(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エチレン単位の含有量2〜10モル%、粘度平均重合度300〜2000、けん化度95〜99.5モル%、カルボキシル基とラクトン環との合計含有量0.02〜3モル%、融点が180℃〜230℃、1,2−グリコール結合の含有量1.2〜2モル%、およびビニルアルコール単位に対するトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基のモル分率75〜98モル%であるビニルアルコール系重合体(A)を含有する耐油層を、透気抵抗度1000秒以下の基紙の少なくとも一方の表面に乾燥質量換算で0.5〜10.0g/m2設けてなり、
1000g/m2・24h以上の水蒸気透過性を有する紙複合体。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0020】
本発明に用いられるビニルアルコール系重合体(A)は、エチレン単位を有していることが必須である。エチレン単位の含有量としては、2〜10モル%であることが必須であり、2.5〜9.5モル%が好ましく、3〜9モル%がさらに好ましく、3.5〜8.5モル%が特に好ましい。エチレン単位の含有量が2モル%未満の場合には、得られる紙複合体の高温条件下での耐油性、耐水性が問題となる場合がある。エチレン単位の含有量が10モル%より大の場合には、ビニルアルコール系重合体が水不溶となる場合があり、基紙上への塗工が困難となる。
【0021】
ビニルアルコール系重合体(A)のエチレン単位の含有量は、例えば、該ビニルアルコール系重合体の前駆体または再酢化物であるエチレン単位を含有するポリビニルエステルのプロトンNMRから求められる。すなわち、得られたポリビニルエステルをn−ヘキサン/アセトンで再沈精製を3回以上十分に行った後、80℃での減圧乾燥を3日間して分析用のポリビニルエステルを作成する。該ポリマーをDMSO−D
6に溶解し、プロトンNMR(例:500MHz)を用いて80℃で測定する。ビニルエステルの主鎖メチンに由来するピーク(4.7〜5.2ppm)とエチレン、ビニルエステルおよび第3成分の主鎖メチレンに由来するピーク(0.8〜1.6ppm)を用いてエチレン単位の含有量を算出することができる。
【0022】
ビニルアルコール系重合体(A)の粘度平均重合度(以下、重合度と略記する)は300〜2000であり、320〜1800が好ましく、340〜1600がさらに好ましく、350〜1500が特に好ましい。重合度が300未満の場合には得られる紙複合体の耐油性が十分でない場合がある。重合度が300を下回る場合、得られる紙複合体の耐油性が十分でない場合がある。重合度が2000を超えると、水溶液の粘度が高くなり基紙への塗工適正が悪化し、性能を発現するのに十分な塗工量を得られない場合がある。PVA系重合体の重合度(P)は、JIS−K6726に準じて測定される。すなわち、PVA系重合体を再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](dl/g)から次式により求められるものである。
P=([η]×10
3/8.29)
(1/0.62)
【0023】
ビニルアルコール系重合体(A)のけん化度は95〜99.5モル%であり、96〜99.3モル%が好ましく、97〜99.1モル%がより好ましく、97.5〜99.0モル%が特に好ましい。けん化度が95モル%未満の場合には、得られる紙複合体の耐水性が十分でない場合がある。一方、けん化度が99.5モル%よりも大きいビニルアルコール系重合体は水溶液の保管中に粘度が急激に上昇したり、塗高中に糸状物質が析出する等の問題が発生する事があり、安定に紙複合体を製造する事が困難な場合がある。
【0024】
ビニルアルコール系重合体(A)のカルボキシル基とラクトン環との合計含有量は、全単量体単位のモル数に対して0.02〜3.0モル%であり、0.025〜2.5モル%が好ましく、0.03〜2.25モル%がより好ましく、0.05〜2.0モル%が特に好ましい。本発明におけるカルボキシル基はそのアルカリ金属塩を包含し、アルカリ金属としてはカリウム、ナトリウムなどが挙げられる。カルボキシル基とラクトン環との合計含有量が0.02モル%未満の場合には、得られる紙複合体の耐油性が十分でない場合がある。一方、カルボキシル基とラクトン環との合計含有量が3.0モル%を超える場合には、得られる紙複合体の耐水性が低下する場合がある。
【0025】
エチレン単位を特定量有しかつカルボキシル基またはラクトン環を有するビニルアルコール系重合体の製法としては、
