特許第6085780号(P6085780)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6085780オレフィン製造用触媒の調製方法及びオレフィンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6085780
(24)【登録日】2017年2月10日
(45)【発行日】2017年3月1日
(54)【発明の名称】オレフィン製造用触媒の調製方法及びオレフィンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 37/03 20060101AFI20170220BHJP
   C07C 11/06 20060101ALI20170220BHJP
   C07C 1/24 20060101ALI20170220BHJP
   B01J 23/08 20060101ALI20170220BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20170220BHJP
【FI】
   B01J37/03 Z
   C07C11/06
   C07C1/24
   B01J23/08 Z
   !C07B61/00 300
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-116304(P2013-116304)
(22)【出願日】2013年5月31日
(65)【公開番号】特開2014-233670(P2014-233670A)
(43)【公開日】2014年12月15日
【審査請求日】2016年1月14日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年9月26日付け委託契約(平成23年3月18日付け変更契約)、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「新エネルギー技術研究開発/バイオマスエネルギー等高効率転換技術開発(先導技術開発)/セルロース系バイオマスエタノールからプロピレンを製造するプロセス開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100118131
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 渉
(74)【代理人】
【識別番号】100092934
【弁理士】
【氏名又は名称】塚脇 正博
(72)【発明者】
【氏名】岩本 正和
(72)【発明者】
【氏名】村上 麻希
【審査官】 増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−006831(JP,A)
【文献】 特開2012−240914(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/077724(WO,A1)
【文献】 特開平05−193939(JP,A)
【文献】 特開2003−277052(JP,A)
【文献】 特開2006−264989(JP,A)
【文献】 特開2011−126746(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
C07C 1/24
C07C 11/06
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコールから、該アルコールの炭素原子数よりも少なくとも一つ大きい炭素原子数のオレフィンを製造するための触媒の調製方法であって、
インジウム塩を含む水溶液に、塩基水溶液および式(I)の第4級アンモニウム塩水溶液を添加することにより沈殿を形成し、
その懸濁液を熟成して得られた沈殿を、濾過回収・洗浄・焼成する、
オレフィン製造用触媒の調製方法。
【化1】

(R〜Rはアルキル基、Xは陰イオンを示す)
【請求項2】
式(I)のR〜Rのそれぞれが、エチル基、プロピル基、ブチル基のいずれかであり、かつ式(I)のXが、水酸化物イオン(OH)、臭化物イオン(Br)、塩化物イオン(Cl)のいずれかである請求項1に記載のオレフィン製造用触媒の調製方法。
【請求項3】
式(I)のR〜Rが、すべてプロピル基である請求項1又は2に記載のオレフィン製造用触媒の調製方法。
【請求項4】
pHが5〜10となるように塩基水溶液を添加し、次いでpHが9以上となるように式(I)の第4級アンモニウム塩水溶液を添加する請求項1〜3のいずれかに記載のオレフィン製造用触媒の調製方法。
【請求項5】
前記アルコールがエタノールであり、前記オレフィンがプロピレンである、請求項1〜4のいずれかに記載のオレフィン製造用触媒の調製方法。
【請求項6】
