(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
導電率が75%IACS以上であり、圧延平行方向の0.2%耐力が450MPa以上、且つ、圧延直角方向の0.2%耐力/圧延平行方向の0.2%耐力が1.0以上である請求項1に記載の銅合金板。
P、Ag、Ni、Mn、Mg、Zn、BおよびCaからなる群から選ばれる元素の少なくとも1種を合計0.1質量%以下でさらに含有する請求項1〜3のいずれか一項に記載の銅合金板。
【背景技術】
【0002】
電機・電子機器等に組み込まれる端子、コネクタ、リレー、スイッチ、ソケット、バスバー、リードフレーム等の電子部品は、たとえば順送プレス金型を用いて、一方向に向けて間欠的に送られる長尺帯状の銅合金板に対し、パンチ及びダイによるプレス加工を順次に施すことによって、所期した形状に成形したプレス成形品として製造されることがある。
【0003】
ここで、上記のようなプレス加工により成形されたプレス成形品では、パンチにより打ち抜かれたプレス成形品のプレス破面が、プレス成形品の厚み方向で表面側に位置するせん断面と、裏面側に位置する破断面の二つの層で構成されることが一般に知られている。
【0004】
そして、このうちせん断面がプレス破面の大部分を占めるプレス成形品は、せん断面が裏面側に突出して形成されるバリが発生し易くなる。電子部品として用いられるプレス成形品で、バリが発生した場合、電機・電子機器に組み込まれたプレス成形品のバリが、短絡を招く可能性が高くなって故障の原因となり得ることから、特に、電子部品用途のプレス成形品では、かかるバリの発生を抑制するべく、プレス打ち抜き性を改善した銅合金板が希求されている。
【0005】
このような電子部品用の銅合金板で、プレス打ち抜き性の改善や金型の耐摩耗性等に着目した技術としては、特許文献1〜4に記載されたもの等がある。
特許文献1には、電気・電子機器に用いられるCu−Ni−Si系銅合金板材において、銅合金板材中に分散する化合物の粒径およびその分散密度を規定することにより、特にめっき性、プレス性、耐熱性等の特性の改善を図ることが記載されている。特許文献2には、プレス打ち抜き性に影響する表層にプレス打ち抜き性の向上に寄与する粒子径の析出物を存在させ、強度に影響する中央部には強度の向上に寄与する粒子径の析出物を存在させることにより、強度および導電率を維持しつつ、金型摩耗を軽減できるCu−Co−Si系銅合金が開示されている。特許文献3には、高強度、高導電性および耐熱性などの優れた特性を維持しつつ、さらにスタンピングによる金型摩耗を抑制するため、Mg、Crを所定の量で添加するとともに、特に、スタンピング金型摩耗を抑制する作用のあるPbを所定の量で添加して得られた銅合金が記載されている。
【0006】
特許文献4には、Cu−Fe−P系銅合金板で、引張試験により求められる均一伸びと全伸びとの比、均一伸び/全伸びを0.50未満とすることが記載されている。そして、これによれば、プレス打ち抜き時の材料の延性変形量を小さくし、早期に打ち抜きの破断が生じて、プレス打ち抜き性が向上するとされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかるに、上述した技術では、析出物や介在物のサイズや分布の制御や、添加元素によって、プレス打ち抜き性の改善を図ることとしているが、Cu−Sn合金からなる銅合金板のプレス打ち抜き性については何ら検討されていない。Cu−Sn合金は固溶型合金であることから、上記の先行技術で着目されている銅合金のような析出物が存在せず、また、特に無酸素銅にSnを微量で添加したCu−Sn合金では、無酸素銅ベースの溶解となるため、介在物も少ない。
それ故に、上記の技術によっては、Cu−Sn合金の銅合金板のプレス打ち抜き性を有効に向上させることができなかった。
【0009】
また、特許文献4のように、均一伸び、全伸びを調整する手法では、銅合金板の特性が変化してしまうことから、バリ等の表面性状の他の要求特性を満たさないものとなり、それにより、所要の特性を維持しつつもプレス打ち抜き性を改善させることはできない。
【0010】
