特許第6086480号(P6086480)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日清製粉株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6086480
(24)【登録日】2017年2月10日
(45)【発行日】2017年3月1日
(54)【発明の名称】冷凍生地の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 6/00 20060101AFI20170220BHJP
【FI】
   A21D6/00
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-33713(P2013-33713)
(22)【出願日】2013年2月22日
(65)【公開番号】特開2014-161259(P2014-161259A)
(43)【公開日】2014年9月8日
【審査請求日】2015年6月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】301049777
【氏名又は名称】日清製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚本 一民
(72)【発明者】
【氏名】川井 泰英
(72)【発明者】
【氏名】安楽 智生
【審査官】 厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】 特表2001−508296(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0096548(US,A1)
【文献】 特表2002−505090(JP,A)
【文献】 特開昭61−205437(JP,A)
【文献】 特開平09−107867(JP,A)
【文献】 特開平02−245170(JP,A)
【文献】 特開平10−108616(JP,A)
【文献】 特開2013−039055(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00 −17/00
A23L 7/109− 7/113
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/FROSTI/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料を混捏して生地を調製し、該生地を発酵させ、該生地の表面に澱粉水溶液を付着させた後、該生地を冷凍する、冷凍生地の製造方法であって、
前記澱粉水溶液が、澱粉5〜10質量%を含み且つ糖類5〜10質量%を含み、
前記澱粉がα化澱粉である、冷凍生地の製造方法。
【請求項2】
前記α化澱粉がα化小麦澱粉である請求項1記載の冷凍生地の製造方法。
【請求項3】
前記糖類がショ糖である、請求項1又は2記載の冷凍生地の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍パン生地等の冷凍生地の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パン類、焼菓子類等のベーカリー食品の製造に冷凍生地が利用されている。例えばパン類を製造する場合、冷凍保存されている冷凍生地(例えば、冷凍パン生地)を解凍後、必要に応じ成形・発酵を行った後に、加熱(例えば、焼成)するだけでパン類が得られるため、冷凍生地の利用は、パン製造者の労働作業を軽減できる、消費者に鮮度の高い焼き立てのパン類を簡便に提供できる、等の利点がある。
【0003】
冷凍生地を用いたベーカリー食品の製造は、前記利点がある反面、冷凍しない生地を用いた通常製法に比して外観、食感、香り等の品質の点で問題が生じる場合がある。例えば特許文献1には、冷凍生地(冷凍ドーナツ型パン生地塊)を用いた従来のベーグルの課題(冷凍しない生地を用いて得られたベーグルに比して、体積が小さい、型崩れしている、ふくれや見苦しい表面孔がある等)を解決する方法として、ドーナツ型パン生地塊にイーストを作用させてこれを盛り上がらせた後、該生地塊を温められた酸性水溶液中に漬けて酸処理し、しかる後、該生地塊を冷凍する方法が記載されており、該酸性水溶液の好ましい例として、食用酢(酢酸水溶液)が記載されている。
【0004】
