特許第6085132号(P6085132)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6085132結晶解析装置、複合荷電粒子ビーム装置及び結晶解析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6085132
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】結晶解析装置、複合荷電粒子ビーム装置及び結晶解析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/20 20060101AFI20170213BHJP
【FI】
   G01N23/20 350
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-204612(P2012-204612)
(22)【出願日】2012年9月18日
(65)【公開番号】特開2014-59230(P2014-59230A)
(43)【公開日】2014年4月3日
【審査請求日】2015年7月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100090343
【弁理士】
【氏名又は名称】濱田 百合子
(74)【代理人】
【識別番号】100119552
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 公秀
(74)【代理人】
【識別番号】100138771
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 将明
(74)【代理人】
【識別番号】100154863
【弁理士】
【氏名又は名称】久原 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142837
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 則彰
(74)【代理人】
【識別番号】100123685
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 信行
(72)【発明者】
【氏名】満 欣
(72)【発明者】
【氏名】藤井 利昭
【審査官】 越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−294282(JP,A)
【文献】 特開2011−159483(JP,A)
【文献】 特開平10−239255(JP,A)
【文献】 特開平10−300692(JP,A)
【文献】 特開平02−216042(JP,A)
【文献】 特開2010−256261(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0011958(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/227
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に所定の間隔で形成され、互いに略平行な複数の断面上の各電子ビーム照射点で測定されたEBSPデータを記憶する測定データ記憶部と、
EBSPに対応する結晶方位の情報を蓄積した結晶方位データベースと、
前記複数の断面を前記間隔に基づき配列させた多面体像の複数の面の法線方向の結晶方位を、前記測定データ記憶部に記憶した前記EBSPデータに基づき前記結晶方位データベースから読み出し、前記複数の面のそれぞれの法線方向の結晶方位とする当該結晶方位の分布からなる三次元結晶方位マップを構築するマップ構築部と、を有する結晶解析装置。
【請求項2】
前記多面体像の複数の面は、結晶方位の異なる複数の結晶粒を有する面である請求項1に記載の結晶解析装置。
【請求項3】
前記多面体像の複数の面は、前記多面体像の側面に対し、傾斜した内部の面を含む請求項1または2に記載の結晶解析装置。
【請求項4】
前記マップ構築部は、前記多面体像の一つの面の法線方向の結晶方位の分布からなる二次元結晶方位マップを構築する第一のマップ構築部と、前記一つの面に隣接する面の法線方向の結晶方位の分布からなる二次元結晶方位マップを構築する第二のマップ構築部と、
を有する請求項1から3のいずれか一つに記載の結晶解析装置。
【請求項5】
