【文献】
Hiromitsu Takeda and Kenji Adachi,Near Infrared Absorption of Tungsten Oxide Nanoparticle Dispersions,J. Am. Ceram. Soc.,米国,The American Ceramic Society,2007年,90,pp.4059-4061
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
透明基板上に、請求項1から4のいずれかに記載の近赤外線遮蔽微粒子が分散されたバインダー樹脂が製膜されている近赤外線吸収フィルタであって、前記バインダー樹脂として、UV硬化型樹脂、熱硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂、常温硬化型樹脂、熱可塑性樹脂のいずれかが用いられており、
波長500nmの光の透過率が45%以上であるときに、波長700nmから1500nmの範囲における光の透過率の最高値が5.0%以下であることを特徴とする近赤外線吸収フィルタ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、近赤外線遮蔽微粒子、分散剤、有機溶剤、およびこれらを含有する近赤外線遮蔽微粒子含有分散液とその製造方法、近赤外線遮蔽微粒子を含有する近赤外線吸収フィルタとその製造方法について、詳細に説明する。
【0012】
[1]近赤外線遮蔽微粒子含有分散液とその製造方法
本発明に係る近赤外線遮蔽微粒子含有分散液は、近赤外線遮蔽微粒子、分散剤、有機溶剤、さらに所望によりその他の添加剤を含有している。
以下、近赤外線遮蔽微粒子含有分散液を構成する近赤外遮蔽機能微粒子とその製造方法、分散剤、有機溶剤について説明する。
【0013】
(1)近赤外線遮蔽微粒子
本発明に係る近赤外線遮蔽微粒子は、一般式Na
yWO
z(但し、0.3≦y≦1.1、2.2≦z≦3.0)で示される複合タングステン酸化物微粒子である。一方、複合タングステン酸化物微粒子は、近赤外線領域、特に波長1000nm以上の光を大きく吸収する。例えば、引用文献1は、記載された複合タングステン酸化物微粒子が、波長780nm以上の赤外線を効率よく遮蔽し、透明で色調の変化しない赤外線遮蔽体が得られた旨を、開示している。
これに対し、本発明に係る近赤外線遮蔽微粒子は、波長700〜1500nmの近赤外線並びに赤外線を効率よく吸収する特性を有している。
【0014】
本発明に係る近赤外線遮蔽微粒子が、波長700nm以上から近赤外線を効率よく吸収する機構は、以下のように推察される。
即ち、本発明に係る一般式Na
yWO
zで示される複合タングステン酸化物微粒子においても、上述した他のタングステン酸化物材料と同様の機構、即ちプラズモン吸収、またはポラロン吸収によって赤外線の吸収が起きている。しかし、本発明に係る一般式Na
yWO
zで示される複合タングステン酸化物微粒子においては、ナトリウムの添加量yが0.30≦y≦1.1、好ましくは0.69≦y≦1.00であり、より好ましくは0.69≦y≦0.78である。特に、y=0.75付近であると特に良好な吸収特性を発現することを知見した。この理由は定かではないが、0.75付近では立方晶の結晶が単相で得られやすいためと考えられる。
また、zの範囲は、2.2≦z≦3.0、好ましくは2.45≦z<3.0、より好ましくは2.8≦z<3.0であると良好な吸収特性を発現することを知見した。複合タングステン酸化物における赤外線吸収の発現は、結晶構造中に自由電子が生成されることで、近赤外領域で自由電子由来の光吸収が生じることに起因する。複合タングステン酸化物中に酸素が本来の化学量論比通りに存在しても、Naにより生じた自由電子によって赤外線吸収は発現するが、酸素欠陥が発生すると、さらに自由電子が増えるため、赤外線吸収はより増大する。
zの範囲が前述した範囲であれば、本発明に係る吸収特性を満足することができる。ただし酸素欠損量が過剰であると可視光領域の吸収分も徐々に増大するため、zの値は2.45以上であると好ましく、2.8以上であるとより好ましい。また、zの値は、作製条件、例えば、還元ガスの濃度や還元時間などにより適宜、制御することが可能である。
一方、Na
yWO
zで示される複合タングステン酸化物微粒子は、立方晶、六方晶、三斜晶、正方晶、斜方晶いずれの結晶系おいても本発明に係る吸収特性を発現するが、特に優れた吸収特性を得るためには、立方晶であることが好ましい。この結果、該複合タングステン酸化物微粒子において、該ナトリウムの添加による自由電子の供給が発生し、波長700nm以上から近赤外線が効率良く吸収されるのではないかと推察される。