アルコールと請求項1〜5のいずれかに記載の調製方法より調製されたオレフィン製造用触媒を接触させて、前記アルコールの炭素原子数よりも少なくとも一つ大きい炭素原子数のオレフィンを製造するオレフィンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコールを原料として、そのアルコールの炭素原子数より1以上多いオレフィンを製造するためのオレフィン製造用触媒の調製方法及びオレフィン製造用触媒、並びにオレフィンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な化学品原料となるオレフィンの現在の主要な製法は、石油留分の熱分解法である。しかし、近年の化学品原料の製造分野では、炭酸ガス発生抑制、及び将来の石油資源の高騰又は枯渇に備え、化学品原料を石油系資源から非可食性バイオマス資源に転換することが求められている。特に、代表的な汎用樹脂であるポリプロピレンを、バイオマス資源であるバイオエタノールからより効率よく製造する技術が要求されている。
【0003】
特許文献1には、エタノールからのオレフィン製造方法として、酸触媒、特にゼオライトが用いられている。しかし、酸触媒を用いるとエタノールの脱水反応が併発し、エチレンが多量に生成するためプロピレンの選択率が低いという問題点がある。
【0004】
また、非特許文献1、非特許文献2及び特許文献2には、酸化インジウムを触媒として用いて、エタノールからプロピレンが得られることが報告されている。酸化インジウム粉末の製造方法に関しては古くから種々の方法が知られているが、いずれも電子材料用のITO(Indium−Tin−Oxide)として高密度焼結体を得るためのものである(例えば、特許文献3〜6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−290991号公報
【特許文献2】特開2013−6831号公報
【特許文献3】特開平5−193939号公報
【特許文献4】特開2003−277052号公報
【特許文献5】特開2006−264989号公報
【特許文献6】特開2006−306669号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Masakazu Iwamoto et.al.,「Selective conversion of ethanol to propene on In2O3−based catalysts」,Europacat X,PM149(2011)
【非特許文献2】岩本正和ら、「In2O3触媒によるエタノールのプロピレンへの選択的変換」、第108回触媒討論会、2F04(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らはこれまでに、アルコールから、該アルコールの炭素原子数よりも少なくとも一つ大きい炭素原子数のオレフィンを製造する触媒として酸化インジウムが有効であることを見出した。しかし、当該酸化インジウム触媒においては、触媒活性及び触媒寿命の点で未だ改善の余地があった。
特許文献2では、酸化インジウム含有触媒の存在下、アルコールから、該アルコールよりも炭素原子数が1以上多いオレフィンを製造するオレフィンの製造方法が開示されている。該文献での触媒調製方法としては、金属成分を含む塩(硝酸塩、硫酸塩、塩化物など)を空気中でそのまま焼成する方法や、該金属成分を含む水溶液に、アンモニア水等の塩基を滴下して沈殿を形成させ、濾過後焼成する方法が挙げられているが、プロピレンの収率がさらに高く、寿命の長い触媒の調製方法が求められていた。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、アルコールを原料としてそのアルコールよりも少なくとも一つ大きい炭素原子数のオレフィンを、高い収率で長時間安定して製造できる高性能・長寿命のオレフィン製造用触媒の調製方法及びオレフィン製造用触媒、並びにオレフィンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行なった結果、インジウム塩を含む水溶液に、塩基水溶液および式(I)の第4級アンモニウム塩水溶液を添加することにより、原料アルコールの炭素原子数よりも少なくとも一つ大きい炭素原子数のオレフィン、特に原料アルコールの炭素原子数よりも一つ大きい炭素原子数のオレフィンを高収率で生成することができる寿命の長い触媒が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち本発明は、下記の通りのものである。
【0010】
[1]アルコールから、該アルコールの炭素原子数よりも少なくとも一つ大きい炭素原子数のオレフィンを製造するための触媒の調製方法であって、インジウム塩を含む水溶液に、塩基水溶液および式(I)の第4級アンモニウム塩水溶液を添加することにより沈殿を形成し、その懸濁液を熟成して得られた沈殿を、濾過回収・洗浄・焼成する、オレフィン製造用触媒の調製方法。