前記三次元結晶方位マップの表示方向を指定する入力部を有する請求項1から4のいずれか一つに記載の結晶解析装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一つに記載の結晶解析装置と、
前記断面を形成するために集束イオンビームを照射するFIB鏡筒と、
前記断面に電子ビームを照射するEB鏡筒と、
前記断面上の前記電子ビームの照射点でのEBSPを検出するEBSP検出器と、を有する複合荷電粒子ビーム装置。
【請求項7】
集束イオンビームを試料に照射し、断面を形成する工程と、断面に電子ビームを照射し、断面の各電子ビーム照射点のEBSPを検出する工程と、を繰り返し施し、所定の間隔で互いに略平行に形成された複数の断面のEBSPを取得し、試料の結晶解析を行う結晶解析方法において、
前記複数の断面を前記間隔に基づき配列させた多面体像の複数の面の法線方向の結晶方位を、取得した複数の断面のEBSPに対応するEBSPデータに基づき、EBSPに対応する結晶方位の情報を蓄積した結晶方位データベースから読み出し、前記複数の面のそれぞれの法線方向の結晶方位とする当該結晶方位の分布からなる三次元結晶方位マップを構築する工程を有する結晶解析方法。
【請求項8】
前記多面体像の複数の面は、前記多面体像の側面に対し、傾斜した内部の面を含む請求項7に記載の結晶解析方法。
【請求項9】
前記三次元結晶方位マップを構築する工程は、前記多面体像の一つの面の法線方向の結晶方位の二次元分布を構築する工程と、前記一つの面に隣接する面の法線方向の結晶方位の二次元分布を構築する工程と、を有する請求項7または8に記載の結晶解析方法。
【請求項10】
前記三次元結晶方位マップの表示方向を指定する工程と、
指定された表示方向に前記三次元結晶方位マップを表示する工程と、を有する請求項7から9のいずれか一つに記載の結晶解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビーム照射により試料から得られた後方散乱電子の情報から結晶解析を行う結晶解析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、走査電子顕微鏡において、試料に電子ビーム(EB)を照射し、試料からの後方散乱電子を検出することで、後方散乱電子回折像(Electron Back−Scattering Pattern:EBSP)測定し、試料の結晶解析を行うことが知られている。また、近年、集束イオンビーム(FIB)による試料の断面形成と、断面のEBSPを測定とを連続的に施すことにより試料の三次元結晶方位マッピングを構築し、結晶解析する装置が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−159483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の装置で構築された三次元結晶方位マッピングは、FIBで形成された断面の二次元結晶方位マッピングを積層することで構成されているため、当該断面の結晶方位のみが正しく表示され、三次元結晶方位マッピングの側面に表示される結晶方位は正しく表示することができなかった。
【0005】
この発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、試料の多面体像の各面にそれぞれ対応した結晶方位を示す三次元結晶方位マッピングを構築できる結晶解析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、この発明は以下の手段を提供している。
(1)本発明に係る結晶解析装置は、試料に所定の間隔で形成され、互いに略平行な複数の断面上の各電子ビーム照射点で測定されたEBSPデータを記憶する測定データ記憶部と、EBSPに対応する結晶方位の情報を蓄積した結晶方位データベースと、複数の断面を間隔に基づき配列させた多面体像の複数の面の法線方向の結晶方位を、測定データ記憶部に記憶したEBSPデータに基づき結晶方位データベースから読み出し、複数の面のそれぞれの法線方向の結晶方位とする当該結晶方位の分布からなる三次元結晶方位マップを構築するマップ構築部と、を有する。
ここで、多面体像は六面体像である。表示方向の設定により六面体像のうち所望の一または二以上の面の像を表示することができる。
【0007】
