【実施例1】
【0017】
図1に示すように本実施例の眼科装置70は、被検眼Eの断層画像を取得する断層画像取得部10と、オペレータが操作する操作部58と、断層画像等を表示するモニタ60と、断層画像取得部10を制御する制御部50を有している。なお、眼科装置70は、被検眼Eの前眼部を観察する前眼部観察部や、被検眼Eに対して断層画像取得部10を所定の位置関係にアライメントするためのアライメント部等を有している。これらは公知の眼科装置に用いられているものを使用することができるため、その詳細な説明は省略する。
【0018】
断層画像取得部10は、被検眼Eの眼底部(眼底網膜)Erに光を照射することにより眼底部Erの断層画像を撮影する機能を有しており、被検眼Eからの測定光(被検眼Eの各組織からの後方散乱光)と参照光とを干渉させる干渉光学装置である。
図2に示すように、断層画像取得部10は、光源12と、光源12からの光を被検眼の内部に照射すると共に被検眼Eからの測定光を導く測定光学系と、光源12からの光を参照面に照射すると共にその反射光を導く参照光学系と、測定光学系により導かれた測定光と参照光学系により導かれた参照光とを合成した干渉光を受光する差動増幅検出器40(請求項でいう受光素子の一例)によって構成されている。
【0019】
光源12は、波長掃引型(波長走査型)の光源であり、出射される光の波長が所定の周期で変化するようになっている。本実施例では、光源12から出射される光の波長を変化させながら、被検眼Eからの測定光と参照光とを干渉させ、その干渉光を測定する。そして、測定した干渉光(干渉信号)をフーリエ変換することで、被検眼Eの内部の各部位(例えば、水晶体、網膜、脈絡膜等)の位置を特定することが可能となる。なお、光源12は、1μm帯域の波長(例えば、950nm〜1100nm程度)の光が出射される光源とされている。光源12から出射される1μm帯域の波長の光は、生体組織の散乱が強く、また、生体組織の深くまで到達することができる。このため、被検眼Eの深部の断層画像を取得することができる。
【0020】
測定光学系は、偏波コントローラ14と、アイソレータ16と、第1ファイバーカプラ18と、コリメータレンズ19と、ガルバノミラーユニット22と、レンズ24、26と、第2ファイバーカプラ36によって構成されている。すなわち、光源12から出力された光は、光ファイバを通して偏波コントローラ14及びアイソレータ16に入力する。アイソレータ16から出力される光は、光ファイバを通して第1ファイバーカプラ18に入力し、第1ファイバーカプラ18で分波される。第1ファイバーカプラ18で分波された光の一方は、コリメータレンズ19を介してガルバノミラーユニット22に入力される。ガルバノミラーユニット22は、被検眼Eに照射される光を走査するためのユニットであり、ガルバノドライバ20によって駆動される。ガルバノドライバ20によってガルバノミラーユニット22が駆動されることで、光源12からの光が、被検眼Eの水平方向及び垂直方向に走査される。ガルバノミラーユニット22から出力される光は、レンズ24及び対物レンズ26を介して被検眼Eに入射される。被検眼Eに入射された光は、被検眼Eの各部(例えば、眼底部Erの各組織部分(網膜、脈絡膜等))にて反射、散乱される。被検眼Eからの測定光は、対物レンズ26、レンズ24、ガルバノミラーユニット22を介してコリメータレンズ19に入力される。コリメータレンズ19から出力される測定光は、第1ファイバーカプラ18及び第2ファイバーカプラ36を通って差動増幅検出器40で受光される。
【0021】