【化1】
(R1〜R4はアルキル基、X-は陰イオンを示す)
[2]式(I)のR1〜R4のそれぞれが、エチル基、プロピル基、ブチル基のいずれかであり、かつ式(I)のX-が、水酸化物イオン(OH-)、臭化物イオン(Br-)、塩化物イオン(Cl-)のいずれかである上記[1]に記載のオレフィン製造用触媒の調製方法。
[3]式(I)のR1〜R4が、すべてプロピル基である上記[1]又は[2]に記載のオレフィン製造用触媒の調製方法。
[4]pHが5〜10となるように塩基水溶液を添加し、次いでpHが9以上となるように式(I)の第4級アンモニウム塩水溶液を添加する上記[1]〜[3]のいずれかに記載のオレフィン製造用触媒の調製方法。
[5]前記アルコールがエタノールであり、前記オレフィンがプロピレンである、[1]〜[4]のいずれかに記載のオレフィン製造用触媒の調製方法。
[6]上記[1]〜[5]のいずれかに記載の調製方法より調製されたオレフィン製造用触媒。
[7]アルコールと上記[6]に記載のオレフィン製造用触媒を接触させて、前記アルコールの炭素原子数よりも少なくとも一つ大きい炭素原子数のオレフィンを製造するオレフィンの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アルコールを原料としてそのアルコールよりも少なくとも一つ大きい炭素原子数のオレフィン、特に原料アルコールの炭素原子数よりも一つ大きい炭素原子数のオレフィンを、高い収率で長時間安定して製造できる長寿命のオレフィン製造用触媒の調製方法を提供することができる。
このようなオレフィン製造用触媒が生成するのは、第4級アンモニウム塩の添加によって、焼成後の酸化インジウムが金属インジウムに還元されにくい構造である水酸化インジウムの骨格が形成されているものと推察される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のオレフィン製造用触媒の調製方法について説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではない。なお、本明細書において、「〜」という表現により数値範囲を示す場合には、下限値及び上限値を含むものとする。
【0013】
〔1.オレフィン製造用触媒の調製方法〕
本発明のオレフィン製造用触媒の調製方法は、インジウム塩を含む水溶液に、塩基水溶液および式(I)の第4級アンモニウム塩水溶液を添加して、水酸化インジウムの沈殿を形成させる沈殿生成工程の後、その懸濁液を熟成する熟成工程を経て得られた沈殿を、濾過回収・洗浄・焼成することにより、アルコールを原料としてそのアルコールよりも少なくとも一つ大きい炭素原子数のオレフィン、特に原料アルコールの炭素原子数よりも一つ大きい炭素原子数のオレフィンを高い収率で長時間安定して製造できる高性能・長寿命の酸化インジウムからなるオレフィン製造用触媒を得るものである。
以下、本発明の触媒調製方法の詳細を説明する。
【0014】
(沈殿生成工程)
インジウムの塩としては、硝酸インジウム、硫酸インジウム、塩化インジウム、酢酸インジウム等が挙げられる。なかでも、硝酸インジウムを用いることが好ましい。インジウム塩を含む水溶液中のインジウム濃度は、0.1mol/L以上であることが好ましい。
【0015】
インジウムの塩を含む水溶液と混合される「第1の沈殿剤」は、塩基水溶液であり、塩基としては、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、尿素等が挙げられ、これらの水溶液として用いられる。なかでも、アンモニア水を用いることが好ましい。
【0016】
インジウムの塩を含む水溶液と混合される「第2の沈殿剤」に含まれる特定の化合物は、式(I)の第4級アンモニウム塩であり、水溶液として用いられる。
式(I)のR1〜R4はアルキル基であり、アルキル基は、エチル基、プロピル基、ブチル基のいずれかであることが好ましく、R1〜R4の全てがプロピル基であることがより好ましい。
式(I)のX-は陰イオンであり、陰イオンとしては、水酸化物イオン、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、炭酸水素イオン、アルミン酸イオンなどの無機陰イオン、ギ酸イオン、酢酸イオンなどの有機カルボン酸イオン、メタンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオンなどの有機スルホン酸イオン、フェノキシドイオンなどの有機陰イオン等が挙げられるが、水酸化物イオン、臭化物イオン、塩化物イオンが好ましく、さらに好ましくは水酸化物イオンである。