i)酢酸ビニルなどのビニルエステル系単量体とカルボキシル基またはラクトン環を生成する能力を有する単量体とを共重合して得られたビニルエステル系重合体を、アルコールあるいはジメチルスルホキシド溶液中でけん化する方法、
ii)メルカプト酢酸、3−メルカプトプロピオン酸などのカルボキシル基を含有するチオール化合物の存在下で、ビニルエステル系単量体を重合した後それをけん化する方法、
iii)酢酸ビニルなどのビニルエステル系単量体を重合する際に、ビニルエステル系単量体およびビニルエステル系重合体のアルキル基への連鎖移動反応を起こし、高分岐ビニルエステル系重合体を得た後にけん化する方法、
iv)エポキシ基を有する単量体とビニルエステル系単量体との共重合体をカルボキシル基を有するチオール化合物と反応させた後けん化する方法、
v)PVAとカルボキシル基を有するアルデヒド類とのアセタール化反応による方法、
などが挙げられる。
【0026】
ビニルエステル系単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニルおよびバーサティック酸ビニル等が挙げられ、これらの中でもPVAを得る点からは酢酸ビニルが好ましい。カルボキシル基またはラクトン環を生成する能力を有する単量体としては、フマール酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸または無水イタコン酸等に由来するカルボキシル基を有する単量体、アクリル酸およびその塩、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸およびその塩、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル等のメタクリル酸エステル類、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド等のメタクリルアミド誘導体が挙げられる。共重合で導入されるカルボキシル基は、隣接するビニルアルコール単位の水酸基とラクトン環を形成し易く、特に環が5員環となる場合、その可能性が高い。
【0027】
ビニルアルコール系重合体のカルボキシル基とラクトン環との合計含有量は、例えばプロトンNMRのピークから求めることができる。ビニルアルコール系重合体をけん化度99.95モル%以上に完全にけん化後、十分にメタノール洗浄を行い、次いで90℃減圧乾燥を2日間して分析用のビニルアルコール系重合体を作成する。上記i)の場合、作成した分析用のビニルアルコール系重合体をDMSO−D
6に溶解し、プロトンNMRを用いて60℃で測定する。アクリル酸、アクリル酸エステル類、アクリルアミドおよびアクリルアミド誘導体の単量体は、主鎖メチンに由来するピーク(2.0ppm)を用いて、メタクリル酸、メタクリル酸エステル類、メタクリルアミドおよびメタクリルアミド誘導体の単量体は、主鎖に直結するメチル基に由来するピーク(0.6〜1.1ppm)を用いて、常法により含有量を算出する。フマール酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸または無水イタコン酸等に由来するカルボキシル基を有する単量体は、作成した分析用PVAをDMSO−D
6に溶解後トリフルオロ酢酸を数滴加え、プロトンNMRを用いて60℃で測定する。定量は4.6〜5.2ppmに帰属される
ラクトン環のメチンピークを用いて常法により含有量を算出する。ii)およびiv)の場合、硫黄原子に結合するメチレンに由来するピーク(2.8ppm)を用いて含有量を算出した。iii)の場合、作成した分析用PVAをメタノール−D
4/D
2O=2/8に溶解しプロトンNMRを用いて80℃で測定する。末端のカルボキシル基もしくはそのアルカリ金属塩のメチレン由来ピークは2.2ppm(積分値A)および2.3ppm(積分値B)に帰属し、末端のラクトン環のメチレン由来ピークは2.6ppm(積分値C)、ビニルアルコール単位のメチン由来ピークは3.5〜4.15ppm(積分値D)に帰属し、下記の式でカルボキシル基およびラクトン環の含有量を算出する。ここでΔは変性量(モル%)を表す。
カルボキシル基およびラクトン環の含有量(モル%)
=50×(A+B+C)×(100−Δ)/(100×D)
【0028】
v)の場合、作成した分析用PVAをDMSO−D
6に溶解し、プロトンNMRを用いて60℃で測定する。アセタール部分のメチンに由来するピーク4.8〜5.2ppmを用いて、定法により含有量を算出する。
【0029】