参照光学系は、第1ファイバーカプラ18と、コリメータレンズ32と、ディレイラインユニット28と、コリメータレンズ30と、偏波コントローラ34と、第2ファイバーカプラ36によって構成されている。すなわち、光源12からの光は、第1ファイバーカプラ18で分波される。第1ファイバーカプラ18で分波された他方の光(被検眼Eに照射されない光)は、コリメータレンズ32を介してディレイラインユニット28に入力される。ディレイラインユニット28は、参照光路長を被検眼Eの所望の部位(例えば、眼底部Erの網膜上)に合わせる光路長調整用のユニットである。ディレイラインユニット28は、光源12からの光が照射される参照面を備えており、参照面の位置を調整することで参照光の光路長を調整する。ディレイラインユニット28からの光は、コリメータレンズ30、偏波コントローラ34及び第2ファイバーカプラ36を通って差動増幅検出器40で受光される。
【0022】
差動増幅検出器40は、参照光学系により導かれた光(参照光)と、測定光学系により導かれた光(測定光)とを合成した干渉光を検出する。具体的には、被検眼Eの各組織からの後方散乱光(測定光)は測定光学系により第2ファイバーカプラ36に導かれ、また、ディレイラインユニット28からの光(参照光)は参照光学系により第2ファイバーカプラ36に導かれる。これら測定光と参照光は、第2ファイバーカプラ36において合波され、その干渉光が差動増幅検出器40で検出される。差動増幅検出器40は、光電変換素子を備えており、干渉光を電気信号に変換して出力する。差動増幅検出器40から出力される信号は、制御部50に入力されて処理される。
【0023】
制御部50は、
図1に示すように、演算部54と、記憶部52と、A/Dボード56を有している。演算部54は、CPU,ROM,RAM等からなるマイクロコンピュータ(マイクロプロセッサ)によって構成されている。演算部54には、A/Dボード56を介して断層画像取得部10が接続され、また、操作部58とモニタ60が接続されている。演算部54は、操作部58の入力に応じて断層画像取得部10の各部(例えば、光源12、ガルバノミラーユニット22、ディレイラインユニット28等)を制御し、断層画像取得部10で断層画像を撮影する。断層画像取得部10で取得された断層画像(詳細には、差動増幅検出器40から出力される信号)は、A/Dボード56でデジタル信号に変換され、演算部54に入力される。演算部54は、断層画像取得部10から入力する信号をフーリエ変換すること等によって断層画像を取得し、その取得した断層画像を記憶部52に記憶すると共にモニタ60に表示する。さらに、演算部54は、被検眼Eの設定された位置(例えば、オペレータによって指定される任意の位置)での眼底断層画像を反復取得し、これら各位置における連続した複数の眼底断層画像のそれぞれから脈絡膜の形態を表す指標(本実施例では、脈絡膜の層厚)を算出し、その動的変化を出力する処理等を行う。なお、演算部54による脈絡膜の層厚の動的変化を出力する処理の詳細については後述する。
【0024】
次に、本実施例の眼科装置70を用いて、被検眼Eの脈絡膜の層厚の動的変化を測定する際の手順を説明する。
図4に示すように、まず、オペレータ(検査者)は操作部58を操作して、被検眼Eに対して断層画像取得部10の位置合わせを行う(S10)。すなわち、演算部54は、オペレータによる操作部58の操作に応じて、図示しない位置調整機構を駆動する。これによって、光源12からの光が被検眼Eの所望の位置に照射されるように、被検眼Eに対する断層画像取得部10の位置が調整される。さらに、演算部54は、断層画像取得部10のディレイラインユニット28を調整することで、被検眼Eの眼底部Erの測定対象部位が所定の取得範囲に入るように、測定光の光路長と参照光の光路長とが一致する0点の位置を調整する。
【0025】