【0015】
該近赤外線遮蔽微粒子の平均粒径は、その使用目的によって適宜選定することができる。例えば、透明性を重視した用途に使用する場合は、該赤外線遮蔽微粒子は40nm以下の平均粒径を有していることが好ましい。40nmよりも小さい平均粒径であれば、散乱により光を完全に遮蔽することが無く、可視光領域の視認性を保持し、同時に効率よく透明性を保持することができるからである。
【0016】
(2)近赤外線遮蔽微粒子の製造方法
本発明に係る近赤外線遮蔽微粒子である一般式Na
yWO
zで表記される複合タングステン酸化物微粒子は、原料のタングステン元素または化合物を、不活性ガス雰囲気または還元性ガス雰囲気中で熱処理して得ることができる。
【0017】
まず、原料としてタングステン化合物を用いる場合について説明する。原料としてのタングステン化合物は、三酸化タングステン粉末、二酸化タングステン粉末、または酸化タングステンの水和物、六塩化タングステン粉末、タングステン酸アンモニウム粉末、または、六塩化タングステンをアルコールに溶解させた後、乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、六塩化タングステンをアルコール中に溶解させたのち水を添加して沈殿させこれを乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、タングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、のいずれかから選択される1種類以上を用いることができる。
【0018】
原料として液体のタングステン化合物を用いると、該タングステン化合物とナトリウム源とを均一に混合することが容易である。そこで、タングステン化合物としてタングステン酸アンモニウム水溶液や、六塩化タングステン溶液を用いることが好ましい。
【0019】
原料としてタングステン元素を用いる場合は、金属タングステン粉末を用いることができる。
【0020】
次に、ナトリウム源としては、ナトリウム、水素、酸素、炭素以外を含まない塩であれば、ナトリウム源として使用することができる。
具体的には、炭酸ナトリウム(水和物)、炭酸ナトリウム(無水)、炭酸水素ナトリウム、過炭酸ナトリウム、酸化ナトリウム、過酸化ナトリウム、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなど、のいずれかから選択される1種類以上を用いることができる。
【0021】
上述のタングステン化合物とナトリウム源とを、所定の(Na/W(モル比))となるように、それぞれ秤量し、混合し粉砕する。秤量されたタングステン化合物とナトリウム源との混合・粉砕は、例えば、秤量されたNa
2CO
3・H
2OとH
2WO
4とに水を加えて乳鉢で混合し混合物とすることで実施する。得られた混合物を大気中100℃で乾燥させて乾燥物とする。得られた乾燥物は乳鉢で粉砕する。
尚、前記乳鉢に加える水の量は、溶媒して秤量されたNa
2CO
3・H
2OとH
2WO
4とが均一に混合できる量であれば良い。また、前記大気中100℃での乾燥時間は、水が蒸発し終える時間で良いが、例えば12時間程度が好ましい。
【0022】
上述したように、各成分が分子レベルで均一混合した原料を得るためには、各原料を溶液で混合することが好ましい。当該観点からは、ナトリウムを含むタングステン化合物が、水や有機溶媒等の溶媒に溶解可能なものであることが好ましい。
具体的には、ナトリウムを含有するタングステン酸塩、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酸化物、炭酸塩、水酸化物等が挙げられるが、これらに限定されず、溶液状になるものであれば好ましい。
【0023】
次に、不活性ガス雰囲気または還元性ガス雰囲気中における熱処理について説明する。
当該熱処理は、不活性ガス雰囲気、または、還元性ガス雰囲気のどちらの雰囲気であっても実施することができる。
【0024】
まず、不活性ガス雰囲気中で熱処理する場合について説明する。
不活性ガスとしてはアルゴン、窒素等を用いることができる。
熱処理温度としては、600〜700℃が好ましい。また、保持時間は1〜3時間とすることが好ましい。当該温度範囲で熱処理された一般式Na
yWO
z(但し、0.3≦y≦1.1、2.2≦z≦3.0)で示される複合タングステン酸化物微粒子は、波長500nmの光の透過率が高く、波長700nmから波長1500nmの範囲における光の透過率を低くすることができる。