また特許文献2には、冷凍パン生地を解凍後に焼成したパン製品の表面に適度な焼け艶が形成されるようにするために、冷凍パン生地の製造方法として、未発酵又は発酵済みの冷凍前のパン生地の表面にλ−カラギーナン水溶液を塗布した後、これを冷凍する方法が記載されている。カラギーナンは植物系ゲル化剤の一種で、一般には、ソース類の増粘剤やアイスクリームの安定剤として利用されているところ、特許文献2には、このようにパン製品の艶出し剤として利用することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2000−506390号公報
【特許文献2】特開平3−39029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の冷凍生地を用いたベーカリー食品の製造において、冷凍生地を加熱(例えば、焼成)すると、表面に意図しないひび割れが生じ、そのひび割れによってベーカリー食品の外観が著しく損なわれるという問題があった。
【0007】
本発明の課題は、加熱後にひび割れを生じ難い冷凍生地の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、原料を混捏して生地を調製し、該生地の表面に澱粉水溶液を付着させた後、該生地を冷凍する、冷凍生地の製造方法である。
【0009】
また本発明は、前記冷凍生地の製造方法により製造された冷凍生地である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、加熱後にひび割れを生じ難い冷凍生地が得られる。この冷凍生地を加熱して得られたベーカリー食品は、ひび割れが目立たず外観が良好である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の冷凍生地の製造方法の主たる特徴の1つとして、冷凍前の生地の表面に澱粉水溶液を付着させる点が挙げられる。本発明に係る澱粉水溶液は、冷凍生地の加熱後のひび割れ防止剤として機能するもので、澱粉及び水を必須成分として含有する。澱粉水溶液の澱粉含有量は、好ましくは5〜10質量%、更に好ましくは7〜8質量%である。澱粉水溶液の澱粉含有量が少な過ぎると、澱粉水溶液を使用する意義(冷凍生地の加熱後のひび割れ防止)に乏しく、該澱粉含有量が多すぎると、加熱したときの表面の焼色が付きがたくなり、却って外観が低下するおそれがある。
【0012】
本発明に係る澱粉水溶液に用いられる澱粉としては、例えば、小麦澱粉、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、米澱粉等の未加工澱粉、及びこれら未加工澱粉にα化、アセチル化、エーテル化、エステル化、酸化処理、架橋処理等の処理を施した加工澱粉が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、特にα化澱粉、とりわけ、小麦澱粉にα化処理を施したα化小麦澱粉は、冷凍生地の加熱後のひび割れ防止効果が高いため、澱粉水溶液に用いられる澱粉として本発明で好ましく用いられる。
【0013】
本発明に係る澱粉水溶液は、澱粉及び水に加えて更に、糖類を含有していても良い。澱粉水溶液が糖類を含んでいると、該澱粉水溶液が付着した冷凍生地を加熱したときにその表面に色艶ができるため、ひび割れ防止効果と相俟って、冷凍生地を加熱(焼成)して得られる各種製品(ベーカリー食品等)の外観が一層向上する。澱粉水溶液の糖類含有量は、好ましくは5〜10質量%、更に好ましくは6〜8質量%である。澱粉水溶液の糖類含有量が少な過ぎると、澱粉水溶液の成分として糖類を使用する意義に乏しく、該糖類含有量が多すぎると、加熱したときの表面の焼色が濃くなりすぎ、却って外観が低下するおそれがある。
【0014】
本発明に係る澱粉水溶液に用いられる糖類としては、例えば、ショ糖、ブドウ糖、果糖、デキストリン、水あめ、トレハロース、キシロース、マルトース、マルトオリゴ糖、糖蜜等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。ショ糖としては、上白糖、グラニュー糖、ザラメ糖、三温糖、黒糖等を挙げることができる。これらの中でも、特に 上白糖は、冷凍生地の加熱後の色艶出し効果が高いため、澱粉水溶液に用いられる糖類として本発明で好ましく用いられる。
【0015】
澱粉水溶液の付着対象物である本発明に係る生地は、穀粉を含む原料を混捏して調製される穀粉含有食品用生地である。ここでいう「穀粉含有食品」としては、例えば、パン類、焼菓子類等のベーカリー食品;うどん、そば、パスタ、中華麺等の麺食品;春巻きの皮、餃子の皮、シュウマイの皮等の麺皮食品等が挙げられる。本発明は、これらの食品全てに適用可能であるが、特にベーカリー食品に好適である。