次に、演算部54は、断層画像取得部10を制御して、被検眼Eの眼底部Erの断層画像の取得を開始し(S12)、断層画像取得部10からの信号を処理して眼底断層画像を取得する(S14)。すなわち、演算部54は、光源12を動作させ、光源12からの光を被検眼Eの眼底部Erに照射する。上述したように、光源12から照射される光の周波数は周期的に変化し、測定光と参照光とが干渉して生じる干渉波のビート周波数成分は被検眼組織の深さ方向に依存する。したがって、光源12からの光の周波数を1周期分だけ変化させたときに断層画像取得部10で得られる信号は、眼底部Erの各部(例えば、網膜82、網膜色素上皮84、脈絡膜86、強膜88等(
図3参照))からの測定光(後方散乱光)と参照光による各干渉光が合成された信号となる。このため、演算部54は、断層画像取得部10から入力する信号をフーリエ変換することで、眼底部Erの各部(例えば、網膜82、網膜色素上皮84、脈絡膜86、強膜88等)からの測定光(後方散乱光)による干渉信号成分を分離する。これにより、演算部54は、被検眼Eの眼底部Erの各部(例えば、網膜82の前面及び後面、脈絡膜86の前面及び後面等)の位置を特定することができる。なお、同一位置において、光源12から照射される光の周波数を1周期だけ変化させて得られる信号をフーリエ変換することによって深さ方向の各部位からの測定光(後方散乱光)の強度分布を得ることを、本明細書ではAスキャンという。
【0026】
また、演算部54は、光源12から照射される光の周波数を変化させるのと同期してガルバノミラーユニット22を駆動し、光源12から照射される光の位置を眼底部Er上で1方向に変化させる(すなわち、光源12から照射される光の位置を眼底部Er上で直線的に走査する。)。これによって、走査線上の各点において、その点における眼底部Erの各部(網膜82、網膜色素上皮84、脈絡膜86、強膜88)の位置が特定でき、眼底部Erの眼底断層画像(
図3)が取得される。ここで、ガルバノミラーユニット22が光を走査する方向は、演算部54により任意の方向に設定可能とされている。したがって、演算部54は、光の走査方向を任意の方向に設定することで、眼底部Erの任意の方向の断面の眼底断層画像を取得することができる。なお、ガルバノミラーユニット22で設定された光の走査方向は、演算部54からガルバノドライバ20に入力される。ガルバノドライバ20は、演算部54からの指令に基づいてガルバノミラーユニット22を制御する。これによって、眼底部Erの眼底断層画像が取得される。光源12からの光を直線的に走査することを、本明細書ではBスキャンという。なお、光源12からの光を走査する周期は、脈波の周期よりも短くなるように設定されている。これによって、脈波に応じた眼底部Erの変化を観測可能としている。なお、脈波の周期は個人差がある。このため、通常の人の脈波の周期を基準として、その脈波の周期よりも短くなるように、光源12からの光を走査する周期が設定されている。
【0027】
また、眼底断層画像の中心の位置は、被検眼Eに対する断層画像取得部10の位置を調整することで任意の位置に調整することができる。すなわち、ステップS10において、被検眼Eに対して断層画像取得部10の位置を任意の位置に調整することで、眼底断層画像の中心の位置を任意の位置とすることができる。
図3に示す眼底断層画像では、網膜82の網膜中心窩80の位置が、眼底断層画像の中心の位置となっている。
【0028】
上記のようにステップS14で断層画像が取得されると、演算部54は、ステップS14で取得された眼底断層画像を記憶部52に記憶する(S16)。次いで、演算部54は、予め設定された枚数の眼底断層画像を取得したか否かを判定する(S18)。設定枚数の眼底断層画像が取得されていない場合(ステップS18でNO)は、演算部54は、ステップS12に戻って、ステップS12からの処理を繰り返す。これによって、被検眼Eの同一位置における眼底断層画像が反復取得される。
【0029】