【0025】
熱処理温度が600℃以上あれば、Na
2W
4O
13、Na
2W
2O
7などの異相が析出するのを回避でき、他方、熱処理温度が700℃以下あれば、Na
2WO
4などの異相析出するのを回避できるので、赤外線吸収力を有する複合タングステン化合物微粒子を得ることができる。
また、保持時間が1時間以上あれば、上述の赤外線吸収力を有する複合タングステン化合物微粒子を得ることが出来、また、保持時間が3時間以下であれば熱処理に要する燃料・資材が無駄とならない。
【0026】
次に、還元性ガス雰囲気中で熱処理する場合について説明する。
還元性ガスとしては特に限定されないが、水素が好ましい。水素で還元された複合タングステン化合物微粒子は、良好な近赤外線遮蔽特性を示すからである。
還元性ガスとして水素を用いる場合は、アルゴン、窒素等の不活性ガスに水素を体積比で0.1〜5.0%の割合で混合することが好ましく、さらに好ましくは0.2〜5.0%の割合で混合したものである。水素が体積比で0.1%以上あれば効率よく還元を進めることができる。
【0027】
熱処理温度は100〜1200℃、加熱時間は1〜3時間、保持することが好ましい。熱処理温度は400〜1200℃がさらに好ましく、600〜700℃が最も好ましい。
また、加熱時間は、1時間以上あれば、上述の赤外線吸収力を有する複合タングステン化合物微粒子を得ることが出来、また、加熱時間が3時間以下であれば熱処理に要する燃料・資材が無駄とならない。
【0028】
上述した熱処理を施された一般式Na
yWO
z(但し、0.3≦y≦1.1、2.2≦z≦3.0)で示される複合タングステン酸化物微粒子は、そのままでも近赤外線遮蔽微粒子として用いることができる。
尤も、該熱処理を施された複合タングステン酸化物微粒子の耐光堅牢性を向上させるために、得られた複合タングステン酸化物微粒子の表面を、Si、Ti、Zr、Alから選択される1種類以上の元素を含有する化合物、好ましくは、これらの元素の酸化物により被覆されるように表面処理してもよい。
【0029】
前記表面処理を行うには、Si、Ti、Zr、Alから選択される1種類以上の元素を含有する有機化合物を用いて、公知の表面処理操作を行えばよい。例えば、ゾルゲル法を用いて、複合タングステン酸化物微粒子と有機ケイ素化合物とを混合し、加水分解後、加熱すればよい。
【0030】
(3)分散剤
本発明に係る近赤外線遮蔽微粒子分散液を構成する分散剤としては、特に制限はなく、複合タングステン酸化物微粒子を分散できる一般的な分散剤を用いることができる。
例としては、アミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、或いはエポキシ基を官能基として有する分散剤が挙げられる。これらの官能基は、複合タングステン酸化物微粒子の表面に吸着し、複合タングステン酸化物微粒子の凝集を防ぎ、近赤外線遮蔽膜中でこれらの微粒子を均一に分散させる効果を持つからである。
具体的な分散剤の好ましい例として、カルボキシル基を官能基として有するアクリル−スチレン共重合体系分散剤、アミンを含有する基を官能基として有するアクリル系分散剤が挙げられる。ただし、分散剤はこれらに限定されるものではない。
【0031】
(4)有機溶剤
本発明に係る近赤外線遮蔽微粒子分散液に用いられる有機溶剤としては、特に制限はなく、塗布方法や成膜条件により適宜に選定される。
例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶媒、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル等のグリコール誘導体、フォルムアミド、N−メチルフォルムアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
(5)近赤外線遮蔽微粒子含有分散液の製造方法
近赤外線遮蔽微粒子と分散剤とを有機溶剤に添加して、近赤外線遮蔽微粒子含有分散液を得る工程を説明する。
近赤外線遮蔽微粒子である複合タングステン酸化物微粒子を、有機溶剤へ分散させる方法は、該微粒子が均一に有機溶剤に分散する方法であれば任意に選択できる。
例としては、複合タングステン酸化物微粒子と分散剤とを有機溶剤へ、複合タングステン酸化物微粒子を5〜15重量部、分散剤を5〜15重量部、溶媒を70〜90重量部の割合として投入し、混合して混合物とする。そして、該混合物をビーズミル、ボールミル、サンドミル、超音波分散などの装置や方法を用いることで、複合タングステン酸化物微粒子を有機溶剤へ、均一に分散させることが出来る。
【0033】