ビニルアルコール系重合体(A)には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、ビニルアルコール単位、エチレン、ビニルエステル単位および前述のカルボキシル基またはラクトン環を生成する能力を有する単量体以外の単量体単位を含有していてもよい。このような単位としては、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィン類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシ基含有のビニルエーテル類、アリルアセテート、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル類、オキシアルキレン基を有する単量体、ビニルトリメトキシシラン等のビニルシラン類、酢酸イソプロペニル、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のヒドロキシ基含有のα−オレフィン類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等に由来するスルホン酸基を有する単量体;ビニロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシブチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシエチルジメチルアミン、ビニロキシメチルジエチルアミン、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、3−(N−メタクリルアミド)プロピルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドジメチルアミン、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルアミン、アリルエチルアミン等に由来するカチオン基を有する単量体が挙げられる。これらの単量体の含有量は、使用される目的や用途等によって異なるが通常20モル%以下、好ましくは10モル%以下である。
【0030】
ビニルアルコール系重合体(A)は、前述のカルボキシル基を有するメルカプタンを除く2−メルカプトエタノール、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタンなどのチオール化合物の存在下で、酢酸ビニルなどのビニルエステル系単量体を、エチレンと共重合し、それをけん化することによって得られる末端変性物でもよい。
【0031】
ビニルエステル系単量体とエチレンとの共重合の方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法が挙げられる。その中でも、無溶媒あるいはアルコールなどの溶媒中で重合する塊状重合法や溶液重合法が通常採用される。溶液重合時に溶媒として使用されるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなどの低級アルコールが挙げられる。共重合に使用される開始剤としては、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−バレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、n−プロピルパーオキシジカーボネートなどのアゾ系開始剤または過酸化物系開始剤などの公知の開始剤が挙げられる。重合温度については特に制限はないが、0℃〜150℃の範囲が適当である。しかしながら、重合条件を選定するにあたっては、後述する実施例からも明らかなように、本発明の目的とするビニルアルコール系重合体が得られるように種々の条件を適切に設定することが必要である。
【0032】
ビニルアルコール系重合体(A)の融点は180〜230℃であることが好ましく、さらには、190〜225℃が好ましく、200〜220℃が特に好ましい。融点が180℃未満の場合にはビニルアルコール系重合体の結晶性が低下し、得られる紙複合体の耐油性、耐水性が十分でない場合がある。融点が230℃を超える場合には結晶性が高すぎる為か作成した水溶液も粘度安定性が悪く基紙への塗工が困難である。
【0033】
ビニルアルコール系重合体の融点は、DSCを用いて、窒素中、昇温速度10℃/分で250℃まで昇温後室温まで冷却し、再度昇温速度10℃/分で250℃まで昇温した場合のビニルアルコール系重合体の融点を示す吸熱ピークのピークトップの温度を意味する。
【0034】