一方、設定枚数の眼底断層画像が取得されている場合(ステップS18でYES)は、演算部54は、ステップS16で記憶した各眼底断層画像から脈絡膜86の層厚Tをそれぞれ算出することによって、脈絡膜86の層厚T(すなわち、脈絡膜86の形態を表す指標)の動的変化を算出する(S20)。すなわち、記憶部52には、反復取得した複数の眼底断層画像が時系列順に記憶されている。このため、各眼底断層画像から脈絡膜86の層厚Tを算出することで、脈絡膜86の層厚Tの動的変化を算出することができる。
【0030】
なお、脈絡膜86の層厚Tは、網膜色素上皮84と脈絡膜86の境界の位置、及び、脈絡膜86と強膜88の境界の位置を特定することで、算出することができる。網膜色素上皮84と脈絡膜86の境界の位置の特定、及び、脈絡膜86と強膜88の境界の位置の特定は、公知の画像処理技術を利用して特定することができる。例えば、眼底断層画像内の輝度の変化から、これらの境界の位置を特定してもよい。また、脈絡膜86の層厚Tを測定する位置は、例えば、眼底の中心である網膜中心窩80から所定の方向に所定の距離だけ離れた位置とすることができる。あるいは、視神経乳頭を基準として、視神経乳頭から所定の方向に所定の距離だけ離れた位置で、脈絡膜86の層厚Tを算出してもよい。さらには、複数の位置において脈絡膜86の層厚Tを算出してもよい。
【0031】
ステップS20で脈絡膜86の層厚Tの動的変化が算出されると、演算部54は、算出された脈絡膜86の層厚Tの動的変化をモニタ60に表示する(S22)。これによって、オペレータ(検査者)は、脈絡膜86の層厚Tの動的変化を視覚的に確認することができる。なお、層厚Tのようなパラメータの変化は、複数の眼底断層画像からなる二次元動画上に重ねて表示してもよい。このような構成によると、パラメータの変化と眼底断層画像の変化を同時に視覚的に確認することができる。
【0032】
上述の説明から明らかように、本実施例に係る眼科装置70では、被検眼Eの眼底部Erの同一位置において眼底断層画像を反復取得し、それら複数の眼底断層画像から脈絡膜86の層厚Tの動的変化を出力する。このため、脈絡膜86内の血管を流れる血液量が変化し、脈絡膜86の層厚Tが変化しても、その変化を確認することができる。したがって、脈絡膜86の状態を適切に診断することができ、緑内障などのさまざまな眼底疾患と眼循環との関係を適切に診断することができる。
【0033】
以上、本実施例について詳細に説明したが、これは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0034】
例えば、上述した実施例の眼科装置では、脈絡膜の状態(形態)を診断したが、このような例に限られず、網膜の状態を診断してもよいし、網膜及び脈絡膜の状態を診断してもよい。例えば、網膜の状態を診断する場合は、網膜の形態を表す指標(例えば、網膜の層厚等)の動的変化を出力するようにしてもよい。また、網膜及び脈絡膜の状態を診断する場合は、網膜の形態を表す指標と、脈絡膜の形態を表す指標の両者の動的変化を出力してもよい。
【0035】
また、上述した実施例では、脈絡膜86の形態を表す指標として、脈絡膜86の層厚Tを用いたが、脈絡膜86の形態を表す指標には、これ以外の指標を用いることができる。例えば、脈絡膜86の血管断面積及び/又は血管径を指標として用いることができる。脈絡膜86の血管断面積及び/又は血管径は、脈絡膜86内の血管を流れる血流量と直接的に相関を有しており、脈絡膜86の状態を適切に評価することができる。また、網膜82の層厚も脈絡膜86の層厚Tの変化や網膜血流によって変化するため、網膜82の層厚は眼循環に影響を受ける指標であり、網膜82の層厚を脈絡膜86の形態を表す指標としてもよい。なお、網膜82は、脈絡膜86よりも被検眼Eの表面側に位置する。