分散液中の複合タングステン酸化物微粒子は、平均粒径で200nm以下となって分散することが望ましい。また、平均粒径で40nm以下となって分散することがより好ましい。平均粒径が40nm以下であれば、製造後の赤外線遮蔽膜の可視光透過率45%以上において、ヘイズ値が2.0%以下となり、より向上するからである。
また、分散液中の複合タングステン酸化物微粒子の平均粒径が10nm以上であれば、分散操作は技術的に容易である。
【0034】
[2]近赤外線遮蔽微粒子を含有する近赤外線吸収フィルタとその製造方法
本発明に係る近赤外線遮蔽微粒子を含有する近赤外線吸収フィルタは、上述した近赤外線遮蔽微粒子含有分散液をバインダー樹脂へ、前記分散液を40〜60重量部、バインダー樹脂を40〜60重量部の割合として添加し、混合して混合物を得る。該混合物を、適宜基材表面にコーティングして塗膜を形成し、然る後に該塗膜から有機溶剤を蒸発させ、バインダー樹脂を硬化させることにより製造される。
【0035】
なお、混合物を適宜基材表面にコーティングする方法は、近赤外線遮蔽微粒子を含有する樹脂膜(塗膜)を、基材表面上に均一にコートできるものであれば良い。スピンコート法、バーコート法、グラビヤコート法、スプレーコート法、ディップコート法等が例示される。
【0036】
また、複合タングステン酸化物微粒子を直接バインダー樹脂中に分散させ、そこから樹脂シートを製造する構成も好ましい。
具体的には、粉状のバインダー樹脂へ、複合タングステン酸化物微粒子を添加した後、押し出し機で加熱形成して、前記近赤外線遮蔽微粒子が分散した樹脂シートを製造するものである。
該構成によれば、樹脂シートを製造する際、有機溶媒を蒸発させる必要がないため、環境的、工業的に好ましい。
【0037】
上述したバインダー樹脂としては、例えば、UV硬化型樹脂、熱硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂、常温硬化型樹脂、熱可塑性樹脂等が目的に応じて適宜選定可能である。具体的には、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等が挙げられる。これ等の樹脂は、単独使用であっても混合使用であってもよい。
【0038】
また、上述したバインダー樹脂に代えて、金属アルコキシドをバインダーとして用いる構成も可能である。
該金属アルコキシドとしては、Si、Ti、Al、Zr等のアルコキシドを挙げることができる。これらの金属アルコキシドを用いたバインダーは加熱等により加水分解・縮重合し、酸化物膜を形成することが可能である。
【0039】
また、近赤外線遮蔽微粒子含有分散液が塗布される上記基材としては、所望によりフィルムでもボードでもよく、形状は限定されない。透明の基材材料としては、ガラス、PET樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂等が、目的に応じて使用可能である。
【0040】
製造された本発明に係る近赤外線吸収フィルタは、可視光領域に高い透過率を持ちながら、波長700〜1500nmの近赤外〜IR領域の光に強い吸収特性を有する。
本発明に係る近赤外線吸収フィルタが、CCD等の撮像素子において近赤外線吸収フィルタとして用いられることを考慮すると、具体的には、波長500nmにおける透過率が35%以上、さらに好ましくは45%以上であり、波長700〜1500nmにおける最大透過率が10%以下であればよい。
これに対し、本発明に係る近赤外線吸収フィルタは、波長500nmにおける透過率が45%以上のとき、波長700〜1500nmにおける最大透過率が5%以下を示し、さらには、波長500nmにおける透過率が50%以上のとき、波長700から1500nmにおける最大透過率が2.5%以下を示した。
また、本発明に係る近赤外線吸収フィルタは、近赤外線遮蔽微粒子として無機酸化物質である複合タングステン酸化物微粒子を用いているので、有機物質を用いていた従来の技術に係る近赤外線吸収フィルタに比較して、耐光堅牢性に優れていた。
さらに、上述したように、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子へ、Si、Ti、Zr、Alから選択される1種類以上の元素を含有する化合物、好ましくは、これらの元素の酸化物により被覆されるように表面処理を施すことで、該耐光堅牢性をさらに向上させることも好ましい。
この結果、本発明に係る近赤外線吸収フィルタは、撮像素子へ好適に用いることができる。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例を参照しながら本発明を具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