この装置によれば、多面体像の側面、すなわちFIBで形成された断面以外の面について、測定したEBSPデータに基づき、当該面の法線方向の結晶方位の情報を結晶方位データベースから読み出し、三次元結晶方位マップを構築するので、多面体像の各面の法線方向から見た結晶方位を各面にそれぞれ表示することができる。つまり、側面であっても正しい結晶方位を示した三次元結晶方位マップを構築することができる。また、多面体像の側面のほかに、多面体像をスライスして露出させた内部の面を含む場合であっても、当該内部の面を含んだ三次元結晶方位マップを構築することができる。さらに、当該内部の面は側面に対し傾斜した面であっても良い。
【0008】
また、本発明に係る結晶解析装置は、上記の面が、結晶方位の異なる複数の結晶粒を有する面である場合であっても、三次元結晶方位マップを構築することができる。断面上の各電子ビーム照射点で測定されたEBSPデータに基づいて結晶方位を解析しているので、一つの面内に結晶方位の異なる複数の結晶粒があっても、それぞれの結晶面について結晶方位を表示させることができる。
【0009】
また、本発明に係る結晶解析装置のマップ構築部は、多面体像の一つの面の法線方向の結晶方位の分布からなる二次元結晶方位マップを構築する第一のマップ構築部と、当該一つの面に隣接する面の法線方向の結晶方位の分布からなる二次元結晶方位マップを構築する第二のマップ構築部と、を有する。また、表示面の表示方向を指定する入力部を有する。
【0010】
これにより、入力部で指定した表示方向に表示される多面体像において、表示部に表示される一つの面の法線方向の結晶方位の分布からなる二次元結晶方位マップと、当該一つの面に隣接する面の法線方向の結晶方位の分布からなる二次元結晶方位マップとを同時に表示することができるので、表示部に所望の方向から見た正しい結晶方位の三次元結晶方位マップを表示することができる。
【0011】
(2)本発明に係る複合荷電粒子ビーム装置は、上記の本発明に係る結晶解析装置と、断面を形成するために集束イオンビームを照射するFIB鏡筒と、断面に電子ビームを照射するEB鏡筒と、断面上の電子ビームの照射点でのEBSPを検出するEBSP検出器と、を有する。
これにより、一つの装置でFIBによる断面形成と、当該断面のEBSP検出とを連続的に実行し、その結晶解析を効率よく実施することができる。
【0012】
(3)本発明に係る結晶解析方法は、集束イオンビームを試料に照射し、断面を形成する工程と、断面に電子ビームを照射し、断面の各電子ビーム照射点のEBSPを検出する工程と、を繰り返し施し、所定の間隔で互いに略平行に形成された複数の断面のEBSPを取得し、試料の結晶解析を行う結晶解析方法であって、複数の断面を当該間隔に基づき配列させた多面体像の複数の面の法線方向の結晶方位を、EBSPデータに基づき複数の面のそれぞれの法線方向の結晶方位とする当該結晶方位の分布からなる三次元結晶方位マップを構築する。
【0013】
また、本発明に係る結晶解析方法の三次元結晶方位マップを構築する工程は、多面体像の一つの面の法線方向の結晶方位の二次元分布を構築する工程と、当該一つの面に隣接する面の法線方向の結晶方位の二次元分布を構築する工程と、を有する。
さらに、本発明に係る結晶解析方法は、三次元結晶方位マップの表示方向を指定する工程と、指定された表示方向に三次元結晶方位マップを表示する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る結晶解析装置によれば、試料に形成された断面のEBSPデータに基づき、試料の多面体像の複数の面について各面の法線方向の結晶方位を示す三次元結晶方位マッピングを構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る複合荷電粒子ビーム装置の構成図である。
図2】(a)本発明の実施形態に係るEBSP検出の説明図である。(b)本発明の実施形態に係る試料の二次元結晶方位マップである。
図3】本発明の実施形態に係る結晶解析方法のフローチャートである。
図4】(a)本発明の実施形態に係る複数の断面のEBSP検出の説明図である。(b)本発明の実施形態に係る複数の断面の二次元結晶方位マップである。
図5】(a)、(b)本発明の実施形態に係る三次元結晶方位マップである。
図6】本発明の実施形態に係る三次元結晶方位マップである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施形態の複合荷電粒子ビーム装置は、図1に示すように、EB鏡筒1と、FIB鏡筒2と、試料室3を備えている。試料室3内で試料台4に設置された試料5にEB鏡筒1からEB6を、FIB鏡筒2からFIB7を照射する。試料台4は傾斜可能であり、傾斜させることにより試料5へのEB6の入射角度を変更することができる。