ビニルアルコール系重合体(A)の1,2−グリコール結合含有量は1.2〜2モル%であることが好ましく、さらには1.25〜1.95モル%が好ましく、1.3〜1.9モル%がより好ましい。該ビニルアルコール系重合体の1,2−グリコール結合含有量が1.2モル%未満の場合には、PVAの結晶性が高すぎる為か、水溶液の粘度安定性が著しく悪化し、塗工適正に問題が生じる場合がある。一方該PVAの1,2−グリコール結合含有量がが2モル%を超える場合にはPVAの結晶性が低下するためか得られる紙複合体の耐油性、耐水性が十分でない場合がある。
【0035】
ビニルアルコール系重合体の1,2−グリコール結合含有量は、たとえば、エチレンカーボネートを代表とする共重合および重合温度によってコントロールすることができる。PVAの1,2−グリコール結合含有量はNMRのピークから求めることができる。けん化度99.9モル%以上にけん化後、十分にメタノール洗浄を行い、次いで90℃減圧乾燥を2日間したPVAをDMSO−D
6に溶解し、トリフルオロ酢酸を数滴加えた試料をプロトンNMRを用いて80℃で測定する。ビニルアルコール単位のメチン由来ピークは3.2〜4.0ppm(積分値A')、1,2−グリコール結合の1つのメチン由来のピークは3.25ppm(積分値B')に帰属され、次式で1,2−グリコール結合含有量を算出できる。ここでΔはエチレン変性量(モル%)を表す。
1,2−グリコール結合含有量(モル%)=B'(100−Δ)/A'
【0036】
本発明において、ビニルアルコール単位に対するトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基とは、PVAのDMSO−D
6溶液でのプロトンNMRを用いて65℃で測定する水酸基メチンプロトンのトライアッドのタクティシティを反映するピーク(I)を意味する。また、水酸基3連鎖の中心水酸基とは、ビニルアルコール単位3連鎖の中心ビニルアルコール単位の水酸基を意味する。ピーク(I)はPVAの水酸基のトライアッド表示のアイソタクティシティ連鎖(4.54ppm)、ヘテロタクティシティ連鎖(4.36ppm)およびシンジオタクティシティ連鎖(4.13ppm)の和で表わされ、全てのビニルアルコール単位における水酸基に由来するピーク(II)はケミカルシフト4.05ppmから4.70ppmの領域に現れることから、ビニルアルコール単位に対するトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基のモル分率は、100×(I)/(II)で表されるものである。
【0037】
ビニルアルコール系重合体(A)のトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基の含有量は65〜98モル%であることが好ましく、さらには70〜97.5モル%が好ましく、72〜97モル%がより好ましく、74〜96モル%がさらに好ましく、75〜95モル%が特に好ましい。
PVAのトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基の含有量が65モル%未満の場合には、該ビニルアルコール系重合体の結晶性が極度に低下し、本発明の意図する高い耐油性や耐水性が得られない。また得られた紙複合体において、ビニルアルコール系重合体の特長である機械的物性などが損なわれる。一方、該PVAのトライアッド表示による水酸基3連鎖の中心水酸基の含有量が98モル%より大の場合には、ポリマーの結晶性が極めて高くPVAの水溶液を調整するのに大変な労力を要したり、得られた水溶液の粘度が非常に高く、基紙への塗工適正に問題がある。
【0038】
ビニルアルコール系重合体(A)の製法としては、エチレンと前述のビニルエステル系単量体とを共重合して得られたビニルエステル系重合体を、アルコールあるいはジメチルスルホキシド溶液中でけん化する方法などの公知の方法が挙げられる。
【0039】
けん化触媒として使用するアルカリ性物質としては、水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムがあげられる。けん化触媒に使用するアルカリ性物質のモル比は、酢酸ビニル単位に対して0.004〜0.5が好ましく、0.005〜0.1が特に好ましい。けん化触媒は、けん化反応の初期に一括添加しても良いし、けん化反応の途中で追加添加しても良い。けん化反応の溶媒としては、メタノール、酢酸メチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。これらの溶媒の中でも反応性の観点からメタノールが好ましい。けん化反応の温度としては、5〜80℃が好ましく、20〜70℃がより好ましい。けん化時間としては5分間〜10時間が好ましく、10分間〜5時間がより好ましい。けん化方法としてはバッチ法や連続法など公知の方法が適用可能である。