この発明は、上述した従来技術が抱えるこのような問題を解決することを課題とするものであり、その目的とするところは、固溶型合金であるCu−Sn合金の銅合金板で、プレス加工後のバリの発生を有効に抑制して、プレス打ち抜き性を改善することのできる銅合金板及び、それを備えるプレス成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者は、プレス成形品のプレス破面において、バリの発生をもたらすせん断面の割合を減らして破断面の割合を増加させるため、プレス加工時のパンチストロークの増加に伴う、銅合金板に作用する荷重の変化について鋭意検討した。
その結果、プレス加工時にパンチとダイとの間に挟まれた際の銅合金板の板厚方向の伸びが小さくなるように、銅合金板を製造する際に、最終焼鈍時の結晶粒径を大きくすること、および、最終焼鈍後の仕上圧延でワークロール径と板厚の比を制御して、加工度を増加させることが有効であるとの新たな知見を得た。
【0012】
そして、それにより製造されたCu−Sn合金では、引張特性が大きく変化することなしに、せん断試験で得られる変位―荷重曲線の半価幅が、従来のものに比して小さくなって、プレス加工時に銅合金板へのプレス破面の形成が早期になされることにより、バリの発生を有効に抑制できることを見出した。
【0013】
このような知見の下、この発明の銅合金板は、0.01〜0.3質量%のSnを含有し、残部が銅およびその不可避的不純物から成り、70%IACS以上の導電率を有し、且つ、せん断試験における変位―荷重曲線から求められる半価幅の、板厚に対する比(r)が0.2≦r≦0.7であるものである。
【0014】
ここで、この発明の銅合金板では、導電率が75%IACS以上であり、圧延平行方向の0.2%耐力が450MPa以上、且つ、圧延直角方向の0.2%耐力/圧延平行方向の0.2%耐力が1.0以上であることが好ましい。
またここで、この発明の銅合金板では、圧延平行方向の伸びに対する圧延直角方向の伸びの比が、0.8以上かつ1.2以下であることが好ましい。
【0015】
そしてまた、この発明の銅合金板は、P、Ag、Ni、Mn、Mg、Zn、BおよびCaからなる群から選ばれる元素の少なくとも1種を合計0.1質量%以下でさらに含有するものとすることができる。
【0016】
この発明のプレス成形品は、上述したいずれかの銅合金板を備えるものである。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、せん断試験における変位―荷重曲線から求められる半価幅の、板厚に対する比(r)が0.2≦r≦0.7である銅合金板としたことにより、プレス加工時に、パンチとダイとの間に挟まれた銅合金板にプレス破面が早期に形成されることから、破断面の割合が大きいプレス破面となって、バリの発生を有効に抑制することができる。それによってプレス打ち抜き性を大きく改善することができる。
その結果として、この銅合金板は、端子、コネクタ、リレー、スイッチ、ソケット、バスバー、リードフレームその他の電子部品等に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
この発明の一の実施形態に係る銅合金板は、0.01〜0.3質量%のSnを含有し、残部が銅およびその不可避的不純物から成るCu−Sn合金で構成されたものであって、70%IACS以上の導電率を有し、且つ、せん断試験における変位―荷重曲線から求められる半価幅の、板厚に対する比(r)が0.2≦r≦0.7であるものである。このような銅合金板は、プレス加工により製造される電子部品の用途に適している。
【0020】
(合金成分濃度)
Sn濃度は0.01〜0.3質量%とする。Sn濃度が0.3質量%を超えると、70%IACS以上の導電率を得ることが難しくなる。Sn濃度が0.01質量%未満になると、せん断試験における変位―荷重曲線から求められる半価幅の、板厚に対する比(r)が0.7以上となりバリの低減効果が認められない。また、Sn濃度が0.01質量%未満になると、0.2%耐力が低下するので、所要の特性を満たす観点からあまり望ましくない。このような観点から、Sn濃度は、0.03〜0.25質量%とすることが好ましく、なかでも、0.08〜0.25質量%とすることが特に好適である。