また、複合荷電粒子ビーム装置はEBSP検出器8を備えている。EBSP検出器8は、EB6の照射により試料5から発生した後方散乱電子を検出することができる。
【0017】
複合荷電粒子ビーム装置において、EB鏡筒1のEB照射軸方向D1と、FIB鏡筒2のFIB照射軸方向D2が直交している。試料5から後方散乱電子が放出される方向のうち、EB照射軸方向D1とFIB照射軸方法D2とに直交する方向を後方散乱電子放出方向D3とする。後方散乱電子検出器15は、後方散乱電子放出方向D3に放出された後方散乱電子も検出可能な位置に配置されている。
【0018】
ここで、EB鏡筒1とFIB鏡筒2とは、それぞれの照射軸が試料5上で互いに直交するように配置されているが、互いに直交しなくてもよい。ただし、それぞれの照射軸が直交して配置されている場合、試料台4を傾斜させることなくFIB7で断面加工し露出させた断面にEB6を照射しEBSP測定をすることができるので、より好ましい。
【0019】
また、複合荷電粒子ビーム装置は、EB制御部9と、FIB制御部10と、制御部11を備える。EB制御部9はEB鏡筒1に照射信号を送信し、EB鏡筒1からEB6を照射させる。FIB制御部10はFIB鏡筒2に照射信号を送信し、FIB鏡筒2からFIB7を照射させる。制御部11はEB6及びFIB7の照射条件等を設定し、EB制御部9及びFIB制御部10を制御する。
また、複合荷電粒子ビーム装置は、EBSP検出器8で検出したEBSPの測定データに基づいて結晶解析を行う結晶解析装置12を備える。
【0020】
結晶解析装置12は、測定データ記憶部13、結晶方位DB14及びマップ構築部15を備える。測定データ記憶部13は、EBSP検出器8で検出したEBSPの測定データを記憶する。結晶方位DB14は、EBSPに対応する物質、結晶方位の情報を蓄積したデータベースである。
【0021】
マップ構築部15は、測定データ記憶部13に記憶されたEBSPの測定データを読み出し、測定されたEBSPと結晶方位DB14に蓄積されたEBSPとを比較し、測定されたEBSPの物質と結晶方位を判定する。EBSPから物質と結晶方位を判定できるので、EBSPを測定した試料5上のEB6の照射点の物質と結晶方位が判定できる。そして、EB6を走査照射した試料面におけるEB6の照射点の位置情報と、断面加工でスライスしたスライス間隔の情報と、各照射点で測定したEBSPから判定した物質と結晶方位とを用いて加工した試料の三次元結晶方位マップを構築する。
【0022】
マップ構築部15は、後述するように、断面加工した断面について、当該断面の法線方向の結晶方位の分布からなる二次元結晶方位マップを構築する第一のマップ構築部16と、加工した試料の多面体像における当該断面に隣接する側面について当該側面の法線方向の結晶方位の分布である二次元結晶方位マップを構築する第二のマップ構成部17と、を備える。
【0023】
また、結晶解析装置12は、三次元結晶方位マップを表示する方向を入力する入力部18を備える。また、三次元結晶方位マップを表示する表示部19を備える。ここで、入力部18と表示部19は結晶解析装置12と独立して設置しても良い。また、結晶解析装置12の入力部18と表示部19の代わりに、制御部11に接続された制御用の入力部や表示部を用いて、三次元結晶方位マップを表示する方向を入力し、三次元結晶方位マップを表示しても良い。
【0024】
次に、EBSP検出器8の配置と、二次元結晶方位マップについて説明する。図2(a)は、EBSP検出の説明図であり、EB照射軸方向D1と後方散乱電子放出方向D3とがなす面の断面図である。EB6の照射により後方散乱電子は広い範囲に放出されるが、そのうち、EBSPを形成するために必要な範囲、つまり試料5に入射するEB6に対して100度の方向を中心とする幅70度の範囲で放出される後方散乱電子を検出する。すなわち、後方散乱電子の放出広がりの中心方向21とすると、中心方向21とEB6の照射方向とのなす角度θ1が100度である。EBSP検出器8は、後方散乱電子の放出広がりの中心方向21を中心とする角度θ2が70度となる範囲内、つまり、後方散乱電子放出方向22と後方散乱電子放出方向23に囲まれた範囲内で放出される後方散乱電子を検出できるように配置する。この範囲内で放出される後方散乱電子を検出することにより正確なEBSPを取得することができる。
【0025】
図2(b)は、試料5の表面20にEB6を照射し、取得した二次元結晶方位マップである。二次元結晶方位マップは、EB6を走査照射した面の結晶方位の分布からなる。