ここで、各実施例における熱線遮蔽合わせ透明基材の可視光透過率並びに日射透過率は、日立製作所(株)製の分光光度計U−4000を用いて測定した。
また、ヘイズ値は村上色彩技術研究所(株)社製HR−200を用い、JIS K 7105に基づいて測定した。
微粒子の平均粒径は、透過型顕微鏡(日立製:HF−2200)を用いて視野内の微粒子を観察して、当該視野内における複数の微粒子の直径を測定し、得られた複数の微粒子の直径の値を平均化して求めた。
【0042】
(実施例1)
H
2WO
48.01gとNa
2CO
3・H
2O1.99gとを、(Na/W(モル比)=1.00相当)となるように秤量し、メノウ乳鉢で十分混合して混合粉末とした。当該混合粉末を、窒素ガスをキャリアーとした5%水素ガスを供給下で加熱し、650℃の温度で2時間、前記還元雰囲気下で保持した後、近赤外線遮蔽微粒子である複合タングステン酸化物微粒子を得た。得られた複合タングステン酸化物微粒子は正方晶でO/W(モル比)=3.00であった。
【0043】
近赤外線遮蔽微粒子を10質量%、官能基としてアミノ基を有する分散剤(アミン価40mL/g 分解温度230℃)10質量%、有機溶剤としてメチルイソブチルケトン(MIBK)80質量%を秤量した。これらを、0.3mmφZrO
2ビーズを入れたペイントシェーカーで7時間粉砕・分散処理することによって近赤外線遮蔽微粒子含有分散液を調製した。
【0044】
ここで、上述の近赤外線遮蔽微粒子含有分散液におけるタングステン酸化物微粒子の平均粒径は10nmであった。
上述の近赤外線遮蔽微粒子含有分散液に、UV硬化性樹脂を分散液/UV硬化性樹脂(重量比)=1.00の割合で添加して、樹脂組成物を得たのち、該樹脂組成物をバーコーターでガラス基板上にコートした。該コートされたガラス基板を70℃で乾燥し、有機溶媒を除去したのちUVを照射してUV硬化性樹脂を硬化させ、分散したタングステン酸化物微粒子を含む実施例1に係る近赤外線吸収フィルタAを得た。
【0045】
近赤外線吸収フィルタAの光学的特性を評価した。
まず、光の透過率測定を行った。このとき波長500nmの透過率は49.0%、波長700nmから1500nmの範囲における光の透過率の最高値は4.5%であった。また、ヘイズ値は0.6%であった。
【0046】
(実施例2)
H
2WO
48.43gとNa
2CO
3・H
2O1.57gとを、(Na/W(モル比)=0.75相当)となるように秤量し、メノウ乳鉢で十分混合して混合粉末とし、当該混合粉末を、窒素ガスをキャリアーとした5%水素ガスの供給下で加熱し、650℃の温度で2.5時間、前記還元雰囲気下で保持した以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係る近赤外線吸収フィルタBを得た。
得られた複合タングステン酸化物は正方晶でO/W(モル比)=2.85であった。また、平均粒径は40nmであった。
【0047】
近赤外線吸収フィルタBの光学的特性を評価した。
まず、光の透過率測定を行った。このとき波長500nmの透過率は50.4%、波長700nmから1500nmの範囲における光の透過率の最高値は2.3%であった。また、ヘイズ値は0.5%であった。
【0048】
(実施例3)
H
2WO
48.43gとNa
2CO
3・H
2O1.46gとを、(Na/W(モル比)=0.70相当)となるように秤量し、メノウ乳鉢で十分混合して混合粉末とし、当該混合粉末を、窒素ガスをキャリアーとした5%水素ガスを供給下で加熱し、650℃の温度で2.5時間、前記還元雰囲気下で保持した以外は、実施例1と同様にして、実施例3に係る近赤外線吸収フィルタCを得た。
得られた複合タングステン酸化物は正方晶でO/W(モル比)=2.80であった。また、平均粒径は200nmであった。
【0049】
近赤外線吸収フィルタCの光学的特性を評価した。
まず、光の透過率測定を行った。このとき波長500nmの透過率は47.5%、波長700nmから1500nmの範囲における光の透過率の最高値は3.5%であった。また、ヘイズ値は0.6%であった。
【0050】
(実施例4)
H
2WO
48.90gとNa
2CO
3・H
2O1.10gとを、(Na/W(モル比)=0.50相当)となるように秤量し、メノウ乳鉢で十分混合して混合粉末とし、当該混合粉末を、窒素ガスをキャリアーとした5%水素ガスを供給下で加熱し、650℃の温度で2.5時間、前記還元雰囲気下で保持した以外は、実施例1と同様にして、実施例4に係る近赤外線吸収フィルタDを得た。