【0021】
この発明のCu−Sn系合金では、Snの他にさらにP、Ag、Ni、Mn、Mg、Zn、BおよびCaからなる群から選ばれる元素の少なくとも1種以上を添加することができるが、かかる元素を添加する場合はその添加量は合計で0.1質量%以下とすることが好ましい。これらの合計が0.1質量%を超えると、導電率が低下したり、原料コストが増加したり、製造性が悪化したりする。
【0022】
(導電率)
この発明の銅合金板では、JIS H0505に準拠して測定した導電率を70%IACS以上とする。導電率が70%IACS以上であれば、所定の電子部品に用いた際の所要の導電性を発揮することができる。導電率は、好ましくは75%IACS以上、より好ましくは80%IACS以上とする。
【0023】
(0.2%耐力)
この発明では、銅合金板の圧延平行方向(GW方向)の0.2%耐力を450MPa以上とすることが好ましく、この場合は、銅合金板が、構造材の素材として必要な強度を十分有しているといえる。圧延平行方向の0.2耐力は、500MPa以上とすることがより好ましく、特に、520MPa以上とすることがさらに好ましい。
【0024】
一方、銅合金板の圧延直角方向(BW方向)の0.2%耐力は、上述した圧延平行方向の0.2%耐力以上とすることが好適である。すなわち、圧延平行方向の0.2%耐力に対する圧延直角方向の0.2%耐力の比を1.0以上とすることが好ましい。これは、プレス加工後のバリの長さが短くなり、プレス性が良好となるためである。圧延直角方向の0.2%耐力/圧延平行方向の0.2%耐力の比は、より好ましくは1.03以上、さらに好ましくは1.05以上とする。この一方で、圧延直角方向の0.2%耐力/圧延平行方向の0.2%耐力の比が大きすぎると、圧延平行方向および圧延直角方向のプレス後の破面に異方性が生じるため、結果的にプレス後のバリ長さが長くなることから、この比は、1.2以下とすることができ、好ましくは1.15以下、より好ましくは1.1以下とする。
なお、0.2%耐力は、JIS Z2241に基いて測定する。
【0025】
(変位―荷重曲線の半価幅)
発明者は、銅合金板のプレス加工時に、パンチが銅合金板の表面に接したときから、銅合金板を打ち抜くまでの間のパンチストロークと、銅合金板に作用する荷重との関係について鋭意検討した結果、プレス加工により得られるプレス成形品のプレス破面において、バリの発生を招くせん断面の割合を減らすとともに、破断面の割合を増加させるためには、せん断試験における変位―荷重曲線から求められる半価幅を小さくすることが有効であることを見出した。
【0026】
このことを詳説すれば以下のとおりである。プレス加工時には、
図1にグラフで模式的に例示するように、パンチストロークがまだ小さい加工初期の段階では、パンチとダイとの間に挟まれた銅合金板に、パンチおよびダイのそれぞれが接触した箇所でダレが生じる。次いで、パンチストロークの増大に伴い、パンチとダイの間の銅合金板にせん断面が形成され始め、パンチおよびダイのそれぞれがさらに銅合金板に食い込んで、上記の各ダレがクラックとなったときに荷重のピークを迎え、その後、荷重の減少とともに、クラックが伝播して破断面が形成される。
ここで、プレス成形品のプレス破面でせん断面の占める割合が増加するのは、銅合金板の表面及び裏面にダレが形成されてから、プレス破面が形成されるまでの間に、銅合金板が引きちぎれずに板厚方向に大きく伸び、その間にわたってパンチが銅合金板を削ることに起因すると考えられる。
【0027】
従って、プレス加工時の銅合金板の板厚方向の伸びを小さくして、銅合金板にダレが形成された後、速やかにプレス破面が形成されるように、せん断試験における変位―荷重曲線から求められる半価幅が小さい銅合金板とすることにより、プレス成形品のプレス破面で、せん断面の占める割合が減少し、破断面の占める割合が増加すると考えた。
【0028】
かかる知見に基き、この発明の実施形態の銅合金板では、板厚に対し、せん断試験における変位―荷重曲線から求められる半価幅の比(r)を0.2≦r≦0.7とする。
せん断試験における変位―荷重曲線は、たとえば、