具体的には、式〈I)の第4級アンモニウム塩は、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAOH)、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAOH)が好ましく、TPAOHが特に好ましい。
【0017】
第1の沈殿剤と第2の沈殿剤とは共存させて用いてもよいが、第1の沈殿剤を一定量加えてpHを調整した後に、第2の沈殿剤を加えることが好ましい。
その場合、第1の沈殿剤を投入した後の混合溶液のpHは5〜10とすることが好ましく、6〜9とすることがより好ましい。第2の沈殿剤を投入した後のpHは、9以上とすることが好ましく、さらに好ましいpHは11以上である。
【0018】
なお、沈殿剤の投入に際しては撹拌を行うが、撹拌速度は、水溶液中の沈殿粒子が沈降・凝集・固化しない程度に、混合液を撹拌しておくことが好ましい。また、沈殿剤の投入速度は、インジウム塩や沈殿剤の濃度にもよるが、10mL/min以上であることが好ましい。
【0019】
(熟成工程)
第1および第2の沈殿剤を投入して沈殿を形成させた後、沈殿を濾過回収する前に、混合溶液のまま熟成させることによって、目的とする高性能触媒が得られやすくなる。
ここで、「熟成」とは、混合溶液を所定温度で、所定時間、撹拌する操作を指す。好ましい熟成温度は10℃〜100℃、より好ましくは20℃〜80℃であり、好ましい熟成時間は1時間以上、より好ましくは10時間以上である。撹拌速度は、沈殿粒子が沈降・凝集・固化しない程度に、混合溶液を撹拌しておくことが好ましい。
【0020】
熟成工程を経て得られた沈殿を含む混合液を濾過して沈殿を回収し、これを洗浄した後、乾燥及び焼成することで、目的とする本発明のオレフィン製造用触媒を得ることができる。ここで、焼成温度は、500℃〜1000℃、好ましくは600℃〜800℃、さらに好ましくは650℃〜750℃である。
当該触媒は粉末状である場合は、適宜粉砕を行い所望の粒径範囲となるように整粒する。また、ペレット状である場合は、適宜粉砕を行い公知の手段により例えば円柱状に成形する。
【0021】
〔2.オレフィン製造用触媒〕
本発明のオレフィン製造用触媒は上述の本発明のオレフィン製造用触媒の調製方法により調製され、インジウム酸化物を含む。触媒の形態としては、インジウムの酸化物粉末やインジウムの酸化物からなるペレット等の形態が挙げられる。
【0022】
ここで、インジウム酸化物の好適な一例としては、酸化インジウム(In23)が挙げられる。酸化インジウムの種類としては、立方晶又はアモルファス等を例示することができる。また、本発明の効果を阻害しない限り、種々の他の金属成分を含有させてもよい。
【0023】
〔3.オレフィンの製造方法〕
本発明のオレフィン製造用触媒を用いたオレフィンの製造方法は、アルコールから、該アルコールの炭素原子数よりも少なくとも一つ大きい炭素原子数のオレフィンを生成する生成工程を含み、該生成工程では、原料アルコールと、本発明のオレフィン製造用触媒とを、反応温度300℃〜700℃で接触させればよい。
【0024】
本発明に係る触媒と反応させるアルコールとしては、特に限定されないが、炭素原子数2〜12の1級アルコールであることが好ましい。炭素原子数2〜12の1級アルコールとしては、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、イソブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、1−へプタノール、1−オクタノール、1−ノナノール、1−デカノール、1−ウンデカノール、1−ドデカノール等を例示することができる。
なかでも、アルコールとしては、炭素原子数2〜8の1級アルコールが好ましく、炭素原子数2〜4の1級アルコールがより好ましい。この範囲のアルコールであれば、生成物中の原料アルコールの炭素原子数よりも少なくとも一つ大きい炭素原子数のオレフィンの選択性を向上させることができる。
【0025】
さらに、本発明に使用するアルコールとしては、生物資源由来(バイオマス)のアルコール(バイオアルコール)を用いることがより好ましい。生物資源由来のアルコールを本発明のオレフィン製造用触媒と反応させることにより、化石燃料から得られたアルコールとは異なり、環境中の二酸化炭素を増加させることなく原料アルコールの炭素原子数よりも少なくとも一つ大きい炭素原子数のオレフィンを製造することができる。
【0026】
生成される原料アルコールの炭素原子数よりも少なくとも一つ大きい炭素原子数のオレフィンは、原料となるアルコールの炭素数がn(nは2以上)の場合には、2n−1、2n、3n−1等の炭素数のオレフィンである。具体的には、原料となるアルコールがエチルアルコールの場合には、エチレンの他に、プロピレン、1−ブテン、シス2−ブテン、トランス2−ブテン、イソブテン、ペンテン等、原料となるアルコールが1−プロパノールの場合には、プロピレンの他に、ペンテン類、へキセン類、オクテン類等が生成する。