【0040】
洗浄液としては、メタノール、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、ヘキサン、水などがあげられ、これらの中でもメタノール、酢酸メチル、水の単独もしくは混合液がより好ましい。洗浄液の量としては通常PVA100質量部に対して、30〜10000質量部が好ましく、50〜3000質量部がより好ましい。洗浄温度としては、5〜80℃が好ましく、20〜70℃がより好ましい。洗浄時間としては20分間〜10時間が好ましく、1時間〜6時間がより好ましい。洗浄方法としてはバッチ法や向流洗浄法など公知の方法が適用可能である。
【0041】
本発明の紙複合体を得る為に使用する基紙は、JIS P8117に準じた透気抵抗度が1000秒以下である。透気抵抗度が1000秒以下の基紙では、既存の非フッ素耐油層を設けても目的の高温の油性食品を包装した場合の耐油性、水蒸気透過性、耐水性を達成する事は困難であるが、少なくとも片面に上記ビニルアルコール系重合体(A)を含有する耐油層を0.5〜10.0g/m
2設ける事により、目的の達成が可能となる。
【0042】
本発明の紙複合体のビニルアルコール系重合体(A)を含有する耐油層の塗工量は、基紙の少なくとも一方の表面上に、乾燥質量換算で0.5〜10.0g/m
2であるが、0.7〜8.0g/m
2がより好ましく、0.8〜6.0g/m
2がさらに好ましく、1.0〜5.0g/m
2特に好ましい。塗工量が0.5g/m
2未満の場合には得られる耐油性が十分ではない。塗工量が10.0g/m
2より多い場合は水蒸気透過性が悪くなり問題となる場合がある。
【0043】
本発明の紙複合体のJIS Z0208に準じた水蒸気透過性は1000g/m
2・24h以上である事が必須であり、好ましくは1,500g/m
2・24hr以上でであり、2,000g/m
2・24hr以上が特に好ましい。透湿度が1000g/m
2・24hrに満たないと、揚げたての揚げ物を該耐油紙の袋に入れて密封した場合、袋内に結露が発生して衣が水分を含んで過度に柔らかくなり、味覚が著しく損なわれる。
【0044】
本発明の紙複合体は、ポリビニルアルコール系重合体(A)とフッ素化合物(B)の両方を耐油層に含有させる事も可能である。ポリビニルアルコール系重合体(A)とフッ素化合物(B)と併用する場合は、目的の性能を発現する為の基紙への塗工量を大幅に低減する事が可能となる。その場合の基紙への塗工量は基紙の少なくとも一方の表面上に、乾燥質量換算で0.1〜3.0g/m
2であり、0.2〜2.5g/m
2がより好ましく、0.3〜2.0g/m
2がさらに好ましく、0.5〜1.5g/m
2が特に好ましい。塗工量が0.1g/m
2未満の場合には得られる耐油性が十分ではない。
【0045】
フッ素化合物(B)としては、一般的に紙塗工用に使用されるフッ素化合物を好適に使用する事ができる。一般的に紙塗工用に使用される紙塗工用フッ素化合物の例としてはポリフルオロアルキル基を有するアクリレートやメタクリレートモノマー単位を含む重合体、フルオロポリオキシアルキレン鎖を有する重合体、ポリフルオロアルキル基を有するリン酸エステル、ポリフルオロアルキル基を有するカルボン酸エステル等が挙げられるが、それらに限定されない。
【0046】
本発明の紙複合体は、より高い耐水性発現の為に塗工層に架橋剤(C)を含む事ができる。ビニルアルコール系重合体(A)100質量部に対する、架橋剤(C)の含有量は30質量部以下であり、25質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、15質量部以下が特に好ましく、1質量部以上が好ましい。架橋剤の量が30質量部を超える場合、PVAの結晶性を阻害する為か、耐水性が逆に悪化する場合がある。
【0047】
本発明の紙複合体に含有させる架橋剤(C)としてはPVAの耐水性を向上させるものであれば特に限定されないが、グリオキザール、尿素樹脂、メラミン樹脂、多価金属塩、多価イソシアネート、ポリアミドエピクロルヒドリン系の化合物(例:Ashland社製、Polycup 172)が挙げられるが、安全性、経済性、反応性の観点から、オキシ硝酸ジルコニウムおよびポリアミドエピクロルヒドリン系の化合物が特に好ましい。
【0048】