図2に示すように、変位の増大に伴い、荷重は初期の段階では増加するもピークを経た後に低下する山型の曲線となるところ、この発明の実施形態の銅合金板では、ピーク荷重の1/2の荷重の変位幅である半価幅が、同じ板厚の従来の銅合金板に比して小さくなる。
【0029】
その結果として、この実施形態の銅合金板に対してプレス加工を施した際に、
図1に示すようなパンチストローク量に対する荷重の曲線で、銅合金板の表面及び裏面にダレが形成されてピークを経た後、荷重が急速に低下して早期にプレス破面が形成されることになるので、プレス破面が形成されるまでの間にパンチが銅合金板を削ることに起因する、せん断面の割合の増大を効果的に抑制することができる。それにより、プレス破面でせん断面が小さくなるとともに破断面が大きくなるので、プレス破面から表裏面側に突出するバリの発生を有効に抑制することが可能になる。
【0030】
ここで、変位―荷重曲線を求めるためのせん断試験は、
図3に示すように、厚さ0.1mmの銅合金板のサンプルを、直径9.98mmの円柱型のポンチと、クリアランスを0.01mm設けたダイスとの間に挟み込み、速度0.1mm/minでパンチをダイに向けて変位させ、変位の増加に伴い、パンチ側に設けたロードセルで荷重を適宜測定することにより行うことができる。
【0031】
板厚に対する半価幅の比(r)の下限を特に設定しないが、通常ダレ及びせん断面が形成される場合は0.2以上となる。この一方で、板厚に対する半価幅の比(r)が0.7を超える場合は、プレス加工時の板厚方向の伸びが十分に小さくならないことから、バリの発生を抑制する効果を所期したほどに発揮することができない。
従って、板厚に対する半価幅の比(r)のより好ましい範囲は、0.25≦r<0.7であり、さらに好ましい範囲は、0.3≦r<0.7である。
【0032】
(板厚)
銅合金板の厚み、つまり板厚は具体的には、0.05mm〜2.0mmとすることができる。上記範囲外ではプレスのせん断面やバリの管理の難易度が高くなるため、より好ましい板厚は0.06mm〜1.5mmである。但し、板厚は、銅合金板の用途等に応じて適宜決定されるものであり、ここで例示した数値範囲に限定されるものではない。
【0033】
(伸び)
圧延平行方向の伸びと、圧延直角方向の伸びの異方性は小さいほうが、いずれの向きのプレス加工を施した場合であっても、バリの発生を抑制することができる点で好ましい。そのため、圧延平行方向の伸びに対する圧延直角方向の伸びの比は、0.8以上かつ1.2以下とすることが好適である。圧延平行方向の伸びに対する圧延直角方向の伸びの比は、より好ましくは0.8以上かつ1.15以下、さらに好ましくは0.8以上かつ1.1以下とする。この伸びはJIS Z2241に準拠して測定する。
【0034】
(バリ高さ)
上記のせん断試験後に得られる円柱状の試験片について、光学顕微鏡(倍率1000倍)および実体顕微鏡を用いて、その試験片のプレス破面の全体を360°にわたって観察し、観察した中で最も長いバリの板厚方向に沿う長さを、バリ高さとした。バリ高さは1μm単位で測定し、5μm未満であれば機能上問題ない。好ましくは3μm未満、さらに好ましくはバリが無いことが望ましい。
【0035】
(製造方法)
以上に述べた銅合金板は、以下に一例として示す製造方法により製造することができる。
純銅原料として無酸素銅等を溶解し、Snおよび必要に応じて他の合金元素を添加し、厚み30〜300mm程度のインゴットに鋳造する。このインゴットを例えば800〜1000℃の熱間圧延により厚み3〜30mm程度の板とした後、冷間圧延と再結晶焼鈍とを、必要に応じて所定の回数で繰り返し、最終の冷間圧延で所定の製品厚みに仕上げ、最後に歪取り焼鈍を施す。歪取り焼鈍は特に行わなくともプレス性への影響はない。
【0036】
再結晶焼鈍では、圧延組織を再結晶化させる。
特にここでは、最終冷間圧延前の再結晶焼鈍(最終焼鈍)では、材料の平均結晶粒径を50μm以上に調整する。このときの平均結晶粒径が小さすぎると、製造される銅合金板の、プレス加工時の板厚方向の伸びを十分に小さくすることができない。言い換えれば、銅合金板の変位―荷重曲線の半価幅の比(r)を0.2≦r≦0.7とすることが困難になる。このため、最終焼鈍時の平均結晶粒径は、50μm以上とすることがより好ましく、特に、60μm以上とするさらに好適である。