【0027】
オレフィン生成工程における反応温度は、300℃〜700℃であることが好ましく、350℃〜600℃であることがより好ましい。この範囲の温度で反応させることにより、生成物中の原料アルコールの炭素原子数よりも少なくとも一つ大きい炭素原子数のオレフィンの選択性の低下を防ぐことができる。
【0028】
また、オレフィン生成工程において、原料アルコールと本発明のオレフィン製造用触媒との接触方法は、特に限定されないが、触媒を充填した容器内に、単に原料アルコールを導入するだけでもよい。反応器としては、固定床反応器、流動床反応器、回分式反応器、半回分式反応器等を例示することができるが、オレフィンの生産性の観点からは、固定床反応器又は流動床反応器が好ましく、固定床反応器がさらに好ましい。
【0029】
原料となるアルコールの形状は特に限定されないが、オレフィンの生成効率を高め、かつ反応が容易である観点から、気体であることが好ましい。また、容器内で気体状のアルコールを触媒と接触させるとき、アルコールを他の成分と組み合わせて容器内に供給してもよい。他の成分としては、例えば、窒素ガス、水蒸気、水素、一酸化炭素、二酸化炭素、反応器出口から回収した生成物の全部又は一部、原料となるアルコール及び生成するオレフィンとの反応性が実質的に無い不活性キャリアガス等を例示することができる。触媒活性を安定させる観点から、他の成分の中では、水蒸気、水素、窒素を共存させることが好ましい。
【0030】
本発明のオレフィン製造用触媒の使用量は、特に限定されないが、アルコール1トン当たり、0.000002トン〜0.02トンであることが好ましい。また、アルコールの供給速度は、例えば、触媒1トン当たり、0.002トン/h〜200トン/hであればよく、0.02トン/h〜20トン/hであることがより好ましい。
【0031】
アルコールとオレフィン製造用触媒との接触時間は特に限定されず、例えば、0.001秒〜1時間であり、好ましくは0.1秒〜1分である。
【0032】
また、原料となるアルコールの炭素原子数よりも少なくとも一つ大きい炭素原子数のオレフィンの選択収率は特に限定されないが、初期段階(反応経過時間:2時間程度)で、35%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、45%以上であることがさらに好ましい。ここで、オレフィンの選択収率とは、(生成した、原料アルコールの炭素原子数よりも少なくとも一つ大きい炭素原子数のオレフィンの炭素モル数)/(反応に供したアルコールの炭素モル数)×100(%)である。
【0033】
なお、本発明のオレフィンの製造方法としては、原料アルコールがエタノールであり、原料アルコールの炭素原子数よりも少なくとも一つ大きい炭素原子数のオレフィンがプロピレンであることが好ましい。
【実施例】
【0034】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。
【0035】
〔実施例1〕
インジウム源として硝酸インジウムn水和物(In(NO33・nH2O、関東化学社製、製品番号20298−08、純度99.9%以上)21.11gを、脱イオン水500.30gに混合してA液を調製した。
また、第1の沈殿剤として、アンモニア水(関東化学社製、特級28〜30%)9.15gを、脱イオン水233.70gに混合してB液を調製した。
そして、第2の沈殿剤として、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)水溶液(東京化成工業社製、製品番号T0964、濃度10%)330.75gを用い、C液とした。
【0036】
室温(25℃)でA液を攪拌しながら、B液をビュレットで5滴/秒の速度で約20分かけて加えた。滴下後の溶液のpHは7.3であった。引き続き、C液を5滴/秒の速度で添加した。C液添加後のpHは11.99であった。
【0037】
この懸濁液を室温(25℃)で40時間攪拌し熟成した。熟成後、得られた白色の沈殿物を濾過回収し、500mlのイオン交換水中で3分間攪拌後濾過する操作を3回繰り返して洗浄した。得られた固体を80℃で一晩乾燥させ未焼成の試料を得た。
【0038】
この試料を磁性皿に薄く広げ、1℃/minで700℃まで昇温後、5時間空気中で焼成し、酸化インジウム触媒を得た。
この触媒の比表面積は7.1m2/gであった。なお、比表面積は、市販の装置(日本ベル社製、BELSORPmax)を用い、窒素吸着法で測定した(窒素吸着法については、小野嘉夫、鈴木勲、「吸着の科学と応用」、講談社サイエンティフィック、60頁(2003)を参照)。
【0039】
〔実施例2〕
