、ダレ抑止効果が得られないことがあり好ましくない。一方、5質量%を超えると、ペーストとしての流動性を損うことがあるため好ましくない。
【0038】
[アモルファスシリカ]
本発明の無機粒子含有ペーストは、アモルファスシリカを含有することが好ましい。アモルファスシリカは非晶質のシリカであり、合成品、天然品のいずれであってもよいが好ましくは合成品である。また、沈降法、ゲル法等によって製造される湿式シリカ、燃焼法、アーク法等によって製造される乾式シリカのいずれであってもよい。アモルファスシリカとしては親水性、疎水性のいずれでもよいが、塗膜のダレ発生防止効果が大きいことから親水性のものが好ましい。アモルファスシリカの具体例としては、日本アエロジル社製のAEROSIL(アエロジル 登録商標)50、130、200、200V、200CF、200FAD、300、300CF、380、OX50、TT600、MOX80、MOX170、COK84、日本シリカ工業社製のNipsil(登録商標)AQ、AQ-S、VN3、LP、L300、N-300A、ER-R、ER、RS-150、 ES、NS、NS-T、NS-P、NS-KR、NS-K、NA、KQ、KM、DS、信越化学社製のKMPX-100K、日本触媒社製シーホスターKE-P10、KE-E10等が挙げられる。アモルファスシリカは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも一次粒子径が5〜50nmのものが好ましく、5〜20nmのものがより好ましい。また、比表面積は50〜500m/gのものが好ましい。
アモルファスシリカの配合量は、組成物全体を基準として、0.01〜20質量%が好ましく、0.1〜10質量%がより好ましく、0.5〜5質量%がさらに好ましい。0.01質量%未満であると、ダレ抑止効果が得られないことがあり好ましくない。一方、20質量%を超えると、ペーストとしての流動性を損うことがあるため好ましくない。
【0039】
[アクリル樹脂]
本発明の無機粒子含有ペーストは、ダレ発生防止に効果があることより、アクリル樹脂を含むことが好ましい。アクリル樹脂としては、例えば、アクリル酸、アクリル酸エステル類、メタクリル酸、およびメタクリル酸エステル類からなる群から選ばれる1種以上のモノマーの重合体、共重合体が挙げられる。また、これら(メタ)アクリル酸および/または(メタ)アクリル酸エステルと、エチレン性不飽和結合を有する他のモノマーとの共重合体であってもよい。(メタ)アクリル酸エステルの具体例として、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートグリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられ、中でもメチルメタクリレートが好ましい。アクリル樹脂の市販品としては、三菱レイヨン社製のダイヤナール LR−155、ダイヤナール LR−016、ダイヤナール LR−177、LR−981、積水化学工業社製エスレックASシリーズ、DIC社製アクリディックシリーズ等が挙げられる。
アクリル樹脂としては、重量平均分子量10000〜300000が好適である。重量平均分子量が10000未満であると印刷後の乾燥工程で塗膜のダレを抑制する効果が乏しくなる。一方、重量平均分子量が300000を超えると、ペーストの粘度が高くなりすぎ印刷し難くなることがある。より好ましくは13000〜120000の範囲である。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)にて測定した標準ポリスチレン換算の値である。
アクリル樹脂の配合割合は、組成物全体を基準として、0.01〜15質量%であることが好ましく、0.1〜10質量%がより好ましく、0.1〜7質量%がさらに好ましい。0.01質量%未満であると印刷後の乾燥工程において塗膜のダレを抑制する効果が乏しくなる、塗膜強度が低下しハンドリング時に傷が付くなどの不具合が生じやすくなる。一方、15質量%を超えると焼成時の残炭(未燃焼成分の残存)が生じやすくなり、良好な焼成物が得られない場合がある。
【0040】
(その他の溶剤)
本発明の無機粒子含有ペーストは、さらに粘度調整や印刷適性の向上を目的に、イソボルニル基を有する化合物に加えてそれ以外の溶剤を含むことが好ましい。具体的には、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;セロソルブ、メチルセロソルブ、カルビトール、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどの酢酸エステル類;エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、テルピネオールなどのアルコール類;オクタン、デカンなどの脂肪族炭化水素;石油エーテル、石油ナフサ、水添石油ナフサ、ソルベントナフサなどの石油系溶剤が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。その中でも、アルコール類、および石油系溶剤の少なくとも何れか1種を含むことが特に好ましい。アルコール類の中では、単環式モノテルペンアルコール化合物がさらに好ましく、テルピネオール類(ターピネオール類とも称する)が最も好ましい。アルコール類の具体例としてはターピネオールC(日本テルペン化学社製)等が挙げられ、石油系溶剤の具体例としてはカクタスファインSF−02(ジャパンエナジー社製)等が挙げられる。
【0041】
(その他の成分)
本発明の無機粒子含有ペーストには、本発明の効果を損なわない限り、電極や電気配線、誘電体層、蛍光体層、無機物層の形成に用いられる無機粒子含有ペーストに一般に配合される成分を配合することができる。そのような成分としては、バインダー、上記以外の溶剤、着色剤、消泡剤、レベリング剤、表面張力低下剤、希釈剤、可塑化剤、フィラー、カップリング剤、安定剤、酸化防止剤、分散剤等が挙げられる。
【0042】