この一方で、最終焼鈍時の平均結晶粒径が大きすぎる場合は、製造される銅合金板の0.2%耐力が低下する。そのため、最終焼鈍時の平均結晶粒径は100μm以下とすることが好ましく、特に95μm以下、さらには85μm以下とすることがより一層好ましい。
【0037】
最終冷間圧延前の再結晶焼鈍の条件は、目標とする焼鈍後の結晶粒径および目標とする製品の導電率に基づき決定する。具体的には、バッチ炉または連続焼鈍炉を用い、炉内温度を550〜850℃として焼鈍を行えばよい。バッチ炉では550〜850℃の炉内温度において30分から30時間の範囲で加熱時間を適宜調整すればよい。連続焼鈍炉では550〜850℃の炉内温度において5秒から10分の範囲で加熱時間を適宜調整すればよい。
【0038】
最終冷間圧延(仕上圧延)では、一対の圧延ロール間に材料を繰り返し通過させ、目標の板厚に仕上げてゆく。
ここにおいて、圧延ロール間に通過させる回数をnパスとすると、各パスの加工度を同じ大きさに設定し、最初のパスからn/3パス以上は、材料の板厚に対するワークロールの直径の比を40以上とすることが重要である。このような大径のワークロールで圧延することにより、材料へのワークロールの接触面積が大きいことに起因して材料が大きく圧縮されることになり、製造される銅合金板の変位―荷重曲線の半価幅を有効に小さくすることができる。ここで、最終冷間圧延の総パス数は、3パス〜25パスとし、好ましくは5パス〜15パスとする。
【0039】
このように複数パスにわたって行う最終冷間圧延の加工度Rf(%)は、Rf=(t
0−t)/t
0×100(t
0:最終冷間圧延前の板厚、t:最終冷間圧延後の板厚)で与えられる。この最終冷間圧延の加工度Rfは、60%以上とすることが好適である。言い換えれば、最終冷間圧延の加工度Rfが60%未満の場合は、銅合金の0.2%耐力が450MPa以上とすることが困難となり、要求特性を十分に満たすことができない可能性がある。
【0040】
また、再結晶焼鈍と交互に繰り返し行う冷間圧延全体の総加工度R(%)は、R=(T
0−T)/T
0×100(T
0:冷間圧延前の板厚、T:冷間圧延後の板厚)で与えられる。この総加工度Rは90%以上とすることが好ましく、92%以上とすることがより好ましい。総加工度Rが低い場合は、銅合金板の圧延直角方向の伸び/圧延平行方向の伸びの比が0.8未満となる。この一方で、冷間圧延の総加工度Rの上限は99.5%以下とすることができる。99.5%より大きい場合は銅合金板の圧延直角方向の伸び/圧延平行方向の伸びが1.2以上となる。総加工度Rは99.5%以下とすることができる。
【0041】
本発明の歪取り焼鈍は、連続焼鈍炉またはバッチ炉を用いて行う。いずれも炉内温度を300〜600℃の範囲で5秒〜10分の範囲で加熱条件を調整する。歪取り焼鈍は特に行わなくともよい。
【0042】
この発明では、プレス加工時に銅合金板の板厚方向の伸びが小さくなって、プレス破面の形成が早期になされるように、銅合金板の変位―荷重曲線から求められる半価幅の、板厚に対する比(r)を所定の範囲内とすることを一つの特徴としている。そのための銅合金板の製造条件は下記のとおりである。
a.最終焼鈍時の平均結晶粒径を50μm以上に調整する。
b.最終冷間圧延の初期のパスで、ワークロール直径/材料の板厚を40以上とする。
【0043】
以上のようにして製造された銅合金板は、様々な板厚の伸銅品に加工されて、たとえば、プレス加工により成形される端子、コネクタ、リレー、スイッチ、ソケット、バスバー、リードフレーム等の電子部品その他のプレス成形品に用いることに適している。
【実施例】
【0044】
次に、この発明の銅合金板を試作し、その性能を評価したので以下に説明する。但し、ここでの説明は、単なる例示を目的としたものであって、これに限定されることを意図するものではない。
【0045】
溶銅に合金元素を添加した後、厚みが200mmのインゴットに鋳造した。このインゴットを800℃で3時間加熱し、800℃で熱間圧延により厚み16mmの板状にした。熱間圧延板表面の酸化スケールをグラインダーで研削、除去した後、焼鈍と冷間圧延を繰り返し、最終の冷間圧延で所定の製品厚みに仕上げた。最後に連続焼鈍炉を用い歪取り焼鈍を行った。