【0026】
ここで、二次元結晶方位マップの構築について説明する。上述したEBSPはEB6を表面20上の1点に照射した際にEBSP検出器8で検出される回折パターンである。この回折パターンは物質、結晶方位によって決まるので、測定した回折パターンを結晶方位DB14に蓄積されたEBSPと比較することで、測定されたEBSPの物質と結晶方位を判定することができる。これにより表面20上のEB6の照射点の物質と結晶方位を判定することができる。従ってEB6を走査照射することで、表面20上の物質と結晶方位の分布を取得することができる。
【0027】
試料5が複数の物質の結晶粒からなる複合金属材料である場合、図2(b)のように表面20にそれぞれことなる結晶粒25、26、27の結晶方位の分布が現れる。二次元結晶方位マップでは、物質、結晶方位を色分けして表示させる。これにより、表面20の結晶方位の分布を二次元結晶方位マップにより解析することができる。
【0028】
<実施例>
図3のフローチャートを用いて、本実施形態の結晶解析方法について説明する。結晶解析方法では、試料の一部に、所定の間隔で、かつ、互いに略平行な複数の断面を順次加工しつつ、露出された各断面のEBSP測定を行い、取得したEBSPに基づき断面加工された部分の物質と結晶方位の分布からなる三次元結晶方位マップを構築する。これにより加工された試料部分の結晶解析を行うことができる。
【0029】
まず、試料の断面加工を行う(S1)。断面加工では、試料5にFIB7を照射し、エッチング加工することにより断面を露出させる。このエッチング加工は、所定の間隔で、例えば10nmの間隔で次の断面が露出させるようなスライス加工である。図4(a)に示すように、まず、エッチング加工により断面5aを露出させる。
【0030】
次に、露出させた断面上にEB6を走査照射し、EBSPデータを取得する(S2)。図4(a)に示すように断面5aにEB6を照射し、断面5aから発生する後方散乱電子をEBSP検出器8で検出する。検出したEBSPデータを、測定データ記憶部13に記憶する。
そして、断面加工の工程(S1)と、EBSPデータ取得の工程(S2)を繰り返し実行する。断面加工は、所定の間隔で、かつ、互いに略平行になるように断面を形成する。
【0031】
次に、三次元結晶方位マップを構築する(S3)。三次元結晶方位マップの構築は、断面加工で露出させた各断面のEBSPデータを積層させることにより構築する。図4(b)は、断面加工で露出させた断面5a、5b、5cのEBSPデータで構築した二次元結晶方位マップ30、40、50である。ここで、二次元結晶方位マップは断面に現れた複数の結晶粒の物質、結晶方位毎に色分けし形成したマップである。これらのデータを断面加工のスライス間隔に基づいて配置させ、三次元結晶方位マップを構築する。
【0032】
ここで、三次元結晶方位マップの構築について説明する。結晶解析装置12のマップ構築部15の第一のマップ構築部16は、測定データ記憶部13に記憶されたEBSPの測定データを読み出し、測定されたEBSPと結晶方位DB14に蓄積されたEBSPとを比較し、測定されたEBSPの物質と結晶方位を判定する。そして、EB6を走査照射した各断面におけるEB6の照射点の位置情報と、断面加工でスライスしたスライス間隔の情報、つまり断面5a、5b、5cの間隔の情報と、各照射点で測定したEBSPから判定した物質と結晶方位とを用いて図5(a)に示す三次元結晶方位マップを構築する。
三次元結晶方位マップは物質と結晶方位の分布であり、物質及び結晶方位毎に異なる色で表示させる。
【0033】
この三次元結晶方位マップは、断面5aの二次元結晶方位マップ30aと第一の側面の二次元結晶方位マップ30bと第二の側面の二次元結晶方位マップ30cとから構成されている。断面5aの二次元結晶方位マップ30aには、断面5aの結晶粒32a、断面5aの結晶粒33a、断面5aの結晶粒34aが表示されている。第一の側面の二次元結晶方位マップ30bには、第一の側面の結晶粒33bと第一の側面の結晶粒34bが表示されている。また、第二の側面の二次元結晶方位マップ30cは、第二の側面の結晶粒32c、第二の側面の結晶粒33cが表示されている。
【0034】