【0016】
本発明に係る生地の原料(主原料)として用いられる穀粉としては、この種の穀粉含有食品において通常用いられるものを特に制限無く用いることができ、例えば、薄力粉、中力粉、強力粉等の小麦粉の他、ライ麦粉、大麦粉、そば粉、米粉、豆粉、コーンフラワー等が挙げられ、冷凍生地の用途等に応じて、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明に係る生地の穀粉含有量は、冷凍生地の用途等に応じて適宜選択され、例えばベーカリー食品用冷凍生地の場合は、好ましくは50〜95質量%、更に好ましくは50〜70質量%である。
【0017】
本発明に係る生地には、穀粉以外の原料(副原料)を含有させることができる。この副原料としては、例えば、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシースターチ、小麦澱粉、及びこれらにα化、エーテル化、エステル化、酸化処理等の処理を施した加工澱粉;炭酸水素ナトリウム(重曹)、ベーキングパウダー、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、塩化アンモニウム等の膨張剤あるいはイースト;サラダ油等の油脂類;砂糖等の糖類;全卵、卵白、卵黄等の卵類;牛乳、脱脂粉乳、バター等の乳製品;食塩等の塩類;乳化剤、増粘剤、酸味料、香料、香辛料、着色料、果汁、果実、ビタミン類等が挙げられ、冷凍生地の用途等に応じて、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明に係る生地の副原料含有量は、冷凍生地の用途等に応じて適宜選択され、例えばベーカリー食品用冷凍生地の場合は、好ましくは5〜50質量%、更に好ましくは10〜45質量%である。
【0018】
本発明に係る生地は、常法に従って調製することができ、具体的には、前記の各種原料に水を加え、混捏して生地を調製する。生地を調製する際の混捏は、縦型ミキサー、横型ミキサー、ニーダー等、通常のベーカリー食品の製造に使用される混合攪拌機を用いて行うことができ、また、ボールの中で原料を手で捏ね混ぜ合わせても良い。本発明に係る生地は、手で扱える程度の硬さを有し、捏ねることが可能な生地であり、いわゆるドウ(dough)は、本発明に係る生地として好適である。これに対し、ドウの数倍の水を含む緩やかな生地であるいわゆるバッター(batter)は、本発明に係る生地としては好ましくない。本発明に係る生地の含水量は、好ましくは25〜50質量%、更に好ましくは25〜45質量%である。
【0019】
本発明においては、澱粉水溶液の付着前に、生地を発酵させても良い。即ち、澱粉水溶液の付着対象物である生地は、発酵済み生地、より具体的にはホイロ発酵(二次発酵、最終発酵)済み生地であっても良い。尚、発酵済み生地を用いる場合には、該生地の原料(副原料)としてイーストを用いることが前提となる。
【0020】
本発明においては、生地の表面に澱粉水溶液を付着させる方法は特に限定されず、例えば、澱粉水溶液に生地を浸漬する方法、生地の表面に澱粉水溶液を塗布又は噴霧する方法、等を用いることができる。澱粉水溶液は、生地の表面の全域に付着させること好ましい。
【0021】
例えば、ベーカリー食品用生地を調製する場合、本発明における、生地の調製から澱粉水溶液の付着までの工程は、次の手順で実施することができる。即ち、本発明においては、穀粉等の原料を混捏して生地を調製し、該生地の一次発酵を行った後、分割・丸めを行い、必要に応じベンチタイムをとり、次いで成形、ホイロ発酵を順次行い、しかる後、そのホイロ発酵済み生地の表面に澱粉水溶液を付着させる手順をとることができる。斯かる手順において、一次発酵前の生地の温度、一次発酵及びホイロ発酵それぞれの温度及び時間は、ベーカリー食品の種類等に応じて適宜調整され特に制限されないが、一次発酵前の生地の温度(捏上温度)は20〜30℃が好ましく、その後の一次発酵は、24〜27℃で10 〜40分間行うことが好ましく、ホイロ発酵は、32〜38℃で30〜60分間行うことが好ましい。また、ホイロ発酵は、相対湿度75〜80%で行うことが好ましい。
【0022】
本発明においては、生地の表面に澱粉水溶液を付着させた後、該生地を冷凍する。生地の冷凍は常法に従って行えば良いが、特に−35℃以下の温度で冷凍を行う急速冷凍が好ましい。こうして得られた冷凍生地は、冷凍状態のまま流通あるいは保管される。