本発明の無機粒子含有ペーストが上記以外のバインダーを含む場合に、使用可能なバインダーとしては特に限定されるものではなく、例えば、ポリエステル樹脂、ウレタン変性ポリエステル樹脂、エポキシ変性ポリエステル樹脂、アクリル変性ポリエステル樹脂などの各種変性ポリエステル樹脂、ポリエーテルウレタン樹脂、ポリカーボネートウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリアミド、ニトロセルロース、セルロース・アセテート・ブチレート(CAB)、セルロース・アセテート・プロピオネート(CAP)などの変性セルロース類などが挙げられる。
【0043】
本発明の無機粒子含有ペーストの製造方法は特に限定されず、公知の方法により製造することができる。例えば、上記各成分を攪拌装置を用いて混合し、3本ロール等で分散する方法が挙げられる。
【0044】
本発明の無機粒子含有ペーストは、好適には、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ガラス等からなるプリント基板、フレキシブル基板、PETなどのフィルム基板などの上に印刷ないし塗布され、加熱による焼結処理を施すことで、電極や電気配線、誘電体層、蛍光体層、無機物層等を形成することに用いられる。具体的な用途としては、例えば、微細配線基板を用いた電子部品、プリント配線板、アンテナ回路、コンデンサー等の電子部品、フラットパネルディスプレイと言われる液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、電界放出ディスプレイ等の電極部材や電子回路、IC実装、パワーデバイス等の電気的接合部材、RFID用タグ、太陽電池、燃料電池等の電極、熱線遮蔽、電磁波遮蔽の微細配線への適用を挙げることができる。
【0045】
本発明の塗布形成物は、本発明の無機粒子含有ペーストを用いてなることを特徴とするものである。即ち、フィルムや基板上に本発明の無機粒子含有ペーストを、回路を形成するように塗布ないし印刷した後、乾燥、焼成工程(加熱による硬化、焼結処理)を行うことにより製造される。印刷、乾燥、焼成方法、およびフィルムや基板については上記した通りである。本発明の塗布形成物は、用いる無機粒子含有ペーストに含まれる無機粒子の種類により、導電回路、導体回路、誘電体回路、蛍光体回路等とすることができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例、比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例、比較例により何ら制限されるものではない。
【0047】
(ガラスペーストの調製)
表1に示す配合割合(質量比)で各成分を配合して3本ロールミルにて練肉することで、実施例1〜8、比較例1〜2のガラスペースト組成物を得た。なお、粘度は約200dPa・s(東機産業社製コーンプレート型粘度計、5回転値)に調整した。
【0048】
【表1】
※1… テルソルブMTPH (日本テルペン化学社製)
※2… ターピネオールC (日本テルペン化学社製)
※3…カクタスファインSF−02 (石油系溶剤、ジャパンエナジー社製)
※4…BYK―D410(ビッグケミー・ジャパン社製)
※5…アエロジルR974(日本アエロジル社製)
※6…アエロジル♯200 (日本アエロジル社製)
※7…エスレックAS M−3210(積水化学工業社製、不揮発分45%)
※8…PbO 60%、B 20%、SiO15%、Al 5%の組成を有し、熱膨張係数α300=70×10−7/℃、ガラス転移点445℃の性質のものを、粉砕して平均粒径1.6μmとしたもの
【0049】
(試験方法)
得られたガラスペーストを、シリンジにて一定量(0.05mL)計り取り、ガラス板に垂らした。次いで、ラックにガラス板を垂直に立てかけて、熱風循環式乾燥炉にて80℃で3分間乾燥した。
【0050】
(評価方法)
乾燥後、ダレの長さ(量)を測定した。結果は表2の通りである。
【0051】
(試験結果)
【表2】
【0052】
実施例1〜8のいずれにおいても、変性ウレア化合物を含まない比較例1よりダレ量が低減された結果が得られた。特に、変性ウレア化合物に加えてアモルファスシリカを含む、実施例5〜8はダレ低減効果が大きい。さらにその中でも、変性ウレア化合物と親水性アモルファスシリカとを含む、実施例6〜8は、ダレ低減効果が非常に大きかった。
これに対し、変性ウレア化合物の代わりに、脂肪酸アミドであるステアリン酸アミドを用いた比較例2では、逆にダレ量が増加する結果となった。
【0053】
以上の結果から、イソボルニル基を有する化合物と無機粒子とを含むペーストに変性ウレア化合物を含有させることが、ダレ低減に有効であることがわかった。また、変性ウレア化合物に加えて、アモルファスシリカを含有するとダレ低減効果がより高く、その中でも、変性ウレア化合物と親水性アモルファスシリカとを含有するとダレ低減効果が非常に高いことがわかった。
【0054】
[参考例]
表3に示す配合割合(質量比)で各成分を配合して3本ロールミルにて練肉することで、イソボルニルシクロヘキサノールを含まないガラスペースト組成物を得た(参考例1)。参考例1にかかるガラスペースト組成物と、上記比較例1にかかるガラスペースト組成物それぞれについて、東機産業社製コーンプレート型粘度計(5回転値)により各温度における粘度を測定した。結果を下記表4および図1に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
【表4】
【0057】
表4および図1から明らかなように、イソボルニルシクロヘキサノールを含まないガラスペースト組成物は加熱による粘度低下はそれほどでもないが、イソボルニルシクロヘキサノールを含むガラスペーストでは、加熱による粘度低下が顕著であった。このことは、イソボルニル基を有する化合物が良好な焼成性をもたらしうる一方で、イソボルニル基を有する化合物を用いた無機粒子含有ペーストにおいては加熱による粘度低下が生じ、その結果塗膜のダレが発生しうることを示しているといえる。
図1