本発明の紙複合体の耐油層は、必要に応じてグリコール類、グリセリン等の可塑剤;アンモニア、カセイソーダ、炭酸ソーダ、リン酸等のpH調節剤;消泡剤、離型剤、界面活性剤等の各種の添加剤を添加することもできる。さらに、本発明の紙複合体の耐油層は、ポリビニルアルコール、ビニルアルコール−ビニルエステル共重合体、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルプロピルセルロース、カゼイン、澱粉(酸化澱粉など)などの水溶性高分子;スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、ポリアクリル酸エステルエマルジョン、ポリメタクリル酸エステルエマルジョン、酢酸ビニル−エチレン共重合体エマルジョン、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体エマルジョンなどの合成樹脂エマルジョンを、本発明の効果を阻害しない範囲内で含有することもできる。
【0049】
耐油層を紙基材上に設ける方法としては、公知の方法、例えば、サイズプレス、ゲートロールコーター、バーコーターなどの装置を用いて紙の片面または両面に溶液、又は分散液を塗工する方法が通常用いられる。また、塗工した紙の乾燥およびビニルアルコール系重合体(A)と必要に応じ含有される架橋剤(C)との架橋反応は、例えば熱風、赤外線、加熱シリンダーやこれらを組み合わせた方法により行うことができ、乾燥した塗工紙は、調湿及びキャレンダー処理することにより、バリヤー性を更に向上させることが出来る。キャレンダー処理条件としては、ロール温度が常温〜100℃、ロール線圧20〜300kg/cmが好ましい。
【0050】
本発明の紙複合体の紙基材としては透気抵抗度が1000秒以下であれば特に限定されず、少なくとも一方の表面に耐油層を設けることができるものであればよく、用途に応じて適宜選択することができる。例えば、クラフト紙、上質紙、板紙、ライナー、グラシン紙、パーチメント紙等が好ましく用いられる。なお、紙基材の繊維原料はセルロースやセルロース誘導体に限定されない。また、紙基材の代わりにセルロースやセルロース誘導体以外の原料からできた繊維からなる織物や不織布等も基材として使用できる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において、特に断りがない場合、部および%はそれぞれ質量部および質量%を示す。
【0052】
[基紙および塗工後の紙複合体の評価]
(1)耐油性評価
○キットテスト
一般的な耐油度はTAPPI UM557「Repellency of Paper and Board to Grease,Oil,and Waxes(Kit Test)」によって測定した。
【0053】
キットテストはそれが極めて短時間(20秒)で耐油性の指標を得る事が出来る為、耐油度の簡便な評価として広く利用されているが、このテストで得られる評価は必ずしも現実に即さない場合がある。例えばある種の脂肪に対して、室温より高い温度の脂肪の混合物を使用した場合にはキットテストで良い耐油性を示しても、実際には実用に耐えうる耐油度を示さない場合がある。そこで特に高温の食品を包装した場合の耐油性に関しては、次に示すオレイン酸に対する耐性テストを採用した。オレイン酸に対する耐性テストは、オレイン酸が動物または植物油を構成するものの間で、含有割合の最も広い脂肪酸であるので、現実の条件下で高い撥油特性の存在を検査することに対し極めて有意義であると考えられている。
【0054】
○オレイン酸に対する耐性テスト
耐油層を塗工した紙複合体を、10×10cmの正方形に切り出し、60℃のオーブン中に導入する。次いで、オレイン酸20滴を紙複合体の耐油層面に滴下する。こうして作成した試験片を、60℃のオーブン中に2時間放置する。その後オレイン酸の液滴を吸い取り紙で除去し、試料を黒色紙上へ設置する。紙へオレイン酸が浸透した場合、浸透部分は黒色に観察される。このテストでは、オレイン酸を滴下したすべての部分において浸透が確認されなければ、陽性(すなわち、オレイン酸に対する抵抗が確認された)と判断する。これに反して、浸透が確認されれば、テストは陰性(すなわち、オレイン酸に対する抵抗を示さない)と考えられる。
【0055】
(2)透気抵抗度
JIS P8117に準じ王研式滑度透気度試験器を用いて測定した。透気抵抗度の値は、一定面積を空気100ミリリットルが通過する時間を示す。よって、透気抵抗度の値が大きいほど空気が通過し難いことを示す。
【0056】
(3)水蒸気透過性
JIS Z0208−1976に記載の防湿包装材料の透湿度試験方法(カップ法)に従い、温度40±0.5℃、相対湿度90±2%の条件下で測定した。透湿度1000〜5000g/m
2・24hrを袋内部での結露と袋外部からの吸湿の発生がなく、食品包装用適性良好と判定した。
【0057】