【0023】
本発明の製造方法により製造された冷凍生地は、解凍後に加熱しても良く、あるいは解凍せずにそのまま加熱しても良い。また、冷凍生地の加熱方法は、冷凍生地の用途等に応じて適宜選択可能であり、例えばベーカリー食品用冷凍生地の場合は、水分を加えずに加熱する乾熱加熱(焼成)が一般的である。乾熱加熱(焼成)は、オーブン、窯、電子レンジ等を用いて常法に従って実施可能である。ベーカリー食品を製造する場合の冷凍生地の焼成温度及び焼成時間は、ベーカリー食品の種類等に応じて適宜調整され特に制限されないが、通常、焼成時間は180〜210℃、焼成時間は21〜33分間である。
【0024】
本発明は、特にベーカリー食品に好適である。本発明が適用可能なベーカリー食品としては、例えば、ベーグル、プルマン、イギリス食パン等のパン類、バケット、パリジャン等のフランスパン、菓子パン、バンズ、テーブルロール等の各種ロール類、スポンジケーキ等のケーキ類、ドーナツ、ピザ、トルティーヤ、シュー皮、焼き饅頭、クレープ、ワッフル、どら焼き、鯛焼き、今川焼き、大判焼き等が挙げられる。これらの中でも、ベーグル、菓子パン、テーブルロールは、本発明の効果が得られ易い。
【実施例】
【0025】
本発明を具体的に説明するために実施例及び比較例を挙げるが、本発明は以下の実施例によって制限されるものではない。なお、実施例1、5及び6は参考例である。
【0026】
〔実施例1〜6〕
冷凍前の生地の表面に付着させる液(以下、前処理液ともいう)として、澱粉(主成分)、糖類及び水を含有する澱粉水溶液を調製した。より具体的には、水にα化小麦澱粉(松谷化学製、商品名「マツノリンW」)及び上白糖を添加・撹拌して、澱粉含有量、糖類含有量の異なる複数の前処理液(澱粉水溶液)を調製した。各前処理液(澱粉水溶液)に、下記製造方法により得られたホイロ発酵済みベーグル用生地の全体を浸漬させることにより、該生地の表面の全域に前処理液を付着させた後、該生地を−40℃にて20分間急速冷凍して、ホイロ発酵済みベーグル用冷凍生地を得た。得られた冷凍生地は、冷凍ストッカーにて−20℃で冷凍保管した。
【0027】
(ホイロ発酵済みベーグル用生地の製造方法)
市販の製パン用ミキサー(カントーミキサー製、商品名「HPI−20M」)に、下記の生地原料を投入し、低速で10分間、中低速で15分間混合し、捏上温度24℃で生地を調製した。この生地を温度27℃、湿度75%の環境下で30分間一時発酵させた後、カッターを用いて質量100gの生地に分割し、ベンチタイムを15分間とった後、その分割された複数個の生地をそれぞれリング状に成形し布取りした。次いで、このリング状の成形生地を温度27℃、湿度75%の環境下で30〜60分間ホイロ発酵させ、ホイロ発酵済みベーグル用生地を得た。
・生地原料:小麦粉(日清製粉(株)製、商品名「ブリザードイノーバ」)100質量部、イースト(顆粒状)0.5質量部、増粘剤(三晶製、商品名「GENU type FREEZE-J」)1質量部、乳化剤(理研ビタミン製、商品名「MM−100」)0.3質量部、モルトシロップ2質量部、食塩1.6質量部、上白糖4質量部、ショートニング3質量部、水50質量部。
【0028】
〔比較例1〕
ホイロ発酵済みベーグル用生地を前処理液に浸漬させずにそのまま冷凍した以外は、実施例1と同様にしてホイロ発酵済みベーグル用冷凍生地を得た。
【0029】
〔比較例2〕
前処理液として、澱粉水溶液に代えてλ−カラギーナン濃度1質量%のλ−カラギーナン水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にしてホイロ発酵済みベーグル用冷凍生地を得た。
【0030】
<評価>
実施例及び比較例で得られた冷凍保管中の冷凍生地を、解凍せずにそのまま200℃のオーブンにて28分間焼成して、ベーグルを得た。得られたベーグルの外観(ひび割れ、色艶の有無)を10名のパネラーに目視観察してもらい、下記評価基準に基づき評価してもらった。その評価結果(パネラー10名の平均点)を下記表1に示す。
【0031】
(ひび割れの評価基準)
5点:ひび割れが認められなかった。
4点:ひび割れがほとんど認められなかった。
3点:ひび割れが僅かに認められた。
2点:ひび割れが認められた。
1点:ひび割れがかなり認められた。
【0032】
(色艶の評価基準)
5点:色艶がかなり良かった。
4点:色艶が良かった。
3点:色艶が少し良かった。
2点:色艶がほぼなかった。
1点:色艶が全くなかった。
【0033】
【表1】