硝酸インジウムn水和物を21.63g、脱イオン水を501.41gとした以外は、実施例1と同様にしてA液を調製した。
また、アンモニア水を9.16g、脱イオン水を231.03gとした以外は、実施例1と同様にしてB液を調製した。
そして、第2の沈殿剤として、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAOH)水溶液(東京化成工業社製、製品番号T0096、濃度10%)238.15gを用い、C液とした。
【0040】
室温(25℃)でA液を攪拌しながら、B液をビュレットで5滴/秒の速度で約20分かけて加えた。滴下後の溶液のpHは7.3であった。引き続き、C液を5滴/秒の速度で添加した。C液添加後のpHは12.07であった。
【0041】
この懸濁液を室温(25℃)で40時間攪拌し熟成した。熟成後、得られた白色の沈殿物を濾過回収し、500mlのイオン交換水中で3分間攪拌後濾過する操作を3回繰り返して洗浄した。得られた固体を80℃で一晩乾燥させ未焼成の試料を得た。
【0042】
この試料を磁性皿に薄く広げ、1℃/minで700℃まで昇温後、5時間空気中で焼成し、酸化インジウム触媒を得た。
この触媒の表面積は10.7m2/gであった。
【0043】
〔実施例3〕
硝酸インジウムn水和物を21.23g、脱イオン水を500.90gとした以外は、実施例1と同様にしてA液を調製した。
また、アンモニア水を8.77g、脱イオン水を222.80gとした以外は、実施例1と同様にしてB液を調製した。
そして、第2の沈殿剤としてテトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAOH)水溶液(東京化成工業社製、製品番号T0096、濃度10%)402.04gを用い、C液とした。
【0044】
室温(25℃)でA液を攪拌しながら、B液をビュレットで5滴/秒の速度で約20分かけて加えた。滴下後の溶液のpHは7.3であった。引き続き、C液を5滴/秒の速度で添加した。C液添加後のpHは12.42であった。
【0045】
この懸濁液を室温(25℃)で40時間攪拌し熟成した。熟成後、得られた白色の沈殿物を濾過回収し、500mlのイオン交換水中で3分間攪拌後濾過する操作を3回繰り返して洗浄した。得られた固体を80℃で一晩乾燥させ未焼成の試料を得た。
【0046】
この試料を磁性皿に薄く広げ、1℃/minで700℃まで昇温後、5時間空気中で焼成し、酸化インジウム触媒を得た。
この触媒の表面積は12.8m2/gであった。
【0047】
〔実施例4〕
硝酸インジウムn水和物を21.37g、脱イオン水を499.61gとした以外は、実施例1と同様にしてA液を調製した。
また、アンモニア水を8.89g、脱イオン水を222.39gとした以外は、実施例1と同様にしてB液を調製した。
そして、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)水溶液306.1gを用い、C液とした。
【0048】
室温(25℃)でA液を攪拌しながら、B液をビュレットで5滴/秒の速度で約20分かけて加えた。滴下後の溶液のpHは7.3であった。引き続き、C液を5滴/秒の速度で添加した。C液添加後のpHは11.26であった。
【0049】
この懸濁液を50℃で40時間攪拌し熟成した。熟成後、得られた白色の沈殿物を濾過回収し、500mlのイオン交換水中で3分間攪拌後濾過する操作を3回繰り返して洗浄した。得られた固体を80℃で一晩乾燥させ未焼成の試料を得た。
【0050】
この試料を磁性皿に薄く広げ、1℃/minで700℃まで昇温後、5時間空気中で焼成し、酸化インジウム触媒を得た(触媒No.N700−50℃)。
この触媒の表面積は10.6m2/gであった。
【0051】
〔実施例5〕
硝酸インジウムn水和物を21.67g、脱イオン水を500.54gとした以外は、実施例1と同様にしてA液を調製した。
また、アンモニア水を8.98g、脱イオン水を311.34gとした以外は、実施例1と同様にしてB液を調製した。
そして、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)水溶液317.8gを用い、C液とした。
【0052】
室温(25℃)でA液を攪拌しながら、B液をビュレットで5滴/秒の速度で約20分かけて加えた。滴下後の溶液のpHは7.3であった。引き続き、C液を5滴/秒の速度で添加した。C液添加後のpHは11.31であった。
【0053】
この懸濁液を80℃で40時間攪拌し熟成した。熟成後、得られた白色の沈殿物を濾過回収し、500mlのイオン交換水中で3分間攪拌後濾過する操作を3回繰り返し洗浄した。得られた固体を80℃で一晩乾燥させ未焼成の試料を得た。
【0054】
この試料を磁性皿に薄く広げ、1℃/minで700℃まで昇温後、5時間空気中で焼成し、酸化インジウム触媒を得た。