このため、脈絡膜86と比較すると網膜82はより鮮明に検出することができ、その層厚を容易に検出することができる。また、脈絡膜86の層厚と網膜82の層厚の和を、脈絡膜86の形態を表す指標としてもよい。あるいは、網膜82の血管断面積及び/又は血管径を指標として用いてもよい。さらには、篩状板の厚み、乳頭径、乳頭陥凹径、陥凹乳頭比(C/D比)、及び乳頭におけるブルフ膜終端を結ぶ距離(径)やブルフ膜終端で形成される面積(ブルフ膜終端:Bruch's membrane opening(BMO))を指標としてもよい。なお、脈絡膜86及び/又は網膜82の形態を表す指標として、1つのパラメータだけでなく、複数のパラメータを用いてもよい。
【0036】
また、上記の指標を特定する方法は、上述した実施例の方法に限られず、種々の方法を用いることができる。例えば、画像処理分野で用いられる局所相関を利用して指標を特定することができる。この場合、反復取得した複数の眼底断層画像の中から選択した1枚の眼底断層画像を参照画像として、他の眼底断層像との局所相関を算出し、これによって、指標を特定してもよい。例えば、ある時刻に取得した眼底断層画像に対して、公知の方法(例えば、一般的な境界抽出法やマニュアルトレースなど)で決定した層間の境界を含む部分画像を用いて、他の時刻に取得した眼底断層画像において上記部分画像と局所相関が一番高くなる位置を層間の境界線としてもよい。
【0037】
また、上記の指標を特定するためには、被検眼Eに照射した光の複屈折情報を利用してもよい。すなわち、被検眼Eに照射した光は、眼底部Erの各組織のコラーゲン線維の配向構造の違いによって異なる複屈折性を生じる。従って、得られた複屈折の強さ(大きさ)の違いから組織を弁別することができる。このため、複屈折の強さの違いから網膜、脈絡膜、強膜を弁別し、脈絡膜または網膜に相当する部分の厚みを測定してもよい。
【0038】
さらに、上記の指標を特定するために、対象物の輪郭を抽出するセグメンテーション技術を利用してもよい。セグメンテーション技術を利用することで、眼底断層画像から各層の輪郭(境界線)を抽出し、これによって脈絡膜86の層厚T等を算出することができる。なお、セグメンテーション技術を用いる場合は、学習型アルゴリズムを使用してもよい。学習型アルゴリズムとしては、例えば、ニューラルネットワーク、遺伝的アルゴリズム、ランダムフォレスト法などがある。具体的な方法としては、例えば、1または複数の入力情報(例えば、眼底断層画像の輝度情報、ドプラー信号、複屈折情報など)に対応すべき正しい出力(各層の輪郭線)のセットを複数準備し学習させることにより、その系の関数を生成する。そして、学習が完了した系に輪郭を決定したい画像から得られた入力情報を与えることにより、その画像の輪郭を出力する。
【0039】
さらに、断層画像取得部10で得られるドプラー信号を利用して、脈絡膜86の形態を表す指標(例えば、脈絡膜86の血管断面積)を算出してもよい。すなわち、
図5に示すように、光源12からの光を血管に照射すると、差動増幅検出器40では、第1干渉信号(
図5の上側の信号)と、第1干渉信号からΔTだけ時間遅れを生じた第2干渉信号(
図5の下側の信号)がそれぞれ検出され、これら2つの干渉信号の周波数ごとの位相成分のシフト量Δφを画像化することによって、脈絡膜86の血流を特定することができる。具体的には、
図6に示すように位相シフト量Δφを画像化すると、脈絡膜86の血管断面積を特定することができる。なお、位相シフト量Δφと時間差Δtから血流速度Vzが求まるため、特定した血管断面積と血流速度Vzから血流量を算出することもできる。
【0040】