(4)耐水表面強度
塗工紙の表面に、20℃のイオン交換水約0.1mlを滴下した後、指先でこすり、コーティング剤の溶出状態を観察し、以下の5段階で評価した。
5:耐水性に優れており、ヌメリ感がない。
4:ヌメリ感が有るが、コーティング層には変化はない。
3:コーティング剤の一部が乳化する。
2:コーティング剤の全体が再乳化する。
1:コーティング剤が溶解する。
【0058】
<実施例1>
[ビニルアルコール系重合体の製造方法]
撹拌機、窒素導入口、エチレン導入口、開始剤添加口およびディレー溶液添加口を備えた250L加圧反応槽に酢酸ビニル107.2kg、メタノール42.8kgおよび無水マレイン酸15.6gを仕込み、60℃に昇温した後30分間窒素バブリングにより系中を窒素置換した。次いで反応槽圧力が5.9Kg/cm
2となるようにエチレンを導入仕込みした。開始剤として2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(AMV)をメタノールに溶解した濃度2.8g/L溶液を調整し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。またディレー溶液として無水マレイン酸をメタノールに溶解した濃度5%溶液を調整し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。上記の重合槽内温を60℃に調整した後、上記の開始剤溶液204mlを注入し重合を開始した。重合中はエチレンを導入して反応槽圧力を5.9Kg/cm
2に、重合温度を60℃に維持し、上記の開始剤溶液を用いて640ml/hrでAMVを、また上記ディレー溶液を用いて無水マレイン酸を重合系中の酢酸ビニルと無水マレイン酸の比率が一定となるようにしながら連続添加して重合を実施した。4時間後に重合率が30%となったところで冷却して重合を停止した。この時点でディレーにより添加した無水マレイン酸ディレー溶液の総量は1400mlであった。反応槽を開放して脱エチレンした後、窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。次いで減圧下に未反応酢酸ビニルモノマーを除去しポリ酢酸ビニルのメタノール溶液とした。得られた該ポリ酢酸ビニル溶液にメタノールを加えて濃度が30%となるように調整したポリ酢酸ビニルのメタノール溶液333g(溶液中のポリ酢酸ビニル100g)に、46.5g(ポリ酢酸ビニル中の酢酸ビニル単位に対してモル比[MR]0.10)のアルカリ溶液(NaOHの10%メタノール溶液)を添加してけん化を行った。アルカリ添加後約1分で系がゲル化したものを粉砕器にて粉砕し、40℃で1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル1000gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和の終了を確認後、濾別して得られた白色固体のPVAにメタノール1000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られたPVAを乾燥機中70℃で2日間放置して乾燥PVA(PVA−1)を得た。
【0059】
【表1】
【0060】
[ビニルアルコール系重合体の分析]
得られたカルボキシル基またはラクトン環を有するビニルアルコール系重合体のけん化度は98.5モル%であった。また、重合後未反応酢酸ビニルモノマーを除去して得られたポリ酢酸ビニルのメタノール溶液をn−ヘキサンに沈殿、アセトンで溶解する再沈精製を3回行った後、80℃で3日間減圧乾燥を行って精製ポリ酢酸ビニルを得た。該ポリ酢酸ビニルをDMSO−D
6に溶解し、500MHzのプロトンNMR(JEOLGX−500)を用いて80℃で測定したところ、エチレン単位の含有量は7モル%であった。上記のポリ酢酸ビニルのメタノール溶液をアルカリモル比0.5でけん化した後、粉砕したものを60℃で5時間放置してけん化を進行させた後、メタノールソックスレーを3日間実施し、次いで80℃で3日間減圧乾燥を行って精製されたカルボキシル基またはラクトン環を有すエチレン変性PVAを得た。該PVAの平均重合度を常法のJIS K6726に準じて測定したところ1000であった。該精製PVAのカルボキシル基またはラクトン環の含有量、1,2−グリコール結合量および水酸基3連鎖の水酸基の含有量を500MHzのプロトンNMR(JEOLGX−500)装置による測定から前述のとおり求めたところ、それぞれ0.246モル%、1.61モル%および87%であった。さらに該精製された変性PVAの5%水溶液を調整し厚み10ミクロンのキャスト製フィルムを作成した。該フィルムを80℃で1日間減圧乾燥を行った後に、DSC(メトラー社、TA3000)を用いて、前述の方法によりPVAの融点を測定したところ210℃であった。