【0046】
最終冷間圧延前の焼鈍(最終再結晶焼鈍)は、バッチ炉を用い、加熱時間を5時間とし炉内温度を300〜700℃の範囲で調整し、焼鈍後の結晶粒径と導電率を変化させた。焼鈍後の結晶粒径の測定においては、圧延方向に直角な断面を鏡面研磨後に化学腐食し、切断法(JIS H0501(1999年))により平均結晶粒径を求めた。
【0047】
冷間圧延の総加工度ならびに、最終冷間圧延(仕上圧延)の加工度、パス数およびワークロール直径を、表1に示すように各発明例及び比較例で変化させて制御した。
各条件の下で製造された銅合金板に対し、次の測定を行った。
【0048】
(成分)
合金元素濃度はICP−質量分析法で分析した。
【0049】
(せん断試験)
厚さ0.1mmのサンプルを採取し、これを、直径9.98mmの円柱型のポンチと、クリアランスを0.01mm設けたダイスとの間に配置した状態で、速度0.1mm/minでパンチをダイに向けて変位させ、変位の増加に伴い、パンチ側に設けたロードセルで荷重を測ることにより、求めた変位―荷重曲線から半価幅を算出した。
【0050】
(バリ高さ)
せん断試験後の円柱状の試験片の周囲に形成されたプレス破面を全周にわたって、光学顕微鏡(倍率1000倍)および実体顕微鏡を用いて観察し、バリの高さを測定した。バリの高さは1μm単位で測定した。
【0051】
(引張強さ及び0.2%耐力)
JIS Z2241に準拠し、圧延方向と平行な方向及び、圧延方向と直角な方向のそれぞれに沿う向きに各試験片を採取して、それぞれの方向の引張試験を行うことにより、引張強さ及び0.2%耐力を求めた。
【0052】
(伸び)
JIS Z2241に準拠し、圧延方向と平行な方向及び、圧延方向と直角な方向のそれぞれに沿う向きに各試験片を採取して、標点間距離50mmとして、それぞれの方向の伸びを測定した。
【0053】
(導電率)
導電率は、試験片の長手方向が圧延方向と平行になるように銅合金板から試験片を採取し、JIS H0505に準拠し四端子法により20℃を測ることにより測定した。
【0054】
発明例及び比較例の各条件を表1に、また測定により得られた結果を表2に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
表1及び2に示すところから、発明例1〜23ではいずれも、最終焼鈍時の平均結晶粒径を50μm以上とし、またワークロール直径/材料の板厚を40以上としたことにより、製造した銅合金板の変位―荷重曲線から求められる半価幅の、板厚に対する比(r)が0.2≦r≦0.7となるとともに、バリ高さが5以下でプレス打ち抜き性が良好なものとなった。また、発明例1〜23では、銅合金板の導電率が70%IACS以上であったため、電子部品に用いる場合等に要求される導電性を満たすものであった。
【0058】
これに対し、比較例1では、Snの添加量が0.007質量%と少なかったことにより、銅合金板の半価幅の、板厚に対する比(r)が大きくなり、バリ高さも高くなった。
比較例2、5では、最終焼鈍の温度が低く、かつ最終焼鈍時の平均結晶粒径が小さかった結果として、銅合金板の半価幅の、板厚に対する比(r)が大きくなり、比較例1ほどではないもののバリ高さが高くなった。
【0059】
比較例3、6では、最終冷間圧延の初期のパスで、ワークロール直径/材料の板厚が小さかったため、銅合金板の半価幅の、板厚に対する比(r)が大きくなり、バリ高さが高くなった。
比較例4では、仕上圧延でワークロール直径を大きくした初期のパス数が少なかったことにより、材料が大径のワークロールによる圧延を十分に受けなかったので、銅合金板の半価幅の、板厚に対する比(r)が大きくなり、バリ高さが高くなった。
なお、比較例7では、銅合金板の半価幅の、板厚に対する比(r)は所定の範囲内となったが、Pの添加量が多かったことに起因して導電率が小さくなった。
【0060】
以上の結果より、この発明の銅合金板によれば、バリの発生を有効に抑制することができ、プレス打ち抜き性を改善できることが解かった。