また、脈絡膜86の位置(表面の位置及び裏面の位置)の算出は、種々の方法を採用することができる。また、眼底断層画像の全体を計算対象として脈絡膜86の位置を算出してもよいし、眼底断層画像から特定の領域を区切った部分から脈絡膜86の位置を算出してもよい。さらに、セグメンテーションにより得られた眼底組織の輝度情報を使用して計算領域を限定してもよいし、上述したドプラー信号を利用して計算領域を限定してもよいし、反射光の複屈折情報を利用して計算領域を限定してもよい。例えば、ドプラー信号から動脈を特定して、動脈の血管径・断面積の形態的変化をとらえてもよい。静脈に比べ動脈の方が拍動が現れるため、眼循環に伴う形態的変化を効果的に捕らえることができる。
【0041】
さらに、眼科装置に脈波計測手段を設け、眼底断層画像の反復取得と同時に脈波を計測するようにしてもよい。このような構成によると、脈絡膜86の層厚等の変化と、脈波との関係を正確に把握することができる。なお、脈波の測定は、脈波計やパルスオキシメータを用いることができる。さらには、上述したドプラー信号によって脈波を検出してもよい。すなわち、ドプラー信号から血管径の周期的変化を取得し、その周期的変化から脈波を検出してもよい。脈絡膜86の血管径をドプラー信号から取得すれば、脈絡膜86における脈波が直接取得できるため、より適切に脈絡膜86の状態を診断することができる。さらに、脈波の測定位置と、脈絡膜86の位置との相違による脈拍の時間差を補正するようにしてもよい。例えば、ドプラー信号によって補正してもよいし、被験者の脈波を複数位置(例えば、頚動脈と手首、頸動脈と足首、まぶたと耳たぶ等)で検出し、それらの検出結果から脈波伝搬速度を求め、脈波伝搬速度から時間差を補正してもよい。例えば、頸動脈と手首の間の距離をLb、その2か所で測定された脈波の時間差を脈波伝搬時間PtTbとすると、脈波伝搬速度PWVは下記の計算式によって計算される。
PWV=Lb/PtTb
ここで、頸動脈から眼底までの距離をLeとすると、頸動脈から眼底まで脈波が伝搬する時間PtTeは下記の計算式で求めることができる。
PtTe=Le/PWV
したがって、頸動脈での脈波に対して眼底までの伝搬時間PtTeだけ位相を遅らせると眼底での脈波を求めることができる。
【0042】
なお、脈波を検出する場合、脈絡膜86の層厚Tと脈波を併せてモニタ60にグラフ表示してもよい。すなわち、
図7に示すように、脈波(下側のグラフ)と、脈絡膜86の層厚T(上側のグラフ)とをモニタ60に併せて示すと、脈波の変化に応じて脈絡膜86の層厚Tが変化していることをオペレータ(検査者)は一目で把握することができる。なお、グラフ表示は種々の態様で行うことができ、例えば、
図8に示すように、脈波と、脈絡膜の層厚Tを周波数解析した結果をモニタ60に表示してもよい。
【0043】
さらに、上記の実施例の眼科装置は、被検眼の眼軸長や眼圧をさらに測定してもよい。脈絡膜86の状態と、眼軸長及び/又は眼圧を併せて測定することで、被検眼Eの状態を総合的に判断することができる。
【0044】
なお、上述した実施例では、フーリエドメイン方式の断層画像取得部10を備えた眼科装置であったが、タイムドメイン方式の断層画像取得部を備えた眼科装置としてもよい。さらに、光源12からの光を眼底部Erで平面的に走査し、3次元の眼底断層画像を取得し、脈絡膜86の形態を表す指標を2次元的に取得してもよい。このような構成によると、被検眼Eの脈絡膜86の状態をより緻密に診断することができる。さらに、指標を2次元的に取得する場合、指標の動的変化の度合い(変化率)等を一枚のマップとして表示してもよい。例えば、層厚あるいは血管径の振幅、変化率、位相等を2次元のカラーマップで表示する。また、撮影した眼底の2次元画像上に得られたマップを重ねて表示することにより、指標と眼底構造(例えば、視神経乳頭等の位置や疾患部位)との関係を一目で確認できるように表示してもよい。
【0045】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。