この触媒の表面積は10.6m2/gであった。
【0055】
〔比較例1〕
硝酸インジウムn水和物を21.33g、脱イオン水を500.37gとした以外は、実施例1と同様にしてA液を調製した。
また、アンモニア水を8.84g、脱イオン水を217.88gとした以外は、実施例1と同様にしてB液を調製した。
そして、第2の沈殿剤としてベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド(BTMAOH)水溶液(東京化成工業製、製品番号B1070、濃度10%)261.65gを用い、C液とした。
【0056】
室温(25℃)でA液を攪拌しながら、B液をビュレットで5滴/秒の速度で約20分かけて加えた。滴下後の溶液のpHは7.3であった。引き続き、C液を5滴/秒の速度で添加した。C液添加後のpHは12.18であった。
【0057】
この懸濁液を室温(25℃)で40時間攪拌し熟成した。熟成後、得られた白色の沈殿物を濾過回収し、500mlのイオン交換水中で3分間攪拌後濾過する操作を3回繰り返し洗浄した。得られた固体を80℃で一晩乾燥させ未焼成の試料を得た。
【0058】
この試料を磁性皿に薄く広げ、1℃/minで700℃まで昇温後、5時間空気中で焼成し、酸化インジウム触媒を得た。
この触媒の表面積は11.6m2/gであった。
【0059】
〔比較例2〕
硝酸インジウムn水和物を12.46g、脱イオン水を500.20gとした以外は、実施例1と同様にしてA液を調製した。
また、アンモニア水を9.20g、脱イオン水を230.10gとした以外は、実施例1と同様にしてB液を調製した。
そして、第2の沈殿剤としてエタノールアミン(EA)(東京化成工業社製、製品番号A0297、濃度99%以上)10.08gを用い、C液とした。
【0060】
室温(25℃)でA液を攪拌しながら、B液をビュレットで5滴/秒の速度で約20分かけて加えた。滴下後の溶液のpHは7.3であった。引き続き、C液を5滴/秒の速度で添加した。C液添加後のpHは9.65であった。
【0061】
この懸濁液を室温(25℃)で40時間攪拌し熟成した。熟成後、得られた白色の沈殿物を濾過回収し、500mlのイオン交換水中で3分間攪拌後濾過する操作を3回繰り返して洗浄した。得られた固体を80℃で一晩乾燥させ未焼成の試料を得た。
【0062】
この試料を磁性皿に薄く広げ、1℃/minで700℃まで昇温後、5時間空気中で焼成し、酸化インジウム触媒を得た。
この触媒の表面積は17.3m2/gであった。
【0063】
〔比較例3〕
硝酸インジウムn水和物を21.16g、脱イオン水を500.39gとした以外は、実施例1と同様にしてA液を調製した。
また、沈殿剤として、アンモニア水(関東化学製特級28−30%)を23.21g、脱イオン水を311.15gに混合してB液を調製した。
【0064】
室温(25℃)でA液を攪拌しながら、B液をビュレットで5滴/秒の速度で約20分かけて加えた。この懸濁液を室温(25℃)で40時間攪拌し熟成した。B液を入れた直後のpHは8.55であり、40時間熟成後の懸濁液の最終pHは8.45であった。
熟成後、得られた白色の沈殿物を濾過回収し、500mlのイオン交換水中で3分間攪拌後濾過する操作を3回繰り返して洗浄した。得られた固体を80℃で一晩乾燥させ未焼成の試料を得た。
【0065】
この試料を磁性皿に薄く広げ、1℃/minで700℃まで昇温後、5時間空気中で焼成し、酸化インジウム触媒を得た。
この触媒の表面積は31.7m2/gであった。
【0066】
〔エタノールの反応〕
実施例1〜3、比較例1および2で調製した触媒を用いて、エタノールの反応を行った。
石英製反応管に、それぞれの触媒(0.5g)を充填し、触媒充填部の温度を550℃に保持した。エタノールおよび希釈用の水蒸気(H2O)、水素(H2)および窒素(N2)を、それぞれの分圧が、0.3、0.08、0.3、0.32となるように混合し、全ガス流量を12.8ml/min(25℃、1気圧換算)として、反応管に供給した。
【0067】
反応原料の供給を開始した後、所定時間ごとに、反応管出口のガスを、ガスクロマトグラフ装置で分析し、プロピレン収率を測定した。なお、プロピレン収率は、以下の式によって炭素収率に換算して算出した。
【0068】
プロピレン収率(%)=[(生成ガス中のプロピレン量(モル/min)×3)
/(エタノール供給量(モル/min)×2)]×100
【0069】
表1に、それぞれの触媒を使用した場合の、プロピレン収率を示した。
【0070】
【表1】
【0071】
表1の結果に示すように、実施例1〜実施例5では、長時間、高いプロピレン収率が得られた。一方、比較例1〜比較例3のように、式〈I)の化合物を含む第2の沈殿剤を用いない方法で調製した触媒では、より長時間の反応でプロピレン収率は急激に低下した。