【0061】
【表2】
【0062】
[塗工紙の作成]
上記で得られたビニルアルコール系重合体の10%水溶液を作成し、試験用2−ロールサイズプレス機(熊谷理機工業製)を用いて、坪量47g/m
2、透気抵抗度200秒の基紙に塗工した。塗工は50℃にて100m/分の条件で行った後、110℃で1分間乾燥させ、塗工紙を得た。塗工液の固形分換算の塗工量は1.8g/m
2(両面)であった。得られた塗工紙を20℃、65%RHで72時間調湿した。
【0063】
[塗工紙の評価]
得られた塗工紙について、上記の方法に従って耐油性評価、透気抵抗度、水蒸気透過性、耐水表面強度を測定した。耐油性評価においてはキット値9を得た。オレイン酸に対する耐性テストでは浸透が観測されず、十分な耐性がある陽性と判断した。透気抵抗度は100,000秒以上、水蒸気透過性は2,630g/m
2であり、また耐水表面強度は4であり、いずれも実用上問題の無いレベルと判定した。
【0064】
<実施例2>〜<実施例21>
表1に示すようにビニルアルコール系重合体の製造方法を変更してPVA2〜PVA9を得た。PVA2〜PVA9の分析結果を表2に示す。得られたPVAを用いて表3に示す様な組成の塗工層を基紙表面に実施例1と同様の方法で作成し、塗工紙の評価を行った。その結果を表3に示す。
【0065】
【表3】
【0066】
表3に示すように、本発明の所定の範囲のビニルアルコール系重合体を有する紙複合体では、耐油性、水蒸気透過性、耐水表面強度のいずれの評価においても良好な結果を示した。
【0067】
<比較例1>〜<比較例19>
表4に示すようにビニルアルコール系重合体の製造方法を変更してPVA10〜PVA22を得た。PVA10〜PVA22の分析結果を表5に示す。得られたPVAを用いて表6に示す様な組成の塗工層を基紙表面に実施例1と同様の方法で作成し、塗工紙の評価を行った。その結果を表6に示す。
【0068】
【表4】
【0069】
【表5】
【0070】
【表6】
【0071】
比較例1〜6はエチレン含有量が2モル%に満たないビニルアルコール系重合体を有する紙複合体の評価結果である。いずれの場合も高温(60℃)での耐油性を示すオイレイン酸に対する耐性が認められず、また架橋剤を添加しないと耐水表面強度が十分でない。
【0072】
比較例7ではエチレン含有量が10モル%を超えるビニルアルコール系重合体の使用を試みたが、塗工液作成の際に未溶解成分が存在した為、紙複合体を得る事が出来なかった。
【0073】
比較例8〜10はカルボキシル基とラクトン環との合計含有量が3モル%を超えるビニルアルコール系重合体を有する紙複合体の評価結果である。いずれの場合も耐水表面強度が十分でない。
【0074】
比較例11はカルボキシル基とラクトン環との合計含有量が0.02モル%を下回るビニルアルコール系重合体を有する紙複合体の評価結果であるが、オレイン酸に対する耐性が認められない。
【0075】
比較例12および13はけん化度が95モル%を下回り、融点が180℃を下回るビニルアルコール系重合体を有する紙複合体の評価結果である。いずれの場合も耐水表面強度が不十分である。
【0076】
比較例14は重合度が300を下回るビニルアルコール系重合体を有する紙複合体の評価結果であるが、キット値が低く、オレイン酸に対する耐性が認められない。また耐水表面強度も不十分である。
【0077】
比較例15では1,2−グリコール結合量が1.2モル%を下回るビニルアルコール系重合体の使用を試みたが、塗工中に糸状物質が析出し、紙複合体を安定に得る事が出来なかった。
【0078】
比較例16は1,2−グリコール結合量が2.0モル%を超えるビニルアルコール系重合体を有する紙複合体の評価結果であるが、オレイン酸に対する耐性が認められず、また耐水表面強度も十分でない。
【0079】
比較例17ではけん化度が99.5モル%を超え、融点が230℃を上回るビニルアルコール系重合体の使用を試みたが、塗工中に糸状物質が析出し、紙複合体を安定に得る事が出来なかった。
【0080】
比較例18は本発明の所定の範囲のビニルアルコール系重合体を10.0g/m
2を超えて塗工した紙複合体の評価結果であるが、水蒸気透過性が950g/m
2と十分でなく、さらに耐水表面強度が十分でない。
【0081】
比較例19は本発明の所定の範囲のビニルアルコール系重合体を0.5g/m
2未満塗工した紙複合体の評価結果であるが、耐油性が十分でない。