得られた複合タングステン酸化物のO/W(モル比)=2.80であった。また、平均粒径は30nmであった。
【0051】
得られた近赤外線吸収フィルタDの光学的特性を評価した。
まず、光の透過率測定を行った。このとき波長500nmの透過率は45.9%、波長700nmから1500nmの範囲における光の透過率の最高値は6.5%であった。また、ヘイズ値は0.5%であった。
【0052】
(実施例5)
H
2WO
49.24gとNa
2CO
3・H
2O0.76gとを、(Na/W(モル比)=0.33相当)となるように秤量し、メノウ乳鉢で十分混合して混合粉末とし、当該混合粉末を、窒素ガスをキャリアーとした5%水素ガスを供給下で加熱し、650℃の温度で3時間、前記還元雰囲気下で保持した以外は、実施例1と同様にして、実施例5に係る近赤外線吸収フィルタEを得た。
得られた複合タングステン酸化物のO/W(モル比)=2.20であった。また、平均粒径は40nmであった。
【0053】
得られた近赤外線吸収フィルタEの光学的特性を評価した。
まず、光の透過率測定を行った。このとき波長500nmの透過率は36.3%、波長700nmから1500nmの範囲における光の透過率の最高値は4.9%であった。また、ヘイズ値は0.6%であった。
【0054】
(実施例6)
H
2WO
49.24gとNa
2CO
3・H
2O2.52gとを、(Na/W(モル比)=1.10相当)をメノウ乳鉢で十分混合して混合粉末とし、当該混合粉末を、窒素ガスをキャリアーとした5%水素ガスを供給下で加熱し、650℃の温度で2.75時間、前記還元雰囲気下で保持した以外は、実施例1と同様にして、実施例6に係る近赤外線吸収フィルタFを得た。
得られた複合タングステン酸化物のO/W(モル比)=2.50であった。また、平均粒径は40nmであった。
【0055】
得られた近赤外線吸収フィルタFの光学的特性を評価した。
まず、光の透過率測定を行った。このとき波長500nmの透過率は42.3%、波長700nmから1500nmの範囲における光の透過率の最高値は4.7%であった。また、ヘイズ値は0.6%であった。
【0056】
(比較例1)
H
2WO
49.53gとNa
2CO
3・H
2O0.47gとを、(Na/W(モル比)=0.21相当)となるように秤量し、メノウ乳鉢で十分混合して混合粉末とし、当該混合粉末を、窒素ガスをキャリアーとした5%水素ガスを供給下で加熱し、700℃の温度で3時間、前記還元雰囲気下で保持した以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係る近赤外線吸収フィルタGを得た。
得られた複合タングステン酸化物のO/W(モル比)=2.10であった。また、平均粒径は40nmであった。
【0057】
得られた近赤外線吸収フィルタGの光学的特性を評価した。
まず、光の透過率測定を行った。このとき波長500nmの透過率は50.5%、波長700nmから1500nmの範囲における光の透過率の最高値は25.1%であった。また、ヘイズ値は0.6%であった。
【0058】
(比較例2)
H
2WO
4 6.68gとNa
2CO
3・H
2O3.31gとを、(Na/W(モル比)=2.00相当)となるように秤量し、メノウ乳鉢で十分混合して混合粉末とし、当該混合粉末を、窒素ガスをキャリアーとした5%水素ガスを供給下で加熱し、600℃の温度で2時間、前記還元雰囲気下で保持した以外は、実施例1と同様にして、比較例2に係る近赤外線吸収フィルタHを得た。
得られた複合タングステン酸化物のO/W(モル比)=3.10であった。また、平均粒径は40nmであった。
【0059】
得られた近赤外線吸収フィルタHの光学的特性を評価した。
まず、光の透過率測定を行った。このとき波長500nmの透過率は52.2%、波長700nmから1500nmの範囲における光の透過率の最高値は30.6%であった。また、ヘイズ値は0.6%であった。
【0060】
(比較例3)
複合タングステン酸化物微粒子としてCs
0.33WO
3を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例3に係る近赤外線吸収フィルタIを得た。
平均粒径は50nmであった。
【0061】
得られた近赤外線吸収フィルタIの光学的特性を評価した。
まず、光の透過率測定を行った。このとき波長500nmの透過率は54.8%、波長700nmから1500nmの範囲における光の透過率の最高値は23.0%であった。また、ヘイズ値は0.4%であった。
【0062】
【表1】