側面の表示は、各断面の結晶粒の情報に基づいて形成されているので、断面5aの二次元結晶方位マップ30aに連接している結晶粒について同じ結晶方位の配色がされている。つまり、断面5aに連接する側面で、断面5aの結晶粒に連接する側面の結晶粒には断面5aの法線方向の結晶方位が表示される。しかしながら、正しい結晶方位の表示は、同じ結晶粒では断面5aと側面において結晶方位が異なる。そこで、第二のマップ構築部17は、第一のマップ構築部16で構築した三次元結晶方位マップの情報と結晶方位DB14に蓄積されたEBSPの結晶方位情報とを用いて、側面の法線方向の結晶方位を側面について表示する三次元結晶方位マップを構築する。これにより側面についても正しい結晶方位を表示することができる。
【0035】
図5(b)は、第二のマップ構築部17で構築した三次元結晶方位マップである。この三次元結晶方位マップは、断面5aの二次元結晶方位マップ30aと第一の側面の二次元結晶方位マップ30dと第二の側面の二次元結晶方位マップ30eとから構成されている。第一の側面の二次元結晶方位マップ30dと第二の側面の二次元結晶方位マップ30eは、図5(a)の第一の側面の二次元結晶方位マップ30bと第二の側面の二次元結晶方位マップ30cと比べて、それぞれ結晶方位が異なる。
【0036】
例えば、図5(a)の断面5aの二次元結晶方位マップ30aの結晶粒33aと第一の側面の二次元結晶方位マップ30bの結晶粒33bと第二の側面の二次元結晶方位マップ30cの結晶粒33cとは、同じ結晶方位が配色されていたが、図5(b)の第一の側面の二次元結晶方位マップ30dの結晶粒33dと第二の側面の二次元結晶方位マップ30eの結晶粒33eには結晶粒33aと異なる結晶方位がそれぞれ配色されている。従って、同じ結晶粒を異なる方向から、すなわち、断面5aの法線方向と第一の側面の法線方向とから、観察する場合、それぞれの方向で結晶方位は異なる。具体的には、結晶粒33aが鉄の(001)であるとした場合、結晶粒33dは鉄の(100)であり、結晶粒33eは鉄の(010)である。よって、図5(b)の三次元結晶方位マップは、側面についても正しい結晶方位を表示しているといえる。
【0037】
ここで、図5では断面5aを正面に表示しているが、例えば第一の側面を正面に表示するように表示方向を設定し、設定された表示方向に三次元結晶方位マップを表示することも可能である。
【0038】
また、第二のマップ構築部17は、六面体の三次元結晶方位マップを所望の角度からスライスした斜面の結晶方位マップも表示することができる。図6は、図5(b)の三次元結晶方位マップの一部をスライスし、形成した斜面を表示した三次元結晶方位マップである。形成した斜面には斜面の結晶粒33fが表示されている。具体的には、斜面の結晶粒33fは鉄の(111)である。このように、三次元結晶方位マップから任意の所望の面をスライスし、露出した面について正しい結晶方位で三次元結晶方位マップを表示することができる。
【0039】
なお、マップ構築部15が第一のマップ構築部16と第二のマップ構築部17とからなる実施態様について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、マップ構築部15によって、試料の多面体像の複数の面について各面の法線方向の結晶方位を示す三次元結晶方位マッピングの構築することができればよい。
【0040】
以上により、試料の結晶方位を正しく表示する三次元結晶方位マップを構築することができるので、試料の結晶構造を正確に解析することができる。
【符号の説明】
【0041】
1…電子ビーム鏡筒、 2…FIB鏡筒、 3…試料室、 4…試料台、 5…試料、 5a、5b、5c…断面、 6…EB、 7…FIB、 8…EBSP検出器、 9…EB制御部、 10…FIB制御部、 11…制御部、 12…結晶解析装置、 13…測定データ記憶部、 14…結晶方位DB、 15…マップ構築部、 16…第一のマップ構築部、 17…第二のマップ構築部、 18…入力部、 19…表示部、 20…表面、 21…後方散乱電子放出角の中心方向、 22…後方散乱電子放出方向、 23…後方散乱電子放出方向、 25、26、27…結晶粒、 30、40、50…二次元結晶方位マップ、 30a…断面5aの二次元結晶方位マップ、 30b、30d…第一の側面の二次元結晶方位マップ、 30c、30e…第二の側面の二次元結晶方位マップ、 32a…断面5aの結晶粒、 32c、32e…第二の側面の結晶粒、 33a…断面5aの結晶粒、 33b、33d…第一の側面の結晶粒、 33c、33e…第二の側面の結晶粒、 33f…斜面の結晶粒、 34a…断面5aの結晶粒、 34b、34d…第一の側面の結晶粒、 D1…EB照射軸方向、 D2…FIB照射軸方向、 D3…後方散乱電子放出方向、 θ1、θ2…角度
図1
図3
図2
図4
図5
図6